761 名前: 僕にとっての君(XbneXQ/I) 投稿日: 2003/08/24(日) 01:21 [ 9hN3.kYg ] 「君の為に、僕は生きていく」 この言葉を君にかけたのはいつだったっけ…。 遠い昔の話のような錯覚…。 今、僕の前には人生で最も愛した人が倒れている。 そして、僕の腕は真紅の色に染まり、生暖かい感触がして…。 僕の涙が天から降る滴に隠されて、紺碧の背景が冷たく僕を包んでいる。 この世界には紺色と赤い色、そして僕の色と君の色しかない。 聞いてください。僕の、悲しい物語を…。 今から数時間前、僕は公園のベンチで初めての彼女とのデートに心を踊らせていた。 いつもどうりのジーパン、シワシワになってる黄色いTシャツ。 そう、いたっていつもどうりの格好。 そして、いつもどうりの青い空。 今日は良い日になりそうだ…。 僕がエサを与えていた目の前のハト達が、一斉に左右対象に飛び出した。 その先には、僕の最愛の人が微笑を投げかけている。 いつもよりも頬を赤く染めながら。 「モララー君、遅れちゃった…待ったかな?」 「え、いや、僕も今来たばかりだから」 普通のカップルと同じ会話を交わす僕達。 僕にとって初めての人。 可愛くて、上品で、何よりも僕を思ってくれている人。 「ね、しぃちゃん、お昼はどこで食べる?」 「モララー君の好きな所で良いよ。」 周りの木々が風に揺れて、葉がこすり合、そのたびに日差しと影の位置が変化する。 爽やかな風。 そして、何よりも素敵な君の笑顔…。 僕は、君を愛している。 762 名前: 僕にとっての君(XbneXQ/I) 投稿日: 2003/08/24(日) 01:22 [ 9hN3.kYg ] 喫茶店に僕らはよる事にした。 僕らは、窓際の席に腰かける。 さり気なく置かれた植物や、明るい色の壁紙が、今の季節に涼しさを与えてくれる。 僕はアイスコーヒー。君はオレンジジュース。 君と何度も目を合わせ、お互いに微笑み合い、この後の予定をたてる。 僕のアイスティーの氷が溶けて、カランと涼しげな音を立てる。本当に自然で綺麗で清みきった音。 店を出る頃には、中身が少し残っているグラスに汗が溜まり、そのうちの数滴が底に流れ落ちた。 僕達は最初に遊園地へ行く事にした。 夏休み最後の日曜日。どこもかしこも人でいっぱいだ。 でも、君と一緒にいられるだけで僕は幸せだよ。 他には何も望まない。 僕は観覧車に乗って二人きりになった時、君に僕の気持ちの全てを伝えた。 好きだよ…「君の為に、僕は生きていく」と。 君は頬を真っ赤に染めて、僕に微笑んでくれたね。 そして、生まれて初めての口付けを…。 綺麗なオレンジの、暖かく優しい光りが僕達を照らしてくれている。 僕はその時、幸せの絶頂にいた。 763 名前: 僕にとっての君(XbneXQ/I) 投稿日: 2003/08/24(日) 01:23 [ 9hN3.kYg ] 遊園地の遊び場を全て回った時には、空がピンク色になっていた。 そして、カラスの群れが山へ向かって行く。 横には、僕の腕をキッチリと握った君の姿。 柔らかく、すぐに崩れてしまいそうな僕の恋人。 僕の視線に気付き、僕を眺める君。 そして、僕に君の運命を変える一言を言った。 「死んでね」と。 僕は耳がおかしくなったのかと思った。 ガラの悪い人達が僕の周りを取り囲んでいる。 あまりに突然で、信じられない事態に僕は困惑した。 僕が何をした?僕はなんでこんな事をされているの?何故君は、僕がこんな目にあっているのに微笑んでるの? 判らない…何もわからない。 君は僕にこう行った。 「あなたは何も悪くない…悪いのはあなたの父親よ。私達を被虐生物と定めた人よ。」 たしかに僕の父親は有力な政治化だった。 しかし、そうしないと国が滅んでいたんだと何度も聞いている。 でも、僕のお父さんは5年前に死んでいるし、その法律も10年以上前に繁殖能力半減薬発明により取り消されている。 「なんで僕が!」 僕は思いのままに訴えた。 しかし、帰ってきた理由はあまりに理不尽なものだったんだ…。 「同属の恨みを晴らす相手があなたしかいないの」 ただの憂さ晴らしじゃないか。 よく見ると、その男達も成体のちびぎこだった。 