必殺寄贈人

Last-modified: 2015-06-27 (土) 02:21:59
986 名前:へびぃ 投稿日:2007/04/12(木) 00:25:02 [ v.b8oWzo ]
残り少ないスレを埋める為、短編(というより中編)を1つ。
途中からは、脳内BGM全開でご覧下さい。

【必殺寄贈人~『寄贈』と書いて『ドゾー』と読む~】


アフォしぃの悪行は、今や留まる事を知らなかった。
あちこちの町に出没しては、やりたい放題。殺戮。略奪。侵略。暴政。
いくら虐殺されようが、その驚異的な繁殖力によってすぐに増える。
軍部ですらお手上げ状態であった―――悲しいけど、これが今の世の実情だった。



ここは、非常にユニークな人々が集まる『朝迄町』。
この町の住民は皆、個性溢れる人々に囲まれて半ば翻弄されながらも、楽しく暮らしていた。
色々ありながらも、この町は至って平和だった。

―――だが。遂にこの町にも、アフォしぃの魔手が伸びる事となる。
ある日、突如として現れた数十匹のアフォしぃによって、この町は乗っ取られてしまったのであった。
勿論、抵抗を試みる動きもあった。
だがアフォしぃ共は、姑息な事に『カワイイ シィチャンタチニ ハムカッタラ コノマチノ ヤシラヲ ムサベツニ アボーンスルワヨ!』などと脅してきた。
アフォしぃ共は、それなりに武器を持ち込んでいた。どっかから奪ってきたのだろう。
住民の安全を第一に優先する為、遂に軍も手を出せなかった。

―――そして、アフォしぃの暴政が始まった。
まず、住民は自由に食べ物を食べる事が出来なくなった。
アフォしぃ曰く、『オイシイ タベモノハ ミンナ シィチャンガ タベルベキナノ!』との事。
この町にあった殆どの食料は、アフォしぃ共の元へ集まった。特に甘い物は、住民は一切口に出来なくなった。
さらに―――このアフォしぃ共は、輪をかけて性根が腐っているらしい。
毎日のように、空いたお腹を抱える住民達の目の前で食料を貪ったのだ。
しかもその食べ方はあまりに汚く、かなり無駄の多い食べ方だった。
まだ半分以上食べれる部分がある果物を住民の目の前でゴミ箱に捨てたり、一口しか食べてないパンを踏み潰してみせたり。
ひたすら食べ物を粗末にしてみせた。そして、悲嘆に暮れる住民を見て下品な笑いを浮かべる。まともな精神の持ち主がとれる行動とは思えなかった。
この町は、住民の悔しさに塗れたため息と、ハニャハニャという下衆な笑い声が絶えない町となってしまった。
そして、今日もまた―――。

987 名前:へびぃ 投稿日:2007/04/12(木) 00:25:42 [ v.b8oWzo ]
「先生、お腹すいたよぉ・・・」

アフォしぃの住む大きな屋敷の前で、ピンクの髪をした小さな女の子が、傍らに立つ大柄な男に向かって、これ以上無い位悲痛な声で訴える。
少女の首には、桃の缶詰(白桃)の側面部分が装着されている。歳は―――4,5歳前後か。
男は恐らく、クックルの亜種だと思われる。クックルそっくりだが、全身が茶色。そして両肩と額に缶詰が。
先生と呼ばれた彼は、思い悩んだ表情で少女を見つめていたが、不意に歩き出し、近くに居たアフォしぃに声を掛ける。

「・・・あの」

「ハニャ!ナンノ ヨウナノヨ!」

アフォしぃは、やはり見せびらかすように(というか普通にその目的で)林檎を齧っていた。
彼は、出来る限り落ち着いた声で言った。

「・・・私はどうなっても構いません。
 ですが、どんなに少なくてもいいです。せめて子供達にだけでも、何か食べ物を分けて頂く事は・・・」

アフォしぃに対して、こんなに腰を低くする羽目になろうとは。
しかし、、彼は気にしなかった。ひょっとしたら、アフォしぃにも微かな慈悲の心があるかもしれない。
―――だが。返って来た答えは、

「ハニャァァ!?ナニ ネボケタコト ヌカシテンノヨ!アンタ ヴァカ?」

予想通りの暴言だった。彼は内心で苦い顔をした。アフォしぃに慈悲を期待した己が馬鹿だったようだ、と。

「アンタラナンカ シィチャンニ クラベタラ ナマゴミニモ ナラナイテイドノ カチシカ ナイノヨ!?マッタク、コレダカラ テイノウハ コマルワネ!」

暴言はさらに続く。彼は耐えた。逆らったら、何を仕出かすかわかったもんじゃない。
しかし、次にアフォしぃが発した言葉に、男の表情が変わった。

「アンタノトコロノ ガキナンテ ドウナロウガ シッタコッチャナイノヨ!サッサト クタバッタラ ドウナノヨ!?」

「な、何・・・!?」

男は明らかに怒りの表情を見せた。
彼は実は、この町の幼稚園の先生を勤めている。先程の少女も、園児の1人だ。
体躯に似合わぬ温厚な人柄とその頼もしさで、園児、親共に信頼も厚く、地域の人間からも慕われている。
そんな彼にとって、園児に暴言を吐かれるのは、何よりも許しがたい事だった。
彼は思わず、ぐっ、と拳を固めていた。今すぐぶん殴ってやりたいとでも言うように。
だが、それを目ざとく見つけたアフォしぃは、ニヤニヤと笑いを浮かべながら言った。

「ハニャハニャ?イイノカナー?モシ シィチャンニ イタイコトシタラ、アンタノトコロノ ガキドモヲ マトメテ アボーンスルワヨ?イイノカナー?」

そう言いながら、アフォしぃはちらちらと懐に持っていたナイフを見せ付けた。

「ぐぅっ・・・」

彼は黙るしか無かった。
もっとも避けなければいけないのは、園児に危害が加わる事だ。
彼がその気になれば、アフォしぃなど1秒で息の根を止める事も出来るだろう。
だが、相手は1人ではないのだ。もしこの場でこいつを殺したら、間違いなく他の奴らがすっ飛んでくるだろう。
ひょっとしたら、無差別にこの場でマシンガンなどを乱射するかもしれない。そんな事をされたら、園児だけじゃない。多くの人命が失われしまうだろう。

「・・・っ」

彼は固めた拳を力無く膝に叩きつけると、踵を返し、先程の少女の元へと戻っていった。

「ハニャーーーン!!アンナ ゲセンナ ヤシラニ コノ カワイイ シィチャンガ ヤラレルワケナイジャナイ!ホンモノノ ヴァカネ!ハニャハニャハニャーーーン!!」

後ろから下品に笑い転げるアフォしぃの声が聞こえてきたが、彼は無理矢理無視した。
恐らくアフォしぃにしてみれば、普通なら絶対叶わない相手を押さえつけている事に、かなりの優越感を感じているのだろう。

