84 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/04(火) 14:59 [ O8HYloKc ] 「ハニャーン…ハニャーン…」 しぃは、誰もいないだだっ広い空間で、独り鳴いていた。 だが、その声に答えるものは誰もいない。 ただ虚しく、宙を漂うだけであった。 「シィノアカチャン!! シィノアカチャン!!」 首が折れそうなほどに振って、我が子の姿を探す。 すると、抑揚のない声が答えた。 「探し物は、コレですか?」 声の主は、モララーであった。 その手には、1匹のベビしぃが掴まれている。 「ナッコ!ナッコ!」 必死にもがいて、モララーの手から逃れようとするが、当然かなうはずもない。 彼の隣に置かれていた箱には、ベビしぃとベビギコが1匹ずつ閉じ込められていた。 「ミューミュー!」 ベビギコは箱から身を乗り出して、必死に鳴いている。母親の姿を見つけ、助けを求めているのだろうか。 ベビしぃのほうは、既に恐怖のあまり涙をこぼしながら、身体を硬直させていた。 その箱には、無情な3文字が刻まれている。 「ゴ ミ 箱」 85 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/04(火) 15:00 [ O8HYloKc ] 「シィィィィ…」 血の気のひいた顔で、その地獄絵を見るしぃ。 モララーにつかまれたベビは、「ハナーン…ハナーン…」と、か細い声を絞り出し始めた。 その姿を知覚した途端しぃは奮い立った。 我が子を見捨てるわけにはいかない。 すくんだ身体に鞭を打ち、必死に威嚇の体勢を取り、 勇気を振り絞って、その悪魔に吼える。 「シィノアカチャン カエシナサイ!! コノギャクサツチュウ!!」 モララーは冷酷に、さも楽しんでいますといった様子で、嬉々として、言った。 「そんなに返してホスイのかい?」 それは意外な言葉であった。『虐殺厨』は残念ながら、そんなことで素直に返しはしないだろうという。彼女はそれを知っていたからだ。 だが、直後、その真意を知ることとなる。 86 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/04(火) 15:00 [ O8HYloKc ] ブンッ モララー腕が虚空を切り裂く。 彼に掴まれていたはずのベビは、既にしぃの眼前に迫っていた。 声を失うしぃ。何も知らないベビは、助かったとでも思ったのだろう、 嬉しそうに「ナッコー!」と言いながら、母親に飛び込んでいった。 ボンッ 骨が砕け、肉がつぶれる音。しぃの、声にならない声。 満足そうなモララー。 しぃは我が子の身体を受け止めようとしたが、片手を吹き飛ばされる。 ベビの脆い身体も、衝撃に耐えうるはずがなく、顔面がつぶれ、片耳が吹き飛んだ。 87 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/04(火) 15:00 [ O8HYloKc ] 親子の血が混じりあいながら、四方八方に飛び散った。 「ミィィーーーーッ!!」「キチィィィッ!!」 箱から身を乗り出して喚いていたベビギコは、力なく箱の縁から前足を離す。 もう一匹のベビしぃは、身を震わせながら目をそらす。 「アカチャン…シィノアカチャン…」 無残な姿を晒す我が子に、必死に呼びかけるしぃ。失った片手など、二の次であった。 だが、ベビがその呼びかけに答えることなどできるわけがない。 「次はお前だからな!」という、モララーの残酷な言葉に重なるだけだった。 しかし、悲劇はまだ終わらない。 「オナガイ…オヘンジシテ…」 その悲壮な言葉を遮り、モララーは言った。 「ヒャッハァ! 『シィノオテテ』じゃなくて『シィノアカチャン』かい!? 泣かせるねぇ! ヒャァーッハッハッハッハ!!」 「ヒドイ…ナンテコトヲ」 わざと大げさに笑う。憎悪とも悲しみとも取れるしぃの言葉は、彼の耳には届かなかった。 そして、先ほど掴んだもう一匹のベビしぃを、哀れな母親に投げつけようとした瞬間、悲劇が起きた。 88 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/04(火) 15:01 [ O8HYloKc ] ガブッ ベビが、自らを掴んでいるモララーの腕に噛み付いたのだ。痛みのあまり、思わず声を上げるモララー。 だが、それは彼の狂気を鎮めるどころか、更に油を注いだ。 「いてぇな糞チビがッ!!」 怒りに任せて、ベビの頭と胴体を引き裂いてしまったのだ。 深紅の臓器を晒す面から、これでもかというほどに鮮血が溢れ出す。 「シィィィィィィィ!!」 しぃは耐え切れず、しぃ族特有の悲鳴を上げた。 モララーは、ベビの頭、胴体を、立て続けに投げつける。 「しつけが悪いじゃねーか! てめぇは母親シカークだな!!」 ボンッッ! ドバキャッ 89 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/04(火) 15:01 [ O8HYloKc ] 彼の投げた『ボール』は、しぃにぶつかった瞬間砕け散った。彼女の右足、右耳を道連れに。 「氏ねぇぇぇぇぇ」 モララーは、残されたベビギコを掴み上げると、血を撒き散らしながら宙を舞うしぃに投げつけた。 「グヂィィィィィ…ハニャッ!!」 ベビギコは無数の肉片化して地面に散らばる。 しぃは両手、両足を失い、達磨になって地面を転がる。 「へっ、ブザマだなぁ…」 「ハニャァァァァ…」 「ハニャーン」としかいえぬほどに追い詰められたしぃに迫るモララー。 芋虫のように張って、モララーから逃げようとするが、彼がそれを許すはずがない。 モララーは彼女の命乞いに嘲笑で答えると、手を振りかざした。 90 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/04(火) 15:01 [ O8HYloKc ] 次の瞬間そこに転がっていたのは、かつて親子だったもの。 もう既に、血肉のじゅうたんとして虫に食われてゆくだけの残骸でしかない。 「殺った…」 モララーは「ゴミ箱」に彼らを弔うと、 大きなため息を一つ残して、鮮やかな都会に紛れていった。
関連作品→母親シカーク - 当小説のAA版。