真冬のちびギコ家族

Last-modified: 2020-06-10 (水) 15:24:19
949 名前: 1/8 投稿日: 2003/10/06(月) 22:41 [ tv2KHcTs ]
真冬の夜の街をモララーが歩く。
雪こそ降ってないが、コートなしではとても歩けない。
手袋をはめた右手にはコンビニのオデンをぶら下げている。
早く帰って温まりたい・・・自然と早足になる。

「近道してくかなぁ。」
左に見えるゴミ捨て場の横道を通れば、5分は早くなるだろう。
彼はダンボールや新聞が散らばる汚い道に入っていった。
「ホント汚いよなー。狭いし。」
ブツブツいいながら歩いていると、足元からか細い泣き声が聞こえてきた。
そこにはボロボロのダンボール箱があった。ゴトゴトと揺れている。

何も言わずに開けてみる。
5匹いた。ちびギコちびしぃの夫婦に2匹のベビ。
体をくっつけてガタガタ震えている。

「オネガイ・・・ソコ・・・シメテ・・・」
「この寒いのに野宿とは、大変ですなぁ」
「わかってるなら・・・閉めるでち・・・」
「俺?俺はこれから帰っておでんに熱燗だ。う~楽しみ♪」
「ソンナコト・・・キイテナイヨウ・・・」

2匹に挟まれたベビ達が体を丸めている。
それでも寒さで眠れないのかミィミィと泣いていた。
両親ほどに毛皮は生えそろっていないためか、丸まった体は
所々真っ赤なしもやけになっている。

「まーそれは置いといてだ。なんでこんな寒いとこにいるのさ?」
「マエノイエニ・・・ホウカサレテ・・・ソノトキ5ニンイタベビチャンモ」
「うー寒い寒い!もうその辺でいいよ。俺帰るわ!」
「サイゴマデキイテヨウ・・・」

「まあがんばって冬を越してよ!今夜から大雪らしいけどね!」
「そんな!ひどいでち!」
「俺に言われても困るよ。」
「オネガイ!タスケテ!」

「ベビちゃんをあたためてあげたい・・・そのオデンわけてでち。」
「ワタシモ、モウオチチガデナイノ!オネガイ!」
「ベビは食べられないだろ?君だってすぐお乳がでるわけじゃない。」
「そんな・・・」
黙る2匹。震えるベビをあざ笑うかのように、さらに強い風が吹いた。

950 名前: 2/8 投稿日: 2003/10/06(月) 22:41 [ tv2KHcTs ]
「寒ーい!じゃあ俺帰るね!」
「マッテ!」
「もう!なんだよ。早くしてよ!」
「・・・ベビチャンヲツレテッテ」
「なにをいうでち!」
「コノコタチダケデモタスケテホシイノ!」

「俺の家でベビ達だけでも暖めて欲しいと・・・そういう事?」
「オネガイシマス!」
「・・・おねがいするでち」

「母の愛ってやつ?まあいいよ。」
「アリガトウ!」
「君達必死だしね。そうだ、ガンモだけあげるよ。あまり好きじゃないし。」
「ほんとでちか!」

震えるちびしぃの手から3匹を受け取ると、コートの懐にいれる。
暖かさからか、ベビ達は嬉しそうにミュ~と鳴く。
「ウウ・・・コレデベビチャンモ」
「うう・・・あったかいたべものなんてひさしぶりでち」

「さてガンモはと・・・これ箸付いてないのかよ!」
しょうがないので手でつまむ。熱い汁が溢れ出す。
「熱っち~い!!」
思わず放り投げられたガンモは、泣いて喜ぶ2匹の顔へ落ちた。

「ヒギャァァァ!あついでちぃ!」
「アツイ!アツイヨウ!」
あまりの熱さに転げまわる2匹。

「ゴメンゴメン!でも芸人なみのリアクションだったよ。」
「うう・・目があかないでち・・・。」
「とにかくベビは預かったよー。」
「オ、オネガイ・・・シマス・・・。」
寒空の中、火傷した顔で2匹はモララーを見送った。その後・・・

