一匹の勘違いをしたしぃの末路

Last-modified: 2015-06-04 (木) 02:22:47
404 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/02/18(火) 20:47 [ RjpYVAlI ]
虐殺…とは程遠いのですが、
「一匹の勘違いをしたしぃの末路」のお話しを。

ライブ会場では男達の歓声が響いていた。
ステージの上には、ピンクの花飾りを耳につけたしぃがマイクを持って立っている。
「ミンナ!キョウハ アリガトウ! シィ トッテモウレシィヨ!」
男達のうなるような歓声が、会場を包み込む。
「キョウハ ミナサンニ オシラセガアリマス!」
しぃはそこでフーっと息を吐いて、マイクを持ち直す。
「ナント! シィガ モナーコスメティックスノ ケショウスイノ シィエムニデルコトニナリマシタ!」
会場のいたる所から、おおーっという歓声と、おめでとう!の声がしぃの体を包み込む。
「アシタ シィエムノ サツエイニ ハイルンダケド…カノジョガイタラ シィチャンミタイナ オハダニナレルヨ!ッテ
ケショウスイ カノジョニプレゼント シテミテネ!」
前にいた男が、「僕の彼女はしぃちゃんだよ!」と大声で叫んだ。
しぃはとても嬉しそうな顔で微笑んだ。

しぃはプロダクションが売りだし中の新人アイドルだ。
写真集「DAKKO……」が爆発的に売れ、
続いて発売したデビューシングル「DAKKO☆シテ☆」も、
新人の中ではそこそこの売り上げだった。
毎週金曜日の深夜にやっている30分枠のラジオも好評で、
時々テレビのバラエティーに出て、新人らしい初々しい話し方も好評だった。
そんなしぃの事を取り上げる雑誌もいくつか出てきて、
しぃは今まさにスターへの階段を順調に昇っている最中だった。
そんなしぃにCMのオファーがあった事は、
スターへの階段を全速力で駆け上がろうとするしぃには願っても見ない絶好のチャンスだった。

しぃはマネージャーの車の後部座席に座ってだるそうに外の景色を眺めている。
「ナァーニガ ボクノカノジョハ シィチャンダヨー! ナノヨ…ッタク。ニキビズラノ キモガオ オタクノクセニ!」
さっきの客の悪口をさも当たり前のようにしぃは言ってのけた。
しぃには傲慢で、どうしようもない自惚れグセがあった。
マネージャーはしぃには聞こえないくらいの小さな声で舌打ちを漏らす。
(この女…こうしてつけ上がれるのも時間の問題モナ)
「カワイイシィチャンノ コイビトニフサワシイノハ ギコクンニ キマッテルジャナイ! ネ!モナー!」
しぃは運転席のモナーに同意を求める。
モナーはまっすぐに前を見詰めたまま、「そうに決まってるモナ。」と一言だけ言った。
しぃは「トウゼンヨ!」と言いながら生意気な笑顔をバックミラーにちらつかせている。
マネージャーは明日こそ、この糞しぃに自分が本当はどんな立場なのかを思い知らせる
絶好の日だと考えていた。

405 名前: 404 投稿日: 2003/02/18(火) 20:47 [ RjpYVAlI ]

 モララーCMカンパニー。
スタジオの中ではスタッフが忙しく働いている。
今日はしぃのCM撮りの日だ。
「しぃさん入りまーす!」
しぃがマネージャーに連れられて入ってくる。
「シィガ コンナジャクショウ メーカーノシィエムニ デテアゲルンダカラ イッショウカンシャ シテナサイ!」
しぃが頭を下げたモナーコスメティックスのスタッフに向かい暴言を吐いた。
マネージャーがスタッフに向かい申し訳なさそうに手を合わせる。
直前の打ち合わせの後、CM撮影が開始された。

「ハニャーン! モナーコスメテイックスノ ケショウスイ モウタメシタ?」
しぃは化粧水をパシャパシャと顔にかける。
「シィハ コノケショウスイノ オカゲデ ダッコシテクレルヒト イーーッパイ!」
ニコっとカメラに向かって微笑むしぃ。
「ミンナモ モナーコスメティックスノ ケショウスイデ! カ ワ イ ク!ハニャニャーン!」
しばしの沈黙のあと、「OK!」の声が響く。
「いやぁ、しぃちゃん。よかったYO!」
ディレクターのモララーがしぃの前に立った。が、しぃはそんなモララーを一瞥すると、
「トウゼンデショ。シィハイツモ カワイイノ!…シィハコレカラ テレビノオシゴトナノ。…ドイテチョウダイ。」
と、冷たく言い放ち、ツカツカとスタジオを後にした。
しぃはその時、ディレクターの顔とマネージャーの顔が
自分の後ろ姿を睨み付けていたのに全く気付いていなかった。

