残響

Last-modified: 2015-06-23 (火) 00:06:40
36 名前: 三大珍味の作者 投稿日: 2003/11/10(月) 17:31 [ QXd1SD92 ]
 
「残響」

最近、野良となったちびギコ種が畑や作物を荒らし、農家の人々
が苦労して育て上げた農作物を奪いとっていくという被害が相次い
でいた。
 男はそういった農家の人からの願いを聞き入れ、狩りの為に身を
潜めていた。うっそうとした茂みの中で息を殺して目標が来るのを
じっと待つ。
 目標を捕らえやすいように照準機の倍率を調整し、最大の視界を
得られるようにする。
 男の正面には200メートル余りの広さを持つニラ茶畑が広がり、
どれも見事な出来映えを誇っている。
 と、照準機越しに見える茂みが微かに動くのを男は捉えた。側に
置いてある鞄から弾丸をニ発取り出すと、手際良くライフルに装弾
動作を行い、伏射姿勢を取る。
 茂みから姿を現したちびギコはフサフサした体毛を持っていた。
辺りを見渡して誰もいないことを確認するとちびしぃを手招きして
呼び寄せる。
 ちびしぃは、手に大きな布切れを抱えている。どうやら風呂敷の
ようだ。おそらく奪い取ったニラ茶を包んで持ち帰るつもりなのだ
ろう。
 男は表情一つかえずに、照準機を調整する。ちびという名前通り、
目標は標準男子の肩から腰までの大きさしかない。照準機の中央に
示されている十字線に従って撃っても弾着する位置が大きくずれる
事があるからだ。
 十字線の中央よりやや上にフサちびギコの頭部を捉えると、引鉄
に軽く指を乗せると、心臓の鼓動がライフルに伝わらないように、
慎重に息をゆっくりと吐きながら引鉄を引くと、反動が軽い振動と
なって男の肩にぶつかった。
 照準機の向こうにいるフサちびギコは見事に眉間を撃ち抜かれ、
後頭部は吹き飛び、脳漿が飛び散った。
 銃声が響き渡ると同時にちびしぃはフサちびギコに近寄り、肩を
両手で掴み、死体となったフサちびギコに何かを呼びかけている。

「 復 活 し て く だ さ い。」

 男はちびしぃの唇を読み取っていた。目前で起きた事を信じる事
が出来ないのか必死になってフサちびギコを起こそうとしている。
 無言のまま男はボルトを操作し排莢を行うと、次弾を装填する。
ちびしぃはこちらの気配には全く気付いていない。顔は涙で真っ赤
に染まっているようだ。
 男が引鉄に指をかけるのと同時にちびしぃが振り向く。男の視界
には小さな体を震わせ、辺りを見渡すちびしぃの姿があった。
 完全な偽装を行い、自然と一体化している男の姿はちびしぃには
見つける事は出来ない。
 ちびしぃが畑から逃げようと背を向けた時、車のタイヤがパンク
したかのような音がしてちびしぃの頭が弾け飛んだ。

 銃声の残響がこの日の狩りの終わりを告げていた。