「お、オデンのしるが・・・。」
「サム・・イ・・ヨウ・・。」

ふわりとした2匹の毛にしみ込んだ汁はすぐに冷え、霜が降りてきた。
火傷の痛みと寒さの中、2匹はベビのことだけを考えていた。

951 名前: 3/8 投稿日: 2003/10/06(月) 22:42 [ tv2KHcTs ]
アパートに着くとモララーはコートを脱いだ。
懐の3匹が目をこすっている。1匹はベビしぃ。2匹はベビギコ。
暖かさからか眠っていたようだ。
「ああ、君達がいたんだったね。」
よく見ると体はとても汚く、汚れで毛皮も固まっている。
毛が少なく見えたのもそのせいのようだ。
「君達汚いなぁ、それに臭いよ。」
このままでは部屋に入れられない。3匹を入れる箱を探す。

「どうせ明日までだし、これでいいだろ?」
モララーはティッシュの空き箱を見つけると、そこに3匹を押し込んだ。
箱の側面を開け、顔だけ出せるようにして無理やり詰め込む。
いくら小さいベビ達でもさすがに顔以外は動かせなくなる。
「ミュギィィ!」「ナッコォ!」
苦しさに声を上げるベビ達を玄関へ置いて、彼は部屋へと入った。

1時間後・・・
「あー、おでんウマー」
ほろ酔いでトイレに行く彼の目にベビの入った箱が見えた。
みっちり詰まっていたのか、この1時間身じろぎさえできなかったようだ。
コンクリートの玄関では、温まるどころか余計に冷たくなっていっただろう。
顔だけのまま震えて微かな鳴き声をあげる。
「ミィ・・ミ・・」「ナ・・コ・」
「ごめーん、忘れてたよ。さすがに寒かったかな?」

彼はティッシュ箱に入ったベビを部屋に入れることにした。
3つの顔だけ出ている箱を置くと、その前で晩酌の続きを始める。
「あー、おでん本当にウマー」
暖かい部屋で元気が戻ってきたのか、ベビ達も次第に鳴き始めた。
「マンマァ」「ミュー」
腹が減っているのか甘えた声をあげるベビ。相変わらず体は動かせない。
「君達は食べられないの。わかる?」
「マンマァ!マンマァ!」「ミュー!」
ミルクしか飲めない体でも匂いはわかるのだろうか、よだれと涙を流して叫ぶ。
手を出せば届く距離にあるのに、ティッシュ箱の中では顔以外動かせない。
「あー、ご馳走さん。」
「マン・・マァ」「ミュー・・」
ぐったりするまで泣き続けたベビ達の前で、彼は時間をかけて晩餐を味わった。

952 名前: 4/8 投稿日: 2003/10/06(月) 22:43 [ tv2KHcTs ]
「ああ、君ら腹減ってるんだね?」
今更と言った感じだが、一応彼も気がついてはいたようだ。
「ミルク買ってきたほうがいいのかな?」
「でも酒飲んじゃったし、外寒いしなぁ。」
「マンマァ!」
「どうしようかなぁ」
「マンマァ!ナッコォ!」
「うるさいから君は黙っててねー」

まだ騒がしいベビしぃの口ににおでんのカラシを詰め込んだ。
一瞬の不思議そうな顔の後、声にならない叫びをあげる。
喉の奥まで焼けるような痛みなのに、身じろぎもできない。手でかき出すこともできない。
ありったけの涙を流すベビしぃ。泣いても泣いても痛くてたまらない。
ベビギコ達も恐怖で震えている。

「冷蔵庫にミルクあったかなぁ」
そんな彼らをほおって台所に行くモララー。
「あった!・・・でもいつ買ったんだっけ?」
ここ1週間は買った覚えがない。
ミルクはこころなしかすっぱい匂いがする。

考えないことにした。

「腹減ってるんだろ?まあ飲みなよ」
皿に開けたミルクを持っていく。ベビ達が騒ぎ出す。
泣いていたベビしぃも必死にミルクへと首を伸ばしている。
顔だけ動かしてミルクを奪い合う。
そんなベビ達の前で、また彼は飲み始めた

