天国と地獄

Last-modified: 2015-06-23 (火) 00:48:27
317 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/02/01(日) 03:44 [ YycF08Jo ]

          天国と地獄

ついにきたか。
うすうすは想像していた。昔そういうものが有ったとも聞いていたし。
しかし、まさかまた同じものがでて来るとは、正直思っていなかった。
これで私の一生は、灰色の人生になってしまうかもしれない。
なんてことだ。

「まったく、下らねぇことになった・・・」

三杯目のワイルド・ターキーを、やりきれない気持ちと一緒に喉に流し込んだ。
が、やはり酔いが私を取り巻くだけだった。

「お客さん、それ、さっきから20回ほどいってますよ」

心持ち暗い店内に比べ、明るいカウンター内でグラスを拭いていたマスターが
声をかけて来た。

「・・・声にだしてた?」

「ええ、大きな声ではありませんでしたけど」

初老に入ったころだろうか、正確な年齢はなぜか教えてくれないが、
いつも温和な笑顔を見せ、客を和ませるマスターも、最近はややイラついているように見える。
それも、しょうがない事だが。
この店、"The last bus stop"店内も溜め息であふれていた。
それに、ここ最近、客数も平常時よりもかなり多い。しばしばここに足を運ぶ私にはよくわかる。
今日に限って、ここに来る奴等の気持ちもよくわかる。
酒でも飲まねばやってられないのだ。

「気持ちはわかるだろう?見逃してくれ。まったく、世の中どうかしてる・・・」

「しょうがないって気持ちは有りますけどね。やはり釈然としない気持ちもあります。
自分たちのせいなんでしょうけど・・・」

そう、我々がこんなにも途方にくれているのは、我々が原因でもあるのだ。
我々が、虐殺をしすぎたせいで。

一週間ほど前、政府はメディアを通してこんな発表をした。
「虐殺対象の生物を、一時保護し、その後養殖させる」
無論、我々虐殺者達にとっては寝耳に水である。
全員一様にそんなばかな、と驚いただろう。私だってそうだ。
話では、我々が虐殺を行いすぎたため、被虐者の個体数が減少し、
絶滅の危機にさらされている為、安全な場所で一時確保し、数を増やそうと言う計画なのだそうだ。
虐殺を非難し散るわけではない。むしろ奨励している。
犯罪率は激減したし、国全体の無職者も減っているからだ。(これは、所構わず虐殺され、
町を汚して死んだものを片付ける人員が大幅に必要になった為だ)
養殖が成功した後は、再び国中に返していく。と、概ねこういう話だった。
所謂、「虐殺禁止条例」と言う奴だ。反吐がでる。
余談だが、この条例発表後、街頭アンケートを行った結果、
条例反対が98%、政府支持率が14%だったそうだ。
私だって反対と答え、ファッキン・ガバメントと答えただろう。

ふと気付くと、客が随分減っていた。
店内にいるのは、私を入れて、奥のテーブルで政府の愚痴を言っているグループの4人になっていしまっていた。
そうか、もうこんな時間か・・・。明日も早い事だ。私もそろそろ帰る事にするかな。
しかし、こんな気持ちのまま帰ったって、どうせ眠れないに決まっている。
わたしは、もう一杯だけ飲もうと決め、マスターにおかわりを頼んだ。

318 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/02/01(日) 03:45 [ YycF08Jo ]
何時間たっただろうか。さっきのグループは、もう姿を消していた。
(もう帰らなければ・・・)
私がそう思い、財布を捜しているその時だった。

「随分落胆なさってますね?」

声をかけてきた男がいた。

「当然でしょう?あんな事があったんじゃ、酒の力を借りねば生きていけませんよ」

男は、鞄を傍らに置いて私の横の席に腰掛け来た。
身なりはきちんとしているが、どこか隙のないような空気の男だった。

「なるほど。やはり、皆さん苦労なさってるんでしょうな。」

「そりゃそうです。私の友人なんて、賭け事に走ってしまい、
 50万の借金を抱え込んでしまった者だっているんですから」

「それはお気の毒に。そんな方にこそ、お会いしたかったものです」

私は、少しカチンと来た。友達が悲惨な目にあっているというのに、この言い様は何だ。

「随分と他人事でお話しするんですね。あなただって、明日はわが身かもしれませんよ?」

「ああ、誤解を招いたのなら謝ります。決してご友人を笑うつもりで言ったんじゃないんです。
 むしろ、お救いしたかったと言うか・・・」

「救う?」

「ええ。できれば、少しお時間いただけませんか?貴方だけでも、救う事が出来るかも」

何を言ってるんだこの男は。私を救うとはどういうことだろうか?友人の様にならないようにしてやるということか?
少し胡散臭いが、興味を引かれた。私は続きを聞いてみる事にした。

「いいですよ。なかなか、面白そうだ」

「それはよかった。・・・そうですね。まずは本題に入る前に少しだけ話しておかなければならない事があります。
 政府は一週間前、保護対象を施設に移しました。このことはご存知ですね?しかし、減少しているとは言っても、
 その数は半端のものではありませんでした。予定していた施設の限界入員数を大きく上回るものです。
 そのため、急遽施設数の増加を図りました。しかし、公に募れば、虐殺者が押しかけて来ないとも限りません。
 事は極秘裏で行われました。あー・・・北第二浄水所をご存知ですか?」

話に聞き入っていたところ、急に話を振られて少し困惑した。

「知ってます。ここから車で10分くらいの位置にある施設でしょう?
 しかし、もう随分使われていないと聞きますが」

「そうです。事実、放置されていました。だからこそ政府は、そこを新施設に選んだのです。」

この事実に私は少なからず驚いた。まさか、あんな近くに。だが・・・

「なるほど。それは驚きました。だが、だからどうと言うのです?忍び込んでさらってこいとでも?」

男は一口酒を飲んだ後、マスターが奥に引っ込んだままなのを確認して、微笑して話を続けた。

「ここからが本題です。いいですか?忍び込む必要はありません。正面から堂々と入っていただいて結構です。
 何せ、山の中ですからね。」

どんどん意味がわからなくなってくる。一体、この男は何者なのか。

「よろしいですか?何故こんな事をいうのか?それは、私がそこの施設の管理者だからですよ。
 すでに飼育は始まっています。我が施設の入員数は約500匹。一年後には、2000匹にする予定です。
 我々飼育者、管理者の中に虐殺者はいません。当然の配慮です。給料も桁が違います。
 黙秘料の意味があるんでしょう。これも当然ですね。しかし、世間は随分悲惨な目にあっている方もいます。
 私はそのような人をお救いしたいのですよ。・・・私が言いたい事が判りますか?」

すでに酔いは醒めていた。カッコいい事を言ってはいるが、要は金儲けできるアルバイトを考え付いただけだろう。
が、願っても無い話だ。私は激しく頷く。

「その秘密の代償として金を頂くのだな?貴方はその性分を満足させる事が出来るし、
 懐も暖まる。そして私は・・・」

「存分にお楽しみいただけるという算段ですよ。まさかとは思いますが、断ると言う考えはありませんか?」

「まさか。このご時世、そんな夢のような話を蹴る馬鹿はいないよ。喜んで乗らせてもらおう」

「それはよかった。では、明日の夜10時にこの店に。」

「わかった。明日が楽しみだよ。一つ、乾杯でもしたい気分だ」

「いいですね。それじゃあ、輝かしい未来に・・・」

「乾杯。」

二人は、グラスを掲げて、チン、と鳴らした。

                         続

354 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/02/16(月) 06:46 [ f0XjDJqY ]

