776 名前: diary 投稿日: 2003/08/26(火) 19:47 [ 5lMUf6ho ] ~食卓~(短編) 1.今日は日曜日。日ごろ仕事に、金にならないサービス残業に追われている私を 癒してくれる素晴らしき日。明日からまた戦いが始まるが仕方がない 『今日は久々に料理でも作ってみるかな?』 私は元々料理が好きで、以前は度々作っていた。近頃は忙しすぎて料理を 作る暇などなくてコンビニ飯で済ましていた。今日は何か無性に作りたくなったのだ。 私は近くの商店街に向かった。この商店街は昔と変わらない景観を維持している。 発達した都会の中心地とは正反対。そのコントラストが新鮮に感じる若者も 多く、若者も多くきている。 『何つくろうかな?』私が考えながら歩いていると、肉屋のおばちゃんが 『買ってきなさいよ!』と元気いっぱいに私に声をかける。 『それじゃあ、下さいな。』 『はい、どうぞ。毎度ありがとうございました!』 この駆け引きにどこか私は癒された。 それから私は他の買い物を済まして帰ることにした。 『さあて、肉じゃがでも作ろうかな。』 2.私は帰路の途中、べびしぃを見つけた。 どうやら捨て子のようだ。可愛そうだが私には飼えない。 私が無視して通り過ぎようとした時、偶然目が合ってしまった。 ベビしぃは三匹いる。薄汚れた段ボール箱に姉妹はけなげに生きていた。 でも、一匹はもう死にそうだ。明日になったら烏どもの餌になっているだろう。 姉と思われるべびしぃは『タチュケテ・・・オナガイ』と私に哀願していた。 (もう駄目だ、私はこのまま通り過ぎることなんてできない!) 私は姉のべびに負けてしまって家に連れて行くことにした。 『一日だけだぞ。』 続 777 名前: diary 投稿日: 2003/08/26(火) 19:48 [ 5lMUf6ho ] 3.私は家に着いた。自分で言うのもなんだが実に質素な家だ。、女に無縁の家だ。 『おまえらはここで大人しくしていろよ。ご飯作ってやるからな』 『マンマ!?』 ベビたちは嬉しそうな顔をしている。何も食べていなかったのだろう。 私はすぐに肉じゃがに味噌汁、焼きしゃけを調理することにした。 料理をしている時、ジーンズの裾が引っ張られているのを感じた。 ベビしぃだ。 『マンママダァ?』と無邪気に尋ねてくる。 『もうちょっと待ってくれよ』 それから三十分後、飯が出来た。 『おまえら、飯ができましたよ!』 『マンマ、マンマ♪』ベビ達は飯のところに群がる。 もはや食べっぷりときたら獣そのものだ(そりゃ獣だけど) 私はその微笑ましい姿を見守っていた。 だが次の瞬間とんでもない事が起きた。 4.ベビたちは餌の取り合いを始めた。動物だから仕方ない・・・ 違うのだ。そういう問題ではない。恐ろしいことに弱ったベビを元気なベビ二匹が襲っているのだ。 『カワイイベビチャンノエサヲトラナイデヨゥ!』 『ソウヨソウヨ!アンタモウスグシヌンデチュヨ(ワラ』 もはや餌のとりあいではない。虐待だ。 まだ同種族同士での食物をめぐる争いなら分かる。 もはや食物関係なしにこれは虐めだ。しかも姉妹同士なのに!! 私は恐怖すら感じた。 『ああ、コレが実体か。分かったよ、俺も。』 それから虐められたベビを引き離して別に餌を与えた。 私は風呂に入り、歯を磨いてからその日は寝た。 『ふぅー、今日は疲れた。明日は早いから早く寝よっと』 続 778 名前: diary 投稿日: 2003/08/26(火) 19:48 [ 5lMUf6ho ] 5.次の日の朝は私は寝坊してしまった。眠りが浅い万年不眠症の私が目覚ましの音を聞き逃すわけはないのに 仕方がなく私はベビたちの餌を用意し会社に向かう。 今日は仕事がスムーズに片付いたので早めに帰宅することにした。 私は何もない家に帰るのは普段は正直おっくうに感じているのだが、今日は何故かうきうきしている。 『ただいまぁ~・・・・あ』 私は部屋の中を見てしばらく愕然としていた。 