プレゼントの為に

Last-modified: 2015-07-12 (日) 17:11:25
19 :耳もぎ名無しさん:2007/09/05(水) 01:43:57 ID:???
初投稿です。
宜しくお願いします。

【プレゼントの為に】

①
「困ったデチ・・・」
ちびフサは自分の財布を覗きながらため息をついた。
明日は愛しのちびシィの誕生日。
ここは一つ、彼女の欲しがっていたネックレスを買い、
自分の高感度を上げて、あわよくばセクースを・・・
などと計画を立ててみたものの、ちびフサに金はない。

値段の2~3割ほどでもあれば、ローンを組んでどうにか出来るかもしれないが
そこまでの予算すらないのだ。
(仮にあったとしてもちびフサにローンを組ませる店など何処にもないが)
アルバイトでもしてりゃ良かったのだろうが、
ちびフサを雇う店などなく、面接受けても断られて・・否、
面接を受けさせてくれるだけでもありがたかった。
ほとんどの店が門前払いであるのだ。

「・・・考えるデチ。きっといいアイディアがあるはずデチ!」
ない脳みそをフル稼働させ、考えること10分。

「何かを売って、お金に換えるデチ!フサタン頭がいいデチ!!」
ちびフサにしては中々の考えではある。
では、売れるものを・・・と部屋を見渡すが、どれも売れるものなどない。

「・・・ダメデチ。このお部屋にあるのはみんな売れるものなんかじゃないデチ。
プライスレスな宝物ばかりデチ。」

いや、だからみんなゴミ程度の価値しかないものなんだが・・・


ふとちびフサは鏡に映った自分の姿を見た。
「あぁ、コレデチ!!」

ちびフサが思いついたのは、長毛種の特徴でもある長い毛皮。
真っ白でふさふさの大事なおけけ。

「これを切ってカツラ屋に売るデチ!
フサタンのおけけならばきっと大金になるデチ!!
・・・大事なおけけだけど、すぐに伸びるし、きっとちびタンなら
ショートカットも似合うデチ!!」

名案を思いついた、ちびフサは意気揚々と街のかつら屋へ出かけた。

20 :耳もぎ名無しさん:2007/09/05(水) 01:45:45 ID:???
②
アブイタシティーの商店街にある「モラ岡かつら店」は、紳士・婦人用カツラから
舞台衣装まで手がける大手のかつら屋だ。
無論、髪の買取も行っている。

「おじゃまするデチ!」
「・・・いらっしゃい」
バッターン!とけたたましくドアを開け入店してきたちびフサに初老の店主は
眉をひそめながら応対した。

「本日はどのような御用向きかな?」
「フサタンのこのおけけを買ってほしいんデチ!」
「・・・ふむ。長毛種の毛か・・・」

店主はゆっくりとちびフサの毛並みを確かめる。
純白で柔らかな毛並み。
長さも平均20センチと言うところか。
手入れも怠っている様子はない。

「なかなか立派な毛だねぇ。これなら買い取ることは出来るよ。」

「あったりまえデチ!フサタンのおけけなんだから当然デチ!!」

「それで・・・一体いくら分買い取って欲しいのかね?」

「そうデチね・・・
フサタンのおけけなんだからざっと30万といったところデチ!
あ、そうそう!お顔とおテテとアンヨはダメデチよ!
体はお洋服で隠せるデチけど、おててやアンヨはトレードマークなんデチよ!
それにお顔は問題外デチ!イケメンのフサタンなんデチからね♪」

「な・・・」

店主は絶句した。
30万?
商品としてではなく、原材料として??

