278 名前: 缶(BCDhnK6I) 投稿日: 2003/02/15(土) 22:11 [ bK8b1opM ] >>248さんスマソ。 太字は削除するしか方法が無いのでこうさせてもらいました。 「チョコレート」 作 248氏 彼女は、『それ』にかわいらしいリボンを添えると、ざわめいた街に出る。足早な人の波は、笑顔で溢れていた。 彼女―しぃもまた、彼らほどはっきりとしてはいないが、かすかに頬を緩め、街を駆け抜けていった。 その日は、乙女たちの関ヶ原…バレンタインデーだった。 まぶしいネオンに照らされて寄り添う恋人たち…あるいは、突き伏せられた騎兵のように項垂れる独り者。どこにでもあるような街の中に、数々のドラマがあった。 しぃはどこへ向かうのか。普通ならば指定されるだけでそこだと分かるような場所で、思い人を待つのだろうが、彼女は違った。輝かしい街並みをすり抜け、弾き飛ばし、外れを目指していたのだ。 「シィハ キット アノヒトニ 『コレ』ヲ ワタスンダ…」 彼女がやって来たのは、ビルに勝るとも劣らないネオンを放つ橋の下。都会に流れる河原だった。 そして、そこに待っていたのは…。 >>249へ続く 249 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/14(金) 23:02 [ vfwMHQCM ] 無理でしたすみません 「やあ、しぃちゃん…」 「ゴメンナサイ…オソク ナッチャッタ…」 「いや、気にしなくていい。漏れも今来たところだ。で、何の話だい?」 何の変哲もない、絵に描いたようなやり取りが始まる。他愛のない世間話、ムカつくヤツの話、などなど。本当なら、このまま彼との時間を共有し続けたい。このまま、何の意味もない、毒にも薬にもならぬ話を続けていたい。 だが、そんな話を続けても、その話題は必ず話し終えられるときが来る。そうなると彼女はまた何の脈略もないネタを振って、拙い雑談を始めてしまうのだ。 痺れを切らしたのか、その男―モララーは、若干眉をしかめて言った。 「なぁ、それで君は何を言いたいんだYO?」 250 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/14(金) 23:03 [ vfwMHQCM ] その瞬間、しぃの心臓が弾丸を打ち込まれたように震えた。必ず、このときは来ると、分かっていたはずなのに。 本題に入ろうとすると、足が震え、顔は紅潮し、熱くなってしまう。言語中枢がオーバーヒートを起こしたかのように、得意な『半角マシンガン喋り』ができなくなってしまう。 「ア、アノネ…」 一方のモララーは、もう彼女が大体何を言いたいのか分かっていた。 どうせ「ギコクンニ ワタシテ!」ってところだろう、若いな…。 顔を赤らめるしぃを自分の娘のようにぼんやりと眺めていた。 しかし彼は、おかしなことに気付く。彼女の白い手には、『例のアレ』が握られていない。そして良く見ると、少し手をかけただけで、ぽろりともげてしまいそうな耳に、ピンク色のリボンが結ばれているのだ。 「モララーサンニ コレヲ…」 「漏れに?」 ギコじゃなくて漏れに―――重いがけぬ展開に驚いたが、それ以上に彼は、しぃが想いの結晶―チョコレート―を持っていないことに対する怪訝な気持ちが拭えなかった。 251 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/14(金) 23:03 [ vfwMHQCM ] 彼女は、モララーに手を差し出すことは無かった。その代わり、頭を垂れてリボンの巻かれた耳を彼に向けた。 「どういうつもりだ…?」 しぃの視界には河原の石しか映っていないが、動揺していることは声調から読み取ることができた。 「キョウコソ、ワタシタチ『シィ』ノ シメイヲ マットウ スルトキダト オモイマシタ。ダカラ モララーサンニ、ワタシヲ アゲマス」 モララーには、彼女のその言葉は、文章的には不器用だが、自分に対する告白なのだと解釈した。「しぃの使命」という言葉の意味までは、解することができなかった。 「気持ちはありがたいけど…しぃの使命ってどういうことだYO? 人を好きになることは義務でもなんでもないんだYO?」 するとしぃは、きょとん、と頭を上げて、モララーを見る。その姿を見て、彼が「ハァハァ」するよりも先に、しぃは言葉を発した。 「ドウシテ? 『シィハ ギャクサツ サレテ ミンナノ ストレスヲ カイショウ スルタメニ ウマレテ キタノデス』ッテ、ガッコウノ センセイガ イッテタノニ」 その言葉を聞いた途端、モララーから、蘇り始めた青臭い感情が吹き飛んだ。