古代偉人小説アブネタシリーズ

Last-modified: 2022-08-14 (日) 15:46:14

古代偉人小説アブネタシリーズ(小説作品)

「というわけです。ご融資は無理です。
 ・・・・・・ああ、もし何か担保でもおありなら、話は違ってきますが ね。」
「タ・・・タンポ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あなたが返済不可能になったときの保険として、貸した額と
 同じくらいの価値があるもののことです。
 ・・・・・・そんなものが、ありますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しぃはしばらく考え込んでいたようだが、何かを決心したような顔つきで顔を上げた。
「タンポガアレバ オカネヲカシテクレルンデスネ」
「そうですが・・・、何かおありなのですか?」
「ハイ・・・・・・ タンポハ・・・コノ・・・

 シ ィ ノ ベ ビ チ ャ ン ノ オ ニ ク デ ス !」

作者


ヴェニスの商人 inアブ板 Edit

324 名前:CMEPTB (dlFS2kHA) 投稿日:2004/10/02(土) 20:31 [ dd6UeUBU ]
          「ヴェニスの商人 inアブ板」

「だから、何度も言っているでしょう。あなた方に貸す金など、1エソもないって・・・」
「シィィ! オナガイシマス!! オカネヲ カシテクダサイ!! オナガイシマス!!
 オカネガナイト コノコノ ゴハンモ・・・・・・!」

ベビギコをつれた、母しぃと思われるしぃが、
あるビルの一室で、モララーと話している。
話している内容は・・・・・・言うまでもないだろう。

「ナンデ カシテクレナインデスカ!! チラシニハ コウカイテアッタハズデス!!
{ドノシュゾクデモ オカシシマス} ッテ!!」
「確かにそうです。ここ私が営んでいる金融事務所 「社委六駆」は
 どなたであれ--例え客がしぃ族であれど、ご融資はしております。」
「ジャア ナンデ! オカネヲ・・・」
「それではお尋ねしますが、借りた後
 どうやって返済なさるおつもりなんですか?」
「ハ ハニャ? ソ・・・ソレハ・・・」
「他のしぃ族のお客様は、身体を売って返済なさっていたようですが
 あなたは、ねえ・・・・・・ ちょっと、トウが・・・・・・」
「ウ・・・ウゥ・・・」
「というわけです。ご融資は無理です。
 ・・・・・・ああ、もし何か担保でもおありなら、話は違ってきますが ね。」
「タ・・・タンポ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あなたが返済不可能になったときの保険として、貸した額と
 同じくらいの価値があるもののことです。
 ・・・・・・そんなものが、ありますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しぃはしばらく考え込んでいたようだが、何かを決心したような顔つきで顔を上げた。
「タンポガアレバ オカネヲカシテクレルンデスネ」
「そうですが・・・、何かおありなのですか?」
「ハイ・・・・・・ タンポハ・・・コノ・・・

 シ ィ ノ ベ ビ チ ャ ン ノ オ ニ ク デ ス !」

                  続く

325 名前:CMEPTB (dlFS2kHA) 投稿日:2004/10/02(土) 20:32 [ dd6UeUBU ]
>>324続き
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
モララーはしばし、呆気にとられたような顔をしていた。
「・・・・・・今、何と?」
「シィノベビチャンノオニクヲ タンポニシマスカラ オカネヲカシテクダサイ!!
 キイタコトガアリマス!! ベビチャンノ ソレモ "ヤセイ" ノオニクハ トテモカチガアルッテ!!」

確かに、ベビギコの肉はその柔らかさと味で、珍味とされている。
ことに野生の 天然のベビギコは、養殖特有の臭みもなく
また、すぐにチビギコに成長して肉が固くなるため、幻の食材とされているのだ。
「・・・・・・別にそれはかまいませんが、いいんですか?
 あなたが返済できなければ、私は約束通りお肉をいただきますよ?」
「ココデオカネヲカリレナケレバ ベビチャンモシィモ ウエジニデス!! ダカラ・・・」
「担保にしようとしようまいと、同じことだというわけですか。
 ・・・・・・なるほど、分かりました。
 では、証文を制作いたしますので、しばしお待ち下さい・・・・・・」

「ヤッタワ・・・・・・! オカネヲモラエレバ シバラクハナントカナル・・・
カエスホウホウハ・・・・・・モウチョットアトデ カンガエヨウ・・・」

返済の当てなどまるでないのに、この楽観ぶり
しぃ族というのは、どうしてこうなのだろう・・・・・・    

「お待たせしました。では、こちらを・・・」
証文には、こう書かれていた。

○月○日
私しぃ代は、本日○月○日 10:00に 金融事務所「社委六駆」より
1マンエソ 借り受けました。
つきましては、借金1マンエソ+利息5センエソを、2週間後の10:00までに返済できないときには
お金の代わりにベビギコの肉を1匹分提供します。         
                  続く

326 名前:CMEPTB (dlFS2kHA) 投稿日:2004/10/02(土) 20:33 [ dd6UeUBU ]
>>325続き 
カリカリ・・・・・・ ペタッ
「ハイ オワリマシタ。」
「御意に・・・・・・。 
 では、ベビギコ君はこちらで預からせていただきますよ。」
モララーは、ベビギコを抱き上げる。
「ア・・・アレ? オカータン?」
「ベ・・・ベビチャン・・・・・・」
「くれぐれもお忘れなく。私はやると言ったことは、必ずいたしますので。
 ・・・・・・では、また2週間後に・・・・・・。」
「オ オカータン・・・? 
 ヤダヨゥ!! イカナイデェ!! ボクヲ オイテカナイデェ!!」
「ゴメンネ ベビチャン チョットマッテテネ・・・・・・。スグ ムカエニクルカラ・・・・・・!」
「オカァーータァーーン!!」
泣き叫ぶベビギコの声を背に、母しぃはゆっくりと扉を閉めた・・・・・・。

「オカァタァァン・・・・・・ オカァタァァン・・・・・・」
相変わらず、ベビギコは泣きじゃくっている。
しかし、そんなベビギコに鞭打つように、魔の手が襲いかかってきた。
ブチブチィッ!!
ベビギコは背中に激しい痛みを感じた。
見ると、背中の毛皮が無くなっている。
モララーが、むしり取ったのだ。
「ふむ、やはり養殖もののような不自然さがない、引き締まったうまそうな肉だ・・・・・・」
モララーは、毛皮をむしり取った下の皮や肉を観察しながらつぶやいた。
「オ オジタン ヤメテェェーー!! イタイヨォ!! オ オカァタァーーン!! タスケテェェーー!!」
「ふふふ、泣けるうちに泣いておきなさい。
 どうせあと、2週間の命なんだから・・・・・・」
「・・・エ・・・?」
「知らないのかい? じゃあ教えてあげよう。
 君のお母さんはね、君のお肉と引き替えに
 1マンエソを私から借りていったんだよ。2週間の期限でね。」
「ソ・・・ソン・・・ナ・・・」
「まぁゆっくり、2週間待とうじゃあないか。
 はたして君のオカァサンは君を助けに来るのか、それとも否か・・・?
 ハハハハハハハハハハ!!」
 モララーの笑い声が、部屋内にこだました・・・・・・。                
                 続く

327 名前:CMEPTB (dlFS2kHA) 投稿日:2004/10/02(土) 20:34 [ dd6UeUBU ]
>>326続き
「まぁ多分、君のオカァサンは君を助けないだろうねぇ。」
「ナ ナンデ! ボクノオカァサンハ ヤサシイカラ ボクヲミステタリ スルモンカ!!」
「あ~、違う違う。そう言う意味じゃないんだ。
 ”助けられない”と言った方がいいかな?」
「?」
「しぃ族の唯一のお金を稼ぐ手段を知ってるかい? ・・・・・・売春だよ。
 しぃ族ってのはどこの機関でも嫌われているからね。仕事に就けないんだよ。
 だから残されたお金を稼ぐ手段は、身体を売るしかないんだよ。」
明らかに教育上よろしくないことをベビギコにまくし立て、モララーは続ける。
「でも君のオカァサンはもう若くなさそうだから、誰も相手にしてくれないだろうね。
 ・・・・・・ふふふ、君のオカァサンは、どうやってお金を稼ぐんだろうね。」

一方、母しぃはー
モララーの言っていたとおりになっていた。
日雇い業はおろか、通称3Kの仕事にも蹴られる始末。
夜道で売春を試みるも、若い同業者が近くにいるのに
誰がこんなトウの立ったしぃを相手にするだろうか。・・・誰もいやしない。
挙げ句の果てにはギャンブルにまで手を出すのだが
・・・・・・当然、なけなしの残金を搾り取られて終わった・・・・・・
             
そしてとうとう、期限の日が来てしまった。
金は、利息分はおろか元金分すらない。 というより、0。
てっきり姿をくらますかと思いきや、やはりベビギコのこともあるのだろう
それでも一応、「社委六駆」に向かったのだ。
「マサカホントウニ ベビチャンノオニクヲトロウナンテ カンガエテイナイワヨネ
 ソウダワ! ソウダンシタラ モウチョット カエスノヲマッテクレルハズダワ!」
・・・いまいちアフォなんだか、良しぃなんだか分からない思考回路である・・・。

                  続く

328 名前:CMEPTB (dlFS2kHA) 投稿日:2004/10/02(土) 20:36 [ dd6UeUBU ]
>>327続き
「おや、ようこそ。どうなさいましたか?」
「アノ・・・スイマセン・・・ チョット・・・・・・・・・・ ソノ・・・オカネノ・・・ホウガ・・・・・・」
「・・・つまり、返済が不可能だと・・・・・・?」
「ソ ソレデ アノ オハナシガ・・・・・・」
しぃ代が返済期限の延長を要求しようとしたその時、モララーがつぶやいた。
「では致し方ありませんな。・・・・・・契約通り、もうお金はいりません。
 その代わりにこれも規定通り、お宅のベビギコ君のお肉をいただきましょうか。」
思いがけない言葉に、しぃ代の顔が硬直する。
「エ!! チョ チョットマッテクダサイ!! ホンキデ ベビチャンノオニクヲ トルツモリナンデスカ!?」
「? 当たり前ですよ。前に申し上げたはずです。私はやると言ったら必ずやる、と。」
「ソンナッ!! オナガイデス!! オカネナラゼッタイニ オシハライイタシマスカラ!! ソレダケハ!!」
「もう無駄です。払えなければ肉を差し出す。契約にはちゃんと従ってもらいましょうか。
 ・・・・・・それに私としても、ベビギコを殺したいんですよ。金をもらうよりも。」
「!! エ・・・エェッ!?」
「いやね、私も大好きなんですよ。・・・・・・虐殺。
 生きながら解体されていくベビギコの・・・・・・悲痛な叫び声、断末魔の痙攣・・・血の噴水・・・
 普段はくだらない「虐殺禁止条例」なんてのがあるから、なかなかやれなくて・・・・・・。
 もう、やりたくて仕方ないんですよ・・・・・・ 虐殺。」
「・・・・・・ナンテコトヲ・・・! オニ! ギャクサツチュウ!! コンナカワイイベビチャンヲ コロスナンテ!!」
「何をおっしゃいますか。元々この契約は、あなたが言い出したもののはずですよ?
 私を責めるのは、お門違いというものです。」
「ウゥゥッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
しぃ代はしばらく顔を真っ赤にして何かを考えていたようだが、やがて諦めたのか こうつぶやいた。
「・・・・・・ジャア セメテ イチニチダケ サイゴノオワカレヲ・・・・・・」
「フム・・・・・・いいでしょう。 ただし・・・
 逃げようなんて考えたら、親子共々どうなるか、おわかりでしょうな・・・・・・?」
「ハ ハイ・・・・・・」
「じゃあ、ベビギコ君をお返ししましょう。」
そう言うと、モララーはベビギコをつれてきた。
「オ・・・オカァタァァーーン!! オカァタァァン・・・・・・!!」
「ベビチャ・・・・・・ ! シィィィィィィ!! ベビチャン ソノカラダハ ドーシタノォォーー!!」
見るとベビギコは、顔以外の全身の毛皮がはがれ、ピンク色の地肌が丸見えになっていた。
「いやぁ、オカァサンと分かれていたのがとても辛かったのか
 ストレスで毛が抜けちゃったみたいなんですよ。」
もちろんモララーがむしり取ったものだということは、言うまでもない・・・・・・。
「じゃ、せいぜい楽しんでください。・・・最後の別れを・・・」
                
               続く

329 名前:CMEPTB (dlFS2kHA) 投稿日:2004/10/02(土) 20:36 [ dd6UeUBU ]
>>328続き
「オカァタン コワカッタヨゥ・・・」
「ゴメンネベビチャン ツライオモイヲサセテ・・・・・・」
しぃ代は、絶望のまっただ中にいた。
今日中に何とかしないと、明日にはベビが殺されるのだ。
ええもう、叩けば1キロ先まで音が響きそうな頭をフル回転させて考えましたとも。
でもね・・・・・・当たり前だけども、何も思い浮かばなかったようなんだね。
逃げたって、しぃの行動範囲なんてたかが知れてる。
すぐに見つかって、親子共々サヨウナラ。
あんなのに殺されるくらいなら、いっそこの手で・・・・・・とも考えた。
でも、かわいい我が子を殺すなんてことは、出来なかった。
警察に訴えようともした。けれどこれも、無駄である。
この世界では、確かに条例で虐殺は禁止されている
でもこのような、契約行為の一環としてならば、殺害は認められてしまっているのだ。
 
ああ、どうしてこんな契約をしてしまったんだろう。
ベビちゃんのお肉でお金を借りよう、なんて・・・・・・
ちょっと考えれば、どうなるかなんて分かるのはずなのに
ああ・・・・・・、どうして? 誰か教えて! おながい!

