「死神」

Last-modified: 2015-06-26 (金) 02:34:08
622 名前:ワード ◆sKXh.iY7IY 投稿日:2006/04/22(土) 16:39:47 [ WoxYeU2. ]
死神




狭い路地裏でモララーとしぃがなにやら話していた。
「お願いだよ。家には6匹のべビがいて・・・お金を・・・」
モララーが思いつめた様子でしぃに言った
「てめぇの私情なんか知るかってんだ。ハニャーン!」
しぃは大声で怒鳴り返したが内心は満足していた。
虐殺するきっかけが掴めたからだ。
「モラァァ・・・それなら力ずくで・・・」
モララーは近くにあった鉄パイプをさっとつかみ、しぃに向かって振り下ろした。
「うわ早!!!」
しぃの計算ではモララーが攻撃してくるのはもう少しあとだのはずだった。
しぃは一瞬ひるんだが、パイプを間一髪で避け、直撃をさけたが片耳が「ブチュッ」という嫌な音を立てて吹き飛んだ。
同時に血の臭いがあたりにたちこめる。
「このゴミが!!」
しぃは怒りレーザーを発射しようと手と手をあわせて開いた貝殻のようにした。
すると青白い光がしぃの手の中に集まってきた。
「レーザー発射!」
しぃの手から青い光線が発射され闇を切り裂いた。
「モラァァァァァァァァァァ!!!!」
モララーはすぐさま鉄パイプを投げ捨て4足歩行のポーズをとりレーザーをかわした。
そしてそのままチーターのようにしぃに向かってすごい速さで突進した。
ドゴンッッ!!
まともに体当たりをくらってしぃは後ろに吹っ飛びそのままアルミ張りのフェンスに激突した。
「このゴミがっ!」
しぃはそう言い再び手をあわせた。
が、遅かった。
「モラァァァァァァ!!!!これでもくらぇぇぇ!!!」
モララーは再び鉄パイプを拾い上げ、しぃの頭めがけて思いっきり振り下ろした。

ぐちゃっ!!!

しぃの頭は見るも無残に潰れ、あたりに血が飛び散った。
モララーは血のついたパイプを地面に置き、しぃの財布をスリ始めた。
しばらくゴソゴソやっていると、しぃの体からなにやら丸い玉のようなもが浮かび上がった。
そしてそれは無傷の状態のしぃの形になった。しかし、足はない。
色は半透明な水色で、いわゆる幽霊というやつだ。しかしそれはモララーにはまったく見えていなかった。
「よ~く~も~殺してくれたな~ゴ~ミ~虫が~」
幽霊しぃは財布スリに夢中のモララーの後頭部ねらって拳を振り下ろした。
「もひっっ!!」
案の定パンチはスカッと頭を通り抜けたがモララーは鋭い悲鳴を上げた。それはしぃにも聞こえた。
しぃの触れた部分が刺すような冷たさに襲われたのだ。
だがしぃもただではすまなかった。
モララーに触れた箇所が熱湯の中に手を入れた時のような熱さを感じたのだ。
こちらも悲鳴をあげたがモララーには聞こえなかった。
モララーはしばらくあたりをキョロキョロ見回していたが、ようやく財布を見つけたようでその場をそそくさと去っていった。
しぃはふわふわと浮遊して後をつけた。

