天と地の差の裏話 その3

Last-modified: 2015-06-27 (土) 22:52:11
103 :魔:2007/06/17(日) 00:15:17 ID:???
(関連作品>>36~ >>74~)
※今回は、>>36からの話の続きになります

天と地の差の裏話




メイの目を奪った青い加虐者。
ギコもやはり、この話の歯車だった。
虐殺はいつも陰湿なやり方で、仲間からもあまりいい奴とは思われていない。
そのことは本人も自覚していた。
気に入らない事は己の暴力で片付けてきたし、
今の仲間だってその暴力を使って繋がっているだけにすぎない。

己が正義。それがギコの全てを表す言葉だった。




ギコからナイフを奪ったメイは、即座に後ろを向き駆け出した。
武器を手に入れたとはいえ、この体格差ではまず勝ち目はない。
反撃に移り、失敗して死んでしまうよりずっといい。

(絶対に生き延びる!)

メイは己にそう言い聞かせ、自身の持つポテンシャルを超えた速度を出し始める。
だが、子供の身体能力ではほんの少し限界を突破しただけでは大人には勝てない。
ナイフのこともあり、加速が遅れたメイはギコに追い付かれてしまう。

「糞ガキがああァ!!」

鬼の形相となり、獣の咆哮ともとれる声をあげメイに迫る。
突き出した右手は鮫の顎のように禍々しく、そのまま喰らいついてしまいそうな程。
メイはギコが放つ憎悪と殺気に気付いたのか、後ろを見るや否やナイフを振るった。

「う わあああぁぁっ!」

そのナイフは軍用の大きいものでなく、おもちゃに近いサイズであった。
それがギコにとって仇となり、メイにとって嬉しい事となる。
重いとはいえ、全く使い物にならない程ではない。
本人は闇雲に振ったつもりが、その刃はギコの人差し指を綺麗に切断したのだ。

「なっ・・・が、ああぁぁぁぁあああッ!!?」

自分の指が空を舞った事に戦慄し、遅れてきた痛みに絶叫。
ギコは倒れ込むように転倒、手を押さえてその場にうずくまった。
メイもナイフを振り切った時に転倒していたが、相手を怯ませたことを確認しすぐに立ち上がる。
そして、一目散に芝のあるところへと駆け、林の中に身を隠した。




雑木林を切り拓いてできたこの公園。
『自然を大切に』という謳い文句に違わず、それの規模は大きい。
子供が一人で入ってしまえば、ほぼ間違いなく迷子になってしまうだろう。
逆に言えば、追っ手から見つかる確率はかなり低くなるわけである。

メイは必死で雑木林の中を走った。
加虐者の叫びと、それに慌てる仲間の声が聞こえなくなるまで。
完全に逃げ切るまで、ひたすら脚を動かした。




「はあっ・・・はあっ・・・」

風に煽られる木々の音と、自分の息遣いしか耳に入らなくなった所で、メイは足を止めた。
手に持っていたナイフをその場に落とし、それに続いて土の上に倒れ込む。
虐待で疲弊していた身体に、流石に鞭を打ちすぎたようだ。

息を整えることを最優先とし、メイはこの後どうするかを考える。
家は勿論あるはずがなく、あてになるAAすらいない。
が、片目は失ったものの、四肢は守ることができた。
更には加虐者から奪ったナイフもある。
ならば、課題はもう一つしかない。

(・・・強く、ならないと)

ナイフという力。意志という力。
メイはそれらを使い、生きている限り続く地獄、
一日一日を、確実に生き延びる事を誓った。

104 :魔:2007/06/17(日) 00:16:22 ID:???

メイがそんな事を考えている時、公園では凄まじい事が起こっていた。
まだ生かされていた被虐者は既に挽き肉となり、肉片は辺りに撒き散らされている。
メイに喉笛をちぎられ死んだ者も、どうしてか原形を留めていない。
破裂したかのように砕けた頭蓋骨は、やはり同じように公園を汚していた。

犯人はギコだった。
指を切り落とされ、始めは痛みにのたうちまわったが、それを超える憎悪で持ち直した。
獲物は既に逃げているし、やり場のない怒りを誰にぶつけろというのか。
切り替えしが恐ろしく早いギコは、躊躇せず仲間を殴り飛ばす。
今もなお、モナーの胸倉を掴み執拗に拳を打ち込んでいた。

「っぎ、ギコ! もうやめてくれモナ! 落ち着・・・げぶっ!!」

抑止を請うモナーの顔は、血と涙でぐしゃぐしゃだった。
鼻の骨は折れ、奥歯は砕け口からは赤い液体を溢れさせている。
頬も血に塗れているが、これはギコのものだ。
止血もしないまま、指がそこにない事を忘れてモナーを殴る。
感情という麻酔で動いているものだから、自らが醒めないといつまでもこの状態である。

「煩ぇよ。他に怒りをぶつける奴がいねぇから、こうしてるまでだ」

「じ! じゃあなんでモララーを狙わないモナ?! こんなの・・・」

モナーは涙声でギコに反論し、モララーの方を指差す。
指した場所にいたのは、血を吐いて白目を剥いているモララーだった。
腹部には大きく、痛々しい痣ができている。
やはりそこにもギコの血が付着していて、傷痕を嫌らしく彩っていた。

「あいつは後でじっくり殺す・・・だから気絶させてんだよ」

「で、でも! モナは何もしてない! なのに・・・ぶぐぅ!」

喚くモナーの腹に一発、刔るように打ち込む。
内臓を揺さ振られて胃液と血が口から漏れ、びしゃという音と共に地面を汚す。

「今のお前は鎮静剤だよ。怒りで発狂しそうな俺のな」

「ひ・・・!」

表情こそ見えなかったものの、その声色は悍ましかった。
言葉だけで心臓を貫かれたような気分になり、モナーは痙攣と見て取れる程恐怖に震えた。
内股になり、後少しで成人になる歳だというのに失禁してしまう。
ギコはそれに嫌悪せず、嘲笑もしない。
心の奥底で怒りの業火を焚きながら、冷ややかな目でモナーを見ていた。




「お前は指が五本あるんだよな・・・」

「えっ?」

ギコはモナーの顔を掴み、眼前へと持っていく。
そして、もはや常識に等しい事を問う。

モナーは質問の意味がわからなかった。
というより、ギコの怒気のせいで何も考えられなかった方が正しいのかもしれない。
が、次に来た言葉を聞いて、それが何を示しているのかを理解してしまう。

「俺には四本しかないんだよ・・・不公平だと思わないか?」

指の切断面を見せびらかし、纏わり付くような声で続けてきた。
ゆらゆらと目の前で、骨の見えるギコの短い人差し指が踊る。
血は際限なく流れていて、その青い腕へと赤い色をつけていく。

モナーはそこで、二つ悟ってしまった。
一つはギコがいつも糞虫をああまで壊してしまえるのは、ギコが心を扱うのが得意なわけではなく、ギコ自身が壊れていたからだ。
そうであれば、自分色に染めあげるのは至極簡単である。
そしてもう一つは、今から壊れたギコに自分は壊されしまうのだと。

105 :魔:2007/06/17(日) 00:17:35 ID:???

