狂っていくしぃ

Last-modified: 2015-06-11 (木) 21:34:18
134 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/04/04(金) 12:49 [ y7kz/nPU ]
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「よく見ろ。目を逸らすな」
低い声が、澱んだ空気を揺らす。
「コレガ 私……?」
古ぼけた鏡に映る姿。
「そうだ、これがお前だ。しぃ。今となっては、でぃ、びぃ以上に悲惨な姿だがね」
声の主は意地悪く笑っている。しぃは鏡を凝視しながら、ブツブツと何かつぶやいている。
ガクンと下がった頭を抱えながら、小さな声でつぶやき続けている。
目はカッと見開かれ、水晶のように澄んだ涙を流していた。
「コレ 誰? 私、違ウ。コンナ、違ウ。私、アァ、ウ、コンナノ、体、変、アッアァ」
だんだんと不明瞭になるしぃの言葉。しぃは頭を左右に激しく振り、掻きむしるように頭に爪を立てた。
「ウッアァ、アウァァアッ!! アァァーーーーッ!!」
ヒステリックなわめき声。その声は狂気じみている。
「うるさい。黙れっ」
男は泣き叫ぶしぃを蹴り飛ばした。
しぃは、座り込んでいた床から近い壁にぶつかった。壁紙がまばらに剥がれた汚らしい壁。
壁に叩き付けられても、しぃはなお何かを言っている。
「立てよ」
男は乱暴にしぃの胸ぐらを掴む。自分の顔と、しぃの顔を近づける。お互いが触れあうほど近くに。
「いいか? これはお前だ。この醜い生き物は、お前なんだよ、しぃ」
そう言われたしぃが一瞬固まった。
ほんの一瞬。
その一瞬が過ぎた後、再びしぃは泣き叫びながら、血が噴き出さんばかりの勢いで頭を掻きむしった。
男は、狂っていくしぃの姿をまるで芸術作品を鑑賞するような目で、見つめていた。

135 名前: ナヒャ(yWVxXezQ) 投稿日: 2003/04/04(金) 12:49 [ y7kz/nPU ]
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わめき続けるしぃを男は後ろから抱きしめた。しぃの体がビクンと震えた。
「醜いねぇ。お前は非常に醜いねぇ」
「アッ。ハッ、ウア、ァ、醜イ、コンナ姿、嫌ダァアァ」
しぃの脚は太股の辺りから切断されている。
右足は、斧でキレイに切り落とされ、左足は、潰されたようにギザギザになっている。
胴体には深紅のハーネスがきつめに付けられている。
そして、顔は薬品によって爛れている。赤い筋肉が露出していた。
「君は、随分多くのAAに愛されていたね。でも、そんな化け物みたいな姿じゃ、皆逃げて行くだろうよ」
男は後ろからしぃの耳を噛んだ。口を離し、息を吹きかける。
「こんな醜くなった君を愛してやるのは、僕ぐらいのモンだと思うがね」
男――ヲタラーはしぃの頭を優しく撫でている。
「ア、愛? ソンナノ、ウ、ァ、イラナイ。ウギァ、ア、私ヲ 元ノ 姿ニ 戻シ、テェェ」
ヲタラーは無言でしぃを抱きしめた。
「ホラ、しぃ。お前の大好きなダッコだぞ」
しぃは泣きながら、微笑を浮かべている。完全に狂ってしまったのだろう。
「可愛いねぇ。お前は本当に可愛いよ。ずっと一緒だよ。これからずっと」
ホコリっぽいその部屋に、しぃの甲高い笑い声が響き渡った。狂気の笑い声だった。
ヲタラーはテラテラと光った唇をしぃの唇に近づけた。
目を覆いたくなるようなキスシーン。ピチャピチャという音が二人の唇からあふれる。
ヲタラーは赤く大きな舌をしぃの口の中に入れた。しぃの目が、カッと開かれる。
しぃの顔に、ヲタラーの生臭い息が吹きかかる。
ガリッ。
しぃは渾身の力を込めて、ヲタラーの舌を噛みちぎった。
しぃの口の中に、ヲタラーの血が流れ込む。吐き気を催すような血の味だった。
「狂ッタ フリヲ シタダケ」
力無くつぶやく。
「コンナ 醜イ 体」
しぃは残された両腕で、自分の脚があるはずの部分に手を伸ばした。手は虚しく空を切る。
「ドウシテモ 殺シテヤリタカッタ。狂ッタ フリヲ シテデモネ。デモ……」
しぃは高音の雄叫びを上げる。
「アイツヲ 殺シタ 今、本当ニ 狂ッタ方ガ、楽ダヨネ」
しぃは笑いながら、無意味な言葉をシャベリ続けた。
今度こそ、しぃは本当に狂ってしまったようだ。

 完