いくら手入れを怠っていないと言っても、フサの場合、全部あわせても2~3千エソ。
希少種の超長毛種でさえ5万といったところが相場なのだ。

怒りを通り越し、店主はあきれ果ててフサに言う。
「お客さん・・・いくらなんでもそりゃ無理だね。
そもそもこうした買取は全身の毛で取引するものなんだよ。
一部だけで30だなんて常識知らずも程があるよ」

「何言ってるんデチか!フサタンのおけけデチよ?!
本来ならば数百万する高級長毛なんデチよ!
それを解らないだなんて、このジィさんはモーロクしてるデチ!
ボケてるんじゃないデチィ!!」

21 :耳もぎ名無しさん:2007/09/05(水) 01:47:27 ID:???
③
「全くコレだから・・・
いいかね、君の毛は確かにきれいだよ。でもね、価値としたら
そんなにないんだよ。コレをごらん。」

深くため息をつきながら、店主はショーウィンドウの中の一つを指差した。
真っ黒な超長毛種の毛皮で作られたファー。
見ただけでその手触りが柔らかく滑らかであることが伺える。

「あれは希少種のものさ。あれが商品として50万だ。
それに比べて君の毛はどうだい?
希少種でもない、通常の長毛種の白フサだ。
少しばかりは手入れをしているようだが、街にいるフサたちと一緒・・・」

「うるさいデチ!!物の価値が分らないクソジジィが何言ってるデチ!
大体あんな真っ黒な毛のどこが高級品デチ!
あんな気味の悪いモノが高級だなんてジジィはアホデチ!ギャクサツチュウデチ!!
こんなの、こうしたほうがお似合いデチ!!」

いうや否や、ちびフサはショーウインドウの中へ飛び込み、
乱暴に展示されているファーをもぎ取ると床にたたきつけ

「真っ黒なんだから、雑巾がお似合いデチぃ!」

と思い切り踏みつけたのだ。
さらに
「ほ~ら汚れが良く落ちるデチ!これでこの寂れた店もきれいになるデチぃ
モーロクジジィの店は汚くて仕方ないデチ!」

スケボーよろしくファーを踏みつけ店内を掃除?し始めるフサ。
へへ~ん、とばかりに店主の前をすぅ~~っと横切・・・


ボグン!!!

横切ろうとしたちびフサの顔面に、無言で繰り出した店主の拳がめり込んだ。
ちびフサは受身を取ることもかなわず激しく床に叩きつけられ
悲鳴を上げるより早く、ちびフサの背中に第二激の蹴りが入った。

「ハ…はぎゃぁぁぁ!!!」
派手な音を立てながら店の奥へ蹴り飛ばされたちびフサはけたたましい悲鳴をあげた。
自慢の真っ白いおけけは鼻血と口からの出血とよだれで徐々に赤く染まり
床にはぽたぽたと鼻血が滴り落ちた。

「あ…あぁ…フシャファンのおふぁおふぁ・・・おへへふぁ・・・」

顔面を殴られた際に歯も折れ舌を切ったのだろう、ろれつが回っていない。
何本か残っている歯もあるようだが、抜け落ちる寸前だ。
コレ以降、ちびフサのろれつが回復する事はないのだが、表現上元に戻して話を進めよう。

22 :耳もぎ名無しさん:2007/09/05(水) 01:49:28 ID:???
④


「あ…あ…」

抜け落ちて床にこぼれた自分の歯と流れ落ちる血に、改めて恐怖に震え始める。
そんなちびフサのもとに店主が歩み寄る。
その顔は能面のごとく全くの無表情。

「ヒ…  ぎゃ、ギャクサツチュウ・・・逃げなきゃ・・・」


よたよたと起き上がり逃げようとするちびフサだが、足がもつれてうまく立ち上がれない。
いや、腰から下がひどく痺れて力が入らないのだ。
それでも腕の力でズルズルと這いずりながら、ちびフサは出口へ向かおうとする。

