219 名前:1/5 投稿日:2004/08/19(木) 19:26 [ PfFXlrNE ] 宜しく御願いします。 うっそうとした夏草が茂る草原の中に、腐ったグラタンの様な奇妙な悪臭を放つ、 薄汚いダンボール箱が放置してある。 ガバと上部が観音開き式に開き、中から白色の獣が頭を覗かせた。 「ハニャーーーン!」 聞く者が誰しも不快感を覚える媚びた鳴き声を発し、箱から出てきたそれは 「しぃ」と呼ばれる動物である。 全国的に生息。農作物や残飯を荒らし、そこら中に糞尿を撒き散らす害獣だ。 「チィチィ!」「ナッコ!」 箱の中から同質の媚び鳴きが聞こえる。しぃの赤ん坊、ベビしぃだ。二匹いる。 「ハニャーン! ベビチャン、オ母サン今カラゴ飯ヲ 持ッテ来ルカラネ!」 「チィ!マンマ!!」「ゴパン、ゴパン!!」 この獣は猫と近似した姿をし、言葉を解し、直立二足歩行を行う。 ふわふわした体毛はぬいぐるみの様だが、常にノミを飼い、臭い。 考えることは、食う、交尾、ダッコの三つだけで、自己中心的な思考しかしない。 「今日モ元気ニ シィシィシィーーーーー!! ダッコ コウビデ ハニャニャンニャン!!」 見よ!突如しぃは、およそ常人では口に出すのもはばかられる様な 下劣な内容の歌を口ずさみながら、基地外の様に走り出した!! 「びゅりぃ、べりべりぶりゅぶりぃ」 しかも糞や小便を垂れ流しながら、である!! 220 名前:2/5 投稿日:2004/08/19(木) 19:27 [ PfFXlrNE ] やがてしぃは農地にやってきた。 収穫間際のとうもろこしはたわわに実り、黄色いひげが風になびいている。 このご馳走を失敬しにやって来たのだ。 しかし農地は緑の針金で編まれた様なフェンスで囲まれており、 それは2メートル程も高さがある。 彼女はキョロキョロと辺りを伺うと、秘密の抜け穴に頭を突っ込んだ。 地面に接したフェンスの一部が破れており、そこの地面が少し掘られてある。 しぃ一匹程度が通れる穴だ。難なく農地に侵入した。 「ハニャーーーン! マッタクヴァカナ モララーダネ!! コンナ程度ノ壁デ トウモロコシヲ 護ッテイルツモリナンテ!」 農地の持ち主モララーに悪態をつくと、さっそく美味しそうなところを5、6本もぎ取り 小脇に抱えた。 「カワイイシィチャンニ 食ベテモラエルナンテ モララーハ幸セダネ!! モットシィチャンニ 尽クスンデスヨ!!」 そうほざくと、糞をひり出した。 「コレハ オツリデス! カワイイシィチャンノ コリコリウンチサンガ 貰エルダケデモ コノ農場ヒトツ分ノ 価値ガアルノニ。 クソモララーハ 泣イテ感謝シテ 欲シイモノネ!!」 この畜生、勝手なことを散々気の済むまで述べると、口をワの字にして棲家に帰った。 当然あの基地外歌に糞尿のコラボレーションで、である。 221 名前:3/5 投稿日:2004/08/19(木) 19:27 [ PfFXlrNE ] しかし棲家に近づくにつれ、しぃは妙な事に気付いた。 例の異様な臭い(しぃにとってはマターリナカオリらしいが)の中に、 錆びた鉄の様な臭いを感じたのだ。 さらに近づくと黒い何かが盛んに棲家に飛来し、覆い尽くしている事が分かる。 「ハ…ハニャ!?」 さっきまでのワの字口は何処へやら、急いで近づく。 「シィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」 奇声と共に目を><にして万歳する様に両手を挙げた。 ボトリととうもろこしを落とす。 ああ、そこにあるものから、さっきまで「チィチィ」「ナッコ」と鳴いていたベビを想像することが、誰が出来るだろうか! 食い破られた腹からくるくるした腸を露出させ、オテテとアンヨを失いダルマになった ベビ。ついさっきまでエメラルドグリーンのオメメがおさまっていた眼窩は、どす黒い 血を濁流の如く流し、ふわふわしたピンクのほっぺは食われ、舌を失っていた。 「ゴヴェーーーー!! ゲボエーーー!!」 まさに阿鼻叫喚、まさに地獄絵図。