流石兄妹の華麗なる休日~百ベビ組手~

Last-modified: 2022-08-15 (月) 22:23:41

流石兄妹の華麗なる休日~百ベビ組手~ (小説作品・長編完結)

「ところで、どこへ連れて行くんだ?金もあまり無いぞ・・・」

「そうだな・・・弟者よ、今日は何日だ?」

「今日か?」

弟者はちら、とカレンダーを見てから答える。

「今日は6月17日、日曜日だが」

そう告げると、兄者はポン、と手を叩いた。

「それなら丁度いい。今日はあれだ、町内広場で『百ベビ組手』の大会があるじゃないか」

「それだ!あれなら俺達も妹者も楽しめる、まさに打ってつけだな。金も掛からんし・・・」

その時、早くも可愛らしい服に身を包んだ妹者がバン!とドアを開けた。

「支度できたのじゃ!」

「早いな・・・妹者よ」

弟者は思わず苦笑するのだった。

作者

  • へびぃ

流石兄妹の華麗なる休日~百ベビ組手~ 前編 (1)

3 :へびぃ:2007/04/17(火) 00:36:41 ID:???
新スレ乙です。僭越ながらも1番乗りで申し訳ありませんが、早速新作投下させて頂きます。


【流石兄妹の華麗なる休日~百ベビ組手~ 前編】



「父者~。どこか遊びに連れてって欲しいのじゃぁ~」

先日11歳の誕生日を迎えたばかりの妹者が甘えるような声を出して、父者の背中に抱きついた。
それはまるで木にしがみ付く蝉を連想させ、何だか暑苦しい。

「い、妹者・・・降りてくれないかな?私は腰を痛めてるんだ・・・」

妹者にしがみ付かれた父者が声を絞り出した。
それを聞いた妹者は慌てて、

「あ・・・ごめんなのじゃ」

父者の背中から離れたが、すぐに標的を変え、

「兄者~。退屈で爆死しそうなのじゃ~」

そばであぐらをかいてゲーム雑誌を読みふけっていた兄者の背中に飛びつく。
兄者は突如として飛びついてきた妹者の衝撃に少々驚きながらも、横に居た弟者に声を掛けた。

「弟者よ。何故妹者は退屈だと爆死してしまうのだ・・・?」

「さあ・・・それほど暇だという事だろうな」

弟者が冷静に返した。
時は6月。初夏だ。場所は流石家の居間。
状況は見ていただければ分かる通り。
妹者が退屈のあまり、父者にどこか連れてって貰うようにねだっていた所だ。
しかし父者は腰痛で療養中。久々の休みなのでゆっくり休んでいたいらしい。
そこで今度は兄者に矛先を変えたという事だ。

「兄者は何か用事でもあるのじゃ?」

妹者に訊かれ、兄者は答える。

「い、いや・・・別に無いが」

すかさず妹者は、兄者の体を背中から揺さぶり始める。

「じゃあどこかに連れてって欲しいのじゃ!お願いなのじゃ、ね~ね~ね~ね~ねぇ~・・・」

ゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさ・・・・・・・・・・。
妹者の必殺ヴァイブレーションに、兄者はたまらずギブアップ宣言。

「わ、わかった、妹者よ・・・わかったから止めてくれ・・・うぷ」

「わ~い!兄者に勝ったのじゃ~!」

どさりと倒れた兄者の横で妹者が勝利宣言。
そして即座に弟者にも声を掛ける。目をキラキラと輝かせて。

「ちっちゃい兄者も一緒に行くのじゃ!」

弟者は少し困った顔をしたが、目を輝かせる愛妹の前では断る事も出来ず、承諾。

「わかった。俺も行こう。妹者、支度して来なさい」

「やった~!着替えてくるのじゃ♪」

妹者はピョン、と一つ跳ねてから、『ブーン』のポーズで部屋を出て行った。
まあ、俺も暇だったしな・・・とひとりごちてから、弟者は未だに床に伏す兄者に声を掛ける。

「兄者・・・大丈夫か?」

「あ、ああ・・・何とかな」

兄者が起き上がりながら答える。

「ところで、どこへ連れて行くんだ?金もあまり無いぞ・・・」

「そうだな・・・弟者よ、今日は何日だ?」

「今日か?」

弟者はちら、とカレンダーを見てから答える。

「今日は6月17日、日曜日だが」

そう告げると、兄者はポン、と手を叩いた。

「それなら丁度いい。今日はあれだ、町内広場で『百ベビ組手』の大会があるじゃないか」

「それだ!あれなら俺達も妹者も楽しめる、まさに打ってつけだな。金も掛からんし・・・」

その時、早くも可愛らしい服に身を包んだ妹者がバン!とドアを開けた。

「支度できたのじゃ!」

「早いな・・・妹者よ」

弟者は思わず苦笑するのだった。

4 :へびぃ:2007/04/17(火) 00:37:21 ID:???
家を出た兄妹3人組は、早速町内広場へ向かって歩き出した。

「~♪」

鼻歌を歌いながら上機嫌な妹者がどんどん歩いてゆくので、続く兄者と弟者は付いて行くだけで精一杯だった。

「い、妹者よ・・・随分とご機嫌だな」

弟者が尋ねると、妹者は笑顔を崩さずに答えた。

「だって、久しぶりのお出掛けなのじゃ!」

言いながらもどんどん歩調が速くなる妹者。
兄2人はついに小走り状態で付いていく事となった。
道中、兄者が思わず弟者に漏らした。

「まったく、我が妹ながらなんてパワフルなんだ・・・」

それを聞いた弟者も、肩を軽く竦めながら言う。

「禿同だ、兄者。伊達に母者の血は引いてないな・・・」

「ああ、その元気を1割でいいから俺に・・・」

「兄者~!早くするのじゃ~!」

妹者の大声で会話を遮られた兄者と弟者は、互いに苦笑一つしてから、妹者の待つ方向へ駆け出した。
町内広場は、もうすぐそこだ。

5 :へびぃ:2007/04/17(火) 00:37:56 ID:???
パン!パン!パン!

雲が1つ2つ浮かぶ青空に、花火の音が響く。
抜けるようなスカッとした快晴の空の下、大勢の人だかり。
広場のあちこちに特設ステージや臨時のプレハブ小屋、大きな柵で囲まれた古代ギリシャのコロッセウムを思わせる闘技場らしきエリアなんかが作られている。
また、様々な食べ物や飲み物、射的に金魚すくい等のアトラクションの出店まで出展しており、文字通り『お祭り騒ぎ』状態だった。
さて、大人から子供まで入り混じっての人の波に、早速飲み込まれた流石兄妹達。

「妹者、はぐれるなよ~!」

弟者の声に、

「大丈夫なのじゃ~!」

割とそばから妹者の声が返ってきた。この分なら大丈夫か、と弟者はほっと一息―――ついてもいられなかった。
とにかく押し寄せる人の波、波、波。まさにタイダルウェイヴ。

「あ、兄者よ・・・とりあえず落ち着ける場所に行かないか?」

最早どこにいるかもわからない兄者に弟者が提案すると、

「う、うむ・・・そうしよう」

弟者から見て5時の方向から兄者の返答が返って来た。

「このままでは・・・あっという間に・・・ばらば、あ、いや、ちょ・・・弟者、助け・・・」

弟者に向かって話しかけていた筈の兄者の声がどんどん離れていく。
見れば兄者は、人の波に流されてどんどん弟者から離れて行ってしまっていた。
十代後半の健全男子ならこれくらいどうという事も無さそうだが、兄者の場合は日頃の運動不足が祟っているのだろう。
はぁ、とため息一つついてから、弟者は人の波を掻き分け掻き分け、ようやく兄者の左手首を掴んだ。

「まったく、しっかりしてくれよ。妹者より先に兄者がはぐれてどうする・・・」

「うむ・・・スマンかった」

兄者は弟者に陳謝。
そのまま弟者は兄者の手首を引きながら、これまた流されそうな妹者の手を握る。
そして2人の手を離さないように、弟者は人ごみからの脱出を図って歩き出した。
その姿はまるで、雪山で遭難者のソリを引っ張って走るセント・バーナード犬のようだった。

「それ・・・褒めてないだろ」

弟者は誰にとも無く呟いてから、弟者はまた歩き出した。
彼方に見えた、レストハウスを目指して。

6 :へびぃ:2007/04/17(火) 00:38:28 ID:???
「もうクタクタなのじゃ~・・・」

折り畳み式テーブルに突っ伏した妹者が、力無く呟きながら、メロンソーダのストローを銜えた。

「まだ来たばかりなんだがな・・・まあ、この人込みでは無理も無いか」

弟者が同調しつつ、手に持ったアイスコーヒーをストローでかき混ぜる。
カランカラン、とグラス内の氷が涼しい音を奏でた。

「賑わっているとは思ったがな・・・まさか、ここまでとは」

兄者は一息でグラスの烏龍茶を半分ほど空け、一息ついてから言った。
弟者はどうにか人込みを脱出し、近くにあったこのレストハウスに辿り着いていた。
兄者達が囲むテーブルは折り畳み式の物で、中央にはビーチパラソル。それぞれの手には注文した飲み物のグラス。
おかげで中々に涼しい空間が出来上がっていた。
そんな中で、弟者は入り口で貰った地図付きパンフレットを広げた。

「・・・さて。この後はどうするんだ?いつまでものんびりしている訳にもいくまい」

弟者の言葉に、兄者が顎の先を摘みながら返答した。

「そうだな・・・やはりここはメインイベントの百ベビ組手本戦を見に行かないか。
 時間的にも丁度良いしな」

言いながら兄者は自らの左腕の腕時計を示した。
時計の針は9時32分を指していた。
パンフレットを見れば、本戦は10時からとなっている。

「では、そろそろ行ったほうがいいな。余裕があるに越した事は無いさ」

弟者が立ち上がろうとしたが、兄者がそれを引き止めた。

「まあ待て。少しくらい休んでからの方が良かろう。時間も無い訳ではないしな・・・」

弟者はそれを聞いて、再び椅子に腰を下ろした。

「・・・まあ、それもそうか」


―――10分後。
グラスを空にした3人は、そのまま本戦会場となっている特設ステージへと向かった。
(ちなみに飲み物代は壮絶なジャンケン対決の末、兄者が支払った)
レストハウスからも見える位置にあったので、今度は大して労せずに会場へと辿り着く事が出来た。
それは最初に来たときにも目に留まった、闘技場のようなステージだった。
入り口のゲートの前で、唐突に兄者が言った。

「弟者。せっかくだから、お前も出てみないか」

え、と軽く驚いた表情で弟者が振り向く。

「い、いや・・・急に言われてもだな・・・」

「見ろ。『飛び入り参加大歓迎!お気軽に受付にお申し付け下さい』と書かれているではないか。
 お前も最近家の周りにアフォしぃなんかが出なくて退屈していただろう?丁度良いじゃないか」

「ちっちゃい兄者、頑張るのじゃ!」

妹者にも後押しされた弟者は少しの間思案していたが、

「・・・まあ、俺も最近運動不足だったからな・・・。
 ――わかった、せっかくだから出よう。兄者と妹者は、観客席に先に行っててくれ。
 俺は自分の番が終わってから行くよ」

それから弟者は兄者と妹者を見送ると、受付へと向かった。

7 :へびぃ:2007/04/17(火) 00:39:11 ID:???
―――『百ベビ組手』。
名前から察した方も多いだろうが、この競技は、簡単に言えば空手なんかの『百人組み手』のベビしぃverだ。
無論、空手とは違い相手を虐殺する事が前提だ。
要するに、ベビしぃ100匹をいかに迅速に、かつ華麗に虐殺するかを競うのだ。
武器や方法などは基本的に自由。始めからフィールドに100匹放たれている場合もあれば、その都度追加される場合もある。これは、大会によって異なる。
この辺は後に説明があるのでこのくらいに。
本戦会場は、言うなれば野球場をそのまま小さくしたような感じだ。
観客席に囲まれて、直径25m程度の円形のフィールドが広がっている。
フィールドの隅には入退場口とベビ入場用の金網付きゲートがある。(無論、ベビの退場口は無いww
フェンスの一部にはガラス張りの所があるが、これは恐らく招待客や来賓が観戦するための席なのだろう。
また、他にも似たようなガラス張りの部分があるが、その向こうには席ではなく妙にガランとした、人が普通に立って歩き回れる程の広い空間が広がっていた。一体何の為なのか・・・?

受付で手続きを終えた弟者は、早速控え室へと向かった。
ちょっとしたホール並みの広さの部屋に、男女合わせて20人近くのAAが居た。
部屋には備え付けのロッカーや革張りの長椅子、自動販売機などと設備は充実している。部屋の上方には、大きなモニター。
さて、どうしたものかとキョロキョロ部屋を見渡していた弟者に、肩をチョンチョンとつつくと同時に不意に声がかかった。

「オイ、弟者!コンナ所デ何シテンダヨ?」

ややソプラノ気味な声に弟者が振り向くと、そこには弟者の高校のクラスメイトのつーが立っていた。その手には持ち込んだらしいナイフが握られている。

「ん?ああ、つーじゃないか。何してると訊かれてもな・・・百ベビ組手出場以外の目的で、ここにいるとは思えないだろう」

弟者が答えると、やや小柄で勝気なこの少女は腰に手を当てて笑った。

「アヒャヒャ!ソウジャネェッテ。オマエガコウイウ大会ニ出場スルナンテ珍シイナ、ッテ思ッテサ」

それを聞いた弟者は、頬をポリポリとかきながら言う。

「むう。俺も最初は観戦目的だったんだがな・・・兄者や妹者に薦められて、出る事にしたんだよ。俺自身、虐殺はご無沙汰だったしな。
 つーはこういうの好きそうだとは思ったが・・・まさか出ているとは思わなかったな。いつから出ているんだ?」

弟者の質問に、つーは少し声のトーンを落として言った。

「3,4年前クライカラカナ。ソレニ、出テイルモナニモ・・・ホレ」

囁きながらつーが取り出した物―――それは、首から下げる為のストラップが付いた、金色に輝くメダルだった。
それこそまさに、この『百ベビ組手』の覇者の証だった。そこには『第39回大会優勝者 つー』と刻まれている。
文字の上にはでかでかと、ベビしぃの死骸を踏み台にしてポージングするモナーが描かれていた。

「おいおい・・・優勝までしてるのか。凄いじゃないか。第39回って事は・・・丁度去年か」

弟者からの賞賛に、つーは顔を真っ赤にしながら、腕をパタパタと振った。

「オ、オイ・・・アンマリ大キナ声デ言ウナヨ。恥ズカシイジャネーカ・・・」

と、その時。
ブン、という低い音と共に、部屋の上部に取り付けられたモニターの電源が入った。
そこにはこれから自らがベビを屠殺して周るであろうフィールドが映し出されている。
少しではあるが、観客席の様子も見て取れた。
まじまじとモニターを見上げていた弟者に、つーが声を掛けた。

「ソロソロ開会式ガ始マルナ・・・オイ、チャント見テオケヨ?ルールノ説明ナンカモアルカラナ」

「ああ、わかった」

弟者が答えながら、そばにある2人用の椅子に腰掛ける。つーが寄ってきて、その隣に座った。
それから2人は、ほぼ同時のタイミングでモニターを見上げる。
モニターの中では丁度、1組の男女がフィールドの中心へ向かって歩いてきていた。

8 :へびぃ:2007/04/17(火) 00:39:41 ID:???
野球場のスタンドそのものとも言えるような観客席。
その中段のやや前寄り、位置にして選手入場門の上にあたる席に、兄者と妹者が陣取っていた。

「うむ。ここなら見やすいな」

兄者が呟く。

「バッチリなのじゃ!兄者、まだ始まらないのじゃ?」

妹者が待ちきれないといった体で腕を振る。
そんな妹者を微笑ましく思いつつ、兄者は腕時計を見た。

「そろそろ始まるはずだぞ。・・・ほれ、見てみろ」

兄者が指差した先に妹者が視線を移す。
2人のAAが、フィールドの中央に向かって歩いてきたのである。片やモララー、もう1人はガナー。
2人が丁度フィールドの中央に辿り着き、歩みを止めた瞬間―――ざわついていた観客席が、ぴたりと静かになった。
それを確認すると、2人はハンドマイクを取り出した。
そして、モララーが大きく息を吸い込んだ。

「レディース エーン ジェントルメーーーン!!!」

英語の発音にはあまり聞こえない英語で、モララーが叫んだ。何だか矛盾している気もするが気にしない。気にしちゃいけない。
その声はマイクによって拡張され、スタンド中に響いた。

「ベビ虐殺が大好きな諸君!『百ベビ組手』本戦へようこそ!!」

モララーがさらに叫んだ。それを聞き届けたガナーも、マイクを口元へ持っていく。

「本日は是非、華麗な虐殺と・・・ベビしぃ達の阿鼻の叫びを、心行くまでお楽しみ下さい!」

その言葉が終わると、モララーが一歩前へ出た。

「本日の、司会進行はこの私、モララーと・・・」

続いてガナーも前へ出る。

「私、ガナーが務めさせて頂きます!」

そして2人は優雅に一礼。

『不慣れではございますが、どうぞ宜しくお願い致します!』

その瞬間、観客席から『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』とかなりの大歓声。
その大歓声に照れ笑いを浮かべながら、モララーが再びマイクを構える。

「ではここで、本日ご招待致しました、来賓・ゲストのご紹介をさせて頂きます!」

そこで2人は、今日のゲストや来賓を一人ずつ紹介していった。
この町出身の国会議員、売れっ子アイドル、ブレイク中のお笑い芸人達etc・・・。

「さいたまかっ!」

ツッコミに合わせて、アヒャがヒッキーの頭をパチン!と叩いた。

「いや、何が・・・!?」

「どーも、ありがとうございました~!」

ゲストのお笑い芸人『アヒャ&ヒッキー』の即興漫才を締めとして、紹介は終わった。
最後のネタによって笑いの絶えない観客席に向かって、モララーが叫ぶ。

「いやぁ、アヒャヒキはやはり面白いですねぇ!ではここで、今回の競技のルール説明をさせて頂きましょう!
 ギコ君、カマン!」

モララーのコールと共に、入場口から1人のギコが歩いて来た。
そこでガナーが苦笑しながら付け足す。

「こちらは面白くも何ともありませんが、我慢して聞いて下さいね~」

観客席から微笑。
そこでギコは、モララーのマイクを奪い取って叫んだ。

「おいおいガナーちゃん、そいつはキツい言い方だな、ゴルァ」

「だって、本当の事じゃ無いですか~」

ガナーの返しに、ギコは頭を掻いた。

「いや、そうだけどさ・・・もうちょっと、オブラートに包むっていうかさ、もっと、こう・・・」

身振り手振りを交えてうろたえるギコ。観客席から再び爆笑が聞こえてくる。
モララーがそこで助け舟。

「まあまあ。それについてはまた後でって事で・・・ほら、説明説明」

「おっと、忘れる所だった・・・じゃ、改めて」

ギコはマイクを構えなおし、説明を始めた。

9 :へびぃ:2007/04/17(火) 00:41:31 ID:???
「え~、基本的なルール説明をさせて頂きますよ、と。
 ルールは簡単!そこいらに転がっているベビ100匹をひたすらヌッ殺す!それだけ!
 武器は基本的に何でもアリだが、重火器なんかは簡単過ぎるのでタブー。ハンドガン、手榴弾くらいまでだな。
 武器は持ち込みでもいいし、レンタルでもオッケーだ!もちろん、素手でもよし!
 ちなみに、使用するベビしぃは全てノーマルなベビしぃだ。フサやワッチィなんかは混じってないぜ。
 方式はタイムアタック方式。100匹目が絶命した瞬間までのタイムを計測。
 一番早かった奴が優勝だ!3位までが表彰台、5位までが入賞。
 なお、それとは別に1人、審査員特別賞ってのも用意されてるから、希望を捨てちゃあ駄目だぜ?
 こっちを狙うなら、そうだな、速さだけじゃなくて方法や見た目なんかにも気を配ってみたらどうだ?以上っ!」

ろくに呼吸もせずに言い切り、ギコはマイクをモララーへ返した。
そして全方位の観客席へとお辞儀をしてから、再び入退場口へと引き返してゆく。

「ご苦労様!ギコ君ありがと~!」

モララーが叫ぶ。
ガナーがギコに向かって手を振りながら言った。

「面白くは無かったけど、とても重要なお話でした!では、次は・・・」

「・・・おやおや。もう待ちきれないってご様子ですねぇ、皆さん・・・」

途中で遮り、モララーが後を引き取るように言った。
そして2人は顔を見合わせる。
その顔を戻してから、2人は観客席へ言葉を放った。

「しょうがないので、残りの開会式の予定はパス!」

「早速、本戦へ突入しちゃいましょう!」

その瞬間の観客席からの歓声の大きさと言ったらもう。文字通りスタンドを揺るがすほどだった。
もっとも、本当に飛ばしてしまったのか、はたまた最初からそのつもりだったのかはわからないが。

「うへ~、すごい大歓声なのじゃ」

妹者が肩を竦めながら、兄者に向かって呟く。

「まあ、それくらい皆、楽しみにしていたという事だろうな。ほら妹者、いきなり始まるみたいだぞ・・・」

兄者が答えながら、フィールドを指差した。
見れば司会の2人はいつの間にか特設された実況席へと下がり、どうやら最初の挑戦者らしいフサギコが入場口からフィールドへと姿を現していた。
スタッフらしいジエンが駆け寄り、フサにマイクを手渡した。

「では、挑戦者NO.01!フサギコ選手の登場だァ~~っ!!」

モララーの紹介が終わらない内に、観客席から再び大歓声。
フサはやや驚きながらも、渡されたマイクをポンポンと叩き、テストしている。
ガナーがマイクを通し、フサに声をかける。

「フサギコ選手、自己紹介をよろしくお願いしま~す!」

フサは軽く司会の2人へ向かって会釈をし、マイクを口元へ運んだ。

「え~と・・・市立第2モララ高等学校2年、フサギコです。
 同校ラグビー部、主将をやっています。
 虐殺はあまり慣れていませんが、精一杯殺らせて頂きます!」

ワァァァァァァァァァ!!

