427 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/21(金) 23:26 [ c1wFLdzg ] 1/10 その瞳は空虚だったけれど、その存在は魔性だった。 428 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/21(金) 23:27 [ c1wFLdzg ] 2/10 この山で遭難してから丸一日ほど経過した。 私は休暇を利用し日帰りのつもりでこの山に来たのだが、 数日前までしとしとと降り続いていた雨のせいでゆっかり緩くなっていた 地面に足を取られ、大穴に落ちてしまったのだった。 山奥のそういった穴には二酸化炭素などが溜まっていることがあり、 私の落ちた穴もそうであったらしい。幸い大した怪我もなく、 酸欠に陥る前に這い出すことができたのだが、 すっかりもと来た道がわからなくなってしまった。 やみくもに歩くのは危険だったが、何かに突き動かされるように 歩いていると、行く手からかぼそい、歌声のようなものが聞こえてきた。 人里に出られるかもしれないと期待し、歌声のする方に私は走った。 それは透明で、近いような遠いような、不思議な響きだった。 歌詞までは、聞き取れない。 ふいに、目の前が開けた。 そこは色とりどりの花が群生する場所だった。 そしてかぐわしい香りの花々に囲まれて、この世ならざる美しい声で 歌っているのは……紛れもなく、しぃだった。 429 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/21(金) 23:28 [ c1wFLdzg ] 3/10 まるで霧の向こうから聞こえているような、且つ耳元で囁かれているような、 幻想的な歌声。歌詞はどこか異国の言葉なのだろうか、私には理解できなかった。 「ハニャーン♪」だの「ダッコ」だの「マターリ」だの耳障りな黄色い声で連呼している あのしぃと同じ生き物とは思えなかった。 ひょっとして、短時間とはいえ低酸素状態にあったための幻覚・幻聴なのだろうか。 しぃはゆっくりと歌を止め、私の方に顔を向けた。白く短い毛並み、桃色の頬、 それは確かにしぃという種であることを示していたが……その瞳は異様だった。 その瞳は、何も映していないかのように見えた。確かに普通のしぃも 自分以外の生物なんて見ていないようなものだが、彼女は何か違っていた。 本当に、何も見ていないような……全ての光を反射し、何一つ網膜まで 侵入させていないような、そんな目だった。口元も、無表情に引き結ばれている。 430 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/21(金) 23:28 [ c1wFLdzg ] 4/10 「……ホシイノ………」 ぽつりと、つぶやいた。 「チョウダイ」 すべるように近づいてきた彼女に手を取られた。 「シィノ………」 目の前で、私の両手が彼女の耳にそえられる。 「アカチャン」 431 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/21(金) 23:29 [ c1wFLdzg ] 5/10 そえていただけの手で、ふいにぎゅうと彼女の耳を掴んだ。 そのまま渾身の力で引っ張る。柔らかな耳が、音を立てて千切れた。 瞬間、目の前に広がったしぃの顔が、口元が………笑っていた。 それは、恐らくは巷でレイプとか、婦女暴行とかいわれているような 行為であったと思う。耳の存在していた部位から濃厚な血液を 撒き散らしながら奇妙に広角を上向かせているしぃを引き倒し、 両腕を力いっぱい押さえつけると、ゴキンと奇怪な感触が伝わってきた。 彼女の瞳は美しかったけれど、恐ろしくもあった。 抉り出してしまえばいいのに、と頭の中で声が聞こえるけれど、 それは何かとても恐ろしいことのように思え、躊躇われた。 彼女は、自分が虐待されているのに、犯されているのに、 喉の奥で細く歌っていた。 拳で顎を砕いてしまえばそんなことはできなくなると思った。 そして、自分にそんなことはできないのだということも確信していた。 432 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/21(金) 23:29 [ c1wFLdzg ] 6/10 尻尾の生え際をぐっと握りしめた。 そのまま後ろに強く引っ張ると、皮だけがずるりと剥けた。 ぬらぬらと光る赤黒い棒状の肉。 血液だけではない、じくじくした透明なつゆも滲み出て、 ひどくグロテスクな有様だった。 そして私は、さして何の感慨も抱かずにその肉をぐちゃりと 掴み、骨からぐずぐずと削ぎ落とすようにしごいた。 びちゃびちゃと桃色の汁が拳から滴り、瞬間、そこに常日頃の虐待なら 必ずついてくる相手の悲鳴が存在しないことすらどうでも良いほどの 快感が私の脳を満たした。 そしてそれは同時に、彼女が欲しいと言った「アカチャン」を、 それの元となるものを、私が提供した瞬間だった。 433 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/21(金) 23:30 [ c1wFLdzg ] 7/10 私は何故か彼女の側を離れられずにいた。 ここに来てから、既に数ヶ月が経過していた。 耳と腕と尻尾のないしぃが私に聞いた。 「カエリタイ?」 私は答えた。わからない、と。 思えば、私は虐待は物心つく頃から繰り返してきたが、 それに性的なものが加わったのはアレが初めてだった。 彼女らはゴミ虫なのだから。汚らわしい、我々とは違う存在なのだから。 彼女の腹が少しばかり、膨らんできているように見えるのは気のせいだろうか。 434 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/21(金) 23:30 [ c1wFLdzg ] 8/10 今日、ついに私は彼女を殺した。 美しく、しかし底知れぬほどに恐ろしい硝子のような瞳を抉った。 赤黒く腫れ上がり使い物にならなかった両腕をもいだ。 私に開かれたことのあった両脚も、一気にもぎ取った。 最後に、常に美しい歌声を発していた喉を切り裂いた。 ごぼごぼと醜い音を立てて、熱い血液が噴水のように噴き出した。 そしてそれは彼女の全身を朱に染めた。 私はそれで満足した。 したと、思った。 けれど、彼女のつるりと白い腹、そこだけ血に染まらない下腹部。 私の子を宿しているかもしれない白い腹。 それを目にした私は恐ろしくなった。 何が恐ろしいのかなんてわからないけれど、とにかく。 435 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/21(金) 23:32 [ c1wFLdzg ] 9/10 私は腹だけ白いまま血だるまになった彼女を置いて逃げた。 滅茶苦茶に走り回り、ついに山を抜け、通りに出た。 私は奇跡の生還者として、僅かの間だけマスコミを騒がせた。 それで終わりだった。 世の中は、絶えず動いていくのだから。 ある夜私は夢を見た。 あの時殺したしぃの、あの死体。その白い腹が、大きく膨らんでいた。 そして脚の無い股の間から水が溢れ出し、赤黒い球形の何かが 生まれ出ようとしていた。 私は悲鳴を上げた。あれがただの夢であることを切に願う。 436 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/21(金) 23:33 [ c1wFLdzg ] 10/10 そういえば、彼女は何故自分の子の父親に私を選んだのだろう。 ギコではなく、虐殺者であるモララーに。