今日の全ての仕事が終了して、しぃは自分のマンションに到着した。
「お疲れ様!…これ、モナーコスメティックの人が(かわいいしぃちゃんにどうぞ)って。」
マネージャーはしぃに可愛くラッピングされた袋をしぃに手渡した。
「ナニ? シィハ アイドルナンダカラ ヤスモノハ ウケトラナイノヨ。」
つくづく生意気な事を言える口だとモナーは思った。
そして、そんな事を言っていられるのも今のうちだと。
「新しく出る化粧品のフルセットモナ。」
「チョウド キレテタモノガアッタシ…アリガタクモラッテオクワ。」
しぃはマネージャーからひったくるように袋を受け取る。
そうして、マネージャーに対して労いの言葉もないまま、さっさと自分の部屋に入っていく。
「…あの糞メスネコが!」
モナーは大きな声でそんな事を言い、それからある所へ電話をかけた。
「…もしもし…。はい…ええ、渡しました。…そうですねぇ。明日の朝が楽しみモナ。」

しぃはシャワーで1日の汗を流した後、
ソファーの上で、さっき貰った袋の中からシートパックを取り出した。
パックを顔の上に貼って、しばし横になる。
「ナーンダ。ジャクショウメーカーノ モノダッテ オモッテタケド ケッコウ イイカンジジャナイ。」
そんな事を言いながら、スケジュール帳を開く。
「アシタハ ラジオノオシゴトト エイガノ ブタイアイサツ…。アトハ アクシュカイ…」
そうして大きな溜め息をつく。
「イヤダナァー カッコイイ ギコクントハ ナンカイモ アクシュ シタイケド キモガオノ ヤツラトハ アクシュナンカシタクナイ!」
それでもそれが可愛いアイドルしぃちゃんの仕事だし…などと言いながら、
しぃはパックをはがして、眠りについた。
パックがよく効き始めるのは、これからだ。

406 名前: 404 投稿日: 2003/02/18(火) 20:48 [ RjpYVAlI ]

朝。
しぃはギコ君の夢を見れたせいでご機嫌な目覚めだった。
「キョウモ カワイク シィシィシィ♪」
歌を歌いながら洗面台に立ち、洗顔フォームを泡立てる。
ソフトクリームのような泡が完成し、しぃはその泡で顔をマッサージし始める。
「ダッコ ダッコ デ マターリ シィシ…イタイ!」
刺すような痛みが、しぃの顔中を包み込む。
「ナンナノォ!?」
顔を上げ、鏡を覗きこむ。しぃは、あまりの事にその場で絶叫した。
「シィィィィィィィィィィーーーーーーッ!イヤァァァァァァァァァァーーーーーーッ!」
信じられなかった。昨日まであんなに可愛かった自分の顔が、
ヤケドをしたかのように真っ赤に腫れ上がり、頬の所からは血が滲み出してきていた。
「ドウシヨウ! コレジャ オシゴトモ デキナイ!…オケショウデ ゴマカセル!?」
しぃは痛いのを我慢して顔の泡を洗い落とすと、ファンデーションを分厚く塗りたくろうとする。
「ギャァァァァァァァーーーーッ!イタイーーーーーーッ!」
しぃはファンデーションケースを放り投げる。
ガシャンという音と共にファンデーションが粉々になって床に落ちた。

インターホンの音がして、マネージャーが部屋に入ってくる。
「おはようモナ!」
しぃが出てくる気配はない。
洗面所の方から水が流れる音と、しぃのハニャーン、ハニャーンという泣き声が聞こえてくるだけだ。
成功だ。とマネージャーはほくそえむ。
「しぃちゃん?…どうしたモナ?」
マネージャーはゆっくりと洗面所の方へと歩いていく。
「…しぃちゃん?」
しぃは床の上に座り込んで泣いている。
こちらからは見えないが、顔の方からはポタポタと血がたれているのが何となく分かった。
気配に気付いたしぃが、ゆっくりと後ろを振り返る。
「…!しぃちゃん!?どうしたモナ!?」
するとしぃは、ボロボロと涙をこぼしながらマネージャーの方へ駆け寄る。
「タスケテ!オカオガ・・・シィノ シィノカワイイ オカオガァァァァ。」
マネージャーは顔にも出さなかったが、成功だと思った。
「と、とりあえず今から病院に行くモナ!今日のお仕事はお休みモナ!」
マネージャーはしぃを隠すように車に乗せると、病院へと車を走らせた。

