オニーニの有効活用

Last-modified: 2015-07-08 (水) 04:09:10
772 名前:716改めThat'Z 投稿日:2006/06/07(水) 20:25:25 [ /2kdbNG6 ]
1/10
オニーニの有効活用

「だから・・・なのじゃ」「うんうん」
玄関先で、満面の笑みの妹者とその友人、高校のクラスメイトのガナーが、なにやら話をしている。
話題の中心は、ついさっき届いたばかりのノートパソコンのことで、ほとんど休み無しにバイトをし、
4ヶ月かけて貯めたお金で、やっとの思いで買った物だった。
ガナーも、妹者が嬉しそうな顔をしているのを見ると、自分のことの様に嬉しい気分になった。
「じゃあ帰りに見せてよ」
「分かったのじゃ、ガナーも頑張るのじゃ」
「じゃーねー」
お互いもう少し落ち着いて話をしていたかったが、ガナーは塾があり、妹者は妹者で、さっき設定を終えたばかりの、
自分だけのパソコンを、一刻も早く使いたかった。
一家のうち、兄者と弟者は2階の6畳間に押し込められており、2階のもう一つの部屋は父者の書斎、
1階には母者と父者の寝室、そして妹者も1人部屋を確保していた。
今までパソコンは、兄・弟者と父者が居る2階にしかなかったため、インターネットを使うには、
2階まで上がる必要があった。
(無線LANが使えるし、これからは部屋でネットがし放題なのじゃ)
いそいそと部屋に向かっていくその顔は、4ヶ月分の笑みが浮かんでいる。

しかし浮かべていた喜びの表情は、部屋に着いた途端、怒りと、憎しみと、悲しみに変わることになった。

773 名前:That'Z 投稿日:2006/06/07(水) 20:27:29 [ /2kdbNG6 ]
2/10
時間は、妹者がガナーを出迎えた直後まで遡る。

「ワチョ! ニータン アソコニ イイ ステージガ アルワチョ!」
「ホントワチョ! マルデ ボクタチノ タメニ ツクラレタ ミタイワチョ」
「ワッチィ、ワッチィ♪」
庭を通り抜けようとしていたオニーニの一家が、妹者の部屋を見て言ったが、舞台となる物など見あたらない。
しかし彼らには確かに”ステージ”は見えており、その小さな目をキラキラと輝かせて、妹者の机を見つめている。
いや、正しくは机に置かれた、真新しいノートパソコンを、だ。

「アレハ カミサマガ ボクタチニ アタエテクレタ ステージニ チガイナイワチョ」
ニータンがしみじみと言うと、オトートとワッチィも同意するように頷いたが、ぐるりと辺りを観察したオトートが、
残念そうな声を上げる。
「デモ ニータン ココニハ アミガ ハッテアッテ ハイレナイワチョ」
妹者の部屋には冷房が無いため、ガラス戸を開け、網戸にして涼を得ていた。
ただいつもと違い、カーテンが閉じられていなかったので、オニーニ達に中を覗かれることになったのだった。
「ワッチィィー、、、」
ワッチィも、ステージを目の前にして、そこまで辿り着くことが出来ないのを知ると、残念そうに鳴いた。
しかしニータンは諦めた様子など無く、誰に向けたものなのか、勝ち誇ったような表情を見せる。
「アキラメルノハ ハヤイワチョ ニータンガ コレノ アケカタヲ シッテルワチョ アンシンスルワチョ」
「ワチョ!」「ワッチィ!」
ニータンの言葉を聞いたオトートとワッチィは、歓喜の声を上げた。
「デハ イクワチョ」
”カラカラカラ”と音を立てて、立て付けのよい網戸はスライドして開いた、ただスライドさせただけだ。
「サスガハ ニータンワチョ」「ワッチィ ワッチィ」
足や体に付いた汚れなど払わず喜び勇んで、3匹は妹者の部屋に上がり込み、協力し合いながら机に登頂した。
「フゥ ヤット タドリツケタワチョ」
ワッチィの足場となるため、最後に引き上げられたオトートは、特に何もしていないにもかかわらず、
達成感で胸をいっぱいにして言った。
パソコンの電源は既に入っており、初期設定を終えたデスクトップには、デフォルト設定の華やかな背景が映っている。
オニーニ達以外の者にとっては、なんの変哲もないデスクトップ画面だった。
しかしパソコンを真正面から見たニータンは、感嘆の声を漏らす。
「ウーン サイコーワチョ!!」

774 名前:That'Z 投稿日:2006/06/07(水) 20:32:36 [ /2kdbNG6 ]
3/11
「オトート ワッチィ ミルワチョ ハイケイト ショウメイガ アルワチョ スバラシイワチョイ」
「デモ ニータン ナニカ ユカガ ヘンワチョ」
ご満悦といった表情のニータンに、オトートがキーボードをベタベタと汚しながら言った。
「ホントワチョ ボロイ ユカワチョ デモ コレグライ キニシナイワチョ」
妹者すら、まだほとんど触れていないキーボードを、ニータンが土足で走り回る。
そして、ほとんど全てのキーに泥や砂の汚れを付けた後、ニータンはワッチィに向かって言った。
「ジャア マズ ワッチィカラ オドルワチョ」
「ワチ?」
ワッチィが意外そうな顔をして首をかしげると、更にニータンは続けた。
「セッカクノ ステージワチョ コウセイニ スバラシイ オドリヲ ノコセルヨウ ワッチィハ ココデ オドリゾメワチョ」
「ワッチィ♪ワッチィ♪」
意味不明な理由に、理解不能な喜びよう、オニーニ族以外は混乱するしかないようなやりとりだ。
早速1匹で、ステージに上がったワッチィは、今までオニーニに習った成果を見せるように、一生懸命に踊る。
「ワッチ ワッチィ ワッチッチッ♪ ワッチ ワッチィ ワチッワチッワチィィィ♪」
「ワッチィモ コンナニ ジョウズニ ナッテタワチョ ボクモ ウカウカ チテラレナイワチョ」
ワッチィの踊りが一段落すると、オトートは嬉しそうに感想をもらす、しかし、
”パキッ・・・”
短く、何かが割れるような音がし、オニーニ達がワッチィの背後を見ると”背景と照明”にヒビが入っている。
ワッチィがパソコンの上で踊ったため、衝撃が伝わり続け、液晶やバックライトを破壊したのだった。
すでにキーボードは汚れただけでは済んでおらず、割れたり外れたりで、ガタガタになってしまっていた。
「ワチィィィ…」
『せっかくのステージだったのに』、ニータン達が踊る前に、壊してしまったのを悔いるように、
ワッチィはその場で踊りを止め、うつむいていた。
そんなワッチィを見たオトートは、
「ワッチィノ セイジャ ナイワチョ コノステージガ ボロカッタノガ イケナカッタワチョ」
とワッチィをフォローする意図でか、勝手なことを言った。
「ソウワチョ ブタイソウチ ナンカ ナクテモ オドレルワチョ サア ツヅキヲ?」
何かに気づいたように、3匹の動きが一斉に止まった。


「!?!?き、きゃあぁぁーーーーー!!兄者ーーー!!キモゴミが居るのじゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
妹者がドアを開け、目に飛び込んできたもの、それは変わり果てたパソコンの姿と、動きを止めたオニーニ達だった。
「なんだなんだ?どうした妹者?!」
たまたま仕事が早く上がって帰宅し、自室で寝っ転がっていた兄者は、妹者の悲鳴に驚き、飛び起きて、
一目散に妹者の部屋に駆けつけた。
普段ならば立ち入ることはおろか、見ることすらも拒まれるのであるが、このような事態にあっては例外であった。
部屋に着くと、妹者は無言でオニーニ達を指をさす、兄者はそちらへ目を向けた。
(なんで家の中に糞ニギリが居るんだ?)
兄者はオニーニ達を見て冷静に考え、ちらり外へ目を向ける。
カーテンも施錠もせず、半ばまで開いた網戸を見て、侵入された見当はある程度ついた。
「せめてカーテンだけでも閉めなければイカンぞ、妹者よ、不注意で、、、ん?」
兄者はそう言って妹者を叱責したが、改めてオニーニ達がいる机の上、特にワッシィが、
べったりと腰を下ろしているノートパソコンを見て、言葉を失う。
「せっかくのパソコンが、、、兄者達とお揃いのパソコンが、、、」
兄者が沈黙するのと入れ替わるように、悲鳴を上げた後、ほとんど言葉を発していなかった妹者が、
ぽつりぽつりと呟き始めた。