いつしか日は暮れ、すっかり夜になっていた。
ゴミが山のように捨てられている土手に、しぃ代とベビギコはいた。
「zzzz・・・・・・オカァタン・・・アッタカァァイ・・・・・・」
「ベビ・・・・・・チャ・・・ン ゴメ・・・ン・・・ネ・・・・・・。」
すっかり憔悴しきり、泣きはらした顔でベビギコに語りかける。
「オカア・・・・・サン・・・モウ・・・・・・ダ・・・メ・・・(ポ)」
絶望に身を任せ、自分もどろどろと眠りにつこうとしたその時
「・・・どうしたのよ、しぃ代。こんなところで・・・・・・。」
何者かが、声をかけてきたのだ。

「ねぇ、しぃ代ったら。起きてよ!」
誰かに揺り動かされて、しぃ代は目を開けた。
「・・・シィル・・・・・・チャン・・・・・・?」
「そうよ!! 思い出した? ったく、何でこんな汚いところで寝てるのよ・・・。」
今、しぃ代に声をかけているのは、しぃ留という名のしぃ。
しぃ代の友達で、オツムもしぃ族にしてはなかなか良いので、全角でしゃべることが出来る。
なので普通のしぃ族よりは、多少は高く見られているようだ。
多少でしか、ないが・・・・・・
「ウ・・・ウェッ・・・ウェェッ・・・ シィル・・・・・・チャァン・・・・・・」
「どうしたのよ、一体。何かあったの?」
「ウッ・・・ウッ・・・ベビ・・・シィヨノ・・・ベビチャンガァ・・・・・・」
「何? そういえばベビギコ君のその身体・・・・・・。何があったか、話して!」

小1時間後・・・・・・
「・・・全く、信じられないことするわね、あんたも。
 いくらお金に困ったからって、自分の子供を・・・・・・。」
「ゴメン・・・ナサイ・・・。デモ ホカニホウホウガ ナカッタノ・・・・・・」
「まぁ、それに関しては今更どうしようもないわ。それよりも
 今は、ベビギコ君をモララーから守らないと!
 ・・・・・・ちょっと、その借用書 持ってる?」
「ウン・・・ヒカエダ・・・ッテ ワタシテクレタノガ・・・」
しぃ代はしぃ留に借用書(控え)を渡す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
しばらく借用書を眺めていたしぃ留は、何かに気づいたように目を見開いた。
「しぃ代!! やったわ・・・!
 これならうまくやれば、ベビギコ君は大丈夫かも知れない!」
「ホ ホントウ!?」
「ええ・・・、見てなさいよ、モララー。
 必ずギャフンと言わせてやるんだから!!」
                     続く

330 名前:CMEPTB (dlFS2kHA) 投稿日:2004/10/02(土) 20:38 [ dd6UeUBU ]
>>329続き
「フム・・・・・・、来ない。 やはり、逃げましたか・・・・・・。
 まあ、それもよろしいでしょう。 親子共々、挽肉になりたいということで。
 じゃ、探してもらいますか。」
モララーは、業者に電話でもするのだろう 電話を手に取った。
その時であった。モララーがボタンを押していると、扉が勢いよく開かれた。
開かれた向こうに立っていたのは、しぃ代としぃ留と、その腕に抱かれたベビギコだった。
「・・・・・・これはこれは。ベビギコ君とお母上様。約束は守っていただけたようですな。
 では、ベビギコ君をこちらに。 すぐに始めますので。
 おや、もしかしてご覧になりたいのですか? 解体する場面を・・・・・・。」
「そんなんじゃないわ。私はあなたに一言言うために、ここに来たのよ!」
しぃ留が叫ぶ。
「・・・・・・? どなたですかな。こちらの・・・・・・」
「しぃ代の知り合いのしぃ留よ。それよりモララー・・・
 あんた本気で、これに書いてあることをするつもり!?」
借用書(控え)を机に叩き付け、しぃ留が叫ぶ。
「もちろんですとも。それにこの書類は、出るところに出れば有効ですよ。
 ですから私は何の咎めもなく、ベビギコ君のお肉をとれるというわけです。」
「フン・・・・・・確かにね・・・・・・。証文に書いてある以上、認めないわけには行かないわね・・・・・・。
 でもね、この証文には、ある問題があるのよ!」
「・・・・・・ほう?」                
「この証文には、こう書かれているわ
{担保としてベビギコの肉を、1匹分提供します。}と。」
「いかにも。」
「ふふふ・・・・・・この証文。確かに肉のことは書いてあるけど、
 それ以外のものに関しては、何1つふれられていないわね!
「・・・・・・と、申しますと?」
「確かに”肉”は取ってもいい、と書いてあるけれど、
 ”血”に関しては何も書かれていないわ!
 だからこの子のお肉を取るに当たって、1滴の血でも流したら・・・あなたは契約違反をしたことになるのよ! 
 だから、もし私たちがタレ込んだら、あんたは間違いなく条例違反で捕まるわね!」
「・・・何ですと?」
 モララーが眉をひそめると、しぃ留は勝利を確信したかのような顔つきでまくし立てる。
「まぁ、毛皮もあなたがはがしたんでしょうけど。もっとも証拠も何もないから、何とも言えないけどね。」
「・・・・・・何を、おっしゃりたいのですかな?」
「決まってるでしょ? ベビギコ君を解放してもらうのよ。
 あなたにしても、肉を取ろうとしても罰せられるんじゃ、ベビギコ君を確保する意味がないでしょ?
 それとも何? 罰を受けるのを覚悟で、肉を取る? そんなことをしたら、あんたは即、牢獄行きよ!!」 
「!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
モララーは黙り込み、うつむいてしまった。

・・・・・・・・・やった・・・・・・・・・
見た? モララー・・・・・・・・・
正義は絶対に、最後は勝利するのよ!
思い知ったかしら? 巷では虐殺の神だとかプロだとか宣ってるらしいけど
大したこと、ないじゃな・・・・・・・・・・・・・い?
「ふふふ・・・・・・くくくくくくくくく・・・・・・・・・・・・」
モララーが、不敵に笑い出した             
                  
                   続く

331 名前:CMEPTB (dlFS2kHA) 投稿日:2004/10/02(土) 20:39 [ dd6UeUBU ]
>>330続き
「何ですかな、その勝ち誇ったような顔は?
 まさかあなた、これで終わったなんて考えているんじゃあないでしょうね!?
 まったく、私も甘く見られたものですな。
 しぃ族が喧嘩を売れるほど、私は間抜けではありませんよ?」
「な・・・何を言ってるのよ? ・・・素直に負けを認めなさいよ!」
「くくくく・・・・・・まあまあ、落ち着いて。・・・あなた方の言い分は、よく分かりました。
 要するに、{ベビギコの肉を取るときに、血を出してはダメ} ・・・こうですな?」
「そうだけど、それがどうかして?」
「くくく・・・・・・。と、言うことは、逆に言えば・・・・・・裏を返せば・・・
{血を出さなければ、肉を取ってもよい}・・・・・・こういうことですな?」
「な・・・何が言いたいの!?」
「じゃあ、もしも・・・・・・{血を出さずして、肉を取る}
 こういう方法があるならば、何の問題もないでしょう?」
「な、何をバカな・・・・・・! そんなこと、できるわけがないじゃない!
 ! 言っとくけど、血を全部絞り出して肉を取るなんていうのは、論外だからね!」
「ははははは・・・・・・。 そんなことは分かってますよ。
 ・・・ム。ちょうど業者も来たようですので、始めますか。
 お母様、ベビギコ君をお預かりしますよ。」
「エ・・・ア・・・アノ・・・・・・」
当惑した母しぃの腕の中から、ベビギコを引っ張り出す。
「エ・・・エ・・・ ドウシテ? ボク モウ カエレルンジャナイノ?」
「ところが、そうはいかないんだよ ベビギコ君。
 それではお母様方、準備がございますので、しばしお待ちを・・・・・・
 あ、肉を取るところはお見せしますので、お楽しみに・・・・・・。」
そう言い残して、モララーはベビギコを片手に、業者のAAと一緒に別室に入っていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ダイジョウブ・・・カナァ ベビチャン・・・・・・」
「大丈夫に決まってるじゃない! そもそも
 どうやったって無理でしょ!? 血を出さずに肉を取るなんて!
 ハッタリよ! ぜったいできっこないんだから!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

別室にて、モララーと業者AAが何やら話している・・・・・・。
「ところでこのベビギコ、質はどうです?」
「なかなかいいんじゃねえか? 野生ものだし、わりと肉質もしっかりしてそうだし・・・」
「ヤメロォ!! ハナセェ!! オマエラナンカ・・・コワクナンカ ナイゾォ!!」
「・・・・・・まぁ、査定は後にしましょうか。 とりあえず、この糞虫幼虫を
 バラす準備を始めましょう。 ・・・例のものは持ってきてくれましたか?」
「ああ、ここにあるぜ。じゃあ・・・・・・」
「ヤメロッ! アッチイケ!! ボクニナンカシタラ オカァタンガ・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その、10分後
「いやぁ、長らくお待たせしました。」
モララー達が部屋から出てきた。
しかしなぜかモララーも業者AAも、まるで勝利を確信しきったような
不気味なほどにゆがんだ笑顔で出てきたのだ。
「準備の方が、今終わりましたのでね。」
モララーはなおも不適な笑みで、別の机に
先程別室で「準備」してきたと思われる、ボウルを乗せた。
ボウルの中には既に、ベビギコが入れられていた。

それを見たしぃ代が、平静を保てるはずもない。
まわりなど、まるで眼中に無いという雰囲気だ。
しかしなぜかしぃ留は、平然としていた。

おかしい・・・・・・
何でベビギコ君のお肉を取るのに、まな板を用意しないで、ボウルを用意するの?
それに、包丁はおろか、ナイフすら一本も見当たらない。
刃物なしに、どうやって肉をそぎ取るというの?
・・・・・・それに何か、ベビギコ君の様子も変・・・・・・。
さっきからピクリとも動かないし・・・・・・
・・・まさか、殺されてる?
・・・・・・でも、殺したところで、何になると言うの?
殺したところで血が無くなるわけでもなし
あの様子だと、血を抜いたわけでもなさそうだし・・・・・・

「・・・・・・あんまり待たせるのも野暮ですから、そろそろ始めましょうか。」
                 続く

332 名前:CMEPTB (dlFS2kHA) 投稿日:2004/10/02(土) 20:41 [ dd6UeUBU ]
>>331続き
「んじゃ、お願いします。」
モララーが業者AAにそう言うと、業者AAは懐からおもむろに、のみと金槌を取り出したのだ。
「・・・・・・・・・。ここだな。」
まず腕の肉から取るのであろう、業者AAはじっくりとベビギコの腕を眺めた後
のみを突き立て、金槌を構えた。

「のみと・・・・・・金槌
 ! ま、まさか・・・・・・」  
「多分あんたの考えてること、当たってると思うよっ!」
業者AAはしぃ留に返事をすると、ほぼ同時に金槌を振り下ろした。
その瞬間

ガ シ ャ ッ ! !

