蜂蜜の代償 第1部

Last-modified: 2015-06-26 (金) 02:35:22
633 名前:若葉 投稿日:2006/05/01(月) 21:32:10 [ I5RRU.2M ]
タイトル 『蜂蜜の代償 第1部 加虐者編』
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「オナガイ、ヒドイコトシナイデ。アタシタチ、ワルクナイノ」
檻の中で、2匹のしぃ族が身を寄せ合って震えている。

「アタシタチ、カワイイデショ。ハチミツクライ、ソッチカラモッテクルベキナノヨ」
反抗的な目で俺を睨みながら、精一杯に虚勢を張っているところが憎たらしい。

「俺が苦労して採取した蜂蜜を盗み食いしたくせに
勝手なことを言うんじゃない。覚悟は出来てるんだろうな、おい!」

声を荒げて檻に手をかけると、2匹は火がついたように激しく騒ぎ立て始めた。
「イヤアァァ! ギャクサツスルノハ、シィヌダケニシテ!!」
「ナンテコトイウノヨ。ハチミツヲヌスモウッテイッタノハ、シィネノホウジャナイ!」

どうでもいいことだが、こいつらの名前はシイヌとシイネというらしい。
「アタシハ、ワルクナイモン。シイヌノホウガ、イッパイタベタンダカラ、アキラメナサイヨ」
「ソレガ、シンユウニムカッテイウコトバ?! アンタナンカ、アタシノカワリニ シニナサイ!!」
「やかましい!」
一喝すると二匹は怯えた目をして口を閉じた。

「だが、そうだな……
蜜の収穫や蜂の管理は、ニヤニヤする暇もないほど忙しい。
俺は疲れてるんだ。だから虐殺するのは1匹だけで勘弁してやる」

ポイッと、2個のホッチキスを檻の中に放り込んだ。
2匹は不思議そうな顔をしながらも、それぞれ1個ずつ拾っている。

「どちらにするかは、お前たちに決めさせてやるよ」
「コレデ、ドウヤッテキメロッテイウノ」
「それでお互いの耳を飾りつけるんだ。しぃ用のピアスってやつだな」
「コンナノ、ピアスジャナイヨォ」
「泣き言は聞かない。早く始めないと2匹とも殺すぜ。いいのか?」

「アタシハイヤ。アタシダケハタスケテ」
パチン、というよりはジャグッという妙な音を立てて、
ホッチキス針がシィヌと呼ばれていたほうの耳を貫通した。

「シィィィ!!!」
シィヌが甲高い悲鳴を上げる。
が、すぐに血走った目でシイネに襲いかかり馬乗りになると
耳をつかみあげ、連続してホッチキスの針を打ち込んだ。

「イタイイタイイタイイタイィィィ!! ヤベデェ、イダイヨォ!!」
泣き喚きながらシイネがバタバタと手足を振り回しているが、
シイヌが体重をかけてしっかり押さえ込んでいるせいで逃げられない。

ジャグッジャグッと、針が貫通するたびに
濁った絶叫をあげて身悶えている姿が笑えた。

「自称カワイイが台無しだな。
なんだその涙と鼻水でぐしゃぐちゃのツラは。ぶっさいくだな、このドブス!」
「アタシハブスジャナ… アギャアァァァイタイィ!!」

からかうと、涙目で何か言おうとしていたが、
また針を貫通されられて言葉は悲鳴に掻き消された。
ひとつひとつの針孔は小さいから、たいして出血していないが
無数に開けられれば痛みは相当なものだろう。

「ヤッタワ!! アタシノカチネ」
カチカチと、針を使い果たしたホッチキスを鳴らしながら
針と血で銀と赤に染めあげた耳を指差す表情は、勝ち誇っていた。

「次は針を抜け。俺の持ち物だから返してもらうぞ」
「ワカッタワ、ハリヲヌイタラ、オウチニカエレルノネ」

そんなことは言ってないが。あえて俺は黙っておいた。

「ハニャーン。マターリノカミサマハ、アタシノミカタネ」
勝手な解釈をしたシイヌが、耳朶と針の隙間にホッチキス本体の
後部にある針抜き部分を無理に差し込もうとして

「イッタァァーイ!! トレナイヨゥ、イタイヨォゥ」
失敗して耳肉を抉ってしまい、悲鳴をあげた。

肉にくい込むように綴じられているホッチキス針は抜くほうが痛い。
自分で自分の耳肉を傷つけながら懸命な努力を続けているが
針の位置を目で確認できないこともあり、難しいようだ。

