飼われるための戦い

Last-modified: 2020-07-14 (火) 22:32:10
111 名前: 準備期間 投稿日: 2003/02/06(木) 17:59 [ k4fsSzCQ ]
街によってもある程度違うのだが、ちびギコ達の立場は弱い。
それどころか「新世紀ストレス法」に代表されるように、おおっぴらに虐待・虐殺を許可されている地域もあり、ちびギコ達にとっては「生き延びる事が生きる目的」であるような、どん底の状態が多い。
しかし、この街ではちびギコと他の住民が上手く共存していた。
ちびギコ達に柵で囲まれた広場を提供し、そこのみで生活させていた。
広場から抜け出し街に行かないかわりに、配給で食料を与える。
もし、広場から抜け出していた者は…
他の地域と何ら変わりないちびギコとしての最期を遂げるしかなかった。

「フサターン、こっちデチよ!」
「待ってチビタン、ぼくそんなに早く走れないデチ…」
「かけっこはいつもチビの勝ちデチね!」
「チビタンはすごいデチー!」

この広場の中ではあたりまえのように見られる平和な光景だ。
このチビとフサは数ヶ月に他の地域からこの広場の噂を聞きつけ、命からがら逃げてきた。

「しかしこの広場は、本当に天国デチねぇ… 殺される心配もおなかが減る心配も無くてマターリできるデチ
 …殺されたマルミタンたちも連れて来たかったデチね」
ノーマルなチビがふと遠い目をして呟いた。
「本当デチねぇ、まさか本当にこんな広場があるとは思いませんデチたよ…」
隣のフサが返す。
この二匹は元々友達であったし、共に生き延びた連帯感から常に一緒に行動する仲良しだった。
「あとはご飯がもっと美味しくてた~くさんあれば文句無いんデチがね!」
「それにはきっと誰かお金持ちに拾われないといけないデチね… あ! 言ってるそばからきまちたよ!」

112 名前: 準備期間 投稿日: 2003/02/06(木) 18:00 [ k4fsSzCQ ]
広場の唯一の出入り口が開き、一人のモララーが入って来た。
広場のちびギコが一斉にそのモララーに群がる。
このモララーに気に入られれば、連れ帰って飼ってくれるのだ。

「あれじゃ、今日はもう無理デチねえ…」
ちびギコに埋もれていくモララーを遠目で見ながら、チビはため息をついた。今から駆け寄っても、触る事すら出来ないだろう。
ほどなく、5匹程の仲間がモララーに連れられて嬉しそうに広場を出て行った。
彼らの姿は、すぐに見えなくなっていった。
「あのおじちゃんは一昨日も来ていたデチよ。2、3日に一回は必ず来て、いつも仲間を5人ほど連れて帰ってる人デチ」
「フサタンすごいデチね! チビなんか、みんな同じに見えるから全然わかんなデチ!」
「良く見たらわかるデチ。ああいう人に拾われたら、暖かいお部屋と美味しいご飯を貰えて、もっともっとマターリデチねえ…」
体験したくとも、体験する事が叶わない夢のような話…
誰かに拾われれば、空想の中だけの「暖かいお部屋」や「美味しいご飯」が現実の物となる。
二匹はしばし、空想の世界に旅立った。

「でも…」しばらくしてチビが口を開く
「ぼくはフサタンと一緒で無いと飼われてあげないデチよ! ぼくたちは今までもこれからもずっと一緒なんデチ!」
「チビタン… ぼくもデチ! 早く一緒に飼ってくれる人が来てくれるといいデチね!」

113 名前: 準備期間 投稿日: 2003/02/06(木) 18:00 [ k4fsSzCQ ]
難民や、単純な生殖活動によってちびギコ達はどんどんと増えつづけていたのだが、この様な引き取り手がいるために広場から溢れ出さないで済んでいるのである。
しかし、このチビやフサが入って来た当事に比べ明らかにちびギコ人口は多くなりすぎ、広場も窮屈になり始めてはいた。
このままでは餌代も馬鹿にならないし、何より街に溢れ出してしまう。
そこで一年に一回、街はこの地域一番の金持ち「モラ金」の協力の下、あるイベントを行っていた。
今日は、そのイベントの準備が行われる日であった。

「あれ?」
チビが出入り口を見て思わず声を上げる。
「どうしたんデチか?」
「また違うおじちゃんがやってきたデチ… それも沢山…」
「本当デチね。何が始まるんデチかね?」

入って来たのはモララーやモナーが合計で数十人。
手に何か布切れを持っていて、片っ端からちびギコに着せて行っている。

「あ、こっちにも来たデチ…」
一人のモナーがチビとフサの所にやってきて手際よく布切れを着せると、また他のちびギコを見つけて同じ事をして回っている。
「これは… なんデチかね?」
「ゼッケンって奴デチね。チビタンは135。ぼくは136って数字が書かれているデチ」
「フサタンあたまいーデチ!」

『あー、あー。』
モララー達が仕事を終え引き上げた後、代表者が拡声器で話しだした。
『今ゼッケンを付けられた1番から400番のちびギコは、この辺り一番の金持ちのモラ金氏の飼いちびギコとなった』
「ホントウデチカ!?」「ヤッタデチ!」「バンザ━━━━━イ!」
ゼッケンをつけられたちびギコ達が一斉に歓喜の声を上げる。

『静かに!!!!』

が、すぐに拡声器からの怒声で静まり返らされた。
『あー、ただし、一度に400匹のちびギコを受け入れる為、準備に一週間かかる。ゼッケンをつけられたちびギコは一週間後に迎えにくるのでそのつもりで。ゼッケンは絶対にはずさないように。無くした奴は連れていかん。以上!』
それだけ言うと、モラ金の部下らしき者たちは立ち去っていった。
今度こそ、広場は大歓声につつまれた。
ゼッケンをつけられなかったちびギコも、うらやましいながらも素直に祝福をしていた。
チビとフサも例外では無く興奮して喜び合った。
「やったデチね、フサタン!」
「ぼくたち、二人一緒に夢のような生活を手に入れられるんデチね!!」