775 名前:That'Z 投稿日:2006/06/07(水) 20:34:42 [ /2kdbNG6 ]
4/11
キモゴミが部屋に勝手に上がり込んだ。
新品のパソコンが、まだ使ってもいないパソコンが、汚いキモゴミに壊された。
もう電源も入らない、さっきまで動いていたパソコン。
まだネットにもつないでいない、まだメールもチャットもしていないパソコンが。
キモゴミに壊された。

誰にも聞き取れないぐらいの声で呟いていたが、そんな雰囲気に嫌気がさしたのか、
ワッチィが意味もなく、ただ小さく声を上げる。
「ワッチィィィ…」
「なにが『ワッチィー』なのじゃ、、、」
パソコンを壊した張本人と思われるワッチィの、悪びれた様子のない態度に、妹者は静かに怒り、
机の前まで行くと、有名なホラー映画のクライマックスシーンの様に、眼だけをギョロリと下へ向ける。
「こんの、、、キモゴミ!!!」
瞬時に、感情が沸騰する。
そして、いつもなら決して触ることのない、汚物の塊と見ている物体に手をあげた。
”バッチィーーーーーン!!!”
腰を下ろしたワッチィを、真っ正面からひっぱたくと、ワッチィは既に割れている液晶に叩きつけられた。
「ワ、ワジィィィィ」
液晶からズリ落ち、キーボードの上に、顔から倒れ込んだワッチィを見て、オトートが抗議の声を上げる。
「アーン ワッチィガー ナニスルワチョ ヒドイワチョ ワッチィガ ナニヲ チタワチョ」
自分達が何をしたのか理解してないらしく、完全に被害者の立場でものを語る。
しかし妹者の怒りは、それを遙かに上回っており、ワッチィにとどめを刺す。
「私のパソコン・・・さらばなのじゃ!えいやぁ!!」
ついさっきまで快調に動いていたノートパソコンに、短く別れを告げると、目一杯力を入れてそれを閉じた。
”バッターーーーーン!” ”グ チ ャ ァ ッ”
とてもパソコンから発せられるとも思えない、激しく叩きつける音が、ノートパソコンから響いた。
ワッチィが潰れたとおぼしき音も、同時に。

776 名前:That'Z 投稿日:2006/06/07(水) 20:35:45 [ /2kdbNG6 ]
5/11
「ワッチィガー オナガイワチョ オヘンジ シテワチョー」
「アーン アーン ワッチィガー ダレカ タチケテワチョー」
ニータンは慌てて駆け寄ると、閉じられたノートパソコンを開けるべく、腕に力を入れる。
傍らのオトートも一緒に駆けつけるが、腕も脚もまだ生えていないため、ただ泣くことしかできなかった。
閉じた拍子にヒンジが破損したらしく、ノートパソコンはなかなか開かない、それでもニータンは、
必死の形相で僅かに隙間を作り、何とか中を覗けるまで開く。
「ワ、ワヂィィ ワヂワヂ」
奥にいるのが僅かに見えるが、顔ははんごろしになっており、体に至っては米粒ひとつひとつが潰されていた。
「ニータン! ボクガ イッテ ヒッパリダス ワチョイ」
さっきまで泣いていたオトートは勇敢にもこう言って見せたが、オトートがアクションを起こす前に、
”バ ッ チ ン ! !”
と、開きかけたノートパソコンが、妹者の手により、再度閉じられた。
「ワヂィギュウゥウウ… ギ・ギギギ・ギヂィィ」
パソコンからはワッチィの呻き声がするが、妹者はまだ手をゆるめない。
”キイッ バッタン!” 「ワギュゥゥ」 ”ギギィ ギッタン” 「ワッギュイィィイィ…」 ”ギ・ギギ ガッギギ・・・ガチッ” 「ギュワギヂィィ」
何度も開閉を続けるうち、パソコンは破壊されてゆく、比例するようにワッチィの体も、そして、
”ギッギギギギギ ギィッ・・・ガッギイィ バチン!!!”
「ヷヷギュグヂヂィィィ、、、ギグギギヂィ…ギヂッ!」
パソコンとワッチィの断末魔の声が、その場にいた者の耳に届き、ワッチィは完全に息絶えた。
「ア アア ワッチィガ ワッチィガ ノシワッヂィニ ナッタワチョーイ!!!」
ニータンとオトートは2匹揃って嘆き、パソコンの前で何度もワッチィのことを呼んでいるが、無論返答は無い。
その代わりに、感情にまかせて行動していた妹者が、ふと我に返って叫ぶ。
「!!しまった、やってしまったのじゃ!」
そして、くるりと後ろを向くと、見守るように立っていた兄者に、救いを求めるような視線を投げかけ言った。
「兄者ぁ~、やってしまったのじゃ~」
妹者は顔をくしゃくしゃにしているが、泣き出すというよりは、苦々しいといった表情をしている。
何を考えているのか察した兄者は、
「大丈夫だ、妹者よ」
とだけ答えた。

オニーニワッチョイはその騒音と衛生上の問題から、法律で害獣として指定され、駆除が推奨されているが、
一般人はあまり積極的に駆除しようとはしない。
なぜなのか?
理由は2つあり、ひとつは屠った際に発する、炊きたての米の数十倍はあると言われる硫黄臭、もうひとつは、
そのにおいを抑えるために、適切な処分が求められ、義務づけられていることだ。
不用意に殺せば、凄まじい臭気を発し、自分の家はもとよりご近所迷惑になり、かといって適当な場所に捨てれば、
不法投棄として処罰される。
専用のボックスを用意し、死体をその中に納め、指定された日にゴミ収集所に出す必要がある。
ボックスは高価であり、自治体で貸し出しはしているものの、数には限りがあった。
ストレス発散代わりに虐殺し放置する者が、周りから厨房扱いされるのは、こういった理由も絡んできている。
しかしワッチィや、這ってしか動けない程度のベビは、この匂いを発しないため、管理された農場で食用として、
養殖されたりもしており、かろうじて利となる部分が、あるにはある。
ただしそれも、野生の物に関しては、匂いを発しないだけで、食中毒の可能性も否めないわけであるが。

777 名前:That'Z 投稿日:2006/06/07(水) 20:39:55 [ /2kdbNG6 ]
6/11
「───らしいので、ワッチィはすぐには臭くならないそうだ」
大丈夫という答えを聞いただけでは、怪訝そうな顔をしていた妹者も、説明を聞いて安心した様子で、
ほっと、息を吐き出した。
しかし、その説明に対して、今度はオニーニ達が激昂して反論する。
「ガイジュウッテ ナンワチョ!! オトートモ ボクモ カワイクテ キタナク ナイワチョ!!」
「ソウワチョ コンナニ カワイイ ボクタチガ クサイナンテ ギャクサツチュウノ イウコトワチョイ」(ガイジュウッテ ナンワチョ?)
根拠も客観的な判断も無いが、とにかく汚くて臭いと言うことを、認める気は無いようであった。
が、実際には生きている状態でも、普通の動物から発する『獣臭い』というのとは全く別種の、
人間を非常に不快にさせる匂いを放っているのだが。
当然、そんな信用度-100%の抗議は兄者も無視して、妹者をたしなめる。
「妹者よ、気は済まないとは思うが、これ以上はまずいので、任せてくれないか?」
妹者も、無闇なことをやって、家族に迷惑がかかってはいけないと気付き、頷く。
もともと、そのために兄者を呼んだのだから、当然の帰結ではあるが。

