ダコハ開放戦線

Last-modified: 2020-10-07 (水) 00:06:06
202 名前:MR 1/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:15 [ 9hLqKpvk ]
ダコハ開放戦線



1、[証言1] コンビニエンスストアー店員 モナ岡さん


あれは秋も深まった、土曜日のことです。
711の店員である私は、いつものように8時に出勤し、
朱色とクリーム色の制服に着替え、
コンピューターの画面に出たタイムカードを押し、仕事を開始しました。
この田舎町ではコンビは多くなく、土曜の昼時となると
どっとお客さんが来て、レジには長蛇の列ができます。

その日もそうでした。
手に手にお昼ご飯などを持ち、お客さんは自分の番が来るのを
今か今かと待っています。
私達もつり銭を間違えないように、気を遣いながら、会計を行っていました。
それは、ごくごくありふれた光景でした。
次の瞬間を迎えるまでは。

「ハニャーン ハニャーン!!」
「ハニャーン!!」
聞く者誰もが、このような音を発し、他人の鼓膜を振動させることは、
この世の如何なる騒音公害よりも悪辣であると、そう断言して
しかも微動だにたじろがないであろう、
徹頭徹尾媚びに媚びきった鳴き声が、店内を圧しました。
しぃでした。
しかも二匹。
奴らは頬の顔肛門を醜く高揚させ、口をワの字にし、
糞臭い足でこの店に侵入しました。
垢と有害細菌にまみれた手で、やおらカゴをむんずと掴むや
我が物顔で店内を闊歩し、
次々に商品をその中にぶち込んで行くのでした。

203 名前:MR 2/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:16 [ 9hLqKpvk ]
この臭い!!
しぃの体から発せられる、
えもいわれぬインクレディブルな悪臭に、
ある客は眉をひそめ、ある客はハンカチで鼻を覆うのでした。
中には買い物を止め、逃げるように帰る者もありました。
『さっさと追い出せ!』
無言の怒号が、お客さんから発せられるのが分かります。
しかししぃとはいえ、一応客は客。
ひとまず、静観することにしました。

「ハニャーン!! オイシソウナ食ベ物ガ イパーイ アルヨ!!」
「甘クテ柔ラカクテ 高級ナモノジャナキャ ダメダヨ!!」
お決まりのセリフを口走りながら、プリンだのエクレアだの、
スウィーツの類をやたら大量にかごに入れています。
やがて買い物が終わったのか、バタバタと足音を立て、
レジの前に立ちはだかりました。
彼奴らのミニマム脳は、列に並んでレジを待とう等という、
最低限の倫理的思考をもめぐらせられぬ程、下等なようです。
なんら悪びれる様子もなく、
先頭に割り込んできました。
次に会計を行うはずだった御老人は、しぃの傍若無人ぶりに閉口しつつも、
「お嬢さん方、順番を守って下され。」
と諭すように言いました。

「ウッサイワネ!! コノクソジジイ!!」
「シィチャンハ アイドル ナンダヨ! カワイインダヨ!!
ユズルノガ当タリ前ダヨ!! イヤ、 アンタミタイナジジイハ、
カワイイシチャント 口ヲキケタダケデモ 泣イテ感謝スルベキナンダヨ!!」
私は生まれてこの方、これ以上愚劣な発言を耳にしたことがありません。
こんな発言を本気でするのが、しぃなのです。
こんな連中が跋扈し、この国を食い荒らしているのです。
湧き上がる怒り、悔しさに私の手はわなわなと震えました。

204 名前:MR 3/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:17 [ 9hLqKpvk ]
こんな糞虫と、これ以上言葉を交わしてさしあげるほど
ご老人は奇特ではないらしく、何も言いませんでした。
が、次の瞬間でした。
「ハニャ!!」
突如しぃが件の媚び声を上げるや否や、
「ウンチサン シタク ナッチャッタ!!」
等とほざいてきました。
私は、便所はあっちにあるからさっさと行け、的なことを言いましたが、
そんな言葉を意に介さず、
奴は我々の思考能力のキャパシティを凌駕した、驚天動地の行動に移ったのです。
何と、四つんばいになり、口をへの字にし、
体中の体毛を逆立てて、気張り始めたではないですか!
馬鹿な!と思いました。
呆気にとられた私達は、奴の行為を止められなかったのです。

