母娘喧嘩

Last-modified: 2021-08-19 (木) 16:37:37
721 名前:若葉 ◆t8a6oBJT5k 投稿日:2006/06/14(水) 00:11:25 [ 5RNl3Sq2 ]
タイトル 『母娘喧嘩』
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沸きたての熱湯で淹れたニラ茶を前にして、あたしはご機嫌だった。
猫舌だから、すぐには飲めない。ふぅふぅ息を吹きつけていると
玄関のドアが開く音がして、娘が学校から帰ってきたのだと悟った。

「オカエリナサイ。アナタモ、ニラチャ、ノム? トッテオキノ、マターリアジ、ダヨ」
視線は茶碗に向けたまま言った声が自分でも弾んでいるのが判った。
でも娘の返事が無い。
怪訝に思って振り向くと、すぐ近くまで寄ってきていた娘の顔は、ひどく青褪めていた。

「オカアサン……アタシ、ビョウキカモ、シレナイノ」
瞳に大粒の涙を浮かべて、ぐすっと鼻を鳴らすと細い肩が震える。
「オチツキナサイ、ナニガアッタノ?」
「アノ、ネ。オカアサン。アタシノ、ムネ、ネ…イタイノ」
消え入りそうな声で娘は言った。
怪我も何もしていないのにズキズキと乳房が鈍く鋭く断続的に痛むのだ、と。

「オカアサンニ、ミセテゴラン」
毛皮をまさぐって触診してみると、娘の胸は柔らかな膨らみを形成していた。
触ると痛いのか、ほんの少し苦痛の色を表情に浮かべながらも、娘はじっとしている。
軽く揉むと弾力があり、若く張りのある感触が手の平に伝わってきた。
恥ずかしそうに目尻を紅く染めて指の動きに耐える表情が、やけに大人びて見える。

いつの間に、こんなに成長していたんだろう?
チラリと腰に視線をやると、幼児体型だったはずの娘の腰には
ほっそりと女らしく艶っぽい、くびれができている。
純白の毛皮も健康的に輝いていて、柔らかくて手触りが良かった。

「………」
思わず自分の体と、見比べてみる。
出産後は体型も崩れたし、子育てに必死でオシャレも満足に出来なかった。
腹と胸には、たるみが出てきて肌の張りは感じられなくなっている。
肌だけではなく毛皮の色艶も衰え、パサパサと乾いたような感触になっている。
しっとりした娘の体躯とは大違いだ。なんて、惨めなんだろう。
自分の眉間に、ひそやかに皺が寄るのを感じた。

「オカアサン?」
唇を真一文字に引き結んで歯を噛み締めていると、娘が心配そうに声をかけてきた。
皺のない若い顔を見て、自分の中で憤りが爆発したような気がした。
この娘が、あたしから若さと美しさを奪ったのだ、と思った。
こんな娘、産まなければ良かった。そう、産んではいけなかったんだ。

「オカアサン?」
「イイエ、ナンデモナイワ。ソレヨリ、ハシルト、ムネガユレテ、イタミガ、オオキクナル?」
娘は、こくこくと頷いた。
「アァ、ヤッパリ、ソウネ」
きっと成長痛だ。成長期には節々の間接が痛むことがある。
つまり、その痛みは娘の胸が女らしく膨らみ始めてきた証拠でもある。
憎たらしいったら。

「キット、ムネノナカニ、ギャクサツチュウガ、イルノネ。ワルイ、ワルイ、チイサナ、ギャクサツチュウダヨ」
「ギャクサツチュウ!! イヤァ、ソンナノ、イヤダヨォ。タスケテ、オカアサン、ドウシタライイノ!?」」
娘の声は裏返っていた。
こんな嘘を信じるなんて。こういうところは、まだ子どもだわね。

「ダイジョウブヨ。オカアサンガ、タイジシテ、アゲルカラ」
裁縫箱を持ってくるように言うと、涙を零しながら娘はガクガクと頷き
転げ落ちるような動作で走っていく。すぐに裁縫箱を抱えて戻ってきた。