信じたくはなかった。
虐殺に心残りがあるだけで、顔の形が変わるまで殴られたし、
友達をやめようとすれば、その日の記憶はそこで途切れもした。
だからといって殺したり、社会に出られない程になるまで暴力を振るうことはなかった。
ギコのそばにいるのは嫌だったけど、失敗さえしなければ凄くいい奴だ。
いつも素晴らしい方法で、虐殺を楽しくさせてくれる。
斬新なアイデアも、どこから湧いてくるのかという程沢山あって・・・。

そのギコに、自分は今から壊される。
身体か精神か、どちらかはわからない。
モナーは怯えることを忘れ、絶望と死の恐怖に硬直した。

だが、その硬直すらギコは許してはくれなかった。




ギコはおもむろにモナーの指を束ねるように持ち、握り締める。
瞬間、何かが潰れる音に固い物が割れる音が重なり、そこから血肉が溢れた。

「ぎゃああッッぁぁぁあああ!!!」

握り潰した、と表現した方が正しいのだろうか。
一般AAであるモナーの手を、いとも簡単に肉の塊にしてしまう。
ギコの力はどこぞの神様から授かったのかと問いたくなる程、凄まじかった。
実際、本人の手の平にはモナーの指の骨が刺さっている。
が、やはりギコは怒りで痛覚が麻痺していて、気がついてない様子。
痛みに悶え苦しむモナーに、追撃を加えにいく。




「て、手が!・・・モナの手があっ!?」

グロテスクな装飾と化した自分の手を見て、崩れ落ち泣き叫ぶモナー。
もはや一つ一つの判別は骨からすら不可能で、動く度に肉やら爪だったものやらがぽろぽろと落ちていく。

「・・・そういえば、お前ってやたらと目ェ細いよな」

二度目の質問。
モナーは次に自分が狙われる所を察知し、立ち上がり逃げようとする。
しかし、畏怖の象徴となったギコの言葉だ。
蛇に睨まれた蛙が易々と動ける筈がなかった。

今度は顎を掴まれ、嫌が応でもギコを向いてしまう。
モナーはいつも開いているかどうかわからない程細い目に、力を込めて強く閉じる。
暴君への、ささやかで尚且つ一番の抵抗。

「ばぁカ」

ギコはその抵抗を、無意味なものとして扱う。
狙ったのは、眼球でなく瞼。
爪を立て、自分にとって薄皮に等しいそれをむしり取った。

「ああぁぁがああアアァアァ!!!」

顎から響く、篭った叫び。
瞼を取り除いたそこには、血の涙を流し見開いたモナーの目があった。
比喩なんかではなく、文字どおりの血涙だ。
下の方はむしっていないものだから、どこかいびつな感じである。
ギコにはそれが妙に滑稽に見えた。

顎から手を離すと、目を押さえて倒れ込みうずくまるモナー。
がくがくと、今度は本当の痙攣を始めたようだ。




「どうした、もう終わりか?」

上から下から、様々な液体を垂れ流すモナーに問う。
それに対する返答はなく、寧ろ声すら発さない。
まあ、やる前から酷く怯えていたし、すぐに壊れるのは目に見えていたが。
つまらない。そう思ったギコは、モナーの首に手をかける。

そこで、自分がやっと落ち着いたことに気が付く。
ふう、と満足げに息を吐き、手に力を込めた。
モナーは首から不快な音をたて、奇妙な方向を向いたと同時に痙攣を止めた。

106 :魔:2007/06/17(日) 00:18:51 ID:???
※

暗闇。
モララーがいた場所は、黒い世界だった。
瞼もしっかりと開いていたのは自分でも理解している。
しかし、首を振っても仰ぎ見ても、身体すら見えない。

(なん・・・だ?)

手足を動かそうとすると、奇妙な感覚。
その場から全く動けず、それどころかあるはずのものがないような。
モララーはそこでギコに殴られ気絶させられたことを思い出す。

すると、一気に考えたくもない事が湯水の如く溢れ出した。
じわじわと上昇する心拍数。
冷や汗が頬を伝い、顎から一つ零れ落ちる。
心臓の鼓動が聞こえる程になった頃、目の前に明かりが灯った。




「お早う。ぐっすり眠れたか?」

そこにはギコの姿があった。
小さな照明ではそれ以外に何も確認できず、モララーは少し歯痒くなる。

「ギコ、ここは一体・・・」

「俺の部屋だよ。虐殺専用のな」

その言葉には、含みは何もなかった。
怒りをぶちまけるでなく、鋭く冷たい刺のあるものでもない。
まるで自分達が糞虫に当たり前のことを告げるかのような、
ただ純粋に、『虐殺』の二文字をモララーに投げ掛けていたのだ。

「ど、どういう、ことだ?」

加速度的に膨張する恐怖。
それからくる焦りに、変に吃ってしまう。
ギコはそれを聞いて、口の端だけで笑った。
そして、その青い暴君の化けの皮が剥がれていく。
明かりからギコが離れると、スイッチを押す音が空間に鳴り響いた。




一言で表すなら、『悪趣味』。
先程の明かりの正体は蝋燭で、天井からぶら下がっている裸電球がそれを照らしていた。
壁は汚く、一概に赤黒いだけでは言い表せない。
棚には奇怪な形をした瓶に、蛍光色の液体が入っているものが複数。
その端には、糞虫のものと思われる頭蓋骨が乱雑に置かれていた。

どうやら部屋の真ん中のテーブルに、自分はいるようだ。
何かに固定させられている感覚と共に。
そして、モララーは自分の身体を見てしまう。
本人としては、まだ拷問器具に縛り付けられていた方がまだ幸せだったかもしれない。

「う、嘘・・・嘘・・・だろ」

四肢が、無い。
肩には見慣れた黄色い手が置いてあり、それが自分を固定していたとすぐにわかった。
腕と脚がそれぞれあった所には、雑に縫合された跡があり、赤く染まっている。
出来の悪いクッションのような身体に、モララーは全身から脂汗が吹き出るのを感じた。

「お前が目覚めるまで半日かかった。麻酔せずに行ったが、痛みはないだろ?」

「ぉ、俺の・・・腕が・・・脚が・・・」

「お前、遠目から見たらなかなかいいオブジェになってるぞ。」

そう言いながら、ギコは棚にあるものを物色していた。
その背中は憎悪と、矛盾した嫉妬で塗りたくられているように見える。
モララーは達磨にされた事に憤慨するよりも、ギコを怒らせたことへの後悔の念で頭がいっぱいだ。




普通は、加虐者にここまですれば犯罪なのだが、
どうしてか、モララーはギコに謝罪したいと、許して貰いたいと願ってしまう。
そしてここで、一緒にいた仲間の事をやっと思い出す。

「モ、モナーは・・・どこに・・・」

「殺した」

107 :魔:2007/06/17(日) 00:19:58 ID:???

