305 名前: レモナとちび 投稿日: 2003/06/01(日) 22:04 [ n2O7zjBA ] 1/7 私の名前はレモナです。 3年前の春に大学に入学し、ギコ種の生態の調査をする研究者を目指して勉強する日々を送っています。 今年は卒業論文を書かなければならないのですが、まだテーマすら決まっていません。 先日学校の図書館に行き参考になりそうな書物を漁っていたところ、図書館の裏口からモララー教授の怒鳴り声が聞こえてきました。 「何度言ったら分かるんだ!おまえのような汚い野良がうちみたいな所に住み着いてんじゃねーよ!」 驚いて裏口から外に出てみると、そこには小さなちびギコが居ました。 そのちびギコは、「しぃ」と書かれたボロボロのダンボールに入っていて、何度も何度も謝罪の言葉を口にしています。 モララー教授の話によると、つい最近この図書館の周りに住み着いたそうです。 ブルブルと震えるちびギコを見て、さすがに可哀想になった私はモララー教授をなだめて館内に戻し、笑顔を作って話し掛けました。 「こんにちは、ちびちゃん。」 『ごめんなさい!ごめんなさいデチ!!』 「いいの、怖がらないで。私はちびギコが好きなの。あなた、ひとり?お母さんとお父さんは?」 『…。ママはこの前、死んじゃったデチ。』 「そっか…じゃあ、兄弟は居ないの?」 『ちびは一人っ子デチ。お友達も居ないデチから、毎日寂しいデチよ。』 「そうなの…」 306 名前: レモナとちび 投稿日: 2003/06/01(日) 22:05 [ n2O7zjBA ] 2/7 野生のちびギコ。私の研究対象です。 「じゃあ、お姉ちゃんがちびちゃんのお友達になってあげる。」 『デチ!?それは本当デチか!?』 「うん、本当。毎日食べる物を持ってきてあげるわ。それから、話し相手にもなりたいな。」 『ムハー!やったデチ、嬉しいデチ!!』 色々質問したところちびギコには文字を書く程度の学力があるそうなので、毎日私に手紙を書いて貰うことにしました。 死なないように、適当な食事も見繕ってきてあげることにします。 ちびギコとの交流。これは卒業論文の素晴らしい題材になりそうです。 次の日のお昼休み、私は早速図書館の裏へ行き、ちびギコに「オニー煮」という肉の缶詰をあげました。 そして、小さなノートとペンを渡しました。その日起きた出来事、思っていること等をなんでも書いて欲しいと伝えておきました。 私と野生のちびギコの、文通が始まりました。 307 名前: レモナとちび 投稿日: 2003/06/01(日) 22:05 [ n2O7zjBA ] 3/7 ■卒業論文 「野生ちびギコの手記と、その生態について」 AA生態学部 ギコ科 茂名波レモナ 6月1日 レモナお姉さんへ こんにちは、ちびデチよ。この度はちびとお友達になってくれてありがとうございマチ。ちびのママは先月死んじゃったデチ。今は毎日、食べるものを探しながら一生懸命生きているデチよ。今日はそんなちびの生活について書くデチ。聞いてくだチャイ。雨の日。 この前の雨の日、ちびは寒いからおうちであるダンボールのフタを閉めてその中で小さくなっていたデチ。フタを閉めないと、雨にあたって冷たいデチからね。こういう日はジッとして過ごすのが一番デチ。動かなければ、お腹もすかないデチよ。でも、近所に住むモララーの子供達がちびのおうちのフタをわざと開けに来るんデチ。何度ちびが中から閉め直しても、子供達に見張られてるからその度開けられるデチ。雨はとても冷たいデチ。夕方、それぞれの子供達が家に帰る時間になって、ちびはホッとしたデチ。これでもうフタを開けられることはないデチ!…でも、その中の一人が、ダンボールのフタを破いて持って行ってしまったデチ…。おうちにフタがないと、雨がどんどん入ってくるデチ。おかげでちびはその日の夜、一晩中雨に打たれて、震えて、凍えて、手も足もシッポも赤くただれてしまったデチ…。ヒリヒリしてとても痛いデチよ…。おうちの中にも水が貯まって、もうあのダンボールには住めないデチ。ママの残してくれた大切な形見なのに。新しいおうちを見つけるまで、硬くてザラザラした、痛いコンクリートの上で生活しなければならないデチ…。つらいデチ…。 あー、ちょっと読みづらいなあ。改行してね。 レモナより ※ダンボールに住むしぃによって育てられたちびギコは、オスのギコには珍しくダンボールに住む習性があるということが判明した。 最初の挨拶と昭和のロックシンガーによるコンサートでの曲紹介のような書き出しは ちびギコの精一杯の背伸びだと解釈することができる。 308 名前: レモナとちび 投稿日: 2003/06/01(日) 22:06 [ n2O7zjBA ] 4/7 6月2日 レモナお姉さんへ こんにちは、ちびデチ。 昨日はつらい話を書いてしまったデチが、親切な子供達も居るのデチ。今日はそのことについて書くデチね。 この前モナーの子供が2人ちびのそばに来たんデチ。 そして「かわいそうな野良に、餌を恵んでやるモナ」って言って、大きなおにぎりをくれたデチ! ちび、お腹がすいていたから思いっきりおにぎりに飛びついたデチ!! その瞬間、ちびの身体の中に「ガリ!」