「先生ぇ・・・」

少女が、怯えたような表情で見つめてくる。
彼はその子の頭を撫でながら、安心させるように笑いながら言った。

「大丈夫だよ。先生の家には、まだ食べ物がある。それをあげるから、私の家に来なさい」

「本当!?」

少女は顔をぱっと輝かせた。

「本当さ。先生が皆に嘘をついた事があったかい?・・・さあ、皆を呼んできて」

「うん!」

彼女は、姉妹と思われる自分に良く似た黄色い髪の少女(首元の缶は黄桃)を始めとする数人の子供を連れて戻ってきた。

「さあ、皆私についてきなさい」

彼は優しく声をかけると、先頭に立って歩き出した。
彼は去り際に、無邪気に笑いながら付いてくる園児達に見えないように、屋敷の方へ視線を移した。
アフォしぃは、まだ笑い転げていた。彼はそれを、苦々しい思いで見ていた。

988 名前:へびぃ 投稿日:2007/04/12(木) 00:26:08 [ v.b8oWzo ]
「・・・はぁ、プリンが食べたい」

やはり屋敷の前で、今度は軍服姿の女性がぽそりと呟いた。コスプレなんて事は無いだろうから、恐らく軍属だ。
大の大人がプリンというのも何となくアレだが、女性は甘いもの好きというのは珍しくない。

「お、俺も・・・もう何日も食べてないぞ、ゴルァ」

傍らにいた、軍用の帽子を被ったギコがこれまた力なく呟く。女性の部下だろうか。

「・・・しょうがないモナ。プリンじゃなくても、甘いものは全部、奴らが持っていってしまったモナ。
 多分1つも無いモナ・・・」

これまた軍用帽子姿のモナーが、2人を慰めるように言った。やはり部下のようだ。

「あぅぅ・・・プッチンしたいぃぃぃ・・・」

女性が間延びした声で言った。どうやら相当参っているようだ。
モナーは2人の背中を押しながら去っていった。3人の姿が消えるまでの間、モナーの口から慰めの言葉が途切れる事は無かった。

他にも、屋敷の前には多くの人が集まっていた。
空腹で泣く子供を抱いた母親、食べ盛りの学生、すっかり痩せてしまったサラリーマン・・・。
しかし、そんな飢えに苦しむ人々の前で、アフォしぃ達はどんどん食べ物を粗末に扱っていく。
中には、『見た目が気に入らない』とかいう理由で、口をつけることなく食べ物を捨て始める者もいた。
そして人々が、とぼとぼと肩を落として去っていったり、武器で脅されて慌てて逃げ出す様子を見て、最高の娯楽だと言わんばかりに笑い転げるのだった。
先程のモナーとは違い、アフォしぃ達の口から、罵倒の言葉が途切れる事は無かった。

そんな中。
屋敷の傍の電柱の影で物憂げに頭を抱える女性がいた。
緑のニットセーターにロングスカート、眼鏡に茶髪のショートヘア、頭にはまるで装飾品のように2つの缶詰といういでだちの彼女は、はぁ、とため息をついた。

「・・・もうこの町の皆も限界ね・・・どうにかしなくちゃ」

彼女は暫くの間思案に暮れていたが、やがてやれやれといった感じで顔を上げた。

「・・・あの子達に頼むしか無いか・・・ちょっと強引だけど・・・大丈夫よね、私の子だもの」

彼女はひとりごちると、そのまま屋敷から離れていった。



「うう・・・お腹空いたデチ・・・」

屋敷から離れた、とある路地裏。
1人のちびギコが、膝を抱えてさも辛そうに呟いた。
彼はどうやら家に食べ物が無く、何か食料を求めて飛び出したはいいものの、結局何も見つからず、途方に暮れているようだ。
塀を背もたれにして体育座り。空っぽの腹から、深いため息。
その目からは、光が消えかかっていた。
―――ふと。ちびギコは、すぐ傍、それも正面に誰かがいる事に気がついた。
ゆるゆると顔を上げてみる。そこには1人の少女が立っていた。
空腹で目も霞んでいたちびギコは彼女の姿を上手く捉える事が出来なかったが、ショートヘアの頭に2つ、何か小さな箱のようなものを乗せている事はわかった。
不意に、彼女はどこからか何かを取り出し、ちびギコに差し出した。
そしてニコリと笑い、こう言い放った。

「コンビーフ、ドゾー!」

「・・・へ?」

ちびギコは、差し出された物をまじまじと見た。
その小さな手(といってもちびギコの手よりは大きいが)に乗せられていたのは、コンビーフの缶詰だった。
無論、空き缶では無い。しっかりと封のされた、正真正銘の本物。

「・・・これ・・・僕に?」

恐る恐るといった感じで、ちびギコが尋ねる。
少女は満面の笑みで頷き、その手をさらにずいっと差し出してきた。
ちびギコは、少女の手から缶詰を受け取った。ほんのり暖かい。
2日ぶりの食料。しかも肉だ。缶詰を見つめるちびギコは一瞬泣きそうな表情になったが、口を開きながら顔を上げた。

「お姉ちゃん、ありがとうデ・・・」

―――少女の姿は、既に無かった。

「お姉ちゃん・・・?」

ちびギコは呆然とした表情で呟いた。
見ず知らずの自分の目の前に突然現れたかと思えば、コンビーフ1つくれて、風のように去って行った少女。
彼は暫くの間呆然と立ち尽くしていたが、不意に思い出したような表情になって、貰ったばかりのコンビーフ缶を開け始めた。
開け方が特殊な事も手伝って、なかなか開かなかったが、ついに開封に成功。
そして、開けたばかりのコンビーフにかぶりつく。
そのコンビーフの味は、確かに1人の少年に、生きる活力を与えた。

989 名前:へびぃ 投稿日:2007/04/12(木) 00:26:34 [ v.b8oWzo ]
(脳内BGM:『必殺仕事人』のテーマ)

パララー・・・パラララララーララララー・・・パララララー・・・

パララー・・・パラララララーララララー・・・パララララー・・・

ジャジャジャーン!チャララララララー・・・

ジャジャジャーン!チャララララララー!


―――町中が寝静まった丑三つ時。
昼間は飢えた住民達でごった返していた、アフォしぃの屋敷前の大通り。
人の姿など影も形も無い筈の大通りに、4つの人影。
中くらいの影、すらりと背が高く、何か大きな筒状の物体を持った影、これまた背が高く、頭に箱のような物を乗せている影、そして、その3つに比べるとかなり小さな影。
肩を並べるように並んでいる4つの影は、どんどん屋敷へ向かって歩いていく。
そして、屋敷の門(『カワイイ カワイイ シィチャンタチノ オヤシキ』という表札が掲げられている)の前で、その影達は、足を止める。
それなりに近代的な町の中で、まるで時代劇に出てきそうなその大屋敷は、かなり異様だ。
4人は暫くの間門を見上げていたが、不意に、背が高くて何か大きな物を持った影が、口を開いた。

「・・・ここね」

その声は、若い女性のものだった。
残り3つの影も、一斉に頷く。
そして、各々に口を開いた。

「食べ物を粗末にする香具師らに、制裁を加えなくちゃね・・・」

「でも、危なくなったら逃げなきゃ駄目よ?いざとなったら、お姉ちゃん1人でも多分大丈夫なんだし・・・」

「・・・眠いよぅ。子供はもう寝る時間なのに・・・」

「仕方ないよ。この町の惨状は見ての通りだし、お母さんにまで頼まれちゃあ、ね」

「・・・うん」

やはり、全て若い女性の声だった。
しかも驚く事に、その内の1つは明らかに幼い子供の物。
会話から察するに、この4人は姉妹のようだ。

「・・・じゃ、行くよ」

最初に口を開いた少女の言葉に皆一斉に頷き、同時に門をくぐって行った。


『中くらいの影』と形容された少女は、屋敷の庭をそっと歩いていた。
その時、気配を察して彼女は茂みの影に身を隠す。
少し離れた所に、アフォしぃが1匹突っ立っていた。

