死を運ぶ神

Last-modified: 2019-10-08 (火) 00:21:38
300 名前:貧血 投稿日:2004/09/18(土) 00:23 [ /GEGYnaI ]
  「ある一つの 発端」

 

    足リなイ

 血が、欲しくなった。
 美しい程赤い、血が。

    足リナイ

 もう、限界。
 赤色の液体が飲みたい。
 もう、化物としか言い様がない。
 
     コろセ。

 渇きを癒す為なら、化物になっても構わない。
 躊躇する――? そんな、必要なんて、無い。
 この渇きを癒す為なら、何だって出来る。

     コロせ

 頭痛がする。とっても痛い。苦しい。
 まるで万力で思いっ切り頭を締め付けられるかのようだ。

 最初の、お願いをしよう。
 誰かを、殺して、血が飲みたい。

 それ以外、何も考えられない。
 考えたくも、無い。

 もう、戻らなくてもいい。
 今まで保ってきた"わたし"は此処で壊れた。

301 名前:貧血 投稿日:2004/09/18(土) 00:24 [ /GEGYnaI ]
  「血濡の園」

 アア、喉が渇イた。
 躊躇スる必要ハ無い。
 サぁ、早ク、乾きヲ癒シにイこウ。

 公園ニ行くこトにしタ。
 理由、ソんナモノは無イ。
 クダらなイ生物ヲ、壊すダけ。

 コの街、イや、コの国は「モララー」と言ウ人種以外は殆ドいなイ。
 ソう言ッてモ過言でハない。
 「モララー」以外の人種ハ迫害サれテイる。
 何ノ能力モ無い、「モララー」如きニ。
 潰すノガこンな腐ッてイル国で良かッた。
 ワタシでモ良心アる者ヲ殺スのハ少シ気が引ケる。

 さテ、マズは一匹目ダ。
 相手ハワタシノ殺気ニも気付カない。ナんテ愚かナAAだ。
 一瞬デ間合ヲ詰メる。精々7m程度ダ。
 運動不足ノ私にハ仕方がナい。

 ソシて死角に潜リ込むト
 両手ノ爪デ、喉ヲ裂ク。
 ソノままでモほオッテおケば息絶えエるだロウ。
 ダが、私ハ、コイツの 背中ニ 回リ、
 コイツの背中ヲ抉ル様に斬り裂キ続ケた。

 血ハ不味い。見タだケで判ル。
 ドロドロトしテいル。簡潔に表現すレバ混沌ダ。
 殆ど肉しカ食っッテイないようだ。

  ―コんナの イラなイ。

 さッキまデ神ヲ気取ッていたソいツハ マるで狂ッた様ニ悶絶すル。
 ソイツは声ガ出セナい。当然ダ。ワタシが喉ヲ引き裂イたノダかラ。
 散々狂イモガいタ挙句、絶命しタ。

 フと、ワタしノ顔かラ笑ミが毀レた。

 心ノ底カら笑エたノは生まレテこノ方初めテかモ知れナい、な。

 嗚呼、本当ニ愉快ダ。つイ数秒前マで 勝者気取リでイたコイツがコうなルのハ。
 ワタシは全てニおいテ敗者ダッた。そウ、全てニ置いテ。
 ダかラ、すゴく愉シい―――
 コこにイる全ての生物にコの憤怒ヲ叩きツけル時がドれホど気持ちヨい事か想像もつカナい。
 アあ、愉しイ。コンな事ガ何度もオこなエると思うト狂ッテしマいソウだ。


  ―――…嗚呼、既に、ワたしは、狂っテ、イたか。

302 名前:貧血 投稿日:2004/09/18(土) 00:26 [ /GEGYnaI ]
  「 死を運ぶ神 Ⅰ」

 サテ、次ハ二匹目。
 コイツかラハワタシの同属ノ血ノ臭いガスる。
 コンナ奴の血ヲ飲むなんて頼まれタッテごメンダ。
 仇ヲ討ち、尚且ツ、自分ヲ満タす。
 造作モ無い。皆殺シなド、造作モ無イ。

