999 名前: 線1/2 投稿日: 2004/08/16(月) 01:41 [ Uhi0fbbg ] 僕と彼女の間には線が存在していた。 僕には見えないし、彼女にも見えないらしいけど、彼女は線を感じる事が出来たんだって。 「線なんて関係ないよ。僕の所においでよ」 だけど、線が無いなんて僕の思い込みだったんだ。 僕らの線の内側に入ったらしい彼女は、とても無残な有り様にされたのである。 彼女の形の良い可愛いらしい耳が千切られ 綺麗だった手の指は不恰好でアンバランスな本数になってしまって スラリとした素敵な足は片方義足になってしまった。 「ゴメンネ、ゴメンネ。僕が悪かったんだ……」 「気にしないでモララー、私が迂闊にアナタ達の領域に入ったのが悪かったのよ」 彼女は一つも僕を責めなかったけど 彼女を送るために逝った、彼女達の領域と言われるスラムの雰囲気が今も僕を責める。 1000 名前: 線2/2 投稿日: 2004/08/16(月) 01:42 [ Uhi0fbbg ] 久々に二人きりになれた時、僕は決心して彼女に考えを打ち明ける。 「ねぇ、しぃ、この世界は間違ってるよ。一緒に何処かへ行こう。世界は広いんだ。 きっと、僕らが幸せに暮らせる場所もあるよ」 彼女の手を握って、僕は見えない線の上で説得を試みた。 「無理よモララー、私とアナタが一緒に住めるような世界は何処にも無いわ。 好きでいてくれるのは嬉しいけど、私はこんな障害者になってしまったし 私の事は忘れて、もっと、アナタに相応しい人を探すべきだわ」 彼女が力なく笑って、僕から離れようとする。 「何言ってるんだ。しぃがそんな姿になったのも僕が君を呼んだせいだろう。 その事で君が僕を嫌いだと、顔も見たくないと突き放すなら分かるけど 君が引け目を感じる必要なんて無いんだ。もし、しぃが僕をまだ好きならお願いだから一緒に逝こう」 「まだ好きでなく、今も変わらずアナタが好きよ、モララー」 彼女は、指が足りないせいで弱い握力だったけど、それでも懸命に僕の手を握り返し 外へと歩き出してくれた。 だけど、現実は容赦なく、見えない線が今日も延々と僕らの前に立ちはだかる。 そして、いつしか彼女を守ろうとする僕にも同朋のはずの彼らの罵声や暴力が襲ってきた。 「ああ、しぃ…君が遠いよ…コレが僕らの間の境界線だったのかな…」 すでに肉の塊と化した彼女を胸に抱きながら、僕は最期の意識を失おうとしている。 『モララー、アナタの見ていた線の無い世界が、やっと見えた気がするわ』 彼女の最期の言葉を思い出しながら、僕は逆に限りなく線の存在を感じながら全てを手放した。