ギコの悩み

Last-modified: 2015-06-09 (火) 04:18:08
50 名前: 1/7 投稿日: 2003/03/27(木) 16:45 [ nlhi8yrQ ]
そのギコには悩みがあった。
付き合って1年近くなるしぃのことで。
しぃはいつの頃からか、あれを買ってくれ、甘いものを食べさせろ、ダッコしろ…
そんなことばかり言うようになってしまった。
初めのうちは黙って聞いていたが、それがしぃを図に乗らせることになってしまった。
ギコが業を煮やして怒鳴りつけると、ところかまわず泣き喚き、
しまいには変な棒を取り出して襲い掛かってくるようになった。
いったんそうなってしまうと、なだめるのには一苦労だった。
わがままを聞くのも嫌だったのだけれど。

そんなしぃのメリットといえば、いつでもやらせてくれるくらいだった。
体だけのつながりじゃないのか?
ギコはそんな思いにとらわれて、むなしさを覚えていた。
体じゃなく、心でつながりたい。そのためには?
ギコは考えに考えて、こう結論付けた。
「しぃの性格を変えてやろう」
しぃのなれの果て、「でぃ」は、とても素直な性格をしているとギコは聞いたことがある。
でぃになってしまうと、しぃであった頃よりも知能が衰えるそうだが、
どうせバカなしぃのこと、大して変化はないだろう。
ギコはこのアイデアを早速実行してみることにした。

51 名前: 2/7 投稿日: 2003/03/27(木) 16:45 [ nlhi8yrQ ]
まずは、電話でしぃを自宅に呼び出す。
「なあ、たまには俺んちに来いよ。お前の好きなものごちそうしてやるからさ」
「ハニャ、イク!」
「じゃあ、待ってるからな」
そうしておいて、俺はキッチンに立つ。
一人暮らしを始めて長い事経っていたので、料理の腕にはちょっと自信がある。
ただ今回は、その腕をふるうのが目的ではない。
わざと間違えて、まずい料理を作るのだ。
さしあたっては、砂糖と塩を間違えることにする。

そして出来上がった料理を、一口食べてみる。
ヤヴァイ…。
これはヤヴァイ物ができてしまった。
だが、上出来だ。まずい方がいいのだ。
この料理を、あくまでも普通に作ったかのようにふるまってやるのだ。

52 名前: 3/7 投稿日: 2003/03/27(木) 16:46 [ nlhi8yrQ ]
ピンポーン

インターホンが鳴った。
「はいはい」
ギコはしぃを出迎えた。
「ハニャー、オナカスイター」
「やっと来たか、準備するからリビングで待ってな」

ギコはそう言って、キッチンに消えた。
まずは一皿、しぃの前に置いた。
そしてもう一度キッチンに戻り、後ろ手に包丁を持った。
もう片方の手には、自分の皿を持って、リビングに戻った。
「さ、食ってみてくれ」
「ウン!」

ギコはしぃの反応をうかがった。
しぃは一口食べただけで、吐き出してしまった。
「ナニコレ、メチャメチャマズイジャナイノ! ナンテモノヲシィニ タベサスノ!?」
「ごめん…」
そう言いながらも、心の中ではうなずいていた。
「ワザワザ キテアゲタンダカラ モット オイシイモノヲ ツクリナサイヨ!
 ナンノタメニ ツキアッテアゲテルト オモッテンノ!?」
若干足りない気がしたが、こんな所だろう。
これで、俺がしぃにぶち切れる理由ができた。

「おい…」
「ナ、ナニヨ・・・」
「確かに俺の料理はまずいよ、だけどなんだ?
 『付き合ってあげてる』?お前がそんな気持ちだったとは知らなかったなあ。」
「フン、シィハアイドルナノヨ! ベツニアンタジャナクテモ カワリハ イルンダカラ!」

