黄色い私とピンク ナ ボクチャン

Last-modified: 2015-06-24 (水) 02:00:52
585 名前: 逝犬 投稿日: 2004/03/27(土) 20:52 [ FMjURXHE ]
黄色い私とピンク ナ ボクチャン


その姉弟は、あの街からこの町へ通じる唯一の橋のたもとに2人で暮らしていた。
親と暮らすのを諦めた、黄色の体色をしたしぃとピンク色の体色をしたモララー…。
いや、彼らの事は見る人が見れば、しぃの姿に似た女モララーと
モララーの姿に似たオスしぃと言うかもしれないAAだった。
まぁ、そんな事はどうでもよい。
彼ら姉弟は、関所跡地に幾つかのダンボールを重ねたダンボールハウスを造り、
2人身を寄せ合って、そこに住んでいた。
昔は、この橋を通って、街と町を行き来する者も多かったが、
最近はめっきり少なくなり、街と町の交流は途絶えがちである。
何故なら、此処に、彼ら姉弟が住み着いてしまったからだった。

586 名前: 逝犬 投稿日: 2004/03/27(土) 20:53 [ FMjURXHE ]
「あー、お腹空いたわね…ボクチャンも、そう思うでしょ??」

姉である黄色いしぃが、ジャガイモの土臭さの残る大きなダンボールと
爽やかな柑橘臭の残るミカン箱の継ぎ目で、隣で丸くなってウトウトしている
弟のピンクのモララーに、溜息まじりで話し掛けた。

「…ン? ネーチャン ダッコ??」

眠そうに目をこすった後、弟は半角カナ文字でニコニコと手を伸ばす。

「……アンタって本当に、人の話を聞かないアフォよね…。母さんソックリ…。
私は腹が減らないか…って聞いたのよ??」

伸ばされた手を面倒臭そうに弾き飛ばし、姉は弟の顔を覗き込んだ。

「ウワァーン ダッコ! ダッコーッ! ダッコ シナイト ギャクサツチュウ ナンダカラナ!」

弟は姉の言葉を欠片も理解してないようで、抱っこをせがみ、
転がりまわるには少々狭いミカン箱スペースの中でジタバタと暴れ出す。

「あー、もう、本当にアフォでどうしようもないわね…。
ったく、何で、こんな弟を可愛いと思っちゃうのかしら…
コレが俗に言う馬鹿な子ほど可愛いって香具師かしら??」

姉は溜息をついた後、仕方なさそうに苦笑いを浮かべて、騒ぐ弟を抱きしめた。

「ヘヘ ダッコw キモチイイ??」

弟は姉に抱きしめられると満足そうに微笑み、姉を抱き返して
更にニコニコと機嫌を上向きにさせていく。

「ああ、ハイハイ、気持ちイイわよ…
だけど、ダッコなんて腹の足しにもならないじゃない、
全く誰か通らないものかしらね…。お腹が空いてどうしようもないわ…」

姉は弟の問い掛けを適当に流しながら、最近の日照りですっかりやせ細った川と、
街へと繋がる橋をぼんやりと眺めていた。

「ネーチャン ダレカ クルヨ アシオトガ スル…」

姉の手に抱かれながら、寝息を立て始めていた弟が
急に耳をピクピクと動かしたかと思うと、橋の向こう側をさすように右耳を立てる。

「え?本当に??で、年はどんな感じ??何人いるの?」

AAの気配を感じ取った弟に、姉ははやる気持ちを懸命におさえ
なるべく声の大きさをひそめて尋ねた。

「ンートネ フタリトモ ダブン ボクラヨリ ウエダケド ケッコウ ワカイト オモウ…」

少し難しそうな顔で耳をピンと立て、しばらく黙り込んだ弟は
姉に尋ねられた情報を伝えようと彼なりに頑張っているらしい。

「そう、アリガト、ボクチャン。どうやら久々にご馳走にありつけそうね。
悪いけど、1人で丸まっててね…。姉ちゃんはゴハンの為にガンガるから…」

姉は弟の頭を撫で、ダンボールの床に寝かせるとハウスの中から1人抜け出した。

587 名前: 逝犬 投稿日: 2004/03/27(土) 20:55 [ FMjURXHE ]
強い風が吹き抜け、日照りで乾いている道に土ぼこりをもうもうと立ち込めさせる。

「ああ、私の耳にも足音が聞こえてきたわ…。どうしようドキドキしてきたかも…」

姉は橋の前で気配を殺してジッと立ち、街からの訪問者を待った。

「……んでモナは逝ってやったモナ、逝ってよしってw」
「何が逝ってよしだ…それじゃ俺はオマエモナーって言わなきゃ
いけなくなるんじゃないのか、ゴルァ??」

モナーとギコの2人組が下らない会話を交わしながら橋を渡ってくる。

「ちょっと、お兄さん達…私にゴハンを置いていって頂戴…。
もし、置いていってくれるなら、命だけは助けてあげてもイイわ!」

姉はニッコリと微笑んで橋を渡りきった青年達の前に立ちはだかった。

「え?また、随分と可愛い追い剥ぎモナねぇ…」

モナーが姉の笑みにつられたように微笑み返す。

「何だ、嬢ちゃん??捨て子かい?こんなチッコイ内から強盗なんざ世も末だな…
だけど、武器も持たないでどうやって命なんかとるんだよゴルァ!」

ギコは幾ら小さくとも、犯罪は許せない性質のようで姉の顔面に向かって
拳を思い切りよく突き出した。

「乙女の顔を狙うなんて酷いわねぇ…。せっかく命は助けてあげようと思ったのに…
そんなに死に急ぎたいの?」

姉はギコの拳をヒラリと交わしてから、その突き出された右手を掴み
ニヤニヤと笑いながら手首に歯を当てる。

「え!?………ウワァァァ!」

拳を掴まれる所か交わされる事すら予想していなかったギコは、
自分の腕に何が起こったのかを理解出来ずに長い沈黙を過ごした後、
地面にへたり込み、自分の腕と姉の口元を何度も見比べ、やっと叫びだした。