天国と地獄       その2

私は時計を見た。
針は午後9時50分を指している。約束の時間まで、あと10分。
すでに店内には多くの客であふれていた。
むせ返るような、酒と、タバコの匂い。
週末のこの時間ならば、私も他の客と同様に、とっくに深酒を煽っていただろう。
しかし、今日は酔うわけにはいかなかった。
何せ、昨日の男が本当のことを言っていたのならば、私はこの後が本番なのだ。
おかげで昨日、今日は何をしても手につかなかった。
年甲斐も無く、明日が楽しみで眠れないという体験も、久しぶりにさせてもらった。
『カランカラーン』
店のドアに取り付けてあるカウベルが、店内に客の来訪を大きく告げた。
私は、反射的に時計を見る。ちょうど10時。胸が大きく高鳴った。

「お待たせ致しました。」

私の肩を叩いたのは、私が待ちわびていた昨日の男だった。



「本当だったんだな。実を言うと、少し疑っていたんだ」

「まぁ、それはそうでしょうね。無理もありません。虐殺者を狙った詐欺も横行してるそうですから。
 聞いた話では、闇ではチビギコが一匹20万くらいの相場で売買されているそうですよ」

男は、運転しながら苦笑している。
車はもう山道に入っていた。夜の山は不気味な雰囲気を放っている。

「他の飼育員達は、私の事を知っているのか?不審に思われないだろうか?」

「その点は大丈夫です。政府から派遣された研究員だと話していますから。
 あなたには、研究室を一室借り切っていますので、その中に入っていただきます。
 飼育員達は何かの研究だと思うはずです。もっとも、この時間まで残っているのは稀ですけどね。
 そうそう、ダッシュボードの中に研究員用のパスが入っていますから、首から提げていてください」

なるほど。すでに手回しされていたか。まぁそれも当然かな。
私が危なくなれば、コイツも危なくなるのだから。
私は、ダッシュボードの中にポツンとあったパスの紐に首を通そうとした。
が、手が震えてうまくいかない。二回ほどひざの上に落としてしまった。

「・・・大丈夫ですか?気分が悪いのなら、引き返しますが・・・」

その様子を見ていた男が、心配してか、声を掛けてきた。

「大丈夫だ。心配してくれなくてもいい。何、久しぶりの運動なのでね。少し興奮しているだけだ。
 君にはわからんだろうな。この気持ちが。当たり前と思っていたのが無くなるとこの様だ。
 もう、私も正常ではなくなっているのさ」

その後、車内は終始無言のままだった。窓に私の顔が映っている。
もし、町を歩いていてこんな顔をした奴が歩いていたら、誰しも異常者と思うだろう。そんな事を考えていた。

355 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/02/16(月) 06:50 [ f0XjDJqY ]
「着きましたよ。旧北第二浄水所です。」

ふいに木々の間からその姿が現れた。
暗闇の中に、不気味にその建物はそびえている。
車は裏手へと入ってエンジンを止めた。

「ここか・・・」

「パスはつけていますね?OKです、行きましょう」

私達は車から降りて、そのまま正面玄関へと歩いていった。
守衛にパスを見せて、中へと入る。怪しまれやしないかと、ヒヤヒヤした。
中は、想像していた物よりかなり綺麗だった。自動販売機まである。
壁は一面、真っ白だった。
ふと、人の姿は見えないが、『あいつら』の匂いをかいだ。声もかすかに聞こえる。
思わず、背筋が震えた。手のひらに汗がにじむ。もう、待てない。

「研究室はどこにあるんだ?一晩に何人までなら殺していい?」

あからさまに興奮している私を、男は笑ってなだめた。

「落ち着いてください。研究室は地下2階にあります。保護対象も、まとめてそこに。
 一日5匹までなら大丈夫です」

「早く案内してくれ。一刻も早く始めたい。」

「判りました。それでは、エレベーターで参りましょう」

男が先に立って、私を案内する。途中モニター室の前を通った時、
奴等の姿が私の目に飛び込んできた。久しぶりに見たあの姿。憎憎しい幸せそうなあの顔。
私は、全身が震える思いがした。
虐殺なんて、遠い昔の話と思っていやがる。
今からタップリ可愛がってやるからな。
少し大型のエレベーターに二人で乗り込む。
ゆっくりとしたドアの動きまでもが、もどかしかった。

「もう既にチビは研究室に入れてありますから、すぐに始められますよ。
 終わったら私の携帯に連絡をください。帰りもお送りします。」

エレベーターの中で男が口を開いた。私は、獲物の準備をしながら男を見ずに返事をした。

「わかった、ありがとう。だが、遅くなるかもしれないよ。
 久しぶりだし、タップリ遊びたいから。」

「結構です。いつでも構いませんから。さぁ、おりましょうか」

私達は、エレベータを降りて通路を左に折れた。
照明は少し薄暗かったが、清潔な感じはした。それ程部屋数も多くない。
廊下を観察しながら男の後に付いて行くと、突き当たりに大きなドアがある。
『研究室』
口の中はカラカラだった。

「では、私はこれで。後は存分にお楽しみ下さい。」

「ああ、ありがとう。」

礼もほどほどに、私はドアを勢いよく開けた。
部屋の中は何も置いてないに等しかった。真っ白な壁と、蛍光灯の光。
その下にある、革張りの大きなベッド。それだけだった。
その上に、私が待ちわびた奴らがいた。チビが三匹と、しぃの成体が二匹。素晴らしい取り合わせだ。
五匹仲良く身を寄せ合って眠っている。
会いたかった。それが私の第一の言葉だった。
その時、私の気配に気付いてか、しぃ二匹のうち一匹が、かすかに目を開けた。
私は奴らに視線を合わせたまま、後ろ手に鍵をかける。

356 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/02/16(月) 06:51 [ f0XjDJqY ]
「アニャ・・・アンタ、ダレ・・・?」

この声も久しぶりに聞いた。心臓が早鐘を打っている。
このままでは、悲鳴など聞いた日には私は死んでしまいそうだ。

「誰でもいいさ。君らには関係の無い事だ。」

私は極力優しい顔と声を出して、彼らに近づく。凶器を後ろに隠したまま。

「ゴハンナラ、モウイラナイヨ。アンタ、ナニシニキタノ?」

「いい質問だ。そうだな、その答えには言葉よりも、こっちのほうがよさそうだ」

不思議そうな顔をしていたのが印象的だった。
私は、その顔めがけて右手に構えていた釘バットを、思い切り横にスイングさせた。
ドガッッ!!