果たして、それは到来しました。
従業員4名、買い物客15名の衆人環視の中、
奴のアヌスから、この世の汚濁を極めた固形物が発せられ、
我々の網膜を焦がしたのです。

悪夢でした。
悲鳴と罵声が飛び交い、逃げ出す人々の中、
ソレから発せられる言語を絶する刺激臭に、
目をやられ、あるいは膝が崩れ、我々は適切な対応が出来ませんでした。
「ハニャーーーーン! トッテモ オイシソウナ コリコリウンチサン!!」
そんな声が聞こえた様な気もします。
くちゃくちゃと、何か柔らかいものを咀嚼する音もしたかもしれません。
気が付いたとき、奴らはいなくなっていました。
未会計の商品と共に。

205 名前:MR 4/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:18 [ 9hLqKpvk ]
2、[証言2] でぃリハビリセンター看護士 レモ奈さん


でぃとは、もともとはしぃです。
何らかの心理的、外傷的ショックにより、精神と身体に障害をきたしたしぃを、
でぃと、呼んでいます。

でぃになる原因の多くは、実は同族しぃによる虐待なのです。
怪我をしたり病気になった仲間を
「キモーイ! アンタミタイナ バッチイヤシハ シィ ジャナイヨ!!」
「バッチイ ディハ アボーン シナキャ!!」
と、集団で攻撃します。
昨日まで仲良くしていた仲間に疎外され、暴行を受けるショックは
如何ばかりのものでしょう。
多くは死んでしまいますが、希に生き残った個体がでぃとなるのです。

彼女らは、元のしぃには、戻れません。
ですがリハビリを行うことで、社会生活を営む能力を身に付けることができます。
事実、私達のリハビリセンターを卒業したでぃの多くは
就職し、あるいは就学し、第二の人生を送っています。
元々は社会の癌であったしぃが、
善きでぃとして生まれ変わり、人々の役に立つ存在となる。
我々リハビリセンター職員は、誇りを持ってこの仕事に取り組んでいます。

シィルも、私達のセンターに入院いていた一人でした。
決して忘れることはないでしょう。
あれはキンモクセイの優しい香りが漂う、とても穏やかな日でした。
社会生活に慣れる目的も兼ね、外出した私とシィルは、
彼女の好きなドーナツを買い、公園で食べようということになりました。

206 名前:MR 5/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:18 [ 9hLqKpvk ]
駅前のミスドで買い物を済ませ、センター近くの公園へと向かいます。
公園は道路から一段低い場所となっており、
階段を降りなければなりません。
シィルは左足が義足の為、私は彼女の手をとりました。
「アウ…レモナ…アリガトウ」
嬉しそうにドーナツの箱を抱え、微笑む彼女。
退院の時もそう遠くないだろう、と思うと
ふっと寂しい気分になりました。
ですが、そんな感情は次の瞬間にかき消されてしまいました。
「チョット ソコノ ディ!! ソノ ドーナツヲ 渡シナサイ!!」
「シィイイ! ディノ 分際デ ソンナ オイシソウナモノヲ! モウ 許セナイヨ!!」
しぃでした。
4、5匹はいます。よく見るとベビしぃもおり、
「チィチィ!! チィガ タベテ アゲマチュカラ チャッチャト ヨコチナチャイ!!」
等とほざいています。

