≪赤い森≫

Last-modified: 2015-06-11 (木) 21:33:05
124 名前: 1/9 投稿日: 2003/04/04(金) 06:39 [ IrX/vOv. ]

≪赤い森≫

夕闇が迫り、全てが赤く染まっていく森の中で、私はやっと彼女を見つけた。
もしかしたら、私の探している人かもしれない。
早く行かないと別のところへ移動してしまうかもしれない。
私は一生懸命走った。
木々が一張羅を破いてもかまわない。
赤い光に照らされた影がどんどん大きくなる。
逆光のせいか目が痛くなる。
がさがさがさがさがさがさがさ
走っている自分でもかなりの音が出ていることがわかる。
心臓の鼓動が大きくなる。
影が、振り向いた気がした。
そして・・・
視界が・・・
開けた。

125 名前: 1/9 投稿日: 2003/04/04(金) 06:39 [ IrX/vOv. ]
そこに居たのは一匹のしぃだった。
突然息を切らしてああ割れた男に警戒しているようだ。
背中から夕日を浴び、
淡い桜色のしぃの体毛は赤く染まり、
そこはとても神秘的だった。
そして、彼はその神秘的な雰囲気と、
睨みつけるような、その、深い瞳に魅入られていた。
・・・
五分が経っただろうか、
太陽がどんどん沈み、
しぃから伸びる影が伸びていく。
まるで、目の前に立つ彼を飲み込もうとしているかのように。
ふと、彼は正気を取り戻した。
自分でもわかっていた。
のまれていたと。
彼女なら・・・
彼は確信していた。
そして、顔やスーツについた木の葉や枝を払いながら、口を開いた。
「どうも、こんにちは。
 わたしは・・・。」

126 名前: そして歴史はまた繰り返される。上がで2/9、これが3/9です。 投稿日: 2003/04/04(金) 06:41 [ IrX/vOv. ]
「私は、しぃ保護連盟のものです。
 被虐生物であるあなた達を保護しに来ました。」
この雰囲気に飲まれないように、しっかりとした声で彼は言っていた。
だが、しぃは、突然あの神秘的な雰囲気を消し、ニパッと笑い、勝手に話し始めた。
「ツマリ、ワタシヲ オウチニ ツレテッテ クレルンダヨネ?
ヤター! ジャア コンナ ダンボールセイカツトハ オサラバネ。
ソウソウ シィチャンハ、ヤワラカクテ アマイモノカ、
コウキュウリョウシシカ タベナイカラネ。
ヤスモノハ ケッシテ モッテコナイデネ。
…ア、ワスレテタ。
デハ・・・」
機関銃のようにしゃべった後、
しぃはあの、「ダッコ」のポーズをとった。
そして、「ダッコ」と、お決まりの言葉を言った。
彼は気が抜けて何もしゃべれなかった。

127 名前: 4/9 投稿日: 2003/04/04(金) 06:42 [ IrX/vOv. ]
しぃは口をへの字にしてやや怒った調子でまた「ダッコ」と言った。
彼は「はぁ」とため息をついた。
「イヤだ。
 そもそもなぜ私がだっこしなければならない。」
「ナニヨ!コノ カワイイシィチャンガ ダッコサセテ アゲルンダカラ ソレテ ゙マンゾク シナサイヨ。
ソレニ ダッコハ マターリノ ショウチョウナンダカラネ。
ダッコシナイ ヤシハ ミンナギャクサツチュウ ナンダカラネ。
ソモソモ アナタハ シィチャンヲ マターリサセルタメニ キタンデショ。
ダッタラ ダッコ スルベキジャナイ。」
ぷんすか怒りながらしぃは反論する。
彼は頭を押さえながらうつむいて呟いた。
「どうやら・・私の勘違いのようだ。」
あきらめのような口調だった。
彼はうつむいたまましぃに向かっていった。
「そもそも、社会のゴミとも言われるしぃを、ただ保護するだけでは、
 経費がかさむだけで、何の社会貢献にもならない。
 だから我々はしぃを選別し、
 価値のあるしぃだけを選び、保護するのだ。
 そこで、君にもテストを受けてもらう。」
保護連の決まり文句を言った後、顔を上げるとそこには。
「ダッコ ダッコ ダッコ ダッコ ダッコ ダッコ
ハニャーン。ダッコシテクレナイヨー。
ギャクサツチュウダヨー
ハニャーン!ダッコー!」
子供のように駄々をこねるしぃが。
彼はまた、ため息をついた。