「ジィィィィィィィィ?!!」

しぃはこめかみ付近から血を流しながら、仲間をべッドから落としつつ吹き飛んでいった。
ああ…最高だ…最高だよ……。この感触、この血、この悲鳴、この表情。
どれをとっても素晴らしい…。私の体中を恍惚感か駆け巡る。やはり、虐殺はやめられない。

「アニャ・・・?」
「ナンデシュカ?」
「ナンデクルシンデルノ、アノヒト」
「ホットキナサイヨ。モウ、セッカク イイキモチデ ネムッテタノニ・・・」

目を覚ました糞虫どもは、各々勝手な事をほざいている。
少しイラついたが、まだ彼らの順番ではない。憎悪の矛先が向いている、まずはあいつからだ。

「イ、イタイヨオー!! カワイイ シィチャンノ オカオガ ダイナシダヨー! ミ、ミンナ キヲツケテ! コイツハ・・・ンンーー!!」

このままコイツに喋られると面倒なので、静かに口をふさいでやった。
どの道、奴らがそれを知った所で、何も変わらないのだが。
そしてなにより、私は獲物は静かなほうが好きなのだ。

「シー、シー・・・静かにして・・・私の話をよく聞くんだ・・・いいかい?
 私は、君達の対衝撃度を検査する為に呼ばれた検査員なんだ。これから検査を始めるけど、協力してくれるよね?
 いい子にしてれば、たくさんダッコしてあげるから。
 大丈夫、最後に必ず魔法で最初の姿に戻してあげるからね。
 私だって辛いんだ。だから、早く終わらそう。君が静かにしてればすぐ終わるからね。わかった?」

私は先ほどの凶行など、無かったような態度をよそおった。
ホントは、こんな事私もしたくないんだよ。でも、仕事だから仕方ないんだよ。そんな態度を。

「ホ、ホントニ スグオワルニノ? オワッタラ タクサン ダッコシテクレルノ?モトニ モドシテ クレルノ?」

かかった。ちょろいもんだな。まだまだ腕は衰えていないようだ。私は静かに微笑む。

「ああ、約束する。じゃあ、始めるよ」

そういって、私は新たな凶器を取り出した。

357 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/02/16(月) 06:52 [ f0XjDJqY ]
「ナニ、ソレ・・・」

コイツがおびえるのも無理は無い。この武器は、私が現役の頃、共に血の雨を降らせた相棒だ。
その際立つ禍々しき姿と、恐ろしい程の凶悪性ゆえ、あっという間に被虐者たちの畏怖の対象になってしまった。
全長1Mのその姿は、一見すれば巨大なフォークに見えるだろう。そして、使い方を知れば悪魔の矛に見えるだろう。
久しぶりに、血を吸わせてやるからな。私は愛おしげに刃先を撫でた。

「これはね、私にとっては天国を、君にとっては、地獄を思わせる場所へ連れて行ってくれるものさ」

そう言って、糞虫が私の言葉を理解し終わる前に、刃を右腕ごと地面に突き刺してやった。

ズドンッッ!!

三本あるフォークの先端の、真ん中の刃が腕の骨を断ち切った。

「ハ、ハギャアアァァァァ!!!イタイ、イタイヨォォォォォ!!」

ああ、なんてすばらしい絶叫なのだろうか。この世のすべての病を払ってくれそうな清い声だ。
もっと聞きたくなったので、ちょっとだけ抉ってやった。

「えいっ」

グリッ

「シギャ!!ギャアアアアァァァァ!!」

感無量である。まさに天使の歌声だ。心が洗われるようだ。
なんて悦に入っていたら、無意識にさらに抉っていたようで、腕は取れそうにふらふらしていた。
糞虫自身は、この苦痛から逃れようとしているのか、「アアアア~~」と口走りながら意味無く体をのたまわせている。
顔はグシャグシャな表情を作っていた。何がしたいのか、意味不明だ。
今度はなんとなくムカついたので、いっそ一思いに腕を切断してやった。

ズギャ!

一瞬呆然とした後、絶望した顔をして、走り回りながら切断面を抑えて泣いていた。

「アアアアアア!!ウオオォォ!!イタイィィィィ!!!モウヤメル──!!」

相変わらず知障じゃ無いかと言う位奇妙な行動をとる。稀にこんな奴がいるんだ。
そろそろコイツも飽きたし、次に移るか。右腕一本如きで騒いでるようじゃ、この先あまり楽しめそうも無い。

358 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/02/16(月) 06:54 [ f0XjDJqY ]
おーい、ゴメンゴメン。ちょっとやりすぎちゃったよ。元に戻してあげるから、戻っておいで」

糞虫は「あ、そっか。魔法で戻るんだっけ」と言う顔をして、やけにあっさり泣き止んで戻ってきた。
しかし、その表情は必死である。

「オナガイ、ハヤクモドシテ!イタクテ イタクテ シニソウナノ!」

「じゃあ死ねよ」

まっすぐに糞虫は私の目を見返してきた。今更ながら、糞虫の目は緑色だと言う事に気がついた。

「・・・・・・エ?」

「あのね、魔法なんてあるわけ無いでだろう。何普通に信じてんの?君の腕は元には戻らないし、
 その可愛いお顔も醜く歪んだまま治らない。この先永遠に、ね。わかったかい?」

全ての希望が絶望に変わった時だ。このときの糞虫の顔といったら、筆舌に尽くしがたい。
まるで、全ての悪夢をいっぺんに見たという顔をする。
そして一瞬笑った後、空っぽの顔になるのだ。私にとってまさに至福の時だ。

「わかってもらえたみたいで、嬉しいよ。じゃ、私は忙しいから。なにせ後四匹も後がつかえているんだ。それじゃね」

わたしは糞虫の首を片手でつかむと、残った手で握っている凶器を力の限り胸に突き立ててやった。
だが、凶器は背骨でいちどつっかえてしまう。フォークの刃の間に背骨が入り込むのだ。
カチン、と言う鈍い音を立てて攻撃は止まった。この時、糞虫は例外なく全員私の顔を見つめてくる。
そして私は、例外なく全てのその顔に笑顔を返してやるのだ。そして凶器は再び進撃を開始する。
さっきよりも強い力で押し込むと、刃は骨を寸断し、肉を破り、その顔を出した。
しぃは、口から一筋血を流した後、かくんと首をもたげて息絶えた。目をかっと見開いたまま。

「ふぅー・・・」

私は刃を引き抜き、ちらりと残りの奴らを見る。
全員ドアのところで固まっていた。ドアには引っかき傷が無数についている。
私はふっと笑って教えてやった。

「無駄無駄。そこのドアは、内側からもこの鍵を使って鍵をかける仕組みなんだ。
 ツマミが無いだろう?まぁつまり、この鍵さえあれば出れるわけなんだけど・・・」

わざと見せびらかすように鍵をチャリチャリを回す。
糞虫どもは、いかにも物欲しそうにその鍵を見つめていた。

「君達は、私から鍵を奪う事は出来ない。非力だし、無能だから。もう、ココから生きて出られないのさ」

血にぬれた凶器を携え、私は怯える彼らに一歩近づいた。

                                     続
410 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/01(月) 23:26 [ YFbykUuQ ]
天国と地獄	その3



「そんなに怖がらなくていいよ。ちょっとした提案があるんだ。聞いてくれるかな?けして損は無いはずだから」

私は凶器の血を払いながら、しぃたちのほうを見ずに話しかけた。
床に、血のペインティングアートが描かれていく。

「テイ、アン・・・?」

成体しぃが恐る恐る私の問いに答えてくる。
彼女は今、怯えながらも必死に生き残る方法を考えている事だろう。
自分の為に。後ろのベビの為に。私の掌の上で。

「その通り。提案と言うのは、他でもない。私と少しゲームをしてみないか?賭けるは、お互いの命。
 もしも、君達が私に勝つ事が出来たなら、その時には君達をココから解放してあげようじゃないか。
 ゲームの試合は全部で4回。君達の人数分だ。仮に君達が全勝すれば、全員生還も夢じゃないぞ。どうする?」

