満開の桜の下

Last-modified: 2019-12-22 (日) 21:39:42
77 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2003/03/29(土) 00:06 [ it4NySzY ]
満開の桜の下、モナーは芝生の上に寝そべっていた。
青々しい草の匂いが鼻腔をくすぐった。
辺りからは幼い子供特有の小さな鈴のような笑い声が聞こえてくる。
モナーはぎゅっと目を閉じて、耳をふさいだ。

もうすぐパパになれるというのは、胸の辺りをくすぐられているような気分だった。
親ばかとは良く言ったもので、生まれてくる我が子の為に毎日の様にオモチャ屋に寄った。
子供の名前の本を30冊も買ってきて妻に叱られた。
名前の候補をノート一冊と半分作って、妻にあきれられた。
日に日に膨らんでいく妻のお腹。早く生まれておいでと話しかけた。
そうして段々とパパへの準備を完了させていった。

会社に電話が入ったのは、もうすぐ昼食どきの午前11時38分だった。
「もしもし…オマエさんですか?こちらは警察署の者です。
奥様が階段から落ちて大怪我しました。」
モナーはイスにつっかけてあったジャケットを羽織ると、上司への申し出もそこそこに
妻が入院している病院へと向かった。
「・・・・・・!!」
病室のドアを開けたモナーの目に飛び込んできたのは、白い布を被せられた妻の姿だった。
ガクガクと震える手で、妻の顔にかけられた布を取る。
「嘘だ…。こんな…。」
妻の顔は額から流れた血が小鼻に沿って流れ、口からは吐血した跡があった。
頭に巻かれた包帯からは血が滲んでいる。
「旦那さんですね?」
ふいに後ろから声をかけられる。刑事だった。
「この度はこんな事に…。」
「妻は…どうしてこんなになってしまったんですか!?どうして、どうして!」
モナーのあまりの形相に驚きつつ、刑事は興奮するモナーをなだめ、話し始めた。

78 名前: 77 投稿日: 2003/03/29(土) 00:07 [ it4NySzY ]
話しを最後まで聞いたモナーは、人に構う事もなく大泣きしながら電車に乗った。
回りの乗客がモナーを見ている。
さっき聞いたばかりの刑事の話しが接着剤で取りつけられたように耳に残っていた。
「目撃した人の話しだと、奥様は公園にある階段の所でお腹の大きいしぃに 
つかまってしまったようです。
しぃは奥様が抱えていたスーパーの袋をねだっていたと言います。
しぃを無視してその場を立ち去ろうとした奥様は階段から突き落とされました。
…今日は検診日だったんですか?…いいえ。我々が駆け付けたときは荷物が何もない状態でした。
多分、しぃが持って行ってしまったのでしょう。
初めてのお子さんだったんですか…。残念でしたね…。」

いつも寄り道をしていたオモチャ屋の前を素通りして、モナーは自宅マンションにたどり着いた。
程なくして、妻の遺体が無言の帰宅をした。

葬式や火葬の最中、モナーは段々とある決心を固めていった。






ーーーーーーーーこの手で妻を殺したしぃを見つけ出してこの手で復讐するーーーーーーーー

79 名前: 77 投稿日: 2003/03/29(土) 00:08 [ it4NySzY ]
モナーは、妻が殺された辺りのしぃをしらみつぶしに探した。
公園に置かれているダンボール、草むらにあるダンボール。
しぃの持ち物の中から妻の持ち物を探し、手がかりを求めていった。
来る日も来る日も、モナーは執念の塊になって探した。

そんなある日の事だ。
見覚えのあるチェックの袋が、草むらのダンボールの側に落ちていた。
早速中を確かめる。
母子手帳に書かれた妻の名前。
モナーは沸き立つような感情を覚えながら、ダンボールの方を見た。
丁度しぃが外の気配に気付いて起きてきた所だった。
「ハニャ!シィノバック サワラナイデ!」
しぃはモナーが持っている袋を奪い取ろうとする。
「お前がやったのか…?」
「ナンノコト!? シィハタダ ゴハンガホシカッタダケダヨ! シィニゴハンヲクレナイノハ ギャクサツチュウナノヨ!」
モナーはギャアギャアわめいているしぃのダンボールを思い切り蹴り上げた。
自己中でどうしようもないしぃの言い訳にモナーは切れたのだ。
「ハニャァーーーーッ!?」
ボスンという濁った音をさせて、しぃごとダンボールが転がった。
「チチィーーーーッ チチィーーーーーッ」
ダンボールの中からまだ目の見えていないと思われるベビしぃが2匹転げ落ちた。
「シィィィィッ!! シィノベビチャンニ ナンテコトスルノヨゥ!」
慌ててダンボールから転がったベビしぃをダッコし、ぎゅっと抱きしめた。
「虐殺厨だから突き落としたのか…?」
「ソウヨ! シィニ ゴハンヲクレナイナンテ ヒドイギャクサツチュウナンダカラ! アノトキ シィノオナカノナカニハ ベビチャンガイタンダヨ!
シイノベビチャンガシンダラ ミンナ マターリデキナイデショ! シンダラコマルデショ!
ソレナノニ シィニゴハンヲクレナイナンテ! シィノコトコロスキダッタンダヨ! ダカラツキオトシタンジャナイ!」
モナーは怒りで震える拳でしぃの頬を殴りつけた。
ゲホォという音と一緒に、喉から血を吐く。
「ナニス…シィィィッ!?」
吹き飛ばされて倒れこみ、起きあがろうとしたしぃの腹に一発のボディーブローを食らわせる。
「チチィィィィィィーーーーッ チチィィィィーーーーーッ」
思わずしぃの手からベビしぃが落ちてしまった。
「てめぇのほうが立派な虐殺厨じゃねぇか!食いもんが貰えなかったら虐殺厨だと?
ベビがいなけりゃマターリ出来ないだと?食いもんにありつけなかったから突き落とした…?
貴様、何を言ってるか分かってるか!?」
ベビしぃを拾おうとしているしぃの首を掴むと、モナーはしぃに向かってまくし立てる。
「シィィィーーーッ! ハナシナサイヨウ! シイチャンニランボウスルト アンタモ ギャクサツチュウナンダカラネ!」
草むらの中に放り出されたままのベビしぃは、寒いのか母しぃを求めてチィチィ泣いている。
「ホラァ! ベビチャンガ カゼヒイチャウジャナイ! ハヤク ソノテヲハナ…ギャァァァァァッ!!!」
モナーは白くてマシュマロのような質感のしぃの耳をひねりながらちぎり取った。
「俺はなぁ、この日をずっと待ってたんだ。妻と妻の腹にいた子供を殺したしぃを
誰の手でもなく、この手であの世に送ってやるってな!」 
もう片方の耳も間髪をいれずにちぎり取る。
「シィィィィィィーーーーッ シィノオミミィィィィィィィーーーーッ!」
モナーの手にはいつの間にか、包丁が握り締められていた。

