ブギーマン

Last-modified: 2015-06-01 (月) 01:14:51
500 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/03/07(金) 14:21 [ DFLz/dEM ]
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ベッドの下のブギーマン 今日の凶器は なんでしょう。

501 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/03/07(金) 14:21 [ DFLz/dEM ]
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小さいながらも綺麗に片づいており、パステルカラーで女の子らしく
まとめられたアパートの一室。

部屋の住人であるしぃ奈、しぃ美がきゃらきゃらとお喋りしながら入ってくる。

「ソレデサー、専務ッタラ ゼッタイ アタシニ 気ガアルト 思ウノヨネー!」
「モウ、シィ奈ッタラ チョット 目ガアッタリ シタダケデ スーグ カンチガイ スルンダカラァ」
「ソンナコトナイヨゥ!!」

窓際にはベッド、そして部屋の中心にはパステルピンクの小さな卓袱台。

「ミテミテ、新シイ パジャマ 買ッタノ 今日 サッソク コレ着テ 寝ルンダー」
「イーナァ、アタシモ ソロソロ 新シイノ 買オウカナ…」

突然、しぃ美が口をつぐむ。

502 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/03/07(金) 14:22 [ DFLz/dEM ]
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「…ネエ、コンビニ 行コ……」
「……ハァ? ナンデ サッキ 言ワナカッタノヨゥ。帰リ途中ニ ヨレタノニ」
「イイカラ! 急ニ オニギリ 食ベタク ナッチャッタンダモン!!」
「ショウガナイナァ…」

2人、あわただしく出ていく。意味ありげにベッドがアップで映される。


アパートの外。

「チョットォ、コンビニハ ソッチジャナイワヨォ!」
「違ウワヨ…!! 交番ニ 行クノ!」
「ヘ…?」
「アンタハ 背中ムケテタカラ 気ヅカナカッタ ミタイダケドネェ…」

しぃ美、アップ。


「ベッドノ 下ニ 鎌モッタ 男ガ イタノヨ!!!!」

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503 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/03/07(金) 14:22 [ DFLz/dEM ]
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 ぷつん、と軽い音をたててテレビの電源が切られた。
薄暗い部屋の中、ブラウン管周辺が静電気でぼんやり光る。
「ふぅ。さんざガイシュツな下男の話で締めくくるなんて、この番組も
 質が落ちたデチね~。こんなんじゃもうチビ様つまんないデチ!
 せめてなんにもしらないアフォなしぃがグッチャグチャに殺されたりすれば
 楽しかったんデチけど!」
灯りを落とした部屋で、深夜の安っぽいながらもなかなか面白い
オムニバスドラマ番組を見るのが趣味のこのちびギコ。
毎週思わず「キャッ!」と叫んでしまうような荒唐無稽なホラーで
締めくくっていたその番組が、今回に限っては知らぬ者はいないであろう
下男の話なんぞ持ってきたことにご立腹であった。
「夜更かしして損したデチ! もうさっさと寝るデチよ~」
この家にはチビ1人しかいないのに、大きな声で宣言して寝室へと向かった。

 寝室の灯りを点けると、ちびギコにしては立派な(まあ、
家持ちであることからして立派ではあるのだが)ベッドのシーツ、
その白い表面が光を反射して少しばかり眩しく浮かび上がった。
そのベッドの向こうの窓に、部屋の内部の様子が不安げに反射している。

504 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/03/07(金) 14:23 [ DFLz/dEM ]
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「……べ…別に、チビ様はベッドの下なんか怖くないデチよ!!」
ぼすっ、と勢いよくスプリングをきしませながらベッドに飛び乗る。
開いたままだったカーテンをきっちり閉めようとすると、そこに映りこむ
クローゼットの扉がほんの少しばかり開いていることに気付いた。

「………」
背中に、奇妙なぞくぞくとした感覚が走った。ひんやりとして、それでいて
不思議に熱を帯びているような、そんなおかしな感覚。

「は、はは………いやデチね~、チビ様うっかりしてまチた。
 まさかクローゼットの扉を閉め忘れるなんて」
わざとらしいほどの大きな独り言。しかし声の端は微かに震えている。
ゆっくり、ゆっくり、クローゼットに近づいてゆく。

505 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/03/07(金) 14:23 [ DFLz/dEM ]
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本当に、今日クローゼットを閉め忘れたりなんてした?

クローゼットの中は、ちょっとした宝物がどっさり。

でも、人1人隠れられるくらいのスペースは充分ある。

まさか。

そんな。

ああ、でもそういえば。



そもそも、クローゼットを開ける用事なんて今日あったっけ?

506 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/03/07(金) 14:23 [ DFLz/dEM ]
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 開け放たれたクローゼットには、ごちゃごちゃとした細かいものがたくさん。

人なんて、勿論ブギーマンなんて、隠れていなかった。

「はは……あったりまえデチよね!! いやー、チビ様ってばオチャメさんデチ!」

先ほどまで滑稽なほど脅えていたちびギコは、すっかり安心しきって
かちゃんと扉を閉めると、やれやれという風に首を左右した。
風圧だろうか、カーテンの端ががふわり、と揺れる。
灯りのスイッチを消して、さて眠ろう、とベッドに向かう。


閉め方が甘かったのだろうか、かちり、と微かな音を立てて
クローゼットの扉が開いた。

「え……?」

507 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/03/07(金) 14:24 [ DFLz/dEM ]
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振り返ったちびギコの瞳にうつるのは、
カーテン越しの月明かりに照らされてもなお暗い部屋の中。
クローゼットの僅かな隙間の向こうには暗黒が広がっている。
「う………あ……………」
下男なんてさんざガイシュツなネタ、今時誰も信じない。
クローゼットにブギーマンが隠れてるなんて、もっと古臭い話なのに。

ふらり、誘われるように一歩進み出る。


 ぐん、とベッドの下から太い腕が飛び出した。
きゃっ、と叫ぶ暇すらなく、足を掬われたちびの体は宙に浮く。
そのまま恐ろしい勢いでベッドの下の狭い隙間に引きずり込まれる。
しかしちびの体は隙間より少しばかり大きくて、
背中の皮膚がベリベリっと削ぎ落とされた。
そして叫ぶ間も無く頭部ががつんと引っかかって

508 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/03/07(金) 14:24 [ DFLz/dEM ]
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形容しがたい恐ろしい音を立てて、首が大きく弧を描いて飛んだ。

509 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/03/07(金) 14:24 [ DFLz/dEM ]
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どん、ごろごろごろ。

床に落ちる鈍い音に続いて、クローゼットの真ん前まで勢い良く転がる音。
まるで、扉の向こうの暗黒に誘われたかのよう。


ベッドの下のブギーマン、太い腕の先には
「ピーター・パン」に出てくる船長みたいに大きなフック。

510 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/03/07(金) 14:25 [ DFLz/dEM ]
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朝日に照らされたチビの部屋は、ベッドからクローゼットまで一直線に、
美しい緋の一文字で両断されていた。