 皆殺シ。
 皆殺シ。
 皆、ミんナ殺ス。
 今更躊躇スル事ハ無い。
 クダらなイ生物なド、死んデシまエ。

 良イ事を考エた。
 一匹目とハ違う方法デ行コう。
 コイツの正面カら挑んデやル。
 コイツノプライドっテ奴ヲ悉ク打チ壊ス。
 ソシて、絶望に歪ム表情ヲ拝んデやロウ。

 ワタシと奴の距離ハ、9m程ダ。
 三歩デ届く。たっタソれダけの距離。
 奴ハワタシの存在ヲやっと確認しタラシい。
 遅スギる、予備動作。無駄ノ在リ過ぎル、予備動作。
 刃物なドハ、こッチにハ一つモ無い。

 アッちハ、サバイバルナイフ。
 恐ラく最高級品ダ。三万ハ下ラナいダろウ。
 何度も何度モ使ワれてイる。少なクトも五十回。
 所々黒ずンダ血ノ痕がこビリ付いテる。
 ダガ、手入れグラいハ、しテ貰いイいタいモノだ。

 アあ、イいハンデじゃナイか。
 とテモ良いハンデ――

 ――否、ハンデなド無カッタ。
 最大ノ鈍器ハ、唯ノ腕ダッタ。
 そノ腕デ、叩キ潰す。砕ク。引キ千切る。
 ソレが出来ル、最大の武器。
 嗚呼、残念ダ。ハンデすル事すラ出来ない、ダなンて。

 一歩。
 大気ガ揺らぐ。
 こコら一帯は既ニ、私の空間ダ。

 一歩。
 空間ヲ多い尽クす、私自身ノ殺気。
「は…ははは…」
 奴も近づイテくる。
 余リの絶望ニ笑いナがら、近づイテくる。
 愚かダ。愚かデ仕方ガナイ程愚か。

 ワたシに対してナイフを投げル。
 ソのナイフは空ヲ切る。
 ソシて、木ニ突き刺サる。

 5m程だガ、ワたしかラ離れテイる。
 恐らクこの間合イを保つノニ全力だ。
 非常ニ良イ判断ダ。悪運が強イラシい。
 後2秒でも遅けレバ、奴ノ頭は砕けテイた。

 サて。
   コの遊戯を、少しバかリ愉しむトシよウ。

303 名前:貧血 投稿日:2004/09/18(土) 00:27 [ /GEGYnaI ]
  「 死を運ぶ神 Ⅱ 」

「ロスでもこんなこたぁ、起きなかったぜ…」
 そう呟くと、自分の運の悪さに苦笑する。
 "いつものこと"をやってここで休んでいただけだ。
 取り敢えずは――

 ――逃げよう。
 こいつは生物として、存在してはならない。
 何故こんな化物に、いや、化物の次元では無い。
 化物なんて生易しいものではない。

 例えるならば、死神だ。
 出会ったモノの命を無慈悲に刈り取る、紅色の死神。
 避ける術など存在しない。ただ殺されるのを待つのみだ。

 尤も、殺されるはごめんだ。
 だからこそ、抵抗しているわけで。

 ポケットのチャカを取り出す。
 コルトパイソン。マグナムだ。
「喰らっときなッ!!」
 引き金を引く。
 当たれば、致命傷。
 この角度なら、当たる――!

 ――だが。
 死神は造作なく避けた。
 そうなるのは多分薄々気付いていた。

 当たらない事は判ってた。
 だが、なんてコトだろう。

 時間稼ぎにすらならないなんて。
 単純に、スピードだけで、避けた。
 それだけの、コト。
 技術なんて何も無い。
 だが、無駄の無い行動。

 近づいてきたら、 殺せる。
 きっと、間違いなく殺せる。

 他の何にでもなく、
 他の誰にでもなく。

 ――――――ヤツは、俺を、殺す。

304 名前:貧血 投稿日:2004/09/18(土) 00:29 [ /GEGYnaI ]
   「 死を運ぶ神 Ⅲ 」

 逃げることは、出来ないだろう。
 だが、本能が叫ぶ。
 逃げろ、逃げろと。
 「俺では、こいつには勝てない」と。

 もし、背を見せたとする。
 そんなことをしてしまったら、死ぬ。
 俺が瞬きした瞬間に、俺の首は無くなる。

 じりじりと近寄ってくる。
 まずい。やられる。
 バッグに在るのは、消毒液ぐらいか。
 とても、いいことを考えた。

「最後の一服ぐらいさせてくれ。
  それが終われば、潔く死んでやるよ」
 そんな台詞を吐く。
 だが、死ぬつもりなんて毛頭無い。
 相打ちは、恐らく無理だ。
 そんなチャンスを待つ前に殺られる。
 だが、少なくとも奴に手痛いダメージを与えることくらいは出来る筈だ。