という音がしたデチ。 柔らかいはずのおにぎりに噛みついたのに、歯に硬い何かが当たったデチ。 見ると、おにぎりの中には石が入っていたんデチ。 ちびのは歯は、欠けてしまったデチ…とても痛いデチ。 その餌をくれたモナーの子供達は、「かわいそうなボロにえさを恵んでやったモナ。」 「具が石のおにぎり、おいしいモナか?」って、ゲラゲラ笑っていたデチ…。 よく見ると、そのおにぎりは泥だらけだったデチ…。モナーの子供が、石を詰めながら汚い手で握ったものだったんデチ。 あの子供達は、ちびを酷い目に合わせるためにわざと石の入ったおにぎりを作ったんデチ…。 歯が欠けてしまって本当につらいデチ…。 それ、親切なんじゃなくて虐められてるんじゃないかな? レモナより ※今日のやり取りでは、ちびギコに「改行をして欲しい」という要望を受け入れられる柔軟性があることが判った。 309 名前: レモナとちび 投稿日: 2003/06/01(日) 22:06 [ n2O7zjBA ] 5/7 6月3日 レモナお姉さんへ ちびの歯が欠けた顔を見て、他の野良ちびギコ達は「格好悪いデチ!」って馬鹿にして笑うデチ…。悲しいデチ…。 そしてちびを笑ったちびギコ達は、大人の野良ギコ達にちびのことを言いふらしに行くと言って、帰っていったデチ。 同じちびギコだから仲間だと思っていたのに、酷いデチ。酷いデチ…! デチ…大きい野良ギコ達に、「モナーに騙されてそんな顔になるなんて、おまえはギコの恥」という理由でリンチされたデチ…。 誰も、助けてくれないデチ…。傷が痛んでペンを握れないから、今日は短いお手紙だけど許してくだチャイ…。 ふーん、捨てギコも大変だね。 レモナ ※同種の中でも弱者はそれなりの扱いを受けるようだ。 更に、今日ちびギコに会ったとき、怪我をしていることもあって大変衰弱していた。食事は1日に1食だけでは足りないらしい。 この手紙に食事の量を増やして欲しいと書かないのは、ちびギコにも「遠慮」という意思があるからであろう。 310 名前: レモナとちび 投稿日: 2003/06/01(日) 22:06 [ n2O7zjBA ] 6/7 6月4日 レモナお姉さんへ いつもごはんをありがとうデチ。昨日貰ったシィフードという缶詰はとてもおいしかったデチよ。 あんなおいしいもの、ちびは初めて食べまチタ。あれは何のお肉なんデチかね? そうそう、ちびと遊んでくれる子供達も居るデチよ。今日はそれについて書くデチ。 ちびは子供達が教えてくれる楽しいゲームをして、勝ったら賞品を貰えるんデチ。 賞品は、お風呂に入れて貰えることと、果物を食べさせて貰えることデチ!2つもあって凄いデチ!! まずは2つのチーム分けをするんデチ。「TEAMモララー」が子供達全員で、だいたい5~6人くらいデチ。 そして「ちびギコチーム」がちび1人デチ。 ルールはちびにも理解できるように簡単で、子供達が10分間ちびに石を投げ続けて、ちびがそれに耐え切れたらちびの勝ちデチ。 小学校のグラウンドのサッカーのゴールが、ちびの陣地デチ。 ちびは10分間、そこから出ちゃいけないんデチ。もし怖がったり痛がったりして逃げたら、ちびの負けなのデチ…。 ゲームが始まって10分間、ちびはサッカーのゴールの中を必死で逃げ続けたデチ。 大きい石や、とがった石、最後にはコンクリートの塊まで飛んできたデチ。…数が多くて、逃げ切れなかったデチ…。 このままだと怪我をすると思って、逃げようとしたデチ。でも、子供達はそれを許してくれなかったデチ…。 20分くらい経って、やっと子供達は「賞品やるよ」と言って石を投げるのをやめたデチ。 やっとサッカーゴールから出られた時、ちびは身体中が傷だらけになっていたデチ…。 311 名前: レモナとちび 投稿日: 2003/06/01(日) 22:07 [ n2O7zjBA ] 7/7 だけどゲームに勝ったから、お風呂に入れて貰えるデチ! 氷の入ったバケツに入れられて、頭からシャボン玉の液をかけられるんデチ。 どんなに冷たくても我慢するのが正しいお風呂の入り方だって言われまチタ。 その後は、シッポを洗濯バサミで挟んでサッカーのゴールに吊るされるのデチ。 これは「脱水」なんデチ。…シッポがちぎれそうになったデチ…。でも、それがお風呂だって聞いたデチ。 身体が乾いたら、頭をおもいっきりひっぱられたデチ!こうして洗濯バサミから無理矢理引き離すのが正式な脱水らしいデチ。 でも、ちびはその時シッポのつけねが少しちぎれてしまったデチ…。血が出て痛いデチ。 その後もうひとつの賞品として、ミカンの皮を食べさせられたデチ。すごく農薬臭かったデチ。今、とってもお腹が痛いデチ…。 それのどこがどう風呂なのかと小一時間ほど問い詰めたいよね。 レモナより ※これだけの能力があるのに、「入浴」に対する知識を持ち合わせていないことには驚いた。 一般的な文化とは程遠いところで生息している証拠であろう。 また、漢字のみではなく簡単な英語も書いているという部分にも注目したい。 312 名前: レモナとちび 投稿日: 2003/06/01(日) 22:09 [ n2O7zjBA ] 【レモナとちび6月の部・完】 7月の部に続く