「マッタク・・・ナンデ コノ ウチュウイチ カワイイ シィチャンニ ミハリナンテ ヤラセルノヨ!
カワイイシィチャンヲ コキツカウヤシハ ギャクサツチュウダヨ!」

一人でぼやいている。
見張りらしく、その手には懐中電灯。よく見ると、棍棒も携帯しているようだ。
少女からアフォしぃまでを遮る障害は、彼女が身を隠す茂みのみ。
しかも、おあつらえ向きに茂みにぽっかりと拳大くらいの穴が開いている。狙撃などするにはもってこいだ。
彼女はどこからか小さな箱状の物を取り出す。月明かりを微かに受けて光っている。どうやら金属製のようだ。
それを手の中で軽く弄んでから、少女は腕を軽く振りかぶる。
振りかぶると言うより、肘から上を真上に伸ばして手を顔の横へ持っていく、といった方が正しいか。
彼女はその体勢のまま目を凝らし、狙いを定める。
そして、未だに1人でぶつくさ言うアフォしぃの頭部に視線を固定し、箱状の物体を掴んだ手首を後ろに曲げて―――

「・・・コンビーフ、ドゾ」

ヒュッ

呟きと共に、風を切る音が小さく響いて―――

ゴキュッ!

「アギュッ・・・」

何かがへし折れたような鈍い音と、アフォしぃの短い悲鳴が続く。
見ればアフォしぃは、生きてる人間では一生向く事が出来ないであろう方向へ首を曲げていた。
前を向いている状態から、後ろへ175度、上へ80度。明らかに首の骨がどうかしている。
その片頬にはぴったりと金属製の箱状の物体―――コンビーフの缶詰がぴったりと張り付き、めり込んでいた。
―――もうお分かりだろう。彼女は手首のスナップのみを利用して、目にも留まらぬ速さでコンビーフ缶を投げ付けたのだ。
その缶は一直線にアフォしぃの頬を直撃。それでも勢いを失わず、顔を押していき、ついにアフォしぃの首の骨が回る限界の角度を突破したのだった。
アフォしぃがどさりと倒れる。1拍遅れてコンビーフの缶も地面を転がったが、張り付いていたアフォしぃの肉体がクッションとなり、音は殆ど立たなかった。
彼女は周りに誰もいない事を確認すると、そっと立ち上がり、今しがた投げ付けたコンビーフ缶を回収するために、首が不自然に曲がったアフォしぃの死骸へと近づいて行く。
茂みから脱出した彼女を、月明かりが優しく映し出す。赤みがかったピンク色の髪が、光を反射して淡く輝いた。
月光に照らし出された彼女の顔は―――昼間、飢えたちびギコにコンビーフを差し出した少女だった。


―――彼女の名は、コンビーフたん。
地元で有名な『缶詰四姉妹』の、三女である。

990 名前:へびぃ 投稿日:2007/04/12(木) 00:35:16 [ v.b8oWzo ]
常に薄青紫の長袖シャツにミニスカート、頭には2つのコンビーフ缶という格好の彼女は、毎日毎日、道行く人々にコンビーフを配って回るという何とも奇異な日常を過ごしている。
直接手渡しの場合もあれば、遠くから投げ付ける場合もある。いずれにせよ、『>ワ<』の顔と『ドゾー!』の掛け声は忘れない。
食糧難に瀕している今も、隠し持っていた(或いは新たに作り出した)コンビーフをひたすら配っていた。
いつでも明るい笑顔で缶詰を配るコンビーフたんは、まさに町の人気者だった。
―――だが、普段はまるで仮面を付けているのかと思うくらい常に笑顔の筈の彼女の表情は、今はかなり真面目で、怖いくらいだった。
それ程、アフォしぃ共の行為に憤りを感じているのだろう。

さて、彼女は地面に落ちたコンビーフ缶を回収し、埃を払ってからしまおうとした。
その時、屋敷の方向―――庭に面した廊下の奥の方から、足音を伴った声が聞こえて来た。

「ミハリ コウタイナンテ メンドクサイワヨ。マッタク、シィチャンハ カワイイノニ・・・」

「ソウヨソウヨ!マア、シィチャンニ サカラウヤシナンテ イナイダロウケドネー」

―――2匹。彼女は素早く、廊下の屋根を支える柱の陰に身を潜めた。
2匹の姿が、コンビーフたんの視界にも入ってきた。彼女は柱の影からコンビーフ缶を持った右腕のみを伸ばして、軽く腕を引く。
そして、アフォしぃ達が彼女の射程範囲内に入り込んだ瞬間―――その腕が、動いた。

グキョッ!

「ギャッ・・・」

「・・・ハニャ?」

コンビーフたんの手から離れた缶は、並んで歩いていたしぃの内、右側のしぃの顎を直撃した。
その頭部はそのまま180度以上後ろへ曲がり逆さまになって後ろを向いていた。喉が不自然に膨らんでいる。
隣にいたしぃは、一瞬何が起きたのかわからないかったが、自分の隣にいたしぃの首が明らかに折れている事、そして、恐らくは絶命しているであろう事をどうにか理解したようだ。

「ッ!?シ・・・シィィィ」

ゴシャッ!

「ジギィッ!!?」

驚いて悲鳴を上げようとしたしぃ。だが、それは叶わなかった。
コンビーフたんが再び放った缶が、その頭蓋を叩き潰したからであった。血液と脳漿がその頭から零れ、木造の廊下の床に染みを作った。
その時、再び背後から何者かの気配。彼女は再び、柱の影に身を隠す。

「アシタモゲンキニ・・・ハニャッ!?」

「シィィィ!?ナニアレ!?」

廊下の奥から能天気な面してやって来たアフォしぃ2匹は、変わり果てた姿で横たわる仲間の姿を見て、驚愕した。
コンビーフたんが隠れる柱の前を通り過ぎ、慌てて死体に取り縋る。声を掛けたり、その体を揺すってはみるものの、当然反応は無い。
彼女は柱から身を現して、廊下に立った。アフォしぃ達は未だ彼女に背を向け、死体に向かっている。後方数mに立つ彼女の存在に気付く様子は無い。
その鈍さに思わず苦笑したコンビーフたんは、ポーンポーンとその手で缶詰を弄んでみた。と、片方が振り向いた。流石に気付いたか。
そして、それにつられてもう片方が振り向くか振り向かないかの瞬間に、彼女はたった今まで弄んでいた缶詰をサイドスローで投げつけた。

ゴッ!