そして、震えた声で尋ねる。 「しぃちゃん、どこの学校に通ってるの?」 「アブコウ ダヨ」 モララーの顔が凍りついた。 アブ校。正式名称は『アブノーマルネタ専門モナー学校』。しぃやちびギコ、ぃょぅなどの被虐民族の洗脳を専門とした、2ch有数の教育機関である。これには少し説明が要るだろう。 マターリ・平等思想の普及により、しぃやちびギコ、ぃょぅまでもが、自らの権利を主張するようになった。市民のストレス解消法であった『虐殺』にも彼らは反発した。そのため、おおっぴらに殺れなくなってしまう危険があったのだ。 これではストレスが鬱積され、犯罪件数が増加することも十分考えられる。そこで、『2ch虐友会』が中心となって設立されたのだ。 「シィガ バレンタインノ チョコレート デス」 こんな場面でなければ―彼女がアブ校生でなければ―このセリフはあまりにも眩しいものであったろう。 けれど…。 河の鼓動(ながれ)がざあざあと、狂乱のバレンタインデーを祝福していた。 252 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/14(金) 23:04 [ vfwMHQCM ] ぶちっ その次の光景は、予測されうる美談とはかけ離れていた。 モララーはしぃの、風に吹かれただけで舞い落ちてしまいそうな木の葉を思わせる耳をつまむと、渾身の力をこめて引っ張った。 肉と肉が離れる音とともに、丸みをおびた河原の石に、紅い雫が零れ落ちた。 「シィィィィィッ!! シィノ オミミィィィ!!」 彼女はその場に倒れ込み、がらがらと石の音を立てて暴れた。 しかしモララーは気遣う様子はない。 「済まない、包み紙を乱暴に剥がすのは失礼だったね」 そう言って、残された片耳の、かわいらしく結ばれたリボンを解く。 「それじゃ、本番だYO」 「イタイヨウッ…イタイヨウ…!」 彼女は、ちぎれた耳のあとを、手を真っ赤に染めながら押さえて立ち上がる。 するとモララーは、河原の石を拾い上げ、野球のピッチャーのフォームで彼女に投げつける。 ぼきん 石はしぃの右手に命中する。骨が砕ける音を知覚してから、それが痛いということに気付くまでに、コンマ数秒を要した。 一瞬の混乱の表情は、一気に苦悶へと切り替わる。 「シギャァァァァァァ!! シィノ オテテガー! シィノ オテテガ オレチャッタヨーーーー!!」 「あ~あ、セカーク立ち上がったのに…」 痛みのあまり、じたばたと暴れているうちに、石の下に巣くう砂が剥き出しになっていた。彼女は、砂と血で顔を汚しながら、「シィノ オミミ」「シィノ オテテ」と叫んでいた。 彼は彼女のそばでしゃがみこむと、のた打ち回るしぃを押さえつけ、口に彼女から奪った耳を押し込む。 「シィノオミミだYO、返してageるYO」 「モガモガ…」 モララーは、血からづく出それを飲み込ませようとする最中、あることを思い出した。石をぶつけて、彼女の右腕を叩き折ったが、ちぎれていないではないか。 彼は、しぃの口に耳を押し込むのをいい加減のところで中断し、ヌンチャクのように曲がる彼女の右腕に陣取った。 しぃは、口元から血と涎の混じった液体をこぼしながら、だらしなくシィノオミミを覗かせていた。 253 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/14(金) 23:04 [ vfwMHQCM ] 「きちんと始末してageるYO!」 ばきんっ モララーの、宣告と掛け声を兼ねた言葉とともに、勢いよく血が飛び散る。彼女の、へし折れた右腕が離れたのだ。 新たなる激痛のあまり、しぃは口元に垂れるシィノオミミに歯を突き立ててしまう。 ぐちゅっ 「ウッ…ギィィッ…」 「(・∀・)イイ! ギャクサーツ(・∀・)イイ!」 「シィィィィィィ……」 「もいっちょ!」 モララーは彼女の右足に手を伸ばすと、120度近くの角度で捻り上げた。 「キィィィィッ…」 骨が軋む音が、彼女の足を握る手から伝わる。 ごきん 「…!! シィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 その瞬間彼女は、無事な左手と左足を、自滅行為とも取れる勢いで河原に叩き付けた。右の手足が動かせない分、左半身でばたついた。 「シィッ! シィィィィッ!! シィノォォアンンヨォガァァァァァァア………」 狂乱のロマンスは、次第に更けてゆく夜に比例して、激しさを増していった。 254 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/14(金) 23:05 [ vfwMHQCM ] しばらく右足を痛めつけていると、ガラガラヘビに噛まれたかのような毒々しい色に染まった。