「安月給の俺だけどさ、君達に比べたら幸せだね」
夢中になるベビ達を前に彼はつぶやく。酔っているようだ。
「虐殺されるわ。飢え死にするわ。哀れだと思うよ」
ミルクを飲み終わったベビ達が騒ぎ出す。
「君達の両親だって今頃は雪で・・・」
「ミギュー!」「チィチィー!」
「人の話は最後まで聞くこと・・・ね?」
「ギィ・・ィィ」「ヂ・・・ヂィ」
うるさいベビ達を箱ごと手で締め付ける。

953 名前: 5/8 投稿日: 2003/10/06(月) 22:44 [ tv2KHcTs ]
苦しそうな顔のベビ達。顔が青ざめている。
しばらくすると嫌な臭いが漂い始めた。
箱の下が茶色に染まっている。
「クサッ!漏らしたな!」
やはりミルクは腐っていたようだ。ベビが飲めるシロモノではない。
そんな状態で腹を締められては漏らすほかないだろう。
「おかしいと思ったら飲むなよな!」
「ゲ・・ゲヒュゥ・・」「ヒ・ギュウ・・」
怒りでさらに力を込める。やがて3匹は泡を吹いて気絶した。

「しょうがない。洗うか。」
酔いも醒めてしまった、風呂にはいって寝ることにしよう。
汚物と化した3匹をつまんで風呂へ向かう。

「そこで待ってな。」
3匹を洗い場に放り投げて湯船に浸かる。
叩きつけられた痛みで目は覚めたようだが、さすがに騒ぐ元気はないようだ。
「ふぃ~気持ちいい~」
いい気分のモララーとは逆に、3匹はフラフラと破れた箱から抜け出した。
ミィ・・・ミ・・・ ナコ・・・ナコ・・・
母が恋しいのか、冷たい洗い場を小さく泣きながらさ迷いだす。
そんなベビ達を見ていると、急に虐待心が沸いてきた。

「どれ、シャンプーの時間だよ。」
1匹づつ捕まえて体中念入りに洗う。
大きく見開いた目の上からシャンプーを山盛りのせる。
しもやけの体に爪をたて、力を込めて洗う。
「ミギャァァァ!」「ヂギィィィィィ!」
所々赤い泡だらけの体で転げまわるベビ達。
体中が染みて焼けつくように痛い。
目はもっと痛くて、こすってもこすっても開けられない。
「じゃあ流してあげるよ。」
熱湯のシャワーを浴びせた。もはや言葉にならない。
シャワーから逃れようと凄い勢いで転げるように逃げる。
そんなベビ達を追い詰めていく熱湯シャワー。
泡が流れ落ちたころには、皮膚は真っ赤、毛は半分も抜け落ちていた。

954 名前: 6/8 投稿日: 2003/10/06(月) 22:44 [ tv2KHcTs ]
「ふぃ~温まったなあ。」
湯気を上げながらモララーが出てきた。
その後をフラフラと付いてくるベビ達。
こんな酷い目にあっても頼るべき相手だけはわかっていたようだ。
いじらしいベビ達を見ると、彼もさすがに罪悪感が沸いてくる。
「ちょっと悪いことしちゃったかな。まあお漏らしの罰ということで。」
布団をしきながら呟く。
ベビ達は潤んだ瞳で彼を見上げていた。

「じゃあおやすみ。」
新しいティッシュ箱に詰め込むと、彼も寝ることにした。
暖めて欲しいとの要望通り、コタツに入れっぱなしにしておく。
電気を消すとすぐに彼のイビキが聞こえ始めた。
疲れきったベビ達も、箱から顔を出したままの体勢で眠りに落ちた。

1時間後・・・
コタツの中はとても暖かかった。幸せそうに眠るベビ達。
2時間後・・・
ベビ達の寝息が苦しそう。ちょっと熱すぎるのだろうか。
それともコタツの中に脱ぎ捨ててある靴下の臭いのせいだろうか。
3時間後・・・
3匹とも目覚めた。熱くて死にそうだ。
体は密着して動かない。荒い息を吐きながら弱弱しく泣いている。
「ミュー・・」「マ・・マァ」
当然そんな声が厚いコタツ布団を通るはずもなく、モララーのイビキだけが
聞こえていた。