突き刺すような声で即答。
ギコは棚から探していた物を取り出すと、向き直り続けた。

「案外、一般AAって簡単に壊れるんだぜ? アイツは手と瞼潰しただけでイキやがった」

「・・・ぁ・・・う、ぅぁ」

聞かなければよかった。
モララーは、その言葉で心が埋め尽くされたような感覚になる。
一応様々な惨状を目の当たりにして生きてきたし、ちょっとやそっとの事では気が触れる筈がない。
それなのに、自分が被虐者と同じ扱いになるだけでこうも怯えるとは。

思考を張り巡らすモララーの傍で、ギコは手に持った物を弄る。
スイッチを入れ、暫くして次の行動に移った。

「これ、何かわかるよな?」

ギコが手にしていた物。
ペンのような形をしており、先端の丸い鉄の棒が先っぽについている。
尻からは何かコードのようなものが伸びていて、床の方に垂れていた。
大掛かりな道具ではないのだが、モララーにはそれが死神の鎌のように見えた。

震えるだけで、答えようとしないモララー。
ギコはそれに失望し、細い溜め息をつく。

「はんだごてっつーヤツでさ。はんだっていう金属を熔かしたりするモノだ」

手の中でそれを回し、テーブルの縁に押し付ける。
少し間を置いて、押し付けた所が黒くなった。

「いちいち火に鉄の棒焼べるのが面倒だったからな。コレは手間が省けていい」

「っ、ま、まさか・・・っああああああああァァッッ!!」

全てを言い切る前に、ギコははんだごてをモララーの腹に押し付ける。
じゅう、と小さく焼けた音がして、そこから細い煙が立ち上った。
切るよりも、刺すよりも長く続く激痛が全身を駆け巡る。
モララーは唯一動かせる首をこれでもかという程振り、その痛みを紛らわそうとする。
が、やはりそんな小さい事で和らぐモノではない。

「うああああああああああ!!!」

はんだごてを押し付けている限り、首を振り続けるモララーを見てギコは笑った。
被虐者の阿鼻叫喚を、しっかりと聞き取りたいが為に開けない口。
だが、その愉快さにおもわず裂けそうな程吊り上がってしまう。
狂気に満ち、それでいて満面の笑みをするギコ。
本気で虐殺を楽しむギコの悍ましさは、異常の二文字だけでは表せなかった。

108 :魔:2007/06/17(日) 00:21:03 ID:???

筆を持つように丁寧に。
雑に握って乱暴に。
様々な持ち方をしても、ギコが行うことは一つ。
『はんだごてを、モララーに押し付ける』事のみ。
黒く焦げ、少しだけ穴が開いたら箇所を変えて、休みなく虐待を続けた。

皮膚を焼き切り、じわじわと熱い鉄が入り込む感触にモララーは唯叫ぶばかり。
ある程度入り込んだら、神経がやられ痛みはなくなるのだが、また新しい所を狙われれば意味がない。
首を振る度に大粒の涙が空を舞い、大きく開いた口からは涎が糸を引いた。




はんだごてを押し付ける事数十回。
モララーの腹はパッと見、蜂の巣のような風貌になっていた。
穴という穴は全て炭化していて、一部はまだ細い煙が立ち上っている。

「が、っ・・・はぁ、あ、ああ・・・」

叫び続けたことにより、まともな言葉を発することができない。
眉間にしわをよせ、涙をぼろぼろと零しながら鳴咽を漏らす。

「蓮コラみてぇな身体になったな。ははッ」

ギコはモララーの汚くなった顔と、腹部を交互に見てそう笑った。
はんだごての電源を切り、湿らせたスポンジの上に置く。
じゅう、と心地よい音がしてスポンジの水分が飛んだ。

再度棚を物色し、更にモララーをいたぶる為の道具を探す。
当の本人はえづいてばかりで、虐待に怯える事すら忘れているようだ。

「記念によ、その皮貰っていいか?」




えげつない質問に返ってきたのは、言葉ではなく濁った呻きのみ。
もとより、壊れかけている者からの返事など、ギコは期待していなかった。
詰め寄りながら、棚から取り出した物をモララーに見せる。
それは裸電球に照らされ、銀色に光るメスだった。

「ッげ、ぇ・・・うぁ、ぁ」

潰れかけた喉からは、己の有様とこの先の地獄に嘆く声。
泣きじゃくる子供のような顔になっているモララーを見て、つい口元が緩む。
それは嘲笑などではなく、自分がその表情を見て興奮しているのだと、ギコはすぐに理解した。

モナーも、モララーも、種族として虐殺するのは今回が初めて。
指を無くし、被虐者を逃がした者への罰としての虐殺だったが、
こうやってしっかりと向き合ってヤってみると、普段とは違った愉快さがあった。




理解に苦しむ思考を持つ、ちびギコを調教するよりずっといい。
生物として自分と同じ立ち位置にいる命を、糞虫と同等のものとして扱う。
虐殺のやり方については殆ど出し尽くした感があったが、
対象を変えることで、新たな快楽を見つけだすことができた。

「・・・くくっ」

また新鮮な感覚で、今までで思い付いた数々の虐殺を楽しめる。
そして、糞虫達とは違う反応が返ってくることで更に拍車が掛かっていく。
こう見ると、モナーをあっさりと殺した事に少し後悔してしまう。
が、今はとりあえずモララーを使って遊ぶことに集中しようと、ギコは思った。

109 :魔:2007/06/17(日) 00:22:12 ID:???

利き腕の指は一つ既になくし、精密な作業をするのには向いていない。
だからといって、多少雑にした所で全てが台なしになるわけでもなかった。
寧ろ、乱暴に扱った方がより苦痛を与えられる事など、ギコはとうに知っていた。
メスを握り、モララーの腹に宛がう。
そして、ゆっくりと自分なりに丁寧に刃を走らせた。

「ッ! い・・・痛、ぅ・・・ああッ!」

メスのあまりにも鋭い刃は、普通は感じる痛みを最小限に抑える為にある。
だが、ゆっくりと皮を裂き、かつ左右に揺れながらでは意味を成さない。
何度も刃を入れ直し、納得のいくラインを通るまでギコは止めなかった。




「悪ィ、手元が狂いまくったな」

「ぅ・・・」

モララーの身体には、無数の火傷を囲う赤い線が描かれていた。
線は所々枝別れしていて、酷い有様である。
これがもし手術だとしたら、どうあがいても痕を消すのは出来そうにない。
更に、切り込みを入れる時にギコはほんのお茶目をし、外周にわざとメスを刺したりもした。

その時に見せる、モララーの表情がまた堪らない。
刃が皮膚を貫く時、一瞬だけ身体を跳ねさせ、小さく声を漏らす。
事に怯える加虐者だった者が滑稽で仕方なく、つい何度も繰り返した。

「さて、次にやる事は範囲も痛みも半端じゃねェ・・・覚悟はできてるか?」

皮を剥ぐというのに、何故かメスを棚に置くギコ。
モララーはそのことに疑問を抱くより先に、自分が何をされるのかをすぐに理解した。

ここまでされれば、次にくる虐待のメニューを安易に想像できる。
恐怖で妄想が加速し、自分なりのやり方をつい考えてしまうからだ。
しかし、たとえ想像と同じであっても、苦痛が和らいだり、それから逃れられるわけではない。
更に、違ったとしても糞虫のようにすぐ『開放してくれる』だの『今日の分は終わり』だのと思考が簡単に変わる筈がない。

もっとも、モララーは今喉が殆ど使えない状態だから、ギコにメニューを問うことすらできないのだが。




「ゃ・・・っ、め・・・やめ・・・」

それでも、モララーは必死に抑止を願った。
空気が通過する度に、壊れた笛のような音を出す喉。
必死の思いで出た二文字は、しっかりとギコに届いていた。
が、そこで止まるギコならば、モナーを殺すことはなかっただろう。