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おおよそ、生物の身体からは発せられるとは思えぬような、固い音が響いた。
そしてその砕いたポイントから、何やら白いもやのようなものが出てくる。
そう、しぃ留の考えは、当たっていたのだ。
                   
モララーがすかさず、砕かれた肉に何かガスのようなものを吹きかけ、つぶやいた。
「・・・・・・そう、これが単純にして、一番効果的な方法・・・・・・
 すなわち、瞬間冷凍ッ・・・・・!
 これならば、血を流すことなく肉を取れる・・・・・・そうでしょう?」
しぃ留もしぃ代も、呆然とした顔になっている。
「いやぁ、お宅のベビギコ君もスヴァラシイ断末魔を、聞かせてくれましたよ!」
モララーは感慨深そうに、目を細める。

~約10分前~
「ヤメロッ! アッチイケ!! ボクニナンカシタラ オカァタンガ・・・
「オカァタンが、何なんだい?」
ベビギコが騒ぎ出した瞬間、モララーが業者AAに依頼していたものの中身
液体窒素を、ベビギコにぶっかけた。
噴き出した液体がベビギコの身体に触れた途端、じゅわぁっ という恐ろしげな音が響き渡った。
「ミギャアァァァァァァァァァッッッ!!???」
「いくら叫んでも、防音になってるから無駄だよっ!」
ベビギコは、まるで火がついたように泣き叫び、暴れ回る。
ドライアイスをうっかり触ってしまったことのある人なら分かるだろうが
超低温の物体にふれると、触れた部分が凍傷となって、火傷のような激しい痛みを生むのだ。
加えてベビギコを今襲っているのは、ドライアイスよりも遙かに温度の低い液体窒素である。
それも毛皮を剥がされた、むき出しの皮膚にである。
今のベビギコの状況を例えるなら、バーナーで全身を焙られているようなものなのだ。

「ミュ・・・ミュ・・・ィィ・・・・・・ミュ・・・」
そしてその超低温は、ベビギコの命を早くも消し去ろうとしている。
ついさっきまで大暴れしていたのに、もはや口を開けることすらままならないようだ。
小さい体に防寒の毛皮なしでは、当たり前の結果であるが

そして数分後、完全に超低温がベビギコの命を彼方に持ち去ってからも
モララーと業者AAはベビギコに液体窒素をかけ続けている。
「もっとしっかり、骨の髄まで凍り付かせないと、バラした時血が出てくるぞ!」
「しかしこれだと、バラすときに解凍されて、血が流れるな・・・・・・
 まぁ、あちらにも液体窒素を持っていけばいいか・・・・・・
 要は血が液体にさえならなければ、いいんだから・・・・・・。」

「・・・・・・とまあ、こんな具合で準備をしてきたわけです・・・・・・」
モララーと業者AAの目つきが、一段と怪しく輝いてきている。
                   続く

333 名前:CMEPTB (dlFS2kHA) 投稿日:2004/10/02(土) 20:42 [ dd6UeUBU ]
>>332続き
しぃ留の顔が、見る見る青ざめていく。
「この契約にしぃ留さん、あなたが言った欠陥があることなんて、とっくに知ってたんですよ。」
「な・・・・・・! じゃ、じゃあ、何で・・・・・・!」
「そう、その表情です。私が待ち望んでいたものは。
 私が見たいのは
 勝利を確信しきった輩が、最後の最後でどんでん返しを食らい、一気に絶望の淵に転落した
 表情・・・・・・ 特にあなたのような、調子に乗ったお馬鹿さんの ね。
 それが見たいがために、わざとこんな見え見えのエサを撒いておいたんですよ。」
「そ・・・・・・そんな! こ、このあたしが・・・・・・
 このしぃ留が、虐殺しか能がないようなモララーに、手玉に取られたって言うの!?
 そんな・・・・・・バカな話・・・・・・信じられないッ!!」
目に見えて狼狽しているしぃ留に、今度はモララーが勝ち誇った表情をして話しかける。
「信じるか否かはあなたの勝手ですが、事実は事実です。
 あなたは最後の最後に、惨めに敗れ去ったんですよ。」
ベビギコの肉が、業者AAの手によって削られていく傍
2匹のしぃの心も同様に、崩れていった・・・・・・。

放心状態(というより既に壊れている)の、2匹のしぃが何やらつぶやいている・・・・・・。
「ベビチャ・・・・・・シィヨノ・・・ベビチャ・・・・・・」
「そん・・・な・・・・・・この・・・・・・あタシ・・・ガ・・・・・・シィル・・・ガ・・・・・・。」
「おやおやしぃ留さん。せっかくの全角が半角に戻ってしまっていますよ?」
「無駄だろもう。何言ったって聞こえちゃいねぇよ。
 それよか、どうすんだこいつら? もう二度と、立ち直るこたぁねぇと思うが・・・・・・。」
「・・・・・・でしたら、こちらも加工していただきましょうか お肉に。
 なぁに、{契約破棄未遂の迷惑料}とでもしておけば、どうにでもなるでしょう。
 いくら条例があるとはいえ、まだまだ世間はしぃ族には冷たいものですから。」
「分かった。こっちにも液体窒素を使うのか?」
「いえ、面倒です。このままいきましょう。
 それに凍らせてしまっては、こいつらに十分に苦痛を与えてやることも出来ませんしね。」
「そうかい。 じゃ、俺は母親の方をやるから、そっちは頼むぜ。」
「・・・・・・お任せを・・・・・・」
モララーと業者AAは、今度はナイフを手にとり、しぃ達の前に立った・・・・・・。
                ・・・・・・・・・・・・・

334 名前:CMEPTB (dlFS2kHA) 投稿日:2004/10/02(土) 20:45 [ dd6UeUBU ]
>>333続き

最後に
我が金融事務所「社委六駆」は
たとえお客様がどんな方であろうと、ご融資はお断りしません。
ただしお客様のためを思って、返済の当てがないと判断した場合は、例外ですが・・・・・・
くれぐれも、返済の出来る範囲でご利用下さい。
いくら返すあてがないとはいえ、自分の肉を抵当に入れるなど、もってのほかでございます。
冗談のつもりだったとしても、冗談ではすまされなくなる場合もございますので・・・・・・

では、またお会いしましょう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
             
                        終

猿の手 Edit

262 名前:cmeptb (dlFS2kHA) 投稿日:2005/01/04(火) 14:39 [ QYbt4KOI ]
古代偉人小説アブネタシリーズNo2 「猿の手」(原作:W・W・ジェイコブス)
(No1:ヴェニスの商人 ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/5580/1080835342/r324-334)

一部に独自の設定を使ってありますので、その点はご容赦下さい。

非常にくたびれた顔をしたモララーが、町を歩いていた。
何か不幸でもあったのだろうか、その顔はまさに “憔悴” そのものだった。
よほどのことがあったのだろう。モララーは目の前に立ちふさがった白い物体に気づくまで
しばらく時間を要した…………。
「モララー!! 命ガ惜シカッタラ コノカワイイシィチャンニ 何カヨコシナサイ!!」
おなじみのスポンジ脳発言  生意気にも棍棒で武装したアフォしぃである。
アフォしぃには、学習機能というものが全くと言っていい無いらしい。
ついぞ最近も別のモララーに同じことをし、散々ぶちのめされたばかりだというのに
性懲りもなくまた同じことを繰り返しているのだ。
そして今回もまた、このモララーに袋叩きにあうかと思われたが…………
「何だ? 何か欲しいのか…………?」
このモララーは様子が違った。
憔悴しているとはいっても、しぃを殴り飛ばすくらいの力は残っているはずだろうが
そんなことをする素振りは一切見せず、逆にアフォしぃに話しかけているのだ。
「ハニャーン!! ソウヨ!! 言ットクケド シィハ甘クテ高級ナモノカ 値打チノアルモノシカ 興味ナイカラネ!!」
相変わらずの挑発的な発言にも顔色一つ変えず、モララーは続ける。
「ああ、そうか………。 それなら…………これやるよ。
 甘くも食えもしないだろうが、値打ち物には違いない代物さ…………。」
モララーが鞄の中から何かの包みを差し出すと、しぃはひったくるように受け取った。
わくわくしながら包みを開いていったしぃだが、その中身を見た瞬間、顔が凍り付いた。
「ナ……ナニヨ……コレ……! 気持チ悪イ…………!」
包みの中身は、ミイラ化した猿の手だったのだ。
                  
「モララー!! 一体何ノツモリヨ!! コンナ気味ノ悪イモノ シィチャンガ欲シガルトデモ 思ッテルノ!?」
気味の悪さのあまり、猿の手を投げ捨てようとするしぃを、モララーがいさめる。
「まぁまぁ待ちなよ……。気味が悪いからって捨てちまうのはもったいないぜ。
 こいつはただのミイラじゃあ、ないんだから………。」
「ジャア 何ダッテイウノヨ………!?」
「こいつは『猿の手』って言う代物でね。とある国で、呪術の道具として使われていた物なのさ………。」
「ジュジュツ………?」
「言ってみれば魔法とかの類かな? とにかく
 こいつにはある魔術師の呪いがかかっていてね、ある不思議な力を持っているのさ。」
「ドンナ力ヨ…………?」
「あんたの願いを3つ叶えてくれる……そんな力………。」
「エェエ!? ウソデショ!?」
「嘘じゃあない。実際私も願を掛けたことがあるからね……。」
「エ! ソ ソレデ 願イハ叶ッタノ!?」
「願い? ああ、叶った……… もちろん、叶ったよ……… でもね……… フフフフ…………。」
「ハニャ? 何笑ッテルノヨ? 気色悪イワネ!」
「いや失礼…………。 ………で、どうするね?
 もしあんたが欲しいんだったら、この”猿の手”はあんたにやるが………?」
「ハニャーーン!! モチロンモラウワヨ!!  シィ 叶エタイオ願イ事ハ タークサンアルンダカラ!!」
「そうかい……。ま、一応言っておくけど、こいつに願いをかけるときはくれぐれも注意しなよ。
 使い方によっては、後悔することになるから気をつけな。 
 じゃ、また会える日を楽しみにしているよ…………。」
モララーはそう言い残すと、どこかに去っていった。

263 名前:cmeptb (dlFS2kHA) 投稿日:2005/01/04(火) 14:39 [ QYbt4KOI ]
その夜、家(ゴミ捨て場)に戻ったしぃは、猿の手を眺めながら
一緒に住んでいる仲間のしぃ達と、何やら話していた。
「ワー!! ホントニ気持チ悪イオテテネ!!  ヨクモララーモ コンナノ持ッテタワネ! 」
「何デチュカコレ? 食ベラレルンデチュカ?」
「ベビチャン! コンナ変ナモノ 食ベチャダメヨ!!」
「デ コノオテテ 変ナ力ヲ持ッテルッテ 聞イタケド…………?」
「ウン ……デモホントニ コンナ気持チ悪イ オテテデ オ願イ事ガ 叶ウノカナァ………?」
「試シテミレバイイジャナイ! モシコノオテテガ 本物ナラ 凄イ儲ケ物ヨ!」
「ウン………! ジャ ヤッテミル!  ………エート……… ナニガイイカナァ………。」
半ば冗談で猿の手を手に取り、願いをかける。
「! ソウダ!! ………”猿ノ手”ヨ!
 シィチャンハ オ腹ガヘッテルノ! ダカラオイシイ食ベ物ヲ……今日ハモウ遅イカラ……明日用意シナサイ!」
しかし願いを言った次の瞬間、しぃは猿の手を放り出した。
「ウ 動イタ!?」
「ハニャ!? 何ガ動イタノヨ?」
「コノ……猿ノ手………。今……動イタノ………!」
「ハニャ!? 何言ッテルノヨ! コンナカラカラノ ミイラノオテテガ動クワケナイジャナイ!!」
「デモ………デモ………ホントニ…………!」
「ハイハイ。 マ 願イガ叶ッテルコトヲ祈ルワ。 ジャ オ休ミ!」

所詮は気のせいだと、周りに群がっていた他のしぃ達もねぐらへと戻る。
あとには呆然とした顔をしたしぃだけが残っていた。
「気ノセイジャナイ……… ホントニ動イタノヨ………。」
しぃは心の中に、何かがこみ上げてくるような感触を覚えた。
アフォしぃにも一応、そういう器官はあったようだ。
「マア 明日ニナレバ 分カルワヨネ………。」
しぃはそうつぶやくと、自分のねぐらに戻っていった。

264 名前:cmeptb (dlFS2kHA) 投稿日:2005/01/04(火) 14:40 [ QYbt4KOI ]
翌朝

「モシ猿ノ手ガ本物ダッタラ 今日シィチャンハ 御馳走ヲ食ベレルンダヨネ!?」
一抹の不安を抱えながらも、興奮さめやらぬ中しぃは目覚めた。
「イツ食ベレルノカナ? イツカナ イツカナ ゴチソウ!!」
しぃの頭の中は、まさにそれ一色で染め上がっていた。

