51 名前: 紅い月 1/8 投稿日: 2003/11/20(木) 23:04 [ mXavFtVk ] ぴたり。 ぴたり。 手首から流れる紅いモノ 傷口は脈打つようにそれを吹き出す 壁に飛び散り、床に飛び散り、彼はそれを目で追った 不意にあるモノに目が停まる 埃を被った小さな箱 銀のリングがその中で彼を見つめていた そっと手に取る ぬるり、と滑り、それは音を立てて床に落ちた なぜだったかな… 何時買ったのかも、誰の為に買ったのかも… しぃ 僕は未だに君を忘れないでいる ギコ 君は僕から奪ってしまった 僕の全てを。 52 名前: 紅い月 2/8 投稿日: 2003/11/20(木) 23:04 [ mXavFtVk ] あの男…嗚呼、思い出しただけでも厭になる 私が心惹かれたあのヒト、彼はもう帰って来ない 誰のせい?私のせい?いえ違う、私は悪くない! 全てあの男のせいよ… あの男が私から奪ったモノ ええ、あのヒトよ!あの男さえいなければ… 今から行って殺してやろうかしら? 絞め殺して?刺し殺して?撃ち殺して?焼き殺して? ああ、厭になる この血。 53 名前: 紅い月 3/8 投稿日: 2003/11/20(木) 23:04 [ mXavFtVk ] 僕は何処に居るのだろう 古びたアパートは満月に照らされ、蒼く深く 手にはナイフ、滴る血 包帯を巻いても巻いても止まらない いつもなら止まるのに あの時もこうだった 彼女が部屋に入ってきて、ヒステリックに喚いて、僕の腹に包丁を突き立てた 何故だか分からなかったけど、ぼくはかのじょがかわいそうだとおもった 見覚えのある風景 見覚えのある匂い 僕の送ってあげた人形、まだあるかな 54 名前: 紅い月 4/8 投稿日: 2003/11/20(木) 23:05 [ mXavFtVk ] あ… 『もしもし?僕だよ。今ドアの前に居る』 ああ… あああああ… あの男。あのヒトを奪っていったあの男。 殺しに来たんだ。私を。 あたしを怨んでいるんだ あたしを怨んでいるんだ!! 逃げなきゃ、早く逃げなきゃ! ま、窓が開かない!どうして!? 鉄格子が、どうしてこんなところに! 55 名前: 紅い月 5/8 投稿日: 2003/11/20(木) 23:05 [ mXavFtVk ] 彼が彼女と情緒に耽っている時に、僕がタイミング悪くノックしてしまった 彼女は悲鳴を上げ、病院中の人間に、彼女と彼が姦通している事がバレてしまった ギコは解任され、しぃは脱走して僕を刺した。 僕は彼女と恋人同士だった。毎日見舞いに行っていた。 それなのに…それなのに! 彼は僕から彼女を奪った。 僕は彼女から彼を奪った。 そして彼女は、僕から愛を奪った。 僕は悪くない。 すべてはあのやぶ医者がわるいんだ。 ぼくをすてたあの女がわるいんだ。 ゆるせない。 56 名前: 紅い月 6/8 投稿日: 2003/11/20(木) 23:05 [ mXavFtVk ] だ、誰か、助けて! あの男が、あの男が! ほら、もうこんなに血が出てる! どうして誰も来てくれないの!? 私が何か悪い事でもしたの!? 私は被害者じゃないか!あの男の被害者じゃないか! 痛い、熱い、苦しい! 誰か助けて! 57 名前: 紅い月 7/8 投稿日: 2003/11/20(木) 23:06 [ mXavFtVk ] 「モララーさん、彼女はアレが来ると興奮するんですよ。気を付けてくださいね」 僕は深くうなずくと、その善良な看守から鍵を借りた。 何の疑いもなく、精神病棟の鍵を預けてしまった訳だ。 彼女の部屋は名札を見るまでも無かった。 僕は彼女を見て唖然とした。 頬はこけ、目の下に隈ができている。 枯れ枝のような腕はぶるぶると震え、鉄格子にしがみついている。 スカートの間からは、鮮血が滲み出ていた。 彼女はそれが僕にやられた傷だと、必死に僕に助けを求める。 僕は彼女を抱き締め、唇を塞いだ。 途端に僕は彼女を殺すのが惜しくなった。 でも、彼女が騒いだので、僕はナイフで彼女の腹を突き刺した。 口の中に生臭い血が溢れた。 僕はそれを一滴残らず飲んだけれど、きもちわるくてはいた。 58 名前: 紅い月 8/8 投稿日: 2003/11/20(木) 23:06 [ mXavFtVk ] 「これが僕の言える事の全てです」 若い医者は眉間に皺を寄せて、看護婦に耳打ちした。 「重度の精神異常者だな。弁護士に伝えてくれ」 彼はしぃの部屋にあった古びた人形を一瞥すると、それをゴミ箱に押し込めた。 「ふ、誰も損しない事件というのも珍しいものだ」 若い医者の名札にはこう書かれていた 「ギコ・ハニャーン」 モララーは精神病を患っているとの判決を下され、無罪が言い渡された。 彼は今、静岡郊外の精神病院に収容されている。