「じゃあ、ガムテープと、そうだな、、、前に野良ゾヌを捕まえるのに使った籠があったろう?あれを持って来てくれ」
兄者は妹者に指示を出すと、素早い動きで、オニーニ達の首根っこを掴む。
兄者に捕まえられたオニーニ達は、喚き散らしながらじたばたと抵抗するが、兄者の手は弛まない。
そうこうしている内に、妹者が戻ってくる。
「うえぇ、兄者、よくもキモゴミなんぞににさわれるのじゃ」
オニーニ達を、素手で持っている兄者を見て、妹者は顔をしかめるが、兄者は平然として答える。
「このぐらい出来ないことには、俺の仕事は勤まらないからな」
騒音を起こさないように、”ワチョワチョ”とうるさい口をガムテープで塞ぎ、手足のあるニータンに関しては、
その手足を縛って、ドタバタ踊ったりしないように拘束した。
「モガー! モガガー!!」
塞がれた口で何かを必死に訴えるが、何を言っているのか分からず、声もほとんど漏れていない。
ワチョワチョ言っているのには違いないだろう、ともかく処置はうまくいったようだった。
そして、そのまま部屋の外に出ると、廊下に置いてある鉄製のケージに、2匹を押し込めた。
「で、兄者、次のキモゴミの回収日は3日後な訳なのだが、どうするのだ?」
捕まえたはいいが、いい加減な処分をすれば、結局ご近所迷惑になる、妹者はそれを心配した。
実のところ、兄者もこれからどうすべきかは、考えていなかった。
「・・・とりあえず部屋に持って行く」

中型ゾヌが入るほどの、結構な大きさのケージ持って兄者が2階に上がっていくのを、妹者は見送ると、
パソコンのことを思い出して、うつむきながら部屋に戻った。
「はあ、私のノートパソコン、あぁ忘れてたのだ」
ノートパソコンが壊れただけではない、もう一つ厄介なことがあったのを忘れていた。
”ギギギ”と嫌な音を立てて、パソコンが開くと、そこにはキーボードと液晶全面に広がったワッチィが、
無惨な骸(?)を晒していた。
確かに育ったオニーニに比べれば、匂いは皆無だが、元から汚いという先入観があるだけに、
生理的な嫌悪感が背筋を上っていく。
「う、うぅぅぅ、兄者ぁ~、こっちの潰れたのもお願いするのじゃ~」

778 名前:That'Z 投稿日:2006/06/07(水) 20:41:03 [ /2kdbNG6 ]
7/11
「た~だいまっと、、、兄者?なんだその糞ニギリは?」
弟者が帰宅し、いつも通りに部屋に入ると、開け放たれたベランダには、ケージに入ったオニーニ達。
見ていて気持ちのいいものではなく、つい後ずさる。
「ああ、ちょっとな」
兄者は別段何でもない、という風に答えるが、弟者は別の異変にも気づいて言った。
「兄者、ノートはどうした」
いつもならば兄者の机の上に、デスクトップパソコンの様に固定されている、兄者の愛機のノートパソコンが無くなっていた。
兄者はこれにも短く答える。
「妹者が買ったノートがこいつらに壊されてな、代わりを買うまで貸した」
「それは、災難だったな」
妹者が一生懸命バイトをしていたのを知っている弟者は、気の毒そうに言った。
それならばと、すかさず兄者は言う。
「と、言うわけなので、カンパしてくれ」
「俺の給料日は3週間後だぞ?兄者」
「安心しろ、俺も変わらん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やりとりの後、しばしの沈黙が訪れたが、オトートが踊り出したことで、それは破られた。
「それにしてもどうするんだ?あれは」
ケージのオニーニ達と、2重3重に縛ったポリ袋に入れられた、平べったく潰れた米の塊を見やって、
弟者も、妹者と同じように不安になって言った。
「家に置いておいたら、どのみちご近所迷惑だ、明日職場に持って行く」
「それが賢明だな」
一応の処置は決まったが、まだゴミの日まで3日ある、それまでに死んだら面倒だった。
(ポリ袋に入れたぐらいで凌げない匂いって、、、どういうつくりをしてるんだ?こいつらは)

779 名前:That'Z 投稿日:2006/06/07(水) 20:41:59 [ /2kdbNG6 ]
8/11
翌日、兄者は弟者に宣言したとおり、勤め先の陸軍の駐屯地まで、ケージを持って来ていた。
「と言うわけで、持って来ました、これ」
「・・・持って来てどうすんだゴルァ」
簡単な説明をして、上官のギコ中尉に見せる。
愛車のRV車のルーフキャリーに、ケージを裸のままくくりつけていたため、オニーニ達は風圧による疲労で、
大人しく、いや、痛めつけられて静かになっている。
しかし、駐屯地のゲートを通るときには、さすがに立哨や警衛所からの、奇異な物を見る視線が痛かった。
「処理ボックスって無かったでしたっけ?」
以前使った記憶があったので言ってみたが、ギコ大尉は答えられない、そもそもこの駐屯地には、
ギコのほうが後に赴任してきている。
「それは隣の中隊が持ってるわっしょい、うちにはないわっしょい」
助け船を出すように、話を聞いていたオニギリ上等兵曹が言った。
「しかし、フーン軍曹の妹さんも災難だったわっしょい」
「オニギリ上曹、どうもありがとうございます、なら出来ればカンパを───」
「今日はあっちから、人が来るはずわっしょい、持ってくるよう調整するわっしょい」
オニギリの言葉に間髪入れず、カンパを求めようとしたが、そこはオニギリがかわした。
「ああ、そういえば1人上等兵を参加させてくれって言ってましたね、オニギリさん、調整お願いできます?」
ギコがオニギリに言うと、
「了解です、フーン軍曹、潰れたのも含めて、とりあえず3匹入れられればいいわっしょい?」
オニギリは承諾して答えつつ、兄者に向き直って尋ねた。
「ええ、お願いします」
カンパは諦め、兄者は素直に短く答えた。

ここ1週間辺りは、定数弾薬の残弾処理を兼ねた、射撃訓練が計画されており、兄者もそれに参加している。
トラックに必要資材を積み込んで、そろそろ出発という段になって、件のボックスを持った上等兵が、いや、
大きなボックスが、ひとりでにユラユラと動いているように見える。
近くまで来ると、ようやく担いでいた上等兵の姿が見えた、オニーニよりやや上背のある、スパルタンだった。
オニギリ同様、オニーニに近い姿をしているが、両者ともオニギリ類というだけで、オニーニ族とはかけ離れたものだった。
「コチラデ ヨロシイデスカ?」
スパルタン上等兵が言うと、兄者が答えた、
「ありがとう、あっちの隊舎の階段の下に頼む」
4階建ての隊舎を指さしながら言う兄者の指示を聞きつつ、チラリとケージを見たスパルタンの表情が曇る。
「やはり、気分のいいものではないかな?」
あえて、兄者はスパルタンに尋ねるが、返ってきた答えは意外なものだった。
「アチョ オニギリルイノ ツラヨゴシデス デキレバ コノテデ コロシタイデス」
「・・・オニギリ上曹は?」
兄者は少し驚きながら、オニギリにも聞くと、オニギリは、
「そこまで憎いわけじゃないわっしょい、でもゴミを見ていていい気はしないわっしょい」
ニコニコとした表情を崩さず、答えた。
3人の会話を聞いていたギコが、そこに割り込み、兄者が予想だにしなかったことを言う。
「じゃあ、射場に持って行くか?」

780 名前:That'Z 投稿日:2006/06/07(水) 20:44:14 [ /2kdbNG6 ]
9/11
訓練参加者全員の総意で、オニーニ達はケージごと、射場に運ばれることになった。
無論、専用ボックスも忘れてはいない。
ケージに入れられ、トラックの荷台で他の面子と一緒に揺られているニータンは、オトートを見ながら、
考えを巡らせていた。
(オトートノ テガ ハエレバ ココカラ ニゲダセルカモ シレナイワチョ)
そんなにタイミングよく、手足が生えるわけがないのだが、ニータンの希望的観測や、楽観の度合いは、
常識では考えられないものがある。
(ソウスレバ マタ イッショニ オドレルワチョ コドモモ フヤシテ ソレカラ ソレカラ…)
幸せな未来を、勝手に想像しながら、目をキョロキョロさせていたが、ふとスパルタンと目が合う。
スパルタンが、眼に力を込めて睨むと、オニーニはとっさに目を背けた。
(ニータン ドーチタワチョ、、、ギャ ギャクサツチュウ ワチョイ)
踊ろうとモゾモゾしていたオトートも、スパルタンの視線に射竦められ、大人しくなった。
「スパルタンジョウトウヘイ ドウシタ?」
スパルタンの横に座っていたジエン上等兵が、何か妙な雰囲気を感じ、スパルタンに言ったが、
「ダイジョブアチョ トクニ イジョウハ ナイアチョ」
スパルタンは、そう答えただけだった。