「…君は、物の価値も、自分の価値も、よく、分かって、いない、よう、だね・・・」

能面の店主は、静かにゆっくりとちびフサに声をかけた。
が、その声はちびフサの恐怖を十二分に増やすものだった。

「逃げなきゃ・・・逃げなきゃ・・・」

ずるずると芋虫のように這いずり出口を目指そうとするちびフサを、むんずと店主は掴みあげた。

「まぁ待ちたまえ。君には物の価値というのをじっくり教えてあげるよ。」
「あ…は、離せデチぃ…」

イヤイヤと駄々をこねるように、ちびフサは店主の手を振りほどこうとする。

「ん~ 何かね、この汚らしい手は。
いかんねぇ。これでは汚れてしまうよ。」

そう言うなり店主はちびフサの持ち方を変えた。
頭をむんずと掴むのではなく、首付け根辺りに親指をやる…
後ろ向きに首を絞めるような形だ。

そして持ち帰るなり、親指にぐっと力を加えた。

クキっ

そんな軽い音が聞こえた瞬間、ちびフサの両腕がだらんっと下がった。

「な・・・なにを・・・」

「なに、君の背骨をずらして神経を遮断しただけだよ。
そうそう、さっきは腰から下を動けなくしたんだよ。わかるかい?」

「あ…なにするんデチ…手を離せデチ…」

「言ったろう?物の価値を分からせる、ってね。」

店主は動けなくなったちびフサを掴んだまま、店の裏へ入っていく。
そこは広い作業場のようで、中央には大きな作業台が置かれていた。

23 :耳もぎ名無しさん:2007/09/05(水) 01:51:07 ID:???
⑤

「さぁ、楽にしなさい。」
穏やかな言葉と裏腹に、乱暴にちびフサを作業台に放り投げる。
「ぶギャッ!!」
作業台と強烈な接吻をさせられたちびフサだが、首から下は痺れて全く力が入らず
自力で動くことが出来ない。

「おや、こっちをちゃんとみなきゃいけないよ。」
再び店主はちびフサを掴み上げ、今度は仰向けになるように叩きつける。

ごんっと大きな音をたて、ぴったりと仰向けにさせられる。
「~~~!!!」痛みをこらえ店主をにらみつける。

そんなちびフサを一瞥しながら店主は語り始めた。
「まず、君は物の価値が分かっていない。
さっき君が踏みつけたあの商品だけど、汚れて真っ黒ではないよ。
タダでさえ少ない黒毛でね。そして超長毛種なんだよ。
どれだけ貴重なものかわかるかぃ?」

「何が黒毛の超長毛種でち!そんなの気味悪いだけデチ!」

「…全く救いようがない馬鹿だな、君は。
では講義の続きだ。
君はさっきあの商品を踏みつけ、雑巾と称したが、あの値段は50万。
どの世界に50万もする雑巾があるかね?
雑巾虫のしぃを使用しているダスキソは月間契約料が千エソ。
まぁ部屋の広さや使用頻度にも影響があるだろうが1週間で交換だ。
つまり一つ辺り250エソ…
ただしこれはしぃ自身の価値ではない。
消毒し、教育を受け、立派な商品としての価値だ。

では君の毛の価値だが、一般的なフサ種の毛がいくらだか分かるかね?
確かに君はよく手入れをしているようだが、千円しないくらいだよ。
それが今ではどうだい?
君の汚らしいよだれと鼻水と血ですっかり汚れてしまっている。
これでは価値は思い切り下がる・・・そう。数百エソ程度。
つまり、少し上等な雑巾程度でしかないってことだよ。」

店主はあくまでも静かに、淡々と語った。
しかしその冷静さが逆に恐怖をかきたてる。

「バ…馬鹿なこというなデチ!
なんでフサタンが雑巾なんかと一緒デチか!
これだからジジィは馬鹿なんデチ!
モーロクジジィは逝ってヨシ!デチ!!」

自分が感じている恐怖心を強く否定しながら、ちびフサはさらに店主を罵倒する。

「やれやれ…勉学の機会を与えても無駄、ですか…」
店主はため息一つをつくと、隣の部屋へ入っていった。

今がチャンスだ!とちびフサは脱出を試みるが、首から下がしびれて動けない。
それでも何とか動こうと、感覚の残る頭をフリフリ移動を試みるが、当然動けるはずはない。
もがいているうちに、店主が戻ってきた。

青 白 く 輝 く 短 刀 を 手 に し て。


さすがのちびフサにも、それが何を意味するのか理解できた…
否、理解できたのではなく野生の感が「危険!危険!!危険!!!」と
警報を鳴らし始めた。

24 :耳もぎ名無しさん:2007/09/05(水) 01:53:35 ID:???
⑥

「や…止めろデチ!フサタンに酷いことするなんてギャクサツチュウのする事デチ!」
必死の抵抗(もはや言葉でしかないのだが…)を試みるちびフサに近づいた店主は、短刀をおもむろに振り下ろした。