80 名前: 77 投稿日: 2003/03/29(土) 00:09 [ it4NySzY ]
「イヤァァァ………オナガイ ヤメテ ダッコ…ダッコスルカラ……ネ? コンナノマターリジャナイヨ?」
恐ろしさにガクガクと震えながら、モナーに命乞いをするしぃ。
モナーはそんなしぃの言葉を聞く事もなく、包丁を振り上げた。
柔らかくか細いしぃのアンヨ、アキレス健に包丁が突き刺さる。
「イダィィィィィィィィーーーーーッ!」
無表情で包丁を振り下ろし続けるモナーの脳裏には、お腹の大きな妻が笑っている姿が映っていた。
「もうすこしだったのに! もうすこしだったのに! もうすこしだったのに!」
アキレス健を傷つけられて逃げる事の出来ずにいるしぃの体に浅く、
痛々しいキズが何箇所もつけられた。
「父親になれたのに! 父親になれたのに! 父親になれたのに!」
モナーの目からはボロボロと涙が溢れてきていた。
こんなひどく自己中でどうしようもない生き物にその権利を奪われてしまったなんて。
妻の命やせっかく授かった命をも、全て奪われてしまったなんて。
「イタイヨウ! ヤメテェーーーッ! ヤメテェーーーッ!」
首を横に振りながらイヤイヤするしぃ。
そんなしぃの首を包丁が突き刺さったのはそれからすぐの事だった。

すっかり冷たくなったしぃの横で、2匹のベビしぃ達が泣いていた。
モナーは妻の遺品の母子手帳をチェックの袋にしまい込み、
震えているベビしぃをジャケットのポケットに入れて自宅に帰った。

81 名前: 77 投稿日: 2003/03/29(土) 00:11 [ it4NySzY ]

自宅玄関を開けて、妻の遺影が置かれているリビングの中にベビしぃ達を放してやる。
外に置かれたダンボールの中とは違う心地よい暖かさにほっとしたのか、
ベビしぃ達はスヤスヤと寝始めた。
呆然としながら、それでもほっとしたような感情を伴ないながら、
モナーは仏前に母子手帳を供える。もう桜の見頃だ。
帰り道、花屋にあった桜の枝を花瓶にさした。
ベビーカーに赤ちゃんを乗せて、近所の桜並木を歩けるはずだった。
そんな当たり前の幸せさえ自分の手から奪ってしまったしぃのベビが
自分の家でスヤスヤと心地いい寝息を立てている。
「坊主憎けりゃ……本当にそうなんだな…。」
モナーはキッチンに立ち、てんぷら鍋に油を注ぎ始めた。
そのうちにてんぷら鍋は高温になり始める。
「そろそろいいかな…」
モナーはソファに寝かせたベビしぃをそっと抱くと、起こさないようにキッチンまで連れてきた。
そして、高温になったてんぷら鍋の中に頭からベビしぃを入れた。
ジュワァァァァァーーーーという油が浸透する音と共に、
ベビしぃのからだはてんぷら鍋の中に沈んでいく。
ようやく気がついたのか、ベビしぃはてんぷら鍋から顔を出す。
「ヂィーーーーーーーッ!」
モナーはてんぷら鍋の中のベビしぃを取り出す。
ベビしぃは大ヤケドを負って、ビクビクと体を痙攣させている。

モナーは大ヤケドを負って体を痙攣させているベビしぃ達を紙袋に入れてゴミ捨て場に捨てると、
その足で近所の公園に遊びに来た。
桜は満開で、近所の子供たちが楽しそうに遊んでいる。
モナーは桜の木の下に寝そべって、子供たちのはしゃぐ声を目をつぶって聞いていた。
清々しい草の香り、家族3人で見るはずだった満開の桜。
どうしようもない感情が、モナーの体中を駆けぬける。
復讐は終わったはずなのに。もう目標は達成されたはずなのに。
  

涙が溢れて止まらなかった。



おわり