623 名前:ワード ◆sKXh.iY7IY 投稿日:2006/04/22(土) 16:40:17 [ WoxYeU2. ]
モララーはしばらく無言で歩いていたがコンビニの前で急に足を止めた。
コンビニのドアは自動式で、モララーの姿が映っている。
しぃはその上を浮遊しているはずの自分を確認しようとドアを見たが、やはり映ってはいなかった。
モララーは足早に店内をうろつき、栄養剤とパンを購入した。
もちろん、しぃの金でだ。
「こいつ・・・」
しぃは殴りかかろうとしたがさっきのことを思い出し、手をとめた。
モララーの店を出てからの歩く早さは時間とともに速くなり、しまいには小走りになった。
10分ぐらいたっただろうか。2人は街灯が少ない、暗い所までやってきた。
すぐ前には古びたアパートが見える。
モララーの足が急に遅くなった。
(ここに住んでるんだな・・・・)
しぃは思った。
予感は的中だった。
モララーはそのアパートの茶色に錆びついた階段を音を立てて登って行き、2階に上がった。そして[202]と書かれたドアを開けた。
そのとたん、
「オカエリ!」 「ワーイパパ カエッテキタ!!」
というべビモラ達の声が次々に聞こえてきた。
しぃは家の中を見渡した。
玄関のすぐそばに小さいキッチン、そして三畳の居間が1つの狭い空間だった。
居間でべビ達がぎゅぎゅうづめになって遊んでいる。べビの数は・・・5匹・・・いや、6匹だった。
モララーはすぐさま部屋の端っこで固まっているべビに駆け寄った。
そのべビは、息使いも荒く、相当具合が悪そうだった。
モララーは他のべビを構いながらさっき買った栄養剤を取り出した。
ここでしぃはあることに気がついた。
具合の悪そうなべビからなにやらオーラのようなものが出ているのだ。そしてその色はしぃの体の色と同じ水色だった。
しぃにはそれが、少なくともこの部屋では自分にしか見えないもので、水色のオーラは魂であり、外に出ている=死に掛けている。
ということが一瞬でわかった。
モララーは栄養剤をべビに飲ませた。
するとオーラは少しだけ小さくなった。僅かながら回復したのだろう。
その様子を見ながら、しぃはこんなことを考えていた。
「あのべビの魂をを全て引っ張り出してやろう」
と。

624 名前:ワード ◆sKXh.iY7IY 投稿日:2006/04/22(土) 16:40:40 [ WoxYeU2. ]
しぃがべビモラの魂に触れようと手を伸ばしたその時、
「やめておけ・・・・・」
と、どこからか声がした。
この声に気づいたのはしぃだけだった。
しぃは部屋中を見回した。が、怪しい人物はいない。
第一、こんな狭い部屋だ。いたらすぐ気がつくだろう。
「ここだ、ここ!」
声の主はそう言うと板張りの天井をすり抜けてしぃの目の前に降り立った。
2本の尖った角、クリクリした四角い目、∀の字に開いた口、そして真っ黒なマント。
マララーにそっくりだった。
「誰だ?御前?」
しぃは半場驚きながら聞いた。
「私は死神。オマエを迎えに来たんだが・・・・」
「残念。ちょっとヤブ用があってね。まだそっちに逝くつもりは無いんだ」
しぃが死神の言葉をさえぎった。
「復讐したいんだろ?オマエを殺したヤシに・・・」
死神はしぃの目をマジマジと見ながら言った。
「おめでとう、正解だ。」
「私の力を分けてやってもいいぞ・・・正し条件が1つ・・・ある」
そう言って死神は人差し指を立てた。
「20分だ 20分以内に三途の川まで来い」
しぃはOKの代わりにニヤリと笑ってみせた。
すると死神の立てた指の先からビー玉くらいの大きさの黒い玉が現れた。
死神が指の方向をしぃに向け変えると玉は一直線にしぃ目掛けて飛んだ。
それはしぃの腹を貫通したかと思うと、水に落ちた墨汁のようにしぃの体になめらかに溶け広がってしぃの体の色を半透明のグレーに変えた。
「これで完了だ・・・・・これは地図だ、20分以内に・・これを見て三途の川まで来い・・・・必ずだぞ・・・」
死神はスッと消えた。床に地図が落ちた。
しぃは一息つくと、手始めに近くにいたべビモラを殴ってみた。
「モァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
パンチこそすり抜けたがべビは痛烈な悲鳴をあげて硬直した。
しぃにダメージはない。
部屋にいる全員が悲鳴をあげたべビの方に瞬時に首を向けた。
「どうしたんだ!!!!べビ!!!?」
モララーは悲鳴をあげたべビを抱き上げた。
べビの体は氷のように冷たく、冷え切っていて、毛の1本1本に霜がついていた。
その冷たさがモララーの手にも伝わった。
「な・・・」
モララーは一瞬動転したようだったがすぐにそのべビをペロペロ舌でなめだした。霜を溶かすつもりだろう。
「こりゃいいや♪」
しぃはニヤついた。
そして具合の悪いべビの魂を引き抜いた。
抜けた魂がべビモラの形になった。・・・・足は無い
モララーはようやく意識が戻ってきた冷凍べビを抱きしめながら、具合の悪いべビの方に視線を戻した。
「べビ・・・だいじょぶか・・・?」
モララーは片手でべビをさすった。
べビは何の反応もしない。死んでいる。
「べビ・・・?嘘でしょ?べビ、べビ、ベビィィィィィィィィィィィィィ!!!!」
モララーは叫んだ後愕然となった。
他のべビから何を話しかけられても何も言えないでいた。
しぃはその光景を見てゲラゲラ笑いが止まらなかった。
「ドウシテ ソンナ ヒドイ コト スルンデスカ」
幽霊べビが言った。
「さぁね」
しぃにとってモララーは自分の欲望を満たすための道具でしかなかった。
その道具に殺されたのだ。しぃにとってこれほど嫌な事は無かっただろう。