それからの一週間、ゼッケンをつけたちびギコたちはわくわくしながら過ごしていた。
そしてその間、なぜか、いつもはあまり人が寄り付かないこの広場の周りに沢山のモナーやモララーが柵の外からちびギコたちを熱心に見ていた。

続

114 名前: 前夜。 投稿日: 2003/02/06(木) 18:04 [ k4fsSzCQ ]
一週間後、約束どおり迎えが来た。
沢山の車がやって来て、ゼッケンをつけたちびギコ達を乗せて行く。
行き先は町外れのモラ金の屋敷である。

屋敷についたちびギコ達を待っていたのは、想像を越える豪華な広い部屋だった。
さっきまでいた広場よりも広いお部屋。
ふかふかの絨毯や、綺麗なカーテンもかかっている。
ちびギコ達はおおはしゃぎだ。
「チビたちはここで一生幸せに暮らせるんデチね!」
「最高にマターリデチ!」
チビとフサも大喜びで他の仲間と遊びまわった。

何時間も遊び、さすがに疲れ、腹も減ってきたちょうどその時
部屋のドアが開き、大きなテーブルに沢山の椅子が運ばれてきた。
その椅子には番号が書かれており、自分のゼッケンと同じ椅子に座るように命じられた。
ちびギコ達が言われるがままに椅子に座ると、今度は見たことも無い美味しそうな料理が沢山運ばれてくる。
同時に、高そうな貴金属類を身に付けたモララーが現れ、一番上座の席に座る。
ボディーガードだろうか? 屈強かつ武装した兵士のような格好の人が5~6人周りを固めている。

『あー、諸君』偉そうなモララーの声がマイクを通じて部屋中のスピーカーから響き渡った。
『私が、君たちを引き取ったモラ金だ。とりあえず腹も減っただろうから食事にしようじゃないか
 おかわりはいくらでもあるから、取り合わないでおとなしく食べるんだよ』

「ヤッタデチー」「ゴハン イパーイデチ!マターリデチ!」「イタダキマスデチー」
部屋中で歓声が沸き起こり、一斉に目の前の食べ物に手をつける。
食べた事も無いような美味しい食事に、夢中になりすぐに静かになる。
モラ金はその様子を眺めながらちびちびと酒を飲んでいた。

115 名前: 前夜。 投稿日: 2003/02/06(木) 18:05 [ k4fsSzCQ ]
ちびギコ達が生まれて初めて感じる「満腹」と言うものに支配された頃
落ち着いた一匹のちびギコがモラ金に喋りかけた。
「オジチャン ありがとうデチ。これから毎日こんなご馳走が食べられるンデチね。キャッ!」
『いい質問だね。6番』
「ぼくはロクバンじゃないデチ。キャッキャタンデチよ! 今度からはちゃんと名前でよんで…」
『いいから黙って聞けや!』

和やかな雰囲気だった部屋に一瞬にしてピリピリした空気が張り詰める。

『最初に言っておくが、俺は400匹もペット飼えないからな。いいとこ1~2匹だ。だからほとんどの奴はここから出て行ってもらう事になる』
それを聞いてまた部屋がざわつきだした。
『で、まあ、明日から三日ほどかけて運動会みたいなものをしてもらう。それで成績上位の者だけ飼う事になるな。
 それまでお前たちはゼッケン番号で管理するからな。名前で呼んで欲しかったり、毎日ご馳走を食べたかったら上位になるこった』

「キャッ! 運動会デチか! よーしチビタン頑張っちゃうデチ、負けないデチよー!!」
135番のチビがのんきに言った。どうやら状況を把握できていないらしい。
隣にいた136番のフサが小声で話し掛ける。
「何をのんきな事を言ってるデチか。負けたらまたあの広場に帰らないといけないんデチよ…」
「ええっ!? そうなんでちか? オジチャン…」

116 名前: 前夜。 投稿日: 2003/02/06(木) 18:06 [ k4fsSzCQ ]
『もし負けても、今までいた広場には戻れません』

ざわめきが大きくなった。
なら、どこに行くのだろうか…

『君たちが広場と呼んでいるのは【虐待用ちびギコ養殖場】と言うのが正式名称で、一度出荷されたちびギコは再度放牧できない事になっています。
 まあつまり、負けたら死ねって事だYO!』

「ソ、ソンナ!?」「シニタクナイデチ!」「オジチャン タスケテ…」……

「キャッ! そんなの嫌デチ! ぼくは運動嫌いだし、死にたくないし、広場に帰るデチ!」
6番のちびギコが席を立って扉に向かって走り出した。
モラ金はボディーガードの一人に目をやると、屈強なモナーがその体躯に似合わぬ俊敏さで6番を捕まえて抱え上げる

「何をするデチか! 離せ! 離さないと酷い目にあわせるデチ!!」
モラ金は手近にあったフォークを手に取ると6番に近づき
右後足の付け根辺りを思い切り突いた。

『ギャア! 痛いデチ!!』
モラ金の胸元のマイクは6番の絶叫を拾い、部屋中に流した。
この一撃で6番はすっかり大人しくなっていたのだが…
突き刺されたフォークは抜かれることなく、徐々に足先へと移動していった。
『ヒギャアガャキャアアギギギ…!!!』
言葉にならない絶叫と共に、6番の右後足に数本の赤い裂線が刻み込まれ
すぐに吹き出る血によって隠されていく。