「ウギッ・・・」

先に振り向いた方のアフォしぃの顔が明後日の方向を向き、そのままもんどりうって倒れる。
驚く事に、彼女が投げつけたコンビーフ缶はアフォしぃに命中してから跳ね返り、彼女の手の中にすっぽりと見事に納まった。まるでブーメランだ。

「ハニャッ!?・・・ナ、ナンナノヨ、アンタハ!」

もう片方のしぃが驚愕しながら発言した。その時、コンビーフたんの後ろからも「シィィィ!?」の声。どうやら挟み撃ち。だが、彼女は全く動じない。

「―――食べ物を粗末にする香具師らに・・・」

静かに口を開きながら、コンビーフたんは腕を振りかぶる。

グキィッ!

「ノギャッ・・・」

音も無く放たれた缶は、アフォしぃの首をあり得ない方向へと捻じ曲げた。

「・・・名乗る名前も無ければ・・・」

返ってきた缶をキャッチした彼女は、そのまま華麗にクイックターン。背後のアフォしぃに向き直る。既に腕を後ろへと引いた状態で。

ドギャッ!

「ギュッ!」

サイドスローで投げつけられたコンビーフ缶は、的確にそのアフォしぃの右頬を直撃。その首を、6時半の方向まで押し曲げた。

「・・・ドゾするコンビーフも無いっ!」

やはり跳ね返ってきた缶を片手で受け止めながら、コンビーフたんは言い放った。もっとも、その台詞は相手には既に聞こえない。
彼女は転がる死体をまとめて茂みの影に隠すと、缶に付着した僅かな血液を拭き取ってしまい、廊下の奥へと静かに消えていった。

991 名前:へびぃ 投稿日:2007/04/12(木) 01:01:19 [ v.b8oWzo ]

『何か大きな物を持った影』と形容された少女は、コンビーフたんとは反対側の庭に面した廊下を歩いていた。
一歩歩くごとに、ぎし、ぎし、と微かに床が軋む音が聞こえる。彼女は、それらの音を極力立てないようにして歩いていく。―――と、その時。

「カワイイ シィチャン アイドル シィチャン ダッコト コウビデ ハニャハニャーン!」

『間抜け』以外に形容の仕様が無い、聞いてるだけで脳髄が痺れそうな歌声。張り詰めた空気を根底から崩壊させる、ペタペタという足音。
その騒音は、彼女の視線の先―――廊下の突き当たりの曲がり角の先から聞こえて来る。そして、どんどん近づいてくるのも分かる。
彼女は素早く廊下の突き当たり寸前まで小走りで近づき、息を潜める。同時に、右手に握った『巨大な何か』を握り直し、肩に担ぐ。
そして、その闇夜でもはっきりとわかる白い体が曲がり角から飛び出し、彼女の目の前に現れた瞬間。

ドグシャッ!バッコォォォン! 「アギィィィッ!?」

次の瞬間、間抜けな歌声を披露していたアフォしぃは、何と―――首から上は廊下の薄い屋根を突き破って飛び出し、首から下は天井からぶら下がっていた。
彼女はというと―――まるでゴルフのフォロースルーのように、両手で持った『何か』を背中に回すような姿勢をしていた。
月光を浴びて、ぎらりと光った『何か』の正体。それは、全長1,5m前後はあろうかという、それは大きな―――鮪。

―――彼女の名は、シーチキンたん。
地元で有名な『缶詰四姉妹』の、長女である。

住民からは『チキ姐』『姐さん』などの愛称で親しまれる彼女は、様々な意味で四姉妹の中でも最も『目立つ』存在であると言える。
腰まで届く青のロングヘアーに、まるでピアスのように耳から下げたシーチキンの缶。
しかし何より目を引くのは、その身を包む青と白のセーラー服。そして―――彼女の代名詞でもある、巨大な鮪。
セーラー服と、鮪。この取り合わせは如何なものか。機関銃との組み合わせよりもミスマッチかも知れない。
彼女がシーチキン缶をドゾする事は少ない。その代わり、その鮪で文字通り『カキーン』して差し上げる。それがシーチキンたんのやり方だ。
巨大鮪を軽々と振り回す程の怪力を持つ彼女の体は筋肉質で細い。それは『スレンダー』と言えば聞こえはいいが、要するに・・・その・・・『ぺったんこ』なのだ。
名無しの住民にその事をからかい混じりに指摘され、怒ったシーチキンたんがその豪腕と鮪で声の主を空の彼方へ消し去る。最早、この町ではお馴染みの光景だ。

話を戻そう。今しがたしぃが天井を突き破った際に起こった音を聞きつけ、数匹のアフォしぃがこっちへ向かってくるのがわかった。
それに気付いたシーチキンたんは少しだけ後ろに下がる。そして、先頭のアフォしぃが曲がり角から飛び出してきた瞬間、彼女の腕が唸りを上げた!

グッシャァァァ!!
「ギャァァァ!?」

見やれば、天井からぶら下がるしぃの胴体が1つ追加されていた。ぽたっ、ぽたっ、と鮮血の雫が落ちてくる。
突如として消えた仲間にうろたえるアフォしぃ。隙ありだ。彼女は突進すると、鮪を下段に構え、そのままアッパースイング。

ズガァァァン!
「フギャァァァァ!!」

またも天井からぶら下がるしぃの体。そのままの勢いで、彼女は全てを薙ぎ倒す台風の如き勢いで次々と鮪を振るった。

「新鮮な・・・」
 ドバキャッ!   「オゲェェェェ!」
「シーチキン(の原料)を・・・」
 ボゴォォォン!! 「ア゙ア゙ァ゙ァァァァ!!」
「ドゾーーーーッ!!」
 ズドゴォォン!! 「ヒギョォォォォォ!!」

やがて、殺気に眼を光らせる彼女の前からしぃがいなくなった。―――否。全て一様に、天井から首から下のみをぶら下げていた。
彼女の目から殺気が消え、ふぅ、と息をつく。だが、庭から「シィィィィ!ナニヲ シテルノヨ!」という声が聞こえて来た。まだいたのか。
そのしぃは、侵入者をあぼーんするべく棍棒を持って突っ込んで来る。シーチキンたんはやれやれといった表情で鮪を担ぎ上げた。
しぃとの距離が5m程度になった所で、彼女は「最後は外ね・・・」と呟いた。そして、打席に入った打者の如く立ち、腰から上を後ろに軽く捻る。
そして―――アフォしぃを射程内に捉えた彼女は、プロ野球選手もかくやという美しいフォームで、鮪をフルスイング!

992 名前:へびぃ 投稿日:2007/04/12(木) 01:01:45 [ v.b8oWzo ]
カ ッ キ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ン!!!

高らかな快音とアフォしぃの哀れな悲鳴が響く。シーチキンたんの『カキーン』をありがたくその身で受けたしぃは、そのまま夜空へと吸い込まれていき、見えなくなった。
フォームを解いた彼女は、一息ついてから「・・・3駅分くらい、かな・・・」と、ぽそりと呟いた。
そして彼女は鮪を担ぎ直すと、その長い髪とスカートの裾を翻して廊下の奥へ足早に去って行った。


『小さな影』と形容された少女は、やはり廊下を歩いていた。
暫く歩いていると、どこからか喧騒が聞こえて来る。彼女はその方向を目指して、さらに廊下を進んで行く。
角を曲がった所で、その喧騒の元を彼女は突き止めた。
廊下とは障子で仕切られた広い部屋。その中で、十数匹のアフォしぃ達が大宴会を催していた。
障子越しにシルエットが写る。住民から巻き上げた食料をひたすら食い散らかしているようだ。
彼女は障子の前に立った。障子の方へ向き直る。

「オイシイ タベモノデ シィチャン マターリ!」

「コンナニタクサンノタベモノ、アンナゲセンナ ヤシラニハ モッタイナイワネ!タベモノサンダッテ、カワイイシィチャンニ タベラレタホウガ ウレシイニ キマッテルワ!」

「ハニャーン♪ナクナッテモ マタ アノアフォナ ジュウミンカラ マキアゲレバ イイノヨ!」

そんな声が障子越しに伝わる。自己中の極みとも言える発言の数々に、彼女は思わず眉を顰めた。
すると、彼女の頭部―――正確には、頭に乗せられた2つの缶が、発光を始めた。その光はどんどん強くなる。
そして、その光が今にも溢れんばかりまで輝いた瞬間―――

ズビィィィィィム!!

