『zwilling』

Last-modified: 2019-12-12 (木) 00:51:43
592 :Nacht:2009/02/08(日) 01:41:14 ID:???
                『zwilling』

―schwarz side.

―ごしゃり。
ソレは骨の砕ける感触で覚醒した。
手には真っ赤でぬらぬらとした血液がべったり。
頭蓋骨を顕にし、脳漿を曝け出した頭部は、およそ原型をとどめていないほどひしゃげている。
凶器は己が拳。
岩のような硬さを持つ、異常な左の拳。
それによって飛び散った脳漿はあたかも蛆虫のよう。
足は、ない。
残ったパーツはことごとく曲がり。
無貌の死体は奇妙なオブジェとなっている。
それを見下ろして。
ツマラナイ、と漏らして。

―ソレはニヤリと、不適に嗤った。

593 :Nacht:2009/02/08(日) 01:42:00 ID:???
―weiβ side.

―――寒い。
吐く息は白く、歯は根が合わず、絶えずカチカチと音を鳴らしている。
道を行く人々は皆暖かそうなコートなどに身をうずめ、それでもなお縮こまって通り過ぎていく。
別に、寒い格好をしているわけではない。

そう。
これは寒さなどではない。
暦は九月。もう夏の終わりが見え出している。

―――吐き気がする。
震える自分の肩をかき抱き。
手に残る生暖かさ、ぬるっとした粘着感が払拭できない。
両手を見れば、赤く染まっている。そんな錯覚。
馬鹿らしいと、かなり強引に、思考を覚醒するためにシフトさせる。

現在位置。不夜城めいた街の、ある一角。
薄汚れたゴミ溜めのような場所に彼、モララーは居た。

「うっ…ぐ…。目覚めは、最悪だね、こりゃ。」

呼吸が整ってから発した第一声はそんな事だった。
白い体は砂で薄汚れてしまっていた。

「うーん?なんでこんなところに…。」

近くに人は居ない。
娯楽だらけで明るい街とは対照的なここには、ほとんど人は寄り付かない。
治安が悪いのもあるだろうし、まず第一に何も無いからだ。
ここは、過去被虐対象だった者達が住まう一種の禁制区域。
かつて世界的に流行した虐待虐殺。しかし、それも所詮娯楽。理性を持った動物である限り必ず飽きはくる。
結果、虐待虐殺は10年間は世界を、輝きと血で満たしたが、その後はすぐ下火になった。
やがて、世界的大恐慌が発生。世界は経済社会の崩壊に直面し、各国の政府もそんな状態では立ち行かず。
多くの企業等と運命を共にするかのように崩壊した。
そして、国民達が自主的に新政府と名乗りを上げ、紛れも無い国民運営による迅速かつ国民視点による様々な政策が功を成し。
最初に立ち直ったその国を筆頭に、真似をする別の国や、そういった国から援助してもらうことで立ち直る国。
世界的な危機的状況に入って初めて、人々は【協力】という事を感覚で感じ取ったのかもしれない。
大恐慌からわずか半年。崩れ去った秩序は新たな秩序を以って再動した。
そして、その新政府からすべての国の、すべての国民に提示された一つの法案。
それは、「最低限度の完全なる平等」
その意味するところはつまり。

―虐待虐殺を世界が否定する。

594 :Nacht:2009/02/08(日) 01:42:45 ID:???
結果としては、賛成八、反対二で可決。
もしもこれを破ってしまった場合、最低十年以上の懲役、又は罰金五十万。
被虐対象となっていた者達は異様に体が脆かったため、強引に手を引っ張った際にすっぽ抜けて傷害罪。なんてこともあった。
新政府はこれに対して、彼ら専用の居住スペースを提供すると決定。
それがここ。
結局。世界が認識を変えても。徹底的な弱者は、徹底的なまでに環境がそこから這い上がることを辞さないらしい。
なんて、報われない。
だから、誰も寄り付かない。近くに居ても迷惑を被るのは自分たち。
そんなだから彼らが日陰に追いやられるのにそう時間はかからなかった…。