シ ュ ッ


樋の入った短刀は、小気味よい音をたてる。

「な…なにするんデチ?!」

何をされるのか分からないちびフサと店主の目が合った。
店主はゆっくりと視線を下に落としていく。

「え…  う うわぁぁぁぁっ!!!」

ちびフサが驚くのも無理はない。
いつの間にか、仰向けにされた自分の胸からまっすぐへその下まで赤い線が入っている。
真っ直ぐに切られたのだ。
だが不思議と痛みはない。
切った深さも内臓に届く深さではない。ちょうど皮膚層と筋肉層の間まで、と言う深さだ。
それでもすぐに血があふれ出す。

痛みはないが斬られていると言う事実がいっそうちびフサに恐怖を与える。

しかし店主は無言でちびフサの体を大の字に動かし、短刀を振り続ける。


ひ ゅ っ


ひ ゅ ッ


ヒ ュ ッ


ヒ ュ ッ



きっかり四度、短刀を振り終えた店主は、ちびフサに語りかけた。

「君にはいくら説明しても、物の価値が分からないようだから、もう講義は終了。
えーと君の最初の注文…君の毛皮を買い取ることとするよ。」

「な…なんでフサタンのおけけを買い取るのに、傷つける必要があるんデチか!」

「ん~?? 何を言ってるのかね?
私が買い取ると言ってるのは『毛』ではないよ。
『毛皮』なんだよ。」

「な・・・!!」

25 :耳もぎ名無しさん:2007/09/05(水) 01:56:53 ID:???
⑦

ちびフサは今さらながらに自分の体を確認する。
切り付けられ、出血している箇所は
首から下の正中線、正中線から両腕、そして両足。

この男は、自分の毛皮をはごうとしているのか?!

「ウ…うわぁぁぁぁぁ!!!止めろデチ!止めろでちぃぃ!!!!
フサタンが悪かったデチ!フサタンのおけけは安物デチ!!
もう売りつけたりしないデチぃぃぃ!!!」

自分のおかれた状況を理解すると、ちびフサは悲鳴を上げ必死に懇願する。
そんな声を当然無視しながら店主は添乗からぶら下がっているフックを手繰りよせる。

「あぁ、知っているかい?動物の皮をはぐときは、こうして・・・」
というなりちびフサをひょいッと逆さづりにし、フックに引っ掛ける。

「何かにぶら下げたほうがやりやすいんだよ。アンコウと同じだね。」
だらーーんとぶら下がった状態のちびフサを一瞥すると、
さっそく皮を剥がし始めた。
シュッシュッと小気味よい音を立てながら、皮膚層と筋層の間に短刀を滑らし、
魚肉ソーセージのビニールを剥がすかのように剥がしていく店主。
ただのカツラ屋の店主がなぜここまで上手なのか?!

「うまいもんだろう?私は猟友会に所属していてね。
これからの時季はジビエ(野禽)が美味しいんだよ…」

呟くように語りながら店主は短刀を操り、皮を剥がしていく。
おそらくこの説明はちびフサに対してだろうけど、
当の本人は、己の皮が徐々に剥がされていく様子に

「ああ… あ…  」

と情けない声を上げるだけだ。

本来ならば、
「ひぎゃぁぁぁあああああ!!!フサタンのおけけがぁ!!!」
などと悲鳴を上げるところだが、頚椎をずらされたおかげで首から下の全ての感覚がないのだ。

それでも、時折滴り落ちる血が口の中に流入し激しくむせたり、目に入ったりしているが、
その都度店主は手を休め口の中に入った血を拭い、呼吸を落ち着かせたり、水で洗い流したりと
しっかりちびフサをケアし続ける。