今回の訓練に参加するのは、総員で10名、
指揮官兼射場士官のギコ中尉、安全下士官の八頭身伍長、監的手のジエン上等兵、警戒員のぃょぅ伍長、
射手に基幹隊員のオニギリ上等兵曹、モナー軍曹、モララー軍曹、フーン軍曹(兄者)、アヒャ伍長、
そして特別参加のスパルタン上等兵、以上のような内訳になっていた。

「道中臭くてたまらなかったモナ」、「まったくだからな」、「檻のぅぇにぃたら、ιりが臭くなったぃょぅ」
室内射場の中に入り、同乗者が口々に不満を言うのを見て、兄者も申し訳なさそうに頭をかく。
「まぁまぁ、俺が決定して指示を出したんだ、悪かったぞゴルァ」
しかし文句を言っていた者も、結局賛成して連れてきていたので、本気で言っていたわけではなく、
むしろ滅多に無い機会を、楽しみにしていた。
「じゃあルールは、200mに置いて、1的(てき)から一発ずつ撃っていくって事でFAわっしょい?」
オニギリの提案に、異議無しの意味で全員がうなずき、それを見たオニギリは続けて、
「当てるだけじゃなくて、仕留めた者勝ち、勝ったら今日の飲み代タダで、どうわしょい?」
最後の飲み代の部分に、何人かが一瞬ピクリと反応したが、最終的には満場一致で、そのまま決定した。
「よし、じゃあ係は係で誰が勝つか賭けるぞゴルァ」
射手だけ楽しんでいるのはつまらないとばかりに、ギコも言うと、その他の者は小さく歓声を上げた。

781 名前:That'Z 投稿日:2006/06/07(水) 20:45:58 [ /2kdbNG6 ]
10/11
ぃょぅが四周を警戒するために外に出ると、遮音仕様の分厚い扉が完全に閉められた。
(ニータン ココハ ドコワチョ? ボクタチ コレカラ ドウナルワチョ?)
オトートが不安げにニータンを見るが、ニータンは逃げ場のない場所に来たことで、パニックになっており、
オトートの送っている視線に気づく様子もない。
さすがの希望的観測も、ここに至ってはもうどうしようもなく、更に彼らが用意しているのが何であるかを、
中途半端に知っていたことが、それにとどめを刺した。
(アレハ エアガンテ イウワチョ アレデ ウタレタラ トテモ イタイオモイヲ スルワチョ イタイノハ イヤワチョイ!!!)
実際は痛いどころでは済まない、形は似ているが、今目の前にあるのは本物の自動小銃だ。
オリーブ色のシートの上に、等間隔に6丁の銃が置かれており、どれも安全装置が掛かり、
スライドが後方一杯まで引かれて開き、薬室が見える形になっていた。
(オトートヨ キヅクワチョ ニータンノ テープヲ キルワチョ)
ニータンは、後ろ手に巻かれたテープをオトートに見せると、切るのを促すように突き出す。
今までそうしなかったのが不思議なぐらいだが、オトートはニータンの意図を汲み取ることが出来たようで、
ガムテープを貼られたままの口で、必死にニータンを拘束するテープを千切ろうと足掻いた。
本来ならば、そのぐらいで切れるはずはなかったが、2匹が必死であったこと、一昼夜おいていたことが、
彼らに奇跡をもたらし、ついにテープは切れた。
(コレデ コッチノ モンワチョイ コノ オリヲ アケタラ アレヲ ウバッテ ヤレバ ニゲラレルワチョ)

782 名前:That'Z 投稿日:2006/06/07(水) 20:49:15 [ /2kdbNG6 ]
11/11
兄者達は、射撃前の準備を行っていたため、閉じこめてあるはずのオニーニ達が、ケージを開けて、
逃げ出したことに、全く気付いていなかった。
完全に虚をついたオニーニ達は、ついに銃の所まで辿り着き、それを構えて兄者達に向け、言った。
「ウゴクナワチョ! テヲ アゲルワチョ! ウゴイタラ ウツワチョ!」(キマッタワチョ)
「ハヤク ニータント ボクヲ ココカラ ダスワチョ!」(ニータン サイコーワチョ)
2匹の声に皆が一瞬手を止め、何人かが身構えたが、兄者以外はすぐに作業に戻った。
兄者は立ち上がると、平然とオニーニ達に向かっていく、それを見たニータンは迷わず引き金を、、、引き金を、、、
何度も試みるが、引き金はびくともせず、銃が火を噴くことはなかった。
「フーン、、、銃は人に向けちゃいけないって、教わらなかったか?」
かなり矛盾した話ではあるが、他の多くの軍隊でもそう教えている、兄者達もそう教わっていた。
(薬室は空だし、弾倉も外れて、安全装置もかかってる、遊ぶか)
「それにな、そいつはちゃんと操作しないと撃てない」
言いながら、傍らにある銃を拾い、射場の奥に向けたまま、操作して更に続ける、
「まず、安全装置をこういう感じで解除して」安全装置を、セミオートに切り換える仕草を見せ、
「ここに指を入れるてから」開いたスライドに指を置く、
「で引き金を行く、と」安全装置をかけたままの、動かない引き金を引く真似を見せて、終わりにした。
全てをじっくりと見ていたニータンは、モタモタとした手つきで、兄者のしたように操作すると、
引き金に手をかけながら、兄者を見据えて叫んだ。
「バカナ フーンワチョ オマエハ ココデ シヌノワチョーイ!!」
引き金が動いた、”カチャン”とスライドと内部の撃鉄が落ちる、が響いたのは銃声ではなく、ニータンの悲鳴だった。
「イ イイイ イダイワヂョー!!! ボクノ ユビガ ハサマレタワヂョー!!! ナンデワジョー!!!」
「アーン ニータン ドーチタワチョー チッカリ スルワチョ」
同時に、皆が笑い声を上げる、騙されたニータンの指は、固定を解除されて閉じたスライドに挟まれていた。
ひとしきり笑ったところで、真顔に戻った兄者は、再び2匹を捕まえた、銃は既に元の位置に置かれている。
「こいつら放っておくと、何するか分からないんで、先に繋いできます」
そう言って、肩にロープを巻き、奥へ2匹を持って行こうとした、制止する者が居た、
「フーン軍曹! ちょっと待つわっしょい! こいつらは俺が繋いでくるわっしょい」
オニギリはそう言うと、兄者からロープとオニーニ達を預かり、射場の奥へ向かった。
壁際を歩き、半分まで来たところで、オニギリはニータンに小声で話しかけた。
「安心するわっしょい、俺の言うとおりにしたら助かるわっしょい」

【続く】
798 名前:That'Z 投稿日:2006/06/18(日) 22:13:27 [ t1nxXfJ. ]
1/9
「しかし、遠いぞゴルァ」
「遠いって言うか、小さすぎますアヒャ・・・」
遙か彼方にポツンと置き去りにされて、何かじたばたしている物体を、双眼鏡と肉眼で交互に見ながら、
アヒャとギコが呟く。通常用意されている的が全体で2m四方有るのに対し、オニーニの体格はいつも使っている的に重ねると、
中心の人型をした黒点の更に中央、点数の付く圏内で最も高い点数の5点圏よりも更に小さかった。
ギコが指を使って照準する真似をしてみたが、うまく見出し(みだし)を行うことすら出来きない。
(こいつら、動くんだろ? 弾全部使い切っても当たるのかゴルァ)
腕っこきの射手が2人居るが、これは・・・とつい思ったが、よくよく考えれば訓練には丁度良い標的だった。