「…つっても昔と比べて考えりゃ破格の待遇だよなぁ。」

つーか、普通のやつの方が生活に困窮してる状況ってどうなのか。
彼らにはそれぞれ住居もあれば、職もある。人並みに生きることに関して言えば、一般AAよりもはるかに楽なのだ。
ちなみに俺は現在、仕事が無く、金も無いのでかれこれ三日間食い物を欠片でも口に放り込んだ記憶がない。
あるのは公園の水道水くらいか。我ながらなんとも情けない。

「いつまでも座ってるわけにはいかねぇし…。そろそろ起きて仕事探すかぁ。」

と、立とうとした瞬間。

「へぶぉっ!?」

顔面から勢いよくコンクリートの大地と熱ぅい接吻。

「つぅ~~~…!」

倒れ伏したまま、鼻を押さえながら頭だけ動かす。
どうやら、三日間の断食はこの身には辛かったようである。
俺の足は栄養が足りないせいで自分の役目を忘れてしまったらしい。
あー。目まで霞んできた。ヤバイ。ヤバイです、神様。このままじゃ俺死にますよ?いいんですか哀れな子羊がこんな薄汚いところで野たれ死んでもっ!!
と、心で叫んだところで神様が助けてくれるわけではなく。こうして、また一人、人知れず一人のAAの人生は終わりを迎えるのだ―。
諦めて目を閉じる。その瞬間。
神が与えた一筋の光が見えた。

「どうして、そんなところで寝てるんですか?」

きょとん。と。
実に可愛らしい動作で、一人の少女が俺を見ていた。

595 :Nacht:2009/02/08(日) 01:44:04 ID:???
「どうして、そんなところで寝てるんですか?」

俺にとっての天使は無邪気に浮かんだ疑問をカタチにしてきた。
さて、我が天使。見た目、十代の中ごろ、思春期真っ盛りといった感じの少女。種族はしぃ。
ガラス細工を彷彿とさせる無邪気に輝く碧眼。
眩しいです。神様。
なんか本当に世の中変わったもんだ。

「えーとだね、お嬢さん。実は仕事が無くて三日間飯を食ってないわけさ。それで立とうとしたら、まぁ、その、情けない話、バタン、キュー…じゃない、グー。か。
ってわけ。」
「わぁ。大丈夫…?」
「見ての通りですが、何か?」

さて、どう動く?とりあえず懇願の目だけはデフォだな、うん。
少女は難しそうな顔でうーん、と顎に手を当てて考え込んでいる。
こちらとしてはこのまま野垂れ死ぬか、運良く生き残るかという死活問題である。
そして、結論が出たのか。こちらに近づいてきてすぐ傍でしゃがみ込む。そして、俺にそっと

「大変そうだけど頑張ってね。」

…天使からの死刑宣告。じゃあ、大人しく死のうか。ははは。
って、オイ!?

「いやいやいや!!待て!いや、待って!待ってください、お願いします!!」

三度目にしてようやく足を止めてくれた。
しかし、彼女はきょとんとするばかりである。

「いや、今の場面って『家に来ますか?』とか、どうぞこれでも食べて頑張ってください』とか言うところじゃないかい、THE・現代っ子!?」

テンション上がりすぎて空腹を忘れたのか、立ち上がって両手でゲッチュ!!(・∀・)少女に向けていた。
対して少女はなんか冷えた目でこちらを見ている。ように見えた。
しかし、それは俺の思い込みだったのか。少女は太陽のようににっこりと笑うと。

「なんだ。そんなことだったんですか。それなら最初から言ってくれれば良かったのに。あと、そのTHEなんたらはやめてくさい。」

なんとっ!?
この少女何気に凄いぞ!?警戒心が無いのか!?てゆーか年下に怒られてまったゼ☆
ま、とにかくだ。

596 :Nacht:2009/02/08(日) 01:44:49 ID:???
「えーっと。飯食わせてもらえるんですかね…?」
「えぇ、いいですよ。でも、そっちこそ大丈夫なんですか?」
「…?何が?」
「やっぱりなんでもないです。とにかく食べられるならいいんですよね?」
「オーイエス。」