光が柱状になり、まっすぐ正面へ向かって伸びた。
缶から放たれた2本の光条は、一瞬で目の前の障子へと突き刺さる。
光の柱は障子をまるで空気中を漂う塵であるかのように易々と貫通。そのまま、アフォしぃ達が騒ぐ室内へと飛び込んだ。
そして―――

ド ッ ガ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ン!!!

「ジィィッ・・・」

「ハギャァァァァァァ!!」

「シィィィィィィィィィィィッ!!?」

―――大爆発。凄まじい爆音と目も眩む閃光。それらと共に、アフォしぃ達の断末魔の悲鳴が響き渡った。
一拍遅れて、室内に篭っていた熱風が室内から外へ向けて駆け抜けた。強い風が、彼女の真っ赤な髪をはためかせた。
同時にコロコロと転がってくる、アフォしぃ達の焼け焦げた体のパーツ。


―――彼女の名は、タラバたん。
地元で有名な『缶詰四姉妹』の、四女である。

その小ささからも想像が付くかもしれないが、彼女は実は幼稚園児だ。
黄色いワンピースを着用し、頭には蟹缶が2つ、上底を前にして乗せている。
何より特徴的なのはその髪型で、まるで蟹の足のように、左右に髪の束が3本ずつ跳ねている。
蟹缶を直接渡す事もあれば、何とカニチャーハンに調理してドゾする事もあるとか。その味は一級品だ。
頭に乗せた蟹缶は実に多彩な能力を持っている。まず、今しがた彼女が見せてくれたビーム発射。『ズビーム』と呼ばれている。
威力は調理用~大爆発まで調節可能らしい。次に、ジェット噴射による加速・滑空。彼女の体重の軽さも手伝ってか、非常に高い飛行性能を持っている。
この他にも色々あるらしいが、今は割愛。なお、昼間屋敷前に来ていた子供達は彼女と同級生だ。
普段は口数少なめでちょいクールだが、心の中では友達思いのイイ子である。

ビーム放射による大爆発であちこち焼け焦げ、所々ぶすぶすと燻っている部屋の中に彼女は足を踏み入れた。
肉の焼け焦げた嫌な臭いがする室内で、タラバたんは辺りをキョロキョロと見渡した。
部屋の中の装飾品は粗方吹き飛んで見当たらない。置かれていた食料も吹き飛んでしまっていたが、どうやらそれらはほんの少しだったようで、彼女はほっと胸を撫で下ろした。
そして、部屋中のそこここにごろごろと転がる、アフォしぃの炭化した焼死体。完全に消し炭と化しており、その表情すらも読み取れない。
どうやら、生き残った奴はいないらしい。それを確認した彼女は、終始無言のままにその部屋を辞した。

993 名前:へびぃ 投稿日:2007/04/12(木) 01:18:38 [ v.b8oWzo ]
『頭に何かを乗せた影』と形容された少女は、床下の狭い空間に身を潜めていた。
自分の頭上に敷いてある畳越しに、アフォしぃ達の騒ぐ声が聞こえて来る。ハニャハニャという鳴き声と、自己中発言はタラバたんの時と殆ど同じだ。
暫く頭上の様子を伺っていた彼女は、不意にポケットから錐を取り出した。そしてそれを、頭上の畳に突き立てる。
両手のひらで錐の柄を挟み、擦り合わせるようにする。暫く続けている内に、錐がすこん、と入った。どうやら貫通したようだ。
慌てて彼女は錐を引き抜く。見られたかも、という不安が一瞬脳裏を過ぎったが、上からは相変わらずのドンチャン騒ぎ。どうやらバレなかったようだ。
それを確認してから、彼女は今度は缶詰を取り出した。黄色いパッケージに、何か外国の文字が書かれている。彼女が頭に乗せている物と同じだ。
続いて取り出したるは缶切り。右手に缶詰、左手に缶切り。彼女はその右手を上へ持ち上げ、先程開けた穴の辺りまで持っていく。
そして、左手の缶切りを缶の淵にあてがった。左手に力を込めた。ぐっ、と缶切りを押し込む。すると―――ぷしゅっ。
炭酸飲料を開封した時のような音がした。同時に、缶切りによって缶詰に開いた穴から、一瞬茶色っぽい飛沫が飛び出した。
少しの間は何も起きなかった。だが、やがて変化が起こる。あれほど騒がしかったアフォしぃ達が、「ハニャッ?」という声を境に突然静かになった。
「ハニャッ?ナンカ ヘンナニオイガ スルヨ!」

「シィィィィィ!クサイヨォォォォォ!」

「ハニャーン!ハニャーン!キモチワルイヨゥ!タスケテェェェェ!」

「ウウッ・・・オゲェェェェ・・・」

「クサイヨゥ・・・ダッコ・・・ダッコスルカラ、ヤメテヨゥ・・・」

「ウェェェェェェ・・・ア、アギィィィィィ・・・」
先程とはまた違った大騒ぎの後、ぷっつりと静かになった。彼女は暫く耳を澄ませていたが、何も聞こえなくなった事を確認すると、床下から脱出した。
そのまま一旦外へ出て廊下に上がり、障子を開ける。先程まで潜んでいた床下の、頭上がこの部屋に当たる。
中では、十数匹のしぃが畳に転がっていた。ぴくぴくと体を痙攣させている者、嘔吐している者―――皆一様に、その場から動かない。気絶しているようだ。
彼女はそれを見て、少しばかり憂鬱そうな表情と共にはぁ、とため息をついた。

「・・・本当はこんな使い方、すっごく不本意なんだけどなぁ・・・」

彼女の手には、先程床下で開封した缶詰。薄暗かった床下とは違って明るい室内では、パッケージの文字もちゃんと見える。
側面に、赤くて大きな筆記体の文字。そして、その下に刻まれていたのは―――『SURSTROMMING』。