スクリーンの様に垂れた、布団などに敷くシーツよりやや大きめの布の前に、オニーニ達は長めのロープで繋がれていた。
布には直径1cm弱ほどの無数の穴が穿たれ、特に中央部分はそれが集中して大きな穴を形成している。全体が黄ばんでおり、
四隅にヒモが括られているが、引っ張られておらずにたるんだ状態だ。それが等間隔に6枚並んでいる。
オトートは右に左に、ロープの長さいっぱいまで動き回っていたが、今はその動きを止め、泣き出しそうな顔をしている。
「ニータン ボクタチ ドーナルワチョ? コンナトコロニ オキザリニチテ アイツラ ナニヲ スルキワチョ?」
不安げな表情で見上げるオトートに、ニータンは先ほどまでとは、うって変わった明るい表情で、
「ダイジョウブワチョ! ボクタチノ カワイサガ ミヲ スクッタワチョ オトートハ ボクノ イウトオリニ コウドウスルワチョ」
いつもは根拠のないことばかりを言っているが、今回だけは別だった。ニータンはそれを信じて、ただ時を待っていた。

オニーニ達の後方にある布が、四隅を引っ張られ、ピンと張った状態になると、今度はそこに的が現れる。
中央に、人の肩口から上の姿を模した影があり、3本の同心円が描かれている。
実際には影があるわけではなく、プロジェクターのように光が投影されて、そのように見えているのだが。


射手は銃の手前に伏せて脚を開き、肘をついて上体を持ち上げた状態で待機している。
『射手、安全装置確かめ、弾を込め』
全員が耳栓をしているため、射線の後方わずか5mに居るにもかかわらず、ギコは拡声器を使って指揮を執っていた。
射手は復唱し、定まった手順を飛ばすことなく、慎重に銃を操作する。
マガジンを込め、スライドの固定を解除し、薬室に弾を送る操作をし、終わった者から「ヨシ」の応答が返る。
『零点(ゼロてん)規正5発、射撃用意』
射手は、安全装置のスイッチをセミオートの位置に切換え、挙銃する。
全員から「ヨシ」の声が聞こえたのを確認したギコは、更に周囲を確認し、気迫のこもった声で、
『撃て!!!』
と号令を放った。

799 名前:That'Z 投稿日:2006/06/18(日) 22:14:24 [ t1nxXfJ. ]
2/9
”チュ・・・ン”
何かが頭上を飛んでいった様な気がし、上を向こうとしたニータンは、刹那の間をおいて聞こえた音に、身をすくめる。
”ボ ォ ォ ォ ォ ン ! ! ! !”
雷鳴の様な大きな音が、射場の中に響き、それは連鎖的に増えていく。
”チュイィィン”、”キュゥン”と目に見えない何かが飛んでいっては、布の更に奥にある土盛りに、土煙が立つ。
「ニ・ニータン ナニガ オコッテルワチョ ワケガ ワカラナイワチョ…」
オトートが音に、上を飛来していく何かに怯えて震えているが、ニータンはそれでも先ほどの表情を崩さない。
「ダイジョーブワチョ カナラズ タスカ!?!?」
”ビシュッ!”
「!?!!イイイ!! イタイワチョ!! イタイワチョ!! ナニカ アタッタワチョーーーーー!!!!!」
それまでマターリとした様子だったニータンは、その身に痛みを感じ、転げ回った。
「ワチョヒャーーーーン!! ニーターン オナガイワチョー チッカリチテワチョーイ!!」
転げ回るニータンに、オトートは踊りながら言う、
「イタイノ トンデケワチョ ニータン ハヤク ナオルワチョ!! ワッチョイ ワッチョイ オニギリワッチョイ! イタイノ イタイノ トンデクワッチョイ!」
本当に命中したのならば、痛いどころでは済まないはずだが、しばらくするとニータンは立ち上がり、
「ダンダン イタクナクナッテ キタワチョ! スゴイワチョ! オトートハ オドリノ テンサイワチョ! オドリハ イダイナノワチョイ!」
今度は一緒になって、ワッチョイワッチョイと踊り出した。

(フ・ン? 誰だ、前にこの銃を使った奴は)
据銃したまま、的から目を離さずにいた兄者は、怪訝な表情をしていた。
モナーやモララー、そしてアヒャが、適当に狙って3発4発と撃った後、ようやく初弾を放ったのだが、
それがニータンの手前に着弾したのが見えたからだ。ジタバタと転げるニータンを見て、『当たった』と思ったが、
実際は跳弾がかすめただけだった。
まだ賭けは始まっていなかったため、別にオニーニに当たろうが当たるまいが、大した問題ではなかった。それより今は、
銃の調整が最も重要だ。今度は的の上ギリギリを狙って撃つと、手元のモニターの中央に、命中を示す×印が現れた。
(サイトが1回転以上してるじゃないか・・・)
同じ点を狙い次々に撃つと、それらも見事に中央に命中していった。右脇のモニターに4つの×印が現れたのを確認した兄者は、
安全装置をかけ直して据銃を解き、後方の八頭身に体をひねりつつ「撃ち終わり」と叫び、左腕を突き上げる。
八頭身が指さし確認をし、靴を軽く”トン”と蹴ると、そこでようやく銃を置く、しかし銃には手を添えたままだ。

ほぼ同様の動作で、照準を調整し直した銃の『修正射』5発が終わると、ようやく本番を迎える。
オニギリの眼はいつもと同じタレ目のままだが、瞳の奥には、禍々しいギラギラとした光をたたえている。
(この勝負はもらったわっしょい)

800 名前:That'Z 投稿日:2006/06/18(日) 22:15:17 [ t1nxXfJ. ]
3/9
「じゃあ、ここから賭けの開始だぞゴルァ」
ギコはいらぬ気合いを入れ直す。
いつもとは違い、的を『オニーニ』としたため、少しばかり、応用した号令と、動作が必要になる。
しかし、そこは手慣れた一団だけに、特に問題なく進んでいく、ギコだけが言葉を選ぶのに苦労していた。
『緩射、目標の氏、基へ、え~、目標破壊まで! 射撃用意』 『え~~1的から順に、1発ずつ、撃て!』
ギコの『撃て』を聞いた瞬間、的として繋がれていたオニーニ達は、近くのドアに向かって走り出した。
しかし、ニータンの全力疾走に付いていこうとしたオトートが、前のめりに倒れ込み、悲鳴を上げた。
(あいつらなにをやってるんだ?)
兄者はオニーニ達の不穏な動きを見て、眉間にシワを寄せる。
「アーン ニーターン オイテッチャ イヤワチョイ オナガイダカラ タチケテワチョーイ」
泣いているオトートを尻目に、一番近くにあるドアに、ニータンは走って行く。
「オトートヨ アトスコシデ タスカルワチョイ ハヤク クルノワチョイ」
ドアまで辿り着いたところで、それを開けようと、自分の頭の位置にあるレバーを下げようとしたが、それはビクともせず、
ドアが開くこともなかった。
「ナ・ナンデワチョイ コノママj ”ビシッ” アsdfghjkウジョk%!!?」 ”バァァァァァン”
レバーを動かそうとするニータンの頭、それも海苔の中央に、オニギリの放った弾丸が突きささり、貫通した。
具の豚カルビを後頭部から飛び散らせて、ふらふらと歩き、いや惰性に任せてさまよった後、オトートの傍らに倒れ込む。
顔面から倒れ込み、”びくんびくん!”と激しく体を痙攣させるニータンを、オトートはもろに見てしまった。


「オニギリさん、何か仕込んだモナ?」 「不自然過ぎだったからな」 「卑怯アヒャ」
今まで逃げる素振りを見せなかったオニーニが、急に逃げ出して、タイミングよくドアの前で立ち往生し、
オニギリの一撃の下に仕留められる。余りにも出来すぎた一連の動きから、モナ・モラ・アヒャのトリオがイカサマを見破り、
オニギリに向かって一斉に非難の声が飛ばす。耳栓をしていても声は十分に通った。
「ななな、なんの事わっしょい! 言い掛かりは許さんわっしょい」
言葉では反論を続けるものの、顔からは汗がダラダラと流れており、誰の目にも、何らかの工作していたことは明らかだった。
『オニギリさん、しっか~く』
拡声器を通してギコが言う。イカサマ禁止とは言ってはいなかったが、他の者が納得しないであろうという判断からだった。
ギコの判定により失格になったオニギリは、さすがに諦めた様子でうなだれた。
(始めから堂々とやればよかったわっしょい)