交渉成功。
とりあえず今日一日は生き延びた。
でも、問題がある。

「俺、動けないんだけど…」
「みたいですね。」

当然でしょ。という感じの返し。

「え…っとどうしよう…?」
「這ったら大丈夫でしょ?」

前言撤回。こいつは天使じゃねぇ。

「大丈夫です。ここから五分とかかりませんから。」



…確かに五分とかからなかった。
必死に這うこと三十秒。

「着きましたよ。」
「は…?」

顔を上げれば、普通の一軒家。
愕然とした。
新政府…。ぬぁにが最低限度の完全なる平等か。これ、明らかに格差ですよ?
しかし、本当にすごい。新政府はなかなかやることが立派だ。だが、その分彼女らに娯楽はほとんど無いのだろう。
…偏ったバランスだなと思う。
ぼーっとしてる間によいしょと立たされ、服についた汚れを一通り落とされる。…あぁ、情けなきかな俺。
そのまま短い廊下を突っ切ってリビングに到着。そのまま真ん中にある食卓の椅子の一つに俺をおろすと、早足にどこかへ消えてしまった。
とりあえず水飲も。

597 :Nacht:2009/02/08(日) 01:45:39 ID:???

「………。」

水を飲みながらぼーっと室内を眺めてみる。
やや狭いものの、なかなか小奇麗な部屋で、飾ってある花なども含めて、調度品の手入れも行き届いている。
なかなかに強者だな。
うん。なんか暇だし、一人自己紹介でもしようか。

「やぁ、俺モラリア。メンドイからモララーでいいゼ☆…って誰に話してんだ俺。これじゃ痛い奴じゃん。」

既に痛い。しかも思いつきはものの十秒足らずで終了。
テーブルに突っ伏して飢えと戦闘開始。
頑張れ、理性!まだ空腹で暴れるには早いぞ!
最初は両者お互いに均衡。しかし、時間がたてばたつほど、有利になる空腹サイド。じわりじわりと理性を押し返していく。そしてトドメとばかりに、いい匂いが鼻を…。
いい匂い!?ここにきて両者の力関係は逆転。だが、本能も負けていない。先に屈服させようとかみついてくる。
あー、もう無理かなーと思った矢先。

「はい、お待ちどうさま。」

念願の。三日ぶりの食事が。目前に広がって、いた。

「お…おぉぉ…お…。」

あまりの感動に言葉すらまともに発せない。
メニューはご飯、玉子焼き、魚の塩焼き、多分鯵、と味噌汁。
どこぞの国の鉄板メニューだった。美味そうだ。今すぐにでもがっつきたいが、さすがにそれは人様の家で失礼だし。いや、既に飯を食わせてもらってる時点でアウトなんだが、とにかく、何故箸がない?


「あぁ。食った食った。いやぁ、本当助かったぜ。」
「そうですか。それは良かったです。」

箸は割り箸を使った。
柔らかく微笑みながら食器を片付けていく、しぃ。
何だかこっちが照れてしまいそうな状況だった。

「………?」

すん、と。
何か今、一瞬凄く嗅ぎなれた臭いがしたような。
この鉄臭い臭いは―。
…いや、気のせいだろう。というかそういうことにする。
こういうことは、見て見ぬフリが一番。

「どうかしましたか?」
「ん?いや、別に。」
「あの、ちょっとお話があるんですけど―、聞いてもらえますか?」

なるほど。厄介な場所だ、此処は―。

598 :Nacht:2009/02/08(日) 01:46:21 ID:???
―schwarz side.