 そう言い、煙草をバッグから取り出す。
 消毒液も一緒に、だ。
 そして、煙草に火を付ける。
 動く気配はない。どうやら、死神サマは了承してくださった様だ。

 煙草を吸い終る。
「タイム・アップって奴か。
  さて、まぁさっさとやっちゃってくれや」
 当然ながら、死ぬつもりは毛頭無い。

 死神は、一歩づつ近づいてくる筈だ。
 それが、最大のチャンス。
 俺の間合いに近づいてきた瞬間、奴を仕留める――!

 一歩。
 まだだ。まだ当たらない。
 避けられる。そうしたら終わりだ。

 二歩。
 あと一歩だ。確実に仕留める。
 ポケットから、チャカと、消毒液を取り出す。

 三歩――!
 消毒液の入った瓶を投げる。
 この距離なら、避けれる筈が無い。
 瓶に対して、マグナムを撃つ。

 消毒液の中身は、エチルアルコールだ。
 そう、エチルアルコール爆発させる。
 この爆発で殺すのは、決して不可能じゃない。

 そうだ。
 刺し違えたって、痛手ぐらい負わせてやる。
 むざむざ、犬死になんてするものか―――!

305 名前:貧血 投稿日:2004/09/18(土) 00:31 [ /GEGYnaI ]
   「 死を運ぶ神 Ⅳ 」

 爆発音。後方に吹き飛ぶ。
 ガラスの破片は俺には全く当たらなかった。
 計算済み、とは言えないがこうなる事は予想していた。

 ヤツの死亡を、確認しなくてはいけない。
 このまま帰ろうものなら、確実に背後を取られ殺される。
 恐らく生きている。

 だが、怪我は免れないはずだ。
 まずは、確認をしなければいけない。

 生きているなら殺す。殺してください、と言われるまでに。
 死んでいるなら完全に殺す。八つ裂き、何分割にでもしてやろう。
 さぁ、確認だ。

 ―――いない。
 外した?否、ありえない。
 たしかに吹っ飛んだ。
 何故だ?何故?何故いない?

 不意に、後ろの方に気配を感じた。
 振り向く。だが、何もいない。
 いる筈が無い。

 もう一度、確認しよう。
 やはり、いない。
 あんな近距離じゃ、避けれる筈は無い。

 不意に、寒気がした。
 ココニイテハイケナイ。
 本能が、そう叫ぶ。
 理性が、悲鳴をあげる。
 とても、うるさい。

  今は、どっちも邪魔でしかなかった。

306 名前:貧血 投稿日:2004/09/18(土) 00:31 [ /GEGYnaI ]
   「 死を運ぶ神 Ⅳ 」

 とっても、居心地が悪い。理由は単純。
 俺の真後ろには、ヤツがいるから。
 無様、としか言い様が無い姿で。
 手は、真っ黒に焼け爛れ。
 足には破片が突き刺さっている。
 ホント、よくやったよな、俺。

 だが、生き死にの問題の結果は、そこで決定していた。
 ――ヤツに、後ろを、取られた、時点で。

 ヤツは、俺の喉を切り裂いた。
 呼吸器官を、取り出したらしい。
 息が、苦しい。

 痛い。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 痛みで頭が狂いそうになる。

 そしてヤツは、俺の腕を握った。
 激痛が走る。そうしたら、これだ。
 まるで野菜か何かのように簡単に、俺の右手が潰れた。

 次は、左手に狙いを定めたらしい。
 尤も、この状況下じゃ抵抗すら出来ないが。
 そして、ヤツは俺の左手に、爪で何度も引っ掻いてきた。

 白いモノが見えている。
 多分、骨だった気がする。
 バキリ、と折れた音がした。
 もう、きっと、使えない。

 真っ赤な、肉と筋が見える。
 多分、つい数分前まで筋肉だったモノ。
 それを、引き裂いた。滅茶苦茶に。
 もう、二度と、使えない。

 次に、俺の左足を蹴った。
 左足は、とても高く飛んでった。
 そして、水風船のように、地面に落ちて破裂した。
 不思議と、痛みもしない。
 さっきの拷問で、俺の神経はおかしくなってしまった様だ。