もつれるような手の動きで留め金を外し、裁縫箱を開ける娘。
でも裁縫箱の中身は、開けた娘のほうからしか見ることが出来ない状態だ。
正面に立っていたあたしからは、蓋しか見えない。

「コッチニムケテ、アケナイト、ダメデショ。キガキカナイワネ」
蓋をパシッとつくと、蓋は娘の乳房の先端を挟んでパタリと閉まった。
瞬間、娘の口が悲鳴の形に開かれ、裁縫箱を取り落として声もなく、しゃがみこんだ。
浮き上がった汗の珠が毛皮を滑り落ちていく。
身体を2つに折るようにして頭を下に向け、全身を細かく震わせている。
激痛のあまり、声を上げることすらできないのだろう。

「モゥ。ナニ、シテルノヨ」
ぶつぶつ言いながら零れ落ちた裁縫箱の中身を掻き集めて娘をみると、
まだ同じ姿勢のまま震えていた。

「イツマデ、ソウヤッテルツモリ? ホラ、コッチニキナサイ。オムネノ、ギャクサツチュウ、コロスカラ」
虐殺厨と聞いて娘の肩がピクリと動いた。
涙目で顔をあげて、ベソベソ泣きながら近づいてくる。

722 名前:若葉 ◆t8a6oBJT5k 投稿日:2006/06/14(水) 00:13:39 [ 5RNl3Sq2 ]
「オムネノ、カザリ。フタデ、チギレチャッタカモ。イタイ、イタイヨ、オカアサン」
情けない泣き顔だ。いい気味だけど、ここで笑ったら不審がられてしまう。
神妙な表情を作りながら再び毛皮に手を突っ込んで、娘の乳房を引っ張り出す。

「ツブレテナイ? チガ、デテナイ?」
不安そうな泣き声を洩らしている娘に、はぁっと溜息をついてやった。
少しくらい怪我をしているかと期待したけど、淡く色づいた先端の形は整っている。
裁縫箱の蓋で挟まれた程度では傷1つ、ついていない。
ただ、感覚が鋭敏な場所だから、必要以上に痛みが激しかっただけのようだ。

「チハ、イマカラ、デルノ。タイジスルタメダカラ、ガマンシナサイ」
乳房を左手で握りこんだまま先端を、糸切り鋏で縦にチョキッと刻んだ。
鮮血が溢れ出す。娘は目を剥いて、その場でバタバタと足踏みをしている。

「イダイッイタイィィィ、オカアサン、ナニ、スルノヨォ」
「ガマンシナサイッテ、イッテルデショ」
もう一度、縦に切込みを入れて十字の形にしたら娘の足踏みダンスが加速した。
激痛に悶絶しても逃げようとしないところは、よほど虐殺厨が怖いのだろう。

「イタイイタイッイダイヨオォォ、ヤベデェ、イダイ、イ゙ダイ゙ィ゙~~ッ」
涙と鼻水を垂らしながら、胸を鷲掴みしているあたしの左手首を、
両手で握りこむようにして哀願してくる。

「ダーメ。ガマン、シナサイ」
右斜めに切込みを入れる。グギアァァァァァァァァァ、と断末魔の声音が響いた。
左斜めにも切込みを入れる。ヒギッヒグックハッ、と息が漏れる声音が聞こえた。
娘は失神寸前だった。立っているのがやっとなのか、太腿が痙攣している。

ふふ、いい気味だ。なんて、いい気味なんだろう。

糸切り鋏を放し、右手の爪で切込みを入れた先端を抉るようにして開いた。
血で濡れた切開面がどうなってるのか、よく見えない。
それでも、元はひとつだった先端が四方八方に、小分けされて
花開いているような光景は、なかなか滑稽で面白い。

「チガ、ナガレスギネ。アラッテアゲル。ヤッパリ、ショウドクハ、ネットウダヨネ」
まだ湯気が立ち昇るほど熱い湯呑み茶碗を、火傷しないように注意しながら掴むと、
傷ついた娘の胸をチャポンと漬けてやった。
飲むのを楽しみにしていたニラ茶だけど、この暗い歓びには換えられない。
膨らんだ嗜虐心を満足させるのが最優先だった。