(でぃ一人の時ならともかく、他のAAと一緒の時に襲ってくるなんて。)
初めてのケースに、私は当惑を隠せませんでした。
そしてまずいことに、私達はしぃに囲まれ、
逃げ道は下り階段しかありません。
連中のでぃに対する攻撃性は恐ろしいものがあります。
私は不本意ながら、連中にドーナツを渡してこの場をおさめようと考えました。
「シィル、それを渡しましょう。」
「アウ…デモ…セッカク レモナニ…」
「また買ってあげるから…ウッ!?」
突然後頭部に激しい痛みが襲い、私はその場にうずくまりました。
「フン!! ディノ味方ヲ スルヤシハ シィノマターリヲ ジャマスル ギャクサツチューダヨ!!
 ソンナヤシハ コウダヨ!!」
そう言い、何か棍棒のようなもので殴りつけてきたのです。
「ハニャーン オモシロソウ!!」
「シィニモカシテ!! シィモヤルノ!!」
他のしぃもこのリンチに加わり、激しい打撃の嵐が襲ってきました。
「ヤメテ…! レモナヲ イジメナイデ…!」
薄れゆく意識の中、シィルが私をかばうのが分かりました。
(早く逃げて!)
叫ぼうにも声が出ず、私は意識を失ってしまったのです。

207 名前:MR 6/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:19 [ 9hLqKpvk ]
気付いたときは病院のベッドの上でした。
私が目覚めたのに気付いた看護士が、
「大丈夫。全身を打撲していますが、骨には異常ありません。
 すぐ、退院できますよ。」
と、優しく言ってくれました。ですが、
「シィルは… 私と一緒にいたでぃは、大丈夫ですか?」
私のこの言葉に、看護士の表情は曇りました。

ドクター立会いの下、私が通されたのは霊安室でした。
寝台の上に横たわる亡骸。
面の白い布を外すと、それは紛れも無くシィルでした。
まるで眠っているかのよう。
しかしたちまちの内に閉じたまぶたは永遠に開かず、
絶えた息は永く戻りません。
その現実を認めたくない私は、
すがるようにドクターに顔を向けました。
「シィルさんは全身を激しく殴打された後、
階段から突き落とされたのです。残念ですが、運ばれた時にはもう…」
ドクターも、しかしそう言うしかなかったのです。
私は泣きました。
彼女を失った悲しみに、彼女を守れなかった悔しさに。
そして「シィノマターリ」とやらの為に、面白半分で彼女の命を奪ったしぃへの、
やり場の無い怒りを、どうすることも出来ませんでした。

208 名前:MR 7/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:19 [ 9hLqKpvk ]
3、しぃ対策法

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
  第12条の1 [令状主義より除外]
   しぃは司法官憲の発し、かつ理由を明示する令状によらずして
   逮捕することを得。

  第12条の2 [しぃの逮捕、刑罰の執行]
   しぃの逮捕、刑罰の執行は、国家権力によらずして行いうる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここ、したらば東警察署の会議室は、ただならぬ空気が漂っていた。
30人ほどのAA達は、長机に肘をついたり
パイプ椅子の背もたれにもたれかかったりして、雑談を交わしている。
しかしその表情に笑顔はない。
そんな殺伐とした部屋の引き戸が開き、3人の警察官が入ってきた。
「皆さん、お忙しい中ご苦労様です…」
一通りの挨拶と自己紹介が終わり黒板前に用意された長机に座ると、
中央に座ったギコ内という警察官が話を始めた。

「皆さんからのしぃに関する事件の捜査は、全て終了しました。
 実に17件。
 でぃの殺人事件、障害、コンビニエンスストアでの窃盗、不動産侵奪罪…
これ程沢山の犯罪を起こした例は、全国でも初めてです。」
集まったAAたちは、その話をじっと聞いている。
「これら全ては同一のしぃグループによる犯罪です。
 桜町3丁目の空き地を不法占拠し、そこを根城としているグループ、
 と言えば、皆さんはお分かりでしょう。」
やっぱりあの糞虫どもか、といったざわめきが起こった。
ギコ内は構わず続ける
「犯罪を普通のAAが起こしたなら、我々警察が逮捕し、
 裁判所が刑を決め、検察官が刑の執行をします。
 しかし皆さん、しぃ対策法はご存知ですね?」
そう言うと、黒板に「しぃ対法」と書きなぐった。

