天と地の差の裏話 その2

Last-modified: 2015-06-27 (土) 22:47:46
74 :魔:2007/05/27(日) 01:09:19 ID:???
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天と地の差の裏話




『弱き者は強き者に弄ばれる』
それは被虐者と加虐者の関係に限ったことではない。
加虐者でも、力を持たなければ殺されてしまう。
被虐者でも、力を持てば誰彼構わず虐殺できる。




全てを超越した強者だけが、この世界を支配する。




「んー、今日はイマイチなノーネ・・・」

緑色の身体をした浮浪者が、けだるそうに街を練り歩いていた。
身体的な特徴として、先の折れた耳と右目に走った大きな切り傷。
いつも不機嫌そうに尖らせている口元は、今の気分としっかりマッチしている。

男の名前はノーネと言った。
ノーネの日課はアフォしぃやちびギコの虐殺と、その肉の収穫。
治安の悪いこの街では小食は被虐者同然。
働けないのなら奴らの肉を口にすればいいだけのこと。
媚びらなければ狙われないし、質の良さなんて、贅沢を通り越して都市伝説モノだ。




「・・・?」

いつもは糞虫達で賑わう路地裏。
ここに来れば大概は捕獲することが出来るはずだが、
今日は街中と同じように違っていた。

そこには一人のAAが、俯せに倒れていた。
茶色の身体に、その長毛は泥と血糊で汚れ醜い姿を晒している。
足の方はもっと酷く、何時間歩けばこんなになるのかと思ってしまう程、皮がべろべろに剥がれていた。

(・・・一体なんなノーネ?)

ノーネはそのAAをまじまじと見詰める。
身体は大きめな所から、ちびフサとは違う可能性がある。
フサギコ種の、子供。
なんで子供がこんな姿で、こんな場所で行き倒れているのか。
保護するべきか、見てみぬふりをするか。
いろいろと考えていると、盛大に腹が鳴った。




ここ最近、アフォしぃをなかなか見掛けないことがあり、ノーネは満足に腹を膨らますことが出来ていない。
このAAを見逃し、他の場所に探しに行くという選択肢はあったのだが、
腹が鳴ったことで、切羽詰まった情況というのを思い出してしまう。
幸い、この辺りに他人の気配は全くないし、元より糞虫以外の肉にも興味があった。
ノーネは周囲を二、三度見回してから、足元のフサギコの首に手をのばした。
すると、

「ふがっ!?」

「うおっ!?」

急にフサギコが顔をあげ、跳びはねるように起き上がる。
ノーネはそれに驚き、勢いよく手を引っ込めた。
急な出来事に高鳴る心臓。
それと、殺めようとした事に気付いたことで、脂汗が一気に噴き出る。
対するフサギコはぼんやりとしていて、暫くしてからノーネを見遣った。

「・・・」

「な、何か・・・」

真剣な眼差しと、無言の圧力で更に焦る。
やはり一般AAを喰うことなど、間違っていたのだろうか。
恐らくバレてはいないのだが、どうしてか罪悪感が付き纏う。
聞かれてもないのに、心の中で必死に弁解。
無意味に神経を擦り減らすノーネに、それをじっくり見詰めるフサギコ。
奇妙な空気と沈黙は、そのフサギコの言葉と腹の音で壊された。

「腹減った」

「は?」

「オッサン、なんか食べられるもん持ってない?」

「・・・」

75 :魔:2007/05/27(日) 01:09:57 ID:???
初日




あれから、ノーネは肉を探しにいろいろな所をまわった。
自分と、ひょんなことからついてくるようになった毛玉の空腹を癒す為だ。




肉を探す少し前、フサギコと会ってすぐの話。
出会ってからの第一声が『腹減った』という、ぶっきらぼうな台詞。
やんちゃなのか、それとも命知らずなのか。
ノーネは、何故子供のお前がこんな所でうろうろしているのかとフサギコに問い質す。
返ってきた答えは、大方予測できたものだった。

「親とか、家とか、そういうの俺にはないから」

捨て子か何か。
ノーネ自身も浮浪者であったし、こういうのは珍しくない。
治安が悪い事と重なり、街は浮浪者の存在を黙認している。
糞虫という食糧があるし、放っておけばそいつらを苦情してくれる。
だが、子供であるこいつが街を徘徊するのには多少危ういものがある。
産まれたてであれば、ギコ種は糞虫と見分けがつきにくい。
今だって、いくらか成長したとはいえノーネに喰われそうにもなった。
まあ、これは唯のノーネ本人の過ちなのだが。

「親はいなくとも、名前ぐらいはあるノーネ?」

「ああ、俺はフーっていうんだ。よろしくな、オッサン」

自慢げに己の名前を告げ、更にこちらをオッサン呼ばわり。
こちらの名前を教える前に、既にオッサンと命名されてしまっている。
「俺はノーネだ」とはっきり言っても、聞いてくれなさそうな雰囲気だ。

「フーというより、愚者(フール)なノーネ・・・」

「なんだそりゃ? 知的に見せようとしても俺には通用しねーぞ」

「・・・」

76 :魔:2007/05/27(日) 01:11:09 ID:???
初日
夕方




日が完全に落ちきる前に、ノーネは獲物を見つけることができた。
道路のど真ん中をふらふらと、かつ大胆に歩くアフォしぃ。
ノーネは気配を殺し、音をたてずにしぃに近付く。

