751 名前:おーあーるぜっと ◆YM8kSfjf3c 投稿日:2006/05/24(水) 16:40:23 [ wmaeimYk ] 初投稿です。どきどき。 目覚め ふと、俺は気が付いた。少しの間、気を失っていた様だ。 瞼を開ける。 「え……?」 そこには、思いも寄らない光景があった。 目の前に、見知らぬAAがぐったりと倒れていた。思わず駆け寄る。 しぃだ。顔を見ると、気絶している様だった。 「ダッコ、ダッコォ……」と小さくうわごとを呟いている所から見ると、アフォしぃと見て間違いなさそうだ。 アフォしぃはそのまま放っておいて――元々この連中に人権など存在しない――、俺は改めて周りを確認した。 ここは、見覚えのない、薄暗い小さな部屋だった。四畳半くらいか、あるいはもうちょっと狭い程度の、薄汚れた灰色の部屋。 しかし、四面の壁のどれにも、扉が着いていない。 訳がわからない。一体何が起こっているんだ? 俺が頭を抱え込んだ、その時だった。 『よう。目、覚めたな』 声が聞こえた。どこからともなく聞こえた。 「なっ……、誰だ!」 思わず叫んだ。 『どうでもいいだろ、そんな事。なあお前、確かモララーって言うんだよな?』 俺はたじろいだ。どうして俺の名前を知っているのだ? 「そ、そんな事より、ここはどこなんだ? 出口はどこだ?」 『ああ、出口ね。教えてやってもいいけど、その前にちょっとお願いできるかな?』 「お願い? 何だ?」 『そこにアフォしぃが倒れているだろ?』 「あ、ああ……。で、それで?」 『そいつ、今は意識がないけど、もうすぐ起きるはずだから、そしたらお前に『助けて』だの『出して』だの言ってくるはずだ』 「そいつを、どうしろってんだ?」 『なあに、難しい事じゃない』 声はそこで一呼吸置いて、続きを言った。 『殺せばいい』 「なっ……!」 俺は狼狽えた。 別にアフォしぃが可哀想だとか、そういう事じゃない。アフォしぃなんぞにくれてやる情なんて存在し得ない。 ただ俺は、生まれてこの方虐殺などした事がないのだ。 やった事もない事をいきなりしろと言われて狼狽えるのは、誰にでも経験はあると思うが。 『おいおい、まさかアフォしぃが可哀想だとか言うんじゃないだろうな?』 「い、いや。ただ、今まで虐殺なんてやった事が無くて……」 『大丈夫だって。アフォしぃ一匹殺すのなんて、お前が手にしている武器を使えば簡単だよ』 言われてから、俺は自分の右手に持っている物にようやく気付いた。 それは、長い剣だった。 いつの間に、こんな物を? 唖然とする俺に向かって、声は続く。 『適当に腹なり頭なり切りつけりゃあ死ぬって。案ずるより産むが易しってな。やってみな』 「で、でも……」 俺が躊躇していると、視界の隅でもぞもぞ動くものがあった。 アフォしぃだった。俺がそっちを向くと、奴は口を開いた。 「チョットソコノアンタ! ボォットミテナイデ カワイイシィチャンヲ ココカラダシナサイヨォ!」 ぐったりしていたアフォしぃが元気になって、俺に注文を付けてきたのだ。声の言った通りだった。 頭の中で、奴の声がキンキン響いた。こいつ、自分が世界で一番偉いとでも思っているのか。思わず腹が立った。 「うるさい! お前、人にものを頼む態度ってものを」 言い終わる前に、アフォしぃは大声で怒鳴った。 「ナニヨ! カワイイシィチャンガ ガシシチャッテモイイノ? ホントサイテイネ、ギャクサツチュウッテ!」 何て身勝手な発言であろうか。 これほど憤ったのは、生涯でこれが初めてかもしれない。 俺の中で、真っ黒な何かが動くのを感じていた。 先程殺す事に躊躇していた自分が、今になって心底恥ずかしくなった。 そうだ。こんなむかつくカスは、殺してしまえばいいんだ。 心の中で、俺は俺自身に命令する。 ――ヤツヲコロセ! その瞬間、俺の迷いは吹っ切れた。 752 名前:おーあーるぜっと ◆YM8kSfjf3c 投稿日:2006/05/24(水) 16:41:29 [ wmaeimYk ] 俺は右手の長剣を、高々と奴に向けた。 「ハニャ! チョ、チョットナニヲスルキナノヨ! ランボウハユルサナイワヨ!」 何か喚いている様だが、俺の耳にはそんな言葉は入らなかった。 カッと目を見開き、俺は刃を獲物の腹に突き刺した。 「シィィィィィィ!」 湧き上がる悲鳴。同時に、赤い血が飛び散り、俺の体や顔に当たる。 俺は悶えるアフォしぃの体を余った左手で押さえながら、右手に力を込め、剣をグリグリ回した。 「シィィィィィィィ! ヤメテェ! イタイヨォ!」 ご命令通りに手首の運動を止めてやった。奴はホッとしたろうが、それも束の間。今度は丸く広がった傷口から左の脇腹目掛けて、剣で思いっきり体を切り裂いた。 バシュッという音と共に剣先が空を舞い、それと同時に血液が傷口から大量に吹き出る。 「ジィィィィィィィ! イタイヨォォ! ヒドイヨォ! ナンデシィチャンガ コンナメニアワナキャ ナラナイノヨォォ!」 腹を抱えて転げ回るアフォしぃ。 