あーあ、言っちゃったね。

53 名前: 4/7 投稿日: 2003/03/27(木) 16:47 [ nlhi8yrQ ]
「そうかー、じゃあ殺す。」
ギコは極めて明るい口調で言った。
「ヘ?」
「いままで一生懸命お前に尽くしてきたつもりだったのになー、
 そこまで言われちゃ俺のプライドはもうずたずただよ。
 立ち直れない。だからお前を殺すことにした。」
「ソ、ソンナ・・・」
「殺されたくないならな、俺の言うとおりにしろ。そうでないと…」
ギコは包丁をちらつかせた。
しぃは痙攣するようにうなずいた。
「ついて来い」
包丁を左手に持ったまま、しぃを外へ連れ出す。
近所の溝のあたりまで来て、立ち止まった。
「ここでゴロゴロと転がれ」
「ソ、ソンナコトシタラ ヨゴレチャウジャナイ!」
「俺はさっき何と言いましたか?」
「シィィ・・・」
しぃは嫌々ながら溝の中で、仰向けになったりうつ伏せになったりを繰り返した。
しぃの体がまんべんなく汚れた所で、ギコはその行為を止めさせた。
「戻るぞ」

54 名前: 5/7 投稿日: 2003/03/27(木) 16:48 [ nlhi8yrQ ]
家に帰ると、ギコはしぃを浴室に連れ込んだ。
「今から声を出すな」
「ナンデ?」
「…」
ギコは無言でしぃの片耳をもぎ取った。
「ッ゙・・・!!」
さらに、片脚の膝から下も切り落とし、でぃの死体から奪った義足を取り付ける。
そして、頬にナイフで切り傷をつける。
「仕上げだ」
ギコはそう言うと、しぃの頭を浴槽の淵に何度も叩きつけた。
「アウゥ・・・」
しぃは耐えきれずうめいた。
それを聞いて、ギコは言った。
「よし、しゃべってみろ」
「ヒドイヨ、シィニ ナンテコトスルノヨ!コノ ギャクサツチュウ!」

55 名前: 6/7 投稿日: 2003/03/27(木) 16:49 [ nlhi8yrQ ]
「…」
ギコは言葉を失った。
そこにいたのは、でぃの外見を持った「だけ」の、バカなしぃだった。
言葉には表せない感情がギコの体を駆け巡った。

「ナントカイイナサイヨ!」
そこでまたブチ切れですよ…そんな言葉がギコの頭をよぎったが、
冷静にギコは言った。
「ちょっと待ってろ」

ギコは冷蔵庫の中から、偶然残っていた饅頭を取り出してテーブルに置いた。
そのかたわらのビンから白い錠剤を取り出し、力任せに饅頭にねじ込んだ。
そして、しぃの元へ戻る。

「こんなんじゃ許しちゃくれないかも知れないけど、食ってくれ。な?」
「ナニヨ!コンナモノ!」
しぃは饅頭をギコの手から奪って投げ捨てた。

ギコはこれ以上言うこともない、と思った。
饅頭は明らかに薬が入っていると分かるほど変形していたし、
あのしぃが冷蔵庫に偶然あった饅頭など食べるはずもないだろう。

56 名前: 7/7 投稿日: 2003/03/27(木) 16:50 [ nlhi8yrQ ]
しかしギコは、饅頭を丁寧に拾うと、嫌がるしぃの口にそれを押し込んだ。
白い錠剤の効果はじきに表れ、しぃは深い眠りに沈んだ。
それを確認すると、ギコはリビングの隅のデイパックを背負って、
しぃを抱きかかえたまま家を出た。

ゴミ捨て場に着くと、しぃの体を静かに横たえ、別れを惜しむかのように一瞥した。
そして、デイパックからボンドを取り出すと、しぃの体に塗りたくった。
その上に自宅の流しの生ゴミをばら撒いた。
そしてギコは帰途につく。

…あのまま放っておけば、生ゴミの匂いをかぎつけたカラスがやってきて、
しぃの体ごと生ゴミを食らい尽くすだろう。
そうでなくとも、外見はでぃと変わらないので、
でぃを目の敵にするしぃ達に殺されるはずだ。
あるいは、そこへやってきたモララーに、
自分に危害を加えているしぃもろとも殺されるか。
どちらにしろ俺の手は、これ以上汚れることはない。

全てを終え、ベッドに横たわって天井を見上げながら、思った。
「俺は卑怯な男なのだろうか?」
しかし、その思いも長くは続かず、ギコの思考は別の所へ移り変わっていった。
「俺は卑怯な男なのだろうか?」
そう思った「だけ」だったのだから。