「~♪」

あの妙な歌は唄っていないものの、その動きは奇怪である。
奴らにとってそれは華麗にダンスを踊っているとのことだが、
どう見ても幼児が手足をばたつかせているだけ、もしくはそれ以下。
だが、その奇怪なダンスのせいで、捕まえることが幾らか難しくなっていた。
というのも、予測できない移動パターンにてこずる事。
油断すれば見つかってしまい、そのまま逃げられる可能性がある。
と、

「ハニャッ?」

バレリーナ宜しく一本足で回転し、ノーネと偶然にも目が合う。
ノーネは小さく舌打ちをすると、狩りへと移行。
アフォしぃが情況を把握する前に、素早く屈み後ろへ回り込む。
元々高いノーネの身体能力と、アフォしぃを反応速度の悪さが重なり、楽に後ろを取れた。
そして、片腕でアフォしぃの首を掴み力いっぱい握る。

「ガッ!?・・・グ、グェ・・・」

アフォしぃはすぐに泡を吹き、白目を剥いて気絶した。
首の骨を折れば、簡単に死んでそのまま肉が手に入るのだが、それだけではどうにもつまらない。
ノーネは生きたままの人形をひょいと担ぎ、フーの元へ戻る。




「遅ぇよオッサン!」

路地裏に戻れば、早速フーから罵声が飛んできた。
やはり、このやんちゃ坊主と一緒に狩りをしなくて正解だった。
本人いわくベビしぃや生ゴミを漁ることは出来るらしいが、
自分より大きい獲物は狙ったことがないようだ。
更にはこの狩りのルールをぶっちぎりで無視している性格。
そんな奴を横に置いておけば、アフォしぃやちびギコに逃げられるに決まってる。

「お前、いろいろと煩いノーネ。そんな態度でよく生き延びてきたノーネ」

「それ、どういうことだよ」

諦めを混ぜた溜め息をつき、悪態をつくとあっさりと反応するフー。
どんなことにもすぐ突っ掛かることと、今までの言動から、やはりこれでは身体のでかい糞虫のようだ。
接するAAの評価にもよるが、運が悪ければ虐殺厨に殺されていたかもしれない。

「なんでもないノーネ」

「んだよ、全く・・・ほら、早く肉くれよ!」

77 :魔:2007/05/27(日) 01:11:59 ID:???




「じゃあ、ご希望に供えて始めるノーネ」

ノーネは担いでいたしぃを下ろし、壁にもたれ掛かせる。
胸がわずかに、ゆっくりと上下動していたから、まだ生きていると確認できた。
そして、しぃの左側にまわると、腿と脛を掴み左右に一気に引っ張る。

「シギィィィィィィィ!!!?」

ぶちぶちと嫌な音に重なるのは、アフォしぃの甲高い悲鳴。
膝から先を無理矢理に契ったものだから、その痛みは気絶という効果の薄い麻酔から充分に目を覚ます程の威力。
寧ろ、覚ます事を通り越して狂乱させる程の方が正しいかもしれない。

「シィノ、シィノアンヨガァァァァァァ!!!」

「お前もお前で煩いノーネ」

「ギャブっ!?」

叫び、のたうちまわるしぃを俯せに押さえ付け、上に乗る。
ノーネは続けて右足を掴み、今度は付け根から腿を契る。
余分な肉がある個所のせいか、切り離すことに多少苦労した。
ぐりぐりと捩ったり、左右に振ったりとなかなか上手くいかない。
しぃは取れそうな足の動きに併せるように唯々悲鳴を上げるばかり。
それを見ていたフーは、しぃの叫び声が不快だというように耳を塞ぎしかめっつらをしていた。

「なぁ、なんで生きたまま持ってきたんだよ」

「新鮮さを考えるとこれが1番なノーネ。お前も見てないで手伝うノーネ」

「手伝うって?」

「このほっそい腕位は、フーでも契れるノーネ」

「シィィィィィィ!!! ヤメテェェェェェ!!!」

後ろ向きに馬乗りになっているノーネに促され、喧しいしぃを無視して手を掴む。
フーは、その生き方から今まで虐待をしたことがなかった。
公園などで子供や大人が揃ってこいつらに傷を負わせたりする事は見たことがあるのだが、
いつも自分が捕まえるのはベビばかりで、もいだりする部位といえば首暮らすしかない。
しかも一口二口で終わる大きさでもあり、あまり叫びもしないし遊ぼうにも微妙といった所。

初めての虐待。
最初は抵抗があったものの、しぃの涙でくしゃくしゃになった顔を見ると、どこかワクワクしてきた。
しぃの肩に手を添え、引っ張る為に力を込めると悲鳴のボリュームが上がる。
フーはそれを聞いたことで好奇心が興奮へと昇華。
目を光らせ、一気に腕をもいだ。

「ふがっ!」

「シギャアアアァァァァァ!!!」

気合いを入れた一発。
同時に泣き叫ぶアフォしぃ。
それは些細なことではあったが、フーは達成感で胸がいっぱいになり、満面の笑みを浮かべる。

「なんだこれ・・・妙に愉しいんだけど・・・」

「今時そういう反応する奴、珍しいノーネ。気に入ったなら反対側も、それでも足りないなら耳でもやればいいノーネ」

78 :魔:2007/05/27(日) 01:13:41 ID:???