4時間・・5時間・・・ベビ達は泣き続けた。
3匹で抜け出そうと暴れてもみた。
しかし箱はゴトゴトと揺れるだけ。火傷の皮膚がすれて痛いだけだ。
苦しさに涙がこぼれるのに、誰も助けてくれない。
口の中はカラカラ、涙の分だけ水分が失われていく。

朝が近づく頃には体力も失せ、ベビギコ2匹は事切れていた。
ベビしぃだけは箱の下の方に詰められていたため、
兄弟の流す涙を必死に舐めて、耐え続けた。
そして2匹の水分の分だけ箱が緩くなると、
残る力を振り絞り、箱から体を引きずり出した。

955 名前: 7/8 投稿日: 2003/10/06(月) 22:45 [ tv2KHcTs ]
「マンマァ・・ナッコォ・・・」
コタツの中からベビしぃが這い出てきた。
ヨロヨロと歩くと、出しっぱなしのミルク皿を見つけた。
ほんのわずかな腐ったミルクをピチャピチャと舐める。
あっというまに皿は空になったがまだ舐め続ける。
やがてミルクを諦めるとモララーの布団へと歩いていく。

真冬の明け方だ。部屋の中も凍えそうに寒い。
でもコタツには怖くて戻れない。
暖かい懐にダッコして欲しい。
ママやパパみたいに優しくして欲しい。

ふわりとしたモララーの毛皮はとても暖かそうだ。
その懐はちょうどベビしぃが入れそうな位に空いていた。
「ナッコォ・・・」
イビキをかくモララーの懐へ潜り込む。
優しい暖かさだった。
これで助かる。
モララーは厳しいけどゴハンもくれる。暖めてくれる。
起きたらきっと暖かくておいしいミルクをもらって
ママとパパのところに帰るんだ。
いつのまにかベビしぃの頬を涙が伝う。
彼女は安らかに目を閉じた。


「ウウーン」
急に体が押しつぶされた。
体中の骨が砕けていく。
重い。泣こうとしても声の代わりに血が出てきた。

「ムニャムニャ・・・なんか爽快感・・・グゥグゥ・・・」
寝返りをうったモララーの胸の下でベビしぃがつぶれていく。
頭蓋骨がミリミリと音をたてる。
ママ・・・パパ・・・たすけて・・・・
やがて内臓がつぶれると、ベビしぃの意識も闇へ沈んでいった。

956 名前: 8/8 投稿日: 2003/10/06(月) 22:46 [ tv2KHcTs ]
「ふわぁあ。よく寝た。」
窓の外は一面の雪。今は晴れているがとても寒そうだ。
寝ぼけまなこで洗面台へと歩く。
顔を洗おうと鏡を見ると・・・
「うわぁぁぁ!なんだこりゃぁあ!!」
彼の胸には、ぺったんこになったベビしぃがへばり付いていた。
目玉は飛び出て血走っている。
時間をかけて丁寧に伸ばされたようだ。
「まさかあいつら!」
ベビを放り投げると急いでコタツをひっくり返す。
「う・・うわぁ・・・」
半分ミイラと化したベビギコ2匹が香ばしい匂いを放っていた。


膝下までつもった雪をかき分け、モララーが歩く。
「やれやれ・・チビの言うことなんか聞くもんじゃないなあ」
ぶつくさ言いながら細道を歩いていく。
左手には2匹の干物と平たい肉塊がぶら下がっている。
やがて雪に埋もれかけたダンボールが見えた。
そっとふたを開ける。

「意外だね・・生きてたの?」
「ベ・・・ビチャ・・・」
すでに凍り付いているちびギコの横に小刻みに震えるちびしぃがいた。
尻尾は噛み千切られている。
眠れば死ぬような寒さの中、自分で噛み続けていたのだろう。
「ベビチャ・・・ハ・・・」
「ごめん!こんなんなっちゃった!」
「・・・・・・」
最後の気力も途絶えたのか、ちびしぃも事切れた。
その死体の上に3匹を乗せると蓋を閉める。
どうあがいてもベビ達が死ぬことに変わりはなかった。
家族が離れて死んだだけだった。

「春になれば暖かい焼却炉にいけると思うよ」
やがて雪に埋もれていくだろう5匹を尻目に
彼は呟く。

5匹にとって春はあまりにも遠かった。

完