―――彼女の名は、シュールストレミングたん。
地元で有名な『缶詰四姉妹』の、次女である。

ご存じ無い方の為に説明すると、『シュールストレミング』とは、北欧地方で製造・販売されている缶詰である。
鯡(ニシン)の塩漬けを缶の中で発酵させた物で、珍味と言われている。
だが、シュールストレミングの最大の特徴と言えば、食品中最強と言われるほどの『悪臭』である。
密閉された缶詰の中で魚を何ヶ月、時には何年も発酵させるのだ。臭いが凄まじいのも想像が付くだろう。
発酵させると、当然ガスも発生する。缶が膨張しているのはその為で、店頭に並んでいる時点で破裂寸前まで膨張している事もあるとか。
さて、彼女自身は当然の如く、そのシュール缶をドゾするわけなのだが、何せ『最"臭"兵器』の異名を持つシュールストレミング。好き好んで貰ってくれる人は殆どいない。
その為か、彼女はかなり引っ込み思案な性格をしており、ちょっと被害妄想気味。まあ、仕方ない事ではあるが・・・。
服装は白い長袖シャツにサスペンダー付きショートパンツ、襟元に茶色のスカーフ。緑色のショートヘアと眼鏡。頭には大きなシュール缶。
因みに彼女は抜群のスタイルの持ち主。どのくらいかと言うと、シーチキンたんと並べると、シーチキンたんが不憫でしょうがなくなるくらい。

言い忘れていたが、今回彼女が床下で開封したシュール缶は通常の5倍濃縮してある特別製だ。
元より凄まじい悪臭を持つシュール缶が、5倍に濃縮されているのだ。結構鼻の良いしぃ族には、まさに地獄だろう。気絶するのも分かる。
彼女は懐から細長い針の様な物を取り出した。よく見るとそれはコンビーフを開ける際に使用する鍵だった。
十数cmと結構長く、先は本物の針のように鋭く尖っている。正確には『鍵を模した針』ということか。
彼女はそれを握ると、すぐ近くに居たアフォしぃの傍らに座る。そして、その首を軽く手で支えて起こした。
針をしっかり握り直すと、先端部分を気絶して動かないしぃの首の後ろ側にあてがった。次の瞬間―――

プスッ!

994 名前:へびぃ 投稿日:2007/04/12(木) 01:19:03 [ v.b8oWzo ]
首元へ針が突き刺さった。体内へと侵入した細い金属製の針は、一気に皮膚を貫通して脊髄まで到達、それを刺し貫いた。
刺されたアフォしぃは、一瞬体をビクン!と震わせてから、くったりとしてしまった。もう動かない。
シュールたんは動かなくなった事を確認すると立ち上がり、別のアフォしぃの傍らに座る。
そこからは、同じ作業の繰り返しである。傍らに座って、首を持ち上げ、針を脊髄へ突き刺す。アフォしぃは気絶したままあぼ~ん。

プスッ!
プスッ!
プスッ!
次々と、確実に彼女はアフォしぃを仕留めていく。
プスッ!
プスッ!
プスッ!

やがて、全てのしぃに針を突き刺した。部屋の中、動く者は自分を除いて誰もいない。
シュールたんは緊張を解すかのようにふーっ、と長く息をついてから、そのままその部屋をそっと出て行った。


「お姉ちゃん!」

小声で後ろから突如として呼び止められたシーチキンたんは、くるりと振り返った。
見れば、笑顔のコンビーフたんが駆け寄ってくる所であった。
先程までとは違い、足音も普通に立てている。それは無用心では無く、『残りは皆が確実に仕留めてくれただろう』という信頼の表れだ。
溢れんばかりの妹の笑顔に、彼女は微笑みで返す。

「お帰り。以外に早かったじゃない」

ちょっとからかう様に言ってみせると、コンビーフたんはどうだ!と言わんばかりに胸を張る。
その様子にまたも微笑を浮かべていると、廊下の奥からシュールたんも帰ってきた。

「ごめんなさい。少し遅くなっちゃった・・・」

頭を下げる彼女に、シーチキンたんは「気にしない!」と笑顔を返す。
ほっとした表情のシュールたんは、重ねて2人に尋ねた。

「あれ・・・タラバちゃんは?」

その問いに答えたのはまたもシーチキンたんだ。

「さっきからいるわよ・・・ここ」

そう言って自分のすぐ背中の後ろを親指で示す。すると、彼女の後ろからひょっこりと小さな姿が現れた。
「なぁんだ」という表情を浮かべた2人を見てから、再び彼女は口を開いた。

「じゃあ、これでお終いね。後は、帰ってお母さんに報告を・・・」

そこまで言いかけた所で、彼女のスカートの裾がくいくいと引っ張られた。
見ればそれはタラバたんで、何やら首をふるふると振っている。

「どうしたの?まさか、まだ生き残りがいるとか?」

彼女が問いかけると、タラバたんは「・・・こっち」と呟き、廊下を歩き始めた。3人が慌ててそれに続く。
歩き続けた4人は、焼け焦げた部屋の前を通過する。タラバたんがビームで中のアフォしぃごと破壊した部屋だ。
「うわ~・・・派手にやったねぇ」と姉達が口々に呟くとタラバたんは頬を赤らめたが、歩みは止めない。
やがて、何やら納屋のような扉の前に辿り着いた。そこだけ他の扉とは明らかに造りが違う。
タラバたんが扉を開けると、中には少し広いスペースがあり、人が入れる。物がそこかしこに雑多に積まれている。
クエスチョンマークを浮かべる姉達をよそに、彼女は足元に落ちていた書物をどけた。すると、そこだけ少し四角いラインが入り、へこんでいる。
彼女はそのまま、無言でそのスペースを下に押し込んだ。カチリという音。すると・・・

ギギィィィィィ・・・

木が軋む音が響き、突然、少し開いていたスペースの床が持ち上がった。覗き込むと、奥には階段が続いている。

995 名前:へびぃ 投稿日:2007/04/12(木) 01:20:50 [ v.b8oWzo ]
「隠し部屋・・・」シュールたんがそう呟くと、タラバたんは頷いた。

「すごいじゃん。いつ見つけたの?」

コンビーフたんの問いに、彼女は小さく、

「・・・さっき」

と呟いた。

「これは確実に何かあるわね・・・よし、行ってみようか」

シーチキンたんを先頭に、4姉妹は決して広くは無い階段を下りていった。そのまま、姉妹の順に。
一歩降りるたびに、とすっ、とすっ、と足音が響く。
どれくらい降りただろうか、不意に先頭のシーチキンたんが「静かに!」と小さくも鋭く言った。
4人が耳を澄ませると―――奥から声のようなものが聞こえて来る。
そのまま静かに、階段を下りきった。扉が2つある。正面と、右。
コンビーフたんが、まず正面の扉を開いた。すると、そこには―――

「・・・うわ・・・」

誰かが呟いた。それもそのはず、そこにあったのは、見渡す限りの食料品の山、山、山だったからだ。
その中には近所のスーパーで見慣れた商品も沢山含まれており、アフォしぃ共が住民から略奪した物だというのは一発でわかった。

「これは後で運び出すわよ・・・その前に、もう1つの扉を」

長女の号令に従い、姉妹は部屋を出る。そして、息を軽く吸い込んでから、シュールたんが扉を開く。
そこには、何も無い部屋の中央に、簾(すだれ)で仕切られて、畳で一段高くなったスペースが設けられていた。
スペースの中には布団が敷かれており、誰かが寝ている。時代劇なんかで見る、『姫君様の寝室』といった感じか。
だが、そのスペースの中から聞こえて来た寝言は、そういったイメージからはあまりにかけ離れた物だった。

「ムニャムニャ・・・ダッコ・・・モット、ダッコォォォォ・・・ハニャァァァァン・・・」

―――唖然。呆然。4人が浮かべた表情は、まさにそれ。
こんな豪勢な寝室に寝ているのだから、どんなVIPかと思えば・・・アフォしぃですかい。まあ、当然といえば当然か。
恐らく、このアフォしぃは作戦総指揮等を担当しているのだろう。だから、階級も高いらしい。よって、姫君の如き扱いを受けている、と。
―――だが。4人にとっては階級なぞ関係無かった。それどころか、言わばこいつが『元凶』。容赦の余地など無い。
シーチキンたんが乱暴に簾を捲って中に侵入を果たす。3人もそれに続く。
そのまま彼女は、大声と共に馬鹿面引っさげて眠りこけるアフォしぃの首領を蹴り上げた。

「起きんかい・・・このアホンダラッ!」

ドガッ!