「ハ、ハニャア・・・」

「ちゃんと契ったノーネ?」

「おうよ」

四肢をもぎ取った二人は、次の行動に出た。
桃色の毛に包まれた脚の皮を、バナナのように剥いでいく。
しぃの皮はいくらか頑丈であったため、べりべりと気持ち良く剥ぐことができた。
それを見ていたしぃは、自分の手足がぼろぼろにされていく事に絶望し、口をぱくぱくとさせている。
叫び疲れた上、ノーネの手早い動作に出会った時から思考がついていけず、もはやアヒャる寸前だ。

「すげぇ。ベビやちびの肉よりずっと重いや」

フーは皮を剥ぎ終えてから、その血で肉が嫌らしく光るしぃの腕を見つめる。
先程の虐待による興奮の目とは違い、ただ純粋にその肉に驚いていた。

「喰ってみるノーネ。生臭いけど、我慢すれば美味なノーネ」

気が付けば、既にノーネは食事に入っていた。
フーはノーネの言葉を聞き、ひと呼吸置いてから大きく口を開け、肉に噛み付いた。
ぐにぐにと咀嚼すると、まず先に血の臭い匂いが鼻をつく。
いろんな生肉を食べてきたので、この位問題はない。
ある程度血の匂いが消えると、しぃの肉の甘みが少しずつ現れてくる。
思ったより硬くもないし、量もある。
口の中のものを飲み込んで、フーはこう叫んだ

「うめぇ!」

「それはよかったノーネ」

美味とわかった途端、貪るように噛り付くフー。
ノーネはそれを見てほんの少しだけ笑った。

「シィノ、シィノオテテ・・・シィノアンヨ・・・カエシテ・・・」

ほのぼのとしたやりとりの横で、ぼそぼそと嘆く芋虫。
自分の手足が見るも無惨な姿にされ、食べられていく。
溢れる涙で視界がぼやけ、緑と茶色の悪魔が笑っているように見える。
何の罪もないのに、私はお前達に何もしていないというのに。
どうして、私が。

「ドウシテ・・・ドウシテ、コンナコトヲ スルノ・・・」

「俺達が生きる為に決まっているノーネ。それに・・・」

しぃへの返答と同時に、向き直り耳の方へと手を持っていくノーネ。
それを摘み、力を込めてぐいと引っ張る。
すると、複数の繊維の切れる音がしてしぃの耳が頭から離れた。
少量の血液が辺りに散らばる。

「シィィィィィィィ!!」

四肢のない現実を信じたくないと、虚ろだった意識が一気に覚醒する。
脳天を杭で穿たれたような鋭い痛みにしぃは悶え、腹と首だけでその場を転がった。
ノーネはそんなしぃを見て、摘んだ耳を自分の口の中にほうり込み、こう言った。

「お前の声と泣き顔は『おかず』なノーネ。簡単には殺さないノーネ」

79 :魔:2007/05/27(日) 01:14:19 ID:???




「シ、シィィ・・・アゥゥ」

痛みと恐ろしさで言葉が出てこない。
彼らから見た私は餌。それだと、私から見た彼らは『人喰い』。
自分と同じ体格のAA達に食べられていく身体。
嘆きや慟哭は彼らの心を潤し、惨めな私を嘲笑う。
舌を噛み切って死のうにも、顎に力が入らない。
更にそれがバレとすると、彼らは私の歯をむしり取るだろう。
そして、達磨になった身体でも、まだ左腿が残っている。
恐らく意図的に残したのだろう。ここに釘を無数に打ち込むとか、少しずつ削いでいくとか。
もういい。自分の身に何が起きるかなんて、考えたくない。
怖い。怖い。助けて。助けて。誰か。誰

「ハギャァァァァアアアアアア!!?」

またもや思考が停止。
今度は頭蓋骨を貫いたかのような激痛。
というよりも、右目にとてつもなく大きな異物が入り込んだ感覚の方が正しい。
あまりの痛さに目を見開き、肺の空気を全て吐き出す勢いで叫ぶ。
ぐちゅ、と湿った音がして、異物は目と共にしぃの頭蓋を離れた。

「おぉ、やっぱ綺麗だなこれ」

しぃの目をえぐったのはフーだった。
フーは虐待で醜く歪んだしぃの顔の、ぼろぼろと流れる涙のその先にあるもの。
エメラルド色に輝くその目に、興味を示していた。
無理矢理に取り出したそれは、血と神経でどろどろではあったが、
自分の顔が映り込む程透き通った鮮やかな緑に、フーは魅入っていた。

「しぃは肉以外はあまり美味しくないノーネ。それに達磨から目を取ったらいい声が聞けなくなるノーネ」

と、眼球を手の平で転がしているフーにノーネが忠告をする。
ノーネは身体の機能を崩し、哀れな被虐者を観察するというやり方には興味がないらしく、
自分の身体が壊されていく所を見せ、絶望させる方が好みだとか。
達磨状態が拘束具として、目潰しはアイマスク。
それらだけで被虐者の嘆き、叫び、喚きを聴くのには少し無理がある。

「わかったよ。んじゃこれだけにしとく」

不満げに言葉を返し、眼球をかじる。
固い歯ごたえと、ゼリーのようなものが舌に触れ、しょっぱい匂いが口の中を支配した。

「・・・まずっ」

80 :魔:2007/05/27(日) 01:15:36 ID:???
二日目
朝




厚い雲が街を覆い、日の光はしっかりと地に届かず、薄暗い夜明けとなった。
そんなどんよりとした灰色の空の街を、すっきりとした面持ちで散策するフー。
歩道を意気揚々と歩く彼の近くに、ノーネの姿はない。
会って間もないというのに、どうやらフー一人で次の獲物を捜すことになったようだ。