「止めて欲しいのか? じゃあ俺が受けた屈辱は、怒りは誰が鎮めてくれるんだ?」

「ぐ、っ・・・ぇ・・・げほ、ぅ」

「指を元通りにする事なんざどうでもいいんだよ。俺はお前等にムカついてんだ」

吐き捨て、モララーの胸元にある赤い線に指を入れる。
傷口を開かれ、更に拡大させていく事にモララーはまた悶え始める。
ポケットに手を突っ込む感覚で、ギコは皮を剥がしていく。
筋肉から皮膚が離れる、べりべりといった音が心地良い。

「っああ!! ああがあああぁぁぁァ!!!」

一般AAの頑丈な身体も、ギコの力の前では意味を成さなかった。
被虐者と何等変わりない勢いで、しかしゆっくりと剥がされていく皮膚。
血に濡れた肉が露になってくると、モララーの叫び声は一層大きくなる。

110 :魔:2007/06/17(日) 00:23:14 ID:???

半分ほど剥いだ所で、ギコは手を止めた。
どんなに握力があっても、血で濡れてしまっては意味がない。
上手く虐殺することができないのは、被虐者にとっては苦痛を加味させられる事と同じ。
しかし、くどいようだがギコはそれよりも、まず自分が満足できないと不満で仕方がないのだ。
できることなら一気にしたかったが、粘って失敗するよりはまだマシだ。

近くにあった、小汚い布で手を念入りに拭く。
ついでに軍手をはめてしまおうと思ったが、その位の理由で席を外すのはモララーに安心感をもたらしてしまいそうである。
なにより、右手の人差し指の部分が情けなく見えそうだったので、止めることにした。

「ぐ、うううぅぅぅ・・・っあァ、がああぁぁ!」

ギコがそんな事を考えている間も、モララーは激痛に悶えている。
胸から腹部にかけて、そこが空気に触れるだけで痛みが全身を駆け巡っているようだ。
モララーの首の振り方だけで、ギコはそう読み取った。

こうなってしまっては、いっそ楽にしてしまうか、或いは・・・。




とりあえず、やるべき事をやってしまおうと、ギコは行動に出る。
血糊が付いた布を捨て、モララーのめくれた皮膚を掴む。

「ぎゃあっっ!!」

完全に身体から離れていない為か、触れただけで悲鳴をあげるモララー。
もう少しこのまま弄ってやりたいが、他にも試したい事がある。
今の虐待に別れを惜しみ、新しい虐待に期待の念を込め、手に力を入れる。
そして、一気にその黄色い皮を剥ぎ取った。

「あああああああぁぁぁぁアアアアァ!!!」

天を仰ぎ、絶叫。
肉と皮が力強く離れる爽快な音。
その感触。
それらから来るとてつもない気持ち良さに、ギコは腹を抱えた。
が、やはり笑い声は絶対に出さない。
この空間に響き渡るのは、モララーの凄まじい叫びのみだった。

立ち直り、剥ぎ取った皮をまじまじと見詰める。
表側は血を吸い取り、ほぼ全体が赤みを帯びていた。
ギコが『蓮コラ』と称した、はんだごてで創った焼け跡もその不気味さを増幅させている。
裏返すと、自身の脂と血でぬらぬらと嫌らしく光っていた。
親指で押すように揉むと、そこそこの厚みと弾力があるのがわかる。
暫くギコは皮を揉みながら、モララーの狂気と苦痛に満ちた歌声を聴いていた。




その歌声が途切れ途切れになってきた所で、ギコは動いた。
モララーの様子を見れば、白目を剥き、口の端には泡がついていた。
それでも首を降り、激痛に悶える事は忘れていない。

(そろそろか・・・)

ギコは軽く溜め息をつくと、棚にある薬品のようなものを漁り始める。
沢山ある小さいガラス瓶の列の中から、一つだけ取り出す。
そして、注射機に瓶の中身を慎重に入れ、モララーの頸動脈に突き刺した。

111 :魔:2007/06/17(日) 00:25:02 ID:???

「ああ、ぁ・・・?」

まるで火が消えたかのように、おとなしくなるモララー。
というよりも、身体中から生気を奪われたと表現した方が正しいかもしれない。
疑問の表情を浮かべながらも、少しだがなおも悶え続ける。
ギコはそんなモララーに注射機を見せながら、答を説いた。

「鎮静剤だよ。発狂して死なれたらつまらないからな」

「っ、な・・・ぁ」

飽くまでも、モララーの声と絶望した顔が見たいというギコ。
人権もへったくれもない、容赦なきギコの虐待。
我を取り戻したモララーが最初に見たものは、この先延々と続く地獄だった。
自害は疎か、精神を破壊することも出来ず、唯々『痛み』と戯れる事だけが許されている。
死ねば楽になるという未来に、モララーは希望も何も持つことができなかった。




モララーが死んだのは、それからかなりの時間が経ってからだった。
時計も窓もない空間では、詳しい所はわからない。
かなり、とだけ表現できたのは、モララーの遺体が凄まじい事になっていたから。

自身の脚を背もたれに、太腿には両腕が打ち付けられ、それらが達磨のモララーを固定している。
身体は、剥がされた皮を始め、筋肉、性器、膀胱、大腸から小腸と、順を追って解剖されていった。
一つの臓器を取り出す度に、鎮静剤やら何やらを頸動脈に打たれ、首元には内出血の痕がある。
その何かの中に、出血を抑える効果のある薬品があったのか、臓器達はそこまで血に濡れていなかった。

あまりにも丁寧に行われたそれは、活け作りにでもするつもりなのかと思ってしまう程。
結局、モララーが死ねたのは、肋骨を砕いた先にある、肺を摘出してからのことだった。
見事なまでに空洞になったモララーの腹。
苦痛に満ちた首はうなだれ、自身の腹を覗き込むかのような状態になっていた。




「・・・フン」

暴力的でありながら、病的なまでに器用に事を熟すギコ。
モララーをこのような姿形にしたのには、理由があった。

新しい快感を見つけたとはいえ、指を奪われた屈辱は癒えたわけではない。
冷静さを取り戻したギコが、次に狙うのはそれを犯したAA。
生意気に、『メイ』と名乗った糞虫に、矛先は向いていた。

「絶対に見つけ出して、コイツの腹ン中に挽き肉にしてブチ込んでやる・・・」

自分のプライドを傷つけた事は、命だけでは償えない。
頭のてっぺんから爪先まで、細胞一つ一つまでも虐待してやる。
言葉にできない程、負の感情で心を埋め尽くしてやる。
全てにおいて絶望させて殺すと、ギコはそう決意した。

青い暴君は、復讐の為にと牙を研ぐ。

128 :魔:2007/07/22(日) 15:50:24 ID:???
(関連作品>>36~ >>74~ >>103~)
※今回は、>>74からの話の続きになります

天と地の差の裏話




例えば、暗闇。
光というストレスのない世界。
聴覚だけを頼りにしなければ、そのまま死へと突き進む。
全ての恐怖が『見えない恐怖』と化す世界。
そんな所に、覚悟もなしに行く奴なんていない。
自分以外の誰かが、その世界へ行く切符を持っているのだ。