まるで苦しみを与えないかのような行動だった。
が、逆にそれがちびフサの視界と意識を保たせ、徐々に剥がされる己の姿を見せ付ける結果となっている。


胴体と四肢の皮をすっかり剥がし終えたとき、店主はフックからちびフサをはずした。
そして静かに、作業台に彼を横たえた。

「あ…おじタン、もう止めてくれるデチか・・・??」

これで終わりなのか?
もうやめて頂戴、とばかりに懇願するような目で店主を見るちびフサ。
視界には先ほど剥がされた自分の自慢の毛皮が血に濡れた状態で横たわっているのが見えるが、
必死にそれを視界から逸らした。

だが店主は

「ん?これから最終作業だよ。
毛皮って言うのは全身のものがそろって初めて価値が出るんだから。」

にこっと店主は笑い、ちびフサの首もとに短刀を当てるとあご先まで一気に切り裂いた。

26 :耳もぎ名無しさん:2007/09/05(水) 01:58:18 ID:???
⑧


「ひぎぃやぁぁぁああぁああああぁぁぁあっっ!!!」

先ほどまでとはうってかわって鋭い痛みがちびフサを襲う。

「あぁ、そうだ。首から上は感覚があるから当然か。
でも、これは切れ味が良いからね。そんなに痛くはないだろう?」

穏やかに話しながら、店主は短刀を滑らしていく。
首周りから始まり、顎下、頬周り、後頭部…

シュッシュシュ・・・と短刀が皮膚を剥がしていく音は激痛に悲鳴を上げるちびフサによって
かき消されているが、彼自身にはしっかりと聞こえているはずだ。

お耳も切断され、残すところお顔だけとなったときに、店主は短刀を置いた。
ちびフサは目に血が入り、その様子が見えなかった。

「さぁて、これから最後の仕上げだ。
最後はチマチマナイフなんか使わず、一気に剥がすよ。
君にはしっかり自分の毛皮が取れる瞬間を見てもらわなくては。」

そういって店主は血にまみれてしまった目を水できれいに洗い流した。
きれいなエメラルドの如き緑色をしたちびフサの目は、今や真っ赤に充血していた。
その赤は己の血で染まったのか?と思うほど強く鮮やかだった。

再び視界が開けたちびフサが目にしたのは、大変穏やかな表情の店主だった。
しかしちびフサにはそれが、悪魔の微笑みに見えていた。

「さぁ、いくぞ!!」
「や、やめ…」

「やめて」という言葉をさえぎり、店主は残った毛皮を両手で掴み、みしみしと剥がしにかかる。


「ヒ…ひがゃぎゃやゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」


ついにちびフサの毛皮は完全に剥がされた。

べしゃ


そんな音を立てて、ちびフサの毛皮は作業台に置かれた。
真っ白だったおけけは血に濡れている。

一方のちびフサは、息も絶え絶えに己の毛皮を見つめていた。
本当ならば見たくもないし、痛みで目をつむりぎゃーぎゃー騒いでいたいはずだ。
しかし、全身の毛皮を剥がされたちびフサにはそれが出来ない。
まぶたの皮がないので瞬きも出来ないし、頬の皮もないからだらだらとよだれが流れ続ける。
真っ赤になったおめめからだらだらと零れ落ちる涙は、目が乾燥しているから、だけではなかろう。

文字通り血に濡れた肉塊ともいえる姿になったちびフサは、

「返して・・・返して・・・フサタンのおけけ・・・返して・・・」と呪文のように繰り返していた。
もっとも、口周りの皮がなくなったちびフサの言葉なんて、聞き取れるものは居ない。


「さあて、君のこの毛皮だがね・・・」

肉の塊になったちびフサに、店主が声をかけた。

「長毛種でもあり純白。手入れは怠っていないから『毛皮』としては中々のものだ。
そうだねぇ…4~5千エソかな。
しかし、君がさっき踏みつけた商品の買取り、そして君が散らかした店内の片付け費用…
おっとこれは私が殴り飛ばしたせいもあるか。それらを全て込みで…
差し引いても私のほうの損失が大きいね。
まぁ、君の毛皮一つで手を打つよ。では、お帰りいただきますか。」