しかし、何も起きない。
仲間のしぃと一緒に遊んでいるうちに、何時しか太陽は西の空に傾いていた。
「ゴチソウ……… 出テコナイネ…………。」
「ヤッパリ 偽物ダッタノヨ アノ猿ノ手。 モララーノヤツ シイチャンヲ 騙スナンテ………!」
「マァ………イイワ。 ソレジャア シィ 晩ゴ飯探シテクルネ!」
「! ハニャーン!! モシカシタラ ソノオ願イ事ッテ………」
「! ソウダネ! オ願イ事ノオカゲデ スゴイモノガ手ニ入ルカモ!!」
友達とキャッキャと騒ぐとしぃは、夕食を探しにいつものレストラン街のゴミ箱へと向かった。

が、何も見つからない。
いつもならこの時間帯、2~3軒まわれば1軒はめぼしい生ゴミが捨てられているのだが
今日はどのレストランも定休日でもないのに、生ゴミがほとんど見つからない。
「アレ? オ願イ事ノオカゲデ 何カスゴイモノガアルト思ッテタンダケド………何モナイ………?
 ナンデ今日ハ コンナニゴ飯ガナイノカナァ?」
その後もあちこちまわってみるものの、収穫はほぼ0。
おかしいなと首を傾げながらも、住処に戻ったのだが……
何か様子がおかしかった。
いつもの住処のゴミの臭いに混じって、何か変な臭いが混じっていた。
そして何か、鳥の鳴き声のような音も聞こえてくる。
「ハ…ハニャッ!?」
不安で胸にいっぱいになり、しぃは住処に急いで走る。

「ッシィィィィィィィィィィィッッッ!!??」

住処は、既に真っ赤に染まっていた。
風にあおられゴミ捨て場全体を飲み込もうかという、炎によって。

265 名前:cmeptb (dlFS2kHA) 投稿日:2005/01/04(火) 14:40 [ QYbt4KOI ]
「チィィィィィ!! アチュイヨォォォ!! ママァーー!!」
「シィィィィィ!! 助ケテェェェ!!!」
先程漂ってきた変な臭いは、この住処のゴミが焼ける臭い。
そして鳥の鳴き声のような声は、逃げ遅れたしぃ達の悲鳴だったのだ。
「シィィィィィ!? ナンデ!? ナンデオ家ガ 燃エテルノヨォ!!」
いくら叫ぼうと、いくら泣こうと、いくら消し止めようとしようと………
住処に回った炎は、止まるところを知らない。際限なくしぃ共の住処を飲み込んでいく。
「シ……シィィィィィ………嘘ダヨォ…… コンナ……ヒドイ…… 悪イ夢ナラ 覚メテヨォ………」
しぃが燃える住処の前で泣き崩れた、その時だった。
ガスボンベでも住処の中に捨てられていたのだろうか、突然大爆発が起こったのだ。
「シィィィィィ!! 危ナイ!!」
何とか間一髪立ち直って直撃をかわすも、その爆発で飛んできた代物にしぃは絶叫する。
「シッ シィギャアァァァァァ!!!! ナ…ナ…ナ…ナ…ナ……ナニヨ コレェェッッ!!」
爆風と一緒に、友達のしぃの焼死体が数体飛んできたのだ。
「モウ イヤァァァ!! オ友達 死ンジャッタノォォォ!!?? ハギャアァァァァァァァ!!」
半狂乱ならぬ全狂乱とも言えるくらいの勢いで、しぃは騒ぎまくる。しかし
「ハギャァァァァァァァァン!! ハギャアァァァァ……ァァァ……ン!!?? ハギャ……アア……ンン??」
突然しぃは、何かに気づいたかのように泣きやんだ。
その目は一心に、先程焼け出された友達の焼死体に向けられている。

見れば、この焼死体
まだ焼けて間もないのだろう 皮膚表面ではまだあちこちでジュウジュウと音を立て
身体のあちこちにある、ガラスの破片でも刺さったような大きな傷からは
中の肉が焼ける匂いと煙が立ち上り、また血液、もしくは肉汁か が滴っている。
まるで極上の、レアのステーキのごとく。
しぃの口の端から、涎が流れ落ちる。

「ジュルルルル………ハァ……ハァ…… ハッ!?」
涎まで垂らして、あと少しで食らいつく そのすんでの所でしぃは正気を取り戻した。
「ナ……何考エテルノヨ アタシハ…… イクラ オ腹ガヘッタカラッテ オ友達ヲ 食ベ………
 ッ!! ッテ マ マサカ コレガ………??」
そのまさかにしぃが気づいたとき、背後でガサリと音がした。 
おそるおそる振り返ると、そこには思った通り「猿の手」があった。
しかも今回は、猿の手はなぜか人差し指をのばし、指さす形になっていた。
そしてその人差し指はまっすぐに、しぃが抱えていた焼死体に向けられていた。
あたかも 「どうだ? それこそお前が望んでいた『オイシイ食ベ物』だろう?」とでも言わんばかりに。
「ハ ハニャニャ…… ソンナ……コトッテ………」
しぃはその場に、思わずへたり込んだ………。

266 名前:cmeptb (dlFS2kHA) 投稿日:2005/01/04(火) 14:41 [ QYbt4KOI ]
翌日、ようやく鎮火したゴミ捨て場の前にいたのは、生き残りの脱力したしぃだった。
仲間の埋葬を済ませ、うつろな目つきで、しぃはぶつぶつと心なくつぶやく。
「ナンデ………? ドウシテ コンナコトニ………?
 シィハタダ オイシイ食ベ物ガモラエタラ ミンナト食ベヨウト思ッテタダケナノニ………。
 シィ 独リボッチ…… ソンナノ ヤダ…… 独リボッチナンテ………」
しぃ族にとって、親しい者の死と孤独は何よりも耐え難い者であるらしい。
ことのこのしぃは、生まれてからずっと一緒だった仲間を失ったので
その分孤独・絶望感もまた大きいようだ。
「独リ……イヤ……独リナンテ……イヤ…………。」
新たな集落でも見つけに行くのか? しぃは、うつろな朦朧とした意識の中で
どこかへと歩いていった……。

~数日後~ 

「ハニャーーン! コッチコッチーー! 早クオイデヨーー!」
「ウン! 今行クカラ チョット待ッテテーー!」
そこには、新しい仲間達と戯れるしぃの姿があった。
以前しぃが住んでいた集落よりはかなり小さいが、
以前と同じようなボロイ廃屋を住処にして、和気あいあいとやっている。

「ハニャーーン…… ヨカッタァ…… マタ オ友達ガ見ツカッテ……」
頼り会える仲間が見つかって、ほっとした様子である。しかし
「デモ ナンカ寂シイナァ………」
今までの集落よりも仲間の数が少ないためか それともまだ新しい環境になれていないためか……
まだしぃの心には、何かしこりのようなものがあった。
「ヤッパリ 死ンジャッタオ友達…… 切ナイヨウ……
 戻ッテキテ ホシイナァ……… デモ………」
しぃがそう思ったその瞬間、実にタイミング良く、“ガサリ”と音がした。
しぃが振り返ったその先には、まぎれもない“猿の手”があった。
「ハ ハニャニャ……! アンタハ………!」
しぃがおもむろに後ずさりしたその時、猿の手は
今度は素早くピースサインのように、指を二本立てた。
「ハ ハニャ!? 何ヨアンタ! ピースサインナンカシテ! ……ッテ
 …………ソウカ! シィハマダ1ツダケシカ オ願イシテナカッタンダ!
 ダカラマダアト2ツ 願イガ叶エラレルンダ! ……ソレナラ 次ノオ願イハ………
“猿ノ手”ヨ! コノ前死ンジャッタ シィノオ友達ヲ蘇ラセテ!」 
了解したという意味か 猿の手は指を一本ゆっくりと折った。
「コレデ マタオ友達ト マターリデキル! ヤッター!」

そして、その夜
新しい集落の仲間みんなで夕食を取っているとき、誰かが扉を叩いた。
ドン……ドン……ドン……ドン……
「ハニャッ! モシカシテ!」
しぃは直感的に、それが猿の手が蘇らせた友達だと思った。
「ミンナ 聞イテ! シィノオ友達ガ来タノ! ホラ ドアヲ叩イテイルノガ聞コエルデショ!?」
「エ シィチャンノオ友達!? ジャア オ出迎エ シテアゲナクチャ!」
皆がぞろぞろと立ち上がり、扉近くに集合した。
「開ケルヨ!」
しぃが扉を開けた途端、全員が絶句した。
そこにいたのは、確かにしぃの“お友達”だった。
但し、土からダイレクトに蘇ってきたであろう、半ばゾンビと化した状態だったが。

267 名前:cmeptb (dlFS2kHA) 投稿日:2005/01/04(火) 14:42 [ QYbt4KOI ]
「ナ 何ヨコイツラ……! アンタノ友達ッテ アンナ化ケ物ナノ!?」
「チ 違ウ……! コンナ化ケ物ナンカジャ………」
「ソンナコトヨリ アイツラ入ッテキタヨ!」
これがでぃやびぃの方が、数百倍はまともかと思われる連中だ。
体の半分は既に腐り果てており、ウジ虫や蝿などがたかっているのはご愛敬。
クサヤの臭いが香水とも思えるくらいの強烈な腐臭を漂わせて、侵入してきた。

「何テ……ウゲェッ!………非道イ………臭イ………! 
 サッサト………出テ行キナサイ!」
一匹のアフォしぃが、勇敢にも攻撃を試みた。
「喰ラエ! シィチャーーーン パンチ!!」

ぐぢゅっっ

腐った肉に渾身の一撃。ぐにょりとした感触が不気味に伝わる。
「ヤッタ! 効イ………ギャアアアアアアア!!」
もはや脳味噌、神経も機能していないような連中に、そんな攻撃が効くはずもない。
攻撃を受けたゾンビしぃは、顔の半分も腐敗、骨がほぼ完全に露出しているにもかかわらず
咬合力は衰えていない むしろ強化されているのか、一気にアフォしぃの頭を頭蓋骨ごと噛みちぎった。

ぐちゃっ……ぐぢゃっ……ぐじゃっ…………ゴクリ。
噛みちぎった頭をそのまま咀嚼、飲み下した。
だが次の瞬間、飲み下した肉はそのままボタボタと、腹部から流れ出る。
内臓はとっくに腐り果て、腹部は骨がむき出しの空洞状態だから当然ではあるが。

それを皮切りに、ゾンビしぃ達はゆっくりとしぃ達の方に近づいてくる。
「イヤァァァァァーーー!! 助ケテェェェェェーーーー!!」
「コ 来ナイデ!! アッチ行ッテェェーー!!」
「クチャーーヨゥ!! コワーーヨゥ!! モウ ヤーーヨゥ!!」
集落のしぃ達はパニック、一斉にゾンビしぃ達から逃亡を図るが
入り口はゾンビしぃ達がたむろしていて、脱出は不可能 
加えて、このしぃ達の集落の廃屋は幸か不幸か壁はすべて鉄板。つまり
この廃屋はいわば牢獄のような袋小路。逃げ道は、ない。

268 名前:cmeptb (dlFS2kHA) 投稿日:2005/01/04(火) 14:42 [ QYbt4KOI ]

まさに、地獄絵図だった

「イ イチャアァァァァーー!! タチュケテェェェェーー!!」
最初の犠牲者は、逃げ足の遅いベビしぃに決まったようだ。
3体のゾンビしぃが囲い、カラスがついばむがごとくその柔らかい肉をむさぼる。

がじ……がづ……ぶじぃっ……… ぐじゅ……ぐぢゃ……じゅるるる………
骨も軟骨程度の固さしかなく、筋肉もまだ未発達で、噛む必要もないくらい柔らかいベビしぃは
ものの30秒もしないうちに床に血だまりだけを残し、骨をも残さずに跡形もなくなった。

「ホ……ホラ ダッコスルカラ……助ケテ ネ??」 
追いつめられた別の一匹は、お決まりのダッコポーズで逃れようとするが

ぶじぃっ!!
「ナ ナンデェーーー!? ダ ダッコハgァグゲァギャガァァlァ!!」
ダッコポーズで両手を差し出した瞬間、腕を二本とも一気に食いちぎられ、後は言うまでもない。
「ヤ ヤベデェェェ!! シィハオイシクナグギャアァァァァ!!」
ライオンに喰われるシマウマがごとく、そのまま腹から食い破られた。