そして、その切符を切られた者は・・・。




※

慣れ親しんだ者が、首から上だけをこちらに向けていた。
苦痛と恐怖で酷く歪んだ表情をし、口を大きく開けている。
少し前に、そこから断末魔の悲鳴をあげていたというのはすぐに理解できた。

「う、うわあああぁぁぁ!!!」

フーは、こちらを睨むノーネの生首を見て、身体に電流が流れるような感覚を覚える。
その奥にノーネを殺した者がいる事すら忘れ、盛大に叫んだ。

罰なのだろうか。
浮浪していた二人が出会い、そのまま一緒に生活をする。
それが、いけない事だったのだろうか。
家族がいない命が、他人と共に生きる事は駄目なのだろうか。
いや、違う。
油断した自分達が悪いのだ。
糞虫とほぼ同じ立ち位置にいるのだから、常に死と隣り合わせだった筈だ。
それを忘れ、自分は虐殺という娯楽に目を向けてばかり。
気が付けば、既に死神に肩を叩かれていたのだ。




もはや自分にすら理解できない思考を張り巡らす程、フーは混乱していた。
もう少し冷静であれば、その場からすぐに逃げ出すことが出来たというのに。

「あら、あら。アナタは逃げたりしないの?」

血と臓腑の床を歩き、化け物が近付いてくる。
フーは化け物が言うように、今この場から離れたい。
逃げたい。
しかし、その意志に反して下半身が全く動かない。
蛇に睨まれた蛙でもあり、大切な者の死というショック。
フーをその場に縫い付ける事柄は、十二分に揃っていた。

それでも、フーは必死で逃亡を謀る。
全身は脂汗で濡れ、目には涙が溜まっていた。
がくがくと震える脚を、少し後ろにずらすだけで吐き気が込み上げる。

「う・・・く・・・」

歯を食いしばり、一歩ずつ後ろに下がる。
路地裏から抜け出せば、誰かが見つけてくれるかもしれない。
だが、この化け物を退治してくれる保証はない。
それでもフーは可能性に縋り付き、酷くゆっくりとその場から離れていく。

どのくらい下がればいいのだろうか。
先が見えない。
ほんの少しの距離が、果てしなく長く思える。
まるで両端のコンクリの壁が、永遠に続いているようで。
更に、一歩下がる度に化け物もこちらに迫ってくる。
恐怖に怯える自分を見て、嫌らしく笑いながら。

血に塗れた爪を翻し、化け物はノーネの上を歩く。
気配を殺して獲物に近付く虎のように、身を低く置いている。
しかし、表情はそれに反して、面白そうな物を見つけ、それをつついて遊ぶ子供のようなものだった。
ゆらゆらと靡くねこじゃらしに飛び付かんとするような子猫の目。

「こういうのも、いいわ。かたつむりのように、ゆっくり、ゆっくり・・・」

それでいて、裂けているのかと思ってしまう程吊り上がった口。
そこから意味不明な言葉を発し、更に化け物の目がぐるりと瞼の中で回転した。

「ひ・・・!!」

あまりの悍ましさに、フーは背筋が凍りつく。
そして、産まれたての子馬のように覚束なかった脚は、持ってきたちびギコに引っ掛かってしまった。

129 :魔:2007/07/22(日) 15:51:23 ID:???


「う、わっ!?」

縮み上がった心臓を一突きされたような感覚。
フーはそれほどまで驚き、尻餅をつく。
視界は一瞬で仰ぎ、そこには焼けた空が広がっていた。
慌てて上半身だけ起こすと、既に化け物は消えている。

何処に消えたのか。
普通なら辺りを見回し、相手の、化け物のいる場所を見つけるのが正しい。
だが、フーは何故か捜そうとしなかった。
目の前には、ノーネの生首と肉塊。
足元にちびギコの死体が二つ。
フーには今、それらしか見えていない。
起き上がると同時に後ろから聞こえてきた声。
化け物は、目ではなく耳で見つけ、かつ奴の方から場所を教えていたのだ。




「コケたら駄目じゃない。折角ゆっくり遊んでたのに」

頬に化け物のものと思われる吐息がかかる。
首の後ろで、爪がカリカリと音をたてているのが聞こえる。
たった、たったコンマ数秒目を離しただけで、音もなく退路を絶たれた。
ここまできて、フーはやっと理解した。
自分は、既に奴の射程範囲内にいたのだと。

殺される。
このまま、ノーネみたいに崩れた泥人形のようにされて死ぬ。
奴の手が肩に置かれ、そのまま胸へ、腹へと進んでいく。
触手のように纏わり付く、火傷だらけの褐色の腕。
その先端にある爪が身体を撫でると、つうと赤い線が滲み出る。
フサ種特有の長い毛も、それにあわせ綺麗に削ぎ落ちていった。




パッと見ただけではわからないが、フーは確実に傷を負っていた。
剃刀を扱うのに失敗した程度のものだったが、精神はそれ以上に傷つけられている。
爪が皮膚をなぞる度、身体が真っ二つにされるような感覚。
助けを呼ぼうにも、声が全く出てこない。

目を閉じたら、余計に恐怖が増大するような気がした。
だから、フーはずっと路地裏の惨状を網膜に焼き付けてしまっていた。
嫌が応でも、赤や茶に塗れた緑が視界に入ってくる。
ふと、ノーネの首に目線が行く。
心なしか最初に見た時よりも、口の開き方が酷くなっている。
更に、見開いた眼がしっかりとこちらを睨んでもいた。
腰が抜け、視線が下に落ちたことからそうなったのかもしれない。
その眼の奥にある感情はわからなかったが、フーの罪悪感と恐怖感を煽るのには十分な題材だった。




「まあ、まあ。今度は動かなくなったわ。こんなヒト、初めて」

小刻みに震えてはいたが、フーは化け物の言う通りに固まっていた。
失神寸前、といった感じだろうか。
化け物はそんな状態のフーを気に入ったのか、笑みがいっそう深くなる。

「でもね、静かになったコを起こすのってどうすればいいか、私知ってるわ」

フーの腹に宛てていた両手を、這うようにして上へと持っていく。
胸から首へ、頬まで上った所で動きを止めた。
妖艶に頬を撫で、反応を確かめる。

「・・・ふふっ」

やはり、何も返ってこなかった。
寧ろその方が化け物にとって好都合のようだ。
喉から声を漏らした後、自慢の爪をフーの眼球に這わせる。
そして―――

130 :魔:2007/07/22(日) 15:52:25 ID:???
※

フーが襲われる少し前、街中を一人のAAが歩いていた。
闇に溶けそうな黒い身体をしていて、耳には赤いラインが走っている。
男はウララーという名前を持ち、警察の『ような』仕事をしている。

この治安の悪い街では、本物の警察は殆どいない。
なぜかというと、何処もかしこも虐殺厨と糞虫で溢れているからだ。
いちいち一人ずつ、一匹ずつ捕まえて裁いていてはキリがない。
そういう理由で、本物の警察はこの街での活動を『大きな犯罪があった時』だけに限定した。

だが、それでは小さな犯罪だらけで街はより混沌としてしまう。
だから、国はいくらか良識のあるAAを採用し、擬似警官として扱う事を決めた。
その擬似警官のルールは一つ。