しぃは驚いた顔をしていた。たしかに、彼女らにすれば願っても無い話だろう。
このままいれば殺されるに決まっている。反撃しても無駄に決まっている。
どっちに転んでも待つのは死。まさに棚から牡丹餅な訳だ。
実際、このシチュエーションに持ち込んだとき、この手の話をすれば、
全てのしぃは勝負を受けてきた。生き残れるという一縷の希望の光に、その命を賭けてきたのだ。
その光が、まやかしだとは気付かずに。

仲間の虐殺者達は、私のことを変わり者だと随分からかった。
被虐者たちに勝負を突きつけ、助かるチャンスを与え、その際に自分も死ぬリスクを背負うなんて、理解できないと。
それは当然そうだろう。彼らは正常なのだ。だが、私はもう常軌を逸している。
死に関わり過ぎたせいで、自らの命さえも、虐殺の対象として見始めているのだ。
命の危険の伴う駆け引きをしたがる程に。
しかし、この駆け引きの相手は当然見つからない。死にたがる酔狂ものなんて、滅多にいないからだ。
だからこそ、私は被虐者にこの話を持ちかける。彼らこそが、私の欲求を満たしてくれる、唯一の相手なのだから。

しぃは考え込む顔をした後、ちらりと怯えるチビたち方を見て、決意を固めたように言った。

「ウケルワ、ソノゲーム・・・」

411 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/01(月) 23:27 [ YFbykUuQ ]
私はにやりと笑い、腰のベルトに凶器を引っ掛けて話し始めた。
相手がしぃと言えど、これは真剣勝負。しっかり説明しておかねばならない。私の哲学だ。

「OK。それじゃあ、ルールを説明しようか。勝負形式は、ロシアンルーレット。しっているだろう?
 弾倉に一発だけ弾を残して、交互に引き金を引く奴さ。
 まず初めの勝負は、私とチビのうち誰か一匹だ。次に、残ったチビのどちらか。
 その次は、最後まで残ったチビ。最後の勝負は、私と君だ。いいかい?」
 
流暢に口が動いていく。やはり、いまだに虐殺の時に得た経験は風化していないようだ。
しぃは自分が最後だと知って余裕が出来たのか、妙に自信の有る声で

「ソレデイイワ」

と答えた。最も、拒否などするわけないのだが。
それを聞いた後、私はさらに続けた。

「ただし、特別ルールがある。私は自分で引き金を引くが、チビの引き金は、君が引け。
 ガキ故に、何をしでかすかわからんからな。君も、余計な事は考えるんじゃないぞ。
 ああ、そしてその場合、注意がある。撃つ場所はけして頭じゃない。
 安心したまえ。私は頭に向けて撃つ。ただし君達は、太ももに向けて撃つんだ。
 私が負けた時は即死だが、君達はそうじゃない。これも安心したろ?」

しぃは不思議に思っただろう。何故、虐殺者の癖に殺すなと言うのか。
冗談じゃない。お前らはあっさり死ねてそれでいいのかもしれないが、私の楽しみは失せるじゃないか。
しぃはそんなことに気付きもせず、これも快諾した。これで、仕込みはOK。

「それじゃあ、一匹ベビを選んで、こっちにきたまえ。ゲームを始めよう」

私はベットのあるほうへ移動する。さっきの死体が、私を焦点の定まっていない目で見つめていた。
もう動かない君には興味は無いよ。死人に口なしだ。黙ってそこで傍観していろ。
しぃは言われたとおり、ベビの内から一匹を選び始めている。
どんどん素がでてきているな。自分勝手なあのアフォしぃのままだ。

「ジャア、ドッチニ シヨウカナ」

・・・『どっち』?
私は一瞬、聞き間違い、あるいはしぃの言い間違いかと思った。
だがそうではない。明らかに、一匹だけ平和な顔をして座っているベビがいる。
残り二匹は、選ばれまいと必死で片方を推薦しているのに。
あのしぃのガキか。恐らくそうだろう。これは後が楽しみというものだ。
なんて考えながら眺めていると、しぃは『コッチノホウガ カワイイカラ』という意味不明な理由で一匹をつまみあげた。
どうもこいつらの思考回路は理解できないな。
しぃは泣き叫ぶチビを、半ば引きずるようにしてつれてくる。実に滑稽な光景だ。

412 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/01(月) 23:28 [ YFbykUuQ ]
ようやく主役が舞台に出揃った。
私と、しぃと、生贄のベビ。
私としぃはベットを挟んで立ち、チビはベットに寝かせている。
微妙に逃れようとしているらしいが、しぃの右腕がそれを許していなかった。

「一つ聞きたい事が有る」

「ナニ?」

「あのうち一匹は、君の子供か?」

「ソウヨ。 ワタシノ チビチャン。 ナマエハ ルーシィ ッテイウノ。 イイナマエデショ?」

「もう一つ。この子達と君は、知り合いなのか?」

「マァネ。 サッキ アンタガ コロシタ シィノ コドモヨ。 アノシィトハ トモダチダッタノ。 マ、モウ カンケイ ナイケドネ。」

なるほどなるほど。そういうことか。
この後のドラマの展開が非常に楽しみだ。
私は、もう一人の主役の愛用の拳銃をゆっくり取り出す。

「よくわかった。それじゃあ、そろそろ本番と行くか。
 不正が無いように、よく見ておきたまえ」

弾倉にあいている、六つの穴の一つに弾を込める。この弾が選ぶのは、私か、チビか。
そして、カラカラカラと10周ほどさせた後、再び弾倉を銃に収めた。

「では、始めよう。まずは、君達からどうぞ」

「イイワ」

しぃは恐れる様子も無く、軽く銃を受け取った。

「ヤダヤダ! オナガイ ウタナイデ! ダッコスルカラ! ナンデモ スルカラ!」

と、チビの太ももに銃を突き付けた途端、チビが又も喚きだす。
この期に及んで、まだ見苦しく足掻くつもりか。無駄だというのに。
まったくイライラさせられる。

413 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/01(月) 23:30 [ YFbykUuQ ]
「言っておくが、これ以上遅らせるようなら、連帯責任で君も・・・」

ガチィィン!

「フン、イワレル マデモ ナイワヨ」

なんと、驚いた事に、しぃは既に引き金を引いていた。
うーむ、流石は自己中の代名詞。考え方が根本的に違う。
ハァッ、ハァッ、とチビは緊張で止めていた息を荒く吐き出した。
おやおや、もう涙ぐんでるじゃないか。後でいくらでも流せるのに、気が早い奴だ。

「いいだろう。テンポよくいこうか」

私は、にやりと笑うしぃの手から、ズシリと重い拳銃を受けとった。
心地よい緊張感が私を包む。手に汗がかすかににじんできた。

「君達には残念だが・・・」

私は銃口をゆっくりこめかみに近づけ、撃鉄をおこす。

「私はこの銃に嫌われているらしくてね・・・」

ガチィン!

乾いた金属音が、静かに響く。

「ほらね?」

私はにやりと笑い返して、しぃに銃を差し出した。

「ヤルジャナイノ」

しぃは私から奪い取るように銃を手にする。
しかし、どちらかと言えばチビのほうがはるかに残念がっているようだ。
というより、なんとなくショックを受けたような表情というか。ま、当然かな。

「さ、遠慮なくどうぞ」

「ウルサイ! ダマッテ ミテイナサイヨ!」

「ハニャー!モウヤメテヨー!!」

「アンタモ ウルサイ!」

ガチィン!