ゾンビしぃの激臭のためか、それとも恐怖のためか、
気絶 そのまま食い尽くされ、苦しまずに死んだ幸運な者もいれば
最期の最期まで無駄にあがき、嬲られるように喰われていった者もいた。

「ア……アア……ドウシテ……? シィノ オ友達………」
部屋の隅でうずくまるようにして、しぃは携帯のヴァイブのごとく震えている。
自らが召喚した“お友達”がまさか、こんな惨劇を生み出すなんて
しぃはただ、お友達を生き返らせて、みんなでマターリしようとしてただけなのに
お決まりの文句が、発狂寸前の脳味噌で反芻していた。

そして気づいたら、もう残っているのはしぃ一匹だけになっていた。
残りは皆、血だまりになったり、胴体に穴が開いていたり、頭がなかったり……
要するに、ただの一匹も生きちゃいない。
最後の獲物を食するべく、ゾンビしぃ達が歩み寄ってくる。

そして、しぃはここに来て、モララーが言っていたことを思いだした。
「使い方によっては、後悔することになるから気をつけな。」
そうなんだ。“猿の手”は、願いをただ叶えてくれる、幸運のアイテムなんかじゃない。
叶えた願いと引き替えに、代償 それも最悪の代償を求めてくる、呪われたアイテム。
今思えば、モララーがあんなに疲れ切っていたのも、分かる気がする。
あのモララーも、“猿の手”で願いを叶えて、ひどい代償を払ったんだ。
どうして、最初に願いを叶えたときに気がつかなかったんだろう。

いくら悔やんでも、もう遅い。後悔は、決して先には立ちません………。

「オ オ願イ……来ナイデ……アッチ行ッテ………」
哀願などどこへやら お構いなしに近寄ってくる。
「ネ ネェ……アタシダヨ? 昔 ミンナト一緒ニ遊ンデタ シィダヨ!?」
理性・意志すら持ち合わせていないゾンビ共が
記憶など残しているはずもない。ゆっくりと歩み寄ってくる。
「ハ ハニャニャニャ………ハニャ!!」
後ずさりしてずるずる逃げていたしぃだが、とうとう壁際に追いつめられてしまった。

269 名前:cmeptb (dlFS2kHA) 投稿日:2005/01/04(火) 14:44 [ QYbt4KOI ]

「オ願イダヨ!! ミンナ シィノコト 思イダシテヨ!!」

部屋の隅に追いやられ、まさに絶体絶命と言った状況下
必死に何度も何度も命乞いをするしぃ。
しかし、そんな命乞いも右から左。ゾンビしぃ達は容赦なく近づいてくる。
あと、1メートルと言ったところか
奇跡が、起きた。

「ハ ハニャニャ………ハニャッ!?」
震えるしぃの手に、何かが触った。
言うまでもない、諸悪の根元(?)猿の手である。
今度は指を一本、立てた状態で。
「ハ ハニャニャニャ…… ソウダ ソウダ ソウダ…… 願イガアト1ツ 叶ウンダ………」
しぃは震える声で猿の手に、最後の願いを声を限りに叫んだ。
「サ 猿ノ手 ヨ!! シ シィノ蘇ッタオ友達ヲ 死ンダママニシテ!!」

猿の手は、立てた一本の指をゆっくりと折り、「グー」の形にした。
直後、突然風が吹き始め、同時に猿の手は砂のようにさらさらと崩れ始めた。
完全に砂状になった猿の手は風に乗り、あたかも砂嵐のように部屋中を駆け回った。
思わず目をつぶり、防御態勢を取るしぃ。

…………………………………………………
そして、暫く時間が過ぎ
しぃは、おそるおそる目を開けた。
そこには、ゾンビしぃの姿は一匹もなかった。
「ヨ ヨカッタァ…… イナク ナッタァ………」

しかし、安堵するにはまだ早かったようだ。
確かにゾンビしぃ達はいなくなった。しかし――
彼らが残した惨劇の跡は、しっかりと残されていたからだ。

「ハ ハニャ……」
孤独感に堪えきれずにやった行いが、また次の、更に絶望的な孤独を呼んでしまった―――。
加えて、この惨劇を引き起こした直接の原因は、彼らを呼び戻した しぃ 自身。

「ソンナ……ソンナ……ソンナ……ソンナ……………」
罪悪感と孤独感に苛まれ、その場に崩れるしぃ。
これから先、彼女が死を選ぶか、生を選ぶか  それは誰にも分からない。

夜の帳の中、しぃの泣き叫ぶ声だけが、いつまでも、いつまでも続いた………。
                        
                           終わり

検察官 Edit

398 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:11:35 [ 7YwzrkI6 ]
古代偉人小説アブネタシリーズNo3 「検察官」(原作:ニコライ・B・ゴーゴリ)

木枯らしがひゅうひゅうと吹きすさぶ寒空の元、
また同じように寒々とした村が一つ、あった。
この村の名前は、後御五里村
そしてこの村が、どことなく荒んだような空気がするのも当たり前
何せこの村の住人は、全員がしぃ族なのだ。
どいつもこいつも、生まれたときには既に親がいない いわば孤児。
外部からの客など、週に一度かそこらに
都市部に出かける連中が中継地点としてやって来るだけ
この村はそんな連中が寄り集まった、吹き溜まりの村なのだ。
そしてそんな吹き溜まりの村が今、にわかに慌ただしくなっている・・・。

          ~村長屋敷~
屋敷の一室に、幾匹かのしぃが集まっている。
何やら会議をしているようで、この村の村長と思われるしぃが
他のしぃに向かって何やら発言した。
「皆さん。今日皆さんに集まってもらったのは、極めて重大な報告をするためなのです。
 というのも、近々この後御五里村に、虐殺党の視察がやってくるのです。
 それもレビゾル市・・・虐殺党本部からの、です。」
皆の顔に、緊張が走る。
「虐殺党!? ナンデコンナ田舎村ニ・・・・・・?」
「ナンテコト……! ナンデ今ニナッテ!?」
「ネエ、何ナノ…? 虐殺党 ッテ…」
「アンタ、ソンナコトモ知ラナイノ? …マアイイワ。
 虐殺党ッテイウノハ……マア、ソノマンマノ意味ノ団体ヨ。
 元々ハ、アフォシィヲ駆除スル団体ダッタンダケド、最近虐殺党ッテ改名シタノヨ。
 マア、元々ガアフォシィ駆除団体ダッタカラ
{良しぃやでぃなど、アフォでないしぃは対象にしない}ナ~ンテ言ッテルケド
 党員ノ中ニハ、中毒レベルノ虐殺好キモイルモタイダカラ、ドウニモ、ネ……。」
皆が騒がしくなったところで、村長が話し出す。
「はいはい! みんな静かに!
 それで、その虐殺党なんですが、近々忌まわしくも
 私たちしぃ族の大量駆除をもくろんでいるようなのです。
 とは言っても、例によって{害を及ぼすしぃのみが対象}とのことですが。」 
「ドウシヨウ…… ソンナノガ来ルッテコトハ…。」
「その通りです。おそらく…というより間違いなく
 その視察がここに来る目的は、視察ではなく調査…斥候でしょう。
 私たちが彼らの言う、{害を及ぼすしぃ}かどうかのね。」
「ソンナ……!」
「それで、視察官がこの村にやってくるのです!
 それで、分かりますね? もし、虐殺党に睨まれるようなことがあったら……」
村長しぃは親指を立て、喉の前で首を掻き切るように真横に振る。
「まだ誰がいつ来るといった詳しい情報は調査中ですが、近日中に来ることは確かです。
 ですので、いいですね皆さん! くれぐれも気をつけてくださいね!
 それでは、今日はこれで解散にします!」

399 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:12:15 [ 7YwzrkI6 ]


それから数日。村には目立って大きな動きはなかった。
ことが起こったのは、会議から5日後のことだった。
村長屋敷に、一匹のしぃが血相を変えて走り込んできた。
「村長! 大変デス!」
「何なの? 騒々しいわね。」
「ソ…ソレガ…、宿屋ニ…、モララーガ…泊マッテイルンデス!」
「? モララーが? それがどうかしたの?」 
「ソレガ、普通ノモララージャナインデス!」
「……? どこが、どういうふうに?」
「ハイ! ソノモララーハ、何デモ三日クライ前カライルソウデ
 宿屋ノ主人ト何カ話シテイルトコロヲ偶然見カケタンデスガ、ソノモララーハ……
 普通ノモララーヨリ 頭ガ良サソウデ
 普通ノモララーヨリ 思慮深ソウデ
 普通ノモララーヨリ 良サソウナ服ヲ着テイテ、
 普通ノモララーヨリ 怪シイ雰囲気ヲ醸シ出シテイテ
 普通ノモララーヨリ…………」
「はいはい、もういいわ。
 とにかく、宿屋に普通じゃないモララーがいる、と。」
「ハイ! オマケニ……
 宿屋ノ主人ニ聞イテミタラ コウ答エタンデス!
『アノモララーハ レビゾル市カラヤッテキタ“モラスターコフ”トイウ方デス。
 デモ トテモ妙ナ方デ 部屋ニ籠モッタッキリ 殆ド外ニ出テコナイ』 …トイウコトナンデス!
 村長! ヤッパリコノモララーガ 例ノ………」
「そうね………。一度、確かめてみましょう。行くわよ! 一緒に来なさい!」
「ハ ハイ!」

400 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:12:57 [ 7YwzrkI6 ]

 
「ちっきしょう…… なんでこんなしぃ族しかいねぇへんぴな村に、俺は泊まってるんだ……」
一人のモララーが宿屋のベッドの上で、ぶつぶつ愚痴をこぼしている。
「くそったれのニダー共めが……。奴らが麻雀に誘い込んできやがった時、気づくべきだった……。
 あんのやろうども、よってたかって やれ九連宝燈だの、国士無双だの、大三元だの……
 イカサマ野郎どもめ! 1時間もしねえ内にすっからかんにしやがった!
 リベンジしてやるッ! ……といきてえところなんだが、そんな金なんかあるわけがねえ……。
 くそ……。思えば、虐殺党クビんなったときから、この調子だ……。
 元はと言えばあのバ課長! あいつのせいなんだ………!
 何が『君のホラはもう聞き飽きた。もううんざりだよ。』 だ、馬鹿が!
 能なしが! そんな訳のわからん理由で、将来の虐殺党の指導者となる、この俺をクビにするとはッ!
 ちっ……。ふん、まあいい…… 今にあいつは分かるだろう。
 この俺をクビにしたことが、どれほどの愚行かということを、な!」

 …………………………………………

「にしても、何というシケた寒村だ ここはッ!! どこもかしこもかび臭エ!
 まあいい。俺の眼鏡にかないそうな、選ばれし者の町を見つけるまでの……辛抱だ。」
そうして散々わめいていると腹が減ったのか、モララーの腹が鳴る。
「………っと、腹減ったな。……おい! 何か食い物を持って来いッ!!」
しかし、何の返事も返ってこない。
「誰も、いねえのか……?」
試しに扉を開けて外を見るも、やはり誰もいない。
「……っくしょおッッ!! だからしぃ族は嫌なんだッッ!!
 生きる価値もねえような薄汚いクズ共めが! この俺を誰だと思ってやがるッ!?
 俺がもし死んだら、手前らが一生働いても返せねえほどの損害なんだぞッ!? 分かってんのか!?
 ………ハァ………ハァ………くそッ…………。」
散々わめくと、今度は疲れたのか
ベッドに横になったそのままの姿勢で、居眠りを始めた。

そうして、しばらく立ってから
何者かが扉を叩く音に、モラスターコフは目覚めた。
「(誰だ……? まさか宿屋の主人か…?
 よもや宿賃の催促か………? ばかなやつだ。
 そんなことをしたところで、どうなるかはわかっているだろうに………、まあいい。
 どうせ暇だったし、イラついていたところだ……。)
 誰だ? 入って来いよ!」
モラスターコフは扉が開かれるのを身構えて待っていたが
扉が開かれた瞬間、あっけにとられた顔をした。なぜなら
扉の先に待っていたのは宿屋の主人ではなく、多少はいい身なりをした(村長の)しぃだったからだ。

401 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:13:36 [ 7YwzrkI6 ]