209 名前:MR 8/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:20 [ 9hLqKpvk ]
しぃ対策法とは、激増するしぃの犯罪に効率よく対処する為の法律である。
しぃは通常のAAとはみなされず、人権規定は及ばない。
これまで慣習的に、そういった対処が行われていたが、
この法律は、明文でそれを規定したものである。
なお、「糞虫狩り」もこの法律に根拠を得ている。
「そのしぃ対法12条には、警察じゃなくても、逮捕できるし、
 裁判所じゃなくても刑の執行ができると、書いてあるんです。」
そう言うと、ギコ内は椅子に座り、手を組んで人々を見やった。
「あの、つまりどういうことなんですか?」
最前列に座っていたモナー族の男が手を上げ、質問する。
「皆さん方で、糞虫ども好きなようにしていいってことです」
ギコ内は言い放った。
そう。
しぃ対法は「しぃは問答無用でエリミネートして構わない」と規定しているのだ。

それを聞いた聴衆は色めき立った。
彼らはしぃどもにより、甚大な被害を受けた。
「シィノマターリ」の為に、奪われ、踏みにじられた平和。
ただ己の快楽と利益のみを貪り、苦悩を垂れ流す。
今こそ、奴らへの復讐を果たすのである。

警察署から出てきた人々の顔に、先ほどの曇りはなかった。
ただ、全身からむき出しの憎悪をほとばしらせ、
得物を狩る猛禽類の如き目を、ぎらつかせていた。

210 名前:MR 9/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:20 [ 9hLqKpvk ]
4、Destroy them all


ここは半年前までは、空き地だった。
地主によれば、それまでは色々な建築会社の営業が来て、
なんとも対応が面倒だったそうだが、それもぱったりと止んでしまったという。
今、ここには異様な建築物が建てられている。
木造の柱にダンボールの壁を貼り付けた、ホームレスでも住んでいそうな家。
しかし一部は鉄骨に鉄板でガードされ、そこだけ異様な堅牢さを見せていた。
その家に近づいてみるがいい。
異様な臭いが鼻を突き、「ハニャーン」という
同人女に媚へつらった鳴き声が聞こえるだろう。
そう、ここはしぃの家だ。
先ほど警察署の話にあがっていた、犯罪しぃの棲家である。
ここには30匹ほどのしぃが暮らしていた。

その中の一室では、オカアサンしぃが、二匹のベビしぃに食事を運んでいた。
「ハニャーン ベビチャン ゴハン持ッテ来タヨ!」
皿には二個のロールケーキが乗っていた。
無論、金を出して買ってきたものではない。
糞を出して持ってきたものである。
「ハニャ? ドウシタノ ベビチャン?」
せっかくの甘くて柔らかい物なのに、ベビは少し口をつけただけで、
食べようとしない。
「ポンポン 痛イノ?」
オカアサンしぃが心配そうに顔を見ると、ベビは小さな声で言う。
「ママノ オパーイ ホチャーヨウ」
「ハニャ!! ソウダヨネ!! ママノオパーイノ方ガ 欲シイヨネ!!」
もう乳離れは済んでいるのだが、甘えたいらしい。
それが大変嬉しかったと見えて、オカアサンしぃは
口をヮの字にして寝そべり、手招きをすると
「チィチィ!!」
「ハナーン ハナーン!」
手にしていた皿を放り投げ、ベビは甘えた声を出してすり寄った。
ロールケーキは泥にまみれ、ベビのアンヨに踏みつけられたが、
そんなことは瑣末なことの様だ。