病院へとついたしぃは、すぐに手術を施された。
そしてそのまま入院する事が決定し、当分の仕事はキャンセルされる事になった。
しぃが手術室に入っている時マネージャーは病院を出て、車の中にいた。
胸ポケットに入っている携帯電話が鳴り出す。
「もしもし。…いやぁ、びっくりしたモナ。あそこまで酷い顔になるなんて。
ええ、今さっき病院に。…もうアイツはダメになるモナ。……これでもうアイツは仕事ナシだモナ。」
マネージャーは電話を切って、楽しそうに笑った。
3時間してから病院の方に戻ると、しぃの手術は既に終わっていて、
包帯を顔にグルグル巻かれた姿で個室のベットの上に寝かされていた。
マネージャーはその姿を見て、笑いを堪えるのに必死だった。

アイドルしぃが入院したと言うのは、あっという間に世間に知れ渡った。
マスコミ各社には急病という事にしてある。
マネージャーは、ファンレターの沢山入ったダンボールを持って、しぃの病室を訪れた。
しぃはラジオを聞きながら、ベットの上で黙ってその音に聞き入っている。
「しぃちゃん、全国からたくさんの手紙が来たモナ。包帯が取れたら一緒に読むモナ。」
しぃはこくりと頷く。
「カワイイ シィチャンハ イツ ゲイノウカイニ フッキデキル?」
「え…。そうモナねぇ。包帯が取れたらすぐ。みんなしぃちゃんを待ってるモナ。」
「トウゼンヨ! ゲイノウカイニハ シィヨリモ カワイイ アイドルガ イナインダモノ! ミンナ ジブンガ カワイイトオモッテル アフォバッカリ!
ハヤク オシゴトヲ サイカイシテ コノヨデ イチバン カワイイアイドル ハ コノ シィチャン ダッテコトヲ オシエテアゲナイト!」
しぃは、まだ自分が可愛いアイドルのままでいられると思っているのだ。
そんな事はもう有り得ないのに。

407 名前: 404 投稿日: 2003/02/18(火) 20:51 [ RjpYVAlI ]
一週間後、ついにしぃの包帯が外される時が来た。
包帯が外されると同時に、しぃは看護婦の持っていた鏡をひったくった。
「ハヤクカワイイ シィチャンノ オカオヲミセテ!」
目を輝かせて鏡を見る。以前のような、可愛いしぃちゃんの顔にもどっているハズだ。
しかし、可愛いしぃちゃんの顔はもうどこにもなかった。
「シィィィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーッ!?」
その叫び声に、病室の外で待っていたマネージャーが驚いてかけ込んでくる。
「どうしたモナ!?しぃちゃん!?」
しぃはベットの上に顔を押し付けて、シィィ、シィィと情けない声で泣いていた。
「オナガイ! ミナイデェ!」
「そんな事言わないで…何があったモナ?」
マネージャーはしぃの肩に手を置いた。
「サワラナイデェ!ホットイテヨウ!」
マネージャーの手を払いのけようと顔を上げた瞬間、しぃはマネージャーの方に顔を向けた。
そこには、頬の肉をえぐりとられ、醜く縫い口の広がった何とも言えない気持ちの悪い顔があった。
「オカオガ…シィチャンノ カワイイオカオガァーーーーッ!」
「うわぁ!キモッ!」
マネージャーは思わず本音を言ってしまった。
しぃは顔を覆って、ヒドイ!と言いながら、泣き出した。