(動いてさえいなければ当たるわっしょい)
オニーニをロープで引っ張りながら、腕に覚えのあるオニギリはそう考えていた。
「安心するわっしょい、俺の言うとおりにしたら助かるわっしょい」
「あのギコ猫が『カンシャ』って言ったあと、『ウテ』って言うから、それと同時に近くのドアに行くわっしょい」
引っ張られて歩くニータンに向かって、オニギリが前方を直視したまま小声で言う。
ニータンは最初、それが自分に向かって言ったのだとは思わなかったが、オニギリが言葉を続け、
「その後ならドアが開くわっしょい、レバーを下げて開けるわっしょい、ドアの向こうでロープが切れるわっしょい」
と言うと、さすがに自分に向けたものだと分かった。オトートはかなり後方に居て、2人の様子に気付いていない。
「ボクタチヲ タスケテ クレルノワチョ? ギャクサツチュウノ ナカマジャ ナカッタワチョ?」
不思議そうな顔をして尋ねるニータンに、オニギリは依然として、前を向いたまま返答する。
「同じおにぎり類だから当然わっしょい、それ以外に理由は無いわっしょい」
腹黒さを見事に隠し、如何にも”いい人”らしい言葉をニータンに返すと、ニータンの表情がにわかに明るくなる。
「ヤッパリ オニギリモ ボクノ コトガ カワイイワチョネ? コレモ イダイナル オドリノ セイカワチョイ」
ニータンをこの場で殴り倒したい衝動を抑え、オニギリは最後に念を押すように言った。
「いいわっしょい? 間違えずに今言った手順でやれば逃げ出せるわっしょい」

801 名前:That'Z 投稿日:2006/06/18(日) 22:16:33 [ t1nxXfJ. ]
4/9
(よく見れば動きもとろかったし、十分当てられたのに、惜しいことをしたわっしょい)
「わかったわっしょい、負けを認めるわっしょい」
(ホッとしたモナ) (勝たれたら堪らないからな) (ザルにおごらずに済んだアヒャ)
素直に負けを認めたオニギリを見て、モナ・モラ・アヒャは安堵していた。今まで普通の的で勝負を挑んでは、
ウワバミの如きオニギリに、恐ろしい量の酒をおごらされて来たからだ。
動く的ならばもしかしたらと今回の賭けを受けたが、危うくいつもと同じ結果になるところだった。
『次行くぞゴルア』
ギコの言葉に2的のモナーが反応し、サイトの向こうにオトートに狙いを定める。当のオトートはニータンの側で、
その断末魔の様子に怯え、ガクガクブルブルと震えながら喚いていた。
「ニータン! オキテワチョ! コンナケガ タイチタコト ナイワチョ! サッサト ギャクサツチュウタチカラ ニゲルワヂョーーー!!!」
ケチくさい量しかない具を全て、射場の乾燥した土の上に散らしたニータンが、オトートの呼びかけに答えることは無かった。
(今は動いていないモナ、けれどもオニギリ上曹よく当てたモナね)
モナーはイカサマがあったとはいえ、オニギリの卓越した射撃技術に感心していた。実際撃とうとしてみて、
改めてその困難さを実感した。静止していても、オニーニという標的は肉眼で狙うには小さすぎた。
”ボ ォ ン”
かろうじて目標をサイトに捕らえたモナーは、左手でギュッと銃を保持して撃ったが、その弾はオトートの左方を抜け、
壁をこするように、浅い角度で弾着した。遮音材が弾け飛び、壁に走った銃痕を見てギコが言う、
『モナー軍曹、射場は破壊するなゴルァ』
外したことに追い打ちをかけられたモナーは、気を沈ませた。そうこうしている内に、オニーニはまたしても踊り始める。
最早動くはずもないニータンに「フッカツシテワチョ」などと言いながら。
再び踊り始めたオトートに、次射のモララーそしてアヒャは、かすらせることさえ出来ずに、虚空にモナー同様の弾道を描いた。
『次、フーン軍曹、賭けさせてもらったから、頼むぞゴルァ』
はじめからモナ・モラ・アヒャの射撃には期待していなかったギコは、うって変わって兄者の番になって檄を飛ばす。
兄者は慎重に狙いを定める。いつもの訓練通り、時間をかけずにスッと目標を捕らえてから、やるべきことは決まっていた。
脇を軽く締め、ストックを肩と頬に密着させ、左腕は肘を銃の下に入れて支え、左手は握らず軽く添え、上体を安定させて息を止め、
引き金の遊びを殺し、、、撃つ!!!

常に冷静沈着な態度が弾道にそのまま現れ、見事に狙った場所に銃弾は命中した。オトートの脚に。
「イダッ」 ”ボォォォン”
「ナンデ ボクノ アチガ イタイワチョ ア・アチカラ オコメガ アフレテルワチョ!!!」
ニータンと同じ運命を辿ることを悟ったオトートは逃げようと足掻くが、脚を撃ち抜かれたため満足に立つことも出来なかった。
(フーン軍曹 今ノハ 当テラレタハズアチョ)
賭けていたギコは、兄者が外したことに愕然としていたが、それ以上に最終6的のスパルタンは驚いていた。
目を見開き自分を見るスパルタンに、兄者は変わらぬ表情で1回だけ頷くような仕草を見せる。
それに答えるように、スパルタンも礼を述べるように頷いた。
兄者は敢えて外したのだった。それはスパルタンの『出来レバ コノ手デ 殺シタイ』という言を汲み取ったものだった。
スパルタンは兄者同様、基本に忠実な射撃姿勢を取る。ニータンよりもやや小さい、オトートの海苔の中央に狙いを定めた。
「ナンデ オナジ オニギリナノニ ボクヲ コロソウト スルワチョ---!!! コンナノ マターリジャ ナイワチョーーーイ!!!!」
脚を引きずってオトートは訴え続けるが、返ってきた答えは、銃弾だった。

”ビシュッ” ”ボ ォ ォ ォ ン”
オトートは自分の頭を弾丸が貫いた音と、その弾丸が発射された音を聞きながら、その場に崩れ落ちた。
(イタイワチョ… ナンデ ボクタチガ コンナメニ… ボクタチハ マターリ オドッテイタ ダケワチョイ… ニータン、、、 ナンデ、、、 ボクタt…)
スパルタンは、兄者に譲ってもらったチャンスを活かせたことに安堵し、止めていた息をホッと吐き出した。
その顔にはやるべきことをやり終えた、満足げな表情を浮かべていた。

802 名前:That'Z 投稿日:2006/06/18(日) 22:18:06 [ t1nxXfJ. ]
5/9
「ぐはぁぁぁ、どこが『炊きたての米の数十倍』わっしょい! これじゃあ糞の方がまだマシわっしょい!」
処理専用ボックスを持ったオニギリがオニーニの側に近づくと、それは既に危険な匂いを放つ汚物と化していた。
「ガスわっしょいガス! マスクが要るわっしょい!」
オニギリが必死で訴えるが、200mの彼方にいる兄者達は、応用射撃の後に行われる最後の項目である連射のための弾薬を、
マガジンに込める作業を行っていた。兄者達の代わりに、ギコがニヤニヤとしているのが確認できる。
(クソ~我ながら、アフォなことをしたわっしょい)
オニーニの死体回収は、緩射の総合点数が1番低い者で行う予定だった。いつもならモナ・モラ・アヒャのいずれかなのだが、
今回はイカサマをしたオニギリが、勝ちを取り消された上に、このようなことまでやらされることになった。
(息をするだけで危険わっしょい、ここは、、、?!)
射場入り口から向き直り、水中を歩行するかのように息を止めながら歩いていたオニギリの目に、恐ろしい光景が映った。
死んだはずの、自らの手で仕留めたはずのニータンがフラリと立ち上がって、こちらに向かって歩いてきたからだ。
眼球は弾着の衝撃で飛び出して垂れ下がり、後頭部は大きな射出口が開いている。本来なら生きているはずがない。
「オギギギワッヂョイ オォォォォォォォォォギギギギギギギキィィィィィィィィィワッヂョooooooooo」
「・・・・・・・!!!」
余りの光景にオニギリは言葉を失い、腰を抜かしてその場にへたれ込んだ。