しかも、全員ナイフを持っている。 僕は恐怖に震えた。そして、体が勝手に行動を起こした。 目の前にいる、一番弱そうなちびぎこに僕はとびかかった。 ナイフを奪いあって地面に転がる。 偶然にも、そのひょうしに刃の部分がちびぎこの首に当り僕はちびぎこを殺めた。 体中がガクガクいって、心臓が飛び出そうで…。 764 名前: 僕にとっての君(XbneXQ/I) 投稿日: 2003/08/24(日) 01:24 [ 9hN3.kYg ] 「ギャ、虐殺厨デチ!!」「お前は悪魔デチ!犯罪者デチ!」 酷い。これは立派な正統防衛だ。 しかし、犯罪者という言葉は僕の胸に重くのしかかった。 ぼくも、母親を殺された人間だ。 でも、その犯人は知能障害者で法律に守られていたため無実。 僕が大人になったらお父さんみたいな立派な政治家になって、犯罪を無くそうと思っていた。 それにもかかわらず、自分自身が犯罪者になってしまったんだ。 そう考えていると、腹部に急に激痛が走った。 僕が考えにふけっている間に刺されたみたいだ。 痛いよ。死んじゃうよ。恐いよ。助けて。 意識が薄れていく…。 ぼんやりと話し声が聞こえる。 「ヤッタでち!虐殺厨をやっつけたデチ!」「復習ワシヨーイ!」「うるさい!黙れコゾウ!警察に見つかるぞコゾウ!」 僕を殺して喜んでいる。人が死んで喜んでいる。 恐怖も罪悪感も感じずに勝利に酔いしれている。 こんな奴がのうのうとこの世界にのさばらせておいていいのか? いや、良いはずが無い。 おそらくこいつらは僕の他にも人を殺すだろう。 命の大切さをまるで判っていない。 僕のお父さんも、あの法律を出した時は涙に血の色が混じるまで泣いていたのに…。 何も知らないお前らが、何も理解しようとしていないお前らが……。 目が覚めた。 気が狂ったかの用に、フサに襲いかかった。 突然の出来事に反応できなかったらしく、すぐに地面にへたり込んだ。 そして、腹に強くナイフを刺し込んだ。 ブチブチと何かの繊維が切れるような感触。 血がゆっくりと滲み出てくる。 「ヒ…ヒギャァァァァァァァァァ!!!!」 馬鹿でかい声を上げた。 僕はゆっくりナイフを抜く。 「イダイ!イダイでジィィ!!アフ、アフゥ…」 「ワショ?…フサタン?」「しくじるアフォがいるか!コゾウ!」 二人がフサに冷たい視線を送る。 しかし… 「ワ、ワチョ?」 オニーニは変な感触に気付き、自分の胸に視線を向けた。 その視線の先には、自分の着ていたコートをも突き破って、刃の先が出ている。 「!!」 そして、しばらくたって激痛が走ったようだ。 「ワジョォォ!死ぬ!死んじゃうでワチョイ!レコタン!助けてでワチョーイ…」 きみは他人が死んでしまいそうな時に介護もしなかったのに、 自分がやられている時はそんな事を言うんだね。 本当に人間の本質そのものだ。 それと、腰を抜かしてお漏らしをしているレコもだ。 これだけ目の前に「死」をちらつかせれば、二度と殺しなんかできないはずだ。 僕は、大好きだった人の元へ近ずいていった。 765 名前: 僕にとっての君(XbneXQ/I) 投稿日: 2003/08/24(日) 01:24 [ 9hN3.kYg ] 君は怯えて、涙をぽろぽろ零して僕に「虐殺厨、虐殺厨」と叫んでいたね。 僕は君にとって復習の相手でしかなかったの? あのときの告白や、今日の笑顔や、あのキスも作り物だったの? 僕への愛も作り物だったの? 教えて、教えてよ。 僕は一体、君の何だったの? 君は僕の心の問いかけに答えてくれなくなってしまったね。 それも瞳孔を大きく見開き、口も開けたままで涎を流して。 さっきまで着ていた可愛い白のワンピースが真っ赤なドレスみたいだよ。 悲しいよ…でも嬉しい。 悲しいの?嬉しいの?どっちなの? 僕は一体なんなの?そして、君はなんだったの? 判らない…もう二度と判らない。 教えてよ、僕は…このさきどうしたら良い? 一番憎んでいた殺人を犯し、他人を殺し、君までも手にかけた僕が、 この世にいて良いの?のうのうと暮らしていて良いの? 判らない…判らないよ……お母さん、お父さん、この僕に答えを教えて。 お父さん……お母さん…。 僕が最後に見た物景色は、何の汚れも無い、大きなお月様だった。 糸冬