フォークが足の真中に来た辺りで6番は気絶したが、フォークはお構いなしに更に肉を削いでいく。
ついには足先からフォークが抜けた。
絨毯にはボタボタと血溜まりが出来ていた。

もはや、6番だけでなく全員が恐怖によって静まっていた。

『管理していると言っただろう? 命令違反するとペナルティがあるのは当然さ。
 可哀相にこの6番、明日からの競技にかなり支障をきたすことになるね』

誰も、何もいう事は無かった。

『さ、栄養もたっぷり摂ったんだ。明日は早いから寝ろ。心配は要らないよ。上位になりさえすれば…ね』

テーブルと椅子、そしてモラ金は出て行った。
最後にボディーガードたちが続き、屈強なモナーが6番を無造作に放り投げた後、部屋から出て行き…
そして、扉は閉められた。

117 名前: 前夜。 投稿日: 2003/02/06(木) 18:08 [ k4fsSzCQ ]
後に残されたちびギコ達も慌てて出ていこうとしたが、扉はびくともしない。
煌々と灯っていた照明も消され、部屋は真っ暗になった。

「チビたちはどうなるんデチかね?」
「…運動会で優勝するしか無いデチね…」
チビとフサは、必死で脱出しようとする他の仲間達を尻目に、座り込んで話をしていた。
「こんな事になるとは、思わなかったデチね… でも、優勝すれば飼ってくれるデチ」
「本当かどうか分からないデチが、それしか方法は無いデチね
 でも僕、体力に自信がないデチ。 チビタン、ぼくを守って欲しいデチ。ぼくたちはずっと一緒デチ」
「当然デチ。きっと二人で飼われるようにするデチ」
「ありがとうチビタン。では、もう寝るデチ。明日に備えるデチ」
「でも、他の皆が…」
チビとフサ以外の仲間は喚きながら、まだ、必死にどこかに脱出できる所が無いか探している。

「僕たちを閉じ込めるために作られた部屋デチ。脱出できるわけ無いんデチ
 勝手に体力を消耗してくれて好都合デチ。さ、寝るデチよ…」

悲鳴や絶叫のこだまする部屋で眠るのは難しかったが
時間が経つにつれ騒音も静まっていった。
いつしか、二人は不安なまどろみに落ちていった…

118 名前: 一日目 投稿日: 2003/02/06(木) 18:09 [ k4fsSzCQ ]
『諸君おはよう。今から運動会の始まりだよ。張り切って行こう!』

そんなモラ金のスピーカーからの声でちびギコ達は眠りからさまされた。
ほとんどの者がほぼ徹夜で暴れまわっていたために衰弱しきった様子だった。

フサはその周りの様子を見ながら隣で寝ているチビを起こした。
「チビタン。朝デチよ…」
「うーん… よく寝たデチ! さすがに柔らかい絨毯で寝るといい気分デチね!」
どうもやっぱり状況を分かっていないようだ… フサは少しイラついた。
「周りの奴らはほとんど寝てないみたいデチ。体力温存作戦はひとまず成功デチね…」
ただ、フサは自分の体力に不安があった。
「チビタン。昨日も言ったデチが、僕のこと、助けてくだちゃいね。チビタンだけが頼りデチ」
「分かってるデチ! 他ならぬフサタンの為デチ! このチビ様にどーんと任すデチ!」
どうも状況を分からせるのは無理そうだとフサは思った。

しばらくすると、再びスピーカーから声が聞こえてきた。
『じゃあ、20匹ずつ競技をしていくからな!
 まずは1番から20番。係の者に付いていくように。
 その他の奴は動くなよ。6番みたいになるYO!』

扉が開いた。
屈強なモナー達がぞろぞろと入って来た。昨日より数が多い。
1番から20番のちびギコが震えながらモナー達の後に従った。
中でも6番が一番震えていた。
「コワイデチ… サムイデチ…」
手当てもされず一晩放って置かれたからだろう。恐怖の震えだけでなく寒さも感じているようだ。

119 名前: 一日目 投稿日: 2003/02/06(木) 18:10 [ k4fsSzCQ ]
第一組が出て行ってどれくらい立っただろうか…
次は21番から40番のちびギコ達が呼ばれ、その次に41番から60番…

出て行く者はいるが、帰ってくるものが一人もいない…
一体どんな競技をさせられているのか…
何故、誰も戻ってこないのか…

『次は121番から140番だよ。時間押してるからさっさと来てね!』

「いよいよぼくたちの番デチね…」
チビとフサが他の仲間と共に連れて行かれた所…
それはどうやら屋敷の中庭のようだった。
「スタート」と書かれた看板と、その向こうに「ゴール」と書かれた看板が見える。
スタートとゴールの間には色々なガラクタが転がって山や谷を作っていた。

そしてその周りには…
沢山の観客がいた…

「おー、あの135番のチビ、先週ずっとパドックで見てたけど力も体力も結構あったから、狙い目だからな!」
「でも頭が悪そうだったモナ。モナは140番のレコ種がバランス良くてイケると思うモナ」
『第7レース発走5分前。投票の受付を終了いたします。』

「ぼくたちで、レースをやってるんデチか…」
何が行われているのか一番早く察知したフサがひとりごちた。

「そうだよ。君たちはレースをしてお客さんを楽しませるのさ」
ボディーガードの一人がちびギコ達の前に立ち、口を開いた。

「ルールの説明をする。鉄砲の合図と共にスタートの看板から飛び出すんだ。
 そして、あのガラクタの山の中からこれと同じ金貨を探し出すんだ」
そういいながら、一枚の金貨を取り出した。
「綺麗な金貨デチ! よーし頑張るデチ!」
相変わらず状況を把握できていないチビが場違いな気合を入れる。

