ちびギコの廃墟探索

Last-modified: 2015-06-03 (水) 01:15:14
447 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/02/23(日) 22:07 [ zqMhU7D. ]
誰が最後に死ぬか、予想するのもまた一興かと。

1/8
廃墟。朽ち果てた過去の遺物。
廃墟には、何故か人を引きつける魅力がある。
ある者は、朽ちていく廃墟に浪漫を感じ、写真を撮る。
ある者は、ゲームや映画のセットのようなこの空間でサバイバルゲームに興じる。
ある者は、肝試しに廃墟に大勢で押し掛ける。

そんな廃墟に、数人の男女が訪れた。
ちびギコ、しぃ、ぃょぅ、びぶ郎、おにーにの五人だ。
彼らは、この廃墟に肝試しにやって来たのだ。とても軽い気持ちで。
この廃墟は、元は旅館だったらしい。
「さぁ、行きマチよ」
リーダー面したちびギコが、張り切りながら言った。
しかし、尻込みする者がいた。びぶ郎だった。
びぶ郎は、ここに入ることによるリスクをちびギコ達に伝えた。
ちびギコ達はびぶ郎を臆病者とバカにすると、さっさと旅館の方に歩いていった。

廃墟を囲む柵は高く、天を突き刺しているような威圧感さえある。
その柵を無理矢理よじ登るちびギコ達。
静かな廃墟に、まるで墓荒らしのような四人が、無粋に入り込む。
旅館は、人の手を離れてから長い年月がたっているらしく、
もはや人工物と言うより自然に近い存在と化していた。
暗い廃墟の中を安っぽい懐中電灯が照らす。
ふざけたおにーにが、しぃを驚かせた。しぃは大声で叫んだ。
と、そのとたんしぃは激しくせきこんだ。
「だ、大丈夫ワチョ?」
皆の白い目に耐えられず、一応しぃを気遣うおにーにだった。
 
 廃墟の壁は壊れていることが多く、そこからはホルムアルデヒド等の有害物質が放出されている。
 また、カビが生えている場合、腐海並に胞子が空気中に散っていることがある。
 廃墟内で叫ぶと、これら大量の有害な物を吸い込んでしまう危険性がある。

448 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/02/23(日) 22:08 [ zqMhU7D. ]
2/8
「ここは、釘が出てて危ないデチよ。ん? 灯りが変デチね。電池が減ってきたようデチ」
ちびギコは懐中電灯の電池を取り替え、古い電池を投げ捨てた。
ふと、捨てた電池が何かにぶつかりカツーンと音をたてた。
電池があたった物は、古びた消火器だった。
ぃょぅが目をキラキラとさせて言った。
「ぃょぅは消火器を使うのが、子供の頃からの夢だったんだょぅ!」
黄色い栓を引き抜き、消火器のレバーを引いた。
もの凄い音と共に、白い煙が吹き出された。ただし、消火器の底からだが。
ぃょぅの下顎に、消火器がぶつかった。皮膚が裂けたのはもちろん、肉は押しつぶされ、顎の骨は無惨にも粉砕した。
「し、死んでるんデチか? 怖いデチ!!」
皆は走って逃げ出した。走ることにより肺に吸い込まれる毒も気にならなかった。
せき込みながら、ぃょぅから離れた。が、ぃょぅは死んでいなかった。
下顎が砕けてもなんとかぃょぅは生きていた。その顔は某グロ画像モーターサイクルのようだった。
ボタボタと小さな肉片混じりの鮮血を滴り落としながら、泣きながらぃょぅは廃墟の中をさまよった。
仲間とはぐれ、懐中電灯を持っておらず、痛みで冷静な判断のできないぃょぅが、
危険なこの場所から生きて出られる可能性はとても低かった。