肥大化する精神。
麻痺していく道徳感。
そして増長し、止まるところを知らない底なしの快楽。
このカラダは人に非ず。その在り方は秩序を乱す反乱分子。
黒く、黒曜石の如く。鋭利で鋭く。軽くも重い。
ソレの振るう拳はすでに拳などではない。
巻き起こす風は凶刃となって周囲を斬り刻み。
破壊の対象にされれば、命乞いする時間もなく、肉に成り果てるのみ。
その拳は既に【拳】というカテゴリをはずれ、凶器を超えて兵器の域に達していた。
あまりにも理不尽すぎる、ワンサイドゲーム。
丸腰の人間が銃を持った相手に勝つなどまずありえない話である。
だから、ソレは。

「今から十分やる。その十分間せいぜい上手く逃げて隠れて、俺をやり過ごしてみろ。そしたら見逃してやる。」

ほんの思いつきで命を弄んで遊べる。
ギコ種の青年はわき目も振らず、必死の形相で走り去る。
それをさも愉快そうに眺める悪鬼。
これで少しは楽しいかな、などと考えて。

勝負は五分とかからなかった。
流石はギコ族。わずか十分で二キロも逃げた。
だが、それでもまだまだソレには遠く及ばない。
なにせ、彼が十分かけた道を一秒で通過したのだから。

「く…来るなッ!!それ以上俺にちかづくんじゃねぇッ!!」

叫び声さえ、快感物質。
あぁ、生きている。活きている。
だから、お前の生を俺に―――。

599 :Nacht:2009/02/08(日) 01:46:52 ID:???
―weiβ side.

「―で、ですね。最近物騒だってことが分かりますか?」

所変わってしぃ宅。
俺は小一時間ほど問い詰め…じゃなくて、このあたりの最近の治安状況を説明されていた。
と言ってもあまり頭に入ってないが。

「あー、うん。分かった。…で?」
「で?ってなんですか。ですから、貴方に手伝って欲しいんです。」
「えぇー!?なんで俺がー。」
「………。」

うわっ。すっごいジト目。なんか迫力あるし。

「ふーん…。誰のおかげで満足な食事がとれたんでしょうね?」
「ギクッ!!そ…それは、その…。」
「いえいえ、いいんです。あれは私が良かれと思ってやったことですし。えぇ、全く気にしてないです。」
「うっ…。」

くそぅ。これは既に回避不能フラグが立ってるじゃないかっ。
まぁ、実際断ればかなり後味は悪いんだろう。…でも、ヤだなぁ。

「あー、もう分かりましたごめんなさいっ!手伝えばいいんでしょう、手伝えばっ!!」
「あら。ありがとうございます。」

にっこりと。次からは絶対騙されんぞ、この悪魔。

「で?何したらいいのさ。言っとくけど危ないのはごめんだからな。」
「あぁ、それでしたら大丈夫ですよ。貴方には張り込みをお願いします。」
「張り込み?それだけ?」
「はい。簡単でしょう?」
「簡単だけど…。」

それは、別に自分でなくとも親しい者にやらせればいいのではないのか?
いや、危険があるから、親しい者に頼まないのか。

「まぁ、万が一危なかったら即逃げればいいわけですし。ちゃんとお金ぐらい出しますよ?」

そう言って指を三本立てる。
それは三万か、三十万か。それとも三百万か。どれにせよ三万でも十分ありがたい。
どうせ、危なくなったら逃げればいいんだし。
断る理由は、もう無かった。

600 :Nacht:2009/02/08(日) 01:47:17 ID:???
で。

「暇すぎる…。」

ぷっかぷっかと闇に昇っては消える白煙。
現在、9月11日の午後11時23分。
張り込みに入ってから既に六時間経過。
見張ってる場所には、人どころか猫の子一人やってこない。
なんとも時間の浪費である。
というか、なんで金払ってまで見つけたいのか分からない。
暇だし、さっき教えられた情報をおさらいしてみよう。

1.被害者の体のパーツは必ず欠損している。
2.残っている部分はほとんど原型を留めていない。骨まで粉々に砕かれている。
3.現場には被害者以外の血液。
4.左の拳が異様に大きいらしい。
5.残っていた足跡は非常に巨大。恐らくかなりの大柄。

こんなところか。

「微妙…。どう考えたって4と5以外は、犯行後でしか判別できないし。参ったな…。」
「ん…?」

少しまわりが明るくなったような気がして空に顔を向けた。
底の知れない闇の大海原を照らす、黄金の月。
もう少しで半月になろうかという歪な月。
しばし、その輝きに見入り。
腕時計で時刻を確認。11時53分。
あともう少ししたら、今日は切り上げよう。
お月さんだって許してくれるさ。

601 :Nacht:2009/02/08(日) 01:48:47 ID:???
―schwarz side.