思わず嘔吐せずにおれなかった。 これがわが子の姿か?愛くるしいオメメで見つめ、ダッコをせがんだわが子か? 意気揚々と盗んで来たとうもろこしは、小汚いしぃのゲロにまみれた。 遠目に見えた黒いものはカラス達、異様な臭いはベビの血の臭いだったのだ。 そして、哀れ無力なベビは飢えたカラスにかかり、二目と見れぬ無残な屍骸と化したのだ。 そこでしぃはハッと気付く。もう一匹は何処へいったのか。 そこへ考えをめぐらしたとき、ボトリと何かが落ちる音を聞いた。 音のした方を見やると、そこには、もう一匹のベビがいた。 いや。多分ベビなのだろう。もう、原型をそこから想像することは出来なかった。 大きく裂けた腹から肋骨や脊髄が露出し、内蔵は殆ど食われて無くなっていた。 性器も食われ、頭蓋はカチ割れピンクの脳髄がどろりと漏れ出ていた。 空から落ちてきたのは、もう食うところがなくなったのでカラスが棄てたのだろう。 「シィノ ベビチャンガーーーーーーーーーーーー!! ドウシテ コンナコトニーーーーーー!!」 ぺたんと尻を着き、両手を相変わらずバンザイさせ、尿をほとばしらせ、涙を滝の様に流して泣いた。 222 名前:4/5 投稿日:2004/08/19(木) 19:28 [ PfFXlrNE ] 満腹になったカラス達は早々に飛び去り、 「プーン プーン」 さっそく次の掃除人、ハエが飛んできて、せっせと卵をベビに植えつけている。 元々の悪臭に加え、死体の腐敗し始めた臭い、血としぃの糞尿の臭いが混じり、 ここら一帯は言語を絶する猛烈な臭いが立ち込めていた。 この魔界的な領域の中央で絶望を叫んだしぃは、もう泣き疲れて放心していた。 「ベビ…シィノベビ…」 うわ言の様に呟き、ベビとの幸せだった過去を思い出していた。 「オカアタン ナコチテ クダチャイヨー」 くりくりした目でヨチヨチと歩み寄り、小さな尻尾をふりふりして甘えたベビ。 抱き寄せるとふっくらした毛皮の手触りと温もり、ミルクの香りがした。 「マアマトナッコ マターリデチュヨー」ふわふわほっぺを擦り付けて甘えた可愛いしぐさ。 と、さっきのベビに目を向ける。 そこに転がる酸鼻を極める屍骸。どんなに遁れようともがいても、逃げられない 厳粛な現実がそこにはあった。過去は甘さこそあれ、現実を幸せにする力はないのだ。 「シィノベビチャン…カワイイ ベビチャン」 その時だ!しぃが何かに気付いたのは! 大地からの低いうなり?いや、まさかこれは! 223 名前:5/5 投稿日:2004/08/19(木) 19:29 [ PfFXlrNE ] すっくと立ち上がると仰天する! なぜならば、見よ!円状に自分を取り囲む野犬の群れを! 「ぐるるるるる……」 さっきのうなりは、野犬の喉から発せられる、獲物を狙う気迫のほとばしりだったのだ。 野犬たちはベビの血の臭いを嗅ぎ付け、やって来たに違いない。 そこで彼らは見つけた。生きのいい格好の獲物、しぃを。 「シ…シヒィイイイ…」 がくがくと膝が振るえ、どれ程小便を溜めてるのか、また失禁した。 じりじりと距離を詰める野犬たち。そしてついに、彼らは襲ってきた。 「シィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!」 飛び掛った群れの一匹は、しぃの喉笛を的確にとらえていた。 そして一気にトドメを刺す。 彼らのコンビネーションは見事で、しぃは正直、苦しむ暇もなく死んだ。 見事狩りに成功した野犬たちは、新鮮な肉を楽しんだだろう。 何ということはない。自然においてはごくありふれた風景だった。 食わねば生きてゆけない、そんな動物の業が因果の流れの中で絡み合って、 今現前した結果の一つに過ぎないのだった。 春の草花が芽吹き蝶が舞う草原に、朽ちたダンボール箱が一つ。 その回りには、白骨と化したしぃ親子が散乱している。 土に返った彼女らの傍には、それを養分としたのだろう、何かの植物が芽を出していた。 それは、ああ、どうやら、とうもろこしの芽の様だ。 <fin>