やっぱり大歓声。
ラグビー部だからなのか、彼の腕にはラグビーボールが抱えられていた。
そこでモララーが実況席からフサに尋ねた。

「第2モララ高のラグビー部は強いってもっぱら評判だよ!
 ひょっとしてそのボール、虐殺と関係あるのかい?」

フサは「ありがとうございます」と一礼してから、

「はい。せっかくなので、ラグビーを虐殺に応用してみました」

その答えに実況席の2人は『おお~っ・・・』と同時に呟く。
興奮を抑えようともしないモララーがマイクへ向かって叫びまくる。

「そいつぁ楽しみだ!頑張ってちょーだい!
 それでは、本日のある意味での主役!『殺られ役』の、ベビしぃちゃんの登場だぁ!カマン!」

彼のコールと共に、『ベビ入場口』のゲートが開いた。

ガーッ!

すると、ゲートが開いた瞬間・・・

チィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィチィ・・・・・・・・・・・・

ナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコナッコ・・・・・・・・・・・・・

聞こえてくる鳴き声。まるで洪水の如く溢れてくる。
やがてぞろぞろぞろと現れる、ベビしぃの群れ。
這うように歩いてきながら口々に、やれナッコだの、やれハナーンだの、やれコウピだの言っている。
100匹全てのベビしぃが入場したのを確認すると、ゲートは元通り閉まった。
このゲートが次に開くのは、次の挑戦者が入場する時だ。
つまり、ここにいるベビしぃ達が1匹残らず死んだ時。それまでは決して開かない。
―――そう。ベビしぃ達が生きてこのゲートをくぐる事は、もう無いのである―――。

10 :へびぃ:2007/04/17(火) 00:43:53 ID:???
入場したベビ達は、フィールド上のあちこちに勝手に思い思いに散っていく。
その場で眠りこける者、追いかけっこをはじめる者、互いに抱き合って(ダッコし合って)マターリする者・・・。
一部のベビは、選手であるフサを目ざとく見つけ、さっきから足元に集まって「ナッコナッコ!チィヲ ナッコチナイト ギャクサツチュー デチュヨォ!」などと喚いてみたり、
尻を向けながら「チィト ハヤク コウピシナチャイ!コウピ!」などと言っている。五月蝿い事この上なく、観客の嗜虐心をいい感じに煽ってくれている。
一部のヒートアップした観客が、「早く殺っちまえ~!」と叫んだ。
するとモララーが、

「まあまあお客さん、マターリしましょうよ。慌てなくてもベビは逃げない、っつーより逃げられませんから、ね?
 それではフサギコ選手、準備をお願いします!」

と観客を宥めつつ、フサに準備を促した。
フサは司会の2人にぺこりと一礼してから、『準備』を始めた。
彼は自らの両膝と両肘に、ラグビーやインラインスケートなんかで使用するプロテクターを装着した。
その頃、彼以外の部分でも変化は起こっていた。

「ん?あれは・・・?」

「兄者、どうしたのじゃ?」

怪訝そうな声を出した兄者に向かい、妹者が問う。
兄者はフィールドの一角を指差し、答えた。

「いや、あそこを見てくれ。あんな所にしぃがいるんだが・・・」

「あ、本当なのじゃ。でも、そんな偉い人には見えないのじゃ」

「うむ。俺もそれが気になってな・・・」

妹者も怪訝そうな顔。
2人が以前から気にしていた、フェンスの向こうのガラス窓の部屋。
あの部屋に次々と、しぃ達が現れたのだ。
兄者が周りを見回すと、観客達も次第に気が付いたらしく、しきりに指さしながら首を捻っている。
それに気付いたらしく、ガナーがモララーに問い掛けた。

「モララーさん。あの部屋にいるしぃ達は、一体何なんでしょうか?
 ゲストには見えませんが・・・」

するとモララーは、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに含み笑いをしながらマイクに向かって囁くように言った。

「んふふふふ・・・あれですか。あれはですね・・・。
 実は、今回殺されてくれるベビちゃんを提供して下さったお母様方なんですよ~。
 せっかくだから、特別席で我が子の死に様をバッチリ見物して頂こうと思いましてね。
 今はこちらの音声は伝わってません。競技の際には、お互いに音声が伝わるようにしますよ。
 では、先にあちら側の音声をお聞き願いましょうか・・・」

するとモララーは、手元のボタンをポチッと押した。
やがて、スタンド中に特別席内の音声が聞こえてきた。

「ハニャーン!ベビチャーン、オカアサンダヨ!」

「ベビチャンヲ ナッコシテクレルナンテ、ギャクサツチュウニシテハ イイキカクヲ カンガエルジャナイ」

「マ、シィチャント ベビチャンハ カワイインダカラ トウゼンヨネ!」

「ムシロ、イママデ コウイウノガ ナカッタコトガ オカシインダカラ!」

「ツイデニ シィチャンモ ダッコシテヨー!ハニャーン!」

どよめく場内。
再びガナーがモララーに問い掛けた。

「ところで、あのしぃ達には何て説明してあるんですか?」

「ああ。百匹のベビを、いかに素早くダッコやら何やらでマターリさせるかを競う競技、って言ってあるよ。
 完全に自分の子供がナッコしてもらえると信じてるみたいだね。
 というわけで皆様。ベビの虐殺だけではなく、あちらのしぃちゃん達が絶望に打ちひしがれる様子も、合わせてお楽しみ下さいね~!」

そして観客からの拍手喝采。
その時、フサが準備を終えたらしく、近くに設置されたボタンを押し込む。
実況席のテーブルに設置されたランプが点灯したのを見て、モララーが言った。

「おやぁ?丁度準備が整ったようですね」

「では、皆様大変長らくお待たせ致しました!
 いよいよ、競技開始の時間です!」

大歓声に包まれるスタンド。

「兄者、いよいよなのじゃ!」

「ああ。お楽しみの始まりだな・・・妹者よ、しっかり見ておくんだぞ」

観客席の兄者と妹者も、フィールドへと視線を固定する。

「ヤット始マルナ・・・弟者、緊張シテルノカ?」

「ん・・・まあ、少しな。つーはもう慣れっこだろう?」

「マアナ。全クシナイカッテ言エバ微妙ダケド、他ノ人ノ競技ヲ見テレバ落チ着クモンサ」

「なるほど、流石だな」

控え室の弟者とつーも、モニターを見上げた。


楽しい楽しい、血と肉と悲鳴の舞踏会が始まろうとしていた―――。

11 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:05:20 ID:???
開始の合図の前に、モララーが手元のボタンを押した。
恐らくこれで、親しぃの特別席にもこちらの音声が伝わるのだろう。
それは司会や観客の声だけじゃない。愛する我が子の断末魔も、である。

「ベビチャン、ナッコハ モウスグヨ!」

「セッカク ダカラ コウピモ シテラッシャイ!」

「ソレニシテモ アノフサハ シアワセモノネ!コンナニ カワイイ ベビチャンタチヲ ナッコシテ コウピシテ マターリデキルンダモン!」

「デモ、ヘンナカッコウネ。ナンデ アンナカッコウヲ・・・?」

「キット、スコシデモ タクサンノ ベビチャンヲ マターリサセタイカラ カラダガ タエラレルヨウニ シテルノヨ!」

「ハニャ、ナルホドネ!ベビチャーン、タクサン ナッコシテ モライナサイ!アイテノ コトナンカ シンパイシナクテ イイワヨ!」

何も知らない親しぃの声。それを聞いたスタンドにいた観客、司会、スタッフ、選手、ゲスト等の人々は、内心ほくそ笑んだ。

「それじゃあ、競技開始だゴルァ!よーい・・・」

先刻、説明係として登場したギコが、いつのまにか入場口の脇に立ってピストルを空へ向けていた。
それを聞いたフサが、いかにもこれから全力で走りますよ、といった感じで姿勢を少し低くし、片足を前へ出した。
その腕にはラグビーボールが抱えられたままだ。

「チィチィ!イヨイヨ チィヲ ナッコチテ クレルンデチュネ!」

「マズハ チィガ ナッコチテ モラウノ!アンタハ アトヨ!」

「チィィィィ!マズハ セカイイチ カワイイ コノチィガ ナッコナノ!」

「コウピ!コウピー!」

「Zzz・・・マァマ・・・ナッコォ・・・」

「ハナーン・・・マチャーリ デチュヨゥ・・・」

ベビ達の反応も様々だ。
まずは自分がナッコしてもらうと周りのベビを押しのけようとするベビ、ずっとフサへ向けて尻を振り続けるベビ、
まだ眠りこけてるベビ、相も変わらず互いにナッコし合って終始マターリ状態のベビ・・・etc、etc。
共通しているのは、どのベビもこの後自らを襲う災厄に欠片ほども気付いていないという事か。
ギコが、トリガーにかけた指に力を込めた。そして―――

―――パァン!

ピストルが咆哮を放つ。それは、競技という名目の殺戮ショー開始の合図。
瞬間、フサは前方へ向かって猛ダッシュ。それを後押しするかの様な観客の大歓声。

「ハナーン、ナッコ♪」

「マズハ チィヲ ナッコ チナサイ!」

「コノ セカイイチカワイイ チィヲ ナッコ デキルコトヲ カンシャ・・・チィィィィ!ドコニ イクンデチュカ!」

「ハヤク コウピー!」

早速ナッコにコウピをねだって来るベビ達。
しかし、フサはそんなベビ達に目もくれず、脇をすり抜けて行った。
口々に文句を言うベビ。中には追いかけて捕まえようとする者もいたが、ラグビーによって鍛え抜かれた健脚に叶う筈も無く。
というか、ベビしぃが全速力で走った所で、幼稚園児にだって叶う筈は無い。
フサが走るその先には、互いにナッコし合ってマターリ空間を生み出すベビ2匹。
左側にいるベビは既に眠っている。右側のベビも目を閉じて恍惚状態。あちら側に言わせれば、マターリしているのだろう。
ナッコし合うベビ2匹まで後3mくらいの所で、フサが地を蹴った。
フサは空中で体を伸ばし、両手でラグビーボールを持ち直して、それを振り上げた。
流石に殺気のようなものを感じ取ったらしい右側のベビが、目を開けた。
目の前に迫るフサ。もう1m程度。だがベビは状況を理解してないらしく、とろりとした表情を崩さない。
そして、フサの体が地面へ着く直前、彼は腕を思いっきり振り下ろしつつ、叫んだ。

「―――トライッ!!」

寸前、ベビが口を開いた。

「・・・ナッコ?」

―――そして。


―――グチャァッ!!


「ヂピギュゥッ!?」

尖った形状をしたラグビーボールの先端を脳天に叩きつけられ、ベビは異常な断末魔と共に、下半身を残して肉塊へと化した。
頭部が割れ、あちこちから脳味噌がはみ出し、血は止め処無く噴き出す。目玉が飛び出してごろり、と地に転がった。
その刹那。

12 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:07:52 ID:???
『シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!????』

『チィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!????』

『ドワァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!』


3種類の大絶叫が、同時にスタンドに轟いた。
たった今までベビ達がナッコして貰えると信じきっていた親しぃ達の叫びと、
自分達をナッコしてくれると信じていたフサの突然の殺戮行為に驚愕したベビ達の叫びと、
見事にベビが肉塊へと変貌したのを見て大興奮の観客の声援。
しかし、その大絶叫の間にも、フィールド上のフサは動いていた。
素早く起き上がると、今度はたった今潰したベビのすぐ横で眠るベビに狙いを定めた。
今度はキックで飛ばすらしく、足を振り上げる。
すると、ターゲットのベビがナッコし合っていた相手のベビの血液や脳漿の付着によって目を覚ました。
そして顔を上げ、フサと目を合わせる。

「・・・ハナ?」

しかし、フサの足は止まらない。

ドゴッ!!

「ヂュィィィィィィィィィ!!?」

鍛え抜かれた足から放たれたキックの威力は相当なものだった。
ベビしぃは蹴られた部分―――側頭部から脇腹にかけて―――が潰れてへこみ、鼻や口から血が溢れていた。
そのままベビはあれよあれよと空の旅。そして数秒後の後に、

ガッシャーン!!

という音と共に観客席とフィールド上空を仕切る金網に激突、その衝撃でさらに潰れてから、ドサリと地面に落下した。
落下の衝撃でますます潰れたベビ。内臓にも被害が出たらしく、体中の穴からどす黒い血液を垂れ流した。当然、もう動かない。

「チィィィィィィ!?ギャクサツチュー デチュヨォォ!」

「チィノ ナッコハ ドウナルンデチュカ!?」

「タチュケテェェェェェ!チニタク ナイデチュー!」

「ハナーン!マンマー!タチュケテー!」

「コウピコウピー!」

次の瞬間、ベビ達はパニックに陥った。
突如として目の前に現れた殺戮者に、ベビ達は混乱を隠せない。
生き延びようとして我先に逃げようとするが、ここは高いフェンスで仕切られたバトルフィールド。逃げ出せる筈が無い。
ベビ達の顔に、絶望の色がありありと浮かび始めた。
―――もっとも、一部のベビは全く動じていない様子。
それは、単に目の前の惨状が受け入れられないか、未だ気付いていないか、眠っているかのどれかなのだが。
また、パニックに陥ったのはベビ達だけではない。

「シィィィィィィィ!?ベビチャンガー!!」

「ドウナッテルノヨ!ナッコト コウピデ ハニャハニャンジャ ナカッタノ!!?」

「シィノ ベビチャンガ シンジャッタヨォォォォォ!!ビエェェェェェェェェェン!!!」

「ベビチャァァァァァン!ニゲテェェェェェェ!!!」

「シィィィィ!カベサンガ ジャマデ ベビチャンヲ タスケニ イケナイヨゥ!!ココヲ アケテヨゥ!!」

そう。ベビ達の親であるしぃ達もまた、突如目の前で繰り広げられた殺戮に、完全に混乱した模様。
バタバタと暴れだす者、大声で泣き叫ぶ者、ガラス窓をドンドンと叩く者、我が子に必死に呼びかける者―――。
それら全ての行為が、全くの無駄であるという事にも気付かず、しぃ達は必死だ。

13 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:09:15 ID:???
やがて、フサが再び動き出した。
彼はふぅ、と一つ息をついてから、再び猛烈な勢いで走り出した。
前方にベビの群れ。

「チィィィィィ!コナイデ クダチャイヨゥ!」

「コロスナラ コッチノ クチョベビカラニ チテヨゥ!」

「チィィィィィィ!?コノ セカイイチ カワイイ チィニ ナンテコトヲ イウノ!?」

「マァマァァァァァァァァ!!!タチュケテェェェェェェェェ!!!」

「ナッコーーー!!」

口々に叫びながら逃げるベビ。
本人は必死のつもりなのだろうが、あっという間に差が詰まってゆく。
そりゃそうだ。ベビしぃが全速力で走っても、その速度は時速1km程度か、それ以下だ。まさに牛歩。―――それは牛に失礼か。
フサはベビの群れに突っ込む寸前にもスピードを一切緩めず、足元のベビを次々とスパイクシューズを履いた足で踏み潰さんと駆け抜けた。

グシャッ!

フサの足が群れの最後方をチィチィ言いながら這っていたベビしぃを踏み潰した。

「ギュビィィィィィィィ!!!!」

奇声を発してベビしぃが潰れた。胴体をまるまる踏み潰されたベビ。心臓まで潰れたらしく、口から血を流してすぐに事切れた。
フサは一切スピードを緩めず、そのままの勢いでベビを次々と踏み潰していった。

グシャッ!

「ミヂィィィィィ!!??」

グチョッ!

「ナッゴー!ナッブギョォォォォ!?」

メシャッ!

「ゴヴェェェェェェェェェ!!!!」

「ヂィィィィィィィ!!!モウ ヤァァァァァァァ!!!!マァマァァァァァァ!!!」

次々と潰されていく同族の姿を見て、ベビが泣き叫ぶ。

「ベビチャァァァァン!コノ ギャクサツチュウ!ヤメナサイ!」

「シィノ ベビチャンガァァァァァ!!!ベビチャァァァァァン!」

「イヤァァァァァァ!!!ベビチャンガ シンジャウヨゥ!」

「オナガイ、ハヤク ココヲ アケテェェェェ!ハヤクシナイト シィノ ベビチャンガ、ベビチャンガァァァァァァァ!!!」

「シィィィィィ・・・シィノ、シィノ、ベビチャァァァァン・・・」

親しぃ達も叫ぶ叫ぶ。目の前で我が子が殺されようとしているのに、手も足も出ないという絶望感。
中には既に、ベビを殺されたショックで意識がお花畑に飛ばされてしまったしぃもいる模様。
一方フサは、ある程度走った所で足を急に止めた。
ベビ達や観客たちも、フサの次の行動に注目する。
すると、フサは持っていたラグビーボールを、少し離れた所に思いっきり投げつけた。
近くにベビが居たが、この様子ではまず当たらないだろう。

「チィチィ!ヤッパリ ギャクサツチューハ バカデチュ!ハズシテルデチュ!」

「ヨウヤク コノチィノ イダイサニ キヅイタノネ!」

「ハナーン ヤット マチャーリ デキマチュ・・・」

ベビ達は安堵しきった様子。

「ハニャッ!アノ ギャクサツチュウ ボールサンヲ ハズシテルヨ!」

「ホントホント!アンナトコロニ ナゲルナンテ ヴァカミタイ!」

「マ、ショセン ギャクサツチュウナンテ コンナモンネ!」

「サア、ハヤク ベビチャンヲ ナッコシナサイ!」

親しぃ達も好き勝手言っている。
しかし、観客の殆どは『ラグビーボールの特性』を知っており、内心でほくそ笑んだ。

14 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:09:51 ID:???
ラグビーボールが着弾。フサが投げた方向にベビはいない。余裕の表情のベビ&親。
しかし、その表情は一瞬で凍りついた。
着弾したラグビーボールは、フサが投げた方向を12時(フサがいる方向が6時)とすると、なんと突如として7時の方向へバウンドした。
その先にはベビが1匹、余裕の表情で寝転んでいた。
ベビは突如として向かってきたボールに驚き、

「チィィィ!?ナンデ ボールサンガ・・・」

ゴシャッ!

「ヂュィィィィィッ!」

そして、ボールの直撃を食らって倒れた。
フサが全力で放ったボールの勢いはこれまたかなりの物。ベビは顔面を潰され、頭部の体積が1/3程度になってしまった。生きている筈が無い。
さらに、ベビを1匹昇天させたにも関わらずボールの勢いは全く衰えず、着弾してから今度は真横、3時の方向へ飛んだ。
その先にもまたもやベビが。

「チィィィィ!?コナイデェェェェ!!」

ベビが叫ぶが、ボールに何を言っても無駄な訳で。

グシャッ!

「ヂュピィィッ!?!?」

―――当然、潰される訳で。飛び散る血液と脳のコラボレーションが、観客達を魅了する。
それからというもの、ラグビーボールはフルパワー状態を維持しながら、ベビ達が全く予想できない方向へと跳ねまくった。
何故、このような現象が起こるのだろう。それは、ラグビーボールの形状に理由がある。
通常のサッカーボール等の球形のボールは、どの部分で着弾しても力の掛かり方はほぼ同じ、従って決まった方向にしか跳ねない。
しかし、ラグビーボールは楕円形をしているため、着弾する箇所が異なると、力の掛かり方も全く異なってくる。もちろん、跳ね方だって全く異なる。
従って、次にどの部分で着弾し、どの方向に跳ねるかなんて全く予測が出来ないのである。

15 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:10:22 ID:???
「チィィィィィ!!マァマァァァァァ!!タチュk」

グチャッ!!

「ナッゴォォォォ!!!ナ」

ブチュッ!