「いぎぃっ!?あぎ、やあぁぁぁぁぁぁぁっ!!?
あ、あああ足がっ!?お、俺、俺の足が…っ!!」

狭い、路地裏。
普段は滅多に人の居ないこの空間。そこには今だけ、二つの影があった。
一つは、白い体を自らの血で朱に染め上げながら、もう絶対に戻らない部品を必死にひきずる青年。
対して、もう一つの影。
こちらは、ソレ自体が闇かと誤認してしまうような、闇に溶け込む漆黒の巨躯を持ったナニか左手だけが異常に大きい。
今は、その左の拳は血を滴らせている。
青年の叫び、悲鳴など一切意に介さず、悪魔もぞっとするような狂気的な笑顔。

「お前も…脆いんだな。残念だよ。」
「な…なんなんだよ、テメェはぁっ!!俺に何の恨みがあるってんだよ!?」
「恨みなんかない。ただ、ツマラナイのと、空腹なだけ。」

ニヤリ、と。
異様に尖ったその犬歯を見せ付ける。
暗闇の中に浮かぶ二つの紅い光。

―その時点で青年も理解した。
これは、理性のある同じ生物のやりとりなどではない。状況はもっと簡単だ。
そう。アレは狩りをする獣で、自分は狩られる側。
左足、損傷甚大。逃走不可能。今考えられる結末は―。

「カタくなるなよ?不味いから。」

紅の魔眼に射抜かれる。

「………っ!?」

身体が動かない。否、主観の物言いはおこがましい。既にこの身体は自分のものではない。
哀れにも青年は理解してしまった。現状も。起こるであろう結末も。
唯一。わからないことは、目の前のモノがなんなのか。

602 :Nacht:2009/02/08(日) 01:51:45 ID:???
お。なんだ、諦めたのか。潔いねぇ。ご立派ご立派。だが…。」

紅が燃える。

「―つまらねぇ。」

身体ごと持ち上げられる。
こちらを睨みつける瞳の中は、燃えていた。

「怯えろよ。叫べよ。泣けよ。喚けよ。薄汚く生に執着してろよ、下等生物がよぉ…!
なんで、平然としてやがる。気にくわねぇ。気にくわねぇ…!」

そのまま突然に放り投げられる。
身体の指揮系統は握られたまま。
受身をとるどころか、指一本だって動かせない。

―黒い悪鬼は激昂していた。

腕を掴まれ、そのまま、握り、潰される。
がりっ。ばきゃびきっ。
普通なら絶対耳にすることのない嫌な音。
その時点で既に骨はばらばら。一部はもう皮膚を突き破っている。
それでも、まだ、砕かれる。
腕が。肉が裂けていく。
ミチミチ、と筋肉繊維の切れる音がする。
頭にはスパーク。呼吸は乱れ、視線は定まらない。
それでも悲鳴は上がらない。自分でも驚く。
こんなに痛いのに。こんなにも怖いのに。
俺はこの哀れな鬼に同情してしまっている。
何故かは、自分でもよくわからない。
ただ、可愛そうに思えただけ。

…そういえば、さっきから彼は何をやっている?
身体の感、覚がクリア、になっ…て…?


青年は最後の疑問に答えを見つけられなかった。
何故なら。
彼は既に死んでいたのだから―。

Auf Wiedersehen. Bis morgen….

603 :Nacht:2009/02/08(日) 02:13:03 ID:???
―マダ、タリ、ナイ………。

―糸売―