625 名前:ワード ◆sKXh.iY7IY 投稿日:2006/04/22(土) 16:41:21 [ WoxYeU2. ]
──15分後
部屋の温度は零度近くになっていた。
部屋のあちこちに冷たく横たわっているべビモラ。
ただ呆然と立ち尽くすだけのモララー。
しぃは全てのべビを殺した。
それがモララーにとって1番「嫌な事」だとわかっていたからだ。
「オトーサーン」 「ボクタチハ ココニ イルヨー」 「キコエナイノォー?」
幽霊べビ達は口々にそう叫んだが、モララーに聞こえるよしもなかった。

しぃは部屋においてある時計に目をやった。
約束の時間まであと5分しかない。
しぃは地図を拾い上げ読んでみた。
地図と言っていたのに図は一切無く、かわりにこう書いてあった。
[まっすぐ 4秒進め 右に 4秒進め 上に4秒進め]
(足がないから歩数じゃなくて秒数なんだな・・・)
しぃは少し疑ったが書いてあるとうりにやってみた。
すると景色が一変して三途の川らしき所に出た。
美しい川に何隻もの木の船が行き来している。
死神はもう来ていた。
「力返してもらうぞ・・・・」
死神はマントをはためかせてしぃの方に近づいてきた。
「嫌だね」
しぃはニッコリ笑って言った。
だが死神は動じず
「前にもそういうヤシがいたわい・・・オマエは地獄逝き決定だな・・・」
死神は鎌を取り出し構えた。
「キミさぁ・・・モララーの変種に似てるんだよねぇ・・・」
「それがどうしたというのだ・・・・」
「そんなヤツに私は負けませんよ はにゃ!」
「ふん・・・・・」
死神は鎌を天高く振り上げた。だがこれが命とりになった。
「・・・・がら空きですよ」
しぃは死神の腹目掛けてレーザーを打ち込んだ。
「!!・・・・・・・」
青いレーザーは死神の腹を見事に貫通した。そして大量の血が飛び散り、崩れ去った。
死神の腹は内臓や小腸などはいっさいなく、ただぽっかりと穴があいているだけだった。
「つまんないなぁ・・・・」
しぃは死神から鎌とマントを奪うとすぐさま地上に戻った。
モララーを殺すために。

────100年後

狭い路地裏でモララーとしぃがなにやら話していた。
「お願いだよ。家には16匹のべビがいて・・・」
モララーが思いつめた様子でしぃに言った
「てめぇの私情なんか知るかってんだ。ハニャーン!」
しぃが大声で怒鳴った。
「モラァァ・・・それなら力ずくで・・・」
モララーは近くにあった鉄パイプをさっとつかみ、しぃに向かって振り下ろそうとしたその時だった。
モララーの後頭部が氷のように冷たくなった。
「モ・・・・・・・・!!」
モララーはあまりの冷たさに声も出せないで引きつっている。
そしてその冷たさはモララーの体全体を貫いた。
モララーは地面に倒れこんだ。死んでいる。
鉄パイプがコンクリートの上に落ちた「カラッカラーン」という音がその場に響いた。



・・・終