211 名前:MR 10/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:21 [ 9hLqKpvk ]
そんなとき、突如家屋が大きく揺れた。
「ハニャ!? 地震サン!?」
「コワーヨウ!!」
「マーマ マーマ!!」
ベビを懐に抱き、守りながら様子を伺う。
揺れは収まることなく、天井や壁が崩れてきそうな勢いだ。
「ト…トリアエズ シェルターニ 避難シマショウ!!」
ベビを抱え、オカアサンしぃは先ほどの鉄板張りの部屋へと走った。
建物内は、混乱の様相を呈していた。
「ジシンサン コワイヨー!」と、床にぺったり座り込み泣いているもの。
我勝ちに“シェルター”に避難しようと、口をへの字にして周囲を押しのけているもの。
恐怖におびえ、糞尿を垂れ流しているもの。
さらには、その糞を「ウンチサン オイシィ!!」と、喰らっている狂人もいた。
一部、ベビを連れた4、5匹のしぃが建物の外へと避難した。
「ハアハア オンモニ出レバ 大丈夫ダヨ」
「ソウダネ 安心ダネ」
やれやれと胸をなでおろす。
「キチィイイイイイイ!」「ピィイイイイイイ!」
生まれたてのベビが、緊張がほぐれた為かぐずり始めた。
「大丈夫ダヨ ベビチャン 今オパーイ アゲルカラネ」
腹ばいになり授乳しようとするオカアサンしぃ。
通常、ここからベビを中心としたマターリがしぃ達を包む。
「シィノベビチャン カワイイベビチャン」という式のアレである。
が、それは訪れなかった。
なぜなら、驚くべき光景を目の当たりにしたからである!
「シィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイ!!」
屈強な男達が、大きなハンマーを持ち、しぃの家を破壊しているのだ。
さっきの揺れは地震ではなかったのである!

「いやー、さすが日ブ工はいい仕事するねえ。」
「こんなあばら家、スチールボールを出すまでもないモナね。」
その様子をニヤニヤしながら見守っている、30人前後の団体がいた。
面々は、警察署にいた人たちとほぼ等しい。
そう、彼らはやってきたのだ。
しぃどもを殲滅する為に。
「シィイイイ!! シィイイイノオウチーーー!!」
「シィノオウチヲ 壊サナイデー!! オナガイダカラ ヤメテーーー!!」
外に出てきたしぃどもは、ハンマーを持った男達にすがりつき、
止めるよう懇願する。
「うるせえ!」
「シィイイイイイイイイイイイイ!!」
シィノポンポンを一蹴し、男達は作業を続けた。

212 名前:MR 11/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:21 [ 9hLqKpvk ]
いわゆるシェルター内では、20匹強のしぃが避難していた。
一体何が起こったのかと、皆不安げである。
そんな中、リーダーと思しきしぃが前に立った。
「皆サン 大事ナ オ話ガ アリマス。
 静カニ 聞イテ下サイ!」
皆、そのしぃに注目する。
「先ホドノ 揺レハ 地震デハナク、ギャクサツチューノ 攻撃ノヨウデス!!
 ソシテ 残念ナガラ シィチャンノ マターリハウスハ 壊サレテ シマッタヨウデス…」
静まっていた室内が、にわかに騒然となった。
あちらこちらで「ビエーーン」という泣き声が聞こえる。
地団駄を踏み、大地に五体をなげうって嘆くものもいた。
「シカシ ミナサン! 大丈夫デス!!
 コノ部屋ハ 厚サ5cmノ 鉄板デ覆ワレテイマス。
ソレニ 私達ニハ ダコハ開放戦線ノ バックアップガ アリマスシ
 何ヨリ マターリノカミサマガ ツイテイルデハ ナイデスカ!」
その言葉に、しぃ達は顔色を取り戻した。
口々に「マターリノカミサマ」と唱えている。
一種の宗教心による一体感、
信仰による陶酔に似た雰囲気が、辺りをつつんだ。
「何ヲ 恐レルコトガ アルデショウ!
 マターリノ象徴デアリ 2chノアイドルデアル シィチャンヲ迫害スル ギャクサツチューコソ、
マターリノカミサマノ 天罰ニ触レテ 滅ビルノデス!!」
ハニャーンの鳴き声とともに、部屋中から拍手が巻き起こった。
「ソウダヨネ! シィチャン達ニハ マターリノ カミサマガ ツイテルンダヨネ!」
「マチャーリ マチャーリ チィチィチィ!」
「ハニャ! ベビチャンタラ!」
現実は何の解決も、進展も見せていない。
マターリの神様とやらの信仰に逃げ、
ありもしない加護に陶酔して真実を諦観しない。
だが、現実はそんなしぃどもの愚昧で能天気な態度とは、関わりが無い。
刻一刻とせまる破滅の時期。
事態は深刻の度合いを深めていった。

