目覚め

Last-modified: 2015-07-10 (金) 01:57:12
751 名前:おーあーるぜっと ◆YM8kSfjf3c 投稿日:2006/05/24(水) 16:40:23 [ wmaeimYk ]
初投稿です。どきどき。

目覚め


ふと、俺は気が付いた。少しの間、気を失っていた様だ。
瞼を開ける。
「え……?」
そこには、思いも寄らない光景があった。
目の前に、見知らぬAAがぐったりと倒れていた。思わず駆け寄る。
しぃだ。顔を見ると、気絶している様だった。
「ダッコ、ダッコォ……」と小さくうわごとを呟いている所から見ると、アフォしぃと見て間違いなさそうだ。
アフォしぃはそのまま放っておいて――元々この連中に人権など存在しない――、俺は改めて周りを確認した。
ここは、見覚えのない、薄暗い小さな部屋だった。四畳半くらいか、あるいはもうちょっと狭い程度の、薄汚れた灰色の部屋。
しかし、四面の壁のどれにも、扉が着いていない。
訳がわからない。一体何が起こっているんだ?
俺が頭を抱え込んだ、その時だった。
『よう。目、覚めたな』
声が聞こえた。どこからともなく聞こえた。
「なっ……、誰だ!」
思わず叫んだ。
『どうでもいいだろ、そんな事。なあお前、確かモララーって言うんだよな?』
俺はたじろいだ。どうして俺の名前を知っているのだ?
「そ、そんな事より、ここはどこなんだ? 出口はどこだ?」
『ああ、出口ね。教えてやってもいいけど、その前にちょっとお願いできるかな?』
「お願い? 何だ?」
『そこにアフォしぃが倒れているだろ?』
「あ、ああ……。で、それで?」
『そいつ、今は意識がないけど、もうすぐ起きるはずだから、そしたらお前に『助けて』だの『出して』だの言ってくるはずだ』
「そいつを、どうしろってんだ?」
『なあに、難しい事じゃない』
声はそこで一呼吸置いて、続きを言った。
『殺せばいい』
「なっ……!」
俺は狼狽えた。
別にアフォしぃが可哀想だとか、そういう事じゃない。アフォしぃなんぞにくれてやる情なんて存在し得ない。
ただ俺は、生まれてこの方虐殺などした事がないのだ。
やった事もない事をいきなりしろと言われて狼狽えるのは、誰にでも経験はあると思うが。
『おいおい、まさかアフォしぃが可哀想だとか言うんじゃないだろうな?』
「い、いや。ただ、今まで虐殺なんてやった事が無くて……」
『大丈夫だって。アフォしぃ一匹殺すのなんて、お前が手にしている武器を使えば簡単だよ』
言われてから、俺は自分の右手に持っている物にようやく気付いた。
それは、長い剣だった。
いつの間に、こんな物を?
唖然とする俺に向かって、声は続く。
『適当に腹なり頭なり切りつけりゃあ死ぬって。案ずるより産むが易しってな。やってみな』
「で、でも……」
俺が躊躇していると、視界の隅でもぞもぞ動くものがあった。
アフォしぃだった。俺がそっちを向くと、奴は口を開いた。
「チョットソコノアンタ! ボォットミテナイデ カワイイシィチャンヲ ココカラダシナサイヨォ!」
ぐったりしていたアフォしぃが元気になって、俺に注文を付けてきたのだ。声の言った通りだった。
頭の中で、奴の声がキンキン響いた。こいつ、自分が世界で一番偉いとでも思っているのか。思わず腹が立った。
「うるさい! お前、人にものを頼む態度ってものを」
言い終わる前に、アフォしぃは大声で怒鳴った。
「ナニヨ! カワイイシィチャンガ ガシシチャッテモイイノ? ホントサイテイネ、ギャクサツチュウッテ!」
何て身勝手な発言であろうか。
これほど憤ったのは、生涯でこれが初めてかもしれない。
俺の中で、真っ黒な何かが動くのを感じていた。
先程殺す事に躊躇していた自分が、今になって心底恥ずかしくなった。
そうだ。こんなむかつくカスは、殺してしまえばいいんだ。
心の中で、俺は俺自身に命令する。

――ヤツヲコロセ!

その瞬間、俺の迷いは吹っ切れた。

752 名前:おーあーるぜっと ◆YM8kSfjf3c 投稿日:2006/05/24(水) 16:41:29 [ wmaeimYk ]
俺は右手の長剣を、高々と奴に向けた。
「ハニャ! チョ、チョットナニヲスルキナノヨ! ランボウハユルサナイワヨ!」
何か喚いている様だが、俺の耳にはそんな言葉は入らなかった。
カッと目を見開き、俺は刃を獲物の腹に突き刺した。
「シィィィィィィ!」
湧き上がる悲鳴。同時に、赤い血が飛び散り、俺の体や顔に当たる。
俺は悶えるアフォしぃの体を余った左手で押さえながら、右手に力を込め、剣をグリグリ回した。
「シィィィィィィィ! ヤメテェ! イタイヨォ!」
ご命令通りに手首の運動を止めてやった。奴はホッとしたろうが、それも束の間。今度は丸く広がった傷口から左の脇腹目掛けて、剣で思いっきり体を切り裂いた。
バシュッという音と共に剣先が空を舞い、それと同時に血液が傷口から大量に吹き出る。
「ジィィィィィィィ! イタイヨォォ! ヒドイヨォ! ナンデシィチャンガ コンナメニアワナキャ ナラナイノヨォォ!」
腹を抱えて転げ回るアフォしぃ。
暴れれば暴れる程死に近づくだろうが、こう動き回られてはトドメを刺しにくい。
足で胴体を踏んで仰向けのまま動けない様にしてから、俺は右手の剣を逆手に持ち替えて、対象の額に狙いを付けた。
「ハニャァァ! ダッコスルカラ、モウヤメテェェェェ!」
雑音に耳を貸さずに、躊躇無く真っ直ぐに振り下ろす。
ザクッという音と、確かな手応え。
真っ赤な噴水が、びくんびくんと痙攣する肉塊から吹き出る。