「シィィィィィィィィ!?」

脇腹を蹴り上げられた衝撃によって、お決まりの悲鳴と共にしぃが跳び起きた。
そのまま少しの間、呆けた表情で辺りを見渡していたが、目の前の四姉妹―――しぃ達にとっては不審者の姿を捉えると、急に叫びだした。

「ハ、ハニャッ!?ナンナノヨ、アンタタチ!チョット!ハヤク コイツラヲ ツマミダシテ アボーンシナサイヨ!ダレカイナイノ!?」

手下を呼ぼうとするしぃ。当然、反応は無い。

「シィィィィィィ!?ナンデ ダレモ コナイノヨッ!シィチャンノ メイレイニ サカラウヤシハ ギャクサツチュウ ナンダヨッ!」

ヒステリックに叫ぶアフォしぃに、シーチキンたんが笑いながら声を掛ける。

「命令を聞いてないんじゃなくて・・・命令を、聞けないんじゃないかなぁ・・・?」

「ナニヨソレ!ドウイウ イミナノヨ!」

996 名前:へびぃ 投稿日:2007/04/12(木) 01:21:20 [ v.b8oWzo ]
その言葉に答えたのはシュールたん。

「早い話がですね・・・貴方の部下、1人残らず殲滅させて頂きましたので、そのつもりで」

敵に対しても丁寧口調なのが彼女らしい。
当然、それを聞いたアフォしぃは怒り顔。

「ハニャァァァァァ!?ダレガ ソンナコト シンジルノヨ!ギャクサツチュウノ イウコトナンカ・・・」

「別に、信じようが信じまいが勝手だと思うけどねぇ・・・」

コンビーフたんが、呆れ顔でしぃの台詞を遮る。タラバたんがそれに続く。

「どっちにしても、やる事は変わりないんだから・・・ね、お姉ちゃん」

「ハ、ハニャァァァァァ・・・」

アフォしぃはすっかり意気消沈したご様子。

「さ~て・・・覚悟はよろしくて?」

パキン、と指を鳴らしてシーチキンたんが言い放つ。
アフォしぃはその剣幕に押されて何も言えない―――と思ったが、何やら様子がおかしい。
視線は彼女達の方向を見つつも、右手をなにやら布団の下にごそごそと這わせている。
そして、何もアクションを起こさないしぃに4人が微かに疑問を抱いた、まさにその瞬間。
がばっ、とアフォしぃが急に立ち上がるや、いつの間にかその手に握っていた棍棒を振り上げたのだ。

「ゴミクズドモハ、サッサトシニナサイッ!」

叫びと共に、アフォしぃが棍棒を振り下ろす。突然の行動に、4人は面食らった表情を浮かべた。
普通の人間の思考回路はともかく、アフォしぃの思考回路の場合、こういう時に真っ先に狙うのは『一番弱そうな奴』。
卑怯な事を当たり前だと思うアフォしぃならではの思考。当然、奴の攻撃も、4人の中で一番見た目弱そうな人物―――つまり、タラバたんに向けられる。

「危ないっ!」

3人の内の誰かが叫んだ。勝ち誇った笑みを浮かべるアフォしぃ。恐らく彼女の脳内では、その棍棒の一撃が相手の頭蓋を砕いている様子が上映されているのだろう―――が。
タラバたんはあくまで冷静だった。彼女は微かに体を後方へ反らすだけで、その棍棒をいとも容易く回避してみせた。
それだけではない。体を反らしている最中だが、彼女の頭部の蟹缶が光を放ったのだ。

ビシュッ!

短い音。そして、次の瞬間には―――

ボシュッ!

「シィィィィィィ!?シィチャンノ カワイイ オテテガァァァァァァァ!!」

回避運動の最中に彼女が放ったレーザーは、しぃが棍棒を握っていた右手の手首を確実に吹き飛ばしていた。
悲鳴と共に、無くなった右手から鮮血を撒き散らすしぃ。真っ赤な液体が、足元の布団や簾を染めていく。
だが、アフォしぃの苦痛がこれで終わるかと思いきや、世の中そんなに甘くも無い訳で。

「ハニャーン!ハニャーン!シィチャンノ オテテェェェェ!オテテガ、オテテガ・・・ハギャッ!?」

悲鳴を上げ続けるしぃの顔面を、般若の如き形相でシーチキンたんが鷲掴みにした。所謂『アイアンクロー』というやつだ。

「あんたねぇ・・・私の妹に怪我させようとした罪は・・・シーラカンスの住む深海よりもなお深いのよ!
 最初っから許すつもりなんて無かったけど、もう絶対許さない・・・覚悟しなさいっ!」

百獣の王・ライオンですら尻尾を巻いて平伏する程の威圧感。凄まじい激怒のオーラ。
鷲掴みにされたしぃの顔面の骨が、みしみしと悲鳴を上げる。このままでは確実に砕けるだろう。
彼女はそのまま、捲り上げておいた簾からアフォしぃを引きずり出した。

997 名前:へびぃ 投稿日:2007/04/12(木) 01:21:45 [ v.b8oWzo ]
バァン!バァン!

「ジギャァァァァァ!ヤメテェェェェェェ!」

何かを叩きつけるような豪快な音と、アフォしぃの悲鳴が宵闇を切り裂く。
あの後、激情に駆られたシーチキンたんに顔面を掴まれたまま地上まで引きずり出されたしぃは、何度も何度も廊下に叩きつけられていた。
掴まれたままの顔面には彼女の指がめり込み、恐らくひびくらいは入っただろうか。体は言わずもがな、両腕と片足があり得ない方向へ曲がっている。

「まだまだぁ!こんなものじゃ済まさないわ・・・よっ!」

グシャッ!