213 名前:MR 12/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:22 [ 9hLqKpvk ]
「ソレニ ブ厚イ 鉄板ノコノ部屋ナラ 絶対大丈夫ダヨネ!!」
「今頃 ギャクサツチューハ ドウシヨウモナクテ 悔シガッテルヨネ」
堅牢を誇る自慢の“シェルター”に絶大な自信を覗かせる。しかし、
ギュイイイイイイイイン!
突如、金属が擦れる音と共に、部屋の壁に火花が散った。
「シィイイイ!?」
その火花は、細い溝を作りながら部屋の壁をゆっくりと進んでいる。
「ソンナ ヴァカナ? コノ部屋ハ ブ厚イ鉄板デ 出来テルンダヨ!?」
だが、被害者住民達が呼んだ日ブ工にかかれば、
鉄板を切断することなど、赤子の手をひねるようなもの。
H鋼をもやすやすと両断するダイヤモンドカッターは、
その銀色のブレードで、しぃ達の自信とともに
シェルターの壁を切り裂いた。
顔色なからしむ程の恐怖が、しぃ達を覆う。
まさか文字通り鉄壁のシェルターが破壊されるなど、夢にも思わなかったのである。

高さ2m、幅4mの長方形型を描いたところで、
火花はぴたりとやんだ。
やがて轟音とともに、鉄の壁が倒れこんできた。
もうもうと上がる砂煙。
あの壁穴の向こうには、大勢の虐殺厨が…
そう思うと、しぃ達は失禁せんほどに戦慄したし、実際失禁した。
ところが、砂煙がやんで視界がクリーンになったが、
どういうわけか誰もいない。
穴からは、外の風景が見えるばかりである。
と、そこへ5~6個、何かが転がり込んできた。
「ハニャ? ナニ コレ?」
傍にいた者がその一つへ恐る恐る近づくと、それは何と、
仲良しだったシィミちゃんの頭部ではないか!!
「シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!?」
「ヒシィイイ! 頭ガ頭ガ 転ガッテキタヨーーーー!!」
「シィイイイイイ!! ナニコレーーーーー!! ベビチャンガ ベビチャンガーーーー!!」
他の物体も同じくしぃの頭部であった。
その中の一つは、生まれたばかりのベビ3匹のマソコに竹串が通され、
団子三兄弟もかくやといった代物であった。
そう、この頭は、先ほど外へ逃げ出した連中のなれの果てである。
この先制攻撃で、しぃ達はパニックに陥った。
そしてこの機に乗じ、住民が阿修羅の如く暴れこんできたのである!

214 名前:MR 13/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:22 [ 9hLqKpvk ]
まさに鬼だった。
怒りと憎しみの権化と化した住民たちは、
火達磨となって突入し、阿修羅の如くしぃどもを屠った。
その表情は、烈火の憤怒と復讐の寛喜がないまぜになった、
筆舌には形容し難いものである。
「糞虫が!糞虫が!糞虫が!糞虫が!糞虫が!糞虫が!糞虫が!糞虫が!糞虫が!」
出産を間近に控えた妻がしぃに暴行され、愛児を失ったモララーは、
仇を発見するや、金属バットでとりつかれたように殴打を繰り返した。
そのしぃの顔面は、最早前後を確定できぬほど膨れ上がり、
眼窩からは涙と血と脳漿が流れ出て、びくんびくんと痙攣している。