 廃墟にある消火器は、たいてい底が錆びている。
 レバーを引く衝撃で底が抜け、内容物が底から噴射される。
 消火器は、レバーを引いた者の顎に直撃することだろう。

449 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/02/23(日) 22:08 [ zqMhU7D. ]
3/8
ちびギコ達はドアから出ることすらもどかしく、窓からの脱出を試みた。
「ダメダヨ。コノマド、カタクテ アカナイヨ!!」
長年放置された窓は、しぃやちびギコのような非力な者には開けられなくなっていた。
おにーには、大きく割れた窓を発見した。
「この窓から外に出られるのワチョーイ」
我先にと、しぃがおにーにを押しのけて窓に駆け寄った。
「レディファーストダヨ!」
窓枠に手をかけ、割れている窓に体を滑り込ませる。
その時、しぃの背中が割れた窓ガラスに引っ掛かった。ガラスは、ちょうどノコギリの刃のようにとがっている。
しぃの背骨のあたりの肉は、とがったガラスに削ぎ落とされた。
血の飛沫が、ちびギコとおにーにの顔に飛び散った。
しぃは恐ろしい声をあげた。頭はすでに外に出ている。
なのに、背中が引っ掛かって外に出られないのだ。しぃは、安全な廃墟の外の世界を羨望の眼差しで見つめた。
「いつまでそこにいるつもりデチか? 
 お前より小さいちびタン達なら、その窓から外に出られマチ」
「デ、デモ セナカガ ツッカエテ コレイジョウ デラレナイノ!!」
「じゃあ、こうすればイイデチ。おにーにタンも手伝って欲しいデチ」
ちびギコとおにーにはしぃの足を掴み、外に押し出そうとした。
無理矢理押したせいで、しぃの体とガラスがこすれた。
血飛沫がちびギコの目に入り、おにーにの口にも入った。
しぃの叫び声はより一層激しさを増した。
その叫びが頂点に達したとき、しぃの体は窓から外へ転がり落ちた。頭から。
しかも、落下地点にはとがったガラス瓶の欠片があった。
しぃのカワイイ顔に、ガラス瓶はみごと貫通した。
狂ったように暴れるしぃの体。が、その動きもやがて止まった。
さすがにちびギコもおにーにも、そこから出る勇気はなかった。
窓には、しぃの血がこびり付いているし、窓の下には顔の潰れたしぃの死体があるのだから。

 ガラスの破片は鋭利な刃物となる。
 窓ガラスにも、ガラス瓶にも破片にはかなり注意したい。
 また、小さなガラスの欠片が血管に入り込み、重要な臓器に突き刺さることもある。

450 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/02/23(日) 22:09 [ zqMhU7D. ]
4/8
二人は、大急ぎで入り口のドアまで走った。
「最初から、ここから出ればよかったワチョ!」
「窓の方が、近かったデチから」
行きは開いた入り口のドアは、何故か開かなかった。
「あ、開かないワチョー!!」
「何で開かないんデチかぁっ!?」
泣きわめきながら、ドアを押す二人。渾身の力で押してもドアはビクともしない。
呼吸器に有害物質が入り、二人はせきをしながら崩れるように倒れ込んだ。
腹の底から湧き出る黒く冷たい恐怖に翻弄される二人。
彼らは、このドアを開ける術も壊す腕力もない無力な存在だった。
二人は、力無く立ち上がりやみくもに廃墟の中を歩き回った。
廃墟の中は暗く、まるで二人の心のようだった。
貧弱な懐中電灯の灯りだけが頼りだった。
ただ、違うのは二人の心には懐中電灯ほどの光すらないことだった。

 当たり前だがドアには、押すタイプと引くタイプ、時には回すタイプの物まである。
 このドアは、外側から押し、内側からは引くタイプのドアだった。
 ちなみに、廃墟のドアにはドアノブ等が壊れている物も多い。

451 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/02/23(日) 22:09 [ zqMhU7D. ]
5/8
二人は、無謀にも階段を登り、二階に上がっていった。
一階には、どこも脱出できそうな所がなかったためだ。
いや、本当は入り口のドアを引けば出られたのだが。
埃臭い廃墟の廊下をビクビクしながら歩いていた時だった。
何かが、二人の足下を素早く駆け抜けた。おそらくネズミか何かだろう。
「ヒィッ!?」
驚きと恐怖で、おにーには廊下の横にあった客室に飛び退いた。
客室のドアは開いており、おにーにの真横にあった。
急いでちびギコは、おにーにが入った客室をのぞき込んだ。が、おにーにの姿はなかった。
床にライトを当てると、踏み抜かれて一階まで抜け落ちていた。
ちびギコが恐る恐る下を見ると、崩れ落ちた床板や布団、ちゃぶ台や畳が散乱していた。
おにーにの泣き声が聞こえてくる。おにーには一命を取り留めたらしい。
おにーには泣きながら駆けだした。とにかく、走った。
ふいに何かにつまずいて体のバランスを崩した。
おにーには、転んでいる時、やけに時間の進み方が遅いと感じた。
視界の隅に倒れた消火器が見えた。
あれはぃょぅの下顎を砕いた物だ。
そしておにーには、自分が倒れるであろう辺りの床に目を移した。
おにーには、死を覚悟した。
床には釘が突き出ていた。
ちょうど、おにーにの頭が倒れる辺りに。
体感時間はとてもスローモーションで。
それでも自分の体と、床がぶつかる瞬間が刻々と近づいてきた。
グシャリ。
埃を巻き上げながら、おにーには倒れた。
頭には、廊下の木材から突き出た釘がめり込んでいる。
おにーにの足下には、彼をつまずかせた物が無邪気に転がっていた。
それは、ちびギコが捨てた懐中電灯の古い電池だった。