湯呑み茶碗は、乳房ひとつがピッタリ入る手頃なサイズだから
ピンポイントで火傷を負わせることができる。
娘の乳白色だった乳房は、見る見るうちに紅く染まっていった。

「シィィィィィィィィィィッギャピイィィィィィィィィィィ」
娘は意識が回復したようで凄まじい絶叫を上げた。
あまりの大声に耳が痺れて、つい左手を離してしまう。
胸を解放された娘はピョンピョン跳ねて意味不明の叫びを上げ続けている。

「ヒィッヒィッヒィッシィッシィィィィィィィィィィ」
跳ねている途中で転び、床の上で文字通り七転八倒するものだから
飛散した血潮が、床や白い毛皮のあちこちを染めていく。

「カハッカッハッ、シィィィ」
だんだんと悲鳴の長さが短くなってきて、浅く荒く呼気を洩らすようになり
娘は歪んだ表情で、こっちを見た。

「オカア、サン……ギャクサツチュウハ、モウ、シンダ、ヨネ」
縋りつような視線で、ガチガチと歯を鳴らすほど震える唇で言う。
「アタシ、タスカッタンダヨネ。オカアサン。アリガ、トウ」

今、なんて言ったの。ありがとう、ですって?
くっ。あはは、あははは、あーっはっはっはっ!!
もうダメ、我慢なんてできない。思いっきり嘲笑してやった。
笑いすぎて腹筋がピュクピュク波打って、息ができないじゃない。
あー、おかしい。こんなに笑ったのは久しぶりだよ。

「オカア、サン?」
涙に霞む眼でこちらを見ながら、怪訝そうに小首をかしげる娘に
「バカナコ。ホントニ、バカナコ」
笑いすぎて出た涙の粒を指先で払いながら、冷たく言い放つ。
この馬鹿な娘に、真実を教えてやることにした。



「ウソ、ウソダヨネ。オカアサン?」
信じられない、というように目を大きく瞠って、娘が首を左右に振る。
こちらも首を左右に振ってやった。ただし、娘とは違う意味で。

「ヒドイ、ヒドイヨ、オカアサン!! ドウシテ、ドウシテヨ、ドウシテヨォォ」
「ウルサイネ。ソンナニ、サキガワカレタノガ、キニイラナインナラ」
うるさく騒いでいた娘の頬を殴り飛ばして、暴れる娘を押さえ込むと
あたしは再び糸切り鋏を振りかざした。

723 名前:若葉 ◆t8a6oBJT5k 投稿日:2006/06/14(水) 00:16:28 [ 5RNl3Sq2 ]
「ホラ、ヒトツニ、モドシテアゲルワ。ヤサシイ、オカアサンニ、カンシャシナサイ」
乳輪の辺りで横に切り裂いてやったら、先端が乳房から分離されて床に落ちる。
切断面からは勢いよく血潮が噴出し、赤い霧状に散布した。
ほぼ、同時にパタリと娘の体から力が抜け落ちる。

どうやらショックで気を失ったようだ。
どくんっどくんっと一定のリズムを刻みながら血は流れ続けているから
放っておいたら出血多量で死ぬかもしれない。別にいいけど。

さて、残りの胸の乳首と乳房も切ってしまおうか。それとも焼き潰そうか。
クックックッと咽喉を震わせながら思案していたら
「ン、ナンダイ、コノテハ」
不意に娘の手が、あたしの腰の毛皮を掴んだ。
「オカアサン」
迷子のように細く、それでもどこか安堵が滲んだ声で、娘が呼ぶ声。

眉根を寄せて娘の顔を覗き見たが……気絶したままだ。意識はない。
夢でも見ているんだろうか。

「………」
そういえば、この娘は、よくこうやって、あたしの腰の毛を掴んでいたっけ。
迷子になっていた幼い日も、転んで怪我をして泣いていた頃も、こんなふうに。
そうだ、そうだった。可愛かったんだ、幼い頃の、この娘は。
可愛くて、可愛くて、かわいくて、カワイクテ。
あたしの、たったひとつの、宝物、だった。愛しくて、たまらなかった。