叩きつけるのを止めたかと思えば、彼女は無事だった左足を踏み潰してみせた。

「シギィィィィィィ!?シィチャンノ カワイイ アンヨガァァァァァァァァァァ!!!イタイヨォォォォォォォォォォォォォ!!!!」」

しぃが悲痛な叫び声をあげるが、そんな事で今更攻撃の手が緩む事も無さそうだ。
怒りが収まらないらしいシーチキンたんは、今度はアフォしぃの首を両手で締め上げた。

「五月蝿い!こんな夜中に、近所迷惑になるでしょーがっ!」

「ア・・・ガァァァ・・・ギィィ・・・・」

首を万力―――いや、それ以上の力で締め上げられるしぃは最早言葉一つ満足に発する事も出来ない。その眼から、命の光が確実に消えていく。
傍観していた残りの姉妹達も、自分達の姉が滅多に見せない凄まじい程の怒りにただただ唖然とするばかり(ちょっとした怒りなら飽きるほど見てきたがw)。
やがて彼女は、締め上げていたしぃを思いっきり地面に叩きつけると、一旦怒りのオーラを消してから、

「そろそろフィニッシュにしようかな・・・タラバ、お願い」

タラバたんを呼ぶ。いきなり呼ばれた彼女は少しばかり驚きつつ、姉の下へ駆け寄る。
シーチキンたんが足元で呻きを上げつつ転がるアフォしぃを顎で示すと、それで全てを察したらしい彼女は、頭部の缶へのチャージを開始する。
光が強くなり―――そして。

パシュッ!パシュッ!パシュッ!パシュッ!

―――4連射。
発射音で聞こえなかったが、グチャ、だか、ブチュ、だかの効果音と共に、しぃの四肢が根元から吹き飛んだ。見事なダルマさん。

「シヒィィィィィ・・・シヒィィィィィ・・・」

最早定型句である「シィチャンノ カワイイ オテテー!」といった台詞も出て来ない。どうやらそろそろ限界のようだ。
同じように考えたのか、シーチキンたんもそれ以上の打撃を加えず、しぃの首根っこを掴んで持ち上げる。

「オナガィィィ・・・、モウ・・・ユルシテェェェ」

微かな哀願が聞こえたが、彼女が返したのは至極真っ当、それでいて冷凍鮪よりも冷た~い返答。

「・・・今更遅いっ!そんな事言うなら、初めから人様に迷惑かけるな!」

言い切ると同時に、彼女は達磨と化したしぃを高く高く放り投げた。
上昇するしぃは頂点で一旦静止した後、失った四肢から噴き出す鮮血を纏いながら落下してくる。
それを確認した彼女は、どこからか取り出したあの巨大鮪を担ぎ上げた。
やがて落ちてきたしぃが、彼女の頭上、目の高さ、とどんどん下降してくる。その一瞬一瞬が、何だかスローモーションに思える。
シーチキンたんは、しぃが自らの腰の高さまで落ちてくるタイミングにぴったり合わせて、己の腕に握りし鮪を全力で振り抜いた。

カ ッ ッ ッ キ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ン!!!!

本日一番の快音が、夜の空気を震わせた。姉妹達も思わず「おぉ~・・・」と呟く。
夜空へと吸い込まれていくしぃのシルエットがやけに小さいと思ったら、それは首だけで、胴体の部分は彼女の数m先にドサリと落下してきた。
まるで彗星のような、或いは打ち出されたライフル弾のような勢いで夜空を駆けるしぃの首は、やがて文字通り『星になった』。
もっとも、アフォしぃなんぞの首如きが、夜空を賑わせる美しい星達の仲間入り出来たなら、の話だが。

―――チャラーラ ジャン!(脳内BGMここまで)

998 名前:へびぃ 投稿日:2007/04/12(木) 01:23:11 [ v.b8oWzo ]
あの後すぐ、四姉妹は闇に紛れつつ帰宅した。
翌朝、数人の若者がいつものようにアフォしぃ共が出て来ないのを不審に思って、思い切って屋敷に侵入した所、庭で胴体のみとなったアフォしぃの死体を発見した。
若者の通報で警察と軍が屋敷へ突入した所、屋敷中あちこちで朽ちているアフォしぃ達を発見。
頚椎損傷、脳挫傷、窒息、爆死等など死因は様々だったが、捜索の結果アフォしぃ達は全滅していた事が判明した。
こうしてこの町はアフォしぃの暴政より開放され、住民達は再び好きな物をお腹いっぱい食べられる生活を取り戻したのだった。
―――そして。


「コンビーフ、ドゾー!」

屋敷(現在は調査の為立ち入り禁止)の前で、コンビーフたんはやはりコンビーフを配っていた。

「ありがとさん」

ギコ族の青年が、それを受け取る。すると今度は、

「あ、あの・・・シュールストレミングも、よ、良かったら・・・どぞ」

その隣で、消え入りそうな声でシュールたんがシュール缶をおっかなびっくりといった感じで差し出す。
彼は『シュールストレミング』の名を聞いてギョッとした表情を浮かべかけたが、シュールたんの今にも泣きそうな顔を見て、苦笑にも見える笑顔を浮かべた。

「あ、ああ・・・有難く貰う事にするよ」

そう言いながら、差し出された缶詰を受け取る。今まで殆ど受け取って貰えなかったのだろう、彼女の顔がぱっと輝いたのを見てから、彼は去って行った。
去り際に、「これ・・・どうやって調理しようか・・・」という呟きを残していったが、彼女達は気付かなかった。
と、その時だった。

カッキィィィィィィン!!

青空に鳴り響く快音と共に、少し離れた場所から1人のAAが地上より打ち出され、空の彼方へと消えていくのが見えた。

「うっひょ~!よく飛ぶねぇ」

コンビーフたんがはしゃぐ。その横で、シュールたんはため息。

「あ~あ。またお姉ちゃんに何かいけない事言ったのね・・・」

2人は揃って、大空へと吸い込まれていった若きAAへ向かって、心の中で合掌した。
その他にも、屋敷の前では奪われた食料が配給されていた為、多くの住民が集まっていた。
昨日まで絶望すら浮かんでいた人々の顔には生気が戻り、笑顔で食料を受け取っている。
タラバたんもその中にいた。幼稚園の友人や先生と一緒に、貰ったおにぎりを笑顔で頬張っている。やはり彼女も相当空腹だったのだろう。
プリンを食べたがっていた軍人3人組も居る。隊長らしき女性と隊員のギコが、凄まじい形相でプリンを奪い合っている。
最早階級の違いなどあったものでは無い。隊員のモナーが、呆れ顔で2人のプリン争奪戦を眺めていた。
その時コンビーフたんは、食料を貰おうと並ぶ人々の中に、昨日コンビーフをあげたちびギコの姿を捉えた。
彼の顔はとても生き生きとしていて、希望に満ち溢れている。隣にいる母親らしきしぃ族の女性を気遣いながら、列に並んでいた。
その顔を見たコンビーフたんは、ぽそりと呟いた。

「・・・やっぱさ。食べ物は大切にしなきゃね」

それを聞いたシュールたんは、その通り、と言う様に笑顔を投げかける。

「よーっし!今日はいつもより余計にドゾするぞーっ!」

気合を入れなおしたコンビーフたんは、両手にコンビーフを構えると、風よりも早く駆けていった。
そして、目に付いた人に手当たり次第、コンビーフを配っていく。

「コンビーフドゾー!ドゾー!ドゾー!」

彼女の姿が人込みに見えなくなっても、彼女の声はしっかりと届いた。
まるでレーザー光線のような速さで駆けずり回りながら、彼女はコンビーフを配っていく。
シュールたんはそんな妹の姿に再び微笑みを浮かべてから、こちらもなかなか減らないシュール缶を配り始めた。


『コンビーフ、ドゾー!!』



皆さんも、食べ物は大切に―――。


【終劇】


※この作品はフィクションです。実際の『朝まで起きてたのに・・・』スレッドとは、一切関係ありませんよ~。