紅い夜

Last-modified: 2015-06-23 (火) 00:26:48
207 名前: 紅い夜【1/5】 投稿日: 2003/12/25(木) 11:29 [ Zw6nKFEU ]

ちらり、ほらりと雪が舞う
商店街の煉瓦に白い絨毯が敷かれ始める

ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る

彼は思う そのメロディを聞く度に
クリスマスなんて、日本人の俺には関係ない

赫く彩られた街とは対称的に、海は蒼く濁っていた
命を欲し、死を欲し、数多の触手が空を切る

彼の目に絨毯に刻まれた跡が留まる
目で先を追うと崖の端に白い封と長靴が残っていた

警察に寄ると、失恋を悲観しての飛び込みだと云う
彼は彼女を拝む事は無かった

結局彼は聖夜を一人で過ごした。

208 名前: 紅い夜【2/5】 投稿日: 2003/12/25(木) 11:29 [ Zw6nKFEU ]

彼方此方に芽生える息吹
ぬかるんだ地面には緑の絨毯が敷かれ始める

彼の目は目の前の、若い女性に向けられていた
書類を片していた彼女と不意に目が合う

彼女はにこりと微笑んだ
彼は彼女に心奪われていた

彼は彼女に交際を申し込んだ
彼女は快く受け入れた

209 名前: 紅い夜【3/5】 投稿日: 2003/12/25(木) 11:31 [ Zw6nKFEU ]

ぎらぎらと輝く太陽
焼けた砂浜に海の「死」が見える

彼の目は目の前の、若い女性に向けられていた
サングラス越しにも彼女は輝いて見えた

熱にやられたカーナビ
密室なのが悪かった
辺りは既に暗かった 彼は車の中で過ごす事を提案する
乙女の頬は赤く染まった

外の闇とは対称的に、密室の中は熱く、赫く
死の中にも、生は産まれる

その晩、彼等は初めて二人で夜を過ごした

210 名前: 紅い夜【4/5】 投稿日: 2003/12/25(木) 11:32 [ Zw6nKFEU ]

死の欠片はオーケストラを奏でる
かさりかさりと身を摺り合わせ

最後の大喧嘩の晩に彼女は黙って出ていった
彼が引き止める間もなく

翌日のオフィス 口を利くことも無く
書類を片していた彼女と不意に目が合う

彼は目を背けた。彼女の頬に一筋の涙が尾を引いた。
彼女は逃げるように立ち去った

彼女の涙とは対称的に、彼の恋は冷めきっていた

しかし彼女は今だ彼を忘れてはいなかった

211 名前: 紅い夜【5/5】 投稿日: 2003/12/25(木) 11:32 [ Zw6nKFEU ]

ちらり、ほらりと雪が舞う
商店街の煉瓦に白い絨毯が敷かれ始める

ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る

彼は会う そのメロディを聞きながら
彼女と最後のクリスマス 最初で最後のクリスマス

商店街の喧騒とは対称的に、海は蒼く、そして深く
まるで産まれる命をまた飲み込むかのように

彼女の目は彼が刃物を持っている事に気が付いた
彼女は逃げようと試みた
対する彼はそれを握りしめ、先を追う
崖の端に立たされた彼女 純白の雪景色は朱に染まる

彼は

彼は商店街を歩いていた
血濡れの包丁を携えて

道行く人の目線などどうでもいい
雪と血で冷えきった身体も気にしない

踏み切りの手前 耳を劈く汽笛の音
海 貝殻 落ち葉 血
彼が最後に咲かせたそれは、最後の死の美としても恥じない様だった

Merry Christmas!