「アニ゙ャァァァァァァァァァァ!!!コンナノ マチャーリジャ ナ」

ビシャッ!!

叫ぶベビ、そして叫んだそばから潰されていくベビ。
完全に次の動向が予測できないラグビーボールは、まるで意思があるかのように次々とベビを潰していった。
何しろ、次はどの方向に、どれくらいの速度で、どこまで跳ぶのか。それらが全く予測できないのだ。
現実にそんな兵器があったとしたら、手練の兵士でも避ける事は困難を極めるだろう。
ましてや相手は単なるアフォしぃのベビ。運動神経は皆無に等しい。
それが最新鋭の兵器では無くてラグビーボールだったとしても、かわす事なんて出来やしなかった。
『ラグビーボールなんかで殺せるのか?』なんて疑問を抱いた方もいらっしゃるだろう。
だが、ラグビーボールの空気をしっかりと入れ、それなりの力で投げつけたなら、革張りのボールはかなりの威力を持つ。
前述したが、相手は単なるベビなのだ。体の脆いアフォしぃのベビの強度なんてたかが知れている。
ベビ達にとってそのラグビーボールは、まさに軽快に跳ね回る鋼鉄の塊のような物だった。

また、ボールが次々とベビを仕留める間も、フサは休んでいた訳では無かった。
彼はおもむろに駆け出すと、近くで恐怖に慄いて体が硬直していたベビを1匹、掴み上げた。
そしてそのベビを、片腕でしっかりと抱くようにして持つ。

「アニャ?ナッコデチュカ!?アニャーン・・・ヤット チィノ カワイサニ キヅイタンデチュネ・・・ナッコ・・・」

腕に抱かれたベビはナッコと勘違い。瞬時にマターリモード。
(ちなみに、片腕で抱くようにしてボールを持つのはラグビーの基本)
フサはそんなベビも意に介さず、猛烈なダッシュをかける。
そして、これだけの惨劇が起こっているにも関わらず眠りこけている(ある意味大物な)1匹のベビを補足。
この時点で観客の半数はフサの目論見に気付いたらしく、wktkが止まらないご様子。
中にはまるでジョルジュ長岡の如く腕を振りまくって『うおぉぉぉぉ!!』なんて叫んでヒートする観客も居た。
縮まっていくフサと眠りベビの距離。
それが5m程度に達したとき、フサは抱えていたベビを片手持ちに持ち替えた。

「ハナーン・・・?」

マターリのあまりとろけそうになっているベビは、さして気にしていない様子だ。
そしてフサとベビの距離が3m程度になった時―――

―――跳躍。

空中でフサは、ベビを両手で持ち直して、その手を高々と振り上げた。
その様子は、つい先刻、ボールをベビに叩き付ける直前の瞬間と酷似していた。

「チィチィ!タカイタカイ デチュネ・・・。タカナッコ デチュ・・・」

―――いくらなんでも気付いても良さそうなのだが。
第一、今貴方は逆さまに掴まれているのですよ、ベビちゃん?

一瞬の静寂の時。そして。

ドグチャァッ!!

『ヂュビギョォォォォォォ!!!??』

この世の生き物が発したとは到底思えない奇声の二重奏(デュエット)。
互いに叩きつけられたベビの頭部は最早原型を留めない程に崩壊した。
特に叩き付けた方のベビ(掴まれてた方)は、頭部がグシャグシャに千切れて、さらに首から上が吹き飛んだ。
吹き飛んだ頭部は既に千切れていた事もあって見事に空中分解。
傍で目をひん剥いて事の顛末を見届けていた1匹のベビに、血肉のスコールが降り注いだ。

「チィィィィィィィィィ!!!!??イヤァァァァァァァァァァァ!!!!キモチワルイ デチュヨォォォォォォ!!!」

突如として文字通り降り掛かった災厄に、ベビは悲鳴を上げた。
全身を血液、肉片、脳漿で染め上げ、さらに耳の辺りを飛んで来た目玉でデコレーションしたベビ。
周りのベビも、遠巻きにしてそれを観察している。

次は自分が、あんな目に遭うのだろうか―――。

そんな言葉を脳裏に過ぎらせながら。

16 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:10:49 ID:???
「キモイ デチュヨォォォォォ!タチュケテェェェェェ!!ナッコォォォォ!!」

全身血肉塗れとなったベビが、半ば転げまわるような形で暴走を開始する。
他のベビに向かって突進する血塗れベビ。―――だが。

「チィィィィ!?コナイデェェェェェェ!!!」

「クチャーヨゥ!キモチワルイヨゥ!!マチャーリジャ ナイデチュヨゥ!!」

「アンタミタイナ キモイノハ ホコリアル カワイイ ベビシィトハ ミトメナイデチュ!!コノ キケイ!!」

口々に言いながら一目散に逃げてゆく。
血塗れベビを気遣う者は、誰一人としていない。『大丈夫か』の一言も無い。
それどころか、そのベビを罵倒し、蔑み、挙句『奇形』とまで言ってのけた。
運が悪ければ、自分がその『奇形』とやらになっていたかも知れないのに、そんな事は頭に無い。
奴らの頭は都合の悪い事は全て忘れるような構造をしているらしい。まさにアフォしぃの思想そのものだった。
蛙の子は蛙。アフォしぃの子はアフォしぃ。という事か。

「チィハ キケイナンカジャ ナイデチュヨゥ・・・ナッコ・・・ナコ、ナコ・・・」

周りのベビ全員から非難され、行き場を無くした血塗れベビが、その場に立ち止まって呟く。
だが次の瞬間、背後に誰かの気配を感じた。ベビの顔が明るくなる。
こんな自分でも、傍にいてくれる仲間がまだ居たのかと、ベビはゆっくり振り向く。
振り向きざま、ベビは両手を突き出しながら言った。

「ナッコ♪」

―――そこに居たのは、自らと同じベビしぃでは無かった。
目の前で数多のベビを屠ってきた、フサの姿があった。

「ヂ・・・」

ベビの顔が凍り付きかけた。―――何故、未完形なのかって?
凍り付く暇も無く、その頭は蹴り飛ばされてしまったから。
蹴られた頭部は、首から離れてかなりの速度で飛んでいく。鮮血の尾を引きながら。
そのまま、遠くにいたベビの、これまた頭部に直撃した。

ゴシャッ!

「ギヂュゥゥッ!!?」

命中の瞬間、生首の直撃を食らったベビの頭部は爆散した。
そしてさらに、その頭部の破片が近くに居た数匹のベビを襲った!

グシャシャッ!!ブチュッ!バキッ!

「ブギュッ!!」

頭蓋骨の大きな破片が側頭部に突き刺さり、脳を露出させたベビ。

「アギギギギィィィィ・・・」

顔面に大量の歯が突き刺さり、まるで蓮コラ画像のようになったベビ。

「ミ゙ギュゥゥゥゥゥ!!ウヴィィィィ!!」

顎の太くて丈夫な骨の直撃を受け、顔面を砕かれたベビ。
蹴り飛ばした首がベビを直撃し、さらにそのベビの砕けた頭部が周りのベビに命中する。それはまるでビリヤードのようだった。



「チィィィィィ!!ナッコスルカラ タチュケ」

グチョッ!

唯一フィールドで生き残っていたベビを、フサが踏み潰した。
と、その瞬間。

パァン!

再びピストルの音が、高らかに鳴り響いた。
それは、競技終了を知らせる合図だった。

「競技終了ォォォォォォォォ!!100匹屠殺完了っ!!」

「フサギコ選手、お疲れ様でした~!」

すっかり興奮したモララーが叫び、ガナーはフサに労いの言葉をかける。

「タイムはぁっ・・・6分7秒!!これはいきなり好記録っっ!!」

モララーのコールに合わせて、スタンドの金網を吹き飛ばさんばかりの大歓声が轟いた。

流石兄妹の華麗なる休日~百ベビ組手~ 前編 (2)

17 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:17:20 ID:???
「ラグビーの動きを応用しての虐殺!いやぁ、お見事だったよ~!」

モララーがすっかり上気しながらフサを褒め称える。
フサは「ありがとうございます!」と一礼。

「それではフサギコ選手、控え室、或いは観客席の方へお戻り下さい!ありがとうございました~!」

ガナーのアナウンスを聞き届けてから、フサは司会、スタッフ、観客の順に礼をしてから、退場口へと消えていった。
―――一方、親しぃは。

「イヤァァァァァァァァァァァ!!ベビチャンガァァァァァァァ!!」

「ビェェェェェェェェェェェン!!ベビチャンガ シンジャッタヨォォォォォォォ!!」

「ハニャーン!ハニャーン!!ハニャァァァァァン!!!」

「アニャニャニャ・・・ベービチャァーン・・・」

愛する我が子とその仲間達が目の前で惨殺された親しぃ達は、完全に狂乱状態だった。
中にはショックから完全に思考回路が消し飛び、抜け殻のようになったしぃもいた。
やがて親しぃ達は、スタッフの手によって強制的に退場(泣き喚く奴・狂った奴は蹴り出して)させられた。


「う~ん、すごいのじゃぁ・・・」

妹者が感心しきった様子で呟いた。
兄者がそれに同意する。

「うむ、まったくだ。だが妹者よ。感心するのはまだまだ早いぞ。これからまだ何人も競技を行うのだからな・・・」

「楽しみなのじゃ!」

兄者の言葉に、妹者は待ちきれないといった表情で笑った。


それから、何人もの挑戦者がバトルフィールドに現れ、ベビ達を虐殺していった。
(ちなみに、競技終了後のフィールドはスタッフが死骸を片した後、機械で土をまるまる入れ替える為、ほぼ元通りになる)
無難に虐殺した者もいたし、中にはかなり特異な方法をとった者もいた。
挑戦者NO.09である、有名料理店『モナ場料理店』の料理人モナーは、何とベビ達を100匹全員ベビフライにしてしまった。
油を高温に熱したり、ベビを捕まえて巨大鍋に放り込むのに時間が掛かった為に優勝は望めそうに無かったが、本人はとても満足した様子。
そのベビフライは司会の2人やスタッフ、抽選で決定した観客に配られた。
誰もが皆、百人百様の虐殺に魅了されていた。


―――控え室。
弟者と共にずっとモニターを見上げていたつーが、不意に立ち上がった。
モニターの中では、挑戦者NO.10の大工ギコが、ベビを鉋(かんな)でガリガリ削っている。『ギヂィィィィィィ!!!』という悲鳴が響いていた。

「ジャ、ソロソロ行ッテクルゼ」

「ん、もう出番なのか?」

つーの言葉に、弟者が反応する。
つーが答えた。

「アア、アタシハNO.12ナンデナ。1ツ前ノ挑戦者ノ競技中ニ、準備室ヘト移動スル事ニナッテルンダヨ」

なるほど、と弟者が頷いた。

「まあ、頑張って来い。前回優勝者だからって、気負う必要は無いさ。リラックスして、な」

「言ワレルマデモネェッテ。・・・アリガトヨ」

弟者の激励につーは微笑んでから、『出場者準備室』のプレートが掛かったドアを開け、その先に続く階段を下りていった。
その背中に確かな自信を感じ、弟者は少しだけ安堵してから、もう一度モニターを見上げ直す。
今度は別のベビが、エアーネイラー(電動釘打ち込み機)で釘を打ち込まれまくっていた。『アニ゙ャア゙ァァァァァァ!!!』というベビの悲鳴が聞こえて来た。


「さあさあ!いよいよ真打ちの登場です!」

モララーの一層大きな声が、スタンド中のAA達の耳を打った。
続いてガナーが、これまた普段より大きな声で告げた。

「挑戦者NO.12!!前回大会優勝者・・・つー選手の登場ですっ!!」

ドワァァァァァァァァ!!!!

その瞬間、爆弾が爆発したとも聞きまがう、凄まじい歓声が轟いた。
恐らくスタンド中どころでは無い。町内広場中に響き渡った事だろう。
歓声と共に登場した、小柄な少女。

「あ、つーちゃんなのじゃ」

妹者がつーに向かって手を振る。兄者も、少し驚きながら唸った。

「う~む・・・前回優勝者はつー族の女の子とは聞いていたが・・・まさか弟者の友達だったとはな」

当の本人は、モララーからのインタビューに答えていた。

「今回も華麗なナイフ捌きを見せてくれると期待してるよ~!ところで今回の目標は?」

その問いに、つーは即座に答えた。

「勿論、V2達成ニ決マッテルサ!アーッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!!」

「頼もしいお言葉!!是非頑張ってちょーだい!!」

「ではつー選手、準備をお願い致します!」

司会2人の声に押されて、つーは準備を始めた。

18 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:19:16 ID:???
『準備』とは言っても、つーは何やら硬い物がぎっしり詰まっている麻袋を2つ、腰にそれぞれ左右に括り付けただけだった。袋の口は背中の方を向いている。
そして、壁際のボタンを押し込む。ランプの点灯を確認してから、モララーがマイクを手に取る。

「おっと、準備が出来たようですね。ガナーちゃん、ベビの方はスタンバイ・オーケィ?」

「こっちも準備完了ですよ~。それでは、間も無く競技開始です!」

ガナーの言葉通り、フィールドには既にベビしぃが100匹入場完了していた。
前述したが、フィールドは競技が終わる毎に綺麗に掃除される。ベビ達は100匹ずつ完全に隔離されて待機する為、誰一人として『ここで虐殺があった』という事実には気付かない。
それは親しぃも同じだった。

「ベビチャン、イイナァ。ナッコシテ モラエルナンテ・・・」

「デモ、ナンデ ギコクンジャ ナイノヨ!アンナ アヒャッタヤシニ ナッコサセタラ ベビチャンノ キョウイクニ ワルイジャナイノ!」

「マア、シィチャンハ ヤサシイカラ、ダッコサセテアゲテモ イインジャナイ?」

「カワイイシィチャンノ、カワイイベビチャンヲ ナッコデキルコトヲ ナイテ カンシャシナサイヨ!」

そんな喚きが聞こえてくる。バレる気配は全く無い。もっとも、バレた所で防ぎようも無い訳だが。
つーはというと、親しぃの言葉に軽くカチンと来たのか、親しぃの方を睨み付けながら、腰の袋に手を伸ばしたり、引っ込めたりしている。
どうやらあの中には武器が入っているようだ。
しかし間も無く競技が始まるというので、つーは視線を前に戻す。
視線の先には、ベビが100匹。ナッコを要求したり、つーが男に見えるのかコウピを要求するものもいたり、眠っていたり―――。

「では、よ~い・・・」

ギコが空砲のピストルを構える。つーは軽く深呼吸しながら、体を少し屈める。
兄者、妹者を始めとする観客も息を飲む。スタンド中が静寂に包まれた。
―――否。ベビと親しぃだけは騒いでいたが。
そして―――。

パァン!

ピストルの咆哮と共に、流星の如き勢いでつーが飛び出した。
あちこちから聞こえてくる「ナッコーー!!」やら「チィヲ ナッコチナサイヨー!」とか言う声を完全に無視して。
その瞬発力は、確実に本日の出場者の中でも最速だろう。
フィールドの中央付近まで走り込んだつーは、右手を腰に回し、袋の中に突っ込む。
一瞬、風を切るような音がした。はた、と見た次の瞬間、つーの腕は顔の前を通り、右手は彼女の左側頭部の所にあった。
何が起こったのか、観客には全くわからない。
しかし、すぐに分かる事となる。

19 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:19:56 ID:???
「ヂィィィィィィ!!」

「ヂギャァァァァァァァァ!!!」

「ア゙ア゙ァァァァァァァァ!!」

という、3つの悲鳴が聞こえて来たからだ。
見やれば、つーの前方5、6m先に居る3匹のベビの顔面に、細めのナイフが突き刺さっていたのだ。
それぞれ眉間、こめかみ、右目。どれもベビの頭部を貫き、後頭部から切っ先が飛び出している。

「な、なにが起こったのじゃ・・・?」

目をくるくると回す妹者に、兄者が解説を開始する。

「妹者よ、説明しよう。袋の中にはあのナイフがぎっしり入ってたようだな。
 で、袋に手を突っ込んだ時にナイフを3本掴んで、投げた」

「でも、投げたようには見えなかったのじゃ・・・」

「―――恐らく、目にも留まらない速さで腕を振って、投げたんだろうな。俺にも見えなかったよ。
 俺達が見た時には既に顔の横に手をまわしていたが、あれはフォロースルーだろうな・・・」

「つーちゃん、凄いのじゃ・・・」

「ああ、全く・・・流石だな」

兄者が説明した通り、つーは目にも留まらぬ速さでナイフを投げた。
そしてそれは、正確にベビの顔を捉えたのだった。
その華奢な腕からは想像も出来ない程の剛速球、もとい剛速刃だ。
顔面に刃を受けた3匹が倒れ伏す間も無く、つーは走り出していた。
そして左手でナイフを1本取り出すと、体制を低くする。
怯えた表情のベビがすぐ傍に迫る。つーは軽く左手を振った、つもりだった。

ザシュッ!!

ベビの両耳、両手、両足が吹き飛んだ。噴出した鮮血の雫が、太陽の光を浴びてきらきらと輝く。
ベビがすかさず叫ぶ。

「チィィィィ!?チィノ オミミー!オテテー!アン」

「ウッサイ!」

聞き飽きたその叫びを皆まで言わせず、つーは達磨になったベビを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたベビ一直線に飛んで行き、親しぃの観戦席の窓ガラスの上方の壁に激突、そのままグチャリとトマトのように潰れた。
「シィィィィィィィィ!!?」という叫び声が聞こえたが、つーは全く気に留めない。

「チィィィィィィィィ!!ギャクサツチュー デチュヨォォォ!ナッコォォォォ!!」

そんな叫びが聞こえてきた。つーは視線を移す事もせず、その叫びの聞こえてきた方向へナイフを放る。
ザクッ、という音に一拍遅れて

「ギュヂィィィッ!!!?」

ベビの悲鳴が被さる。仕留めたかどうかを確認しようともせず、つーは再びナイフを1本抜く。

20 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:20:27 ID:???
その時、真正面からベビの声。

「カワイイ チィタチニ コンナンコトシテ ユルサレルト オモッテルンデチュカ!?イマナラ コウピデ カンベンチテヤルデチュ!コウピ コウピー!」

見ればそのベビは、尻をこっちに突き出しながら少しずつ接近して来る。常人なら確実に眼を背ける光景だろう。
つーは、ぎりっ、と歯軋り一つしてから、言葉と共にナイフを振りかぶる。

「アタシハ・・・」

そして、絶叫と共に腕を振りぬいた。

「―――女ダァァァァァァァ!!」

ブチュンッ!

「ギュッ・・・!?」

短い悲鳴。見れば、ナイフはなんとベビの体をぶち抜いて、貫通していた。
ナイフは肛門から突き刺さり、皮膚を破り、血管を絶ち、あばら骨を折り、心臓を貫いて、最後に口腔内を切り裂いてから口から体外へ出、失速して地面に突き刺さった。
その小さな体からは想像もつかないようなパワーだったが、つー自身はその力に酔う暇も無く、ナイフをまた取り出す。
今度は両手にそれぞれ5本ずつ。すると、つーはそのまま跳躍。高く高く上昇する。
彼女は空中で体制を直すと、ベビ7,8匹が身を寄せ合って固まっている箇所に狙いを定めた。
そして腕をクロスさせると、その両腕を広げるような形でナイフを投げつけた。
ベビの集まりに向けて、上空から風を切り裂いて10本のナイフが襲い掛かる!

ズドドドドドドドドドドッ!!!

「ハギュッ・・・!」

「ヂュィィィィィィ!!?」

「ナ゙ゴォォォォォ!!!」

「アギャァァァァ!」

雨霰(あめあられ)と降り注いだナイフは、余す事無くベビ達に突き刺さった。
顔面、後頭部、胸部、腹部、背中、首・・・被弾箇所は違えど、1匹残らずナイフの餌食。
つーがスタッ!と地面に着地した時には、既に8匹中5匹が絶命していた。
生き残っていたのはそれぞれ背中、腹部、脇腹にナイフを受けていた。致命傷にはなっていなかったが、出血はかなり激しい。溢れるなんてもんじゃない。噴出している。
放って置けば確実に死ぬ―――誰もがそう判断した。それはつーとて例外ではなく、未だにしぶとく「ナ・・・ナゴ・・・」と呟くベビをスルーし、ナイフを新しく抜きながら辺りを見渡した。
今度は両手に1本ずつ。それを構え、つーは突進した。
フィールドを縦横無尽に駆け回り、ベビの横を通り抜ける度に、つーは腕を動かす。
そしてその度に、ベビの体から鮮血が噴き出すのだった。体の一部も一緒に吹き飛ばし、時にはまるまる首や上半身を無くす者もいた。

ウオォォォォォォォォ!!