「………ゴメン、ネ」
血に濡れた糸切り鋏を放り捨てて、娘の身体を抱しめて頬擦りする。
「シナセタリ、シナイ。イマスグ、オカアサンガ、タスケテ、アゲマスカラネ」
今もなお血が吹き出ている胸を力任せに掴んで止血した。
裁縫箱から糸を取り出して、乳房の根元に何重にも巻きつけて堅く縛る。
これで、出血死は避けられるはずだ。

ただし血流を失った乳房の細胞は壊死を起こすのは避けられないだろう。
血も澱み、糸で締め上げたところから先は腐り落ちる。
気を失った娘は、考えようによっては運がいいのかもしれない。
生きたまま、自分の乳房が腐れ落ちていく様子を眺めなくてすむのだから。

「ゴメンネ。ゴメンネ。オカアサン、ドウカシテタ」
眠ったままの娘に何度も謝りながらベッドに運び、寝かしつける。
医者に診せたくても治療費が出せないから、その不甲斐なさも悲しかった。

「イキテイテクレテ、ヨカッタ。コロサナクテ、ヨカッタ」
娘の額に軽く唇を押し付けて、おやすみのキスをする。
この娘は優しい性格をしているから、きっと、あたしを許してくれるだろう。
胸がひとつ、なくなってしまうのは可哀想だけれど。
まだ他の乳房は残っているのだから、そんなに大きな問題ではない、はず。

胸を失う立場が自分だったらどうか、と考えると戦慄に身震いがしたから
これ以上は深く考えないことにした。そのほうが、いい。
なんだか、とても疲れた。今夜は、もう寝てしまおう。

自分の寝室に向かい、灯りを消して布団に包まる。
睡魔は、すぐに訪れて心地よい眠りへと誘ってくれた。



「……タ。…アタ……オカアサ……」
夢うつつの中、ぽそぽそと呟くそうな声がが聞こえた気がした。
ノイズがはしったように不快な耳障りだけど、きっと気のせいだろう。
目を閉じたまま、寝返りを打って布団をかぶりなおす。

「オカ…ノ……セイ、デ……アタシノ……オムネガ」
さっきより、鮮明な声音が聞こえた。どこかで、聞いた声?
薄目を開けて暗がりに視線をやる。と、何かが闇の中で蠢いていた。
ぶつぶつと陰鬱な声で呟きながら部屋の中を徘徊している。

暗がりに目が慣れてくると、あれは、娘だ。と気づいた。
目に狂気の光を宿して、ふらふらと夢遊病者のように珍妙な歩き方をしていて
その右手には、金槌が握られていた。思わず、ヒッと息を飲む。
左手にも何か持っているみたいだけれど、よく見えなかった。
後方に長く垂れている紐状の影が見えたから、包帯かもしれない。

「アタシノ、オムネ。クサッテイク……オカアサンガ、アタシ、ヲ…ダマシ、タ。ダマシタ……」
金縛りに遭ったように体は硬直している。
目玉だけが自由に動かすことができたから、目線だけで娘の動きを追った。

「オカアサン、ガ。アタシノ、オムネヲ、クサラセタ」
娘の乳房は鬱血を通り越して茄子のように黒く変色して、萎み垂れ下がっている。
そのうち自然に腐り落ちるだろうけれど、胸以外は輝くほど白い毛皮を誇っているだけに
より凄惨に見えた。娘は、そんな自分の胸を狂気の表情で眺め、ニヘェッと笑う。

「オカアサンガ」
呟きながら突然、くるっと顔だけを、こちらに向けた。目と目が合う。

724 名前:若葉 ◆t8a6oBJT5k 投稿日:2006/06/14(水) 00:17:41 [ 5RNl3Sq2 ]
「オカアァァァァァァァサァァァァァァァン!!」
闇の中で、血ばしった瞳を紅く煌かせながら娘が、
金切り声に近い叫びをあげながらフルスピードで向かってくる。

