気狂い

Last-modified: 2015-06-23 (火) 00:57:32
606 名前: がるく 投稿日: 2004/03/30(火) 09:51 [ sA2honbM ]
気狂い



頭の中が狂ったとある二人のお話です


精神科病棟 と書かれた看板は少し錆びていて、他の場所と違う雰囲気を醸し出していた

「ねぇ、あなたって気狂いなんでしょう?」
くりくりっとした瞳が僕のことを見つめる

「そうかもしれないね。でも君は気狂いなんだろ?」
目を静かに閉じる 頬に風を感じて心地よい

清潔なふたつのベッドの上でモララーとしぃが話す
しぃは、右目に汚れた眼帯をつけている

モララーは、両腕にひとつずつ・・・・合計ふたつの点滴をしている

「そうねぇ、分からないわ。気狂いの気持ちなんて・・・・でもあなたは分かるかもしれないわね」
にっこりと素直な笑顔で窓を見る

「知らないさ。君は僕が好きらしいね。そうだろ?」
視線をしぃから窓に移す

鴉が3匹ほど飛んでいる くちばしには生ゴミを懸命に咥えながら
と思うと隣の部屋から銃声が聞こえた
耳に響いて痛い

鴉が一匹、きりきりと舞いながら落ちて行く
血が噴き出し、鴉の羽を濡らす


あぁ、となりのモナーさんがまた殺ったんだな

607 名前: がるく 投稿日: 2004/03/30(火) 09:51 [ sA2honbM ]
ばたばたと多人数の足音と声
「駄目ですよモナーさん!病院でそんな物・・・・・」

また銃声

人が倒れる音 看護婦の悲鳴

「うるさいな。静かにしてくれないかな?」

モナーさん、今月 何人殺したんだろうか? 後で聞きに行こうかな


視線を窓からしぃに戻す
「ねぇ、聴いてるかい?好きだろ君は。僕のことを」

しぃが僕の事を見る 薄桃色の瞳が揺れる
「えぇ。そうかもしれないわ」

しぃが自分の包帯を器用に解いていく

「そりゃあ良かった。じゃあ、永遠の愛を誓ってくれるかい?僕は誓うよ」
モララーが、優しく笑みをこぼす

「いいわ、誓うわよ」
しぃも同じように笑う

しぃの耳は、壊死していて
常人が見たらすぐ眼を逸らす物を

モララーは魅入っていた


あぁ、君はなんて美しいんだろう

608 名前: がるく 投稿日: 2004/03/30(火) 09:52 [ sA2honbM ]
やぁ、しぃ」
ドアをノックし、ギコが入ってきた
「あら、こんにちはギコ」
どうやら、このギコは普通の一般人らしい

「なぁ、しぃ。もうこんな所から出て行かないか?」
真剣な顔つきでしぃを見る

「でも、私は退院できないわ。この人がいるし」
とモララーを見る
「どういう事だ?こいつは君の何だ?」
モララーをきつく鋭い視線で睨む

「永遠の愛を誓った人よ」
ギコが驚く 汗が一滴床に落ちる

「嘘をつくなよ!君は僕と結婚してくれると・・・・・」
眼には涙が浮かんでいた
「言ってくれたじゃないか!!」

走りながら出て行った
 

「ふぅ、あの人は一体なんだい?」
ため息をつきながらモララーが聞く

 さぁ、 もう忘れたわ――――――――――――









―――――――――先生。どうしたらしぃは元にもどるのでしょうか?

さっきのギコが涙声で話していた

眼鏡をかけたフサギコが沈んだ顔で聞いていた
「・・・・そうだな・・・・強い精神的ショックを与えるとか」
さっきより少しギコの顔が明るくなった

「例えば・・・・?」

「彼女の大事な物を壊すとかかな・・・・・?」
窓から入ってくる風でフサギコの毛がふんわりと柔らかく揺れる



610 名前: がるく 投稿日: 2004/03/30(火) 09:53 [ sA2honbM ]
夜。それも深夜だ 
今日は新月


頬を叩かれる痛みでモララーが目覚める

「んぁー・・・・なんだい?」
目を擦りながら答える

「・・・・・起きたか?」
さっきのギコだ
震える手に出刃包丁を持っている

「うわぁ・・・・君何をしようとしてるんだい?」
いつもと変わらない、平然とした態度で答える

「・・・お前がいるから・・・しぃは駄目なんだ」
ぎゅっと包丁の柄をきつく握り締める
「ああ!そうか!」
手をポンと叩く

「君もここに来る事になったんだね。やっと本物の気狂いが来る!」

包丁がモララーの心臓目掛けて振り下ろされる

それは寸前でとめられる
モララーが刃の部分を握っていた

血が腕から垂れて、ベッドに滴り落ちる

赤い染みが幾つも出来る

「おっお、お前・・・・痛くないのか?」
恐怖と不安が入り交じる表情を見せる

611 名前: がるく 投稿日: 2004/03/30(火) 09:54 [ sA2honbM ]
「痛い痛い。そりゃあ痛いさ。でも君の心よりは痛くない」


そのまま包丁をギコの手から引き離し、自分の手に持ち変える

そして心臓へ向かって貫いた

ギコが静かに膝をつく

血が周りを真っ赤に染める
ギコも赤く染まる

激しく痙攣して、やがて動かなくなった











「そういえば、あそこの精神病棟のしぃって、しぃじゃないって知ってた?」
金属音を立てながら、血がこびついた包丁を丁寧に洗う

「うん、知ってるわ」
包丁を渡され、それの水気を布巾でふき取る

「親がしぃを望みすぎたために、子供の顔だけしぃに変えたんだってね」
光に当てて、綺麗になっているか確かめる

「そうそう、でね。そのしぃには兄がいたのよ」
カチャと金属音を立ててテーブルに置く


「えぇ?それは聞いたことが無いわ」
メスを拭いていた手を止めた

「うん、最近の血液検査で分かったらしいのよ・・・・・・」
周りをキョロキョロと見渡し、誰も居ない事を確かめる


「あの隣のベッドのモララーとあのしぃは、血が繋がって・・・・・・」

銃声

そこからの声は風音となって喉から逃げる
喉から血が噴出して、真っ白なナース服を血が赤く染める

「やれやれ・・・・またモナーさんか・・・」
そっと座り、まだ痙攣している元友達に話しかける
「あーぁ、あんたも殺されちゃったのね」
友達とは思えない口振りで話す


そして もう一度銃声が鳴り響く


これでこの話は終わりです

え?結局この精神病棟は何だったって?

ここの精神病棟にいた人は実は皆、気狂いだったんですよ





終わり