「あ、あれ? ……あ、いや、で、何か用か?」
まだ呆気にとられている様子のモラスターコフに、村長しぃが切り出す。
「ハニャッ!! 申し遅れました!
 私、この村の村長でございます。今宿屋に、外からのお客様がお泊まりになっていると聞きまして……
 お泊まりになっているお客様に何かご無礼でもあったら大変ですので
 今、ご様子を伺いに来た次第でございます。」
「ほ~う。」
村長しぃの腰の低さに、思わずモラスターコフは高圧的になる。
「じゃあ、言わせてもらうが
 ここの宿屋は何なんだ!? 食事を頼んでも全然出てこないし、
 あげくのはてには何か頼もうにも、さっきまで誰一人としていなかったんだ!
 まったく、俺がいたレビゾル市のそれとは大違いだな! なァ!?」
まくしたてるモラスターコフに、村長しぃは少し震えながら
「ハニャッ!! 申し訳ございません! 身共も指導の方はきちんとしているのでありますが
 今日はたまたま、風邪をひいておりまして………」
「風邪だとォ!? そんな言い訳で通るとでも思ってるのか!?
 これがレビゾル市だったら、貴様ら今頃原型とどめちゃいねえぞ!?
 いいだろいいだろ。近日中にはこの村から、人っ子一人消し去ってくれるわ!」
村長しぃはますます目の色を変えて
「ハ ハニャニャッ!! い、いえいえ! そんなつもりでは!
 どうか、どうか落ち着いてくださいまし!」
「落ち着け………? ほほう。被虐生物である貴様らしぃ族が、俺達モララー族に意見するとはな。
 いい度胸だな、面白い………! 今夜は久々に血の雨が見れそうだ……!」
「シィィィィ!! お、お許し下さい! お許し下さい!
 私どもにご不満がございましたら、何でもお申し付け下さい!
 ですから、ですから………」
「………ちっ。それじゃ、まず食事を用意しろ! 俺は腹が減って仕方がないんだ。」
「お、お食事でございますか! それなら、お詫びと言っては何ですが
 村長屋敷の方にお越し下さいまし! 御馳走の用意を大至急致しますので!」
「……ふん、まぁ大至急っつったって、しばらくはかかるんだろ。
 まぁいい。その間(金をせびれそうなやつでも見つけるべく)村の中でも見て回るか。」
「む……村の中……ですか?」
「ああ、よくよく考えたら、この村に来てから直行で宿屋に来たからな、俺。
 金でもせ…… ゲフンゲフン! いや、退屈しのぎに村の中でもぶらついてみようかと思ったんだが……」
「! そ、そうでございますか! それではどうぞ、ごゆっくり!」
「? ふん。じゃあな!」
モラスターコフは荒々しく扉を開けると、外へと出ていった。
後に残った村長しぃの元に、先程まで宿の外で様子をうかがっていた何匹かのしぃがやってきた。
「村長! 今ノモララーガ………?」
「………。先程、調査の報告が来ましたが、間違いないようですね………。」
村長しぃは、声のトーンを落とす。
「エェッ! ジャア………」
「静かに! まだ話は終わっていませんよ!
 それで、今後のことですが、彼には絶対、不満を感じさせないようにしなければなりません。
 彼には気持ちよく帰ってもらわないと、私たちの首が飛びますからね………。
 それで、今後の身の振り方についてですが……………。」

402 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:14:40 [ 7YwzrkI6 ]

しばらくして、モラスターコフが宿屋に帰ってきた。
「あ~あ、くそっ。金をせびるどころか、誰一人外にいねえじゃねえか……。
 しかし、さっきの村長といい、この村の連中は何か変だな。
 どいつもこいつも、俺のことを恐れている……? なぜだ……?
 近頃は有象無象の虐殺党の幹部共が、“党員以外の虐殺は禁止”なんて言ってやがるから
 前見たく、モララーを見たり、脅されただけでびびるしぃも、ほとんどいないはずなんだが……?」
ブツブツつぶやきながら、モラスターコフは『宿屋』に戻ってきた。
「あ、そういやあいつら、屋敷に来いとか言ってやがったな。間違えて宿屋に戻って来ちまった。
 しかし御馳走だかなんだか言ってやがったが、大丈夫だろうな………
 この俺の味覚は、超一流の高級料理しか受け付けねえんだぞ……。」
戻ろうとしたその時、何か話し声が聞こえてきた。自分が泊まっていた部屋からだ。
「ん? 俺の部屋に、誰かいる……?」
扉に耳を当てて、盗み聞きを試みる。
「それで……彼は…………なのです………が………」
「ジャア ………デ……… …………トイウコトハ…………。」
声からすると、中にいるのは先の村長しぃと
しかしどうにも、中の連中は声を潜めて話しているらしく、うまく聞き取ることが出来ない。
「何だ何だ何だ? 俺の部屋で秘密の談義? あいつら何話してるんだ?」
しばらく耳を当て続けているも、相変わらずのひそひそ声でうまく聞き取れない。
しかし、突然一匹のしぃが大声を上げた。
「デモ虐殺党モ、ナンデコンナ時ニ視察ナンカヨコスノヨ!
 何モイm……フゴッ!?」
「声ガ大キイワヨ! 誰カニ聞カレタラ ドウスルノヨ!」
「ゴ ゴメン! デモ………。」
「そこ、うるさいわよ! とにかく、いいですか!
 彼にはこのことを、絶対に勘ぐられてはなりませんよ!
 ですから、この後の行動について、もう一度………」

またひそひそ話になってしまったが、モララーは満足げな笑みを浮かべて立っていた。
「く く く………、そうか………。だからあいつら、俺を恐れていたのか………。
 よりにもよって、この俺を虐殺党の視察と間違えるとはな。
 さっき村長しぃを、散々脅したのが決定的だったかな? ……まあいい。とにかく…… 
 こいつは、久々に楽しめそうだ……!」
モラスターコフは思わずほくそ笑み、村長屋敷に向かって歩き出した。

403 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:15:36 [ 7YwzrkI6 ]

「あれが、村長屋敷か……」
宿屋から歩いて数分、モラスターコフは村長屋敷に着いた。
「ん。あれ、何であいつら……」
モラスターコフが屋敷の門の方に目をやると、そこには村長しぃ以下数匹のしぃがいた。
(俺のが先に出たはずなのに……。先回りしやがったか? 
 ふん。まぁ、どうでもいいか。)
つかつかと門の所に歩み寄る。
「モラスターコフ様! お待ちしておりました!
 準備はすっかり整ってございます! どうぞ中にお入り下さい!」
モラスターコフは促されるままに中に入り、そのまま大広間に案内された。

「まぁ、予想通りというか………」
大広間には、既に宴の準備がなされていた が
所詮は寒村の宴。場所も料理も、どれもこれもすべてがしょぼい。
唯一救いなのは、酒だけは多少まともな物が用意されていたことぐらいか。
(これが、歓迎か………? 手一杯の、歓迎かぁ………?
 嘗められたもんだなぁ………俺も……… くっくっくっ………!)
不気味な薄笑いを浮かべるモラスターコフを、しぃ達は心配そうな顔つきで見守る。
(この……クズ虫どもが………!!
 貴様らには仕置きが必要だ……な! 覚悟しておけ……!!
 ただ宴をひっくり返す ブチ壊すより、もっと面白い趣向で仕置きをしてやる……!)

モラスターコフの出す空気に耐えかねたか、村長しぃがワイン瓶を手に近寄ってくる。
「さ、さぁ! まずはお酒をお飲み下さい!!」
「ん! あ、ああよ。」
ワイングラスにつがれた酒を、一気に飲み干す。
やはり、酒の味は悪くない。 

「さぁ! どんどん食べて、飲んでください!」
とりあえずは促されるままに、酒を、料理を口にする。
とりあえず、は…………

404 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:16:37 [ 7YwzrkI6 ]

「なんか………面白くねぇなぁ………」
宴が始まってしばらく後、突然モラスターコフがぼつりとつぶやく。
そして、思わず凍り付くしぃ達。
「な……何が………ですか?」
「面白くねぇっつったんだよ。酒飲んでも、飯喰っても
 な~~んも、面白くねぇ。」
見る見るうちに、青ざめるしぃ達。
そんな様子を面白がるように、モラスターコフはあたりを一瞥すると
「だから、俺が面白くしてやる。……おい
 まずは、ちびしぃとベビしぃを数匹連れてこい………。早くしろ!」
「ハ ハニャッ!!」
弾かれたように、しぃが数匹外に飛び出していく。
全員、モラスターコフがなぜちびやベビしぃを必要とするか、
これから何をするつもりなのか分からぬわけではなかったが、
彼を怒らせたら全てがおじゃんになる。
故に全員何も言わず、ただ黙っていた………。


「連レテ参リマシタ………。」
先程外に出たしぃ達が戻ってきた。
足下には、ちびしぃやベビしぃが、数匹。
どいつもこいつも、これから俺になにをされるか分かっていないような
無邪気なきょとんとした目で、俺を興味深そうに見つめてくる。
対して、連れてきたしぃ共 -おそらくこいつらの親か?- は、一様に暗い。
まぁ、当たり前か。

405 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:17:23 [ 7YwzrkI6 ]

「ご苦労さん。 ………さて」
アルコールの臭いをまき散らしながらモララーが立ち上がり
ちびやベビの所に歩み寄る。
すると
「臭いです! それに、何でここにクソモララーが、いるんですか!
 早く出ていかないと、アボーンしますよ!!」
ちびしぃが相変わらずの、恐れ知らずというか、大胆不敵なDQN発言をかます。
顔色を変え、慌てて飛び出そうとする大人しぃ達を後ろ手で制止すると
モラスターコフはそのまま大人しぃ達の方へと振り返った。
「ではこれから、このモラスターコフ様が、貴様らにレクチャーをしてやろう。」
「レクチャー……? 何の……ですか……?」
「しぃ族の生態学。 感謝しろよ?
 レビゾル仕込みの俺のレクチャーが聴けるなんてよ。めったにねぇ機会だぞ?
 じゃ、始めるとしますか………まず………。」 
モラスターコフは、先程のDQN発言のちびしぃの頭を鷲掴みにする。
大人しぃの中から、小さな悲鳴が上がる。
「痛いです! 早く放しなさい! このバカモララー!
 放さないと……グゲッ!」
ぎゃあぎゃあ喚くちびしぃの首を少し絞め、モララーは“レクチャー”を開始した。
「ちびしぃの生態に関しては、興味深い点が多い。
 まず、なぜちびしぃは全角しゃべりが出来るのか? っつー点についてだ。
 こいつぁ、言っちまえば簡単なこった。あの全角しゃべりは
 第二次性徴するときの、副産物だ。」
「副産……物……?」
「そ。しぃ族に限らず、モララー族、モナー族
 どの種族も一定の年齢に達すると、個人差はあるが第二次成長期
 俗に言う思春期だな を迎える。んで
 その思春期になるとだ、脳味噌から成長ホルモンが分泌される。
 こいつの作用で、肉体は爆発的な変化を遂げるわけだ。
 骨格・筋肉の変化……そして声変わり とか。で、だ……」
モラスターコフは、鷲掴みにしたちびしぃを前に出す。
「その時の成長ホルモンは、声帯にも異常を及ぼすんよ。
 他種族であれば、そのままストレートに声帯に働きかけて、声帯を変化させるんだが
 しぃ族の場合、その周辺の筋肉やら各組織を活性させ、結果として一時的に
 全角しゃべりができる声帯構造になるんだ。つまり間接的に声変わりするんだなぁ。
 そして大概の場合、成長期が落ち着けば また声帯は元の状態に戻り、
 あの聞き苦……ゲフンゲフン! ……半角しゃべりに戻るわけだ。
 つーわけだ。質問は?」

「………………………………。」

まぁ、当然ながら質問は帰ってこない。どうせ理解などしてはいないだろうからな……。
もっとも、そうでないと……困るんだがなぁ♪!