話は昨日の夜まで遡る。

「ふぅ、ごっそさん」

二人は肉を食べ終え、それぞれだらけていた。
おかずであるしぃは、骨となった四肢を元の場所にあったかのように突き刺しておいた。
アヒャ化直前から我に返す、というパターンを何度もしてしまったので、流石にしぃはショック死してしまったようだ。
少し勿体ないかもしれないが、それなりにいい声が聞けてノーネは満足。
初めて虐待に参加したフーにも充分な刺激となった。

「満足したノーネ? したのなら俺は消えるノーネ」

「待った!」

立ち去ろうとしたノーネを、声だけで引き留める。
元々でかい声に拍車が掛かったのもあり、ノーネは肩を跳ねさせて立ち止まった。

「煩いノーネ。お前の言う通り食べ物持ってきてやったのに、まだ何か欲しいノーネ?」

「その逆。助けてくれた恩を返したいんだよ」

フーが言うには、しぃの肉の美味さと虐待の愉しさを教えてもらった代わりとして、
ちびギコやベビギコの味を知ってもらおうというものだった。




そして、持ち前の明るさと強引さでノーネを丸め込み、ちびギコを捕ってくることの許可が下りた。
虐待を知っての狩りは、言わずもがな今回が初めて。
昨日感じた興奮をまた味わいたいと、想像するだけで心臓が高鳴る。

いつも暴言を吐かれるのがうざったいからと、毎回獲物の息の根はすぐに止めていた。
だが、それは過ちだったのだ。
見る角度を、やり方をほんの少し変えるだけであんなに愉しいものになるなんて。
フーの脳裏に醜く歪んだちびギコの顔が浮かび、思わず笑みが零れる。

「ああ、早く遊びてぇーっ」




公園。
フーがちびギコ等を狩る時に、公園はよく訪れることがあった。
生きることに対しての意識が薄い奴らは、たとえ天敵の集まりやすい場所でも娯楽を求めにやってくる。

とりあえずうろうろしていると、まず砂場に二匹。
ベビギコと、その兄と思われるちびギコが砂山を作っていた。
他の子供達の影はなく、無理矢理奪って遊んだわけではなさそうだ。
糞尿を撒き散らしてもないし、フーはそいつらを後回しにすることにした。
次に見つけたのは、動物をモチーフにした小さいトンネルの中のちびしぃとちびフサ。
コンクリでできた薄暗く狭いそんな場所でくんずほぐれつ、一体何をしているのかと問いたくなる。
どうやらこちらに気付いてないようで、フーはそいつらを狙うことに決めた。

81 :魔:2007/05/27(日) 01:16:33 ID:???




「よ、そこで何してんだ?」

淵から覗き込むようにし、挨拶。
ここでまともな返事が来ればいいのだが、やはり糞虫は糞虫。

「なんデチか? ボクは今忙しいんデチ。どっかいけデチ」

目を合わせることは疎か、こちらに顔すら向けない。
二匹はフーを挑発しているのか、或いは全く関心を示していないのか。
一心不乱に身体をすりあわせ、息遣いが荒い糞虫。
フーはそこで二匹が何をやっているのか理解し、次の行動に出た。

「ほうほう。朝っぱらからお盛んなことで」

ちびフサの首根っこを掴み、ちびしぃから引きはがすように遊具の外に出す。
すると、二匹の接合部から何かが糸を引き、ぷつりと切れると地に落ちて消えた。

「なにするんデチ!? 邪魔するなデチ!!」

手足をばたつかせ、必死に抵抗をするちびフサ。
身体の大きさに差がありすぎる為、フーから見れば滑稽な動きをしているだけ。
喚くちびフサの身体をよく観察すると、やはりといった所、股間の部分が汚くテカっていた。
糸が繋がっていた所にいる者、ちびしぃはどこかぐったりとしている。
どうやらヤりすぎで疲労しているようだ。

「うっへ、お前きったねーな」

「うるさい! お前だって泥だらけの毛玉じゃないデチか!!」

「毛玉に毛玉って言われたくないな。鏡見たことないの?」

「ボクはお前と違ってサラサラで清潔なんデチ。オマエこそ、水溜まりに映った自分でも見ておくといいデチ」

嫌らしい言い回しをするちびフサ。
確かにフーは浮浪者でもあり、昨日の食事でついた血糊も完全に落としてはいなかった。
だが、生きているだけでゴミ扱いされている奴に言われたくはない。
生意気を言うちびフサに怒りを覚えると共に、フーは一人でやる初めての虐待のメニューを思い付いた。




「へぇ・・・。だったら、その自慢の毛、俺にくれよ」

「ハァ? 誰がそん・・・ぶギャッ!?」

首根っこを掴んだまま、地面にたたき付ける。
顔面を思いっきり打ったちびフサは、急なことに驚き変な声をあげた。

「痛いデチ!! ふざけるなデチこの虐殺厨!!」

涙目になり鼻を赤くしながらも、尚ばたつき抵抗する。
ちびフサの手足は元気に土を叩き、その自慢の毛を自ら汚していく。

「暴れんなって、すぐに終わるから・・・よっ!」

フーは押さえ付けている手に力を入れ、空いている手で背中の毛を握る。
結構な量を握った所で、景気よくむしり取った。

「ヒギャアアアァァァァ!!!」

毛が抜ける爽快な音にちびフサの叫び声が重なる。
皮膚のことを全く心配しないでやったため、抜けた個所からぷつぷつと血が出てきた。
傷として見たらたいしたことないのだが、毛を抜く事自体が身体に大きな負担となっている。

82 :魔:2007/05/27(日) 01:17:07 ID:???