別に部屋が荒らされたわけではない。 例のベビが部屋の隅でうずくまっていたのだ。新たに生傷をつくって どうやら餌を残りの二匹にまた餌をとられて、虐められたのだろう。 もう、呆れちゃったよ俺。 それなのに二匹は私にこう言う。 『ナッコナッコ♪』 『マンマァ、マンマァ』 私の中で何かが切れる音がした 『ああ、今作るよ』 6.私は揚げ物と、刺身を作ることにした。 ちょうどいい材料が二匹もいるしね。 『お~い、こっちおいで~』 『オナカヘッタカラウゴケマチェン。ハヤクゴハンクダチャイヨゥ。』 『おやつあげちゃうケド?』 『イキマチュヨゥ!』 (全く愚かなやつらだ。) 私は特に元気の有り余ってるのを一匹まな板にのせた。 『オヤツハ?』 『ちょっと頑張ってくれたらもっとあげるよ?ダッコもしてあげるよ』 生きいればな!! まずはパン粉をまぶす。 『ヘプシュッ!ナンデチュカコレ?』 『女の子はお化粧しないとね?モテるよ?』などというともっとつけるように急かしてきた 次に油をたっぷりと入れた鍋に入れる。 『コレハ?』間抜けな面して尋ねてくる。 『お風呂だよ?』 それから鍋に火を点火した。 20・・・30・・40・・・としだいに温度は上がってゆく。 『チョットアチュイ・・・ハヤクダシテ!』 『あと60秒数えてからね』 『チィチィ!!アチュイアチュイ!!タチュケテー!!チィイィィィィィィ!!』 それでも低温に設定してあるからじっくりと苦しめることができる。 ベビの叫び声は狭い部屋の中に響き渡る。 『モウ、ダシテ、オナガイ・・・・ナッコスルカラ』 『嫌だよ。そんな油っぽい手で触るな。』 『モウ・・・ダメ』 まずは一品目完成。 779 名前: diary 投稿日: 2003/08/26(火) 19:49 [ 5lMUf6ho ] 続7.『次は刺身だ。』 もう一匹のベビは怯えて動けない。腰が抜けたようだ。 『あ~あ、てめえ糞尿まきちらすんじゃねえ!!掃除しなきゃいけねえだろうが?ア?』 『・・・ナンデコンナコトヲスルンデチュカ?』 『それは自分に聞きなさい。』 私は材料を洗い、をまな板にのせる。 『ダッコスルカラ・・・オナガイタチュケテヨゥ!』 『それしかいえねえのかよ?馬鹿が』 『まずは皮はがないとな』 私は包丁でべびしぃに切り目を入れてから皮をはいだ 思ったよりも簡単にはぐことができる。 はぐっていうよりも桃を剥く感じに近い。 『チィィィィィィィィィィ!イタイヨウイタイヨウ!!』 『べびちゃんは元気だね~』 さてと、次は・・・・ その時であった。弱ったベビがこちらにやって来た。 どうやらお腹が減ってやってきたみたいだ。 『オナカ・・・ヘッタヨゥ』 (まっ、いっか。) 『そうかこれを食べなよ。』 私は揚げ物と刺身(活け作り)を差し出した。 8.弱ったベビはすごい勢いで揚げ物を平らげた。 そして刺身にさしかかろうとしていた。 『オサシミハジメテ・・・』 『ワタシダヨ!ベビダヨゥ!オナガイダカラタベナイデ!キョウダイデショ?』 弱ったベビは刺身を貪っている。 嗚呼、無情。 『チィィィィ!』 小腸は腹から引きづりだされてしまった。まるでソーセージのようだ。 やがてソーセージはなくなってしまった。 『ゥゥゥモウダメ・・・・』 もうこれで食事は終わりか・・・エッ? 次の瞬間恐ろしい光景が広がっていた。 脳みそ食ってるよ・・・・ 刺身の頭から汚らしく出ていた脳みそはベビの口の中にきえてゆく。 『クチャッ、クチャッ、ズズー・・・ゴクン』 彼女の食事は朝まで続いた。 次の日曜日・・・・ 『残念だけどお別れだ。』 『イママデアリガトウゴザイマチタ』 そういうとベビは少し悲しそうに去っていた。 お前なら、生きていけるさ。 生物とは実に愚かなものだと改めて思った。俺も例外ではないがな。 人間だって所詮っちょっとばかし頭が切れる『動物』。 根本はこいつらとあんまり変わらないのかもしれない。 『さて、帰るか』 糸冬