しぃは、激昂しつつも、再びためらい無く引き金を引いて見せた。
途端に、笑顔が再びしぃの顔に戻る。ころころと忙しい奴だ。

「ドウ? ツギハ アンタノ バンヨ。 ソロソロ アクウンモ ツキルカモネ」

「ふん、なかなか白熱してきたな」

414 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/01(月) 23:31 [ YFbykUuQ ]
私は再びしぃから拳銃を受け取った。
徐々に、弾丸が発射される順番が近づいてきている。確率は三分の一。
しかし私は生き残るだろう。

「撃つ前に言わせてくれないか。私が生き残ってきたのには、ちゃんと理由があるんだ。
 それは、生まれながらに薄幸なしぃ如きの運が、私の運に勝るはず無いからさ」

ガチィン!

それを証明するように、銃は沈黙を守っていた。

「・・・言ったとおりだろう?この勝負は、始める前から既に決着はついている。
 次に弾が放たれる確率は二分の一だ。どうする?」

ポン、と銃をベットの上に放りながら言った。しぃは心底悔しそうに、

「フン、ソンナコト、 カンケイ ナイワヨ! ヤメサセヨウ ッタッテ、 ソウハ イカナイワ! コレデ ワタシタチガ カテバ、アンタハ シヌンダカラネ!」

と言いながら銃をつかみ、興奮した様子でいささか乱暴にチビに突きつける。
チビはといえば、もはや覚悟を決めたようで、目を硬く瞑って息を潜めていた。

「・・・ドウセ、 イタイノハ ワタシジャ ナインダシネ」

私が思わずしぃの方を向いくと、しぃは私に不気味に笑いかけてから、引き金を引いた。


ダ ン ッ ! !


その瞬間、拳銃が火を噴いた。ハズレを引いたようだ。
放たれた弾丸は、チビの太ももをメシャクシャにしながら通過して、ベットを貫通し、床に着弾した。

「イギャアアアアアァァァァ───!!!」

部屋中にベビの悲鳴がこだまする。銃口からは煙が立ち上がり、あたり一面に硝煙の匂いを立ち込めさせていた。
同時に、血と、火傷の匂いが鼻を突く。
この二つが織り成す懐かしい匂いは、どんな素晴らしい花の匂いにも勝るだろう。

「ア、アヒ!!アヒガ!!ウァアアァァアアアァ!!」

チビは血が吹出す右足を、必死に押さえながら涙を流してジタバタ喚きだす。
そんなもん、見れば分かるよ。せっかく浸っていたのに、うるさい奴だ。
制止しようと手を伸ばしかけたその時、私より先に伸びた手が、チビをベットから叩き落していた。

415 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/01(月) 23:32 [ YFbykUuQ ]
バシィン!

「モウ!アンタガ ウダウダイウカラ ツキガ ニゲチャッタジャ ナイノ! バカナガキネ! セッカク アトチョットデ カテルトコ ダッタノニ!」

正直に言おう。私はこの時、一瞬呆気にとられた。
この勝負は、イカサマでも使わない限り、世界一公平な勝負だと私は思っている。
心理戦やちょっとした間違いで負けることも無い、純粋に運だけの勝負なのだ。
負けたとしても、それは誰のせいでもない。運が悪かった、と言うだけなのだ。
それを、責任をチビに擦り付け、自分は悪くないのに、ときた。
さらにこのしぃには余罪が有る。
さっきの一撃で、チビは頭から落ちてしまい、首を折って死んでしまっている。
これは私にとって、何にも勝る大罪だ。許しがたい。判決、死刑。

「ショウガナイワネ。ツギノベビヲ モッテコナイト。ワタシト ベビチャンマデ マワラナイヨウニ シテホシイノニ。マッタク、アシヲ ヒッパッテ クレルワ」

そう言って、しぃはチビたちのいるドアのほうへ振り向いた。
どこまでも愚かな奴だ。すっかり街にいた頃のハングリーさが消えている。
よりにもよって、殺気を放つ虐殺者に背を向けるとは。愚の骨頂だ。
もはや反射神経といっていいだろう。
いつのまにか私の右手は凶器へと伸び、しぃの左足首を床に串刺しにしていた。

ザグォッ!!

凶器が肉を貫通する音と、床をえぐる音が混じり、奇怪なシンフォニーを奏でる。
これはこれでいいのだが、未だ未完成だ。
この後の最高のスパイスによって、その音楽は至福のメロディーへと昇華するのだ。

「ヒガアアアアァァァァァ!!!」

しぃは倒れながら、今まで聞いたことも無いような声を出してくれた。
これだよ・・・。この高音が、私の求める音楽を完成させるのに、絶対に必要なのだ。
このしぃは中々いい声で歌ってくれるな。それなら、ただ殺すだけでは勿体無い。
極上の声を出してもらうとするか。
私は、凶器を引き抜こうと必死のしぃの背中に、馬乗りした。

ドン!

「グヘッ! チョ、チョット、シィハ サイゴ ナンデショ? ソウイウ ルール ダッタジャナイ! ナンデコンナ・・・」

私はしぃの耳を千切れるほど引っ張り、小さな声で囁いてやる。

(何でこんな事をするのかって?理由なんて無いさ。君は勘違いしているね。
 この部屋において、ルールと呼ばれるものは私が作るのさ。それはさっき更新された。
 順番が少し入れ替わったよ。次の勇敢なるチャレンジャーは、君の可愛いチビちゃんだ・・・)

416 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/01(月) 23:34 [ YFbykUuQ ]
しぃの顔が恐怖に引きつっていく。哀願する顔とも言っていいだろう。
今更無駄な事だ。君には、より良い声で歌ってもらわなければならないんだから。

「オ、オナガイ!ワタシニハ ナニヲシテモ イイカラ、チビチャンダケハ・・・」

しぃは何かをほざこうとしている。これ以上聞いても胸糞悪いだけだ。
そう判断した私は、左足に刺さっている凶器を軽く抉ってやった。
このときのコツとしては、気持ち円を描くようにしてやればいい。そうすれば効果はより上がる。

グリリリリッ グリッ

「タスケテアゲ アガアアアァアアアァァァ!!」

しぃは半ばのけぞるように悲鳴を上げる。先ほどよりも数段いい声だ。
この声が、どこまでも私を楽しませてくれる。

「私の話を聞いていなかったのか?ルールブックは、私だ。
 君には逆らう権利など無い。黙って成り行きを見ておきたまえ」

そういって、私は立ち上がってチビのいる方へと歩いていく。
しぃのほうは放っておいても問題ないだろう。あの凶器は、奴の力では抜けはしまい。
チビ二匹は、部屋の隅で身を寄り添い、震えていた。
私を見るそのあどけない目は、畏怖の色しか浮かんでいない。
しかし、どっちがあのしぃの子供なのか、私にはさっぱり見当がつかない。
二匹とも同じに見えてしまう。しぃには見分けがつくらしいが。
しょうがない。直接本人に聞いてみるとするか。
私は腰を落とし、なるべくやさしい声で聞いてみた。

「どっちがあのママのチビちゃんだい?その子はここから出してあげるよ。どっち?」

その言葉でチビは元気を取り戻し、二匹仲良く

「ハイ!」

と答えた。
まいったな。まぁこうなるとは思ったが。あのしぃに聞いても本当のことは言わないだろうし。
さて、どうしたものか。
と、そういえばしぃが、名前を言っていたのを思い出した。たしか、ルーしぃとか何とかいってたような。