会場のボルテージは最高潮だった。
阿修羅の如き勢いでナイフを駆るつー。彼女が傍にいたベビの首を切断した瞬間、彼女は大きな声で笑った。

「アーーーーーーヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!!」

その笑い声は、観客達に最大の興奮を、ベビ達に絶大な恐怖をもたらした。

21 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:21:48 ID:???
まるで真っ赤な絨毯を敷き詰めたかのようなフィールド。むせ返るような血の匂い。
その中央で、銀の刃を煌かせながら舞う少女。
彼女が動くたび、フィールドに真っ赤な花が咲く。

「チィィィィィ!モウ ヤァヨォォォォォォォ!!!」

ベビしぃの悲鳴。
しかし、耐え切れぬ恐怖から発したその叫びが、皮肉にもその『恐怖』の根源を呼び寄せる結果となる。
つーが、叫びを発したベビの方を向いた。思わずビクリと竦むベビ。
そして、右腕を軽く振る。放たれたナイフが、太陽光を反射して眩しく光った。

グシャッ!

「ジギュゥッ!!?」

哀れ、叫びを発したベビは、鋭いナイフにその小さな心臓を貫かれて逝ってしまった。
噴水のように噴き出す鮮血にも目もくれず、つーは足元に居たベビを蹴り上げた。

「アニャァァァァ!」

まるでサッカーボールのように高く舞い上がったベビ。
それと同時に、つーはベビと同じ高さまで跳躍する。
空中でくるりと体を捻って1回転してから、つーがナイフを水平に構えた。

「ナッコチュルカラ タチュケ・・・」

「ヤダネ!アッヒャッヒャ!」

短すぎる会話。
そして―――

ザンッ!

「アギュッ・・・」

横薙ぎに振るわれたナイフは、正確にベビを腹部の辺りで真っ二つに切り裂いた。
腸をぶら下げながら飛んでいく上半身と、糞尿になりかけの物体を撒き散らしながら落ちていく下半身。
つーは着地と同時に、少し離れた場所に居るベビ―――最後の一匹目掛けて走り出した。
爆風の如き勢いで迫る、小さな小さな『災厄』。
ベビは、つーに背を向けて逃げながら絶叫した。

「ナッコォォォォォォォォ!!ナコスルカラ ユルチテェェェェェェェェェェ!!」

だが、ベビしぃの渾身の叫びは、つーの心を1nmmですら動かす事は出来なかった。

「ソレシカ言エネェノカ・・・ヨッ!」

ドガッ!

「ヂィィィィィィィィィィ!!!」

あっという間にベビに追いついたつーは言い切ると同時に、ベビを思いっきり前方へ蹴飛ばした。
ベビは悲鳴を発しながら一直線に飛んで行き、そして。

ゴシャッ!!

「ビュギィッ!!??」

何と、親しぃ達の特別観戦席の窓ガラスに激突して張り付いた。

「イヤァァァァァァ!!」

「シィィィィィィ!!?」

親しぃ達の悲鳴が聞こえてくる。と、その時。

「ベビチャン!オカアサンハ ココヨ!!」

最前列に居た1匹のしぃが、ベビに向けて叫んだ。
何と皮肉な事か。顔面を骨折し、鼻血を垂れ流してガラスに張り付く何とも醜い有様のベビを、その母親が眼前で見る羽目になろうとは。
ベビも母親に気付いたのか、声を絞り出す。

「マ・・・マ、マ・・・」

「ベビチャン!ベビチャン!!シッカリシテェ!」

親しぃが、ガラスの向こうの我が子に向かって必死に手を伸ばす。
たった数cmのガラス窓に隔てられた親子。このガラスさえ無ければ、ベビちゃんを助けられるのに。
親しぃは無駄と頭では分かっていながらも、手を伸ばす。
ベビが今生の頼み、といった感じで、言葉を紡ぎだした。

「マ、マ・・・ナ、ナ、ナ゙」

ブシャッ!!!

22 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:22:13 ID:???
「ギュピィィィッ!!?」

刹那、窓ガラスが真っ赤に染まった。
たった今まで張り付いていた筈のベビは、頭部をざっくりと割られて一瞬で命の灯火を掻き消された。
噴き出した血が窓ガラスを紅く染め上げ、まるでステンドグラスのよう。
ベビの頭部は真っ二つに分かれて頭の中身をぶち撒けながら落下、窓ガラスには張り付いた首から下が残された。
血飛沫の向こう側に見えたつーの姿を、親しぃ達はきっと生涯忘れる事が出来ないだろう。

「ベビチャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!!!!!」

親しぃの大絶叫。
数cmのガラスを隔てた先で、その若すぎる命を散らした我が子。
「マァマ、ナッコチテ」その最後のお願いを言う事も許されなかった。
叫び終わった親しぃはただ呆然と、我が子の命の残光―――ガラスの血と、残された体を見つめていたが、

パァン!

突如として鳴り響いた、競技の終了を告げるピストルの音と共に、どやどやと入ってきたスタッフ達に押し出されるようにして、強制退場させられる羽目となった。
スタッフに腕を掴まれた瞬間、我に返ったように親しぃが叫んだ。

「ベビチャン!シィノ、シィノ、ベビチャンガァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

だが、スタッフの丸耳モナーが、軽い肘鉄と共に放った、

「五月蝿いモナ!あんな生ゴミ以下の命が無くなったくらいで、ガタガタ騒がないで欲しいモナ」

という、しぃ達にとってあまり冷徹過ぎる言葉によって、黙らざるを得なかった。


「終了ォォォォォォォ!!ブラボォォォォォォォ!!」

鳴り止まない拍手の中、モララーが叫んだ。
彼の顔はすっかり真っ赤、かなり興奮していた。

「つー選手、お疲れ様でした~!いやぁ、本当に素晴らしかったですよ!」

ガナーも彼女を褒め称えた。
その言葉を聞いて、つーは血が飛び散って所々赤い顔でニッコリと笑った。虐殺の疲れを微塵も感じさせないその顔は、充実感と爽快感に満ち溢れていた。

「タイムは・・・おおぉぉぉぉぉぉぉ!!!5分27秒!!早いっ!早すぎるぅ!!」

「アッヒャァァァァァァァァァァ!!!」

モララーが告げた自らのタイムを聞いたつーは、喜びを隠そうともせずに叫んだのだった。
両手を天に突き出し、全身で喜びを表すつー。

「これは凄い!大会史上、第2位のタイムです!!史上最速のタイム、5分21秒と僅か6秒差!!」

「これはもうV2ケテーイかぁっ!?素晴らしすぎる虐殺をありがとうっ!つー選手、戻ってチョーダイッ!!」

興奮の坩堝(るつぼ)と化したスタンドに、司会2人の声が響き渡る。
つーは司会、スタッフ、そして大観衆にまとめて手をぶんぶんと振ると、ガッツポーズをしながら退場口へと消えていった。

23 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:23:24 ID:???
つーが意気揚々とフィールドを去った後も、歓声が絶える事は無かった。
その後に出てきた挑戦者達が、これまた見事な虐殺を披露していったからである。
例えば、硫酸プールに次々とベビを放り込んで溶解させたNO.15の科学者じぃ。
プールがスケルトンになっていた為、観客達はベビが溶けゆく様子をじっくり観察する事が出来た。
他にはNO.18、食品工場勤務のニダー。
彼は特製超激辛キムチ用唐辛子ペーストなる物を次々とベビの肛門にぶち込み、まるでジェットの如く糞を爆裂させた。彼は100匹全員脱肛という、ある意味凄まじい記録を打ち立てた。
『我が国の誇り、思い知ったかニダ!ウェーハッハッハッハ!!』と、彼は笑っていた。
そして―――。

「さあいよいよ、最後の挑戦者です!」

マイクを通したガナーの声。
手元の資料を読みながら、モララーが言った。

「ん・・・おやぁ?どうやらこの選手は、飛び入り参加のようですね!これは期待!
 では、ご登場願いましょう!挑戦者NO.20―――流石 弟者選手です!!」

コールを聞き届けた弟者が、入場口からフィールド内へと姿を現した―――その時。


『あーーーにーーーじゃぁーーーーーーーー!!!!頑張るのじゃーーーーーーーーーーー!!!』


スタンドに何百人と集まった観衆の大歓声にも劣らない大声が、スタンド中に響き渡った。
その何百という観衆、そしてスタッフに司会者の視線が、一斉に声の主―――妹者に注がれる。

「お、おい、妹者・・・恥ずかしいからやめてくれって・・・」

隣に座った兄者にとっては、殆ど晒し上げ状態だった。顔を真っ赤にして妹者に囁くと、彼女は

「ふぇ?」

とすっとぼけたような声を上げたが、スタンドに集まった全てのAAの視線が自分に注がれている事に気付くと、

「あ・・・は、恥ずかしいのじゃ・・・」

これまた顔を真っ赤にして、兄者の膝元に隠れてしまった。その様子を見て、スタンド中からどっと大爆笑。
笑いを必死にかみ殺しながら、モララーがマイクを構える。

「く、くく・・・失礼。どうやら、ご家族がいらっしゃるようですね・・・あれは妹さんですか?」

弟者は「・・・え、は、はい・・・」と呟いた。やはり顔が赤い。
それを聞いたモララーは、ニコリと笑って、

「可愛いお嬢さんですね。それに、あんなに大きな声で応援してくれるなんて・・・いい妹さんじゃないですか。羨ましいなぁ」

そう言った。
今度はスタンド中から拍手喝采。妹者はまだ頬を赤らめながらも、立ち上がってぺこぺことお辞儀を繰り返す。
拍手が止んだ辺りで、ガナーが苦笑する弟者に問いかける。

「今回は飛び入りでご参加のようですが、何故参加を?」

その質問に弟者は、

「いやあ、最初は観戦目的だったんですがね・・・兄と妹に薦められたんで、やってみようかなと」

つーに答えたのと同じように答える。
今度はモララーから質問が飛んできた。

「そういえば、弟者選手はあのつー選手と同級生だとか」

弟者が「ええ、結構つるんでます(w」と答えると、モララーは興味津々な顔つきになって、

「つー選手は、学校ではどのような感じなんですか?やっぱり虐殺を?」

と訊く。弟者はニヤリと笑って答えた。

24 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:23:49 ID:???
「ええ、そりゃあもう。以前校庭にアフォしぃが侵入した時なんかですね、授業中なのに真っ先に飛び出していって駆除してましたよ。
 で、案の定先生からお説教。『アフォヲ駆除シタンダカラ、ソコマデ怒ル事ナイダロ!』って口答えしたら、デコピン喰らったらしいですよ。
 それだけなら良かったんですが、つーの奴、その先生の授業だけ成績をガクンと下げられましてね。親に怒られるって、涙目になってましたww
 武装したアフォしぃにも臆することなく立ち向かっていくのに、親には勝てないんですね・・・。
 そういえば競技の時も何やら叫んでましたけど、やっぱりよく男に間違えられるそうですよ。そのくせ、男に間違うと怒る。
 だったらもう少し女らしくしたらどうなんだと小一時間・・・」

つーの赤裸々な学校生活を次々と暴露する弟者。実に楽しそうだ。スタンドからは笑いが絶えない。
しかしその時、再び大声が。

「弟者・・・テメェェェェェ!!!ナニ勝手ニ喋ッテンダヨォ!ブッ殺スゾ!!」

見れば、兄者の横にいつの間にかつーが。恥ずかしさと怒りで顔が赤い。

「おおっとぉ、ご本人登場だ!弟者選手、明日の学校が怖いですねぇ・・・情報料として、治療費は半額くらいならお支払いしますよ?」

モララーのこの言葉に、会場がさらにどっと沸く。笑いすぎて椅子から転げ落ちる観客も居た。
弟者は肩を竦め、「おお怖・・・」と呟く。
つーは最後に、

「コレダケ言ッテオイテ、肝心ノ競技ガ全然ダメナラ、本気デ怒ルカラナ!
 モシ全然ダメダッタラ・・・トリアエズ明日ノ学校デ、上履キニゴキブリ仕込ンデヤルカラナ!!シッカリヤレヨ!」

それだけ叫んで、頬を膨らませながら椅子にすとんと着席した。
モララーはニヤニヤと笑う。

「何だかんだ言って、応援してくれてますね・・・これは頑張らないとマズーですよ?」

今度はガナーがぽそりと呟いた。

「いやぁ、仲が良さそうで何よりですね」

思わず弟者は苦笑。

「まあ、せめて文句を言われない程度には頑張ります・・・」

「それでは弟者選手、準備をお願いしま~す!」

ガナーのコールを聞いた弟者は、とりあえずレンタル武器が並べられたテーブルに向かって歩いていった。

25 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:25:06 ID:???
(さて・・・どうするべきか)

弟者は思案していた。飛び入り参加の為、武器は持参していない。となればレンタルするのが吉だろう。素手にはそこまで自信が無い。
テーブルの上には剣、ナイフ等の刃物類や槍なんかの長柄武器、ハンドガン、手榴弾、棍棒にハンマーetc―――様々な武器が並んでいる。
他にも絞殺用のピアノ線に、ロケット花火、爆竹、画鋲等の言わば『虐待用』の道具もある。
弟者は暫く武器を眺めていたが、ぽん、と手を打つ。

(この方法で逝くか・・・ならば、まずは相手の数を減らさないとな―――よし!)

弟者はポケットにピアノ線と手榴弾を2,3個ねじ込み、小剣とハンドガンを手に取ると、すぐ傍の壁に設置されたボタンを押し込んだ。
ランプが灯り、司会2人がマイクを構える。

「おおぅ!準備が完了したようです!どうやらスタンダードな方法を採るようですね」

「では、本日最後の挑戦、間も無くスタートです!」

弟者は前を見据えた。フィールド中にベビが散らばっている。
あちこちから、「ナッコ」「コウピ」「ハナーン」「チィチィ」の声。
武器を握る手に思わず力が篭った。

「それでは、よ~い・・・」

ギコの声が聞こえた。

「ちっちゃい兄者・・・」

ぎゅ、と祈るように両手を組んだ妹者が呟く。
兄者は腕を組んで、弟者に視線を注ぐ。
その隣で、つーも同様に彼を見つめている。
そして、

パァン!

ピストルが短い爆音を発した。
弟者は素早く飛び出すと、辺りを見渡す。
ベビが周りから、次々と這い寄ってくる。

「チィヲ ハヤク ナッコ シナチャイ!」

すぐ傍にいたベビが喚く。
よし、と弟者は心の中で呟くと、何の躊躇いも無く手にした剣を足元へ突き出した。
すかさず、

「アギュゥゥゥッ!!?」

ベビの悲鳴が聞こえ、足に何やら生暖かい感触が伝わる。
そして「チィィィィィィ!?」「ギャクサツチュー デチュカ!?」「チィノ ナッコハ ドウナルンデチュカー!」等の五月蝿い喚き声が聞こえてきた。
弟者は血に塗れた剣を振り上げ、そばでナッコナッコと騒いでいるベビの頭上に振り下ろす。
赤い液体がぱっと散り、「ウヂュゥッ!!?」という断末魔。止め処無く噴き出す血と共に、ベビの命も流れ出ていった。

「ハニャァァァァン!!ベビチャンガ シンジャウヨゥ!!」

「ギャクサツチュウ、ヤメナサイ!!」

親しぃの声が聞こえた。弟者は少し眉を顰め、足を振り上げた。
そのまま足元のベビに向かって足を振り下ろす。柔らかい物を潰す、気味の悪い感触が

グチュッ!

という音と共に伝わる。

「グブヂュゥ!?」

異様なベビの声を聞いた弟者は、その無残に潰れ、見るのも嫌気がする死骸を摘み上げる。
そして、そのベビだった肉塊を、未だギャーギャー喚く親しぃの席へ向かって投げ付けた。

ビチャッ!!

元から潰れていたベビ風肉塊はガラス窓にぶつかり、気持ち悪いSEと共にさらに醜く潰れて拡がった。

「シィィィィィィィィィィ!!!?」

という悲鳴が場内に響き渡る。その声は、まさに観客達にとっては興奮剤のようなもの。歓声が一層大きくなった。

26 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:25:30 ID:???
ビビらせるには十分だろう、と思った弟者は、今度はハンドガンを構える。
そして、少し離れた所で必死に

「タチュケテェェェェェェェ!!」

「ナッコモ コウピモ ナンデモチュルカラ ユルチテヨゥ!!」

「チィヲ コロチタラ マァマガ ダマッテナイデチュヨ!」

とか何とか言いながら這いずるベビ数匹を捉えた。
本人はかなり必死なんだろうが、動くペースはあまりにスロウ。弟者にとっては殆ど的。当ててくださいと言っているようにしか聞こえない。

「ベビしぃ、必死だな」

弟者はひとりごちると、トリガーを連続で引いた。

パン!パン!パァン!!

競技開始時にギコが鳴らしたピストルに酷似した音が響いた。
発射音とマズルフラッシュを伴って撃ち出された弾丸は、正確にベビの急所―――眉間、左胸、顔面etc―――に風穴を穿たう。

「アギャァァァァァ!!」

「ウジィィィ!?」

「ナ゙ゴォォォッ!?」

口々に断末魔の叫びを上げて、ベビ達は朽ちた。
弟者は特にリアクションする事も無く、再びトリガーを引いた。

パァン!パァン!パァン!

新たに撃ち出された弾丸は、やはり離れた所にいたベビ達を確実に黄泉の国へと誘うのであった。

「ビュゥゥッ!?」

「ナ゙ゴ、ナ、ナ、ア゙ア゙ァァァァァァァ!!」

「ピギャァァァァ!?」」

1匹目は首、2匹目はこめかみ、3匹目は左胸から鮮血を噴き出しながら、そのまま倒れ伏す。
弟者の射撃技術はかなりのものだった。ここまで1発も撃ち漏らす事無く、ベビを仕留めている。
観客席から聞こえて来た『いいぞ~!』という歓声に片手を挙げて応えると、弟者はまた走り出す。
そして、逃げ惑うベビしぃ達を次々と葬っていった。

27 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:25:57 ID:???
「せいっ!」

「ナッゴォォォォォォ!!」

気合の掛け声と共に剣を振り抜く弟者。悲鳴を上げるベビ。
弟者の振るった刃は、ベビの意思を一切無視。ベビの腹部を切り裂いた。

「ナギュォォォォ・・・ォ・・・」

間延びした悲鳴と共に、切り裂かれた腹から臓物がこぼれた。蚯蚓の様な腸が、ベチャリと音を立てて地面に墜ちる。
止めを刺そうとはせずに、弟者は手にしたハンドガンのリロード作業を行っている。
グリップの底部から、空になったマガジンが落下。
落ちてきたマガジンは、しぶとく命を繋ぎ止めているベビの、腹部よりこぼれ出る臓物を直撃した。

グチッ

「ア゙ヴィッ・・・?」

何とも可笑しな呟きを残して、ベビが白目を剥いた。
どうやら、落ちてきたマガジンの衝撃が予想以上に強く、直撃を受けた内蔵が裂けたらしい。
弟者はというと、弾丸を詰め終えたハンドガンを前方へ突き出し、狙いを定める。

「ナッコォォォ!ナコスルカラ チィダケデモ タチュケテヨゥ!ナコナコナコナコナコナコ」

パァン!パァン!

「ナコナコナギャァァァァァァァ!!」

ナコナコ五月蝿く騒いで観客を見事にイラつかせていたベビは、弾丸を頭部に撃ち込まれて血液&脳漿を撒き散らした。
そこで弟者は、一旦虐殺の手を休めて辺りを見回してみた。
そこここに自らが仕留めたベビの死骸が横たわり―――バラバラになってて横たわる事も出来ないベビもいたが―――、
残ったベビはあちこちで逃げ惑ったり、怯えている。恐怖のあまり竦んで動けない者もいた。
素早く数を数えてみる。10,20,30―――40匹前後か。

「そろそろだな・・・」

弟者が呟いた。
すると彼は、何と持っていたハンドガンをしまい、剣をその場に放り出してしまった。
スタンド中からどよめきが起こる。それはそうだろう。
1分1秒を争う競技の真っ最中に、武器を放り出すなんて前代未聞だからだ。
しかし、弟者の妙な行動はこれだけでは無かった。
次の瞬間、弟者は何と実況席へと走って行ったのだった。
選手がいきなり実況席に向かってくるなんてこれまた前代未聞。
面食らった表情のモララーに、弟者が早口で言った。

「紙とペン、お貸し願えますか?」

「え、あ、ああ・・・紙とペンね、はい」

突然の要求にモララーは多少慌てながらも、B4サイズの画用紙とボールペンを渡してやる。
弟者は一礼すると、素早く取って返し、まず紙を2つに裂いた。
次に、片足を上げて自らの太ももを下敷き代わりにして、2つに裂いた紙の内、片方に素早く何かを書き込む。
そして、フィールド中に聞こえるように大声を張った。

「ベビちゃん達!よ~く聞いておくれ!」

その言葉に、ベビ達が少しだけ反応する。勿論、かなり警戒はしているが。
しかし、弟者の次の言葉を聞いた瞬間、その目の色が変わった。

「今から俺がこの紙を放るから、それを取って俺の所へ持ってきてください!
 持って来たベビちゃんを、好きなだけナッコしてあげます!」

言い切ると同時に、弟者は紙片を投げた。
そよ風に煽られた紙片は、少し飛ばされてから地面に落ちる。
ベビ達はというと―――

「ナッコ!?」

「チィヲ ナッコチテクレルノ!?」

「ヤット コノチィノ カワイサニ キヅイタンデチュネ!」

「チィィィィ!アノカミサンハ モラッタデチュ!」

ついさっきまで自分の仲間達が惨たらしく殺されていた事などとうに忘れ、その小さな目をらんらんと輝かせ、一心不乱に紙片の元へ向かっていく。
フィールドに残された全てのベビが、紙を目指して這う。
ベビ達にとっては宝の地図の如き紙片には、ただ一言『ナッコ』と書かれているのみだった。

28 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:26:25 ID:???
ベビ達の内、紙片から近かった十数匹はあっという間に紙片の元へ到達した。
先頭のベビが、紙片をその小さな手に握り締めた。

「ハナーン!ナッコハ チィノモノデチュネ!」

勝ち誇った顔でベビが言った。だが―――

ドンッ!