 次は、右足。
 ヤツは、右足を千切った。
 何度も、何度も。狂ったように。
 見たところ、5cm程の大きさに千切っている様だ。
 何故だろう。全く、痛くない。
 でも、動く箇所が少しずつ減っていく。
 どんどん、使えなくなってくるのは、怖い。

 両手、両足は、動かない。
 狙う箇所は、腹ぐらいか。
 このまま、狂ってしまえば楽なのに。
 このまま、壊れてしまえば楽なのに。

 腹を爪で抉られた。
 ヤツは、俺の腹の中から、赤色の紐を取り出す。
 ああ、確か小腸、とか言っただろうか。
 小腸以外のものも、沢山、取り出した。
 でも、もう、全部使えない。そんなもの、いらない。

 もう、残ったのは頭だけだ。
 ヤツは爪で、脳を取り出した。
 そして、眼球を抉る。ああ、目の前が暗くなった。

 もう、何も無くなった。
 声も、手も、足も、夢も、希望も。
 何も無くなった。そう。何一つ無駄の無い、体。
 中身の無い、空っぽな、体。

 あれ――?
 何で 俺は 何も 無いのに 生きて いるんだ ?
 生きて いたって 意味が 無い。
 あ ア  な ン  て   無   様  だロ  ウ。

   誰 で モ  い イ  か ラ   早  ク  殺 し  テ く レ  な い だロ  う カ。

307 名前:貧血 投稿日:2004/09/18(土) 00:32 [ /GEGYnaI ]
  「ある一つの、終焉」

――眼を、開いた。

 一面に広がる、世界。
 そこは、お花畑などでは、なかった。

 一面に広がる、真っ赤な、屍の山。
 そこは、正に、地獄だった。

 望んだのは、自分。
 引き起こしたのも、自分。
 紛れも無い、自分。
 焼け爛れた手は、血に染まり、
 硝子の破片が突き刺さった足は、肉がこびり付いていた。

 私に  生きる意味は  無い。
 他人の分を 奪うなら 死んだ方が いい。
 だから 私の生涯に 意味なんて いらない。

 木に、ナイフが刺さっている。
 黒ずんだ、サバイバルナイフ。

 私はそれを手に取ると 、首に突き刺した。

 不思議と、痛みはしない。
 何故だろう。私は苦しんで死ななければいけない。
 何で、神様は私にこんな安らかな死を与えるのだろう。

 こんなコト、望んでない。
 望んでないから、叶わないで欲しい。

 辺りが、暗くなっていく。
 もう、何も見えない。
 何も、無くなった――?
 
 声も、手も、足も、血も、夢も、希望も。
 何も無くなった、筈。
 全て、奪いとったけど、全て捨てたはず。

 声は、枯れ果てた。
 手は、朽ち果てた。
 足は、腐り果てた。
 血は、消えていった。
 夢は、自分と一緒に捨てた。
 希望は、最初から無かった。

 中身の無い、空っぽな、体の、筈。
 生きていたって、意味が無い筈。

 なのに――
 何で、空じゃない?

 何も感じない。
 何も考えない。
 ただ、あるだけ。

 それが、私。

 なのに、自分が空っぽな気が、しない。
 いつもと同じ。そこにあるだけ。

 ああ、やっとわかった。
 私は、最初から、何も無かった。
 空っぽな、存在だった。

 ただ、あるだけ。
 人の形をしているだけ。
 それだけの、人形。

 そんなモノは、いらない。
 人形なんて、いらない。 
 私なんて、いらない。

 そうだ、最後の願いは、
 空っぽになる事じゃなくて、
 消えるコトに、しよう。

       こうして私は、眼を閉じた――