「お名前、教えてくれるかな?君の名前は?」

「シィニハ ナマエナンテ ナイヨ! カワイイ シィチャンデ イインダモン」

「なるほど。それじゃあ、君にはあるかな?」

「シィニハ アルヨ! ルーシィダヨ! トッテモ コウキナ ナマエ ナンダヨ!」

こいつだ。
私は、自ら祭壇へと行きたがる、この奇特なガキを摘まみあげだ。
もう一匹のガキが、そいつは違う、自分こそが本物なんだと主張していたが、平手を食らわせて黙らせる。
ガキの方は、「ハニャー! コレデマタ マターリダネ!」だとかほざいていた。やれやれだ。
そのままさっきのしぃの方へ持っていくと、
チビを見る目がどんどん絶望に変わっていくのが判った。
やはりコイツで間違いなさそうだ。

417 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/01(月) 23:36 [ YFbykUuQ ]
「さあ、拍手でもしてもらおうか。彼女は、自ら進んで名乗り出たんだぞ?
 その勇気を称えたまえ」

しぃは私の言葉に舌打ちをして、歯を食いしばったまま、

「コノ、オニメ・・・ジゴクニ オチロ・・・!」

とだけ言った。
しぃ如きが私に暴言を吐くとは、分相応もいいとこだ。
ゲームを始める前に、身分の違いというものを教えておかねばならない。
私は、チビをそのまま床に落とすと、足で踏みつけた。もちろん、しぃには手の届かぬ距離で。

ドサッ	ゴキッ!

「アゲェ!」

「ハニャアァァ!チビチャン!!チビチャンガ!!」

しぃは、わが身を省みずに必死にチビの元へ行こうとする。
左足からは、痛々しく血が流れていた。
私は構わず、チビを踏みにじり、力の限り蹴飛ばしてやった。

メキャ!

「ジィィィィ?!」

サッカーボールのように軽い奴らだ。
母しぃが何か叫んでいたが、反応せずにチビを執拗なまでに蹴りつける。

ゴッ! ドガッ! ゴキッ! ドガッ! メキッ!

チビの悲鳴は聞こえない。恐怖で体を縮め、震えているだけだった。
こんなもんで良いだろう。愕然としている母しぃに、注意を与えた。

「口には気をつけろよ。君は逆らう事なんかできないんだ。
 黙ってみているんだ。可愛いチビの死期を、早めたくなければな」

しぃは観念したように身を引いた。それでいい。それこそがしぃのあるべき姿だ。

「それじゃあ、始めるか。チビの死に様、よく見ておけよ」

私は、さっきと同じように拳銃に一発だけ弾をこめ、チビに向けて引き金を引こうとした。

418 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/01(月) 23:37 [ YFbykUuQ ]
しかし、チビはこのゲームのルールを理解していない。
うかつだった。コイツは一切の説明を聞いていないのだ。

「ハギャ?! イヤアアァァコロサナイデ──!!」

すっかり殺されるものだと勘違いして、喚き散らしている。
せっかくの崇高なゲームが、こいつのせいで台無しだ。
やれやれ。しょうがない。今更一から説明するのも骨が折れる事だ。
もうこいつはいい。さっさと母親に掛かるとしよう。

「さらにルール変更だ。こいつは3発、私は3発、連続で撃つ。
 早く終わるし、いいだろう?まずは、チビから行こうか」

「ソ、ンナ・・・ナゼイキナリ・・・!」

「聞こえないね」

私は躊躇せず、チビに照準を合わせ、三回引き金を引いた。

ガチィン!!

「イヤァァァ!! シニタクナイ!! ナッコ!! ナッコスルカラァ!!」

ガチィン!!

「オナガイ タシュケテェ!! ママ!! ママァァァァァァ!!」



ダァン!!!!



「マブェ?!!」

「イヤァァァァァ?! チビチャ───ン!!」

チビは、頭から血と脳漿を流し、それきり動かなかった。
弾が貫いた反動か、頭が床に思いきり激突し、妙な形になっていた。
首の方向もおかしくなっている。醜い死に様だ。
そんな奴でも可愛いのか、しぃは勝手に必死になっている。
近寄れやしないのに、無理に行こうとするから、左足はもう取れかけだ。
それでも、涙を流し、爪がはがれるまで床を掻き、声の限りに我が子に呼びかける。

「イヤ! ウソデショ?! チビチャン!! オナガイ ヘンジシテ?! ママニ オヘンジ シテヨ!! チビチャン!!!!」

しぃの発した絶叫が、静かな部屋に悲しくこだまする。
・・・いい・・・なんていいんだ・・・。
こんな声、今まで聞いた事も無い声・・・これ以外に、私を絶頂へ誘ってくれる物などこの世にあろうか?
否。そんな物は無い。
私にとって、この声こそが唯一無二、絶対の安らぎの場なのだ。

419 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/01(月) 23:38 [ YFbykUuQ ]
これ以上の声が聞きたい・・・。次第に欲求は高まっていく。
しかし、理性がそれを堰き止めた。これ以上の声。それを欲するならば、それはこのしぃを殺すほかに無い。
そう。そのしぃの積み重ねてきた人生が、まさに終わらんとする、その時に発する声。
断末魔だ。
しかし、このしぃを殺すのは勿体無い。
この先、こんな声の持ち主に再び会えるとは限らんからだ。
どうしたものか。私は、昔からこの手の欲望に弱いのだ。
思案していると、かすかにしぃの声が聞こえた。
チラッと見てみると、すすり泣きしつつも、何か話している。
しかし、私にはさっぱり聞こえない。声が小さすぎるのだ。

「・・・・・・」

「なんだって?」

「・・・コ・・・・・・テ・・・」

「聞こえないよ。もっとはっきり話せ」

「・・・・・・コロ・・・シ・・テ・・・」

その声言葉の意味を脳が理解した瞬間、私の理性は消し飛んだ。薄ら笑いを浮かべ、拳銃を捨てて凶器を握る。

「OKOK!そんなにお願いするなら、いますぐリクエストにお答えしようじゃないか!
 すぐにチビのとこに連れてってあげるよ。何かお好みはあるかい?
 どんな死に方がいいんだ?
 肢体をもがれて失血死か?!
 凶器に貫かれての惨死か?!
 チビを喰らって窒息死か?!
 さぁどれがいい?!選びたまえ!なんなら私のお勧めコースで逝くか?!」

凶器をしぃの左足から引き抜いた。痛みで小さく悲鳴を上げたが、
チビの元へと這いずって行っただけで、私の言葉には反応していない。
その態度に又もむかっ腹が立ったが、しぃが何かをチビに語りかけている。
耳を傾けてみると、良くわかった。
コイツ、既に狂っている。

「チビチャン、アシタニ ナレバ ナオルヨネ? アシタハ ユウエンチニ イコウヨ。 ズット イキタイッテ イッテタ モンネ?
ツレテイッテ アゲル。 ダカラ、 オメメ アケテ? ナニカ シャベッテ? チビチャン・・・? チビチャン・・・?」

すばらしい母の愛だ。胸が震える。私とて、このままボーっとしていてはいけない。
私にできる事をしなければ。そう、一刻も早く親子の再開を果たしてやるのだ。
凶器の狙いをゆっくりつける。目指すは、しぃの後頭部。

420 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/01(月) 23:40 [ YFbykUuQ ]
「期待してるよ・・・」

一気に、そのまま突き刺した。私の望むものを、手にするために。
凶器は、頭蓋を破り、脳を引き裂き、眼窩を粉砕し、顔皮を突き抜け、しぃに致命的な一撃を与えた。
一瞬の間。