406 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:18:46 [ 7YwzrkI6 ]

「なるほど。イマイチ理解できてねーよーだな。
 じゃあ……実践してみっか。」
モラスターコフは、ちびしぃを鷲掴みにしたまま
もう片手で、卓上のステーキ・ナイフを手に取る。
何をするか察知したのか、大人しぃの中から悲鳴が上がる。
「よ~っく、見てろよ~~?」
ナイフを目の前にちらつかされ、流石のちびしぃも青ざめる。
「や、やめなさい! や、や、やめないと…………」
「アボーンするんですかぁ~?? どーぞ!!」
モラスターコフのナイフが、ちびしぃの喉笛を縦一文字にかき斬った。


「アアアアアァァァァァアア~~~~!!!!」
しゅうしゅうと、霧のようにちびしぃの喉笛から血が吹き出る。
「散々DQN発言してくれちゃって………でもな ヒック
 まだ終わっちゃいねぇんだよぉぉぉぉぉ!!!」
次にモラスターコフは、ちびしぃの喉の傷口に両手をやり
バリバリと一気に、横に広げた。
「~~~~~~~~!!!!」
最後に吐血し、悲鳴にならない叫びを上げ、ついにはちびしぃの目から生気が失われた。
散々強気な、大胆なDQN発言をしていたちびしぃ。
だけどもう、その口が開かれることは無くなった。


「さてと、皆々様。見えますかぁ!? ゲフッ」
また酒臭い息を吐いて、モラスターコフはちびしぃの死体を大人しぃ達に向ける。
「分かんだろ? ここの部分。妙に膨れてんだろ? 分かる?
 ここが膨れてるせいで、クソちびどもぁ全角しゃべりができるんだよ。
 あん? まだ分からねぇって顔してんな………あ、そっか。」

しゅっ

一閃。
モラスターコフは、今度は近くにいた大人しぃの喉を切り裂いた。
思わず周りから、今度は大きな悲鳴が聞こえる。
「………比較対象を………作ってなかったなぁ~~♪ ック!
 比較対象がなきゃ、どれだけ膨れてるかなんて、分かんねぇもんなぁ♪ ヒック! ってと!」
モラスターコフはちびしぃをやったときと同じように
切り裂いた大人しぃの喉を、バリバリと横に広げていく。
そして、その横にちびしぃの死体を並べる。
「見ろよ? 今度こそ分かるだろ? これ、これだ。中央あたりの管みてぇなやつ。これが声帯だ。
 な、一目瞭然だろ? 大きさの違いが。な?」
だがしかし、大人しぃ共は誰も見ていない。
青ざめた顔で目を背ける者、顔を手で覆って泣いている者、嗚咽を漏らす者
まぁ、当然と言えば当然か。
「………さ~てと、それでは、レクチャーその2。
 今度は、ベビしぃのオマソコの収縮率について……」

407 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:19:22 [ 7YwzrkI6 ]


「モ……モウ……ヤメ……!」
そのベビしぃの親か 母しぃとおぼしきしぃがモラスターコフの所に駆け寄ろうとする。が
「ヤメナサイ! 何ヲスル気!?」
「デモ…デモ! ベビチャンガ……ベビチャンガ!!」
「我慢……シテ……!! オ願イダカラ……!
 ココデアイツヲ怒ラセタラ……ミンナオ終イ……。
 ダカラ……耐エテ……!!」
「……………………!!!」
別のしぃの説得で、どうにか母しぃは矛を収める。
そしてそのまま、その場に泣き崩れた。

くくくくく……… いいねぇ、その表情………。

泣き崩れたしぃを、モラスターコフは満足そうに眺めながら
レクチャーを続けた……。

408 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:20:12 [ 7YwzrkI6 ]

「分かったか? ベビしぃのオマソコ、つまり括約筋だが
 これの収縮率は、ベビといえどかなりのものである!
 ………このように………!」
モラスターコフはちびしぃよろしく、ベビしぃを前に出す。
ただ、今回は鷲掴みではなかった。
なぜならその手は、ベビしぃのオマソコに深々と突き刺さっていたからだ。
モラスターコフの拳の形に膨れるベビしぃの腹。

「ベビしぃの頃から、マグナム級のティムポが入るんですねぇ。」
もちろん、無理矢理入れたのは言うまでもないが。
「イ イチャーヨゥ!! ヤ ヤメテェ!! タチュケテェ! オジタン ヌイテェ!!」
涙や涎をボロボロこぼしながら、ベビしぃは必死に哀願する。
ベビしぃのオマソコは限界まで伸ばされており、血がダラダラと流れている。 
おそらくオマソコだけでなく、拳を納めた子宮も同様であろう。
「オジ オジ オジジジジジ……!!」
限界突破の苦痛に、ベビしぃは口から泡を吹き、白目をむき……人事不省だ。
「おやおや……。ベビちゃんはもう、おねむですか。
 じゃ、レクチャーはお開きにしましょ。……よっ」
「バグウゥゥゥゥッッ!?」

ぐったりとしていたベビしぃが、突然バネ仕掛けのように跳ね起きる。
そして、鮮血。
モラスターコフが無理矢理腕を引っこ抜いたか? 否。
よく見ると、ベビしぃの腹からモラスターコフの指が突き出ているではないか!
ベビの子宮は、拳の状態で限界まで延びきっているというのに
その中で指を広げればどうなるか。言うまでもない。

「ベビちゃんのお腹からお花が裂(咲)きました! なんつって! ぎゃははははは!!」

そりゃお花じゃなくてチェストバスターだろ、というツッコミが聞こえてきそうなくらいの
異様な光景。モラスターコフ一人の狂笑がこだまする。

「とりあえず、レクチャーはこんな位で、終了!
 後ぁ飲んで騒いで、楽しみましょぉーか!! ヒャハハハハ!!」
躯と化したベビしぃを投げ捨てると、酒の回ったモラスターコフは
もう、止まらない。
一晩中、飲めや騒げやの大暴れ。

409 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:20:51 [ 7YwzrkI6 ]


翌日。
何とモラスターコフが、複数のしぃのお供を連れて、村を回っている。
なんでも、昨日の“レクチャー”の続きだとか。

「で、この土地がどうしたって~?」
「ハ ハイ! 数年前カラ ナゼカ痩セテシマッテ 作物ガ満足ニ 実ラナイノデス……。」
「ほ~……。だったら、レビゾル流の土地復活術を教えてやろう。」
モラスターコフは、紙に何やらメモすると
「……おい! そこのしぃ。ここに書いてあるやつを持って来い!」
「ハニャ! スグニ 持ッテキマス!」

「ご苦労。」
モラスターコフの両手には、スコップと、そしてお決まりの……
ベビしぃが10匹近く、握られていた。
「ヂィーー!! イタイデチュヨゥ! サッサト ハナチナチャイ!」
「チィハアイドル ナンデチュヨ! ヤサシクチナチャイ!」
「クルチィヨゥ! ハヤク ハナチテェ!」
「どうやら降ろして欲しいようなので、じゃ。」
手を開き、ベビしぃ達を地面にどさどさ落とす。
そして両手で、スコップを持ち……振り上げる。

「よ~~~く、見ておけよ。レビゾル流、土地復活術!!」
振りかぶったスコップを、モラスターコフはベビしぃの山に振り下ろした。

ぐっちゃ

「ギーーーー!! ヂィノカラダガ マッブダヅニィィィィ!!」
「ヤメテェ! ナコ チュルカラァァァァ!! ヤベデェェェ!!」

「スコップと、ダッコしてて下さ~い♪」
哀願は虐殺厨を興奮させるという。ベビしぃが泣き叫ぶたび
モラスターコフはスコップをより激しく振り下ろす。
骨も肉も何のその。スコップ両手に片っ端から叩きつぶしていく。
ぐちゃっ   ぐちゃっ   ぐちゃっ    ぐちゃっ!!

血が、肉が、腕が、足が
どんどんちぎれ飛び、そして形をとどめなくなってくる。

「でっきあがり~~!!」
はしゃぐモラスターコフの足下には
数分前とは比べようもない、完全に叩きつぶされ、すっかりミンチ肉となって一体化した
10匹近くのベビしぃがいた。

「あとはこのベビミンチの上から土をかぶせりゃ、この土地は蘇るぜ。」
「ア アリガトウ…ゴザイ…マス」
「お礼は結構。これも人助けよ。ククッ!」
「ア アノ デ デスガ スコシ……」
反論には敏感。モラスターコフが眉をひそめる。
「やりすぎだって言いてぇのか? 人がせっかく教えてやったのに え?」
「イ イエイエ! トンデモゴザイマセン! ホントウニ アリガトウゴザイマシタ!」
「……よろしい。じゃ、次行こうか。」
正に傍若無人のモラスターコフ。この蛮行が終わるのは、いつのことやら……。

410 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:21:42 [ 7YwzrkI6 ]

そして、夜。
またもや村長屋敷で、VIPモラスターコフの宴会が開かれていた。
「じゃあ、一人づつお酌をしに行ってきて………
 その時、これを渡すのも忘れないでね。」
村長しぃが、一匹のしぃに酒瓶と、宝石を手渡す。

「ア アノ モラスターコフ様?」
「あん? なんだお前……?」
「イ イエ オ酌ヲシニ参リマシタ。」
「酌か。注げ」
差し出されたグラスに、震える手で酒をつぐしぃ。
そして
「コ コレハソノ ツマラナイモノデスガ………」
宝石を手渡す。
「………。ほ~。」
小さな掌から渡された宝石を、モラスターコフはその掌で転がしながら見つめる。
(……この光具合、光沢………。
 こりゃまがい物じゃねぇな。本物だ……!
 ククッ こりゃいいぜ……!!)
モラスターコフはまるで、新婚の夫婦のようにだらしない笑顔を浮かべる。
そんな笑顔に、やや後ずさりした様子のシィベだったが
「私、コノ村デ八百屋ヲヤッテイル“シィベ”ト申シマス!
 モラスターコフ様。レビゾル市ニオ戻リニナラレテモ 私ノコト ヨロシクオネガイシマス!」
「あ、ああ。分かってるよ。シィベちゃんね。うん うん。」
「ハ ハニャァ! サ ササ モットオ酒ヲ!」

411 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:22:20 [ 7YwzrkI6 ]

「………はぁ。あの子ったら……やりすぎよ……。」
うれしそうな顔でモラスターコフに酌を注ぐシィベを、呆れ顔で見つめる村長しぃ。
「ま、いいわ。彼も気分良さそうだし。じゃ、次シィファ 行って来て。」
「ハニャッ! 行ッテキマス!」

「失礼シマス モラスターコフ様!」
「お、次か。」
「私、コノ村デ
「あいさつはいいから、さっさと酌ついで………それともちろん“ツマラナイモノ”もな。」
「ハ ハニャ! モチロンデス! コノシィファ 注ガセテイタダキマス!」

そしてその後も、次々と
「私 シィワト申シマス! ササ!」
「シィサデス! 今宵ハタ~ント 召シアガッテクダサイナ♪」
「私ハシィエト(ry」

次々にやってくる酒と、宝石。
これまでに散々飲んでいるだろうに、モラスターコフの機嫌は鰻登りに上がっていった。

412 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:23:03 [ 7YwzrkI6 ]

「ジャ 最後デスネ 村長」
「ええ、よくやってくれたわね。みんな。
 この分なら、ほぼ成功間違いなしでしょう。」
「アトハ 村長ダケデス! ガンバッテクダサイ!」
「ええ。まかせておきなさい……。」


「失礼します。モラスターコフ様。」
「お、あんた確か村長さんだったっけな。ック……。」
「はい。若輩者の身ではございますが……」
「よせよ謙遜は。……あんたも酌を?」
「ええ……。 どうですか? 今宵の宴は……。」
「最高だぜ。うまい酒と、きれいな宝石と……
 しかし、この宝石はどこから?」
「この近くに、鉱山がありまして。そこから。」
その言葉を聞いた途端、モララーの目の色が変わった。
「鉱山!? ……そいつぁ、どこにある……?」
「? ……この村から、ちょっと離れたところですが……。」
「な、なぁアンタ……。ちょっと、相談なんだが……」 
モラスターコフの声が、小さくなる。

「鉱山を……売ってくれと……?」
「頼むぜ。金はレビゾルに帰ってから十分な額を持ってくるから!
 な、頼むぜ。な!?」
「しかし、あの山は………。」
「だからよォ、頼むって言ってるじゃねぇか! な!? な!?」
「ですが、あの山は昔から我々しぃ族に代々伝わるもので、そう簡単には……」
「だからさ……… !(おっと)」
しつこく食い下がっていたモラスターコフが、突如ニヤリと笑う。
「……あっそ、くれないの。じゃいいよ。なら
 俺がレビゾルに帰ったら、どうなるか……」
「!!」
村長しぃの顔が凍り付く。

(そうだよ。俺にはこの“虎の子”があるんじゃねえか。
 下手に出る必要なんかなかったんだ。忘れてたぜ……。へへ。)
「さぁ、どうするかな?」

村長しぃは目をつむって、しばらく考えていたようだが
「………ならば、仕方ありませんね。
 その代わり……」
「ああよ。さっきも言ったが、こいつに関しては代金を払ってやる。レビゾルに帰ってから、持ってきてやるよ。
(誰が払うか ボケ!!) ……んじゃあ、権利書を……。」
「………分かりました。しかし、今で大丈夫ですか?
 かなりお酒を召しておられるでしょう……?」
「………そうだな。じゃあ、明日の朝
 俺を起こしに来たときに持ってきてくれ。明日発つんでな。
 今夜はもう、寝る。」
「分かりました。では、明日の朝に。」
村長しぃが、奥に消える。
「さてと、じゃあ俺も部屋に戻るとしますか……!」

413 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:23:43 [ 7YwzrkI6 ]


ククッ クククッ………!
部屋に戻ったモラスターコフ、グフフと満面の笑みを浮かべる。
今日は何て、ツイてる日だ……!
大量の宝石に加え、宝の山の鉱山ときた!!
クフフッ! これで俺も、億万長者か……!
おっと……。こんなめったにないグッド・ニュースは……
故郷の貧乏役人のモナーリンにでも、教えてやるか。
フフ フフフ フフフフフフフ………!!