一人になった病室で、しぃは机につっぷして泣いていた。
か細い腕が、何かにぶつかった。
「ハニャ…?」
毎日マネージャーが置いて行ってくれた、ファンレターのぎっしり詰まったダンボール箱だった。
「…コンナニ・・・。」
その束の中から、何枚かの封筒を取り出して封を開ける。
「…ハニャッ!?」
しぃの目に飛び込んできたのは、自分の事を励ます言葉ではなく、
「ダッコバカ!バチがあたったんだよ!」という一言だった。
「コンナテガミヲ シィチャンニダスナンテ!」
そう言いながら、次々と手紙の封を破いていく。
「コレモ…コレモ…ハニャァァァ!コレモ…!」
しぃの目の前に広がっていたのは、「死ね」「思い上がるな。」などの文字だった。
一つとして、激励の手紙は無かった。
怒りに震えていると、病室の戸がノックされ、マネージャーが入ってきた。
「しぃちゃん。ファンからの手紙、読んだモナか?」
「モナー!シィチャンニ シットスル アフォガイルノ!」
しぃは、マネージャーの方に自分を侮辱した手紙の束を持って駆け寄った。
「シットねぇ…本心モナよ。」
「ハニャッ!?」
マネージャーは呆然と立ち尽くすしぃをじぃっと見つめた。
「しぃちゃんは自分が世界で一番可愛いアイドルだと自分だけでそう思ってるだけモナ。
本当はバカでアフォでどうしようもない低脳だって事に気付いてなかったんだモナ。」
「シィィィィィッ!ヒドイ!ソンナコトヲ イウナンテ シャチョウニ イイツケルワヨ!」
「言いつける…ねぇ。まだ自分が可愛いアイドルだって勘違いしてるらしいモナ。
あー、そうか。まだしぃちゃんには事務所クビになった事言ってなかったモナね。」
「シィィィィィッ!?」
マネージャーは今までの借りを返すが如く、更に続ける。
「こんなバケモノみたいな顔のアイドルが何処にいるモナ?いまのしぃちゃんの顔なら
素顔でホラー映画の怪物に抜擢されるモナ。」
ククッと笑いながら、しぃの前に落ちていた手鏡を突き出した。
鏡の中には呆然とするバケモノの顔があった。
「それに…これを見るモナ。」
マネージャーは、病室のテレビをつける。
丁度CMの時間のようで、各社のCMが建て続けに流れている。
モナーコスメティックスとロゴが出て、一本のCMが始まった。
しぃが出演したCMのはずだった。
だが、しぃが見たことのない女の子が、楽しそうに笑いながらコマーシャルをしている。
「コレ シィチャンノ シィエムナノニ!…ダレナノォ!」
「今売り出し中の新人アイドル、レモナちゃんモナ。今や人気№1モナ。」
しぃは活き活きとしたレモナの様子を、許せないという顔で見ている。
「こっちも聞くモナ。」
ラジオのスイッチをつける。
ちょうど、しぃの担当している番組の時間だった。
ラジオから声が聞こえて来る。しぃの声が聞こえてくるはずだった。
しかし、聞こえて来たのは自分の声ではなく、さっきのCMに出てきたレモナという子の声だった。
「もう、しぃちゃんのラジオは打切りになったモナ。先々週から始まったレモナちゃんのラジオ、
物凄く好評モナ。」
「ソンナ…。ソンナ…。」

408 名前: 404 投稿日: 2003/02/18(火) 20:51 [ RjpYVAlI ]
病院の裏手の木でクビを吊っているアイドル・しぃが発見されたのは
それから8時間後の事だった。
「モウ コンナ オカオジャ イキテイケナイネ モウ シィナンテ イナイホウガ イインダヨネ」 という遺書と一緒に。

数日後、しぃの元マネージャー。モナーと、モララーCMカンパニーの代表モララーは
ゆったりとしたソファーに腰掛けて、楽しそうに酒を酌み交わしている。
「それにしてもしぃは最後の最後まで自分のことを可愛いアイドルだと思ってたモナ!
やっと死ぬ間際になって分かったらしいモナ。」
「それにしても…あの薬は凄い効き目だったな!」
あの日…、モナーがしぃに渡した紙袋の中の化粧品には、
全て強烈な効き目の毒素を配合してあったのだ。
その毒素は、しぃの顔の皮膚を崩壊させた。
これは全て、この二人の仕組んだ自惚れ屋のしぃに対する罠だったのだ。
「大体、芸能界なんていつでも取り替えが効くモナ。それなのにあんなに自惚れて…。
そんな事にも気付かなかったアイツはただのアフォだモナ。
あんな顔になってもまだ自分には芸能界に自分の居場所があるなんて思いこんで…。」
「笑っちゃうよなぁ!」

二人の夜はふけていく。

                          終わり。