「俺の店を台無しにしやがって!」
コンビニ店員のモナ岡は、ナイフでシィノオミミを切り落とした。
「シィイイイイイイイノ オミミーーーーー!!
オ…オナガイシマス! ダッコスルカラ 許シテ クダサイ!!」
この条件を飲んで許した奴など、古今唯の一人もいない命乞いをするしぃ。
「ほう。なら商品の代金と清掃代に慰謝料、しめて300万エソ払ったら
 許してやるよ」
「ナアーーンダ ソンナノ オヤスイ ゴヨウダヨ!!」
意外な返答と共に、貯金通帳を差し出す。
それには確かに、300万エソ以上の残高が残っている。
しかしよく見ると、それは前述したモララー夫人の名義ではないか!
このしぃも、夫人襲撃に加担していたらしい。
「この…くされ外道がーーーーーーー!!」
モナ岡は前後を忘れてナイフを繰り出した。吹き上がる血しぶきが
彼の体を赤く染めた。

「フン アンタミタイナ 下品ナ娘ガ コノシィチャンヲ 倒セルカシィイイイイイイイ!?」
パンという乾いた音と共に、しぃの膝が崩れた。
レモ奈の手には拳銃が握られ、白煙がたなびいている。
「ア…アンナ キモイ ディハ 生キテル シカクナンテ ナインダヨ!!
 シィチャンノ イメージヲ 悪クスル ディハ アボーンサレテ 当然ナノニーーー!!」
パン、パンと数回音がするとシィノオテテとアンヨから血が迸った。
「すぐには殺さないわ…。シィルと同じ苦しみを味わわせてあげる。」
無表情のまま、つぶやく様に言う彼女の瞳から、
涙がこぼれ落ちた。

215 名前:MR 14/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:23 [ 9hLqKpvk ]
次々に殺されてゆく仲間達を尻目に、先ほどのリーダーしぃは
逃げ出そうとしていた。
が、すぐに見つかり、羽交い絞めにされた。
それはあの警察署で話をしていた、ギコ内であった。
「ナ…ナンデ コンナメニ
シィハタダ マターリ シタイ ダケナノニーー!!」
バタバタと手足を動かし、ビエーーーンと泣き出した。
「お前ら、ずいぶんと好き勝手やってくれたなあ。
 しかし、この部屋はなかなかのもんだな?お前らが作ったのか?」
「チ…チガウヨ コレハ ダコハノ 皆ガ 作ッテクレタノ」
それを聞くと、やはりな…と一人ごちた。
「ダコハ解放戦線の奴とは、どこで知り合ったんだ?」
「アッチカラ オカネヲ 持ッテ来テ クレタノ!
 コレデ シィチャンノ オウチヲ 作リナサイッテ! ダカラ マターリハウスヲ ツクッタノ!!」
ギコ内はそこまで聞くと、これ以上の情報は得られないと判断し、
束縛をといた。
「お前らのマターリとやらの為に、どれほどの血が流れ、
 どれほどの人々が涙を流したのか。
 お前らが考えを改めない限り、こんなことは延々と続くんだ。
 なぜそれが分からない?」
「シィチャンハ 悪クナイモン! タダマターリシタイ ダケダモン!!」
「自分がマターリしさえすれば、他人のマターリはどうなってもいいのか?」
「当タリ前ダヨ!! シィチャンハ アイドル ナンダヨ!?」
ふー、と溜息をつくと、ポケットからセブンスターを出し、口にくわえた。
「逃げてみろ。タバコを吸う間だけ、待ってやる。」
「ハ…ハニャーーン!!」
しぃは大急ぎで逃げ出した。

「ビエーーン ナッコ ナッコ!!」
頭部を粉砕され、脳髄を垂れ流すオカアサンしぃの脇で、
二匹のベビが泣きわめいている。
小さなピンクの尻尾を振り振りしながら、乳房に口をつけ、
先ほど飲んでいたミルクを欲したが、それはかなわなかった。
ベビだけ残されたのは、さすがに殺すに忍びなかったからなのだろう。
そのベビは逃走中のリーダーしぃを発見した。