128 名前: 5/9 投稿日: 2003/04/04(金) 06:43 [ IrX/vOv. ]
泣き叫ぶしぃをよそに、
彼は持ってきた鞄からあるものを取り出した。
やや大きめの刃。
刃の両脇から出る二本の棒。
そして、その日本棒に渡された横木
正式名称「ジャマダハル」
インドで作られた固有の短剣。
欧米では「カタール」と呼ばれているが、
カタールは実際は木の葉のように刃が厚く広い剣のことで、
これも同じくインド製ではあるが、
もともとジャマダハルを紹介したとき間違えられていただけである。

129 名前: 6/9 投稿日: 2003/04/04(金) 06:43 [ IrX/vOv. ]
彼はこのジャマダハルを両手に持つと、
そのまましぃに向き直った。
しぃも、両手に握られている武器を見て、
とっさに逃げようとしてが遅かった。
「シィィィィィィィィ!!
シィノオミミィィィ!!」
彼のジャマダハルから放たれた突きは、
正確にしぃの方耳を切り離した。
「人の話はちゃんと聞くこと。」
しぃに、ちゃんと問題点を言う。
「シィガ ナニシタッテ イウノ?
シィハ タダ ダッコガ シタカッタ ダケナノニ。」
「だから言ったじゃないですか。
 人の話はちゃんと聞けって。」
「シィィィィ!
イタイヨー。シィノミミガァー。
シィハ タダ ダッコシテ マターリ シタイノニー。」
話を聞かず泣き叫ぶしぃに右手のジャマダハルの突きが飛ぶ。
今度はcm単位でしぃの眼前に寸止めとなった。
「だから、人の話は聞けって。」
殺気が漂う。
さすがのしぃも黙ったようだ。

130 名前: 7/9 投稿日: 2003/04/04(金) 06:44 [ IrX/vOv. ]
「では試験です。
 この一問だけですのですぐに終わりますよ。」
打って変わってにこやかな笑顔でしぃに言った。
一方しぃは正座をさせられていた。
「ナンデ カワイイシィチャンガ コンナコトニ・・・」
「何か言いましたか?」
「イイエ! ナニモ。 ナニモダヨォォ!」
失った方耳の部分に手を当てながら問題を聞いた。
「設問
 あなたにとってまたーリとは?」
暗い顔をしていたしぃは、
水を得た魚のように目が輝いた。
自信があるようだ。
しぃは立ち上がると、
「ハーイ ハーイ ハーイ ハーイ ハーイ」
と、片手を上げた。
「はい、答えてください。」
「マターリハネ、
シィノコトヲ イジメナイデ、
ミンナガ シィノコトヲ ダッコシテクレルノ。」
言い終えた後、しぃはまたニパッと笑った。
彼もその笑顔に答えるかのように微笑んだ。

131 名前: 8/9 投稿日: 2003/04/04(金) 06:45 [ IrX/vOv. ]
ばしゃぁぁぁ
彼のジャマダハルが、しぃの両腕をはねたのはそのすぐ後だった。
肩口から大量の血を噴出する。
「あまりにも限定された答えだね。
 それは「マターリ」と言う概念と言うより、
 君の願望と言った方が正しくないか。」
「シィィィィィ!
シィノオテテガァァァ!」
しぃが少し遅れて叫んだ。
「君の意見だとしぃ以外は別にいいということになる。
 君は一世紀前の白人か?
 そのような自分勝手な意見が通ると思っているのか?」
さらに今度はしぃの脚を斬る。
びにゅぎ・・・びゅち・・ばしゅぅぅぅぅぅぅ
切断面から勢いよく血が飛び散る。
「シィィィィィィ!
シィノアンヨガァァ!」
芋虫のように這い回りながら必死に逃げようとする。
だが、足が無いのであまり速度も出ず、
ただ周りの草木を赤く染めるだけだった。
「そもそも君は抱っこがどれくらい辛いものか知らないようだね。
 何十キロもある君達の体重を支えないといけないんだよ。
 まあ、抱っこさえるだけの君にはわからないだろうけど。」
そう言うと、彼はしぃの首を刎ねた。
頚動脈から噴水のように血が噴出した。

132 名前: 9/9 投稿日: 2003/04/04(金) 06:45 [ IrX/vOv. ]
太陽も沈み、闇に包まれかけたある森の一角、
少し開けた所のそこは、
闇の中だと言うのに、全体が赤く染まっていた。
周りの草も、
上を覆う樹の葉も、
そこから立ち去る人も、
その開けたところの真ん中にたたずむしぃだった物も。
全てが赤く染まっていた。

======糸冬了======