 廃墟の床は腐っていることもあり危険。
 廃墟の釘は、たいてい錆び付いていて、木材から突き出ていることもある。
 そして廃墟にゴミを捨てれば不法投棄になる。

452 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/02/23(日) 22:09 [ zqMhU7D. ]
6/8
ちびギコはパニックに陥り、自分を見つめている存在に気がつかなかった。
ちびギコは、いきなり背後から何者かに飛びかかられた。
それは野犬だった。
しかも、ゾヌのように話せば分かるような香具師ではない。
また、ビーグルのように小さな香具師でもなかった。
凶暴な飢えた野犬は、間近で見ると動物園の猛獣に負けないくらい恐ろしかった。
生暖かい野犬の息が、ちびギコの顔に吹きかかる。
生臭い野犬の唾液が、ちびギコの顔に垂れる。
仰向けに押さえ付けられたちびギコは、必死で野犬に話しかけた。
「ちびタンは見た目はカワイイけど、味は不味いんデチよ!!」
野犬は、ちびギコのうるさい口を塞いだ。
野犬の大きな口が、ちびギコの鼻と口をおおう。
ちびギコは苦しさで暴れまくったが、野犬の力にはかなわなかった。
窒息して動かなくなったちびギコの体を野犬は食べ始めた。
腹を噛みちぎり、柔らかな内臓を貪り食う。
野犬の食事は顔を赤く染めながら、ちびギコの腹に顔を突っ込んでの食事だった。
澱んだ空気の中で、内臓をまき散らされ、肉を噛み切られたちびギコの死体が放置されていた。

 廃墟には、まれに野犬が住み着いていることがある。
 素手で、野犬に対抗するのは難しい。
 余談だが、獲物を窒息死させてから喰うのは、動物番組でライオンがやっていた。

453 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/02/23(日) 22:10 [ zqMhU7D. ]
7/8
びぶ郎は、野犬に襲われる直前のちびギコの声を聞きいた。
ちびギコの声は二階から聞こえた。外にいたびぶ郎が旅館のドアに走っていった。
ドアを開けるびぶ郎。
廃墟の中は暗く、懐中電灯を持ってないびぶ郎がこの中に入るのは危険だ。
廃墟の周りを見回すと、二階へと続く螺旋階段があった。
この廃墟が、まだ繁盛していた旅館だった時に非常階段として使われていた物だろう。
塗装は剥げておらず、まだ階段として使えそうだ。
びぶ郎は、ちびギコの所に向かって走った。
金属製の階段を登っていく。
二階に着くまで、あと少しと言う時だった。階段が折れた。
びぶ郎の体は、壊れた階段と共に地面に叩き付けられた。
その死体は損傷が激しく、びぶ郎の面影は少しも残ってなかった。
うつ伏せに地面に叩き付けられ、顔や腹部がビシャリと潰れた。
後から落ちてきた壊れた階段がぶつかり、後頭部や背中を押しつぶした。
眼鏡は砕け散り、レンズの欠片がびぶ郎の死体をおおった。
レンズの欠片は光を反射し、びぶ郎の体をダイヤの輝きで包み込んだ。
体から吹き出す赤い血は、ルビーのきらめきを放っていた。

 廃墟で階段を登るときは、壊れやすいので注意が必要。
 特に、塗装がキレイでも、中の鉄が錆びている場合はとても危険。
 階段が折れ、高い所から落ちれば、苦しむことなく逝けるだろう。

454 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/02/23(日) 22:11 [ zqMhU7D. ]
8/8
数日後、この廃墟を訪れる者がいた。
ちびフサとちびしぃのカップルだった。
彼女にカッコイイところを見せようと、フサはエアガンを持っている。
「オバケが出たら、フサタンが退治してあげマチ」
二人は旅館に入った。
一階を歩いていると、かすかなうめき声が聞こえてきた。
「コワイワ……」
「フ、フサタンがついてマチ。大丈夫デチよ、ちびしぃちゃん」
うめき声が大きくなり、何者かが二人の前に現れた。
ライトに照らし出されたその顔は、下顎がなかった。
「……痛ぃょぅ。ぃょぅの顔、どうなっちゃたんだょぅ……?」
それは、ひん死の重傷を負いながらも、何とか生きていたぃょぅだった。
だが、フサとちびしぃの目には、ぃょぅの姿は化け物としか映らなかった。
助けを求めて腕を伸ばすぃょぅに、フサはご自慢のエアガンをぶっ放した。
エアガンの弾は、怪我をしたぃょぅを容赦無く襲った。
フサとちびしぃは、ぃょぅのスキをついて逃げ出した。
彼らが、逃げ出した後、
廃墟の中には、誰にも助けてもらえずに衰弱死したぃょぅの死体が横たわっていた。

被虐生物と言われる彼らだが、虐殺されなくとも死ぬことはよくある。
自分の愚かさで死ぬのと、虐殺されて死ぬのと、どっちが辛いのだろうか。

 完