「なんだあれは・・・」
ギコも異変に気付いて、ニヤニヤとしていた表情を一変させ、顔色を蒼くした。ギコの言葉に何事かと振り向いた兄者達も、
同様の反応を示す。まるで出来の悪いB級映画のような、不気味な光景に誰もが凍り付いた。
しかし、それでも思考は停止させておらず、各人が日頃の訓練の成果を発揮するように身構える。射手はそれぞれの銃を持ち、
弾薬を込め終えたマガジンを受領し各自の射線に就く。ジエンがまだ弾を込め終えていないマガジンに弾を込めながら、
八頭身がオニギリの銃を代わりに持ち、ジエンのマガジンを待つように待機する。
「各自、射撃用意! 連射、目標オニーニ!」
拡声器を使わずに肉声でギコが下令するが、明らかに焦った、うわずった声になっている。オニギリの存在を忘れ、
連射の指示を出したことに、逆に射手から指摘が返る。
「無茶です」 「オニギリ上曹が危険モナ」 「当てない自信が無いYO!」 「アヒャヒャ撃つアヒャ鬱アヒャ」 「ギコ中尉、冷静に」
自分では冷静に指揮をしたつもりだったギコだが、射手が一斉に訴えたことで自身の間違えに気付き、「射撃待て」と短く言った。
(しかしこのままじゃまずいぞゴルァ、、、? スパルタン上等兵は何処に?)
ふと気付くと、6的に居るはずのスパルタンの姿が無かった。

「オギギギワッヂョォォ ワッッッヂョォォォイィィィ」
「こ・・・こっち見るなわっしょいーーーー!!!」
垂れ下がった眼からの僅かな視覚、そして聴覚を頼りにオニーニゾンビがオニギリに迫る。オニギリは腰を抜かし後ずさりしつつ、
なんとかオニーニゾンビから逃げようと必死になっていた。
(さっきより匂いがやばいことになってるわっしょい、カビの匂いが混じってるわっしょい)
カビはオニギリ類にとって、癌にも勝る危険な病気を引き起こす。胞子が軽く付着する程度ならば問題はないが、
ニータンからの腐臭に混じって漂う臭気は、明らかに許容量を超えるものだった。接触、最悪抱きつかたりしたらどうなるかは、
想像に易い。その結果が間違いなく死であることも。
(もう、、、だめわっしょい)
間近にまで近づいたオニーニゾンビから目をそらし、オニギリは覚悟を決めた。オニギリを包む臭気は更に強さを増していく。
しかしそれを吹き飛ばすように、一陣の風が辺りを走った。
「ホォォォォォ ホァッチョォ!」
走り抜けた風の正体は、スパルタンだった。

803 名前:That'Z 投稿日:2006/06/18(日) 22:19:33 [ t1nxXfJ. ]
6/9
走り込んで得た速度を下半身の力を使って殺し、余った力を腰と下半身の回転に乗せ、右の拳を縦にしたまま突きだした。
高速の拳がオニーニゾンビの喉元を捉え、1回のインパクトで壁際から射場の中央へ吹き飛ばした。
”グチャグチョッ”と音を鳴らし、喉の辺りが千切れんばかりにひしゃげたオニーニゾンビは、立ち上がることも出来ずに、
仰向けのままジタバタと、手足をばたつかせて暴れ続けている。
(凄いぞゴルァ)
スパルタンの動きに見とれるように立ちつくしていたギコは、ハッと我に返り慌てて指揮を執る。まだ慌ててはいるが、
先ほどに比べればだいぶ冷静になっていた。スパルタンのおかげで余裕が生まれたからだ。
「目標オニーニ、連射、射撃用意」
下令しする間も、徐々に気持ちが落ち着くのが分かる。射手も、標的がオニギリ達から離れたので、
今度は安心して射撃準備にかかっていた。6的にジエンが入り、全員が安全装置をフルオートにし、据銃して待つ。
「撃て!!」
1マガジンに20発、射手6名、計120発の猛射が、腐臭を発するオニーニゾンビに突きささった。
空気を破る音が幾重にも重なって連なり、凄まじい轟音となって響き渡る。その音は射場から離れたぃょぅにも聞こえるほどだった。
「ワギョッ ワヂョゴ ワッヂョオ ウゲッ ヂョッヂョッヂョッヂョー ワジョゴゲ ジョッ…」
弾幕に押されるように躯を弾けさせ、オニーニゾンビは徐々に砕けていった。
土を敷いた床と天井の、上下に据えられた排煙装置も、一斉射撃の硝煙を排気しきれず、辺り一面硝煙と土埃に包まれた。
それは射手にも襲いかかり、銃を持っていた者は皆、目に僅かに涙を浮かべている。当然視界もふさがれていた。
ようやく煙が晴れると、射場の中央には激しい弾着の跡、そしてニータンの体の組織が、ミンチのように散らばっていた。
「射手! 撃ち終わったら、安全装置!弾抜け!」
ギコが射手に銃の点検を指示し、射手は全ての弾薬を消費したのを確認すると、それぞれその場に突っ伏した。
「心臓に悪かったぞゴルァ」


「ふ・・・フ~~ン、これは臭いかな」
兄者はオニギリ類にとって危険が伴う作業を、オニギリに代わって買って出た。
周囲からは平然としているように見えていたが、当人は匂いのために今にも失神しそうだった。
(どこが『炊きたての米の数十倍』なんだ?)
自ら妹者に語った言葉だった。それは自治体資料の受け売りだったが、実際は『インターネットで見た』レベルの、
不確かな情報なんじゃないかと、その資料を疑いたくなった。ニータンの肉体を構成していた、砕け散った米粒それぞれから、
言語に尽くしがたい、凄まじい匂いが漂っていたからだ。オニギリが回収していたときよりも強くなっていた。
それでも淡々と回収を行い、ボックスに既に詰めてあったワッチィとごちゃ混ぜにし、オトートの回収に移る。
(オトートからの匂いはそんなに酷くないか、、、あの資料、信用しないほうがいいかも知れんな)
オトートは体に損傷も無いため、ただボックスに放り込むだけで、後はきちんと密閉できるように詰め込むだけだった。
僅かにはみ出た頭をグイグイと押し込み、力任せに蓋を閉めようとしたところで、ふと思い出す。具の回収を忘れていた。
しかし辺りを探してもそれらしき物は落ちておらず、結局諦めて蓋を完全に閉じた。
(少しぐらいの妥協は、許してもらうとするか)

804 名前:That'Z 投稿日:2006/06/18(日) 22:20:47 [ t1nxXfJ. ]
7/9
ギコの拳銃射撃が終了し、その日の訓練が終わった。
「今日はなかなかイイ訓練だったなゴルァ」
「おっかなかったモナ」 「ちびりそうだったYOoo」 「アヒャ アヒャヒャヒャ・・・」
射場の中にいた者は、片付けを進めながら口々に今日の感想を述べる。訓練自体は有意義なものであったかも知れないが、
オニーニゾンビというイレギュラーの発生は、トラウマものの恐ろしさだったようだ。事態を収めてから時間は経ってはいたが、
兄者とスパルタン以外は皆顔を引きつらせ、オニギリに至っては、海苔を白くせんばかりの表情を浮かべていた。
「賭けはどうなったんだぃょぅ、、、ぃぎょっ?なにがぁったんだょぅ」
訓練終了の連絡を受けて、射場に戻ってきたぃょぅは、異様な雰囲気に気付き、身構えた。
「まぁ、話は追々してもらってくれや、それより片付けだゴルァ」
ぃょぅは釈然としないという風にギコの言葉を受けたが、それ以上は聞かず片付けに加わる。
「それよりも賭けのほぅが気になるょぅ、ジエン、誰が当てたんだょぅ」
ぃょぅはジエンを手伝いつつ尋ねた。ジエンは端的に結果だけを答えた。
「オニギリ上等兵曹ハ 当テタケレド イカサマデ失格 スパルタンガ 当テタ」
その結果に少し驚いたように、ぃょぅは声をうわずらせ、更にジエンに問いかけた。
「イカサマ? フーンさんは当てられなかったのかょぅ」
「フーンサンモ 当テルコトニハ当テタゾ デモ 仕留メタノハ スパルタンダッタ」
詳細を聞いて、ぃょぅの表情が明るくなる。ジャンケンで負け、兄者やオニギリを取られ、僅かに上手いアヒャを取られた時点で、
”賭けは負けだ”と思いこんでいたのが、逆転勝利になったからだ。
「ぅれιぃょぅ、今日はぉもぃっきり飲むょぅ」
ぃょぅが幸せそうな顔をしていると、そこへ対照的に辟易した様子の兄者が回収を終えて戻ってきた。
「フーンさん、ぉっかれ様でιたょぅ」
ぃょぅの言葉に兄者は短く「オース」と応えると、ボックスを射場の後方壁際に置き、伸びをした。中身よりも箱そのものの方が重く、
運ぶだけで相当な労力だったからだ。兄者がリラックスしていると、ぃょぅが急に声を上げる。
「ぃっ、ぃょぉぉ? 今ボックスが動ぃたょぅに見ぇたょぅ」
兄者はハッとボックスを見やるが、別段何の異常も見受けられず元の体勢に戻る。よしんばオニーニが生きていたとしても、
これだけの重量の箱を動かせるわけがない。何かの見間違いだろう、そう判断し自分を納得させた。
そうこうしている内に周囲は綺麗に片付き、資材の積み込みにかかっていた。兄者もぃょぅやジエンの助けを借りて、
幌付きトラックの荷台にボックスを放り込み、他の資材積載を手伝い終えると、他の面々と共に荷台に乗り込んだ。
「じゃあ出発だぞゴルァ」
ギコが発車するジープの窓から顔を出し叫ぶと、トラックも続いて発車した。