『虐殺ではなく、裁く為に引き金を引け』

至極簡単で、かつ難しい内容である。




「・・・はァ」

右腿に巻いたホルスターに収めた、擬似警官を示す銃。
それと、毎日の精神的な苦労から重く感じる身体に、ウララーは溜め息をついた。

虐殺に溺れたAAにも、銃口を向けなければならない日々。
秩序を乱すのであれば同じ種であれ、その頭を撃ち抜く事が約束されている。
ストレス解消だとかの為に命を奪っているのではなく、仕事の為。街の為。

虐殺厨に成り下がったからといって、ウララーは決して見下す心を持たなかった。
その性格が災いしてか、糞虫と呼ばれる者達にすら哀れんでしまう事がある。
『俺ってなんて優しいんだろう』と、自惚れている訳ではない。
ただ純粋に、裁く為に殺す事が心を傷めるばかりであった。

命という尊いものが軽い現実。
虐殺というストレス解消法が通用しない身体。
ウララー自身はまだ若いし、探そうと思えば別の道を歩む事はできる。
しかし、彼は絶対に職を変えようとはしなかった。

―――その理由についてはここでは記述しない。
謎は謎のまま、歯車は歯車として噛み合い、廻る。




「・・・ぁぁぁぁぁあああああああ!!!」

「ッ!?」

突如、前方から地を裂く程の悲鳴が聞こえた。
声色からして、おそらく一般AAのもの。
ウララーはそれに気付くや否や、弛緩しきっていた筋肉を引き締める。
次にほんの数秒前に起きた事を何度も反芻し、持ち前の洞察力で探る。
そして、アスファルトを力強く蹴り、声のした方へと一気に駆けた。

(どこだ―――!)

厨と成り果てた仲間を裁く事は心が痛む。
だが、罪なき者が無抵抗に殺される事は、なによりも許せないこと。
ウララーは矛盾する心と身体に舌打ちし、走りながらホルスターに収めた銃に手をかける。

131 :魔:2007/07/22(日) 15:53:41 ID:???
※

ウララーは路地裏へ飛び込むように入り、銃を構える。
同時に、恐らく加害者である者が奥の暗がりに身を隠す物音がした。
一瞬遅れて臓物と血の臭さが鼻をつき、その臭いのモトが目に映る。

「厄介だな・・・!」

こういった狂気に満ちた虐殺は、仕事柄よく目の当たりにしていた。
真っ赤に染ったアパートの一室だとか、街の至る所に部位をばらまいたり。
それらは己の勘と閃きで解決してきたし、その後の処理だって人差し指を動かすだけで済む。

ウララーが厄介と言ったのは、そのことではなかった。
暗がりに、犯人は目の前に居る。
アタマなんかを使わなくても、この事件は解決する。
だが・・・。




「うぁ・・・く・・・あああああっ!!」

両目を押さえ、のたうちまわるフサギコが一人。
手と顔の隙間から滲み出る血からして、眼を潰されたようである。
えげつないやり方だとか、今はそんな事を想っている場合ではない。
ウララーは暗がりに銃口を向け、グリップを握る手に力を込める。

自分が来た事に咄嗟に身を潜め、かつこちらの様子を伺っている加害者。
視認してはいないが、その気配は十二分にあった。
そのまま逃げればいいものの、獲物がそんなに名残惜しいのか。

「出てこいよ!」

声を荒げ、威嚇する。
すると、加害者はあっさりと姿を見せた。
戸惑う気配も怯えも全くなく、堂々と物影からはい出る。
その異形を、惜しみ無くウララーに見せ付けるように。

一歩一歩なまめかしく、ふらりと揺れながら近付いてくる。
血に濡れた爪で腹を撫で、性欲を逆なでするかのよう。
ウララーもそれなりの歳だし、あっさりと挑発に引っ掛かってしまいそうだ。

尤も、そいつが化け物でなければの話だが。




「びっくりして思わず隠れたけど・・・邪魔しないで」

風貌からは想像もつかない、しっかりと女性と思われる声を発する喉。
それでいて、身体の色や耳の形など、一般AAとは程遠い姿。
見た目に一番近い種だと、でぃやびぃが妥当だろう。
だが、これ程自我を綺麗に保っている者は、でぃですら見た事はない。
考えるだけ無駄、化け物は既に化け物という種族なのだ。
ウララーは思考を張り巡らせた後、そう無理矢理結論づけた。

「相手が、お前さんの獲物がアフォしぃだったらな。俺だって何も言わねェ」

強気に言い放ったつもりだが、声が震えているのは自分でもわかった。
眼で殺気を放っても、顎から滴る冷や汗は拭えない。

「アフォしぃ? 知らないわ、そんなの」

「・・・なんだと?」

「最近、ピンク色のいきものに飽きたから他のを狙ったのに。駄目なの?」

信じがたい事を問う化け物に、ウララーは一瞬目眩がした。
治安の悪いこの街でも、ここまでぶっ飛んだ考えを持ったAAは初めてだった。
絵に描いたような狂気を、そのまま持ち出した虐殺厨よりも質が悪い。
その濁った眼とエメラルドの眼というオッドアイから読み取れた感情は『無垢』。
含みも何もない、奴にとって唯の素朴な疑問だ。

(こいつ・・・)

132 :魔:2007/07/22(日) 15:54:11 ID:???


と、ここでウララーはある事を思い出す。

聞いた事がある。
身体能力、或いは生態など、AAの持つ何かを実験、観察していた団体があると。
目的は不透明だったが、ある日、被験体が研究員のミスで暴走してしまう。
最終的には研究所を抜け出し、皆の生活に溶け込んでしまっているという話だ。

尾鰭のついた怪談、もしくは都市伝説の類だと思っていた。
だが、この化け物はその話に出てくる被験体と特徴が酷似している。
何故早く思い出さなかったのか。
こいつはちびギコを喰らい、研究員を喰らい、そして母体であるびぃを喰らった―――

「邪魔した上、黙って突っ立ってるのはどういうこと?」

その言葉を聞き、ウララーは我に返った。
直後、全身が凍り付いたような感覚に陥る。
殺気。
化け物の表情は一変し、眼は自分の喉笛をしっかりと見据えている。
ビリビリとした空気が四肢を麻痺させ、身体をアスファルトに打ち付けているようだ。

「・・・っ!」

出かかった悲鳴を無理矢理押し殺し、しかしわずかに喉から漏れる。
化け物は、そのほんの一瞬の隙を逃さなかった。
地を一蹴りすると、血と臓を越え、フサギコを跨ぎ、一気に距離を詰める。
二人の間隔はそれなりにあった筈だが、化け物はそれを簡単に無かった事にした。
常識を超越した存在が、文字通り目の前に迫る。

だが、ウララーの身体能力も馬鹿にはできない。
こと瞬発力に関しては、人一倍優れていると自他共に認めていた。
それと、己のプライドが、『命を甘く見る奴らへの怒り』が、ウララーを突き動かす。

刹那、冷静さを取り戻したウララーは、素早く後方へ跳躍した。
しかし、それだけでは化け物の爪は回避できない。
ならばと、ここで初めて威嚇だけに留めていた銃を『殺す』為に扱う事を決意。
AAでないAAを裁く事など、誰が出来ようか。