そんなシイヌを、シイネは狂気を孕んだ視線で凝視していた。

「アタシハシナナイ、シンデタマルモンカ。ナニヨ、コレクライ」
地の底を這うような低い声音で呟くと同時に、針だらけの耳を引っ張り始める。
「シィィィィィアァァァ!!」
ホッチキスの針で開けられた無数の孔が、ミシン目のような役割をして
ギヂギチと鈍い音を立てながら裂けていき、耳が頭部から引き千切られた。

「カツノハ、アタシヨ。アタシノ、オミミニツイテタ、ハリヲカエスワ」
ハァハァと肩で息を息をつきながら、鬼気迫る形相でシイネが
自らの手で千切り取った耳を俺に差し出してきた。

634 名前:若葉 投稿日:2006/05/01(月) 21:34:05 [ I5RRU.2M ]
意外と根性のある奴だ。
「いいだろう。お前の勝ちだと認めてやる」

俺は檻から茫然としているシイヌをつかみ出して
素早く背後に回した棒で十字の形に固定した。

「シィィィ、ヤメテェ、タスケテェ」
固定した直後に、茫然自失から立ち直ったシィヌが情けない命乞いをするが
無言で抱き上げて台所へと向かった。
台所では、火にかけておいた鍋の油から湯気が立ち昇っている。

シイヌの身体を傾けて、沸き立つ油の中へと片腕を浸した。
鍋底に当った棒の先がカツンッと微かな音を立てた直後に
じゅわあぁっと、浸した腕の周囲から大小の泡が躍る。

「ヒィギアァァァ!!」
しぃ族とは思えない絶叫がシイヌの咽喉から迸った。いい音色だ。
棒に括りつけた腕は動かせないから、油跳ねの心配もない。
頭を左右に振り乱し、足をばたつかせて泣く顔を観察すると
俺の脊髄を駆け上がるようなゾクゾク感が得られた。

「チッ。もがく動きが緩慢になってきたな……片腕くらいで死ぬなよ」
油から引き上げた腕肉は、ひとまわり小さくなったように感じられた。
よく見ると火傷で捲れ上がった肉の部分からは
油とは微妙に色合いの違う脂が垂れ落ちている。

どうやら熱で皮脂が溶け出したようだ。だから肉が縮んでるんだな。
表面は旨そうに揚がっているが、中身はどうだろうか。

「余計な皮を剥いて確認しよう」
咽喉奥から浅く息を洩らしながら、ぐったりしているシイヌを床に寝かせると
俺は火ぶくれしている皮膚を、適当に金ブラシで擦った。
毛皮が捲れ上がって金ブラシにまとわりついてくる、この重みがいい感触だ。

「ジイィィィィィィ!! ウビャビャビャビャガアァ!!」
力尽きたかと思っていたシイヌが全身を痙攣させながら、また暴れだした。

「何だ、元気じゃないか。さっきのは仮病か?」
毛皮は煮えて変色した肉ごと、ブラシで強引に削り取って捨てた。
剥き身になった赤い肉の上で金ブラシがリズミカルにダンスする。

「そうだ。せっかくだから喰ってみるか?」
筋肉をグシャグシャにブラシで掻きまわした傷口に塩コショウを振りかけてやった。

「ヒギャアァァシィィィィ」
沁みたのか悶え苦しんでいるが、心なしか声が小さくなった気がする。

再び油の中に腕を浸すと、しばらくは叫び続けていたシイヌだったが
そのうち腕の痛覚が麻痺してしまったのか、もう叫ばなくなった。
麻痺というよりは神経が細胞ごと壊死したというべきかもしれない。