すぐに追いついた別のベビが、紙片を握ったベビに向かって体当たりをしたのだ。

「アニャァァァ!?」

体当たりを食らったベビはバランスを崩し、地面に倒れた。その拍子にそのベビが握っていた紙片はその手を離れ、ひらひらと舞う。

「アンタミタイナ クチョベビニ ナッコハ モッタイナイデチュ!ナッコハ コノウチュウイチカワイイ チィニコソ フサワシインデチュ!」

そんな台詞を吐きながら、体当たりをしたベビが漂う紙片へ向かって手を伸ばす。
絶対自分本位という、アフォしぃ的思想はベビの頃から備わっているようだ。
しかし、それは他のベビも同じな訳で、

「マチナチャイ!アンタミタイナ ゲセンナベビハ ヒッコンデナチャイ!」

「ナッコハ チィノモノデチュヨゥ!」

「チィィィィィィ!!ナッコナッコナッコォォォォォォォ!!」

後から追いついたベビ達が、体当たりをしたベビを突き飛ばし、我先にと手を伸ばす。
そこからはあまりにも醜い争いだった。
40匹のベビしぃが、たった一切れの紙切れを求めて、押し合い、圧し合い、取っ組み合い。
口々に「ナッコ、ナッコ」と言いながら、紙をその手に掴まんと、他のベビを押しのけ押しのけ、地面を転がった。
そんな中―――

「イイカゲン アキラメナチャイ!ナッコハ チィノモノト キマッテルノ!」

ドガッ!

「ヂィィィィィ!?」

―――ついに、殴り合いの喧嘩に発展した。
ベビが放ったストレートパンチは、相手のベビの顔面に見事にクリーンヒット。
ベビしぃのパンチの威力などたかが知れているが、相手が同じベビしぃなら威力はかなりの物だ。
殴られたベビは顔中の穴から血を噴いて、地面に倒れた。
それを皮切りに、ベビ達の争いはさらにエスカレートした。
殴る、蹴る、頭突きなんて当たり前。中には、本物の虐殺者よろしく相手を『殺しに』かかっているベビまでいる始末。

「ナッコ!ナッコォォォォ!!」

ブチッ!

「ヂュィィィィィィィ!!ヤメテェェェェ!!」

傷だらけになったベビが、殴り合っていた相手のベビの耳を食い千切った。悲鳴を上げるベビ。
なんと、ついに虐殺の基本中の基本、『耳もぎ』まで登場した。
この時点で、観客の興奮度はピークに達した。
弟者自身は手を下さず、ベビ達が勝手に殺し合う。弟者の真意はそこにあったのだ。
未だかつて無かった新しい虐殺方法―――同士討ち。初めての感覚に、観客達のボルテージは上がりっぱなしだ。
その間も、ベビ達の数はどんどん減っていく。

「チィィィィ!ナッコハ チィノモノナノ!」

ブチィッ!

「チィィィィィ!イチャイヨゥゥゥゥ!!」

―――足もぎ。

「アンタニハ ナッコナンテ ヒツヨウナイノ!ナッコチナイ オテテハ イラナイデチュネ!」

ブシャァァ!

「アギィィィィィィ!!チィノ オテテガァァァァァァァ!!」

―――腕もぎ。

「ナッコナッコナッコォォォォォ!」

ドガッ!ドガッ!ドガッ!

「ナッゴォォォォ・・・ヂ、ヂィィィィ・・・ナ゙ッ・・・」

背中に馬乗りになって後頭部を連打したり、

「サッサト チニナチャイッ!」

ガブシュッ!!

「ヂュィィィィィィ!!?ナッコチュルカラ ユルチテェェェェェェ!!」

腹を食い破ったり。
ベビ達はその体を仲間だったはずの連中の血液と臓物の欠片に塗れさせ、目の前の相手を葬り去っていく。
敗北した哀れなベビは、「ナ・・・ナゴォ・・・」の呟きを残して、命の灯火を消してゆく。
因みに、『ナッコ』と書かれた紙片はすでに千切れてバラバラになり、風に吹かれてどこかへ舞い散っていってしまった。
しかし、そんな事を既に忘れたベビ達は、ただ自らの欲望の為、目の前の相手を叩き潰すだけ。
気付けば、この1分前後の間にベビの数は半分程度になっていた。
―――そこで、弟者が再び動いた。

29 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:26:56 ID:???
弟者は残ったもう1枚の紙片に再び『ナッコ』と書き込むと、ベビ達が醜く争う現場より少し離れた場所へ向かう。
そこで、ポケットからピアノ線と手榴弾を取り出すと、何やら細工。
次に弟者は、足で軽く地面を掘ると、細工の終わった2つの手榴弾をそこに置き、ぐいぐいと押し込んで固定してから土を被せた。
そして、土をかけた場所に紙片を置くと、小走りでその場所から離れ、再び大声を張った。

「ベビちゃん達!こっちにも紙があるよ~!」

その声を聞いたベビ達が一斉に反応した。

「コンドコソ チィガ ナッコチテ モラウデチュ!」

「チィィィィ!チィコソガ ナッコデ マターリスルノ!アンタハ ドッカヘ イッテナチャイ!」

「ナッコナッコナッコナッコナッコォォォォ!!」

口々に己の欲望に染まった台詞を叫びながら、ベビ達が一斉に紙の置かれた地点へと向かっていく。

「ヂィィィ・・・ナ、ナッグォォォ・・・」

大怪我をして動けないベビをその場に置き去りにして。
弟者は何故か片手を握ったまま、離れた場所で傍観している。
やがて、動く事の出来る全てのベビが置かれた紙片を射程圏内に捉えた。
そして例の如く、紙片を求めて再び大乱闘を始めた。
骨肉の争いを繰り広げるベビ達を尻目に、弟者は先程までベビ達が争っていた場所へ行く。
体のあちこちを無くしたり、臓物を露出させたりしているベビ達の死体。同族にここまでこっぴどくやられるとは、と弟者は少しだけ戦慄した。
弟者が戻ってきたのは、数多くの死体の中にただ1匹、しぶとくも命の火を燻らせるベビがいたからだ。

「ヂュィィィ・・・ナ、ナ、ナッゴォォォォ・・・」

途切れ途切れの声で、虫の息のベビが言葉を紡ぎ出す。
死にかけのベビは、弟者の姿を捉えると、まだ残っていた左手を懸命に伸ばす。

「ナゴ・・・ナ、ゴ・・・」

まるで最後の願いだと言わんばかりに、ベビは「ナッコ」を繰り返す。
そんなベビを弟者は一瞥した後、足を振り上げて―――

グチッ!

「ナギュッ!」

何の躊躇いも無く踏み潰した。
弟者が足をどけてみると、潰れたベビの死体から、じわじわと鮮血が漏れ出して、周りの土に染み込んでいった。
弟者はその場を離れると、未だに乱闘を繰り広げるベビ達の方を向いた。

「ナッゴォォォォ!!」

グチャッ!!

「アヂュゥゥゥゥゥィィィィ!!?」」

片耳を失ったベビが、相手のベビを思いっきり地面に叩き付けた。
叩きつけられたベビは、頭部が破裂して脳みそを辺りにぶちまける。

「ナッコハ チィノモノナノヨゥ!アンタハ チニナチャイ!」

ブチュッ!

「ヂギィィィィィ!?チィノ オメメェェェェェェ!!」

こちらでは未だに無傷のベビが、両手を失って反撃の出来ないベビの目玉を抉り取っている。
それだけに留まらず、

「ハナーン!ヤッパリ カワイイチィイガイニ ナッコハ ヒツヨウナイデチュネ!サア サッサト チンデチョウダイネ!」

ブチャッ!

「チィィィィィィィィィ!?チィノオミミー!オメメー!!」

嬲るようにして、相手の目や耳を一つ一つ奪っていく。しかも、前述したが相手は反撃不可能。残虐にも程がある。
ベビ達は戦った。ただ、ナッコの為に。時に必死に、時に残虐に。アフォしぃという生き物は、ここまで自分の欲望に素直になれるのか。
しかし、ベビ達は知らない。自分達が戦っているフィールドの真下に、手榴弾が眠っている事を。
思わず顔を顰めた弟者は、一言

「―――これで締めだな・・・」

そう呟いた。
そして、不自然に握ったままの右手を、その場で思いっきりグイッ!と引っ張った。

キュポッ!

何かを引き抜くような音が微かに聞こえた。
しかし、口々に叫びを発しつつ殴り合い、蹴り合い、もぎ取り合いに興じるベビ達にはまったく聞こえなかった模様。
そして数秒の後―――

「チィ?」

「アニャッ?」



ドゴォォォォォォォォォン!!!!

30 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:28:09 ID:???
爆音を伴った衝撃波と共に、高々と舞い上がった土煙。そして、哀れなベビ達のバラバラ死体。
お分かりの事とは思うが、弟者がずっと握っていたのはピアノ線だ。そして、そのピアノ線は地中に埋めた手榴弾の安全装置に括り付けてあったのだ。
弟者はそれを引っ張って離れた所から安全装置を外し、見事な遠隔操作で手榴弾を爆発させた。
すぐ真下で2つもの爆弾が爆発したのだ。元より脆いベビしぃで無くとも、無事である筈が無い。
生き残っていた全てのベビが、手榴弾の直撃を受けていた。
両手両足は当たり前、その他首が千切れたり、腹部から四方に爆ぜていたり、中には完全にバラバラに千切れてただの肉片と化したベビも居た。

ボトボトボトッ!

ベビ達の死体が、地面に落下した。
見たところ、爆発から逃れたベビはいない。これで競技終了かと思われた―――が。

「ヂ・・・ヂィィィィ・・・」

落ちてきた死体の中から、声が微かに聞こえた。
見れば何と、下半身を失いながらも未だ生きているベビが、ただ1匹。
どんなに死に掛けであろうと、ただ1匹であろうと、生き残りが居れば競技は終了しない。その間も、時間は経過していく。

「―――なんてこった!」

弟者は素早く駆け出した。
そして、その異常な生命力を持つベビに肉薄すると、足を思いっきり後方へと振り上げ、ベビに叩き付けた。

グシャァッ!

「ニ゙ャッッ・・・」

「ナッコ」の一言も発する事が出来ないまま、ベビは顔面を蹴り潰され、再び高々と宙に舞った。
舞い上がったベビは、すぐに落下してきて、地面に叩きつけられる。そして、その瞬間―――

パァン!!

ギコの手に握られたピストルが、本日最後となる咆哮を放った。

ワァァァァァァァァ!!!

瞬間、観客達が沸きに沸いた。
さらに、大歓声の中から、

『あーーーにーーーじゃぁーーーー!』

の声を聞き取った。見やれば、妹者が両手を思いっきり振っている。兄者は頷き、つーは笑いかけてくれた。
やがて歓声が徐々に収まってきた頃、司会者の2人がマイクを掴んだ。

「いやぁ、素晴らしいっ!お見事っ!!名前通り、流石だぁぁぁぁぁぁ!!」

「弟者選手、お疲れ様でした~!う~ん、これは凄かったですよ!」

今にも脳溢血で倒れるんじゃないかと危惧させる程興奮したモララーと、そんな彼に苦笑しながらも、弟者に労いの言葉を投げかけるガナー。
弟者が一礼で返すと、さらにモララーが喋りまくる。

「それにしても、ベビ同士で殺し合いをさせるなんて、史上初だよ君ィ!
 さらに、手榴弾の遠隔操作!飛び入りとは思えないねマッタク!!いや本当に凄い!!」

まるでガトリング砲の如く言葉を撃ち出しまくるモララーに、弟者とガナーが同時に苦笑。だが、弟者はまんざらでも無い様子だった。褒められれば悪い気はしない。

「忘れがちですけど、その前の小剣とハンドガンによる虐殺も見事でしたよ~」

ガナーもしっかりと弟者を賞賛してくれる。

「最後の最後に凄い奴が居たァァァァァ!!弟者選手、アリガ㌧!!」

終始興奮しっぱなしのモララーのこの言葉を締めとして、弟者へのインタビューは終了した。
直後に沸き起こった大歓声が、再び弟者を包み込んだ。

31 :へびぃ:2007/04/17(火) 01:28:37 ID:???
「結果ァッ!」

「発表ォォォォォォォォォォォ!!!」

司会者2人の気合篭りまくりな声が、マイクに拡張されてスタンド中のAA達の耳を打つ。
同時に湧き上がった大歓声も、司会者に負けず劣らず気合十分。
綺麗に掃除されたフィールドに、弟者やつーを含む全ての選手達が整列している。

「いよいよ、本日の競技の結果を発表します!皆様、お疲れ様でした~!」

「ギコ君が先に説明してくれたけど、1~3位までがメダル!4~5位が入賞!!それから、特別賞が1人!!
 さあさあ、誰になるのかな!!」

改めて説明があった後、用意された折り畳み式テーブルにトロフィーやメダル、賞状、そして景品と思われる小箱が並んだ。
どうやら目録授与役も兼任しているらしい司会者の2人が、司会席からフィールドに降り立つ。
そして、ギコからモララーが金色に輝くメダルを、ガナーがトロフィーを受け取る。
ギコが残りの賞状や小箱を持って、2人の横に立った。そこで再びモララーが口を開く。

「ではっ!ではではではっ!!いきなりですが、本日の優勝者を発表しちゃいます!!
 ・・・とは言っても、皆さん大体察しがついてるとは思いますが・・・」

苦笑しながらモララーが言い、今度はガナーが口を開く。

「では、発表します!
 『第40回百ベビ組手大会』、優勝者は・・・」

ダラララララララララララララ・・・

スネアドラムのロール音が、静寂したスタンドに響き渡る。
誰もが、固唾を呑んで次の言葉を待つ。
選手達も、一様に緊張した様子。そして―――

ダンッ!!

最後に一発、大きな音を立てて、スネアドラムの音が止んだ。ガナーの口が、ゆっくりと開く。

「―――タイム、5分27秒。挑戦者NO.06―――つー選手ですっ!!」

オオオオォォォォォォォォォ!!!

恐らく今、飛行機がこの場で飛び立ったとしても誰も気付かないだろう―――そう思わせるくらいの凄まじい大歓声。
続いて湧き上がる万雷の拍手の嵐をバックBGMに、つーが両手を天に突き出してガッツポーズ。
司会者2人とギコが、喜びを爆発させる彼女に近づいていき、それぞれ目録を手渡す。
モララーに黄金のメダルを首にかけて貰った瞬間の彼女の、金メダルにも負けない程の輝かんばかりの笑顔。皆の目に焼きついた事だろう。
トロフィーや小箱を小脇に抱えて嬉しそうなつーが、表彰台の頂上に駆け上った。
それから、モララーが口を開く。

「なお、優勝商品はメダルやトロフィー、賞状の他に、賞金30万円!
 さらに、大会特製の虐殺用ナイフ10本!!よく切れるよぉぉ!!おめでと~!!」

「ちなみに、2位以降の方にもナイフがプレゼントされますよ~」

ガナーが付け足した。
そのままの勢いで、2人がさらに続けた。

「ではではっ!!続きまして、第2位の発表ですよ~!
 これでも十分誇れます!!では発表!!」

「はい!では、発表します!!第2位は―――」



―――スタンド入り口ゲート。
満足した顔の観客達が、ぞろぞろと吐き出されてくる。
中には未だ興奮冷めやらずといった感じで、身振り手振りを交えて友人同士、あの虐殺が良かった、いやこっちもなかなかだ、と熱く語り合う者もいる。
そんな人込みの中で、兄者と妹者は待っていた。選手として出場した、弟を。或いは、兄を。
そして、見つけた。
両手に何かを持った弟者が、ゲートをくぐって2人の前に現れた。

「ちっちゃい兄者!おかえりなのじゃ!」

妹者が真っ先に見つけ、彼に駆け寄る。
兄者が軽く拍手しながら、弟者の肩をポン、と叩いた。

「いやまったく、流石だったぞ。俺の弟としては、申し分無い結果だったな」

「そ、そうか?ははは・・・ほら」

弟者が少し照れた様子で、2人に持っていた大きな紙を差し出した。
妹者がそれを受け取り、ニコニコと笑いながら言った。

「おめでとうなのじゃ!」




弟者が差し出した紙―――賞状。
そこには、こう書かれていた。


『第40回 百ベビ組手大会 4位入賞 タイム 6分12秒』




【続く】

流石兄妹の華麗なる休日~百ベビ組手~ 後編 (1)

536 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:23:51 ID:???
前編の際にコメントを下さった方々と、読んで下さった方々全てに感謝を込めて。


【流石兄妹の華麗なる休日~百ベビ組手~ 後編】



「それにしても」

場所は、やはり競技場ゲート前。ひとしきり弟者の労を労った後、兄者が再び口を開いた。

「最後のグランドフィナーレは、凄まじかったよな・・・」

「ああ、全くだ」

「本当に凄かったのじゃ」

弟者と妹者も兄者に賛同する。

「最後に何かあるとは思っていたが、まさかあんな展開とはな・・・」

「うむ・・・」

そこで、3人はもう一度、閉会式を回想してみる事にした。



「―――特別審査賞は・・・挑戦者NO.09!料理人モナー選手です!!」

司会者の1人、ガナーが最後の入賞者を発表した。
いかにもコックといった姿のモナーが出てきて、もう1人の司会者、モララーから賞状を受け取る。
そして、そのまま4位入賞の弟者の横に並んだ。
表彰台の頂点にはトロフィーを掲げたつーが君臨している。その左隣、2位の席には銀色に輝くメダルを首から下げたおにぎりの姿が。彼は地元でも有名な虐殺者だ。
つーの右隣、3位の場所にいたのは、最初に虐殺を行ったラグビー少年のフサギコだった。やや緊張した面持ちで、ブロンズで出来たメダルを撫でている。
なお、5位に入ったのは自衛隊所属の丸耳ギコだった。彼の顔からは『何とか入れて良かった』という安堵感が滲み出ている。自衛隊の仲間と賭けでもしていたのだろうか。
全ての賞を発表し終えた司会者2人は、再びマイクを構え直した。

「以上で、結果発表を終わります!」

「入賞した方々と、惜しくも入賞を逃した選手の皆様にも、どうか暖かい拍手を!」

パチパチパチパチパチパチパチパチ!!

客席から大きな拍手が聞こえて来た。
拍手が大方止んだ所で、モララーが口を開く。

「それでは、このままグランドフィナーレへと移行させて頂きま~す!」

その瞬間、観客席から凄まじいほどの大歓声が聞こえて来た。どうやら、相当楽しみにしていたようだ。
弟者が驚きながら周りを見渡すと、出場者達が全員、体をほぐしたり、武器を取り出したりと、何やら準備を行っている。
彼は慌てて、既に表彰台から降りているつーをせっついた。

「なあ、今から何をするんだ?何も聞いてないんだが・・・」

「アヒャ?アア、弟者ハ飛ビ入リダカラ知ラナイノカ。
 ・・・マア、見テロッテ。スグニワカルサ」

「・・・?」

弟者が変わらず首を傾げていた、まさにその時。
『あの』声が、スタンドに響き渡った。



「シィィィィィィィィ!ハナシナサイヨ、ギャクサツチュウ!」

537 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:24:21 ID:???
骨髄まで到達しそうなほど不快感がびりびりと響く甲高い声。
スタンド中の視線が、フィールドへの入場口へと注がれる。
そこには、競技中に特別席で我が子の死に様をじっくりと観察させられた親しぃ達の姿があった。
その数、弟者から見えてるだけでも100匹以上。実際は倍以上いるだろう。それだけの数のアフォしぃが、

「ハニャーン!ハニャーン!ハナシテヨゥ!」

「シィノベビチャンヲ カエシテヨゥ!」

「シィチャンニ ナニカシタラ マターリノカミサ(ry」

「ダッコダッコォォォォォォ!!」

―――などと喚き散らしているのだから、五月蝿い事この上無い。
出場者達が、一様にニヤリと笑みを浮かべる。その瞬間、弟者は全てを理解した。

「・・・ナ?モウワカッタダロ?」

「ああ、よ~くわかったよ」

弟者は言いながら、レンタルテーブルから先刻使用した小剣とハンドガンを引っ掴んだ。

「皆様、準備はよろしいでしょうか?」

ガナーの問いに、出場者達は『オーッ!』と一斉に返す。
ニヤニヤ顔のモララーが、一歩前に出た。

「それでは・・・グランドフィナーレ・開始っ!!
 思う存分殺りまくれェェェェェェェェェェェッ!!」

モララーの叫びと同時に、司会者2人がバックステップで司会席に戻る。
そして出場者達は、既にフィールド中央付近まで歩いて来ていた親しぃ達に、一斉に飛び掛った。

「ハニャッ!!?」

一番先頭に居た親しぃの短い叫び。それが、彼女の最期の言葉となった。

「アーッヒャッヒャッヒャ!!」

いの一番に飛び出したつーの放ったナイフが、その心臓を正確に抉ったからだ。

グシャッ!!