414 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:25:31 [ 7YwzrkI6 ]

「オハヨウゴザイマス! モラスターコフ様!」
かんだかいしぃ族の叫び声。一番起こされたくない起こされ方で
モラスターコフは起こされた。
「やれやれ……何て起こし方だ…!!
 まぁいい。どうせこの村とも、今日で最後だからな……!!」

モラスターコフは荷物をまとめ、案内されるままに宿の入り口まで歩いた。
そして一同のお見送り。村長しぃが一歩、歩み出る。
「モラスターコフ様。お約束のものです。」
土地権利書をモラスターコフに手渡す。
「ああ。確かに。レビゾルに着いたら即、送るからよ。」
「はい……。その……もうひとつ……
 レビゾル市で……よろしくお願いします。」
「! はいはい。まかせときなさい。
 じゃ、そろそろ行くわ……( って、あれ? 
 何か忘れてるような……。まあいいか。)じゃあな!」
「またのご来訪を、お待ちしております!!」

モラスターコフの姿が見えなくなるまで、村のしぃ達は
精一杯、手を振り続けた。


「ふぅ……。やっと、行きましたね。」
村長しぃ以下、全員が胸をなで下ろす。
「さてと、じゃあお茶でも飲みましょうか。」
一同、宿屋にぞろぞろ戻る。

「やっと、行きましたね。これでひとまずは安心ですね。」
宿屋の食堂で、楽しそうに茶を飲むしぃ達。
「肩ノ荷ガ下リタワ~。ヤット終ワッタノネ~」

「フフ………あら?」
村長しぃが、床に何か落ちているのに気づく。
「これは………手紙? 差出人は…… ! モラスターコフ!?」
全員、村長しぃの方に振り向く。
「な、何で彼の手紙がここに? 食事をしに来たときに、落としたのかしら……
 あら……開いてるわ。」
開いた便箋。好奇心は抑えられない。
手紙を読み始める村長しぃ。何時しか周りには、全員が手紙の内容を見るべく集まっていた。
そしてまた、手紙を読んで行くに連れて、全員の顔色が変わっていった。

拝啓 モナーリン    
 
そっちはどうだ? 元気してるか? こっちは元気だ。
というより、聞いてくれ! 俺もとうとう、億万長者だぜ!
実を言うと、偶然泊まった村の連中 しぃ族なんだが が
俺のことを虐殺党の視察と間違えてくれてな。
もうすげぇのよ! 山のように宝石をくれた上に、その宝石の
鉱山の権利書までくれたのよ。分かる? この俺の強運!
まったく、しぃ族の馬鹿共には頭が下がるぜ~!
あいつらの脳味噌って、ほんとに少ねぇんだなー! 笑えてくるぜ まったく!
じゃあな! いつか帰ったら、その時の話をたくさんしてやるからよ!! 

ふろむ モラスターコフ

全員が、絶句した。
まるでそこだけ、時間が止まったかのように。

今の今まで、視察と思っていたモラスターコフは、ペテン師。大うそつき。
そんな大うそつきを、今まで手厚くもてなしていたのだ。
飯を要求されれば宴を、酌を。
ベビしぃ、ちびしぃも何も言うことなく差し出してきた。
そして宝石、鉱山の権利書までも………
どれもこれも、彼が虐殺党の視察だと思っていたから。
逆らえば、どうなるか目に見えていたから。
だが、実際はどうだ? 手厚くもてなしたその男は
自分たちを散々騙して、逃げていった……………。


ああ、なぜ、気づかなかったのか…………!
だけど、もう遅い。
口達者なペテン師は、彼女達から散々巻き上げて
そして、逃げていってしまった………。


               終        


415 名前:あれで終わるわけないでしょ ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:26:14 [ 7YwzrkI6 ]

 


「フヘヘヘヘ! これで俺も、億万長者か~~!」
レビゾル市の自宅、パクッてきた宝石と権利書を机に広げ
ニヤニヤとほくそ笑むモラスターコフ。
「あれもできる。これもできる。ウケケケケ
 何をしようかなぁ~~?」
と、そこに

ピン ポーン……

呼び鈴が鳴った。
机の宝石と権利書を、押入にしまい込む。
「誰だぁ……? はいはい 今開けるよ!」

がちゃ

「久しぶりだね。モラスターコフ君。」
「アンタは………。」
驚くモラスターコフ。無礼が服を着て歩くような輩が、なぜ?
それもそのはず、ドアの前に立っていたのは、かつての上司
部下か? 数名を引き連れた、虐殺党の“課長”だった。
「バ……あ、いやいや。課長! どうしたんですかい?」
「何。少し話があってね。お邪魔するよ。」
「どーぞ……!」

フハハハハ! ふん。バ課長め。
やはり俺の才覚に気づいて、よりを戻そうってハラだな。
馬鹿め! 馬鹿め! 今頃気づいても遅いんだよ!
見てろ。お前に地面に跡がつくぐらい土下座させてやるからなぁ~~!

416 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:27:16 [ 7YwzrkI6 ]

「さて、話というのはだね。」
(俺に虐殺党に戻ってくれって言うんだろ? 分かり切ったことを!)
鼻を高くするモラスターコフ。だが
課長の口から出た言葉は、まったく意外なものだった
「君に、とある事件の容疑がかかってるんだよ。」
(へ……?)
言うやいなや、課長は捜査令状を広げる。
そして、捜索に動き出す部下達。
「な……? え……? な…なにが、どうなって……?」
「………少し前、ここレビゾルの宝石店が相次いで強盗に会うという事件があった。
 そのうち一件は店主が殺害され、その店主が持っていた山の権利書が奪われたのだ。
 ………覚えているかな?」
「…………え……? そ、それって……?」
モラスターコフの顔に、冷や汗が浮かぶ。
「そしてここ最近、我々はその手の売買の闇ルートの規制を厳しくしているから
 よほど強いパイプを持っていない限り、なかなか素人は売りさばけない……つまり」
課長はモラスターコフをじろりと睨み付ける。
モラスターコフは歯をガタガタ震わせ、顔面は完全に蒼白になっている。
「まだ処分できずに、どこかに隠している可能性があるのだよ。……おや」
気がつくと、課長が話している間に部屋を捜索していた部下達が立っていた。
手には、例の宝石と 権利書と。
「………フム。こいつは………間違いなさそうだね。えらく簡単に見つかったな。
 じゃ、モラスターコフ君。一緒に来てもらおうか。」
課長の合図と同時に、部下達がモラスターコフを拘束する。
「ま…ま……待ってくれぇ!! こいつは……罠だ 罠なんだぁ!!
 課長! 頼みます! 俺の話を……
「言いたけりゃ本部で言ってくれ。まぁ、もっとも……
 在籍中に『ほら吹きモラスターコフ』と呼ばれていた君の話など、誰が聞いてくれるかね?
 ま、時間はそうないんだ。あんまりウソはつくなよ?」
「ち、違う! 違う! 違います! 俺じゃない! 俺じゃないんです!!」
「強盗数件と、強盗殺人と………
 ま、寿命がつきる前には出れると思う……いや、でも……無理かな?
 ま、いい。連れてけ。」
「ちょ、ちょ、ちょっと………! え!? 待って……待ってくれよ……

 待 っ て く れ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ………!!





「ふん、ゴミクズめ。よもや犯罪をやらかすとはな。救いがたい男だ。
 しかし……… 誰が密告してきたんだろうな………。
 あの声は………しぃ族かな……?
 まぁ、そんなことはどうでもいいか。犯人も捕まったことだし、一件落着だ。
 さてと、儂も戻るとするか……。」

417 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:28:08 [ 7YwzrkI6 ]

「……うまく、いったようね……。」
所変わって、ここは後御五里村
村長屋敷に村の主たるしぃ達が集まり、新聞を読んでいる。
もちろん連中が読んでいるのは、モラスターコフの事件だ。
「イイ気味ネ! キャハハハハハ!!」
「ですが、本当にいい時期に来てくれました。
 当初の予定では、レビゾル市から宝石や権利書を盗んだ後、
 闇ルートをじっくり探す予定でしたが、まさか……。」
「ソノ間ニ 虐殺党ガ視察ヲ送リ込ンデクル ナンテ……」
「札束等なら燃やしてしまえたんですが、宝石は隠滅しようにも、そうはいきませんからね。
 山に捨てようと、川に捨てようと、無理矢理誰かに売りつけようと……
 本物の党の視察の嗅覚は、ハイエナ並みと聞きます……。
 どこに隠しても、まず見つかっていたでしょう。……まぁ、権利書の隠滅は容易だったかもしれませんが
 宝石が見つかれば、結局は同じ。疑いの目をかけられて
 この村は確実に消えていたでしょうね。」
「確実ニ“害を及ぼすしぃ”扱イサレテ 一心不乱ノ大虐殺……。」
全員が、安堵のため息をつく。

「調査結果で、あのモラスターコフが視察でないことは分かっていました。が
 それがなくても、彼がそれでないことなど、分かり切っていましたがね。」
「本物ノ視察ハ アンナ目立ツ行動シマセンヨネ!」
「“自分ハレビゾルカラ来タ”ダノ“レビゾル仕込ミ”ダノ……
 本物ノ視察ナラ 絶対言イマセンヨネ! 自分ノ身元ヲバラスヨウナコト……。」
「もともとああいう性格だったようですが、宿屋で聞こえよがしに言った“アレ”が効きましたね。
 偶然を利用したわけですが、うまくいきました……。」
「『デモ虐殺党モ、ナンデコンナ時ニ視察ナンカヨコスノヨ! 何モイm……フゴッ!?』デスネ?
 アレデソノ気ニナルナンテ 救イヨウノナイ馬鹿ネェ!」 
「あんな馬鹿な視察を本当に送り込んでくれていたら、ずいぶん楽だったんですけどね。
 ………とはいえ、彼は無実だった。そんな者に強盗の証拠品を押しつけるわけですから
 普通は党に密告などしないんですが、彼は少しばかりやりすぎましたね。
 あれだけの傍若無人な振る舞い それに
“奇形”のベビやちび達を殺すはいいにしても、その後私たちの仲間まで手に掛けるとは。」
「ヨカッタデスヨネ!“奴隷”カ“ストレス解消”ノタメニ 奇形ヲ飼ッテオイテ!
 ……マァ アノ子マデ 殺サレルトハ 思ッテナカッタケド……。」
「一匹奇形ナラ、兄弟皆奇形。10匹ナラ10匹 全部……!
 寒気ガスルケド ソレデ奇形ノ数ガ稼ゲタンダカラ 今回ハ役ニ立ッタワケネ
 フゥ 悲シム“フリ”ッテノモ 疲レルモノネェ……」
「デモアイツ ヨク宝石トカガソノ事件ノモノダッテ 気ヅキマセンデシタネ?」
「彼もあの時は相当酔っていましたし、それに
 彼らから見れば下等種族の私たちに、はめられるなんて思ってもいなかったんでしょう。
 ちょっと考えれば、分かることなのに
 もし本当に宝石の算出できる鉱山を持っていれば、誰がこんなみすぼらしい生活をするものですか。
 フフフ……。本当におめでたい男でしたね……。」
そして、村長しぃはすっと立ち上がる。
「さて、これで残すは、数日後にやって来るという本物の視察です。
 こちらは冗談ではありません。本番です!
 いいですね皆さん! では、解散!」

418 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/07/14(木) 11:29:32 [ 7YwzrkI6 ]


そして数日後、今度はモラスターコフの判決が新聞に出た。
本人は断固無実を主張したが、イソップ物語よろしく
昔散々ホラを吹きまくっていたのが災いし……

          有罪

そして、その判決は………………言うまでもない。

そして彼を贄として、後御五里村は今日もある。
あいかわらずの、変わらぬ毎日を送っている。
底知れぬしぃ族の、邪悪さをその中に隠しつつ。

end