化け物の爪が肩に触れる。
皮膚を裂き、肉を刔っていく。
熱いものが頬に当たり、鋭い痛みが身体を貫く。
持ち手の肩をやられたので、引き金はまだ引かない。
互いの顔が、目と鼻の先まで近付く。
狙いが定まっていないので、引き金はまだ引かない。
空いた手で化け物の腕を掴み、背中から倒れ込む。
ほぼ同時に腹を蹴り上げ、後方へと投げ飛ばす。
目標が視界から消えたので、引き金はまだ引かない。
直後に鈍い音と短い悲鳴が聞こえ、それに併せ立ち上がる。
化け物はガードレールにぶつかったようで、まだ俯せていた。

目標は視界に完全に捉らえた。
銃口も完璧に相手を狙っている。
切り裂かれた肩口は空いた手でしっかりと握り、反動に備える。

もう何も問題はない。





化け物が顔を上げるのと、ウララーの銃から銃弾が吐き出されるタイミングはほぼ同じだった。
増薬した訳でも、弾頭に切り込みを入れている訳でもない唯の鉛弾。
そんなものが、この化け物に通用するのか。
誰にもその答えはわからない。
鉛はそんな事を気にすることなく、目標の右胸を貫き、身体の中で進む事を止めた。

133 :魔:2007/07/22(日) 15:55:12 ID:???

「っっ!!・・・はあッ・・・!」

全力を出し切った、ほんの一秒にも満たない攻防。
ウララーにとっては、それが一分とも十分とも感じ取れた。
張り詰めた神経を緩めると、全身から脂汗が吹き出た。
脳と筋肉は酸素を求め、必死に取り込もうと肩で息をする。
更に追い打ちを掛けるように、肩の傷が自己主張を始めた。
受け身をとっていない為か、背中も悲鳴をあげている。

こんな状態で、また飛び掛かって来たら自分はもう何もできない。
二度も幸運は続かないし、己で手繰り寄せる気力も既にない。
しかし、

(・・・?)

化け物の様子がおかしい。
弾丸が胸を貫き、ガードレールにもたれ掛かる状態で奴はいる。
首はうなだれ、表情を汲み取る事はできない。
だが、二秒、三秒・・・十秒かかっても、その体制のままだ。




(仕留めた・・・のか?)

銃口を向けたまま、にじり寄る。
もしかしたら、気絶していたフリだとか、奴の仕組んだ罠かもしれない。
万が一の事もあるし、真っ直ぐに近付くのは危険である。

その時だった。
化け物の首が急に持ち上がり、痙攣を起こし始めたのだ。
眼はぐるぐると、虫のようにせわしなく動いている。
突然の出来事に、ウララーは心臓が跳ねたような感覚を覚える。
そして、己の悲鳴の代わりとして、再度銃が吠えた。
鉛弾は化け物の腹に潜り込み、内臓を潰す。

「キイイイイィィィィィィイイイ!!!」

それに併せ、化け物は狂ったかのように金切り声をあげた。
天を仰ぎ、眼を踊らせ、口からは噴火とも取れる程血を吐き出す。

ウララーは咄嗟に耳を塞いだ。
しかし、屋外だというのに、空気が揺れる程凄まじい雄叫び。
まるで直に鼓膜を揺さ振られているようで、頭痛さえ感じてしまう。
あまりの酷さによろめくが、ここで化け物を視界から外せば己の命はない。
歯を食いしばり、残り少ない気力をかき集めて踏ん張る。




叫び声が止み、化け物が急にこちらを向いた。
ぐるぐると回る眼球と、吐血を撒き散らす様はその異形さに拍車をかける。
ウララーはそれに驚き、一手遅れて発砲する。
が、着弾した場所は目標の後ろにあるガードレール。
不快な金属音がした時には、化け物は既に頭上を陣取っていた。

(殺られる!!)

化け物の影は大きく映り、酷く恐ろしく見えた。
ウララーは両腕で顔を庇い、力いっぱい目をつむる。
だが、聞こえたのは壁をテンポよく蹴る音と、はるか遠くで響く金切り声だった。




「・・・?」

恐る恐る目を開けると、既に化け物の姿はなかった。
後ろを振り向けば、壁に血が点々とついており、奥の方ではかなり高い所にある。
三角跳びとはいえ、かなりの幅があるここでやってのけるとは。

だが、化け物は何故あのように発狂したのだろうか。
まさかとは思うが、奴は銃という物を知らなかったのだろうか。
銃口を向けていても平気な顔、撃たれた時のあの有様。
常識はずれな能力を持っていても、化け物も未知なる物が恐ろしいのか。

「にしても、あの声は無いだろ」

ウララーはそう呟き、頭を小突いて頭痛を紛らす。
そして、もはや痙攣しかしていない被害者、フサギコに目を遣った。

134 :魔:2007/07/22(日) 15:56:25 ID:???
※

最後に見たのはノーネの顔だった。
直後、化け物の爪が俺の眼を覆い、潰したんだ。
俺はその痛みに耐え切れなくて、叫ぶしかできなかった。
途中で誰かの声がして、化け物は俺から離れた。
後は殆ど覚えていない。
その誰かが、化け物を追い払った時から、既に意識は朦朧としていたから。
ただ、俺に掛けてきた言葉と、その手の温もりは覚えてる。
どうしてかはわからないけど。

※




「・・・」

ふかふかのシーツの感触。
フーが最初に感じたものは、それだった。
身体に掛かる重力の向きからして、どうやら自分は寝ているようだ。
上半身だけを起こし、目を開けようとする。
だが、開かない。
何かと思い目元を触ると、ちくりとした痛みと包帯の手触り。
必死で記憶の糸を手繰り寄せ、自分の身に何が起きたのかを思い出そうとする。
と、そこで扉が開く音がして、フーは一旦思考を止めた。

「お、起きたか。一晩だけ気絶するなんて、いい体内時計持ってんな」

聞き慣れない声は、いい匂いを纏いながら近づいてくる。
おそらく、食べ物を持ってきたのだろう。
ことり、と食器を置く音がした所で、フーは問う。

「ア、アンタ誰だ?」

「ウララー。ここは俺の家」

「・・・助けてくれたのか?」

「一応『擬似警官』って職持ちだからな」

あっさりとした返答の中に、自分の語彙にはない単語が一つ。
それが気になり、再度質問を投げ掛けた。

「ぎじ警官?」

「国がな、犯罪の数に追いつけなくなったが為に置いた救命措置みたいなモンだ」

「・・・???」

まるでインコを彷彿とさせる程、フーは首をかしげる。
ウララーはそれに対し、額に手をついて軽く溜め息をついた。
と同時に、意識が回復しても取り乱さない神経の図太さに少しだけ感心した。

「あ、あとそれと・・・」

「待て」

「?」

「お前だけ質問するってのは不公平だからな。次は俺だ」

「あ・・・うん」




自分が質問をする。
自らがその状況を作ったというのに、ウララーは黙ったままだ。
風がカーテンを撫で、衣の擦れる音だけが部屋に響く。
一分程してから、ウララーは口を開いた。

「名前と、路地裏にいた理由を教えてくれ」

その声は、何かに怯えているように少しだけ震えていた。

「俺はフー。あそこにいたのは、家がないから」

「浮浪者か」

「うん・・・あの化け物は、俺が帰ってきた時にはもう・・・」

語尾が消え、俯くフー。
言葉にしていくに連れ、あの惨劇が脳裏に浮かび上がる。
時間にすれば対したものではないが、心に負った傷はかなり深い。
目を開けられない中、瞼に映るのはノーネの首だけ。
身体が震え出した所で、何かが膝の上に置かれた。

「?」

「飯だ。一人でも食えるようにパンにしといた」

少し待っててくれ、とウララーは言い残し、部屋を後にする。
扉の閉まる音がしてから、フーは膝の上のものを探り始めた。

取っ手のついた板の上に、ふんわりとした手触りの球体が一つ。
温かく、持ち上げてみると思ったよりも軽い。
それを少しずつちぎり、口の中へと運んでいく。

135 :魔:2007/07/22(日) 15:58:42 ID:???