「ギャッ・・・」

そのまま親しぃはばったりと倒れ、もう動かなくなった。

「シィィィィィィ!?ギャクサツチュウダヨー!!」

「タスケテェェェェェェ!!」

「ベビチャンヲ カエシテェェェェ!」

「ハニャーン!ハニャーン!!」

「ハヤクシィチャンヲ ダッコシナサイヨ!」

怖がって逃げ出すしぃも居れば、今の一撃が見えなかったのか、横柄な態度を取るしぃも居る。
しかし、相手の事など関係なかった。どっちにしろ、殺すのだから。

「よし・・・つーに続くか・・・」

パァン!

弟者の狙い澄ました射撃が、ダッコを要求していた親しぃの眉間にぽっかりと風穴を穿たった。

「ダゴォォォ!?」

頭から血を噴きながら、しぃがその場に倒れ伏す。
それによって、その場に居た親しぃ達の殆どが状況を理解したようだ。

「ハニャァァァァァン!タスケテェェェ!!」

「ダッコスルカラ・・・ネ?マターリシヨ♪」

「コウビモシテアゲルカラ・・・」

「シィチャンヲ コロシタラ マタ(ry」

次々とお決まりの台詞を吐いていく―――全てが無駄だとも知らずに。
その瞬間、20人の選手達は、一斉に『虐殺者』の牙を剥いた。



「シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!?」

538 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:24:43 ID:???
それはまさに地獄絵図だった。
際限なく飛び散る鮮血が、まるで雨のように大地を濡らす。
血だけじゃない。腕が。足が。耳が。上半身が。下半身が。首が。肉片が。
ありとあらゆる親しぃ達のパーツが、フィールドをデコレーションしていった。
出場者20人全員が全員、それぞれ違った方法で親しぃ達を次々と屠っていく。
例えば―――

グチャッ!グチャッ!!

「ハギィィィィィ!!ヤベテェェェェェ!!」

スパイクシューズを履いた足で、何度も何度も親しぃの腹を踏み潰すフサギコ。
しぃの腹部からは血が溢れ、見ても分かるくらいにブヨブヨと柔らかくなっている。内臓にも影響が出ているようだ。

ジュゥゥゥゥゥゥ!

「ア゙・・・ギャァァ・・・ギ・・・」

親しぃの腹部を切り裂いて腸を引きずり出し、その体と繋がったままの腸のみを油で揚げている料理人モナー。
体の内部にある筈の物をを高熱に晒す苦痛は想像し難い程だ。凄まじいという事はわかるが。

ブシュゥゥゥゥゥゥゥ・・・

「ジギャァァァァァァァァ!!イダイヨォォォォォ!!タスケテェェェェェ!!」

ドラム缶くらいの大きさの巨大ビーカーになみなみと濃硫酸を入れ、その中に親しぃを放り込んだ科学者じぃ。
もうもうと煙が立ち上り、水面には気泡を発する肉片がいくつも浮いている。親しぃ本体は、既に筋肉組織が露出して、それも半解している為かなりグロテスク。

ブリュリュリュリュ!!

「シィィィィィィ!!オシリガ イタイヨォォォォォォ!!」

ここでも自慢の唐辛子ペーストを使用して、親しぃをジェット機にして見せたニダー。
親しぃの脱肛した肛門からは津波の如く糞が噴出している。数秒後、その親しぃは猛スピードで壁に激突して潰れた。

ダッダッダッダッダッダ!!

「アギュゥゥゥゥゥ!!ハギャァァァァァ!!」

手にしたマシンガンで、しぃの体のパーツを1つずつ蜂の巣へと変えていく自衛隊丸耳ギコ。
両腕と片足は、すでにマトモな皮膚が弾痕に隠れて見えない。

ドグシャッ!

「ハギッ・・・」

両手持ちの大きなハンマーで、親しぃの頭部を一撃で砕いた銀メダリスト・おにぎり。
横薙ぎに振るわれた大槌は、しぃの頭をまるで力を入れすぎた西瓜割りのように粉々に吹き飛ばした。

「アーッヒャッヒャッヒャッヒャァァァァァ!!」

ザシュッ!グシャッ!!ブシャッ!!

「ギニャァァァァァァァァァ!!シィチャンノ カワイイ アンヨガァァァァァァァァァ!!」

若き覇者・つーは親しぃの足をつま先から千切りにしていく。
肉片が積み重なるたび、親しぃの悲鳴も増量していく。

スパァッ!ブッシャァァァァァァァ・・・

「ジィッ!・・・ア・・・シィィィィ・・・」

弟者は、持っていた剣で親しぃの頚動脈を見事に切り裂いた。鮮血が噴水の如く噴き出す。
さらに彼は、血を噴くしぃを抱えると、別の親しぃに向かってその大量の血を浴びせかけた。

「ハニャァァァァァァァァ!?ヤメテェェェェェェェェ!!キモチワルイヨォォォォォ!!」

悲鳴を上げるしぃ。あっという間に彼女の全身は真っ赤に染まった。
その他、選手達は多種多様な方法で親しぃ達を次々と我が子の元へと送ってゆく。
そう考えれば、それはある意味慈悲なのかもしれなかった―――送られる先が、多分地獄であるという事を除けば。

539 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:25:02 ID:???
数百匹居た筈の親しぃ達は、僅か5分程度で肉塊の山と化した。
フィールドは大量の肉片とおびただしい量の血液、そしてどぎつい異臭に覆われていた。
かなり劣悪な環境だったが、選手、観客共に大満足の表情だった。

「それでは、これで『百ベビ組手大会』を終了と致します!」

「選手の皆様も、観客の皆様も、本日はありがとうございました!
 また来年、このフィールドでお会いしましょう!!」

司会の2人が締めの言葉を発し、大会は閉幕となった。
閉会宣言の後も、暫くの間、盛大な拍手が絶えなかった。


―――以上、回想終わり。
暫くの間黙っていた3人だが、弟者が不意に口を開いた。

「・・・うん。やはり凄かったな」

「ああ」

兄者が答えた。とにかく凄かった―――それが3人の感想だった。まあ、的確といえば的確か。
ふぅ、と息をついてから、兄者が再び口を開く。

「・・・ま、なんだ。とりあえず何か食べに行くか」

言いながら、彼は時計を覗き込んだ。既に12時を回っている。
妹者が腹部を押さえながら呟いた。

「そういえばお腹空いたのじゃ・・・」

「そうだな・・・そうするか」

弟者も賛同した。実際、あれだけ運動すれば腹も減るというものだ。
兄者が先頭に立って歩き出そうとしたその時、後ろから声が掛かった。

「ヨウ!3人揃ッテナニシテンダヨ?」

振り返るまでもなく、3人にはその正体が分かった。この高い声、間違いない。

「おっ・・・チャンピオンのお出ましだな」

弟者が言いながら振り返ると、そこには顔を真っ赤にして恥らった様子のつーの姿が。

「ダ、ダカラソウヤッテ呼ブナヨ・・・恥ズカシイッテノ・・・」

「つーちゃん、おめでとうなのじゃ!」

妹者からの賞賛に、まだ顔を赤らめながらもつーが答える。

「アア、アリガトナ。弟者モ、初メテニシテハヤルジャネーカ。
 コレナラ、ゴキブリノ刑ハ勘弁シテヤルカ」

後半は弟者に向けられたものだ。
弟者は、頭を掻きながら苦笑。

「ははは・・・それは良かったよ。
 それより、つーはこれから何か用事でも?」

つーは即答した。

「イイヤ。暇デショウガナカッタトコロダゼ」

じゃあ、と兄者が言った。

「これから俺達は昼食なんだが、つーも一緒にどうだ。
 優勝記念だ、奢ってやるぞ?」

つーは、顔をぱっと輝かせた。

「ホントカ?ジャア、オ言葉ニ甘エヨウカナ」

「じゃ、行きますか、と」

返事を聞き届けた兄者が、踵を返して歩き出した。
弟者、妹者、つーの3人は、慌ててその後についていった。

540 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:25:20 ID:???
「・・・おい・・・」

兄者が苦悶の表情をしながら言った。弟者は呆れ顔、妹者は驚愕の表情を浮かべている。

「アヒャ。ナンダ?」

つーがご機嫌な様子で答える。

「・・・俺は、確かに昼食を奢ると言った」

「アア、言ッテタヨナ。アリガタク、ゴ好意ニ甘エテルゼ」

そこで兄者は、ふぅぅぅぅぅぅ、と長い長いため息をついた。

「だがな・・・」

一度言葉を切り、彼はそのまま続けた。

「―――食べ放題だなんて、一言も言ってないんだぞ・・・」

言い切ってから、彼は頭を抱えてしまった。
つーの目の前には、大量の空になった皿やら器が積み重ねられている。軽く二桁。
恐らく、これだけで状況を大体理解して頂けたと思う。
場所は、流石兄妹が来たときに休憩に使ったレストハウス。4人はここへ昼食を取りに来たというわけだ。
兄者、弟者、妹者は、それぞれ1品ずつ。弟者は少し多めに頼んでいたようだが、まあ普通だろう。
―――だが。つーの注文量は尋常では無かった。
何せ、注文を店員に伝える時の言葉が、

「メニューノ端カラ、全部1ツズツ!」

だったから。兄者だけでなく、弟者に妹者もこれにはぶったまげた。
自分たちよりも明らかに背格好の小さい(妹者は別だが)少女が、これだけの量を注文するなんて。
そして、彼女は店員が困惑の表情で運んできた料理の数々を全て平らげてしまった。
これだけの量だ、金額も相当なものになる筈だ。兄者は、己の軽率な発言を深く深く後悔した。
彼にとって不幸中の幸いと言えるのは、ここのメニューの数があまり多くなかった事か。
兄者が、げんなりした様子で財布を覗き込む。
足りるかどうか―――弟者も少し不安になった。いざとなれば、自分も資金援助をしなければならないかも知れない。
で、当の本人はというと―――ご満悦の表情で腹を撫でている。その顔に罪の意識は無く、兄者は怒る気にもなれなかった。彼女は天然だ。

―――5分後。外で待つ3人の元へ、何だか少しやつれた様子の兄者が戻ってきた。店員がついて来てない様子を見ると、資金はどうやら足りたようだ。

「アヒャ?兄者、ドウシタ。調子悪イノカ?」

兄者がげんなりしている様子を見たつーが、心配そうに声を掛ける。その声に悪意は感じられず、自分自身がその原因だという事にどうやら気付いていない。
彼女は、やはり天然だ。

「い・・・いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」

兄者が片手を上げて答えた。とても大丈夫には見えないが、とりあえずこの後も広場を見て回る元気は何とかありそうだった。
弟者はそう判断し、すたすたと歩き出した。その後を元気に妹者とつーが、よれよれと兄者がついてくる。

「さて・・・次はどこへ行くかな」

少し歩いた後、弟者がそう呟いて辺りを見渡した。その時、不意に妹者がある方向を指差した。

「ちっちゃい兄者。あれは何なのじゃ?」

3人が一斉に、妹者の指差した方向へ視線を持っていく。
その方向には、何やらでっかいガラス製の水槽のような物があり、中には透明な液体がたっぷりと入っている。
その手前には何やら大きな箱が置いてあり、傍らには白衣姿の女性が1人立っていた。
弟者は、その人物に見覚えがあった。

「あ。あれは・・・」

「『百ベビ組手』ニ出テタヨナ、アノ人」

つーも気付いたようだ。
そこに居たのは、『百ベビ組手』にも出場していた、科学者のじぃだった。

「何か店でもやってるのか・・・?」

何だか気になった4人は、彼女の元へと歩いていった。

541 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:25:38 ID:???
4人がその場所へ歩み寄ると、それに気付いたじぃが彼等の方を向いた。

「いらっしゃい・・・あら」

どうやら彼女も覚えていたらしい。まあ、片方は優勝者だから当たり前かも知れないが。

「さっきはどうも。2人とも、凄かったわよ」

ニコリと笑ってじぃが言った。弟者が一礼してから、口を開く。

「いやいや・・・貴方の方も、硫酸を使用しての『見せる』虐殺、見事でしたよ」

それを聞いたじぃは『ありがとう』と答える。
彼女は競技の時も白衣姿だった。歳は―――二十歳前後か。
その後聞いた話によれば、彼女は近くの研究所で働いているらしく、薬品の扱いにかなり長けているようだ。薬剤師の免許も持ってるとか。
暫く会話を楽しんだ後、弟者が訊いた。

「ところで、ここで何をしてらっしゃるのですか?」

質問を受けたじぃは、背後の巨大水槽を指差しながら答える。

「ちょっとした商売ね。簡単に言えば、景品つきくじ引きかしら。
 あの水槽も商売道具。ところで、あの中身・・・何が入ってるか、わかる?」

4人は少しの間シンキング・タイム。数秒の後、つーがおもむろに口を開いた。

「ヒョットシテ・・・アレモ硫酸?」

それを聞いたじぃは、パチンと指を鳴らして『ピンポーン!正解!』と言い放った。
そこで兄者が、ポンと手を打った。

「なるほど・・・大体読めたぞ」

「あら、お兄さんはわかっちゃったようね」

微笑を浮かべながら、じぃが言った。
ここで、じゃあ、と切り出したのはまたも弟者。

「その箱は一体・・・?」

弟者が言ったのは、水槽の傍らに置かれている大きなダンボール箱の事だ。蓋が閉じていて、中身は見えない。
そこで兄者が、ハイ、と手を上げた。

「弟者よ、俺が答えよう。間違ってたらスマン。
 その中身は恐らく―――」

兄者は一旦そこで言葉を切った。そして、そのまま続ける。

「―――ベビしぃ、ですね?」

「ご名答!!」

じぃが言いながら、ダンボールを開けた。それと同時に、箱からひょっこりと数匹のベビしぃが顔を出した。
そして、身をこっちに乗り出しながら、両手を突き出して、

「ナッコ♪」

お決まりの台詞。見れば、箱の中には数十匹のベビしぃが詰まっている。
口々にチィチィ、ナッコ、コウピ、と鳴いている。百ベビ組手を髣髴とさせる光景だった。
よく見ると、ベビしぃの背中にはそれぞれ番号が書かれている。

「ベビしぃに硫酸、そしてくじ引き・・・ああ、そういう事か!」

弟者もどうやら答えを見つけたようだ。

「ところで、幾ら?」

兄者が訊くと、じぃはピースサインを作りながら笑顔で言った。

「一回200円!・・・と言いたいところだけど。
 せっかくだから、半額におまけしちゃう。貴方達だけよ?」

ここまで言われては引くしかあるまい。4人は、彼女の好意に甘える事とした。

542 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:25:55 ID:???
4人で合わせて400円をじぃに手渡すと、彼女は小さめのホワイトボードを取り出した。
そこにはマス目が書かれており、端から順に番号が振られている。所々の番号の所に、マグネットが張られている。

「じゃあ、お好きな番号をどうぞ♪」

4人は少しだけ考えてから、それぞれ番号を決定した。

「う~ん・・・16番」

「じゃあ、5番で」

「12番デ」

「25番なのじゃ!」

じぃは『了解!』と呟いてから、4人のコールした番号の所にマグネットを張り、それから箱を再び開ける。
中からチィチィと聞こえて来る箱に手を突っ込み、それを出した時には、彼女の手に1匹のベビしぃが。背中には『16』と書かれている。

「アニャーン ナッコチテ♪」

じぃの手に掴まれながら、ベビしぃが言った。
箱を閉じてから、彼女が再び何かを取り出す。今度はパネル。
そこには、簡単なイラストと一緒に賞の内容が書かれていた。
それによると、灰色の玉がハズレ、緑が5等、紫が4等、青が3等、黄色が2等、赤が1等。
景品が何なのかは書かれていない。当たってからのお楽しみ、という事だろう。

「でも、その玉とベビしぃと、一体何の関係があるのじゃ?」

妹者が首を傾げた。
兄者は、「見てればわかるよ」とだけ言い、じぃの次の行動を待つ。
彼女はその手にベビしぃを掴んだまま、硫酸入り巨大水槽の前に立った。
そして、ベビしぃを両手で持ち直す。

「ハナーン・・・ナッコデチュ・・・」

ベビしぃがうっとりと呟いた。まさに、嵐の前の静けさ。
じぃが、まるでバスケットボールをシュートするようにして、ベビしぃを掴んだ両手を顔の前へ持っていく。
そして彼女は、膝を軽く曲げ、十分反動を付けてから―――

ヒュッ!

―――ベビしぃを投げた。水槽の中へ向かって。

「アニャーン!」

投げられたベビしぃは弧を描き、ある程度上昇した後、一直線に水槽の中―――硫酸プールへ落ちていく。

ドボーーン!!

ベビしぃが強酸性の飛沫を上げながら、透明な液体の中へ飛び込んだ。次の瞬間。

ブッシャァァァァァァ!!

もうもうと上がる煙。そして、

「ヂュギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!??」

即座に聞こえて来る、ベビしぃのあまりに悲痛な叫び。

543 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:26:17 ID:???
「おお~っ・・・」

弟者が感嘆とした様子で呟いた。
今まさに、水槽の中ではベビしぃが強力な酸によって溶かされている。
既に全身の毛皮は完全に溶解して消滅、もがいている為に酸に浸かったり浸からなかったり、の上半身はまだ見られるが、
ずっと浸かりっぱなしの下半身は表皮のみならず真皮まで溶解を始めている。筋肉組織がまる見え、ああグロテスク。

「マンマァァァァァァァァァ!!ダヂュケテェェェェェェェ!!!!ナゴナゴォォォォォォォ!!!」

ベビ自身から噴出した血液で少しだけ赤く染まった水槽内の硫酸。
バチャバチャともがくベビの周りには、既に体から離れてしまった肉片がプカプカと浮き、それすらも煙を上げて溶けている。
見れば、ベビしぃの足は既に肉が消滅して白い骨がまる見え、そして溶解を始めている。
ベビしぃは一刻も早くこの生き地獄から逃れようと、硫酸に塗れた手で水槽の壁面を引っかくが、半溶解した手でツルツルしたガラスを登る事など到底不可能。

「ナゴォォォォォ!!ナッゴォォォォォォォォォ!!!!ヂィィィィィィィィ!!!」

ベビしぃの足は既に消滅していた。付け根が辛うじて残っている程度だ。
やがて、ベビしぃの下半身から紐状の何かが出てきた。
よく見るとそれは、下半身が溶解したために体外へと零れ出てきた腸だった。
全身を強酸で焼かれるという激痛に、更に内臓を溶かされる苦痛が追加。さあ大変。

「ナ、ナ、ナ、ナッギュォォォ・・・アギィィィ・・・ヂ・・・」

あれほど五月蝿かったベビしぃがやけに静かになり始めた。命の灯火もそろそろ消える頃か。
はみ出していた腸も既に溶解し、腕の骨も露出し、顔に至っては口の形が完全に崩壊し、眼球は片方が潰れて目漿が流れ出している。
ベビしぃが再び叫びを発しようとして崩れた口を抉じ開けた瞬間、歯が何本もぼろぼろと落下した。歯茎が溶けているらしい。

「・・・うぅ~・・・」

妹者が口元を押さえて、水槽から顔を背けた。11歳の少女にこの光景は流石にショッキング過ぎた様だ。
兄者はよしよし、と妹者の頭を撫でてやってから、水槽の中で確実に消え行くあまりに矮小な命を見つめた。

「ギャ・・・ヴィィィィ・・・ビャ・・・ヂ・・・」

どろどろに溶けた口では、まともに発音する事も出来やしない。
開いた口から硫酸が喉へ流れ込み、声帯までも潰されたらしいベビしぃは、

「・・・ガァ・・・」

と呟いたのを最後に、喋らなくなった。
それと同時に、パタパタと動いていた腕もその動きを停止し―――ベビしぃはついに、抗う事を止めた。
口がパクパクと動いている事からまだ生きているようだが、最早その体はただ溶かされるのを待つだけ。
ベビしぃの全身を気泡と煙が包み込み、『ジュワァァァァァ』という音が一層激しくなって、やがて―――

シュゥゥゥ・・・

ベビしぃは完全に『消滅』してしまった。骨の一欠片も残さずに。
―――否。ベビしぃのいなくなった水面に、何かが浮かんでいる。
それは、5等に当選した事を示す、緑色のガラス玉だった。

544 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:26:34 ID:???
兄者に『もう大丈夫だぞ』と声を掛けられた妹者を含めた4人は、暫くの間水槽を見つめていたが、

「は~い、おめでとう。5等当選ね」

パチパチと手を叩きながらじぃが言ったので、そっちを振り向いた。

「5等の景品は―――はい。モナ・コーラ2リットル3本よ。
 あんまり揺らさないように持って帰ってね」

そう言って、彼女は兄者に大きなペットボトルが3本入った袋を渡した。
兄者は軽くお辞儀をしながらその袋を受け取る。そこでじぃは、再び箱に手を突っ込んだ。
そして彼女は、一度に3匹のベビしぃを掴み出した。それぞれ背中には「5」「12」「25」と書かれている。

「ナッコ!ナッコ!」

「チィヲハヤク ナッコシナチャイ!」

「ナッコチテ チィタチニ チュクシナチャイ!コノ カトウセイブチュドモ!」

口々に喚くベビしぃ達。つーはその言動に早速キレかかっているらしく、ナイフを取り出そうとして弟者に止められた。
「まぁまぁ」と苦笑しながらつーを宥めつつ、じぃがベビしぃを掴んだ手を軽く振った。

「どうせすぐにGo to hellなんだから、少しくらい言わせてあげたっていいじゃない」

そして、水槽に向き直った。
その横で、妹者が兄者に問いかける。

「兄者、あのガラス玉はどこから出てきたのじゃ?」

兄者が答えた。

「簡単な事だ、妹者。ベビしぃが溶けた後に、その場所にあの玉が現れたんだ。
となると、どこから来たかなんて訊くまでも無いだろう?」

妹者がハイ!と手を上げた。

「わかったのじゃ!あのベビしぃのお腹の中!」

「ピンポ~ン!」

兄者の代わりにじぃが正解を告げ、それと同時にベビしぃ達を順番に水槽へ放っていった。

「チィィィィィィィ!」

「ナッコォォォォォ!!」

「ハナーン?」

宙を舞うベビしぃ3匹。迫る水面。それはベビしぃ達を確実に冥府へと誘う、地獄への入場門。
そして―――

ドボドボドボォォォォン!!