「頑張れよ。で、この金貨はあのガラクタコースの中に二枚隠されているから
 それを手にして向こうのゴールの看板をくぐった二匹が勝者だ。
 ルールはそれだけだ。金貨を持ってゴールするだけ。簡単だろう?」

『発走1分前です。各ちびギコ、スタート前にスタンバイをお願いします』

「さ、じゃあスタート前に行った行った」

ボディーガード達に追い立てられ、スタートの看板の近くまで行くと、誰かがうずくまっている…
ゼッケンは「6番」だった。

「あれ? どうしたんデチか? ずっとここで寝てたんデチか?」
チビが肩をつかんで振り向かせると…

首から上が無かった。

「ああそいつ、スタートの合図の後も震えてるだけだったんで、賭けてた客が怒ってね。つい首をはねちゃったんだ。
 丁度いいから見せしめに置いてるんだよ。
 …負けたら、そいつの所にいけるかもね」

20匹のちびギコは心臓を掴まれたような感覚を覚えた。

負けたら…
6番の所…
という事は…

横を見るとかなり興奮した観客が番号を連呼している。
勝たないと殺すといった罵声も飛んでいる。

120 名前: 一日目 投稿日: 2003/02/06(木) 18:11 [ k4fsSzCQ ]
『それでは第七レーススタートです』
放送と共に高らかに鉄砲の音が鳴り響いた。

「ヒィィィィィィ!!!!!」
20匹は一斉に飛び出し、金貨を探し回った。

「あったデチィ!!」

開始後すぐ、一つ目の金貨はあっけなく135番のチビに見つけられた。
観客席から歓声と怒号が交錯する。
チビはすぐにゴールに走らないで、フサの元に走った。
「フサタン、見つけたデチよ! もう一個あるはずだから、一緒に探すデチ!」

観客席からの「馬鹿野郎、さっさとゴールしやがれ」という叫びも耳に入らないようだ。

フサは願っても無い申し出を二つ返事で受けようとした…が。
「ぼくは自分で探すデチ。チビタンはゴールの前で待っていて欲しいデチ。
 いいデチか。ゴールの前でデチよ。決してゴールしないで待ってて欲しいデチ。
 ぼくたちは一緒にゴールするデチ」
「?? フサタンがそういうなら、言うとおりにするデチ」

チビはゴールに向かって歩き出した。
他の皆は半狂乱になりながら、残りの一枚を探している。
チビがふと後ろを振り返ると、フサもチビの後を付いて来ている。
「フサタン? 金貨を見つけないとゴールできないんデチよ?」
「ぼくはゴール付近を捜してみるんデチ」

約束どおり、チビはゴールの前でフサを待っていた。
フサは、ゴール前の辺りを行ったり来たりしている。
「ねえフサタン。そこはさっきも探してたデチ。早く他も探さないと取られてしまうデチよ」

やきもきしたチビが声をかけたその時だった

「あったぞコゾ━━━━━━━━━━━━━━━━━━!!!!!」

140番のレコ種がコースの中ほどで最後の一枚を見つけた。
その瞬間、他のちびギコ達は落胆と絶望に取り付かれ、崩れ落ちた。

…フサを除いては。
彼には策略があったのだ。

121 名前: 一日目 投稿日: 2003/02/06(木) 18:13 [ k4fsSzCQ ]
「ほれ見るデチ! あいつが金貨を見つけたデチ! もうおしまいデチ」
「チビタン…」
「なんデチか?」
「あのレコをやっつけて、金貨を奪ってほしいデチ…」
「ええ? ルール違反デチよ!?」

「おおーい、いま俺も行くぞコゾウ! 一緒にゴールするぞ!」
レコ種はどんどんと近づいてくる。

「ルールは『金貨を持ってゴールしたら勝ち』って事だけデチ。人が見つけた金貨を奪ってはいけないとは、聞いてないデチ」
「で、でも…」
「チビタンはぼくを助けてくれるって言ったデチ! あれは嘘だったんデチか!? 二人一緒で無いと飼われないって。ずっと一緒って嘘だったんデチか!!!!??」
「う、嘘じゃないデチ! チビたちは一生一緒デチ!」
「じゃあ、やってくれるデチね?」
「うう…」

「さっさとゴールするぞコゾウ! そこのフサ! 悪く思うなコゾウ!」

レコ種が目の前まで迫ってきた。
「ご、ごめんデチィィー!」
「コド━━━━━━!!?」

チビのパンチが、レコ種の顔面にクリーンヒットした。
普段なら、これくらいのパンチはかわせるのだが、すっかり油断していた。
手から、金貨が零れ落ちる。


「今デチ!」
フサはその金貨を拾い上げるとゴールに向かった。
「チビタンも早く来るデチ! 一緒にゴールするデチ!」
「わ、わかったデチ!」

二匹は同時にゴールした。
『ゴール! 一着135番二着136番。単勝135番。配当2.6倍。複勝…』


アナウンスと同時に観客が動き出した。
自分が賭けていたちびギコに向かっていく。
金を返せ、死ね、この爽快感は一体?
などの言葉が飛び交っている。

ショック状態から立ち直ったレコ種は、憎悪の炎を燃え上がらせゴールしたチビとフサに向かっていったのだが…
ボディーガードの一蹴りで観客の中に埋もれていった。

てめえが油断したから取られたんだろうが!
ぬか喜びさせやがって!
勝ち券買ってたのにてめえのせいで捨てちまっただろうが!
死んで詫びろ!