「オギャアアアアァァァァァァァァアアアァァアァアアァア!!!」


瞬間、私の鼓膜に至福の音が響く。まさに女神の歌声・・・。歓喜の鐘・・・。天地の轟き・・・。
これだ・・・・・・。
私が長年探していたのは、この声だったんだ・・・。

「アアアアアアァァァァ・・・アァァ・・・ァ・・・」

しぃは顔面から血を流しながら、チビの上に横たわるように倒れた。
最後の断末魔を残して。
私は、このしぃのことを一生忘れないだろう。
人生最高の時を与えてくれたのだ。永延に心に刻んでいこう・・・。
かすかな敬意を共に、しぃの冥福を祈った。
私に殺される為に生きてきた、そのしぃの冥福を。

さて。
残るは後一匹か。
残ったチビは、何とかドアを開けようと試行錯誤している。
馬鹿な事を。二度も三度も私に言わせるつもりか。

「無能な奴らめ・・・」

私は凶器を手に取り、チビの方へ歩き出した。
奴は、私が一歩近づくごとに、その顔色を青くしていく。
しかし、何か隠してそうな表情だ。覚悟のある表情というか。
ふむ。それによっては、生かしてやっても良いかもしれない。
そして、私とチビとの距離が2mを切った瞬間、チビは勝負に出た。
だが、その勝負とは逃げるだけ。私の右を抜こうとしたのだ。
なんて奴だ。確かに勝てる見込みは無いとはいえ、向かってくる事すらしないのか。
その根性が気に入らない。こいつも、あの世に送ってやるか。
チビはまさに脱兎のごとく駆け抜ける。
だが、いかに早くとも兎は兎。捕食者たる私に勝てる道理は無い。
素早く私は右足を使い、チビの体を踏み、動きを止めた。

ダンッ!

「ミュギャ!」

こいつらは、この程度では死にはしない。面倒な奴だ。もう用は無いというのに。

「もう私は十分楽しんだ。後は帰って眠るだけなのさ。悪いが、さっさと死んでくれ」

チビに乗せた足に、じわじわ体重を乗せていく。
心地よい感触が、私の足を伝ってきた。

ボキッ・・・	メキッ・・・	ボキン・・・

「イヤダ・・・ジニダグ・・ナ」

血反吐を吐き、体の半身をつぶされて、それでもなお助かろうとする気か。
無駄な努力が好きな種族だ。いっそ一思いに潰してやるのが、こいつ等のためだな。

グシャッ

「アギャ!!」

床一面にチビの血が飛び散った。もはや、顔からは何も読み取れない。
私はチビの潰れた感触に、歓喜の溜め息を一息ついて、思わず身震いした。
この世に生を受けた喜びを、改めて噛み締める。
なんでもそうだが、何かをやり遂げた後、その成果を見て悦に浸るのは心地よいものだ。
私は、この時もそうした。
凄惨な様子の部屋を見渡し、私以外は誰もいない、その静かな部屋で呟いたのだ。

「ああ、素晴らしい・・・ここはまさに・・・・・・天国だ・・・」

と、一言だけ。
続


440 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/07(日) 01:58 [ gBIkkj.M ]
天国と地獄       その3


私は、上着の中から携帯を取り出した。
もうここですべき事は全て終えた。後は家に帰ってゆっくり眠るだけだ。
あの男に、電話しなくては。

ピッ   ピッ   ピッ     トゥルルルル・・・   トゥルルルル・・・   カチャ

『はい、もしもし』

電話の奥であの男の声がする。少し、眠たそうな声だった。

「今終わったよ。帰り、送ってくれないか」

『ああ、判りました。すぐそちらに行くんで、そのままお待ちください。
 あ、部屋の鍵はあけておいてくださいね』

「ああ、わかった」

『では、後ほど』

ピッ   ツー・・・   ツー・・・   ツー・・・

簡潔に話を打ち切り、男から通話を断った。
さて、帰り支度を整えておくか。
明日の朝は気持ちよい目覚めになりそうだ。

もうすっかり帰り支度を終えた頃、男がやってきた。
白衣を翻し、眼鏡をかけた彼は、それなりに威厳を感じさせた。

「おや、また派手にやったもんですなぁ。連れて来た時の面影が、まるで無くなっている。
 さぞお疲れでしょう?」

「まぁね。やはり、鈍っているなとは自覚したよ。
 悪いけど、早いとこ送って欲しいんだが・・・」

「ああ、失礼しました。しかし、ちょっといいですか?」

「? ああ、何だ?」

「被虐者達を飼育する者たち。つまり私のような存在ですが、
 政府は彼らをどのように選んだか、ご存知ですか?」

ゆっくり、男はドアを閉める。
雰囲気がおかしい。さっきのチビからも感じた空気だ。
何かを、企んでいる・・・?一体何を?何故?

「さぁ、見当もつかないね。保健所の職員から引き抜いた、とか?」

危険な匂いだ。幾度もかいだ匂い。決まって、私に危害を加えようとしている者から感じる匂い。
マズいな・・・。凶器は鞄の中にしまってしまったし、銃は懐にあるが弾が入っていない。
肉弾戦でも負ける気はしないが、そもそも人を呼ばれていたとしたら、私はおしまいだ。

「半分は正解しています。元の職は、動物園の飼育員だったり、生物研究員だったり、
 警察犬の飼育員だったり。我々は、実に多種多様なところから引き抜かれているのですよ。
 では、残り半分はなんなのか?それは、その中から、正常な精神ではない者を選んだんです」

男は眼鏡を胸ポケットにしまい、その小さな目で私を見つめる。
なるほど、確かに狂気をはらんでいる眼だ。それも、とびきりの。

442 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/07(日) 02:05 [ gBIkkj.M ]
どういうことだ・・・?」

「簡単ですよ。さっきあげた職に就いているような、保護者的立場の者にも、
 弱者をいたぶる、虐殺者の顔を持っている者は当然いるのです。
 何故か?それが今の世の中、あたりまえだからです。虐殺してこそ正常なんです。
 虐殺しないなんて、ナンセンス。マターリ厨か、しぃオタか。わかりますか?
 世間で歪んでいると思われている者ではないと、この施設には必要ないのですよ」

今更何を言っているんだ?そんなことを説明する意味が、私にはわからない。
私に敵意があるのは感じ取れる。しかし、何かをする素振りさえ見せない。
分からない。コイツはこれから、何をしようとしてるんだ?