長毛な被虐者に最も有効で、かつありきたりな虐待。
余程の事がない限りは死なないし、自慢であるフサフサの毛がなくなることは、大切な物を壊されるのと同じである。

「まだ足りないからよ、もっと抜かないと・・・なっ!」

「痛いぃっ!! やめ、やめてぇッ!! やめアアアァァぁぁぁぁ!!」

背中の毛は見てわかるように減っていき、小さな赤い斑点だらけの皮膚が露になった。
一つ一つの毛根全てに針を刺されているような痛みに、ちびフサはただ叫ぶばかり。
目玉が転がり落ちそうな程見開いた眼からは、ぼろぼろと涙が溢れていた。
背中は前述の通り。腹は土でどろどろ。顔は涙と涎でぐしゃぐしゃである。

「ほら! ほら! ほら! ほら! ほら!!」

それとは裏腹に、毛を毟る度にエスカレートするフー。
血走った目と回を重ねる毎に吊り上がる口元が、どこか狂ってきているのではないかと見る者を心配させる。
しかし、その惨状を目の当たりにしているのはちびフサ本人のみ。
砂場のちびギコはどうしてか気付かないし、ちびしぃは全身で快楽の余韻を堪能していた。
既にフーを止める者などそこにはおらず、ついには

「ぃぎゃああああああぁぁぁぁぁァァァァ!!!」

勢い余ったフーの手はちびフサの皮を掴み、あろうことかそれごと毛を毟ってしまった。
唯ならぬ痛みにちびフサは聞く者すら発狂してしまいそうな程の声をあげる。
背中なので自分からは見えないが、きっとそれは凄まじい状態なのだろう。
背骨まで襲ってくる激痛に、正気を失いそうになりながらもちびフサはそう思った。




「さて、こんなもんかな・・・って俺より汚くなってんじゃねーか」

「あ、ああァ・・・痛いデチ、痛い、痛・・・」

汚物まみれの雑巾を扱うように、指でつまんで持ち上げる。
暴言を吐きまくっていた威勢の良い口からは鳴咽と嘆きばかり。
自慢の美しい毛はどこにも見当たらず、ちびフサが身に纏うのは血と泥と涎だけだった。
最も酷い有様なのはその背中。
赤黒い肉が露となり、脚の方には血が滴っている。
実は皮を剥いだ時、その威力が利いて尻の皮や尻尾までも被害にあっているのだが、それを行ったフーすら気付いていないようだ。

「流石にここまで汚いと食えないから、お前は帰してやるよ」

「え」

ちびフサの最期の言葉は何ともあっけないものだった。
「帰してやる」と告げた直後、おもいっきり振りかぶりちびしぃ目掛け投げ飛ばす。
語尾は空を切る音に掻き消され、断末魔は骨が砕ける音と肉が弾ける音に重なる。
恐らくちびしぃは状況を理解することは疎か、ヤった後の気持ち良さを死後の世界に持ち込めたかもしれない。
そう言いたくなる程遊具の中は凄まじく、沢山の生卵を投げ付けたかのようにぐちゃぐちゃである。

フーは暫くその惨状を眺めた後、砂場へと移動する。
鎮まらない興奮を必死で抑え、ニヤついた顔のままちびギコ達の方へ。
そして、二匹が頑張って作った砂山を踏み潰しこう言い放った。

「なあ、今から俺と楽しいことしようぜ!」




その後、フーは糞虫を素手で挽き肉にするまで暴れてしまう。
当初の目的などすっかり忘れてしまい、生きたちびギコを持ち帰らずに帰路につく。
そんなフーにノーネは鉄拳制裁を打ち噛ましたのは言うまでもない。

83 :魔:2007/05/27(日) 01:18:57 ID:???




フーとノーネが出会って数日が経った。
二人は毎日交代制で肉を捕ってきたり、時には一緒に虐待虐殺をしたりと、それなりに充実した生活を送っていた。
互いの過去には触れなくても、すっかり打ち解けているし不満はない。

このままずっと一緒に居られたらな、と柄にもないことを思うノーネ。
本人は満足しているのかどうかわからないが、いつも楽しそうにしているフー。
二人の関係は何時まで続くのか。
それを知る者は、その関係を壊す者だけだった。




某日

「じゃあ、行ってくるわ」

「期待はしないノーネ」

今日はフーが当番の日である。
最近は道具を使うことにも凝っているフーは、どこからか拾ってきた紐を持って狩りに出た。
刃物や鈍器、その他の小道具を使った虐殺を街で見掛け、それらに酷く興味を示していたのだ。
フーは自分にも出来る道具を使用した虐待を考え、辿り着いたのが紐だった。
四肢を壊さずとも相手の自由を奪えるし、首に巻けば逃げられる心配もない。

フーは新しい試みを早く実践したくてしょうがない状態だ。
獲物を捜す脚はいつもより速く、見つける為の目はより鋭い。
が、やはり本人の持ち味である笑顔は忘れていなかった。




空き地。
人の集まりやすい公園では、あまり派手なことはしない方がいいと考え、少し遠出してそこを選んだ。
鬼ごっこや奇妙な踊りをしたりと、遊具を使わずとも楽しむ奴らはいる。

(糞虫にバレねーように・・・)

フーは空き地に一番近い電柱に身を隠し、様子を伺うように覗き見る。
その手には、先を輪にした赤い紐が束ねて握られていた。

84 :魔:2007/05/27(日) 01:19:38 ID:???