18匹のちびギコ達は、悲鳴を上げる暇も無く殺されていった。
潰されてせんべいになる者。串刺しになる者。ばらばらになる者…
しばらくすると観客は何事も無かったかのように席に戻り、次のレースの準備が進められた。

122 名前: 一日目 投稿日: 2003/02/06(木) 18:14 [ k4fsSzCQ ]
チビとフサが連れて行かれた「勝利者の部屋」は昨日の豪華な部屋とうって変わってかび臭い、狭いところだった。
彼ら2匹が入る前にすでにいた12匹と、後から来た26匹…
合計40匹が今日の生き残りだった…

晩御飯の時間になると、モラ金がやってきた。
「今日のゴハンだよ!」

一人に一杯。まるで塩水のようなスープが支給された。
これでも何もないよりましだ。
彼らは黙ってそれを飲み干した。
抵抗すればペナルティだ。
それは、死を意味するから。
少しでも体力を取り戻しておかないと、明日は持たないかもしれないから…

「さすがに数がこれだけ減ると大人しいね! じゃ、また明日も楽しませてくれよ!」

モラ金が出ていった後は、眠るだけだった。
チビもさすがに状況を悟ったのか、静かに目を閉じた。


明日は、何をさせられるのだろうか…

123 名前: 二日目 投稿日: 2003/02/06(木) 18:15 [ k4fsSzCQ ]
二日目の朝。
ちびギコ達は全員起きていたが、緊張のためか喋る者も動く者もいない。
いつ、競技が始まるかは一切知らされていない。
しかし、確実に今日も競技はある。
死刑宣告を待つだけの気分なのかもしれない。

昼頃、足音が近づいてきた。
今日は一度に全員が連れて行かれた。昨日と同じ中庭らしき所だ。
しかし、ガラクタの山は撤去されており、一周200メートルくらいのトラックが出来上がっていた。

相変わらずトラックを囲むように観客がいる。
やはり今日も賭けの対象になっているようで、ゼッケン番号での応援が飛び交っている。

「今日の競技は君たちの大好きなかけっこだよ」
一人のモララーが説明を始めた。
「このトラックを走ってもらうんだけど、転んだり周回遅れになった奴はその場で失格だからね!」
彼はそれだけ言うと、ちびギコ達の下から去ろうとした。
「あ、あのっ!」
一匹のちびギコが呼び止めて質問した。
「何周走ればいいんデチか?」
「終わりの合図が鳴るまでだよ。何匹失格になるかは、君たちは知らなくて良い事さ!」

40匹のちびギコがトラックに並べられる。
さすがに横一列には並びきらないので、マラソンのように団子状態からのスタートになる。

『出走一分前です』

ちびギコ達の間に緊張が高まる。
走れと言われても、ゴールがどこか分からない。どうやって走ればいいのか…

124 名前: 二日目 投稿日: 2003/02/06(木) 18:16 [ k4fsSzCQ ]
『スタート!』パアアァァァン!

鉄砲の合図と共にちびギコ達は走り出した。

「ヒギャア!」
一匹がいきなり転んだ。
136番のフサの隣にいたちびギコだ。

『143番転倒により失格です。単負143番。配当4.8倍。残り39匹です』

「ち、違うんデチ。隣のフサに足を引っ掛けられたんデチ!あいつが悪いんデチ…!」
転んだちびギコは、自分に近づいてきた競技員に向かって必死に言い訳をしたが、聞き入れられなかった。
競技員は143番を持ち上げると、観客席に放り投げた。
観客たちは我先に143番に近寄ると、そのちびギコに対して制裁を加えた。

「足を引っ掛けられる方が悪いんだよ…」
聞こえるはずも無いが、すでに肉塊と化した元143番に向かって競技員はつぶやいた。


レースは最初、スローペースで全員がほぼ固まったまま進んでいた。
しかし、二週目に入って、18番のミケ種が抜け出した。
「とにかく一番になっていれば安心デチ!」

その声を聞き、後の者も一番になろうと必死になって走った。
18番は追いつかれまいともっと早く走ろうとした。
一転して超ハイペースなレース展開になった。

しかし、一昨日の晩以来ろくに何も食べていないちびギコ達がいつまでも走っていられるわけが無く、次々に転んで失格になっていった。

転んだちびギコは必死に命乞いをし、泣きながら抵抗したが競技員に敵うはずもなく
待ちかねた観客たちに放り込まれた。

残った者たちは耳をふさぐ事も出来ずにその断末魔を聞きながら走りつづける。

125 名前: 二日目 投稿日: 2003/02/06(木) 18:16 [ k4fsSzCQ ]
残り20匹を切る辺りまで周回遅れは出ていない。皆、限界を超えて走ったために転倒していった。
一体何周走っただろうか? ペースは超スローペースに落ちていた。
しかし、走っている本人たちにとっては限界ギリギリのペースだった。

先頭は18番のミケ。
135番のチビは列の中ほどに位置している。
そして最後方に136番のフサを含めて5匹ほどがふらふらと歩いていた。

その後ろには18番のミケが…
そう、いよいよ周回遅れになる者があらわれるのだ。
「ヒギャア! ミケタン来るなデチ!」「アッチイケー」
「イヤデチ! お前たちを抜けばミケタンは死なないで済むんデチ!」

観客席からは「差せー!」「そのままー!」の声があがる。
その声に負けず劣らず、大きな声を張り上げたちびギコがいた。

「チビターン! たちけてデチ! フサのピンチデチー!」

その声に気付いてチビが振り返ると、フサのいる最後尾の集団がミケによって抜き去られようとしていた。

「ウウゥ。 い、今行くデチよ、フサタン!」

135番のチビは逆走してフサに近づき、手を引いてやった。
「頑張るデチ、フサタン!」
「も、もう駄目デチ…」

『301番、周回遅れによる失格。残り18匹!』
「ヒギャアータチケテ ギャアア ァァ…   ァ…  ……」

アナウンスと絶叫。
チビが振り返ると、すぐそこにミケがいた。
次はチビとフサが周回遅れになる番だった。

126 名前: 二日目 投稿日: 2003/02/06(木) 18:17 [ k4fsSzCQ ]
「えーい、仕方がないデチ!」
チビはフサを背負って、あらん限りの力を呼び起こし走り出した。
フサを抱えて走っているのに、チビとミケの距離は離れていった。