「続けますよ。しかし、ここには適任でも、その精神は基本的に曲がっているのです。
 つまり、虐殺、虐待をする対象が、被虐者達ではなく、我々モナーやモララーといった、
 『一般市民』が対象となっている者達なんですよ。
 よく聞きませんか?連続殺人犯Aは、人は殺すが被虐者は一切殺さなかった、なんて。
 貴方達は首をかしげるでしょう?不思議だと感じるでしょう?
 なぜ、同じ殺すなら罪にならない、死んでも誰も悲しまない被虐者を殺さないのかと思うでしょう?
 私は分かります。教えてあげましょうか。
 興味が無いんですよ。
 何のスリルもない、ただ一方的な虐殺に。
 そうじゃない。我々が望んでいる死は、弱者ではなく、強者の死。
 強いと勘違いしている蛙どもに、さらに上がいることを教えてやるのが楽しいんですよ。
 もうわかったでしょう?貴方は、虐殺をしにここに来て、虐殺されて出て行くんです」

だめだ。甘かった。
私は、見事彼に騙されてしまった。
勝てるだろうか。否、勝てても道は無い。
私は既に犯罪者なのだ。おまけに、殺人罪がついてしまう。

「貴方がここに来たという痕跡は、そこの死体と一緒に消しておきます。
 酒場の連中も、私の人相まで覚えちゃいないでしょう。なにか、言い残す事は?」

しかし、このまま黙って死ぬのも癪だ。
難しい事を考えるのは後にして、先ずはコイツを倒す事に集中しよう。
私は、奴が得意げにべらべら喋っている間に開けておいた鞄から、凶器を再び取り出した。

「・・・さっきから聞いていれば、手前勝手な事ばかり言いやがって・・・。
 言っておくが、こちとら虐殺で鍛えた腕があるんだ。みすみす殺されはしないぞ。
 『三叉の鬼』とは、私のことなんだ」

この名を出して反応しなかった奴はいない。
これまでは、名乗った途端に全員、私に尊敬と畏怖の入り乱れた視線を返してきた。
この男も、そうするはずだと思っていた。
しかし、男は意外にもニタニタ笑っている。
明らかに、馬鹿にした笑い。小物め。そう言われた気がした。

443 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/07(日) 02:06 [ gBIkkj.M ]
「ほほう。『三叉の鬼』?いやはや、それはまた物騒な二つ名ですな。しかし、聞いたことありませんねぇ。
 被虐者と虐殺者の間で名が知れたぐらいで、そんなに粋がっちゃいけませんな。
 偶然ですが、私にも二つ名がありましてね。もっとも、あだ名、と言っても良いでしょうが。
 きっと聞いたことあるはずですよ。」

話ながら、白衣のポケットから折りたたみナイフを取り出した。
でかい・・・。刃渡り30cmはありそうなナイフだ。
だが、圧倒的に私が有利。あんなものでは、勝負にならないはずだ。
しかし、この圧倒感はなんなのか。何故、それでも余裕で笑っていられるのか。
(なめやがって・・・)
無理やりに自分の心を奮い立たせる。再び、闘争心を目覚めさせる。
しかし。勝てる気が、しない。

「私に付けられたあだ名・・・神出鬼没のナイフを操る殺人鬼・・・」

微かに風を感じた。

       カラァン!

?! なんだ?何が起こった?
私は、凶器を床に落としている。馬鹿な!手は、しっかりと掴んだままなのに?
・・・ああ・・・なんて事だ・・・。男のナイフから血が滴り落ちている・・・。私の両手首が、切られている・・・!

「うああああぁぁあぁぁぁああ!!」

私はすっかりパニックに陥った。
へたりとその場に膝を着く。
手首があった場所からは、激しい出血がおきている。
傷口を押さえようも無い。こんな痛みがこの世にあったなんて。
まるで炎が着いたのような、恐ろしい痛み。
思考はすっかり恐慌状態になっている。
(いつ?!いつ切られた?!まったく気付かなかった!
こんな、こんな馬鹿な!こんな事が出来る奴なんていない・・・・・・?!)

「どうしたんです?随分痛がって。今まで貴方がしてきた事ですよ?」

「ああ・・・お、思い出した・・・うう・・・ニュースで・・・神出鬼没の、殺人鬼・・・・・・か、


             『 か ま い た ち 』・ ・ ・ 」


彼の名の由来は、運良く息絶える前に保護された、被害者の一人の証言だ。
『帰り道、暗がりの道に人がいた。巨大なナイフを取り出し、何が何だか分からない内に私を切り刻んだ。
 確かに、私とあいつの距離は、2m以上あったはずなのに・・・』
被害者はそのまま病院へ搬送する途中で亡くなった。
その後、彼の右手と下半身は、2日後に警察署へ送られてきた。全て、無数の穴が開いた状態で・・・。

444 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/07(日) 02:07 [ gBIkkj.M ]
浅はかだった。身の程知らずだった。真の愚か者は、私だった・・・!
一昔前、テレビで連日騒がれていた、連続殺人犯。
その猟奇的な手口で、実に26人もの被害者を作り上げた、今世紀最悪最凶の魔物。
そんなイカれた奴を前に、武器を構えていたなんて。
男は相変わらず、ニタニタ笑ったまま私を見ている。
恐い・・・逃げ出したい・・・死にたくない・・・
そんな私の感情を全て見透かし、踏みにじるかのような目をしていた。

「人にその名で呼ばれたのは、何年ぶりになりますかね。
 表向きまじめな顔をしていると、餌に不自由しなくて助かりますよ」

来た・・・ナイフを構えた・・・
今度は見切る!そして逃げ出すんだ!
ドアの鍵は掛かっていない!ぶち破れば出れるはず!
見逃してたまるか!死んでたまるか・・・逃げるんだ・・・逃げるんだ・・・!

            スパッ

「え・・・?」

光が消えた。突然真っ暗になった。目を、やられた・・・!

「うがああぁああぁあ!!」

痛い!痛い!痛い!!!
見えない!恐い!今にもナイフが刺さろうとしてるんじゃないか?
次は何をされるんだ?どこに、逃げればいい?!
私の心は、恐怖と不安に取り付かれた。
正常な思考などもはや出来ない。
いやだ・・・私は、逃げて見せるんだ・・・

        コツ・・・

!!
足音がした。近づいてくる!

「うわあああぁぁああぁ!!」

私は無我夢中で走り出した。
出来るだけ遠くへ!出来るだけ遠くへ!
死にたくない!殺されたくない!

ドンッ!

?!
壁?壁に当たったのか?くそっ!
逃げられない!もう、どこに行けばいいのか分からない!

  コツ・・・  コツ・・・

あ・・・足音・・・来る・・・近い・・・殺される・・・
あのナイフが目に浮かぶ・・・あれに、刺されてしまう・・・

「ああ・・・いやだ・・・死にたくない・・・頼む・・・殺さないで・・・」

私は、泣くように哀願した。
両手を引き、体を守るようにして、命乞いをした。
恐怖で震えが止まらない。もういやだ。こんな事、もう沢山だ。
せめて、生きてここから出たい。
しかし、彼の答えは無常だった。

「・・・貴方は、そんな命乞いをしてきた被虐者を助けましたか?
 一度も無いでしょう?私もありません。
 何故なら、楽しいからですよね?そんな情けない、醜い奴の頼みを一蹴して、止めをさすのが」

「!! ぎゃぁぁぁああああああ!!もう、もうやめてくれええぇ!!」

また体を切られた・・・!
今度はどこを?何箇所?足?手?体?
分からない・・・全身に痛みを感じる。
その後も痛覚は広がっていく。
男が切っているのか?意識が機能していないのか?
もう、何も分からない。何も見えない。痛い。痛い。いやだ。死にたくない・・・ ・ ・ ・    。

445 名前: 木人 (ENZ832xY) 投稿日: 2004/03/07(日) 02:09 [ gBIkkj.M ]
暗闇の中に、誰かが立っていた。
私は聞いた。

「君は誰だ?」

しかし、そいつは答えない。
私はもう一度奴に聞いた。

「何故答えない?」

やっとそいつは答えた。

「待ってたわ」

振り向いたそいつは、顔の鼻から上の無い、さっき私が殺したしぃだった。

「もう離さない」

私の体は動かなかった。
頭から血を流し、首の折れ曲がっているチビや、グシャグシャの体を引きずるチビ、
右手の無い、体から血を流すしぃが、私の体を掴んでいたからだ。

私は、声dの限sに絶叫しtf ・ ・ ・




終