空き地にはおにーにと、ちびギコの兄弟がそれぞれ遊んでいた。
おにーにはあの変な踊りを布教しようと、ちびギコにレクチャーしている所。
リズムのない、くねくねとしたその動きはアフォしぃのそれとは違う不快感を見るものに与える。

「その調子ワチョ。ちびタンは飲み込みが早くて素晴らしいワチョ!」

「ありがとうデチ! これでちびタンも人気者デチね!」

そんなやりとりをしていると、ちびギコの首に赤い紐がぱさりと落ちてきた。

「ん?なんデ・・・ぐぅえ!?」

ちびギコはそれが何かを確認する前に、その紐に身体を引っ張られる。
勢いが強すぎるおかげで、首が絞まり妙な声が漏れた。

「成功っ!」

ちびギコを捕まえた者、フーは事が上手くいったことに歓喜する。
余った紐を手繰り寄せ、獲物を無理矢理に足元へと運ぶ。
体重と力が重なり首が絞まっていくちびギコは、声は出なくとも手足をばたつかせて苦しみを身体で表現していた。

「ちびタン!?」

「ミュー!」

少し遅れて仲間が反応し、ちびギコの方へと駆け寄る。
そのすぐ側に、自分達の天敵である虐殺厨がいるというのに。

「さぁ、皆で一緒に踊ろうか!」

と、フーが気合いを入れてちびギコのついた紐を頭上で振り回し始める。
轟々と鈍く風を切る音がして、それは速度を増していく。

「な、何をするワチガふぁ!!?」

ある程度の速さを乗せた所で、おにーにの顔面へと投擲。
頭部が脆いおにーに種は、ちびギコがぶつかったことであっさりと砕けてしまった。
米塗れになったちびギコは、仲間の命を哀れむより酸素を取り込む事に必死だ。

声はなくとも、その苦痛に歪んだ表情は何かそそるものがある。
ちびギコは首の紐を緩め、何度か噎せた後フーの方を睨む。

「エぅ・・・な、ナんデ・・・ッ!?」

息を整え、抗議しようとした矢先のことだった。
再度身体が宙を舞い、視界が矢のように吹き飛んでいく。
やはり首に巻き付いた紐は絞まり、声もまたでなくなってしまった。

「うっひょー! こいつはすげぇや!」

フーは紐を扱った虐殺が気に入ったらしく、何時にも増して笑顔である。
おにーにの砕け方やその時の感触が、直接手でやるものより全然違うことがフーを興奮させていた。

「必殺! ちびギコハンマー! なんつって」

一心不乱に振り回し、ちびギコを地面にたたき付けたり引きずり回したりと、色々とせわしない。
脳内麻薬もたっぷり分泌し、ある意味で盲目と違わない状態なものだから、

「ミュー! ミュー! ミュギャヒッ!?」

ベビギコを巻き込み殺したことに気が付かなかった。
おにーにの頭程ではないが、その脆さにはいつも驚かされるものだ。
内部から爆発させたかのように、ベビギコは自分の中身を惜しみなく辺りにばらまく。
唯一形が残ったのは直撃を免れた下半身のみだった。

85 :魔:2007/05/27(日) 01:20:02 ID:???




フーは事に満足し、一旦腕を動かすことを止める。
それに合わせるように、ちびギコは地に乱暴に落とされた。

「っ!・・・げぇぇっ! ぐっふ!・・・」

子供のものとは思えない濁った咳をし、やはり必死に首の紐を緩めようとする。
が、それはとあることのせいでなかなか上手くいっていないようだ。

「ん?」

ちびギコの挙動がおかしいと、フーは近付いて覗き込む。
そこには肉と骨が露になり、血と土でどろどろになっているちびギコの腕があった。
恐らく、地面にたたき付けられる毎に受け身を取るように手を突き出して致命傷を防いでいたようだ。

理解不能なことが連続で起こり、ちびギコは仲間や状態把握より自分の命の保守を選んだ模様。
フーのやり方はあまりにも乱暴過ぎたし、こうなることは当然の結果か。

「なんだ、苦しいのか。だったら手伝ってやるよ」

と、フーはちびギコの首に手を掛け、紐の両端を握り強く引っ張る。
帛の擦れる音がして、紐は指三本程入る位まで緩くなった。

「っ・・・あ、あンタ、なニすんでチ・・・」

もう腕とは言えない腕をぷらぷらとさせながら、元気なくフーに抗議する。
恐怖と怒りと混乱が混じったその表情は、滑稽なものでもありほんの少しだけ罪悪感を覚える。
しかし、今フーが行っているのは虐待。狙ってやっていることだし、寧ろそれは快感に昇華していく。

「まあまあ、落ち着けって。ていうかその腕、もう使えないだろ?」

「そん、そんなの、おまえのせい・・・」

「俺が『いたいのいたいの飛んでいけ』してやるから安心しろよ」

「ちょ、何・・・っ痛いッ! 痛い痛い痛いぃぃ!!」

そう言うと、フーはおもむろにちびギコの腕をしっかりと握る。
痛覚神経はまだ機能していたし、握られた事で折れた骨がそれらを刺激していく。
フーは喚くちびギコを無視して、力を込めて手を素早く引いた。
すると、鈍く湿った不快な音をたてて、ボロボロの腕は見事にすっぽ抜ける。