弟者が選んだ5番のベビしぃは水槽の中央よりやや右寄りに、つーが選んだ12番のベビしぃは水槽の中央付近に、
妹者の選んだ25番のベビしぃは水槽の左端に、それぞれ飛び込んだ。

ブッシュゥゥゥゥゥゥゥ!

その瞬間、同時に3箇所から煙が立ち上り、

『ヂギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!???』

三重奏(トリオ)の悲鳴が、5人の耳を打った。

545 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:26:56 ID:???
「( ゚д゚)トケター」

つーが呟いている間にも、ベビ達の肉体は溶解してゆく。
最初の犠牲者であるベビと同じように、表皮、そして皮膚がどろどろに溶けて内部組織がまる見えだ。

「ヂギィィィィィィィィィ!ナゴォォォォォォォ!」

濃硫酸で溺れるベビ達の悲痛な叫び。そんなに大口開けて、口から硫酸が流れ込んだらどうするのか。
―――まあ、どちらにせよ死ぬからそんなに変わりは無いか。
と、ここで珍事が起きた。

「ヂィガタスカルノ!アンタガ ヂニナヂャイヨォォォォォ!」

「ヂュィィィィィ!!ガブッ、モゴボゴゴゴゴ・・・」

12番のベビが、5番のベビの上に乗っかるような形になっている。つまりは、自分が溶かされる苦痛から逃れるための足場になれと言う事だ。
何と、この極限状態においても自らが助かる為の醜い争い。だから、どっちにせよ死ぬんだってば。
で、どうなったかと言うと―――

「ゴボォォォォォォ・・・モギィィィァァァ・・・」

「ヂィィィィィィ!ナンデ シズムデチュカァァ!?マターリ デキナイデヂュヨォォォォ!!」

乗っかられたベビは全身が硫酸の海に沈み、まともに身動きも出来ぬまま硫酸攻め。
殆ど無事だった顔面も酸に浸かり、溶解を始めた。口、目にも硫酸が流れ込んだ。恐らく、もう目は見えまい。
乗っかった方のベビも、引き続き濃硫酸に悶え苦しむ結果に。
当然である。いくら浮力があるとは言え、ほぼ同質量のベビが乗れば沈むのは必定だ。
耐え難い苦痛によって冷静な判断力を失ったベビに―――いや、そうでなくとも、ベビしぃ如きにそれを考える事など不可能だった。

「ヂュァァァァァァ!ダヂュゲデェェェェェ!!」

乗っかっていた12番のベビがついに5番のベビの上に乗っていられなくなり、再び硫酸プールに全身を放たれた。
5番のベビはようやく解放された訳だが、もう遅すぎた。
際限なく浮き沈みを繰り返し、何も見えず、声も出せず、ただ溶かされるだけの肉塊となっていた。
どろり、と目があった位置に空いている穴から、半熟卵を思わせる様子で半解状態の眼球が流れ落ちた。
全身から泡を発し、浮き沈みを繰り返す物体。それはまるで―――

「―――天ぷら揚げてるみたいだな」

弟者がぼそっと呟いた。その横で、じゅる、とヨダレを啜る音が聞こえたので見ればそれは妹者で、彼女は弟者の腕を引いて、

「ちっちゃい兄者、今日の晩御飯は天ぷらがいいのじゃー」

と言った。水槽内で繰り広げられる地獄絵図とはまるでそぐわないほのぼのした台詞で、皆の笑いを誘った。
先程はそのグロテスクな光景に顔を苦くした妹者だったが、もう平気らしい。
精神の足腰の強さも母者譲りだな・・・と、兄者と弟者はこっそり顔を見合わせ、小さく肩を竦めたのだった。

546 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:27:15 ID:???
「ギュガァァァァァァァ・・・」

12番のベビが、およそベビしぃらしからぬ奇声を上げる。
耳が溶けて無くなった丸い顔。内臓がはみ出した腹。黒目が無くなり、常に白目を剥いた目。
奇声を発する為に開けた口から多量の硫酸が流れ込んだ。最初のベビと同じパターンだ。これでもう奴は喋れない。
硫酸を飲み込んだベビしぃは、喉を焼かれるショックでついに最後の体力を使い果たしたらしく、

「・・・グゲェ・・・」

と発したのを最後に、うつ伏せ状態で沈んでいった。

「終わったな」

「ああ、後は結果待ちだな」

兄者と弟者の会話。ベビ達はもう全員息絶え、後は肉体が滅するのを待つだけだった。
―――あ、そうそう。25番のベビは、水槽の隅っこで誰からも注目される事無く孤独に生涯を終えてましたとさ。(w

シュゥゥゥゥゥゥ・・・

暫くは皆無言で、肉の溶ける音を黙って聴いていた。
やがて煙が晴れ、音も止んだ。それは、ベビしぃの肉体の完全消滅を表していた。
兄者以外の3人は、自分自身が選んだベビしぃが居た位置へ視線を走らせた。
弟者が選んだ5番のベビが居た所には、灰色のガラス玉。

「む、外れたか・・・」

ちょっと残念そうに、弟者が呟いた。

「残念だったわね。そうそう、ハズレの場合はポケットティッシュなんだけど・・・せっかくだし、多めにあげちゃおうかな」

そう言ってじぃは、ポケットティッシュを弟者に10個も渡した。おそらく通常は1個か2個だろう。

「ど、どうも・・・」

弟者は苦笑しながら、それを受け取った。手からこぼれて落ちそうになったティッシュを慌ててキャッチする。
一方、つーが選んだ12番のベビが居た場所。そこには、青色のガラス玉が浮いていた。

「アヒャ!当タッタミタイダナ!何等?」

嬉しそうにつーが訊いてくるのを聞き、弟者が先刻じぃが出したフリップに目を走らせる。

「えーと・・・青は3等だな。良かったな、つー」

「アッヒャッヒャッヒャ!今日ハツイテルナー」

笑うつーの元へじぃが駆け寄った。

「おめでとう!3等はこれよ」

そう言って彼女が差し出したのは、3000円分の食事券だった。
思わずビクンッ!と兄者が体を竦ませた。先刻の昼食時の悲劇を思い出したのだろう。

「・・・なんつーか、ベストチョイスだな。偶然ではあるけどさ」

弟者が兄者とつーを交互に見ながら苦笑した。

「アリガ㌧!コレデ、後デ何カ食ベテクルゼ」

まだ食べる気なのか、と兄者は、別に自分が奢る訳では無いのに肩を落とした。

547 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:27:31 ID:???
残るは妹者の選んだ25番のベビだ。水槽の端に投げられ、誰にも気付かれず死んだとあって、ここからではガラス玉を確認出来ない。

「こっちの方か?」

兄者が先頭で、水槽の右側に周った。

「お、あったあった・・・おおっ!」

兄者がガラス玉を確認すると同時に、驚きの声を上げた。
水槽の壁面に水飛沫がやたら跳んでいた。恐らくここが、ベビしぃが絶命した場所と見て間違い無いだろう。
そしてそこには―――

「―――赤い、ガラス玉・・・て事は、1等か!?」

そう、そこには赤いガラス玉があった。
つーが持ってきたフリップを見ると、確かに赤い玉の横には『1等』と書かれている。

「わーい、やったのじゃー!」

ピョンピョンと飛び跳ね、全身で喜びを表現する妹者。

「おめでとー!1等当選者は初めてよ」

じぃが、何時の間にか取り出したハンドベルをチリンチリンと鳴らした。
ひとしきり鳴らし終えると、彼女は水槽の反対側へ姿を消し、すぐに戻ってきた。その手には小包。

「1等景品は何と!最新ゲーム機のニソテソドーGS!はい、どうぞ」

「良かったな、妹者」

説明しながら、彼女は小包を妹者へ差し出した。

「ありがとうなのじゃ!」

喜色満面、という四字熟語がこれ以上似合う表情も無いだろう、というほどの笑顔で包みを受け取る妹者。

パチパチパチパチパチ!

何時の間にやら集まっていたギャラリーから暖かい拍手。
百ベビ組手会場に続き、再び拍手喝采を浴びた妹者は、またも顔を真っ赤にして兄者の影へ隠れてしまった。
観衆からどっ、と笑いが起こった。


548 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:27:57 ID:???
「それじゃ、色々どうも有難う御座いました」

「バイバイなのじゃ!」

「また会いましょうね。それと、薬を使う機会があったら、うちの薬をヨロシク!」

そんな会話を最後に科学者じぃと別れた4人。
少し歩いてから、兄者が3人を振り返って尋ねた。

「さて、これからどうする?」

「もう少し遊びたいのじゃ!」

妹者が即座に答えた。

「まあ、時間もまだあるし・・・もう1箇所くらいなら周れるんじゃないか?」

弟者が言いながら、腕時計を確認する。時刻は午後3時。

「ン、モウソンナ時間ナノカ・・・悪イ、モウ帰ラナイト」

つーの言葉に、妹者が残念そうに唇を尖らせた。

「えー、もう帰っちゃうのじゃ・・・?」

「引キ止メテクレルノハアリガタイケド、用事ガアルカラナ・・・マタ遊ンデヤルカラ、勘弁シテクレッテ」

つーが言いながら、妹者の頭を撫でる。

「・・・わかったのじゃ。また遊んで欲しいのじゃ!」

「ワカッタヨ、約束スル。ソレジャ、マタナ」

つーは今度は兄者と弟者の方を向く。

「ああ、また明日、学校でな」

「またな。・・・言っとくが、今度は奢らないぞ・・・」

笑顔で返した弟者と、ややげんなりした顔の兄者。

「アヒャヒャ!マタ会オウゼッ!」

対照的な2人の表情に思わず笑ってしまってから、つーは3人に背中を向けた。
彼女の小さな背中が人混みに紛れ、完全に見えなくなるまで見送ってから、弟者が切り出した。

549 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:28:27 ID:???
「さて、俺達はどうしようか?」

「まだ遊びたいのじゃ!」

妹者が即座に返した。
だろうな、という表情を作ってから兄者は、

「そうだな・・・もうあまり時間も無い。短い時間で楽しめるような出し物でもあればいいが・・・」

そう呟きながら、パンフレットに載っている地図を人差し指でなぞる。
その指が、ある一点で止まった。

「ん?『妊娠しぃdeお御籤』てのがあるぞ。何やら気になるな・・・」

「どれどれ」

弟者が横合いから地図を覗き込んだ。

「お、ここからすぐ近くじゃないか。せっかくだ、行ってみるか?」

「さんせーなのじゃ!」

妹者も即決だった。
かくして3人は、地図を頼りに再び歩き出した。




「ここだな」

兄者が言った。
地図上の場所へ行くと、運動会なんかで使用される白テントが張ってあり、テーブルが1つ、2つ。
そこには受付兼案内役らしい1さんが座っている。『お御籤』の名を冠するに相応しく、袴姿だ。

「いらっしゃい。『妊娠しぃdeお御籤』へようこそ。やってくかい?」

3人に気付いた1さんがにこやかに笑いかけながら口を開いた。

「宜しくお願いします」

兄者が頭を下げ、弟者と妹者もそれに倣う。
しかし、兄者はここで妙な事に気付いた。
テントを見渡しても、その肝心のしぃの姿が1匹もいないのだ。
『妊娠しぃ』と言うからには当然しぃを使うのだろうが、姿が見えない。何故だろうか。
しかし、その疑問はすぐに解消される事となった。
すっく、と1さんが立ち上がりながら言った。

「それじゃ、ついてきてくれるかな」

そして彼はテントを出、その裏に回った。
3人は慌ててその後を追っていく。

550 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:28:49 ID:???
テントの裏に回った3人が見たもの。それは―――

「ハニャーン!ハニャーン!ハナシナサイヨゥ!」

「シィチャンニ コンナコトシテ タダデスムト オモッテルノ!?」

「ハヤク コノナワヲ ホドイテ ダッコシナサイ!」

耳から入って直接脳を刺激するストレス。アフォしぃ特有の甲高い声だ。
それは、異様な光景だった。
そこら中に木が生い茂っている、ちょっとした林のようなエリア。
その木にはロープが括り付けられ、その先には何と、しぃが吊り下げられているのだ。
しかも、どのしぃも腹が大分膨らんでおり、一目で妊娠しているとわかった。膨らみ具合からして、もう数日もしない内に生まれるだろう。
ロープはしぃの両腕と両足に括られ、大の字をさせるような格好だ。

「・・・なるほどね。大体読めたぞ」

「お、お客さん、勘がいいね」

兄者の呟きを聞いた1さんが笑顔を見せる。兄者の勘の良さはここでも冴え渡っているようだ。

「ねーねー、どうするのじゃ?」

妹者が兄者の腕を引きながら尋ねると、

「今説明してくれるみたいだぞ」

代わりに弟者が答えた。

流石兄妹の華麗なる休日~百ベビ組手~ 後編 (2)

551 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:29:08 ID:???
「えと、じゃあ説明しますね。と言っても、そちらのお兄さんはもう解ってしまわれたようですが・・・」

1さんが苦笑しながら続ける。

「やり方は簡単です。あそこにぶら下がっているしぃの腹部を、思いっきりどついて下さい。
 どんな方法をとっても結構です」

「え?え?えっと、つまり・・・」

妹者が考えながら言った。

「あのしぃのお腹を、叩いたり蹴ったり、すればいいってことなのじゃ?」

「その通りですよ、お嬢さん」

1さんがまた笑顔を見せる。

「それが、どう『おみくじ』と関係があるのじゃ?」

妹者が首を傾げたが、弟者が言った。

「まあ、やってみればわかるさ。ほら妹者、お前が一番だ」

「わ、わかったのじゃ!」

妹者は一旦考えるのを止め、吊り下げられたしぃの内の一匹に向き直った。

552 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:29:31 ID:???
「ハニャ!ナンナノヨ!シィチャンニ ナニカシタラ ユルサナインダカラネ!」

「ダッコシナサイヨ!ダッコダッコダッコ!」

「コンナンジャ ベビチャンモ ウメナイジャナイノ!」

「ソウヨ!シィチャンタチハ カワイイ カワイイ ベビチャンヲ ウンデ マターリスル ギムガアルノヨ!」

「ハニャーン!ハニャーン!」

「う、うるさいのじゃ・・・」

妹者が耳を軽く塞ぐ。
弟者が「まあまあ」と言いながら、妹者の肩をポン、と叩いた。

「これから黙らせてやればいいじゃないか。思いっきりやってこい!」

「りょーかいなのじゃ!」

妹者は手を耳から離すと、気合の入った表情を作った。
そして未だハニャハニャと騒ぐ左端のしぃを向き、いきなり走り出した。
ちなみに妹者はかなり足が速い。50m走を7秒3で走る。クラスどころか学校一の俊足だった。
彼女の体育の成績は、1年生の1学期から常に『5』だ。

「ハ、ハニャ!ナンナノヨ!コッチ コナイデヨゥ!」

妹者の剣幕に、しぃが怯えの表情を見せた。

「ひぃぃぃぃぃっさつぅぅぅ・・・」

妹者が叫びながら、あっという間にしぃとの距離を詰めた。
そして、あと僅か2,3mの所で、妹者は跳躍した。

「妹者ドロップ、なのじゃぁぁぁぁっ!!」

妹者の気合の叫び。そして―――

553 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:29:48 ID:???
ドギュゥッ!!

思いっきり肉を打ったような、それでいて何かが圧迫され、軋むようなくぐもった音がした。
妹者の両足が、深々としぃの膨らんだ腹部にめり込んでいた。何とも華麗なドロップキック。

「グギュゥゥゥゥ!?」

しぃが眼球が零れ落ちそうなほど大きく目を見開き、これまたくぐもった悲鳴を上げる。
しかし、妹者の攻撃はこれで終わらなかった。
片膝をついて着地した妹者は素早く立ち上がると、左手を右手に被せるようにし、肘を広げた。
しぃに対して横を向くような形だ。
その瞬間だった。妹者が、動いた。

「ひじうちっ!!」

ドムッ!!

「ゴギョォオォォォ!!?」

叫びと共に放たれた肘打ちは、これまたしぃの腹部に深々と突き刺さった。
異様な悲鳴を上げるしぃ。
さらに妹者は、スカートの裾を翻しながらその場でくるりと一回転。

「うらけんっ!!」

ドグチュッ!!

「オギィィィィィ!!?」

回転しながら放たれた見事な裏拳。しぃの横腹に強烈な一撃。
この時から、打撃された際の効果音に、何やら柔らかいものが潰れたような音が混じりだした。
さらにさらに。妹者は裏拳ついでに、再びしぃを正面へと見据えた。
肘打ちの状態から270°回転した形だ。
間、髪入れず、妹者の右腕が唸りを上げた!

「せいけんっ!!」

ドブチョッ!

「アギィェェェェェェッッ!!!?」

妹者の正拳突きは、これまたしぃの妊娠っ腹にクリーンヒット。
聞くに堪えない悲鳴を上げ、身悶えするしぃ。のた打ち回ろうにも、ぶら下がっているのだから出来る筈も無い。
だが、まだ終わらない。
妹者は突き出した右手を戻すと、最後の攻撃を繰り出すべく、息を大きく吸った。

「ジィィ、モ、・・・モウ、ヤメ・・・」

しぃが微かに呻くような声を上げたが、その瞬間の妹者の叫びに掻き消された。

「とぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ、なのじゃっっ!!!!」

妹者の必殺の蹴りが、しぃの腹部に詰まった、小さ過ぎる命を完全に叩き潰した。



グブチャッッ!!!!

