女の戦い

Last-modified: 2015-06-18 (木) 00:34:29
724 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/08/19(火) 23:36 [ NaIlXll6 ]
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この世でもっとも残酷で。

この世でもっとも醜くて。

それは女の戦い。

【嫁と姑 女、修羅の道】

ギコ雄と妻のモラ子は、自宅のマンションで言い争っていた。
「しょうがないだろ。母さんももう歳なんだから」
モラ子は、ぐずる子供のように口の中でグチグチつぶやく。
「嫌よ。義母様と同居なんて……。私、しぃ美義母様にいびられちゃう」
が、夫に先立たれ一人で暮らすしぃ美をほっとくわけにはいかない。
しぃ美の息子ギコ雄は、妻と共に母親の所に同居することにした。
同居。この選択がギコ雄の実家に血の雨を呼ぶこととなったのだ。

ギコ雄の実家。今日から、しぃ美、ギコ雄、モラ子の三人の生活が始まる。
「ただいま母さん。元気かゴルァ」
「ヨク来タネ、ギコ雄ニ モラ子サソ。田舎ダケド 住メバ 都ダカラ」
「宜しくお願いします。お義母様」
最初は和やかな対面だった。
しかしそれは嵐の前の静けさにすぎなかった。
問題は夕食の時に起こった。
「私が作りますわ。お義母様」
「エ、ソンナ。悪イワヨ」
しぃ美の台所。つまり主婦の縄張りにズカズカと入り込んだモラ子。
気の弱いしぃ美は、不愉快に思いながらも黙って見ているしかなかった。

725 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/08/19(火) 23:36 [ NaIlXll6 ]
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モラ子が作った料理は、ミートソースたっぷりのハンバーグだ。
口の中に広がる肉汁。とても美味しい。
ギコ雄は喜んで食べている。
一方、しぃ美はあまり食が進んでいなかった。
老人であるしぃ美には、洋食を食べ慣れていなかったのだ。
しかたなく、しぃ美はハンバーグを残すことにした。
三角コーナーに捨てられ、生ゴミと化したハンバーグをモラ子は見逃さなかった。
「折角作ってやったのに。あの女!」
料理は、主婦の武器でもあり誇りだ。蔑ろにされて許せるわけがない。
モラ子の心に残酷な何かが根付き始めた。

翌日、またモラ子が食事を作った。
ギコ雄とモラ子の分の食事はカレーだった。
しぃ美の食事は、ミートスパゲッティーだった。
また、しぃ美は食べ慣れない洋食を残してしまった。
さらに次の日、ギコ雄達はロールキャベツを食べていた。
なのに、しぃ美だけトマトスープ。
この頃になって、しぃ美は気付き始めた。
ハンバーグの材料は挽肉。ミートスパゲッティーの材料も挽肉。
ミートスパゲッティーはソースにトマトを使う。トマトスープもトマトが必要。
「モシカシテ、私ダケ 違ウ料理ナノハ、
材料ニ 昨日ノ 残リ物ヤ 生ゴミヲ 使ッテルカラ……?」
歳を取り、ヤワになったしぃ美の肩が震えた。
「……ナ、何故?」
しぃ美には、モラ子の怒りの理由はわからなかった。
モラ子の料理を残したのは、嫌がらせではなく、洋食が食べられないからだ。
悪気のないしぃ美に、さらなるモラ子の牙が向けられる。

726 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/08/19(火) 23:36 [ NaIlXll6 ]
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昼、ギコ雄は会社に出かけるので、
家にはモラ子としぃ美の二人きりになる。
モラ子は居間のソファに座り、ワイドショーを見ながら菓子をつまむ。
下品な笑い声が居間に響く。
しぃ美は、以前は昼のTV番組を見るのが好きだった。
が、現在はワイドショーや昼メロを見ると、
モラ子の下卑た笑い声を思い出し、悲しみと悔しさが込み上げてくるだけだ。

ピンポーン。玄関のベルが鳴る。
「はぁーい。どちら様ぁ?」
ドアを開けると、手荷物を持った女子高生の制服姿の8頭身がいた。
彼女は八重。しぃ美の孫の一人で、長女の娘(?)だ。
「こんにちわ。ギコ雄叔父さんのお嫁さんですか?お若いですね。
 これ家族旅行で北海道に行ったお土産です。メロンですよ。皆で食べてください」
八重はビニール袋に入った大きなメロンをモラ子に渡した。
「あのぉ、しぃ美お婆ちゃんいます?」
しぃ美は玄関までヨタヨタと歩いて来た。
例えキモイ8頭身でも、八重は可愛らしい孫だ。
「八重チャソ……」
訴えかけるようなしぃ美の瞳。
だが、モラ子は八重としぃ美に会話をさせまいと、八重に甲高い声で話しかけた。
「ところで、八重ちゃんは彼氏とかいるの?」
八重の鼻息が荒くなった。彼女(?)の脳内は、もはや1の文字でいっぱいだ。
「えぇ~? そんなぁ彼氏なんてぇ。ハァハァ。でも、小指の赤い糸が繋がってる人ならいるかな♪」
モラ子は、八重の話など聞いていなかった。
しぃ美が孫に、嫁にいびられてることを話さないように邪魔しているのだ。

散々、1さんハァハァトークをした八重は、笑顔で帰っていった。
孫の後ろ姿をしぃ美は無言で見つめている。

 八重チャソ。貴女ガ 持ッテ来テクレタ メロンハネ、私ハ 食ベラレナインダヨ。

家に入ると、勝ち誇った顔でモラ子がメロンを食べていた。
ギコ雄はまだ帰らない。

 鬼嫁 完

精神虐待。