ちびフサと井戸

Last-modified: 2021-08-20 (金) 16:42:52
780 名前: 匿名 投稿日: 2003/08/27(水) 10:46 [ vzH.JgrU ]
ちびフサは空を見上げていた
自分がいるこのほの暗い井戸と、青空があまりに不対称で美しかった
夏だというのに冷たい水はフサの体温を奪っていく、下半身はもう反応しない。
ああ、なんでこんなことに?フサはこれまでの経緯を頭の中で順番に巡らせた。
最初は興味本意だったんだ――


いつもの散歩道、太陽が容赦なくちびフサとちびギコにその日差しを向けている
フサの提案で二人は通ったこともない林道に入ることにした。
林道は太陽の日差しを遮っており、快適な温度に保たれていた
しばらく歩いていると、目の前にポッカリと口をあけた「井戸」が視界に入った
二匹の興味心はその井戸に注がれた、フサもちびギコも井戸というものを知っていたが実物はお目にしたことが無かった。
まっさきにフサがその井戸に飛びついた、ポッカリと開いた穴を覗くと暗闇に覆われており微かに底が見えるぐらいの深さだった。
「チビターン、ケッコウフカイデチヨ!」
フサに遅れをとったちびギコは急いで井戸に駆け寄りフサ同様、井戸を覗き込んだ。
「ホントデチネ!デモスコシコワイデチ・・」
そのちびギコの言葉に、フサはちびギコが怖がっていることが直感的にわかった。
フサの頭に名案が浮かんだ、フサはその名案を実行した。
「ワッ!!」
と声を上げ、ちびギコの背中を押した。ただのイタズラのつもりだったが、押された衝撃でちびギコの体は穴へと吸い込まれていった。

バシャーン――
水の音が井戸の中から響いた。
しまった、フサはちびギコの生死より、自らのことを心配した。
こんなことがバレたらフサはただでは済まない。
しかし不幸中の幸いだろうか、このことを知っているのは自分と、井戸の中で死んでいるのか生きているのかわからない、ちびギコだけ。
たぶんこの高さだから無事ではないだろう、安易な予想をたて、フサはその場を立ち去ろうとした
が、
「フサターン!!タスケクダチャイー!!」
予想は見事に外れた、フサは足を再び井戸に向けた
「フサターン、ココカラハヤクダシテクダチャイ!」
再度ちびギコは助けをこうた。
騒ぐな、騒ぐな。このままだとこの声を聞いて誰かがくるかもしれない。
フサはとっさに足元の石を拾い、井戸に投げ込んだ
ヒュ~、という音のあと鈍い音がし、「ヒギャ!!」という苦痛の声が耳にはいった。
一時おいて、ちびギコが叫んだ
「ナニヲスルンデチカ!?」
悲痛の疑問を投げかけ、フサを精一杯に睨みつけた。それを見たフサは口を開いた。
「ウルサイデチ・・・!コンナコトガバレタラ、フサタンノショウライニキズガツクデチ!」
だから・・・、と少しおき、冷たく言い放った
「シンデモラウデチ」
フサの言ったことが理解できなかったのだろうか、ちびギコは黙り続けている。
が、やっと理解できたのか、狂ったようにフサを罵倒した。「アクマ!!」「カイショウナシ!」「オニ!!」――・・
うるさい、そう呟いてフサはもう一度石を投げ込んだ
「ゴベェ!」
ちびギコの声が聞こえたのを確認すると、フサは石を再び手に取った。先ほどより大きな石だ。
そして、思いっきり井戸の中へ投げ入れた。
ちびギコは上からスローモーションで飛んでくる大きな石を見て、閉じかけていた目が一瞬見開いた。

781 名前: 匿名 投稿日: 2003/08/27(水) 11:36 [ vzH.JgrU ]
ゴン・・バシャーン。
何かに当たった音のあと続けて水に石が落ちる音がした
死んだ・・・、フサは確信した
(ヤッタデチ・・・、コレデバレルコトハナイデチ・・)
安堵の息をだし、帰路についた。

それから何度かちびギコの親に問い詰められたが、知らぬ存ぜんで通した。
ちびギコの親は警察にも連絡したが、しょせん行方不明になっているのはちびギコ。警察はろくに調べももしないまま捜査を打ち切った。

その日もちびギコの親が家に訪ねて来た、一通り話しを聞き丁重に送り返した。
(シツコイオヤデチ・・・)
ここのところ毎日フサの家にくるようになったちびギコの親に、フサは苛立っていた
気分直しに水道の水をコップにいれ、口にした。がその瞬間水ではない異様な味がしフサは水を吐き出した。
気持ち悪い、ぬめぬめしい感じが口の中い広がっている。フサはふと、コップに含まれた水を見て驚いた
コップの中にはいっている水の中にはいくつもの「白い毛」が泳いでいる。
たまらなくなった嘔吐した。
コップを投げ捨て、フサは洗面所に走り、何度も何度も口を洗いおとした
何度か洗っているうちに後ろに気配がした、ただらなぬ気配を。
そっ~っと顔を上げ鏡を見た、その時フサは息を飲んだ。
この世にいるはずのない懐かしい顔が映っていた。フサが呆然と鏡を見ていると、鏡に映った血まみれの「ちびギコ」はいやらしく笑った
「ヒィィィィ!!」
声になってない悲鳴をあげ、フサは家から飛び出した。
無我夢中で走っているといつのまにかあの林道にはいっていた
昼でさえ暗いのに夜になるとさらに暗かった。
必死に走っていると、視界に見たことがあるものが見えた
(イド・・・!)
井戸の前でフサの足は自然に止まった。
足が勝手に井戸へと近づいていく、そして井戸の手前で再びとまった
見たくも無いのに、目がポッカリと口をあけた穴に行ってしまう、とその時妙な音が井戸から響いた。
ズリッ・・、ズリッ・・
フサの目は井戸の穴に釘付けになった
ズリッ・・、ズリッ・・・
何かが這い上がってくる・・・!?
どんどん音が近づいてくるにつれて、フサの心拍数はあがっていく。耐えれなくなったフサは叫んだ。
「ゴメンデチ!!コロスツモリナンカナカッタンデチ!!ユルシテクダチャイ!!」
途端、音は消えた。
助かった、フサはその場に座り込んだ。
しばらく呆然と座り込んでいると、フサの頭に大きな振動と激痛が伝わった
激痛に囚われながらも後ろを振り向くと、棒を持ったちびギコの親が立っていた。
震えながら、ちびギコの母は棒を振り上げた
「アンタガ・・」
振り下ろされてきた棒がフサの肩に当たった
「ヒギャア!!」
再度、棒を振り上げた
「チビチャンヲ、コロシタノネ!!」
今度は顔に直撃した
「イ、イタイデチィ!!ヤメテクダチャイ!!」
ちびギコの母は、かつて自分がちびギコに向けたような冷たい瞳で言い放った
「アンタモチビチャントオナジキモチヲアジワイナサイ!!」
足を掴まれ、そのまま井戸の中に放り込まれた、フサが落ちていくサマはまるで紙切れのようだった。

782 名前: 匿名 投稿日: 2003/08/27(水) 11:43 [ vzH.JgrU ]
――そして今にいたる。
あの水道の白い毛や、鏡に映ったちびギコ、あれが本物だったかわからない。
もしかしたらちびギコの母が真相を知るためにやったことかもしれない。
今でもそれはわからない。

ただ・・・
ただわかることは井戸の中にいる自分の足はしっかりと握っている者が誰かということだ。

今日も空は青い

完