207 名前: 紅い夜【1/5】 投稿日: 2003/12/25(木) 11:29 [ Zw6nKFEU ] ちらり、ほらりと雪が舞う 商店街の煉瓦に白い絨毯が敷かれ始める ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る 彼は思う そのメロディを聞く度に クリスマスなんて、日本人の俺には関係ない 赫く彩られた街とは対称的に、海は蒼く濁っていた 命を欲し、死を欲し、数多の触手が空を切る 彼の目に絨毯に刻まれた跡が留まる 目で先を追うと崖の端に白い封と長靴が残っていた 警察に寄ると、失恋を悲観しての飛び込みだと云う 彼は彼女を拝む事は無かった 結局彼は聖夜を一人で過ごした。 208 名前: 紅い夜【2/5】 投稿日: 2003/12/25(木) 11:29 [ Zw6nKFEU ] 彼方此方に芽生える息吹 ぬかるんだ地面には緑の絨毯が敷かれ始める 彼の目は目の前の、若い女性に向けられていた 書類を片していた彼女と不意に目が合う 彼女はにこりと微笑んだ 彼は彼女に心奪われていた 彼は彼女に交際を申し込んだ 彼女は快く受け入れた 209 名前: 紅い夜【3/5】 投稿日: 2003/12/25(木) 11:31 [ Zw6nKFEU ] ぎらぎらと輝く太陽 焼けた砂浜に海の「死」が見える 彼の目は目の前の、若い女性に向けられていた サングラス越しにも彼女は輝いて見えた 熱にやられたカーナビ 密室なのが悪かった 辺りは既に暗かった 彼は車の中で過ごす事を提案する 乙女の頬は赤く染まった 外の闇とは対称的に、密室の中は熱く、赫く 死の中にも、生は産まれる その晩、彼等は初めて二人で夜を過ごした 210 名前: 紅い夜【4/5】 投稿日: 2003/12/25(木) 11:32 [ Zw6nKFEU ] 死の欠片はオーケストラを奏でる かさりかさりと身を摺り合わせ 最後の大喧嘩の晩に彼女は黙って出ていった 彼が引き止める間もなく 翌日のオフィス 口を利くことも無く 書類を片していた彼女と不意に目が合う 彼は目を背けた。彼女の頬に一筋の涙が尾を引いた。 彼女は逃げるように立ち去った 彼女の涙とは対称的に、彼の恋は冷めきっていた しかし彼女は今だ彼を忘れてはいなかった 211 名前: 紅い夜【5/5】 投稿日: 2003/12/25(木) 11:32 [ Zw6nKFEU ] ちらり、ほらりと雪が舞う 商店街の煉瓦に白い絨毯が敷かれ始める ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る 彼は会う そのメロディを聞きながら 彼女と最後のクリスマス 最初で最後のクリスマス 商店街の喧騒とは対称的に、海は蒼く、そして深く まるで産まれる命をまた飲み込むかのように 彼女の目は彼が刃物を持っている事に気が付いた 彼女は逃げようと試みた 対する彼はそれを握りしめ、先を追う 崖の端に立たされた彼女 純白の雪景色は朱に染まる 彼は 彼は商店街を歩いていた 血濡れの包丁を携えて 道行く人の目線などどうでもいい 雪と血で冷えきった身体も気にしない 踏み切りの手前 耳を劈く汽笛の音 海 貝殻 落ち葉 血 彼が最後に咲かせたそれは、最後の死の美としても恥じない様だった Merry Christmas!