「オテテ……アタシノオテテ」
叫ばなくなったが鍋の中を、うつろな目で見つめている。
自分の腕が揚げられている光景は恐ろしいものだと思うんだが
目を離すこともできないでいるというのは、どんな気持ちなんだろうか。

「どれ。そろそろ揚がったな」
揚げたての腕肉を喰いちぎると、なんとも形容しがたい臭気と苦味が広がった。

「まずっ! やっぱ、しぃ肉なんか喰うもんじゃねえな」
鶏肉も絞めた直後は硬くて喰えたもんじゃないが、しぃ肉の不味さには及ぶまい。
ペッと床に吐きだした肉塊を踏みにじると、それを見てシイヌが泣く。

「ヒドイ、アタシノオテテナノニ。アタシノオテテヲカエシテ」
ただでさえ口の中に不味さが残っていて忌々しいのに
べそべそ泣く陰気な声が鬱陶しい。どうしてくれようか。

「どんなに糞まずくても食いものは粗末にしちゃいけないってか」
踏みにじったばかりの肉を拾い上げ、そのままシイヌの口の中に押し込んだ。
埃や靴裏の泥ゴミがついてたが、喰うのは俺じゃないから気にしない。

「おら、喰え。吐き出したらタダじゃおかねえぞ」
「ウェッグフッ、グエッ」
しゃくりあげ、懸命に吐き気を我慢しながら自分の肉を咀嚼している姿は
俺の暗い嗜虐心を満足させてくれる。少しは気が晴れた。

「お前だけ食事するのは不公平だな」
シイヌを抱いて檻の前へと戻ると、焼け爛れた腕を檻の隙間から突き入れる。

「お前も腹が減ってるだろう。飯だぞ」
ヒイッと息をのむ気配が伝わってきたが、空腹と俺への恐怖からか
おそるおそるシイネがシイヌの腕肉に齧りつく。

「マズゥイ、ケホッケホッ。クサイ。カタイ、コンナノタベラレナイ」
すぐ口を離して咳き込みながら嫌そうに文句を言った。
俺がやったのと同じように、ペッと床に喰いちぎった肉片を吐き出している。

635 名前:若葉 投稿日:2006/05/01(月) 21:35:07 [ I5RRU.2M ]
「ふむ。じゃあ、もう片方の腕を別の方法で調理してみるか?」
無事なほうの腕を撫でるとシイヌが悲鳴をあげた。

「シイィィ!! オナガイ、オイシイッテイッテ! モウスコシダケタベテ」
懸命に、かつての友達に自分を食べてくれと願う姿は、ひどく滑稽でシュールだ。
ニヤニヤが止まらない。

「モウイヤ、コンナノイヤダヨォ。アタシノオテテ、オイシイッテイッテヨ」
しかしシイネは黙ったまま顔を背けている。
友達の哀願よりマズイものを口にしたくないという気持ちのほうが強いらしい。

「アタシノオテテ、ナクナッタラツギハ、アンタノバンカモシレナイノヨ。ワカッテルノ!!」
「シィィ!? ソンナノイヤ。オ、オイシイワ。トテモオイシイ」
自分が吐き捨てた肉を拾って、口の中に放り込むと鼻をつまんで飲み込んでいる。

「アァ、アタシノ、オテテ」
シイヌはそれを、安堵とも悲しみとも判別つけがたい微妙な表情で見ていた。

「食事の時間は終わりだ。思ったより疲れたから、虐殺は明日に変更するぞ」
シイヌを拘束していた棒から解き放ち檻の中へと投げ入れると
俺はそのまま寝室へと向かった。



いい気持ちで眠っていたのに、夜中に物音で目が覚めた。
耳を澄ませると、どうやら檻の方向だ。
あいつら喧嘩でもしてるのか?

様子を見にいくべきだろうか。
いや、やめた。眠いし面倒くさい。布団から出たくない。

シィィィィッ というくぐもった、かすれた泣き声が聞こえた気もしたが
俺は無視して目を閉じた。

ー終ー