食事風景

Last-modified: 2015-06-23 (火) 00:23:26
185 名前: (4JopRUKA) 投稿日: 2003/12/11(木) 19:39 [ G40NytLw ]
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 「はみ出した腸を元のように詰め直すのは、実に難儀だとは思わないかい?」

そんなことを言いながら、彼は泣きわめくちびギコの腹を綺麗に縦に裂いた。
それはそれは健康的なピンク色の腸がにゅるりと飛び出す。
彼はそれをじっくり眺め、それから腹からはみ出した部分をナイフで切り取った。
痛みのあまり声を失い、けれどそれでもまだ生きているちびギコ。
彼はそれに空恐ろしいほど優しい、慈愛に満ちた微笑みを向ける。
そして彼の手には、いつの間にかナイフではなくソーイング・セットが握られていた。
女の子が持っているような、可愛らしい花模様の付いたものだ。
中から、これまた可愛らしいパステルイエローの糸を通した針を取り出す。
彼が傷口に手を突っ込むと、ちびギコは小さく呻いた。
気にせず彼は、はみ出た部分を切り取ったせいでできた上下の切り口を探る。
そして器用な手つきでそこを縫い合わせた。
両手に付いた、これから排泄物になる予定の物体と血糊をタオルで拭い、
ちびギコの腹の傷口を、これはスカイブルーの刺繍糸で閉じる。
……まあ、血糊のせいで色なんてわからなくなっていたけれど。

 「僕は君のような被虐生物が大好きなんだ。それはもう、愛してると言ってもいいほどに」

切り取った腸を手際よくペットボトルの水で洗い清めながら彼は言う。

 「 だって、君たちはこんなにも脆いのに、
  はらわたをちょっと引っこ抜いて適当に縫い合わせたくらいじゃ死なないんだよ。
  それって実は凄いことだと僕は思うんだ」

虚ろな瞳で彼のことを見ていたちびギコの耳を軽く引っぱり、ちぎり取る。
背中にしょった大きなリュックからカセットコンロと小鍋を取り出し、彼はまた微笑んだ。

 「それに君たちはとても―――」

186 名前: (4JopRUKA) 投稿日: 2003/12/11(木) 19:39 [ G40NytLw ]
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 「―――とても、美味しい」

小鍋にペットボトルの残りの水と、コンソメらしい塊を放り込み、コンロに火をつけて。
彼はまた、無造作にちびギコの耳をもいだ。

ちびギコは、静かに息をしながら、生きている。
生きて、顔をわずかに苦痛で歪ませ、けれどその瞳に既には生気が無い。

 「今はまだ、こうして火を通さないと食べられないんだ」

むせ返るような血の臭いの中、食欲をそそる香りが漂い出す。
すっかり白くゆで上がった腸を鍋から出し、
彼は代わりに先ほどむしった耳を放り込んだ。

 「でもきっといつか、僕は生でも君たちを美味しく食べられるようになると思う」

そうなったら僕はさっきみたいに引っぱり出した腸を、そのまま食べてみたいなぁ、
きっと、ちゅるちゅるっととても滑らかに僕の口の中に入ってくると思うんだ。
何かとんでもないことを言いながら、彼は湯気を立てる腸をナイフで一口大に切り、
美味しそうに口に含んだ。

ちびギコは、ただただぼんやりと、つい先ほどまで自分の腹の中にあったものが
彼に美味しそうに咀嚼されていく様を見つめていた。

コンソメの香りが、緩やかに部屋の中に流れている。


 「君も食べるかい?」

彼がつい、と腸の乗った皿を差し出す。

私は、遠慮します、とだけ言って、ちびギコに倣って彼の食事風景を見続けた。