つい先ほどまでは風に揺らぐ柳のように細かったのに、今ではモララーと変わらないほどに膨れ上がっている。 「これは危険な状況だ…すぐに切断せねば…ウム」 モララーは少しおどけたように独り言を呟き、『真っ青な巨木』を両手で掴むと、力いっぱい引く。だが、そう簡単にはちぎれない。しぃの体ごと、ずりずりと引きずられた。 「シィ…ィィ」 「これは面白い! 引きずり回してくれる!」 モララーはそういうと、彼女の足を掴んだまま、運動場をローラーで整備するように河原を走り回る。 石と石の摩擦音が、しぃのすっかりか細くなった声と混じりあい、合唱団も顔負けの美しいハーモニーを奏でた。 カリカリ…カチャカチャ…ガチガチ 「シィィィ…ウギィィィィ…」 そして、モララーの額に汗が滲み始めた頃、もはや原形をとどめていないしぃの右足は、ようやく胴体から切り離された。 「シィノ アンヨ…アンヨアンヨアンヨォ…」 255 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/14(金) 23:05 [ vfwMHQCM ] 時は更に流れた。 しぃは再び、大声で泣き叫んでいる。モララーは大きな岩に腰掛けて、満足げにそれを眺めていた。 日付が変わる頃には、彼女は両耳、両手、両足をもぎ取られ、完全な達磨と化してしまったのだ。 「シィィィィ!! オテテトアンヨトオミミガァーーー!!」 「はははっ」 モララーは爽やかに笑うと、岩から立ち上がり、彼女に歩み寄った。 そして。 「シィィ! シィィィーーー――― 「だーるまさんが こーろんだッ!!」 ―イイハガァァァウ!!」 サッカーボールの要領で、喋る肉塊と化した彼女を蹴っ飛ばした。河原の石にめり込み、砂の道を拓きながら、遠くまで飛ばされていく。 狂気の宴は、モララーに潜む虐殺魂が満足を覚えるまで続いた。 256 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/14(金) 23:06 [ vfwMHQCM ] それから、どれくらいの時が流れただろうか。 モララーの虐殺魂は鎮まりつつあるが、夜の市街地はいまだに賑やかなままだ。 その時既にしぃは、不覚にも萌えてしまったあのときのかわいさなど消え失せ、ウゾウゾと動く巨大な毛虫になっていた。 『モララー』とて、この様子を見ると憐憫の情を禁じえない。少しでも苦しみを軽減してやろうと、彼は思う。 そこで彼が手にしたのは、これまでの行為の巻き添えで叩き割られ、縁のとがった石だ。これを使い、しぃの大脳を除去してしまえば、これ以上彼女を苦しめることはない。 「しぃちゃん、もう苦しまなくていいYO…」 モララーは、うっすらと紅く染まった石を、そっとしぃの後頭部に当てた。 「ヤメテ…シャベレナク ナッチャウヨ…」 「何?」 これ以上、何を喋るというのだ。ぎゃあぎゃあ叫ぶだけで精一杯で、それすらもできなくなりつつあるというのに。 「意地を張らなくて(・∀・)イイんだYO…漏れ、ナイフとか持ってきてないから、なぶり殺しにしかできないんだ。そろそろ満足なんだけど、それじゃバツが悪いから…」 「ソウ…マンゾク シテクレタノ…」 「しぃちゃんが、心を…魂を込めて作ってくれたチョコレート…とても美味しかったYO! だけど、食べた後の始末はちゃんとやらないとね!」 「ソウ、オナガイ…」 しぃの声は、地獄の鬼でも目を覆いたくなるような虐待を受けていたにもかかわらず、理性的で、満足げだった。 チョコレートに託した想いは、確実に受け止められていると分かったからであろう。 彼女は、更に続けた。最後の言葉、だった。 257 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/14(金) 23:06 [ vfwMHQCM ] 「モララーサン、サイゴニ オネガイガ アルノ」 「なんだい?」 「ホワイトデーノ オカエシハ…」 そこまでいって、彼女は口ごもる。はにかんだつもりなのだろうか。今日がもし、平凡なバレンタインデーだったなら…。 モララーは、何かをやり遂げた達成感とともに、大切な出会いを自ら蹴ってしまったかのような、かすかな悲壮感を覚える。 「ホワイトデーノ オカエシハ…… 『 オ ハ カ 』ガ イ イ ナ … 」 「うん、わかった」 モララーは、力強く、男らしく頷くと、消えかけたしぃの灯火に、とどめの息を吹き始めた。 乙女たちの関ヶ原、バレンタインデー。 一組の新たなカップルの、最初で最後の夜だった。