しかし、それも一瞬の事ですぐに足が限界に達し、スピードが落ちてくる。
「駄目デチ。もう駄目デチー!」
チビが絶叫をあげたその時、背中のフサの手が、隣で走っているちびギコの耳に伸びた。

「えいデチ!」
フサは気合と共に、そのちびギコの耳をもいだ。

「イタイデチ! ボクノ オミミィ!」
耳をもがれたちびギコはそう叫んで転びそうになったが、何とか耐える事が出来た。
「何をするんデチか! 僕のお耳返せ!!」
今度はカタミミがフサを攻撃しようと身構えた。
しかし、走りながら攻撃態勢を整えるのは容易な事ではなく、逆にチビに背負われているフサはすでに反撃体制を整えていた。

「うっさいデチ! さっさと転ぶデチ!」
今度はフサの足蹴りがカタミミの顔面に直撃した。
これにはたまらず、カタミミはもんどりうって倒れた。

「ウギャア━━━━!」
「ワ、バカ、クルナ!」

ドサァッ!
ともう一つ何かが倒れる音がした。
それと同時にアナウンスが流れた。

『215番、18番転倒により失格。残り16匹になったのでレース終了です!』
パアアアァァァン!

始まりと同じ鉄砲の音がなり、レースは終了した。
観客席から、135番に背負われた136番は失格ではないかと言う声が上がったが『転倒したわけでは無い』と言う競技員の説明があり、フサも勝者になることが出来た。
残っているちびギコ達は助かった事を知った。
そう、今日は…

127 名前: 休養日 投稿日: 2003/02/06(木) 18:18 [ k4fsSzCQ ]
レースが終わったちびギコ達は二人一組で小さな部屋に押し込められた。
まるで牢獄のようなその部屋は、他の部屋の様子を知る手段がない。
その部屋の一つに、チビとフサは一緒に入れられた。

「も、もう駄目デチ…」
チビは息も絶え絶えになって床にへたり込んだ。
「チビタンありがとう。おかげで助かりました」
一方のフサは、最後背負われた事もあってか、まだ余裕があるようだ。
「当然…デチ… 二人で一緒に… 飼われるんデチ…」
それ以降は口を開く元気もなく、ただ荒い息を繰り返すチビだった。

『皆、今日も楽しかったよ!』
モラ金の声が天井にあるスピーカーから聞こえてきた。
『今日はしんどかっただろう? そこで三日休みをとってもらってから次の競技を行う事にしたから、三日間のんびり休んで英気を養ってね!』

放送が終わると食事が運ばれた。
昨日と同じような、ほとんど塩水のようなスープだ。

それでも美味そうに二匹は最後の一滴を皿から舐め取るまで飲んだ。

128 名前: 休養日 投稿日: 2003/02/06(木) 18:19 [ k4fsSzCQ ]
休養日一日目…
二匹はじっとしていた。
朝も昼も食事は来ない。
夜になってやっと、昨日と同じスープが運ばれてきた。
この時にやっと二匹は大きな動きを見せる。
最後まで飲むと、またじっとしていた。

動く事も喋る事も体力を削り取り、身の危険が迫ると本能で分かっていたのかもしれない。

休養日二日目…
この日の昼になって、チビが情けない声を出した。
「オナカがすいて… もう駄目デチ… 今日の分のスープはフサタン食べていいデチよ… チビの分も生きて…」
「何を言ってるんデチか。二人で助け合わないと生きていけないデチよ」
「で、でももう… 駄目。。デ…チ」

そう言って目を閉じるチビ。静かに最期の時を待つつもりだったのだが…
ふと、鼻先に甘い香りが漂ってきた。
目を開けるとフサがどこから取り出したのか巾着袋を持っており、その中からチョコレートを取り出していた。

「ぼくのオケケに隠していたお菓子があるデチ。これを食べて元気を出すデチ」
フサはチョコレートを半分にし、チビに食べさせてやった。
現金なもので、少し食べ物を口にするとチビはかなり元気になった。

「そんな物を隠し持っていたとは、さすがはフサタンデチ! すごーいデチ!」
「最初の豪華なゴハンの時に取っておいたデチ。二人で助け合って一緒に飼われるんデチ
 でも… 最期の取っておきデチたから、もう無いんデチよ…」
「大丈夫デチ! 明日さえ乗り切ればいいんデチからね!」

きっと他の部屋のちびギコ達はこんなお菓子は持ち込めていないはずだ。
これで次の競技も楽になるはず…
フサはそう考えていた。
「さ、無駄口はこれくらいにしておくデチ。せっかくの元気は残しておくデチよ」
それから二匹は夜のスープまでじっとしていた。
そしてスープを飲むとそのまま丸まって眠りに落ちた。

129 名前: 休養日 投稿日: 2003/02/06(木) 18:20 [ k4fsSzCQ ]
休養三日目…
朝から二匹はピクリとも動かないでいた。
昼頃、チビが「おかし、もう無いデチよね?」と聞き
フサが「無いデチ」と答えた以外は会話もなかった。

そして夜。スープの運ばれてくる時間になってもスープは来ない。
変わりにスピーカーから声が聞こえてきた。

『やあ、諸君。三日の休養で疲れはすっかり取れたかい?
 ところで明日は実はいよいよ決勝戦なんだよ!
 ちなみに出場可能選手は8匹だから、一部屋から一匹でいいんだよ。
 君たちで話し合って、出場選手を決めておくといいよ!
 出場できない選手は…
 30分後に係の者が殺しに行くから待っていてね。
 じゃあ、大事な事だから、じっくり話し合ってね。』

