ちりも積もれば・・・

Last-modified: 2015-07-08 (水) 04:03:23
875 名前:讃州 投稿日:2006/10/14(土) 22:12:51 [ Ou5rr7xQ ]
「ちりも積もれば・・・」

「た、助け、ひっ」
喉仏を抉られた老人の口から最後の声が漏れた。
そのあと、老人は緩やかな死にのまれていった。痛みと絶望の中で。
「いよーし、大漁大漁♪」
歓喜の声をあげた男が先ほど死に絶えた老人の首を袋に詰めながら続ける
「うーん・・・今日はこの辺にしとくかな。袋ももうパンパンだし。」
男が言ったとおり、袋はやたらぼこぼこした外見で袋の口を縛るのもやっとというような状態だった。
「おっと、そうだ。さっきの人の冥福を祈らなきゃ。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…」
首がない肉の塊に手をすり合わせながら男が目を閉じる。
「さて、帰ろ帰ろ。」
男が鼻歌を歌いながら帰路に着く。
「ええーい、あんにゃろう。のんきに鼻歌なんか歌いやがってー」
袋を持った男の後ろに若い男が立っている、が、足がない。
「まったくだわ!呪い殺してやりたいくらい!」
今度は若い女の声がする。これまた足がない。さらに右腕もなかった。
「ふむ…ここは我々の力をひとつ、見せ付けてやるべきですかな?」
かなり年老いた声がした。顔に白いひげを生やした老人。下半身がない。
次々と耳がなかったり、腕がなかったり、足がない者達が男の後ろに集まって雑談を交わす。
だが男はそんなこと、一切わかっていなかった。
男が家に入った。続いて後ろに居た者達もぞろぞろと入ってきた。
男が家の床を開けて、地下室へと向かった。後ろからついてきた者達も一緒に行く。
その部屋は土臭くはなかった。その代わり血の臭いがした。おまけと言わんばかりに腐臭もした。
部屋の片隅に、男が持っている袋に似たものがどっさりと積まれていた。
積み忘れたのか、落ちてきたのかは知らないが、床に転がっている袋の口からは白骨化した"何か"が見えていた。
「よーし、新鮮な内に獲れたての食材を調理するかな。」
男はそう言うと、袋を持って地下室に備え付けられてる台所へと向かった。
鼻歌交じりにぐちゅぐちという不快感が一気に襲い掛かってくるような音がした。
「うげ!俺の目玉抉られてる・・・」
男の調理風景を見ていた一人の若い男が渋い顔をした。
「ひっ!私の歯を一本一本抜いてる!なんか歯が痛くなってきたわ・・・」
男は若い男の目を抉ったあと、ペンチで若い女の歯を丁寧に、丁寧に、抜いていた。
男は上機嫌で調理を終えたあと、二つの生首を鍋に入れた。
さらにその上から刳り抜いた目玉を入れて、鮮血を入れ蓋をして、火をつけた。火力は強。
「・・・あんなので煮えるのかよ?」
若い男が初老の男に問う。
「さぁ・・・分かりませんな。」
返事はそっけないものだった。

876 名前:讃州 投稿日:2006/10/14(土) 22:13:27 [ Ou5rr7xQ ]
鍋がゴトゴトと音を立てている間、男は上へ行ってしまった。
地下に残された足がない者たちは
どうやってあいつに『仕返し』するか。
ということを話し合っていた。
「私達は幽霊。だから数々のお話にあるとおり、呪い殺してやりましょうよ。」
妙齢の女性がそう提案した。皆それに賛成した。
足がない者たちは、いつしか部屋が一杯になるほど集まっていた。
そのどれもが男に恨みを持つ者たちであった。
理不尽に殺されたことに対して。
ぎぃぃぃぃ
と、木のきしむ音がした。男が帰ってきたのだ。
「もういい頃合かな?いつもべビばっかだから今回はちょっと冒険。」
男が生首が二つ入った鍋の蓋を開ける。
いい匂い、は当然の事ながらしなかった。
だが男はそれでも包丁で切り分け、刺し、口に運ぶ。
「やっぱべビほど柔らかくもないし味もそんな大差ないなぁ。今回の冒険は失敗だな。」
そういうと男は地下室のゴミ箱へと鍋をひっくり返した。
ボドボドという音を立てながら暗い土の中へ食べかけの首が落ちていく。
『ナゼ、コロシタ』
良く、テレビで聞くようなこもった感じの声がした。
「へ?誰だ?」
『イタカッタ。アレハ、ホントウニイタカッタ。』
「幽霊か?は…はは…まさかね。」
『キサマニモ、オナジイタミ、アジアワセテヤル…』
「おいおい・・・冗談だろ?悪ふざけはよして出てきなよ・・・」
『アハハハハハ。アハハハハハ・・・』
やけに高い女の子の声が部屋中に響く。
「やめろ!やめろやめろやめろ!!」
『ハッハハハハハハ・・・ハッハハハハハハハ・・・』
好青年という感じの笑い声も響きだす。
まるでソプラノとテノールの合唱のように。
「畜生!でてきやがれ!ぶっ殺してやる!」
『コロス?ソレハ・・・』
『ワタシタチノ』
『セリフダ!』
若い男、若い女、初老の男性特有のしわがれた声。
その三つの声が男に浴びせられる。
「ッ!いてえ!何処に居やがる!でてこい!」
男の腕に浅く、横に伸びた傷がついた。
『イタイカ?イタイカ?オレノイタミハソノヒジャナイゾ・・・』
若い男の声が楽しそうに男に語りかけた。
「ちっ!なんだってんだよ!この家はよお!」
男が懐から銃を出し、引き金に指をかけた。
ブチッ
地下室全体にその音が行き渡った。引き金にかかっていた指が床に落ちた。
「っ!いてえ!いてえぞちくしょう!!」
『イイコエネ・・・モットキカセテチョウダイ!』
若い女の声と共に男の耳が宙を舞った。
「うぎゃああああ!」
『サテ・・・ワシハドコヲトルカナ・・・』
男はいま、今日殺した初老の男性を思い出していた。あいつの声に似ていると。
『フム・・・ココニシヨウ。』
男の左手首から先が無くなった。男の足元の血だまりが少し、大きくなった。
次々と男の体のパーツはもがれ、ついには虐待の象徴ともいえる「ダルマ」の状態になっていた。
男の目にはもう何も映らなかった。男は動けもしなかった。
ただただ、霊の声が聞こえてくるだけだった。
「あ、あぁ・・・死にたく・・・な・い…」
なんとか出せる、といった感じの声で見えないものに訴えかけていた。
『アァ・・・ワタシタチハコレデジョウブツデキル。アナタヲコロシテネ。』
「な・・・んで・・・おれが・・・」
『ジゴウジトク、ヨ。バイバイ。』
男に唯一残された首が、飛んだ。
ゴトンという音が部屋に響いたきり、もう音はしなかった。

877 名前:讃州 投稿日:2006/10/14(土) 22:14:52 [ Ou5rr7xQ ]
恨みを買うようなまねを決してしてはいけない。
自分は覚えてなくとも相手は鮮明に覚えているものだ。
さもなくば、この男のように・・・