そういって店主はちびフサをつまみあげ、店の前の道へ放り出した。
「へがぁっ!!」とか悲鳴を上げたちびフサだが、当然動くことは出来ず路上に転がった。

「……ゴミ箱のほうが良かったかな?
まぁ、じきにカラス共が片付けてくれるだろう。」

そういって店主は再び店の中へ姿を消した。
散らかった店内と、剥ぎ取ったちびフサの毛皮の処理をする為に。

27 :耳もぎ名無しさん:2007/09/05(水) 02:00:38 ID:???
⑨

さて、残されたちびフサだが、死んではいなかった。

何とか動いてこの場から逃げないと、カラスの餌になるか清掃局によって処理される。
なんとか自分の部屋までたどり着き、そこでじっくり養生すれば毛も生え変わるのでは…

全くもって無駄なことなのだが、ちびフサは本気だ。
なんとしても動こう、動こうと必死になる。

そんなちびフサにカラスの鳴き声が聞こえた。

ヤバイ。もう奴らがきたのか。

ちら、と声のほうをみたちびフサの目には、自分の上空を飛びまわるカラスの群れが入る。
ヒッ  と悲鳴を上げた直後、一匹のカラスがすとん、と着地した。
そのままトントントン・・・と近づくカラス。

「やめるデチ!あっちいけデチ!!」
大声を出して威嚇するが、カラスは2,3度たじろいたあと、ちびフサの体を啄ばみ始めた。
それをきっかけに、次々とカラスが集まりちびフサの体をついばむ。
毛皮がなくなり、食い破りやすくなった腹を突き破り、内臓をガツガツと喰い散らかす。

「ひゃぎゃあぁぁああああぁ!!!!やめるデチ!!やめるデチぃぃぃぃいィィ??!?!」

痛みもなく、しかし次々と己の体を食い散らかされていくのをちびフサは悲鳴を上げてみるしか出来なかった。
もはや発狂寸前の状態だ

ふと、群れの外側にいたカラスと目が合った。


じぃーーーっとカラスはちび房を見つめ続け、トンットンッと近づいてくる。

「ヒッ…  や、やめて…」

懇願するちびフサを無視してカラスがすぐ目の前に来て、再びじっと見つめ、カァー!と一声なき、
そのくちばしが大きくなって・・・・

ちびフサがこの世で見た最後の光景だった。
後は闇の世界で激痛に襲われるだけ。

1時間ほどしただろうか。
店主が言ったとおり、カラスたちがちびフサの体をきれいにこの街から消した。





それから2ヵ月後。

すっかり秋も過ぎ、冬の気配のする公園で、初老の男性が一人ベンチに座っていた。
そこへ、同じく初老の女性がやってきた。
「ごめんなさいね、待たせちゃって。」
「いやぁ、そんなことはないよ。」
ベンチに座っていた男性が穏やかに答える。

「だって・・・あなた『先に公園で待っている』だなんていって出て行っちゃうから…」
「いやぁ、ゴメンゴメン。じつはね、ちょっと頼んでいたものをとりにいっていたんだよ。」
「あら、それならば一緒に行けばよかったんじゃない?」
「いやぁ、プレゼント、だからね。」

そういって男性は小脇に抱えていた紙袋を差し出した。

「あら、まぁ・・・なにかしら」
ニッコリ微笑んだ女性は、いそいそと紙袋を開ける。
そこに入っていたのは、真っ白い毛皮のファー。

「まぁ…ステキな襟巻きねぇ・・・」
取り出して、ファサっと巻いてみる。
真っ白な長毛種のものだ。

「うふふ… なんだか、成人式の娘さんみたいね。」
「いやいや、よく似合っているよ。」
「ありがとう。…そういえばね、私達が若い頃、こういうのをつけた奥様達がいて、憧れでもあったのよ。」
「やぁ、そうだったねぇ… 当時はとってもモダンでオシャレだったねぇ。
これでようやく私も、君にこういうプレゼントを贈れるようになったよ。」
「フフフ… 感謝してますよ、お父さん。」
「あぁ。 さぁ、もういかなきゃ。映画が始まるよ。」


そういって二人は中むつまじく、公園を歩いていった。
女性の首もとの真っ白い、長毛種のファーをふわふわと揺らしながら。




以上です。