……終わったのか?
何だ、あっけない。
激情のまま体を動かしたが、それだけで終わってしまった。
声の言った通りだ。案ずるより産むが易しとは正にこの事。
物言わぬ死体から剣を抜くと、待っていたかの様に声が聞こえてきた。
『な、簡単だろう?』
「ああ……」
少し呆然としながら俺は答えた。
『さてと、コツもつかんだみたいだし、次の注文、いいかな?』
その声を聞いて俺は慌てた。
「お、おい! あれを殺れば出してくれるって言ったじゃないか!」
『ゴメンゴメン。次のを終わらせれば、本当に出してやるよ』
「本当か?」
『疑り深いなあ』
「まあいいや。で、次は何を殺せばいい?」
『ああ。今からそっちに獲物をよこすから、そいつらを狩ってくれ。今度は、もうちょい楽しんでみな』
言うが早いか、背後でドサドサという音が二、三度続けて起きた。
振り返ると、そこに三匹のチビギコがのびていた。
なるほど、こいつらを殺せばいいのか。
今度は、迷いなどしない。
どうせこいつらも、先程のアフォしぃと同じ様に、自分達の事しか考えない畜生だろう。
俺の体内で再び、暗黒が渦を巻き始めた。

――ヤツラヲコロセ、コロセ、コロセ!

753 名前:おーあーるぜっと ◆YM8kSfjf3c 投稿日:2006/05/24(水) 16:42:28 [ wmaeimYk ]
足音を忍ばせ三つの獲物に近づく。
別に起きて逃げようとされても、ここには出口など無いのだが、なんとなく、こうしなければいけない様な気がした。
足下に寝転がる、小さな攻撃対象。
そいつらに、まずは一匹ずつ蹴りを加え、起こしてやった。
「ヒギャア! イタイデチ!」
最初に蹴った一匹が、神経を逆なでする様な悲鳴を発した。他の二匹も、似たり寄ったりだった。
やがて周囲を見渡し、こちらに気付くと、そいつ――最初に蹴った奴――は俺に向かってわめきだした。
「オマエデチネ、チビタンヲケッタノハ! ナニスルデチカ! イタカッタデチヨ! バツトシテ、イマスグゴヒャクマンエンヲ」
「ここがどんな所か、お前にはわかるか?」
わめき声を無視して、俺は獲物達に囁いた。剣を持った右手を、背後に回して隠しながら。
「ハァ? チビタンノイッテイルコトガ キコエナカッタデチカ? ジャアトクベツニ モウイッカイ」
「ここはなぁ」
言いながら、俺は一番手近にいた、やたら毛の多い奴に目を付けた。
「お前らの墓場さ」
言い終わったその時には、俺の剣はそいつの右目を貫いていた。
「ビギェェ!」
訳のわからぬ悲鳴を上げているが、突然の出来事に、残りの二匹は脳が正常に働いていない様だ。
呆然とするそいつらの前で、俺は両目、両足、両腕、腹、そして心臓の順にそいつに切っ先を突き立てた。
場所によって切った時の手応えと音が違ってくるのが、なかなか面白い。
数々の悲鳴が、俺のやる気を沸き立てた。
やがて穴だらけになったそいつは崩れ落ち、残りの二匹を見やると、ようやく自分達の立場がわかったのだろう、恐怖を顔に表し、後ずさりし始めた。
「ナ、フ、フ、フサタン、フサタンガアァ……」
「ナ、ナンデ、ナンデコンナ……」
わなわなと震えているそいつらに向かって、俺は走り寄った。
「キャアァ!」
二手に分かれて逃げ出した。逃がすか!
直感で左に逃げた奴に狙いを定め、剣を一降り。
ズパァッという景気のいい音に続いて、ゴロンと鈍い音がした。
見ると、二匹目の首が、綺麗な切断面を見せて胴体から離脱していた。
床には、真新しい赤いシミが広がっていた。
右の方を振り向くと、残りの一匹が、壁にへばり付いている。何やら失禁しかけている。
「ミ、ミケタンマデ……。タ、タタタタタ……、タスケテデチィ……」
首を横に振りながら、絶望に浸った生け贄の元へ、俺は進み出た。

血と肉で彩られた絵画。苦痛のダンス。
かつて無い芸術に、俺は出会った気がした。
緋色の喜びが、今、花開く。

『お~、なかなか上手いじゃない』
剣に付いた血糊を肉塊で拭き取ると、再び待っていたかの様に声が聞こえた。
「何だ、見ていたのか?」
俺は笑いながら、声に尋ねた。
『まあね。面白かったか?』
「ああ」
『……またやりたいだろう?』
「ああ……、っておい、まさかまた……」
俺はまた焦った。
『いやいや大丈夫。出してやるよ、ほら』
いきなり目の前に、縄ばしごが降りてきた。上を見ると、天井にちょっと大きめの穴が開いていた。
何だ、もしかしてあそこから入れられたのかな?
微笑しながら、俺は縄ばしごに足をかけ、外の世界へと……、新たな世界へと、踏み出した。

『はい、新入虐殺者一名様ご案な~い……』


終わり