ヒッキ―の生き残りのための戦い 3

Last-modified: 2015-06-06 (土) 00:38:03
104 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/05(水) 20:05 [ EHfv0GNE ]
ヒッキーはさも憂鬱そうに、柵の中に入った。
血肉に濡れた草。血潮をタップリと吸った大地。
そこに、すでに恐怖に顔をゆがめたちびギコ達が身を寄せ合っている。
さて、この大会は武器、道具は自由に持ち込める。
ただし、暗黙のルールとして柵の外の観客に怪我を負わしてはならない。
ヒッキーは自前の道具、小瓶を取り出すと係りにちびギコ達の追加を頼んだ。
「え、でもまだ獲物は生きてますよ? 何匹入れるんです?」
「三一匹おながいします……」
三一匹殺せば、ヒッキーはモララーの記録に勝ち、優勝賞金がもらえる。
ヒッキーはちびギコ達に向き直ると、穏やかな口調で話しかけた。
「僕は君達をマターリさせに来たんだ……。
 この水はマターリの神様がくれた水。飲めばマターリできるよ……」
これには会場全体がどよめき立った。
「マ、マターリしたいデチ!!」
「ハァ? 何言ってんのかわかんねぇよゴルァ!!」
柵の中からは賞賛が、外からは罵声がヒッキーに浴びせられた。
ヒッキーは無言でちびギコ達に小瓶を渡した。
「これでマターリできマチか?」
キラキラと活力に満ちたちびギコの瞳。
その瞳の輝きは、やっと見つけた希望による物だった。
ヒッキーはその輝きから目をそらした。
ちびギコ達全員が瓶の中身を飲み干すまで、罵声は止まなかった。
が、数分後罵声はピタリと止んだ。
ちびギコの体に異変が現れたのだ。
眠るように次々と倒れていった。
ヒッキーがマターリの水と称して飲ませた物。
それは、毒薬の一種だった。

105 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/05(水) 20:06 [ EHfv0GNE ]
殺した数は、ヒッキーが一番だった。そう、一番だったのだ。
それなのに……。
優勝したのはモララーだった。
ヒッキーの破れた理由。
それは、彼のしたのは虐殺ではないという意見が出たからだ。
最後までマターリを信じて、苦しまずに逝ったちびギコ達。
これは虐殺なのかと意義を唱える者が多数いたのだ。
ヒッキーは何も言えずに自宅に帰った。
暗くて冷たい部屋の中、独りロープを手に持っていたその時、
一匹のちびギコが窓から飛び込んできた。
「いきなり入ってきてゴメンデチ。
 でも貴男がマターリの水を持ってると、風の噂でききマチた。飲ませて欲しいデチ」
ヒッキーは自嘲的な笑みを浮かべると、そのちびギコに小瓶を差し出した。
笑ったのは何年ぶりだろうなどと、
おぼろ気に考えながらヒッキーはロープを天井から吊した。
「何してるデチ?」
「僕は君と違って、その水を飲むより、こうした方がマターリできるんだよ……」

暗い部屋、明かりはTVのブラウン管。
陰鬱な光は照らし出す。
二つの死体。
畳の上に横たわるちびギコ。
空に吊されたヒッキー。
虐待、虐殺の恐怖に怯える日々を過ごしてきた者。
社会からつまみ出され、孤独な日々を過ごしてきた者。
死こそ、彼らのマターリだった。
残ったのは死体と借金だけ、功績も名前も残さずヒッソリと消えた二つの命。
珍しいことではなかった。よくあることだった。