放送が終わった後、二匹はしばらく無言だった。
その静寂を破ったのはフサだった。
「しょうが無いデチね… フサが出るデチ」
その言葉を聞いたチビは、信じられないと言った顔をして無言の抗議をした。

「仕方無いデチよ。どっちか一方は殺すって言ってたデチ」
「で、でも、助け合って二人一緒に飼われるって…」
「だから、こうなった以上は仕方無いって言ってるデチ。それにこないだチビタンはもう駄目だから、ぼくだけでも生きてって言ってたデチよ?」
「い、今は元気デチよ! 死にたくないんデチ!!!」

130 名前: 休養日 投稿日: 2003/02/06(木) 18:21 [ k4fsSzCQ ]
また、しばらく沈黙が部屋を支配した。
「ひょっとしたら…」
今度はチビの方から静寂を破った。
「二人ともオナカすいて死んでる部屋があるかもしれないデチ。そうしたらきっとこの部屋は二人とも生き残れるデチよ?」
「…」
「ね。フサタン…」

「もし、片方が死んだら…」
「フサタン?」
「もう片方には食べきれない程のお肉が手に入ったって訳デチよね」
「フサタン!」
「やっぱりぼくが出場するデチよ? いいデチね?」
「イヤデチ… 何か方法があるはずデチ。一緒に考えて…」
「…わかったデチ」

フサはチビから離れ、部屋の隅の方に向かっていき、そこでうずくまった。
チビはホッとしたが、さて、これからどうしようかを考えなければいけない。
ただ、チビは考えるのが苦手だ。きっとフサがいいアイディアを思いついてくれるはずだ…
そう思って、目をつぶって休む事にした…

131 名前: 休養日 投稿日: 2003/02/06(木) 18:22 [ k4fsSzCQ ]
覚えのある甘い香りがした事に気付いたのは、しばらくしてからだった。
チビが目を開けて香りがする方向を向くと、フサがうずくまっている。
何かを考えているのだと思っていたがひょっとして…?
「フサタン。こっち向くデチ」
チビは声をかけてみた。
振り向いたフサの手には、この前見たよりも大きな板チョコが握られていた。
そして口の周りにもチョコをつけ、もぐもぐと咀嚼しているようだった。

「ああ、お菓子まだあったんデチね。お願いデチ。チビにも分けて…」
「嫌デチ」
フサは即答した。
なぜ、お菓子を分けてくれないのか?
チビはもう一度お願いしてみる事にした。
「フサタン。二人で一緒に助け合って…」
「もう、助けはいらないデチ」
チビの言葉を最後まで聞かず、チョコレートをほお張りながらフサは言い放った。

「ここまで助けてくれて本当にありがとうデチ。おかげで生き延びるどころか、結構な体力温存になったデチ
 でも、この部屋から生きて出られるのがどちらか一人なんデチ
 これからはチビタンをあてにせず、自分の力で頑張るので心配しないでいいデチよ」
「で、でも、二人で助かるアイディアを…」
「そんなものは無いデチ」
チョコレートの最期のひとかけらを口に入れながらフサは答えた。

チビは、自分の内に悲しさと怒りの感情がふつふつと湧き上がってきたのを感じた。
同時に、生への執着も鎌首をもたげるように持ち上がってきた。
「チビだって…」
ただ、感情は荒れてきているのだが、空腹も手伝って体がいう事を聞いてくれない。
「チビだって生きたいんデチ。フサタンがそういうなら、チビだってフサタンをもう頼らないデチ
 この部屋から出るのは、このチビ様デチ!」

言葉尻は勇ましいが、声は明らかに弱々しいその台詞を聞いて、フサは嘲りの笑いを返した。
「フン。大人しくぼくを行かせてくれたら、いつまでも友達だったんデチけどね…」

言いながらフサは、毛の間からまた袋を取り出した。
その中から取り出したのは… フォークだった。

132 名前: 休養日 投稿日: 2003/02/06(木) 18:23 [ k4fsSzCQ ]
「これもいざと言う時の為に盗っておいたんデチ。どうせもうすぐチビタンは死ぬんデチから、せめてぼくが殺してあげるデチ」

フサはフォークを持ってチビに近づいてきた。
チビは動けず、じっと睨んでいるだけだった。

「動くと余計苦しいデチよ…」
言いながらフサは振りかぶり、チビの眉間にねらいを定めた。
「えい!」
気合と共に振り下ろされるフォーク。
しかし、狙いどおりチビの眉間には刺さらなかった
チビは最期のあがきで体をひねり、右前足の付け根の辺りにフォークは突き刺さった。
「ウガアアアア ギギギギ」
絶叫をあげるチビ

その時、チビの中で何かが弾けた。
一瞬、目がくらむ。
すぐに視力は戻る。
ただ、視界が極端に狭くなる。
黒が多い。
ピントが微妙にずれている…
目の前にはフサフサした物がある。
これはなんだろう?
そうだ、オトモダチだ。
コノ オトモダチヲ コロサナイト…



コロサナイト

133 名前: 休養日 投稿日: 2003/02/06(木) 18:23 [ k4fsSzCQ ]
「動くなと言ったはずデチよ。見苦しい… わ、な、何を?」
フサが肩口に刺さったフォークを抜こうとした時、チビのもう一方の手でフォークをつかまれた。
フサの手ごと…
「無駄なあがきはやめて、大人しくするデチよ!」
フサは、その手を振り払おうとするのだが、やたらと力が強くてかないそうも無い。
「くそう、それなら」
今度は逆に、フォークを更に奥まで突き刺した。
上下左右に揺らしてダメージを加える事も忘れない