「ぎゃあぁぁぁああぃぃぃぃあああぁ!!!」

白目を剥き、火が点いたかのように絶叫。
これだけ痛め付けられていても、叫ぶことだけは忘れない。
なんとも忙しい生き物である。

「・・・ありゃ?」

ちびギコは腕があった所からそれなりの量の血をばらまいた後、俯せに倒れ込んだ。
失神したのか、体力がなくなり気絶したのか。
どちらにせよこのままでは虐待を続けられない。

「んだよ、面白くねー・・・まいっか、戻って他の獲物捜そうかな」

フーは溜め息を軽くつくと、気を失ったちびギコを引きずり空き地を後にする。
やはり紐のせいで首が絞まるのだが、今回は本人は完全に何もできずにいた。
シュレディンガーの猫宜しく、ちびギコがいつ死んだのかは誰にもわからなかった。

86 :魔:2007/05/27(日) 01:21:17 ID:???
※

生き物というのは、自分を環境に適応させる為に常に進化していくものだ。
それはアフォしぃやちびギコにも言えたことである。
彼等はその繁殖能力で環境に適応した進化をせずとも生きていけるのだが、
ごく稀に、虐殺厨にこれ以上苦しめられないようにと願い、進化してしまう者もいた。
虐殺の味を全て覚え、それに耐え得る身体を持つ。
そして、その味を好きな相手に好きなように振り撒くこともできてしまう。

虐殺厨が彼等に与える苦痛は凄まじく、また彼等の想いにも恐ろしいものがあった。




「・・・遅いノーネ」

厚い雲が空を覆い、薄暗い路地裏がその黒さを増している。
ノーネはフーの帰りをただひたすらに待っていた。
近くにいるアフォしぃはあらかた片付けたし、全くすることがない。
仕方なしに、ノーネは壁にもたれ掛かり胡座をかいている。
何もせずにいると、どうしてか時間が経つのが遅く感じてしまう。

無音に等しい世界。
不快な色の空。
それらはノーネの退屈な時間に上塗りされていく。
外的刺激もなく、ストレスは更に溜まっていく中、とある音が聞こえた。
液体が撒かれるものと、何かを殴る音。
恐らく、見知らぬ者が近くで虐殺をしているのだろうと思われる。

「・・・」

ノーネはそれを黙って聞くことにした。
部外者であり、浮浪者である自分がお邪魔すればまずいことになるだろう、と考えてのことだ。
音だけでもいくらか楽しめるし、ノーネはそれに聴き入っていく。

が、途中何か妙な音が混じっていることに気がつく。
咀嚼する湿ったものに重なる、硬い物を砕く音。
そして、地を這うような低い唸り声。

(これは・・・もしかして、びぃなノーネ?)

凶暴な化け物として名高い『びぃ』。
乱暴さが垣間見えるその演奏と歌声から、ノーネは姿を見ずともそう確信した。

逃げなければ。
下手に手を出せば、返り討ちにあうのは目に見えている。
フーの事が心配ではあるが、呑気に待っていればこちらが餌になってしまう。
立ち上がり、駆け出そうとした矢先のことだった。




「ッ!?」

突然、目の前に何かが落ちて来た。
それは血に塗れ、苦痛の表情で満たされたしぃの生首。
飛んで来たのは、びぃと思わしき者の声が聞こえた方から。
ノーネはしぃの生首と、背後の化け物の威圧感のせいで竦み上がり、動けなくなっていた。

「・・・あら、あら。そんなに驚かなくてもいいじゃない」

化け物が話し掛けてくる。
その声からはあの汚いびぃを想像できない程、艶かしかった。
もしかして、唸り声は被虐者のものなのだろうか。
ノーネはそう思い、ゆっくりと後ろを見遣る。

そこには、びぃはいなかった。
びぃより酷い何者かが、そこに立っていたのだ。
全身の皮膚は焼け爛れたようにくすんでおり、所々水ぶくれをおこしている。
左目は白く濁り、右目は鮮やかなエメラルドをしていた。
耳は不気味に長く色々な方向に伸び、片側は惟の突起でしかないように見える。

「お、お前・・・誰なノーネ?」

見たことのない風貌。
それが、ノーネの感じている恐怖を増幅させていく。

「私? さて、誰なのかしらね」

クス、とだけ女は笑い、手をゆらゆらと動かす。
水ぶくれと擦り傷でいっぱいの腕と、その先の先にある鋭い爪。
それらはまだ新しい血に塗れていた。
女が一歩前に進むと、遅れてノーネは後ろに下がる。

「そんなに構えなくてもいいじゃない。私は唯貴方と遊びたいだけなのに」

87 :魔:2007/05/27(日) 01:21:56 ID:???

「・・・遊び?」

ノーネはその言葉に、一瞬だけ気を取られた。
瞬間、女の姿が掻き消える。
続いて腹部に焼けるような感覚と、辺りに散らばる液体の音。

「が!? ッぐあああぁぁぁぁ!!!」

想像を絶する痛みにノーネは悶え、その場に崩れ落ちる。
痛む個所を押さえてみると、肉があった場所に何も触れられないことから、刔られているのがわかった。
血を吐き、俯せの状態から顔を上げて女を捜す。
女はちょうど真後ろで、ノーネの物と思われる肉を手でこねて遊んでいた。

「いい声ね。さあ、さあ。遊びましょう」




濁ったエメラルドの目が、ノーネを見下ろす。
この殺伐とした世界で、『油断』をした為にこうなってしまった。
普段のノーネならば、落ち着いてこの運命を甘んじて受ける筈だった。

フーに出会ってしまったせいで、こんなになっても生きたいと願ってしまう。
まだあいつと一緒に暮らしたい。
だが、その願いはノーネの苦痛を増加させるだけに過ぎないわけで・・・。