216 名前:MR 15/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:24 [ 9hLqKpvk ]
「ナッコ! ナッコ!」
「マンマ! マンマ!」
リーダーしぃの足元にすがるベビ。
もう殆どのしぃは殺され、累々たる屍骸が血の臭いを発している。
この地獄でオカアサンしぃを失ったベビは、必死であった。
「ウザイベビネ!! ジャマヨ!!」
ガン、とベビの頭を蹴り飛ばす。
「ギジィイイイイイイイイ!!」
「イジャアアアアアアアアアア!!」
床に落ち、ビエーーーンと泣き出すベビ。
その泣き声を聞き、一人がその方向を向いた。
「シィイイイイイ!! ミツカッチャッタヨーーー!!」
猛ダッシュをかけるが、足元に気が回らずベビを踏みつけてしまった。
「ゴヴェーーーーー!!」
ベビの腹にしぃの全体重がかかる。みちみちと何か潰れる音がし、
口から大量の血反吐が吹き出た。
先ほどオカアサンしぃに舐めてもらった肛門から、血便がほとばしる。
リーダーしぃは転倒した。
起き上がると、すでに数人に取り囲まれていた。
「シィイイイイイイイイイイ ダッコスルカラ タス…」
お決まりのセリフを言い終わる前に、脱骨を決められ、死んだ。

部屋の中には、凄まじい血のにおいが漂っていた。
終わってみれば、生き残ったのはベビ一匹。
地獄を髣髴とさせる凄惨な光景。
「シィノマターリ」が行き着いた末路にしては、あまりにも悲惨に過ぎた。
全てが終わった住民達の表情には、脱力感にも似た疲労がにじんでいた。が、
「これで、やっと元の生活に戻れるんだな…」
誰かが言った。それは、平和を取り戻した喜びの言葉である。

ギコ内はタバコをくゆらせながら、その場を去った。
その腕の中には生き残った一匹のベビが。
泣き疲れて眠っている。
「この糞幼虫、試してみるか」
タバコを捨て、車に乗り込む。
差し込む夕日に目を細め、エンジンをかけた。

217 名前:MR 16/16 投稿日:2004/11/07(日) 17:24 [ 9hLqKpvk ]
5、しぃ綱紀粛正委員会

都心を見下ろす高層ビルの一角に、その部屋はあった。
接客用のソファに座らされたギコ内の前には、
どっかりとモララーが座っている。
「ギコ内君、君の報告書、大変興味深く見せてもらったよ」
がっしりとした体格で、オーラの様な圧倒的な存在感を漂わせていた。
「また、表立って動かねばならない時が来たようだな。」
「ダッコ革命党以来ですね。」
「書類にハンコを押すだけの仕事には、飽き飽きだからな。」
「それが上に立つ人の仕事ってもんでしょうに。」
ここは「しぃ綱紀粛正委員会」の委員長室。
同委員会は、国際的かつ大規模な、しぃ犯罪に対抗する為の組織である。
かつてこの国では、「ダッコ革命党」なるしぃ犯罪組織があった。
委員会は、その壊滅の立役者となり、一躍世間の注目を集めた。
最近は、他のしぃ犯罪組織を監視、調査しているため、
水面下での活動を主にしている。
「ギコ内警視正、警察との橋渡し役に君を選んだのは、間違いではなかった。」
「恐縮です。」
頭を下げるギコ内に、モララー族特有のニヤニヤした顔を向けた。
「ダコハ解放戦線。この国にも、その手を伸ばしてきたか。」
ゆっくり立ち上がり、ブラインドを指で下げ、窓の外を眺める。
「テロしぃめ、好きにはさせないからな!」
昔の刑事ドラマみたいなことを平然とやってのける委員長に、
ギコ内は妙な親しみを覚えるのだった。


                            <to be continued>


( ´Д` )氏中心とする職人方、紅衛兵氏の作品からお名前を拝借しました。
お名前をお借りしたばかりであり、これらの作品とは一切関係ありません。
もちろん、続編でもありません。
全く別の物語として読んで頂ければ幸いです。