「ゥゥゥゥギャアアアアァァァ!」
物凄い絶叫がチビから発せられるのだが、捕まえられた手は緩むどころかますます締め上げてくる。
「痛いデチ。やめるデチ!」
ついに耐え切れなくなったフサはフォークを放したが、それでもチビの手は離れてくれず、更に力を入れてくる…
「やめるデチ、やめるデチ。お願い、痛い、やめて、やめ…」
ゴキュグジャ!
「ぎゃあー!!」
妙な音を立てて、フサの手は砕かれた。
それでやっとチビの手は離れてくれた。
フサは慌てて後ずさりして距離を置いた。

「チ、チビタン?」
「デチィィイィィィィイイイィィ!!」
チビは妙な咆哮をあげ、肩口に刺さっているフォークを抜くとそれを構え
フサにゆっくりと詰め寄ってくる。

「ヒ、ヒィィィ、チビタン、落ち着くデチよ。落ち着いて考えればきっと何か案が浮かぶデチよ!」
フサは必死に呼びかけるが、目が明らかに光を失っており、そもそもその声が聞こえているかどうかも分からない

「ヒィ、ヤ、ヤメテチビタン…」
「ゴリュアアアアァァアァァア!」
「ギャアアアアアアアアアア!!!」

134 名前: 休養日 投稿日: 2003/02/06(木) 18:25 [ k4fsSzCQ ]
チビがふと気付くと、目の前に血まみれのフサが転がっていた。
自分の肩も血にまみれ、そして手にはやはり血まみれのフォークを握っていた。
「チビタン… ユルシテ… タスケテ…」
フサはまだ息があったが、チビは無表情にそれを見下ろしているだけだった。

「やあ、係の者だけど、どっちが明日出場するんだい?」
いきなり声をかけられ、チビはそっちを向いた。
係? 明日? 出場?
何のことだったろうか?

「なるほど、君が出場で、このフサ君は敗退なんだね!」

入って来た人は一人で勝手に喋ると、つかつかとフサの所に歩み寄った。
「じゃ、君はこのガスバーナーで処理してあげるよ」
「ヤメテ… シニタクナイデチ… アアアギャアアァ」

入って来た人は、フサを火で炙り出した。
最初、フサからなにやら悲鳴やうめき声が聞こえてきていたが
そのうち全く聞こえなくなった。

目の前からフサが消え、変わりにこんがりと焼けた肉の塊があらわれた。

「このフォークは没収だよ」
係の人はチビの手からフォークを取り上げると出て行った。

135 名前: 休養日 投稿日: 2003/02/06(木) 18:26 [ k4fsSzCQ ]
後に残されたチビは、必死に記憶を呼び起こそうとした。
そうだ。フサタンがお菓子を食べていたんだ…
それで、分けてもらうはずだったんだ…

チビは、焼けただれたフサに近づいた。
「フサタン、チビにもお菓子を分けて欲しいデチ…」
フサから返事は無い。

「オナカ、すいたデチ…」
チビは、目の前の肉を食べる事にした。
「コンガリ… オイシイデチ…」
チビは、フサの腹に食いついた。
食べ進むうちに、臓器があらわになる。
さすがに臓器までは焼けておらず、まだ赤い血も流れる。
「もったいないデチ…」
チビはその血も残さずすする。

偶然、胃袋を噛み切る。
中から胃液に混じったチョコレートが出てくる。
「フサタン、ちゃんとチビの分も取っといてくれたデチね…」
ひとかけら、口に入れる。
「アマー マターリ味デチね…」

チビは一晩中、そのご馳走を食べつづけた…

136 名前: 決勝戦 投稿日: 2003/02/06(木) 18:27 [ k4fsSzCQ ]
次の日の決勝戦のルールは単純なものだった。
一対一でどちらかが死ぬまで殺しあう剣闘士ルール。
トーナメント戦で、最後の一人になるまで闘う。
もちろん、武器は自分の体一つだ。

この大会最後の競技で一番注目されたのは135番のチビだった。
肩を怪我し、目もうつろなこのちびギコは当初一回戦で敗退すると思われていた。

しかし、いざ戦闘を始めると、他のどのちびギコよりも残忍で、力強く目の前の仲間を殺害していった。
あまりに力強く叩きつけるので、自分の腕も明らかに逆方向に曲がっているのだが
全く意に介さずぶらぶらしたその腕を凶器に
撲殺し
耳をもぎ
目を潰し
頭を勝ち割り

そして喰った。

今まで何年もやってきた大会だが、この様な異様な者は初めてだった。
観客たちは興奮し、彼が仲間を殺害する所を見て楽しんだ。

137 名前: 決勝戦 投稿日: 2003/02/06(木) 18:28 [ k4fsSzCQ ]
当然、優勝は135番のちびギコだった。
優勝戦のオッズは1.0倍…
勝った所で儲けが無い極めて異例な事態に陥っていた。

こうして大会は大盛況の内に幕を下ろし、今後一年分の「虐待用ちびギコ養殖場」の予算の捻出に成功した。
優勝したちびギコは例年どおり、剥製にされ街に飾られる事となった。


モラ金は毎年、優勝者が「これで助かる。飼ってもらえる」と思い込んでいるちびギコに今までの優勝者の剥製を見せていた。
絶望に打ちひしがれる姿を見て、さらに向かってくる者を押さえつけ、生きたまま剥製にする作業が一番の楽しみだったのだが…

今年は無表情、無抵抗のまま剥製にされたので全く楽しくなかった。


でも、まあいいさ
モラ金は一人ごちた。
他の町に行けば野生のちびどものハンティングを楽しめる。
めんどくさかったら養殖場から適当につれてくればいい。
どうせ来年にはまた増えすぎて、同じ大会を開くんだから…


終