104 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/05(水) 20:05 [ EHfv0GNE ] ヒッキーはさも憂鬱そうに、柵の中に入った。 血肉に濡れた草。血潮をタップリと吸った大地。 そこに、すでに恐怖に顔をゆがめたちびギコ達が身を寄せ合っている。 さて、この大会は武器、道具は自由に持ち込める。 ただし、暗黙のルールとして柵の外の観客に怪我を負わしてはならない。 ヒッキーは自前の道具、小瓶を取り出すと係りにちびギコ達の追加を頼んだ。 「え、でもまだ獲物は生きてますよ? 何匹入れるんです?」 「三一匹おながいします……」 三一匹殺せば、ヒッキーはモララーの記録に勝ち、優勝賞金がもらえる。 ヒッキーはちびギコ達に向き直ると、穏やかな口調で話しかけた。 「僕は君達をマターリさせに来たんだ……。 この水はマターリの神様がくれた水。飲めばマターリできるよ……」 これには会場全体がどよめき立った。 「マ、マターリしたいデチ!!」 「ハァ? 何言ってんのかわかんねぇよゴルァ!!」 柵の中からは賞賛が、外からは罵声がヒッキーに浴びせられた。 ヒッキーは無言でちびギコ達に小瓶を渡した。 「これでマターリできマチか?」 キラキラと活力に満ちたちびギコの瞳。 その瞳の輝きは、やっと見つけた希望による物だった。 ヒッキーはその輝きから目をそらした。 ちびギコ達全員が瓶の中身を飲み干すまで、罵声は止まなかった。 が、数分後罵声はピタリと止んだ。 ちびギコの体に異変が現れたのだ。 眠るように次々と倒れていった。 ヒッキーがマターリの水と称して飲ませた物。 それは、毒薬の一種だった。 105 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/05(水) 20:06 [ EHfv0GNE ] 殺した数は、ヒッキーが一番だった。そう、一番だったのだ。 それなのに……。 優勝したのはモララーだった。 ヒッキーの破れた理由。 それは、彼のしたのは虐殺ではないという意見が出たからだ。 最後までマターリを信じて、苦しまずに逝ったちびギコ達。 これは虐殺なのかと意義を唱える者が多数いたのだ。 ヒッキーは何も言えずに自宅に帰った。 暗くて冷たい部屋の中、独りロープを手に持っていたその時、 一匹のちびギコが窓から飛び込んできた。 「いきなり入ってきてゴメンデチ。 でも貴男がマターリの水を持ってると、風の噂でききマチた。飲ませて欲しいデチ」 ヒッキーは自嘲的な笑みを浮かべると、そのちびギコに小瓶を差し出した。 笑ったのは何年ぶりだろうなどと、 おぼろ気に考えながらヒッキーはロープを天井から吊した。 「何してるデチ?」 「僕は君と違って、その水を飲むより、こうした方がマターリできるんだよ……」 暗い部屋、明かりはTVのブラウン管。 陰鬱な光は照らし出す。 二つの死体。 畳の上に横たわるちびギコ。 空に吊されたヒッキー。 虐待、虐殺の恐怖に怯える日々を過ごしてきた者。 社会からつまみ出され、孤独な日々を過ごしてきた者。 死こそ、彼らのマターリだった。 残ったのは死体と借金だけ、功績も名前も残さずヒッソリと消えた二つの命。 珍しいことではなかった。よくあることだった。