パンを食べ終えたら、静寂が部屋を包み込んだ。
あまりにも静か過ぎるせいか、カーテンの靡く音が先程よりも大きく聞こえる。
今のフーには、それが夜のコオロギよりも、夏の蝉よりも煩く感じた。

目を潰され、見えるものは暗闇だけ。
その為、嫌が応でも意識が耳に走ってしまう。
化け物に襲われた時の恐怖も、そんなに直ぐに拭いきれるはずがない。
ノーネという心の依り所も、亡くなった。

怖い。
風の音も、衣すれも、なにもかもが自分を嘲笑っているようで。
こうなる位なら、せめて目でなく耳を削いで欲しかった。
フーはそう思いながら、わざと爪をたてて耳を塞ぐ。

不快な音達は、テレビに映る砂嵐のように視覚化されていく。
恐らく、不安と恐怖のせいで見える幻覚なのだろう。
無数の光の粒は、縦横無尽に暗闇を駆け巡り、それを埋め尽くした。
夢なんかじゃない。
はっきりとした意識の中、そんなものを見続けられる筈なんてない。
幻覚に幻覚が重なり、鼓動がじわじわと加速する。
誰か、これを―――

「どうした?」

扉の開く音がして、続いてウララーの声。
フーはそれに驚いて、耳を押さえていた手を掛け布団の下に捩込む。
跳ね上がった心拍数は、ゆっくりと下がっていった。

「あ、いや・・・なんでも・・・」




ボタンを押す音の後、電子音が一つ。
突如、部屋が騒がしくなる。

「っ!? な、なに!?」

掛け布団を首元まで引っ張り、縮こまるフー。
ウララーはその反応に、少しの間だけ呆気に取られた。
ノイズ混じりに喋り始めたスピーカーと、フーを交互に見遣る。

「・・・唯のラジオなんだが」

「ラジオ?」

「知らないのか?」

「・・・」

まるで電子レンジを怖がる老人のようなリアクション。
ウララーは、その初々しさだか何だかに、どこかくすぐったい気持ちになる。
ベットの傍に腰掛け、フーの頭を優しく撫でた。

「ぼーっとするだけなのは辛いだろ?」

「う、うん・・・」

それから少しの間、二人はラジオを聞きながら話し合った。
フーの心から、不安を取り除く為のウララーの配慮だ。
リスナーからのハガキを、意味不明なテンションで読み上げるDJ。
笑い声のSEが聞こえると同時に、二人もつられて笑う。
時折、フーの知らない単語が出て来ては、ウララーが解りやすく説明する。

曲が流れると、話題を変えて自分の事などを話した。
なるだけ内容を明るい方向に持っていき、互いに打ち解けていく。




番組がある程度進んだ所で、ウララーが腰を上げる。

「さて、時間だし出掛けるかな」

タイミングよく、ラジオが今の時間を知らせた。
早い人は既に仕事場に、学生は登校中の時間である。
軽くストレッチをして、棚から拳銃をホルスターごと取り出す。

「いつ頃戻ってくるの?」

フーがそう聞いてきて、天井付近に掛けている時計を見て踏み止まる。
目が見えないのに、壁掛け時計で時刻を教える事はできない。
どうしようかと少し考えた後、ウララーはスピーカーを見て閃いた。

「あー、ラジオが12時って言った頃には戻れるから」

「うん」

136 :魔:2007/07/22(日) 16:00:05 ID:???
※

自分は何をやっているのだろうか。
ウララーの心は、その言葉で埋め尽くされていた。

フーを助けた時、現場はそのままにして帰った。
あの時は日も落ちかけていたし、それしかすることが出来なかったからだ。
彼等は浮浪者でもあるし、何もそこまでするかと思う奴も出てくるだろう。
それでも、ウララーは化け物に襲われた命を、助けたかった。
路地裏に置いて来たフーの友人を、弔いたかった。




死体が、無いのだ。
業者が片付けたのならば、血の跡も綺麗に落とす筈だ。
だが、ここにはしっかりと赤黒く汚れたコンクリがある。
砕けた骨だって、真っ白になって一箇所に纏められていた。

誰かが、この死体を食べた。
そう思うしか、他になかった。

「・・・くそっ」

あの時、化け物は食べる事もせず遊んでいたことから、奴の可能性は殆ど無い。
骨が纏められている件に関しては、カラスや獣の類でない事も読み取れる。

ウララーが思考を張り巡らしていると、路地裏の奥からひたひたと足音が聞こえた。
何かと思い視線を向けると、薄暗い所をちびギコが歩いている。

だが、どこかおかしい。
普通のちびギコより大きめの体格で、片耳がない。
左腕は真っ黒に汚れていて、手元に目線を落とせば、ナイフが光っていた。
身体は所々血で塗れ、右手は緑色のボールを抱えていて―――。

違う。
ボールなんかじゃない。
折れ曲がった耳と、下部にあるささくれた部分に残っている血の跡。
紛れも無く、あれはここにあった死体の、首だ。




「おい!」

焦りと怒りで、必要以上の声が出た。
ちびギコの影はそれに驚き、振り向く事もなく走りだす。
ウララーは舌打ちし、同じように路地裏の奥へと駆け出した。

決して広くない空間を、ちびギコは易々と駆け抜ける。
大人のモノと思われる首と、身体と釣り合わない大きさのナイフを持ちながら。
対するウララーは、腕や脚が木材や粗大ゴミに引っ掛かり、持ち前の能力を発揮できない。
じわじわと距離を離され、その影を見失う回数が増えていく。




入り乱れ過ぎている路地裏の中、ウララーは影を追う事を止める。
息もあがり、あのまま策もなしに追っても意味がないと判断したからだ
一旦路地裏を出ようと光のさす所に向かえば、そこは鬼ごっこを始めた場所だった。

(・・・何やってんだ、俺)

落ち着いてみれば、何処か馬鹿らしくなってきた。
死んだ者は死人にならず、死体になる。
どこぞの偉い学者が言った言葉かは忘れたが、取り敢えずそう考えておく事にする。
骨の山から、なるだけ形が綺麗なものを取り出し、その場を後にした。




今日見たちびギコは、近いうちにまた出会う事になる。
ウララーは、この時点ではまだ気付いていなかった。
あの影が、治安の悪いこの街を更に混沌とさせる要因の一つということに。


―――続く