805 名前:That'Z 投稿日:2006/06/18(日) 22:23:24 [ t1nxXfJ. ]
8/9
「ウ ウゥゥゥ アタマガ イタイワチョ」
荷台で揺られるボックスの中で、オトートは目を覚ました。ゾンビ化は、、、していない。
なぜオトートは死ななかったのか?理由は簡単なことである。オトートの具、オニーニ族の脳にあたる具が余りにも小さすぎて、
頭を撃ち抜かれても、具にはかすりもしなかったからだ。
オトートの頭にはニータンを更に下回る、文字通り梅干し大しか具が詰まっていなかったのだ。
「ワチョ マックラデ コワイノワチョ セマイシ ナニカ ベタベタチテ キモチワルイワチョイ」
完全に密閉された空間に当然光源などはなく、目が慣れるのを待つしかなかった。
「コノ ベタベタ ナニワチョイ? チョレニチテモ オナカガ スイタワチョ」
そのベタベタとしている物が、かつての自分の家族であるニータンやワッチィであることに、オトートは微塵も気付かなかった。
それよりも昨日から何も食べていないため、どうやって腹を満たすかということで、頭がいっぱいだった。
「コノ ベタベタ モチカチテ タベラレルカモ チレナイワチョ」
狭いボックスの中で体勢を入れ替え、底の方にある物にかぶりついた。潰れたワッチィに、である。
「ウン オイチイワチョ マターリトチテイテ ノドゴチモヨク…」
料理番組を真似ただけの出鱈目な感想を、ワッチィを食しながら独り呟いたオトートは、咀嚼を終えてもう一口と、
今度は上の方に敷き詰められた物、砕けたニータンをもぐもぐと食べ始め、そして叫んだ。
「ウマーーー( ・∀・)ーーーワチョーーーーーーー!!!!!!」

「フーン、たまにはこういうのも??、、、何か聞こえたかな?」
荷台で雑談をしていた兄者は、微かにボックスから漏れた声を聞いたが、気のせいだろうと聞き流した。

「コンナ オイチイモノ ウマレテ ハジメテ タベタワチョイ!!!! ワッチィモ ニータンモ イッチョニ タベルノワチョイ!!!!」
オトートは暗闇に目が慣れたのか、目の前にある物が見えるようになっていた。
まず自分が狭い場所に居るのは分かった、一緒にニータンやワッチィが居ることも。
(デモ オカチイワチョネ ニータンヤ ワッチィハ チンデ チマッタ ハズダッタワチョ デモ イキテタンナラ ドウデモイイワチョ)
ニータンやワッチィが生きていたことを祝うように、オトートは踊り始めた。こんな時、いつもならニータンも一緒に踊るのだが、
今は何故か踊ろうとしない。闇に半分だけ浮かぶ相貌は蒼く、ジッとオトートを見つめていた。
「ニータン ナンデ オドラナイワチョ? オドリハ トッテモ ダイジワチョ! オニーニ ワッチョイ ワッチョイ…」
オトートはなおも踊り続けるが、そこに喋れないはずのワッチィが語りかける。
「チッチャイニータン ナンデ ワッチィノ コト タベダワヂィ? ドッデモ ドッ゙デモ゙ォ゙ イ゙ダイ゙ワジィ゙ィ゙ィ゙ィ゙」
ワッチィは話しながらドロドロと崩れてゆき、緑や青、紫といった不気味な彩りのゲル状の物体と化し、オトートの足下から、
ウゾウゾと這い上がる。顔面はと言えば、始めから半分しか無い様だった。
「ア・ア・ア・ワッチィガ ワッチィガァ ニータン ニータン タスケテワ?チョアsdfgフwヂョ」
オトートはニータンに助けを求めたが、しかしニータンもワッチィ同様の有様になっていた。
「オ オギギギギ オ゙ドード イダイワヂョ ナンデ ボクノゴド ダベダワヂョォォォォ」
オトートは恐怖の余り言葉を失った。左からはワッチィ、右からはニータンが、それぞれ形状を変えながら、
這い上がってきている。逃れようにも、金縛りにあったかのように体は動かず、ただただその不気味な物体に、
体表を蹂躙されて行くのみだった。それがやがて首から下を全て包むと、ついには顔にまで上がって来た。
「ッーーーーー!!!!! ッーーーーー!!!!」(クルチイワチョ モウイヤワチョ ギャクサツチュウニ ヒドイメニ アワサレタウエニ ニータンヤ ワッチィニマデ………)
自分の肉体が、内部からドロドロと崩壊していくのがわかる。
オトートの意識は、恐怖と苦痛の中で徐々に薄らいでゆき、ついには暗闇に放り出された。

806 名前:That'Z 投稿日:2006/06/18(日) 22:24:16 [ t1nxXfJ. ]
9/9
(兄者の所からのキモゴミ回収、増えたな)
数ヶ月後、廃棄物処理会社に勤める弟者は、極端に増えた駐屯地からの処理専用ボックスの回収に、四苦八苦していた。
今までは駐屯地全体でも月に2~3個の回収だったが、今は最も大きい、10匹分が収まる容積のボックスが、
月10個以上は出ている。多い時は20個ほどもあった。
(詰めるとき相当臭いだろうな、兄者達は大変だ)
弟者は同僚を待たせないよう、手早くボックスや他のゴミを積み込み、回収を続行した。

(俺があの時、糞ニギリなんて持ってこなければな~)
隊舎側面の外階段から、ボックスが回収されていくの眺めた兄者は、頭を掻き溜め息をついていた。
あの日以来、何故か射撃訓練にオニーニが使われる様になったからだ。
誰かがエライ人に進言したのか、『応用射撃の練成目標に組み込むこと』などと、ちゃんとした命令文書にまでなっていた。
聞いた話では、近傍の家々で捕まえたものを集めたり、積極的に捕獲したりすることで、地域住民に貢献することになり一石二鳥、
という意図も含まれているとのことであった。
(あんな光景を見たギコ中尉が中隊長に『イイですよ~』なんて報告した筈は無いし、一体誰が?)
しかし誰が言い出したにしろ、火元が自分であることだけは間違いなかった。

            ・
            ・
            ・
            ・

「本日ノ訓練ノ成果ハ イジョウノ トオリデシタ」
「うむ、なかなか面白い話だったな」
「アチョ」
スパルタンは訓練終了後、自分が所属する中隊の中隊長であるフサ大尉に、訓練の成果と共に射場で起こったことも話した。
フサは宙を仰ぎ見て少し考えた後、スパルタンに問いかける。
「どうだ?君たちの任務上、アレを標的にするのは大変都合がいいと思うが、、、君は賛成か?」
「ハイ アチョ」

【終わり】