新・座頭モラ

Last-modified: 2015-06-19 (金) 00:19:31
86 名前: ろじゃー(wNWdMiVA) 投稿日: 2003/08/29(金) 03:08 [ 4yF8.u2k ]
えー、座頭モラ作者もといろじゃーです。
今回、好評と言う程好評でもなかった僕のデビュー作
『座頭モラ』を、元ネタである『座頭市』の映画化に先駆けて
(意訳=座頭市映画化にかこつけて昔のネタを掘り返して)
『新・座頭モラ』の公開です。カールのチーズ味でも食べながら
適当に読んで下せぇ。はじまりはじまり。


〆新・座頭モラ〆


『モラ』という名のモララーがいる。
しかし彼はただのモララーではなかった。
盲目…つまり座頭なのだ。

彼は視覚のない分発達した聴覚、臭覚、味覚と杖を扱い諸国を旅し、
按摩をしている。最も味覚と言うのはさほど旅に役立たないが。

彼は一抹の心無き者から「めくら」と罵られ、軽蔑されている。
---だが彼は例えそう言われても怒りも哀しみもしない。
ただ、ただ無気味に『デヘヘ』と、妙な笑い方をするのみだ。
そして彼に罵詈の言葉をぶつけ、この奇妙な笑いを聞いた者は----

何も無い暗闇の中、彼は独り歩く。
たった、独り。

787 名前: ろじゃー(wNWdMiVA) 投稿日: 2003/08/29(金) 03:09 [ 4yF8.u2k ]
其の一 今日も独り旅

その常時眼をつむったモララーは、腰を掛けるに丁度良い岩の上に
座っていた。そして、懐から丁寧に包まれた握り飯を食べ始めた。

彼は盲目の按摩師のモララー、名はモラ----座頭モラとでも呼ぼうか。

座頭モラは三個ある握り飯の一つを食べ終え次の握り飯へ手を伸ばした。
その時だ。

「チョット」

どこかしら感に障る声だ。
座頭モラは思った。声質からするとしぃだな、と。

「何でございやしょ?」

座頭モラは声のする方向へ首を向けた。
すると、何を思ったかしぃは急に嬌声を張り上げた。

「アッ!皆、見テ!コイツ、メクラダヨォー!」
「ア、ホント!」

しぃは二匹いるようだ。

「メクラウザー!オメメナイ、キモッ」

まあここまで来れば誹謗中傷も芸術である。
罵詈雑言の嵐の中、座頭モラはヘラヘラと笑っている。

「デッヘ、ヘヘヘ…お嬢さんがた、何のご用で?」
「シィチャン達オナカスイテンノ」
「ふぅん、で?」
「ニッブーイ!」
「コレダカラメクラハ…」

すると一匹のしぃが片方のしぃに、耳打ちする。
バレてないつもりだろうが、座頭モラの聴覚は常人より何倍も
発達しているので丸聞こえであった。

「コイツメクラダカラ、黙ッテオニギリサン盗ッテモバレナイヨ!」
「ア!ソウダネ!アノオニギリサンダッテメクラヨリ…」
「メクラヨリシィチャンニ食ベラレタ方ガ嬉シイ!」
「ソウ!ダカラ食ベテアゲヨッ!」

全く、むちゃくちゃだ。
「この世には法がある!それはしぃの法だっ!!」
まさにそんな感じである。(元ネタ分かる人が何人いるやら…)

そうっ、と一匹のしぃは握り飯に手を伸ばした。
座頭モラは微笑を浮かべている。
しぃの手が握り飯を二つ掴んだ。
それと同時にしぃはさっと4、5歩後退し、片方のしぃへ握り飯を渡した。

「コノヴァカメクラ!オニギリトラレタノモワカンナイ?」
「ホントマヌケー!ドンカン!メクラナンテ、コンナモンヨ!」

しぃは挑発的な言葉を座頭モラに浴びせる。
どんなに馬鹿にしたって、眼が見えないんだからどうせしぃの所には
来れない---そうしぃは考えていたのだ。
しぃは握り飯にかじり付く。

「ゲッ、何コレ具ガナイヨォ!アジモウスイ!」
「ナンテモノ食ベサセルノヨ、オニクイレナサイヨ!」

わがまま極まりない。
自分で食べておいて悪態をつき、しまいにゃ「なんてもん食わすんだ」
まで言い出す始末。座頭モラが重い腰をageた。

「具ならありますよ。デハッ」
「ハニャァ?具ナンテドコニモ」

788 名前: ろじゃー(wNWdMiVA) 投稿日: 2003/08/29(金) 03:09 [ 4yF8.u2k ]
次の瞬間、しぃの耳が地面にへばりついた。

「ハニャァァァ!!シィノオミミガァー!!シィィー!!」

火が点いたように泣きわめくしぃの後ろには、血に塗れた仕込づえを持った
座頭モラがいた。薄目を開けている。白い、何も写らぬ眼を。
耳を切られていない、もい一方のしぃは逃げようとして走り出した。
ちゃっかり握り飯だけはつかんで。
が、しかししぃの思惑通り事が運ぶ訳なぞない。
あっと言う間に座頭モラに追いつけられてしまう。

「ハニャァ…オナガイ…ユルシ」
「さっき…具がないとかほざいてましたよね?」
「ソ、ソンナコト」
「言いましたよね?」
「…ハ…ヒ…」

座頭モラの形相にしぃは怯え、ろれつが回っていない。

「具なら!」

すると座頭モラは叫びながら片手に持っていた、先程切り離したしぃの
耳を高らかに振り上げつづけた。

「これがある!」

バッ、としぃの持っていた握り飯を引ったくり座頭モラは白い米の中に
赤く染まった耳を埋め込んだ。

「さぁ召し上がって下さい。具は耳、血の味が効いてるから塩も抜群です」
「…タ……ク…ナイ」
「何?」
「食ベ………タ…ク…ナイ」

座頭モラは少しばかり鼻で笑うと、無理矢理しぃの口にそれを押し込んだ。

「ンン!?ンッン…ンン!≫¬∧∨∀仝〆〓♯♭!?仝⊥��⌒∞♭!?」

しぃは口内を完全に塞がれ声を発せず、奇妙なうめき声をあげた。
握り飯を頬張ったしぃの首根っこを掴み、座頭モラはそれを地面に叩き付けると
耳を切ったしぃの方へ歩み寄った。

「ダッコスルカラユルシテ…」
「いえいえ。お嬢さんの小汚いダッコなぞは恐れ多くて受け取れません」

しぃは絶望的な表情を浮かべた。
座頭は猟奇的な表情を浮かべた。
どこまでも数奇で奇妙な場面の完成である。

その後ある山道で二匹のしぃの死体が転がっていたそうだ。
座頭モラの行く道、死骸と血煙で埋め尽くされるのであった。

完。