暴れれば暴れる程死に近づくだろうが、こう動き回られてはトドメを刺しにくい。 足で胴体を踏んで仰向けのまま動けない様にしてから、俺は右手の剣を逆手に持ち替えて、対象の額に狙いを付けた。 「ハニャァァ! ダッコスルカラ、モウヤメテェェェェ!」 雑音に耳を貸さずに、躊躇無く真っ直ぐに振り下ろす。 ザクッという音と、確かな手応え。 真っ赤な噴水が、びくんびくんと痙攣する肉塊から吹き出る。 ……終わったのか? 何だ、あっけない。 激情のまま体を動かしたが、それだけで終わってしまった。 声の言った通りだ。案ずるより産むが易しとは正にこの事。 物言わぬ死体から剣を抜くと、待っていたかの様に声が聞こえてきた。 『な、簡単だろう?』 「ああ……」 少し呆然としながら俺は答えた。 『さてと、コツもつかんだみたいだし、次の注文、いいかな?』 その声を聞いて俺は慌てた。 「お、おい! あれを殺れば出してくれるって言ったじゃないか!」 『ゴメンゴメン。次のを終わらせれば、本当に出してやるよ』 「本当か?」 『疑り深いなあ』 「まあいいや。で、次は何を殺せばいい?」 『ああ。今からそっちに獲物をよこすから、そいつらを狩ってくれ。今度は、もうちょい楽しんでみな』 言うが早いか、背後でドサドサという音が二、三度続けて起きた。 振り返ると、そこに三匹のチビギコがのびていた。 なるほど、こいつらを殺せばいいのか。 今度は、迷いなどしない。 どうせこいつらも、先程のアフォしぃと同じ様に、自分達の事しか考えない畜生だろう。 俺の体内で再び、暗黒が渦を巻き始めた。 ――ヤツラヲコロセ、コロセ、コロセ! 753 名前:おーあーるぜっと ◆YM8kSfjf3c 投稿日:2006/05/24(水) 16:42:28 [ wmaeimYk ] 足音を忍ばせ三つの獲物に近づく。 別に起きて逃げようとされても、ここには出口など無いのだが、なんとなく、こうしなければいけない様な気がした。 足下に寝転がる、小さな攻撃対象。 そいつらに、まずは一匹ずつ蹴りを加え、起こしてやった。 「ヒギャア! イタイデチ!」 最初に蹴った一匹が、神経を逆なでする様な悲鳴を発した。他の二匹も、似たり寄ったりだった。 やがて周囲を見渡し、こちらに気付くと、そいつ――最初に蹴った奴――は俺に向かってわめきだした。 「オマエデチネ、チビタンヲケッタノハ! ナニスルデチカ! イタカッタデチヨ! バツトシテ、イマスグゴヒャクマンエンヲ」 「ここがどんな所か、お前にはわかるか?」 わめき声を無視して、俺は獲物達に囁いた。剣を持った右手を、背後に回して隠しながら。 「ハァ? チビタンノイッテイルコトガ キコエナカッタデチカ? ジャアトクベツニ モウイッカイ」 「ここはなぁ」 言いながら、俺は一番手近にいた、やたら毛の多い奴に目を付けた。 「お前らの墓場さ」 言い終わったその時には、俺の剣はそいつの右目を貫いていた。 「ビギェェ!」 訳のわからぬ悲鳴を上げているが、突然の出来事に、残りの二匹は脳が正常に働いていない様だ。 呆然とするそいつらの前で、俺は両目、両足、両腕、腹、そして心臓の順にそいつに切っ先を突き立てた。 場所によって切った時の手応えと音が違ってくるのが、なかなか面白い。 数々の悲鳴が、俺のやる気を沸き立てた。 やがて穴だらけになったそいつは崩れ落ち、残りの二匹を見やると、ようやく自分達の立場がわかったのだろう、恐怖を顔に表し、後ずさりし始めた。 「ナ、フ、フ、フサタン、フサタンガアァ……」 「ナ、ナンデ、ナンデコンナ……」 わなわなと震えているそいつらに向かって、俺は走り寄った。 「キャアァ!」 二手に分かれて逃げ出した。逃がすか! 直感で左に逃げた奴に狙いを定め、剣を一降り。 ズパァッという景気のいい音に続いて、ゴロンと鈍い音がした。 見ると、二匹目の首が、綺麗な切断面を見せて胴体から離脱していた。 床には、真新しい赤いシミが広がっていた。 右の方を振り向くと、残りの一匹が、壁にへばり付いている。何やら失禁しかけている。 「ミ、ミケタンマデ……。タ、タタタタタ……、タスケテデチィ……」 首を横に振りながら、絶望に浸った生け贄の元へ、俺は進み出た。 血と肉で彩られた絵画。苦痛のダンス。 かつて無い芸術に、俺は出会った気がした。 緋色の喜びが、今、花開く。 『お~、なかなか上手いじゃない』 剣に付いた血糊を肉塊で拭き取ると、再び待っていたかの様に声が聞こえた。 「何だ、見ていたのか?」 俺は笑いながら、声に尋ねた。 『まあね。面白かったか?』 「ああ」 『……またやりたいだろう?』 「ああ……、っておい、まさかまた……」 俺はまた焦った。 『いやいや大丈夫。出してやるよ、ほら』 いきなり目の前に、縄ばしごが降りてきた。上を見ると、天井にちょっと大きめの穴が開いていた。 何だ、もしかしてあそこから入れられたのかな? 微笑しながら、俺は縄ばしごに足をかけ、外の世界へと……、新たな世界へと、踏み出した。 『はい、新入虐殺者一名様ご案な~い……』 終わり