「ヒイィッシィィィィィィィィィィィ」
硬直が解け、跳ね起きて頭上を両腕で庇うと同時に、凄まじい激痛が迸った。
振るわれた金槌で腕の肉が裂け潰れて、絶叫を放つ無様な自分の姿が、
娘の瞳に映っていた。娘が犬歯を覗かせながら声を立てずに笑う。

くるんっと器用に金槌をまわして娘が再び腕を振るった。
尖った釘抜き部分に右の眼穴を抉られて、飛び出した目玉が血を纏って飛び
壁にぶち当たってベチャリと落ちた。

その光景がスローモーションで左目に焼き付けられる。
「イタイッイダイイイイ、シイィィシィィィィィィィィィィィィィ」
一瞬遅れて、燃え立つような激痛に襲われて、あたしはベッドから飛び出て悶え走った。
走らずにはいられなかった。さっき、娘が部屋をぐるぐる徘徊していたのと同じように、
部屋を駆け巡ろうとした足裏の肉球に違和感を感じる。
その直後、何かに絡め取られるようにして転倒した。胸や腕にも違和感が広がった。

何かが、あたしの毛皮に、貼りついている?

違和感の正体に視線をはしらせると、それが荷作り用の布テープだった。
焦って周囲を見渡すと先程、娘が飛びかかってきた位置あたりに
1個の布テープが転がっているのが見える。
床には粘着面を上にして伸ばされた布テープが蜘蛛の糸さながら、ぐるりと張り巡らされていた。
あたしは、それに引っかかって転び、転んだことで腹や腕にもテープが巻きついたんだ。
ここに至って、ようやく娘の好意の意味を知る。無意味に徘徊していたわけじゃない。

あたしを、逃がさないようにするために、こんなことを……。

びくびくしながら振り返ると、娘は悠然と歩きながら向かってきている。
「シィッシィィィィ。ヤメテ、オナガイ、ショウキニ、モドッテ」
逃げようともがいても、もがけばもがくほど布テープは毛皮に貼りついた。
「イヤッイヤッイヤアァァ」
痛いのを我慢して布テープを引っ張ると、毛皮ごと剥がれて血が滲んだ。
露出した体にはブツブツと鳥膚が立っている。
恐怖のためか、痛みのためか、それとも無理やり毛を毟ったためか。
きっと、そのどれもが正解なのだろう。

じくじくと染み出る血の流れすら肌に沁みて、ひどく痛む。
まだ他の部位にも布テープは強力に絡んでいるままだ。
再び布テープを毛皮ごと引き剥がして激痛を味わう度胸は出てこない。
そもそも、こんな状態で走ることなんて、できるわけがなかった。

「イタイッイタイヨオォォ」
全身を冒す痛みに震え、うめくとポタポタと眼から滴る血潮が胸元を染めた。
「チガ、イッパイデテルヨ。シンジャウ。タスケテヨ。イタイヨ、イタイヨォ」
喋ると、まるで虫歯にクギを打ち込まれたような痛烈な感覚が眼の奥で爆ぜる。

「アタシハ、モット、イカタッタ。モット、イタカッタンダヨ!!」
羅刹女のような鬼気迫る形相の娘が、金槌を振り上げて駆けてくる。
「イヤァァ、ユルシテ、ユルシテヨォォ、シィィッ、シィィィ。オカアサン、ハンセイシテルンダヨ」
「アンタナンカ、オカアサンジャ、ナイ」
その声に被さるようにガツッと鈍い音がして、視界が赤一面に染まった。

抉られた眼孔を手で覆っていたせいで、頭を守ることが出来なかった。
娘の金槌は、あたしの脳天を割ったようだ。砕いた、という方が正しいかもしれない。
額からも血が、ドクッドクッと音がするほどの勢いで流出する感触が伝わってきた。
更にガツッガツッと頭で衝撃が弾け、あたしは崩れ落ちる。
耳の奥で、甲高い狂気の笑い声を聞いたのを最期に、意識は途絶えていった。

ー終ー