554 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:30:09 ID:???
「ギュァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!??」

しぃの醜い悲鳴が木霊する。そして、苦痛を既に通り越したような凄まじい表情を浮かべた。

「・・・た、たくましいお嬢さんですね・・・」

呆気に取られた1さんが、ははは、と笑いながら言った。兄者と弟者は顔を見合わせた。

「・・・弟者よ」

「・・・なんだ、兄者」

「俺達が思っていたより、妹者の中の母者の遺伝子は濃いようだな・・・」

「・・・ああ、俺もそう思う。末恐ろしいな、これは・・・」

ぼそぼそと会話を交わす2人の元へ、素晴らしく晴れやかな表情の妹者が駆け寄った。

「い、妹者・・・楽しかったか?」

兄者が訊くと、妹者は今現在のしぃとは対極的なとても爽やかな笑顔を浮かべて、

「うん!スッキリそーかい、なのじゃ!」

そう言いながら、頬を伝った汗を手の甲で軽く拭った。
ニコニコと笑う妹者はいつもの妹者で、先程までの武道家を思わせるような気迫は微塵も感じられない。
と、その時だった。

「イギィィィィィィ・・・ア・・・ウ、ウマレルゥゥゥ・・・」

妹者にフルボッコにされたしぃが、呻くような声を上げていた。凄まじい衝撃を腹部にあれだけ何発も叩き込まれれば、流石に産気づくというものだ。

「おや、お御籤の結果が出ますよ?」

それに気付いた1さんが3人に向かって言った。

555 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:30:25 ID:???
「ハニ゙ャァァァァ・・・ア゙ア゙ァァァァァ・・・ジィィィィィ!!」

先程までは丸く大きく膨れていたしぃの腹は、今やボコボコだった。
そこここに隆起や凹みが見られ、皮が剥けていたり、痣が出来てたり。
中に詰まっているのは、言うまでも無くベビしぃだ。無論、とても柔らかい。
あの腹の変形具合を見ずとも、中身がどうなっているかは容易に想像が付いてしまう。

「ハギャァァァァァン!!ウギャァァァァァァ!!」

しぃの悲鳴が段々と大きくなっていく。妹者は再び、耳を軽く塞いだ。
4人が固唾を飲んで見守る中、ついにしぃはその時を迎えた。

「アァァァァァ・・・ハニャァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

その絶叫と共に、しぃの股間から何かが溢れ出した。
『それ』は見た目にはまるでヘドロのような流動性の物体。
そして―――

グチャッ!!

―――落下。吊り下げられたしぃの真下に、『それ』は落ちた。

「ギィィィィィ・・・ジギャァァァァァァ・・・」

不自由な手足を蠢かせ、尚も力むしぃ。股間からは、まだまだその物体が溢れ出てくる。

ビチャビチャビチャッ!!

出てくる傍から、次々と落下していく物体。すぐに、辺りを異臭が漂い始める。

「ハギャァァァァァァァ!!」

まるで断末魔のような悲鳴を上げて、そのしぃは腹に残った物体を全てぶちまけた。

ベチョッ!

最後にそう音を立てて、『それ』の落下は止まった。

556 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:30:51 ID:???
「シヒィィィィィィィ・・・シヒィィィィィィィィィ・・・」

肩で息をするしぃ。激痛を伴った『出産』に、殆どの体力を奪われたようだ。
そのしぃの周りに、4人が駆け寄った。勿論、落下した『それ』を確かめるためだ。

「うえぇぇ・・・気持ち悪いのじゃ・・・」

妹者が口元を手で押さえた。当然のリアクションと言えるだろう。
そこに落ちていた物―――今そこで吊られているしぃの、腹の中にあったもの。
つまり、ベビしぃ―――いや、正確には、『ベビしぃになるはずだった物』―――。
―――ヘドロか、はたまた何かの肉のミンチか。
正直な話、何も知らなければ、それにしか見えない物体。
赤や茶色を中心とした色彩の、半固体、半液体の流動性の物体。
所々にアクセントを加えるように混ざる白色は、骨や歯だろう。また、非常に分かり難いが、耳の様な物も確認出来る。
そんな異形の物体の中に、兄者はベビしぃの出来かけの目玉を見つけた。それだけでは無く、その不気味な目玉とまっすぐ目が合ってしまい、思わず兄者は素早く目線を逸らした。
『百ベビ組手』や、先刻の『景品付きベビしぃくじ』を体験した3人が見ても、最早ベビしぃの原型は殆ど留めていない。また、これが何匹分のミンチなのかも。
しかし、こういった仕事に慣れているらしい1さんは、「ひい、ふう、みい・・・」と数えていく。
そして数え終わったらしい彼が、妹者に笑顔を向けた。

「お疲れ様でした。全部で6匹、腹の中にいたようですね」

「ろ、6匹も・・・なのじゃ?」

「おいおい、6匹だって?」

「いくらアフォしぃでも、6匹も一度に生むってのは、かなり珍しいんじゃないか・・・?」

驚きの表情を浮かべる3人。だが、それも頷ける。
いくらしぃの繁殖力が凄まじいとはいえ、一度に生む数は平均的に2~3匹が多い。4,5ならまだしも、6匹も一度に生むというケースはかなり珍しいのだ。

「6匹もいたというのは、とても珍しいですからね・・・普通のお御籤で言えば、これは確実に大吉、でしょうな」

1さんがそう告げると、妹者はパッと顔を輝かせた。

「ホントなのじゃ!?」

「良かったな、妹者」

弟者がそう言うと、1さんはさらに続けた。

「徹底的に叩き潰されてますね。これは健康運が高まっている証拠なんですよ」

「うん!元気もりもり、なのじゃ!」

「まあ、あれだけ暴れられるならな・・・」

兄者の苦笑。

「しかも、目玉が潰れずにちゃんと残っている。これは金運が素晴らしいですね」

1さんの言葉を聞き、妹者が何かに気付いたような表情を浮かべる。

「そういえば、ゲームが当たったのじゃ!」

そして、先刻じぃから貰ったゲーム機を見せると、1さんは満足げに頷きながら言った。

「おお、それはそれは。あながち間違っていないでしょう?」

「それどころか、バッチリ当たってるよな・・・」

弟者が驚き半分、苦笑半分といった表情を浮かべた。
はははは、と笑いあう4人。その背後で、

「シィィィィィ・・・ハッ!ベビチャン!シィチャンノ カワイイ ベビチャンハ!?」

半ば放心状態だったしぃが、目を覚ました。

557 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:31:16 ID:???
「あ~あ。目を覚まさない方が幸せだったかもしれないのにな・・・」

兄者がぽそりと呟いた。
と、1さんが「ベビチャンベビチャン」と騒ぎ立てるしぃに歩み寄り、言った。

「ベビちゃんに会いたいですかな?」

「ハニャ!サテハ アンタガ シィチャンノ ベビチャンヲ カクシタノネ!?
ハヤク コノ カワイイ シィチャンノ カワイイ ベビチャンニ アワセナサイヨ!アトダッコ!」

憮然とした表情でしぃが捲し立てる。最後にきっちりダッコを要求するのがなんとも。

「・・・わかりました。そこまで仰るのなら・・・」

1さんがそう言いかけた時、弟者が1さんにステンレストング(要するに空き缶拾いに使うアレ)とスコップ、そしてバケツを渡した。テントから持って来たらしい。
これで、直接手で触れることなく、ベビしぃ―――しぃの真下に散乱する物体―――を集め、持ち上げる事が出来る。

「お、これはどうも。―――それじゃ、暫しお待ちください」

「ハヤクシナサイヨ!マッタク コレダカラ カトウAAハ テギワガワルクテ コマルワ!」

減らず口を叩くしぃをスルーし、1さんは吊るされたしぃの体の下に潜り込んだ。
そしてスコップを駆使し、素早くドロドロした残骸を集めていく。

「妹者も手伝うのじゃ!」

妹者がそう1さんに言うと、1さんは笑顔を投げかけながら、

「有難う御座います。しかし、お気持ちだけで十分ですよ。ここは私にお任せを。
 そのお可愛らしいお洋服が汚れてしまうかも知れませんし、ね?」

優しい口調で答えた。その手には、彼の口調にはまるで似合わないおぞましい物体。
最後に、ギリギリで形を保っているように見える、ベビしぃの頭蓋骨のような物をトングでバケツに放り込み、1さんの作業は完了した。
残骸があった場所には血や羊水等の体液によって作られた染みが生々しく残っており、まだ肉片も所々に残っていたが、殆どの残骸がバケツの中へと移植されていた。
ふぅ、と一息ついてから、1さんはしぃに声を掛けた。

「―――お待たせ致しました」

558 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:31:37 ID:???
「ズイブント ジカンガ カカッタジャナイノ!」

文句を垂れるしぃに対して、1さんは笑顔を作る。

「申し訳御座いません。あなたのベビちゃんがあんまり可愛らしかったので、つい見とれてしまいまして」

「フン!コノ カワイイシィチャンノ ベビチャンナンダカラ トウゼンヨ!アンタミタイナ カトウAAニ ジロジロミラレタラ ベビチャンノ キョウイクニ ワルイワ!
・・・マア、イイワ。シィチャンハ ウチュウイチ ヤサシイカラ ユルシテアゲル。ハヤク ベビチャンヲ ミセナサイ!」

好き勝手に喚き散らすしぃに対し、妹者が怒りの表情を見せた。

「む~。1さんにあんな事言うなんて、許せないのじゃ!もう一回、妹者ドロップを・・・」

そして、しぃに向かって行こうとする妹者を、弟者が止めた。

「ま、まあ待て妹者よ。ここは1さんに任せようじゃないか」

「・・・わかったのじゃ」

そう言って彼女は、素直に再び弟者と兄者の横へ戻った。
当の1さんはと言うと、好き勝手に言われながらも表情1つ変えず、しぃに見えないように、バケツを自分の傍へと寄せていた。

「それじゃ、今お見せしますからね」

1さんの言葉に、

「ハニャーン♪ベビチャン、イマ オカアサンガ ナッコシテ アゲルカラネ♪」

しぃの表情が緩む。先程から「チィ」や「ナッコ」の一言も聞こえないのに、まるで疑っていない。
1さんがバケツを持ち上げる直前、彼は3人の方を向き、ウインク1つ。

「は~い、ごたいめ~ん!」

「ハニャーン!ベビチャ・・・」





シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!???????

559 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:32:21 ID:???
1さんがしぃに向かって差し出した、例の物体入りのバケツ。
その中身を直視したしぃは、『百ベビ組手』の観客達全員分の歓声並みの絶叫を上げた。

「ナ・・・ナッ、ナッ・・・ナニヨ、コレェェェェェェェェェ!!!?」

「何って・・・あなた、自分で言ってた事も忘れてしまわれたのですか?あなたのベビちゃんですよ」

1さんがしれっと答える。しぃはまだ信じられないといった表情で続けた。

「ウ、ウソヨ、ソンナノ!!シィノ ベビチャンガ コンナ グチャグチャノ モノナワケ ナイジャナイノ!!!!」

「そう言われましても、私達はちゃんと見てたんですよ。あなたが、これを産み落とす所を」

「ソ、ソンナ・・・ウソ・・・ウソヨ・・・・!ド、ドウシテ・・・」

絶望の色がありありと浮かぶ表情のしぃ。声が震えている。

「いやあ、もうすぐ生まれるって時に、あれだけお腹に攻撃されたら・・・必然的にこうなるでしょうねぇ」

「!!!!」

この時、ようやくしぃは妹者に攻撃された事を思い出したらしく、妹者をキッと睨み付けた。
対する妹者もむっとした表情を作り、握った右手を左手に打ちつけた。彼女も、先刻抱いた怒りを忘れてはいなかったようだ。

パンッ!!

小気味良い音が響くと、しぃはビクリと体を竦ませた。どうやら、その時の耐え難い苦痛も一緒に思い出したようである。

「ハ、ハニャ・・・」

すっかり意気消沈した感のあるしぃに向かって、1さんはさらに続ける。

「・・・というわけで、これがあなたのベビちゃんです。お気の毒でしたね」

すると、しぃが顔を上げた。

「ウ・・・ウソヨ!ソンナノ ゼッタイニ ウソヨ!!シィチャンノ ベビチャンガ アンナ ドロドロニ ナッタナンテ、シンジナイワヨッ!!」

認めたくないらしいしぃが、悪あがきにしか聞こえないような口調で1さんに迫った。

「はぁ・・・まだそんな事を。お気持ちはわかりますが、現実を受け入れて下さい」

1さんが呆れ顔で言うが、しぃは一歩も引き下がらない。

「ソンナコトイッテ、マダドコカニ シィチャンノ ベビチャンヲ カクシテルンデショ!?イクラ シィチャンノ ベビチャンガ カワイイカラッテ ソンナコトシテ ユルサレルト オモッテルノ!?
イマスグニ シィチャンニ カワイイベビチャンヲ カエシタラ ダッコ ジュウマンカイデ ユルシテアゲルワ!サア、ハヤク ベビチャンニ アワセナサイ!ベビチャンヲ ナッコサセナサイヨッ!」

しぃは未だに、自分のベビがちゃんとした姿形でまだ何処かにいて、「ミィミィ」等と鳴きながら寄って来てくれると思っている。
そんな現実を受け入れられないしぃの言葉に、1さんは「やれやれ」といった表情を作った。

「・・・そんなにベビちゃんをダッコしたいですか?」

「アタリマエジャナイ!ヴァカジャナイノ!?ハヤク コノ ウチュウイチ カワイイ シィチャンノ ウチュウイチ カワイイ ベ(ry」

先程から何度も言っているような事を怒鳴り散らすしぃに向かって1さんは、

「・・・わかりました。そこまで仰られるのなら・・・」

静かな口調で呟きながら、再び足元のバケツを掴み上げた。そして―――

「―――お好きなだけ、ダッコなさいっ!」



ドバッシャァァァァァァァン!!



バケツの中身を全て、しぃに向かってぶちまけた。

「シギィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!??」

これまた聞くに堪えないような悲鳴を上げるしぃ。
その縛られた手足からは、滴ると言うにはドロドロし過ぎているような血肉がボタボタと垂れている。

560 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:32:48 ID:???
「ハニ゙ャァァァァァァァァァァァ!!!??ナニヨ コレェェェェェェェ!!!??」

大音量で叫ぶしぃに対し、1さんが冷静に言った。

「何って・・・あなたの望みを叶えて差し上げたんですよ。
 如何ですかな?6匹分のゲル状ベビちゃんとのダッコのお味は」

「コ・・・コンナノ、ダッコジャナ・・・イヤァァァァァァァァァァァァァ!!!」

半狂乱となったしぃの叫び声に、妹者はまた耳を塞ぐ。本日3度目だ。

「アアアアアァァァァァァァ・・・ベビチャン・・・ベビチャン・・・ハニャァァァァ、ァァァァ・・・」

明らかに狂いかけているとわかるしぃの声。目は血走り、その全身は、自らの血を分けて作られた物に塗れている。

「いやあ、俺も長年しぃという生き物を見てきたが・・・こんなに血生臭いダッコは初めて見たな」

「ダッコというものは俺も元々不快な物だと思ってはいたが・・・これは凄い。不快ってレベルじゃないな」

「『気持ち悪い』って、こういう時のために作られた言葉なのじゃ、きっと」

兄妹の言葉に、しぃが反応した。

「ア゙ァァァァァァ・・・ダッコ・・・ダッゴォォォォォォ・・・ベビチャ・・・ジィィ・・・」

最早バイオハザード化したしぃの声。その顔は醜く歪み、強気でダッコをねだっていた時の面影は欠片も無い。
そしてしぃは、

「ウァァァアァ・・・ダッゴ・・・ダコダコダコダコダコダコダコダコダコ・・・ベビチャンベビチャンベビチャン」

まるで壊れたテープレコーダーのように同じ単語ばかりを繰り返した後―――

「ベビチャンベビチャンベビチャンベビベビベビダコダコダコ・・・ヴァァァァァァウjdンbyhベクィpwンwcンプbccクヌbybジガヒhjp;」

―――異常な叫び声を上げ、やがて静かになった。

561 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:33:24 ID:???
「・・・どうやら、逝ってしまわれたようですね」

1さんが言った。
がっくりうなだれたしぃの顔には生気が全く感じられない。白目を剥き、顔中の穴と言う穴から液体を垂れ流している。

「ショック死、か―――まあ、しぃってのは元々精神の足腰も脆いらしいからな」

兄者の言葉に、弟者もうんうんと頷いた。

「―――というわけで、『妊娠しぃdeお御籤』は以上で御座います。お疲れ様で御座いました」

1さんがそう言って深々と頭を下げる。慌てて3人も頭を下げた。
互いが頭を上げてから、弟者が言う。

「後片付け、手伝いましょうか?」

しかし1さんは、それを丁重に断った。

「有難う御座います。ですが、私一人で大丈夫ですから・・・お客様にご迷惑をおかけする訳には」

笑顔で言う1さん。無理に食い下がる事も無いだろうと思い、3人は彼の好意に甘える事とした。

「どうも、有難う御座いました」

「バイバイなのじゃ~」

「どうかお気をつけて・・・あ、私、この近くの『壱ノ宮神社』で働いておりますので、何か御用のときはいつでもお越し下さい」

挨拶を交わして、3人は1さんと別れた。
空を見上げると、もう微かにオレンジ色に染まり始めている。
今から家路に着くであろう人々の群れが、大移動。出店も閉まっている所が目立った。
やがて聞こえて来る、『間も無く終了時刻です。本日は『百ベビ組手』大会にお越し頂き、誠に有難う御座いました』のアナウンス。

「・・・んじゃ、帰るか」

「ああ、そうだな」

「そうするのじゃ。もう流石に疲れたのじゃ・・・」

そう会話を交わし、歩き出そうとしたその時。不意に兄者が言った。

「妹者、今日はもう疲れただろう。俺がおんぶして行ってやるよ」

「え、ホントなのじゃ!?」

「お、頭脳派の兄者が肉体労働とは・・・珍しいな。明日は雨か?」

喜ぶ妹者と、からかうような口調の弟者。それを聞いた兄者が憮然として答える。

「一言どころか全文余計だ、弟者。俺はただ、疲れきっているであろう妹をこれ以上歩かせたくないだけだ。お前は荷物もあるしな・・・」

それを聞いた弟者は、苦笑。

「冗談だ、兄者。時に落ち着け。―――妹者。兄者もああ言ってるし、おぶってもらうといい」

「わーい、ありがとうなのじゃ!」

嬉々として、妹者が兄者の背中に飛び乗る。

「それじゃ、帰るぞ。弟者、はぐれるなよ!」

「それはこっちの台詞だ、兄者・・・」

今朝の事を思い出した弟者が、また苦笑した。
そして3人は、人の波の奔流に巻き込まれぬよう、慎重に出口を目指した。

562 :へびぃ:2008/05/05(月) 02:33:56 ID:???
―――広場の外。
無事に脱出を果たした3人は、家路に着いた。
歩を進める内に、同じように近くを歩いていたAAの数もどんどん減っていき、やがて自分達だけとなった。

「それにしてもだ、兄者」

歩きながら、『百ベビ組手』で貰った賞状と盾、そして副賞のナイフを抱えた弟者が言った。

「何だ、弟者よ」

妹者を背負った兄者が答える。

「今日の妹者だがな・・・あんな技、どこで身につけたんだ?ドロップキックはともかく、その後のコンボ。何やら叫んでたし・・・」

それを聞いた兄者は、ばつが悪そうに言った。

「む・・・まあ、その、以前、妹者と共にとあるアニメを一緒に見てだな。それで・・・」

「まさか・・・おいおい、あれを妹者に見せたのか?」

その『アニメ』の正体が分かったらしい弟者が、怪訝な顔をする。

「い、いや・・・もうすぐ夏だし、熱くなれるアニメが見たくなってな・・・。
 俺がレンタルビデオ屋から借りてきて、いざ第1話を見ようとしたら、妹者がやってきて『暇だから一緒に見るのじゃ!』と」

「それで・・・影響された、と」

「影響どころか、俺よりハマってたみたいなんだこれが。その日一日、俺の事を『師匠』って呼んだり・・・なぁ、妹者」

兄者は不意に妹者に話を振った。だが、妹者からの返答は無い。

「・・・妹者?」

弟者が声を掛けた。が、その理由はすぐに分かった。

「―――すぅ・・・すぅ・・・むにゃむにゃ・・・」

「―――寝てしまったか。まあ、1日中遊びまわったんだ、無理もなかろう」

兄者がハハハ、と笑った。
と、その時。妹者が声を発した。

「うにゃ・・・ちっちゃいあにじゃが、ゆうしょうなのじゃ・・・むにゃむにゃ・・・」

それを聞いた兄者が、再び笑う。

「ははは、妹者の夢の中では、弟者は優勝しているらしいな」

「ぬぅ、4位で勘弁してくれ・・・」

ちょっと顔を赤くした弟者はそう呟いていたが、不意にポン、と手を打った(実際は荷物が邪魔で少し苦労していたが)。

「そうだ。妹者の希望を叶えてやらんとな・・・」

言いながら携帯電話を取り出し、電話をかける。通話先は―――自宅。

「もしもし、母者か?うん、俺だ。兄者と妹者も一緒だ。今から帰るよ」

電話には母者が出たようだ。弟者はこれから帰る旨を伝えた。しかし、そこで電話を切ろうとはせず、言葉を続けた。

「あ、スマンが母者、一つ要望があるんだ。聞いてくれるか?・・・うむ、サンクス。あのだな・・・」

弟者はそこで一旦言葉を切り、安らかに眠る妹者の顔をちらりと見る。そして、電話の向こうの母者に告げた。



「―――今日の夕飯は、天ぷらを頼む」








【完】

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