「く・・・うぁ、っ」

傷口から中身が洩れる。
綺麗に刔られたのは皮だけのようで、臓は破裂しているかのようにぐちゃぐちゃだった。

「結構カタかったわ、貴方の身体・・・骨はどうかしらね」

そう言うと、女はノーネの方に近付き、左腕を踏む。
ノーネはそれに対し、小刻みに震え痛みを堪えるばかり。
女はそれが気に入らないようで、少し顔をしかめる。

「それ」

そして、脚に力を入れ一気に踏み砕いた。
バキンと壮大な音がして、ノーネの腕に新しい関節が出来上がる。

「───ッッ!!!!!」

目を見開き、声にならない声をあげる。
ありえない方向に曲がった腕はあっさりと感覚を失い、鋭く折れた骨は痛覚を強く刺激する。
腹の痛みなど吹き飛び、ぐちゃぐちゃの内臓が溢れようとも、ノーネはもんどりうつ。
が、腕を踏み付けられているせいか、唯手足を醜くばたつかせるだけだった。

女はその惨状を見て、妖しく笑う。
激痛と恐怖に歪むノーネの顔が気に入ったようである。

「その表情、いいわね。ねえ、ねえ、貴方の顔、私に頂戴?」

今度はノーネの背中に座り、頬を撫でる。
血に濡れた掌は生暖かく、生臭さと眼前でちらつく爪がノーネの気をおかしくさせていく。

「な・・・っぐ!? ああっ!! うああぁあァァァァァぁ!!」

喋ることも、弄ばれていてはままならない。
万力のような力で、首を上へと引っ張る女。
アフォしぃならば『脱骨』というモノがあるように、あっさりともぐことが可能だ。
しかし、ノーネは一般のAAと同じ、人並みに頑丈である。

必死で叫んでも、止めてくれる筈がない。
身体は気が触れそうな程の悲鳴をあげているが、精神は何故か落ち着きを取り戻していた。
どうせなら、最後にフーに会いたかった。
退屈だった毎日に刺激を与えてくれた、あの糞ガキに。




言葉にしがたい音がして、ノーネの首は身体から離れる。
それは先程のアフォしぃと同じ、苦痛の表情で満たされていた。
女はノーネが死に際に何を想っていたのかなんて、全く気にしない。
唯、その血に塗れたデスマスクを見て、笑うだけだった。

88 :魔:2007/05/27(日) 01:23:09 ID:???
※




「ほっほ。今日の収穫ちびギコ二匹っと」

達磨にしたちびギコを紐に括り、満足げに鼻を鳴らすフー。
やはりそれは死んでおり、頭に残ったまだ新しい痣が痛々しい。
一匹ずつ両端に括ると、ちょうど真ん中を持って歩き始めた。
どうせ皮は食べないし、担ぐと肩が痛くなるとのことで、引きずって持って帰るようだ。

理由は他にもある。
街を散策するとよく見掛ける、ちびギコを首輪で繋いだAA達。
フーはそれを酷く気に入っていて、今回は形だけでもと真似ていたのだ。




ずるずると死体を引きずり、楽しそうに帰路につくフー。
時折すれ違う同じスタイルのAAと自分を照らし合わせ、妄想ではあるが興奮してしまう。
自分は浮浪者だけど、お前らと同等のことだってできるんだ。
フーはそう主張するかのように、胸をはって力強く歩く。
すると、ある一匹のちびギコに目がいった。

(・・・あれ?)

初めて見たちびギコだった。
顔の左半分が茶色で、右耳はちぎれてはいたが黒だということが伺えた。
それと、黒陽石のように凜と輝く目。
フーには、それがとてつもなく恐ろしいものに見えた。

目の奥で静かに、それでいて激しく燃え盛る黒い感情。
無言で、無表情でいるそのちびギコに、寒気さえ感じる。
リードを引っ張っているモララーは気付いていないらしく、どうしてか笑みを零していた。

「・・・うえっ」

フーはそのアンバランスさに吐き気を催す。
早くこの場から離れたいと、駆け足でノーネの待つ路地裏を目指した。




「オッサン! 捕ってきたぞー!」

景気よく声を出し、ノーネを呼ぶ。
しかし、路地裏からは何か奇妙な音がするだけで、ノーネからの返事がない。
先程のちびギコから受けた恐怖を払いのけようとしたことが、裏目に出てしまった。
フーは恐る恐る、路地裏を覗く。

そこには信じがたい光景があった。
内臓をこれでもかという程ぶちまけられた、ノーネの姿。
普通は一目見ただけではわからないが、フーは足元に落ちていたノーネの生首で全てを理解する。
汚い色と赤に混じり、その中で遊ぶ影。
恐らく、そいつが犯人だろう。

「う、うわあああぁぁぁ!!!」

信じたくない出来事に、フーは叫ぶことしかできなかった。
すると、影はフーの存在に気付いたらしく、ゆっくりと近付く。

「今日はなんていい日なのかしら。今度はおもちゃが寄ってきたわ」




化け物は妖しく笑うと、その鋭い毒牙をフーに向けた。

89 :魔:2007/05/27(日) 01:23:51 ID:???




───結論から言うと、フーはこの後生き延びることができた

殺されそうになった所を、あるAAが助けたのだ

しかし、それは少し遅かったようで、フーは両目を失うことになる

化け物だってまだ生きているし、歯車も音をたてて回り始めた




天と地の差の裏話

フーの地獄は、これから始まる