588 名前: 逝犬 投稿日: 2004/03/27(土) 20:56 [ FMjURXHE ]
「ふぅん、まぁ、オスにしてはソコソコの味かな…。
メスの方が美味しいんだけど食糧難じゃ文句も言ってらんないしね…。
あ、そうだ…ボクチャン!先、食べててイイよ!
お腹すいてるでしょ?私は狩りが終わったら落ち着いて食べるわ!」

ギコの手首を毟り取った姉は口の周りにべったりと飛び散った血を舐めとり、
味を評価する。
そして、毟り取った手首をダンボールハウスの方向に投げると、
突然の事に腰をぬかして動けないモナーと未だ状況を理解しきれないギコを
愉しそうに交互に見つめた。

「さぁ、今度は何処を食べて欲しい?何処でもイイわよ…
だけど、聞こえてる内に早く返事をしないと私の好きにしちゃうわよ?」

ギコの右耳を掴みブチブチと肉の千切れる音を響かせながら、
もいでいく耳に向かって姉は囁き続ける。

「ぁあ…ゃ…め……」
「何?もっと大きい声で言ってくれなきゃ分からないわ?」

何かをうめくように発したギコの、取れかけの耳に舌を這わせ、
血を舐めながら姉は優しい声で尋ねた。

「止めてくれ…頼む…助けてくれ……」

ギコは目の前の小さな虐殺者に懇願する。
無くなってしまった右手と、まだ存在する左手をあわせて、拝むように懇願した。

「死にたくなければ、ゴハンを置いていくように言ったのに、
無視したのはそっちでしょ?その上、殴りかかってくる乱暴者だし…
どこから死んでいきたいのか聞いてあげてるだけでも譲歩なのよ??」

千切りきった耳を口に咥え、蜜でも吸うかのように血を吸い上げながら
姉はギコの頼みを突っぱねる。

「ウワァァァァァ―――――っ!」

姉の冷たい言葉に、ギコは錯乱したかのように大きく叫ぶと立ち上がり
小さな虐殺者に精一杯の抵抗を試みた。

「そんなキレのないパンチもフラフラのキックも無駄なの分かってるでしょ?
あんまり動き回ると、せっかくの血液が流れちゃって
ジューシーさが欠けちゃうじゃない…悪いけど、寝てくれる?」

姉はギコの無駄なあがきにウンザリとした表情を見せた後、
オヤスミなさいとニッコリ笑ってギコに告げ、彼の首に歯を立てる。
喉笛を噛まれたギコは痙攣を繰り返し、やがて力なく肉体を地面に横たえた。

589 名前: 逝犬 投稿日: 2004/03/27(土) 20:57 [ FMjURXHE ]
「じゃ、次はアナタね…私にゴハンを置いていく?それとも死にたい?」

「し、死にたくないモナ…何でも置いていくから、助けて欲しいモナ…」

無残に倒れたギコのかたわらで、モナーはガタガタと歯を鳴らしながら首を横に振る。
そして、自分のカバンに入っている僅かばかりの食料をさしだし命乞いをした。

「じゃ、死なない程度に、食料を貰うわね…。ボクチャン!ライター持ってきて!」

姉の声に一心にギコの手首をしゃぶっていた弟が、
ダンボールハウスの中からゴソゴソとライターを探し出し届けにくる。

「ハイ ネーチャン ボクチャン エライ??」
「ハイハイ、偉いわねぇ…ああ、顔がギコの毛だらけじゃない…。
まぁ、どうせ、まだ食べるし拭わなくてイイか…そこのも食べててイイわよ」

ライターを届けて満面の笑みを浮かべる弟の頭を撫でまわした後、
姉は口の毛を掃い落とした。
そして、まだ微かにヒューヒューという息を繰返すギコを足で蹴り上げると
姉は再びモナーに視線を戻した。

「別に町まですぐだし、コレ位の食料、全部、取られたって…
いやぁぁぁ!な、何するモナ!こ、殺さないって言ったモナ!」

モナーのさしだしていた手を握手するように取った姉が、そのまま腕をねじりあげる。
その痛みにモナーが甲高い叫び声をあげた。

「殺さないわよ…。食料を貰うだけ…だから、ちゃんと、
血が零れ過ぎないように焼くための火を用意してるんじゃない」

ねじりあげた腕を肩の辺りからミシミシと音を立て引きちぎった姉は、
ライターの火を最大にしてモナーの肩を焼き始める。
辺りに生きた肉の焦げる嫌な臭気が立ち込めた。
草食動物と違って肉も食べて生きる雑食のAAゆえの独特の臭みと煙が立ち昇り、
モナーの脂ののった腕から炎が上がる。

「イヤモナァァァァ!燃えて…燃えて死んじゃうモナァ!」

燃えていく自分の肉体の火を消そうと、モナーが地面を転がりまわった。

「大丈夫、この程度の火で、燃え尽きたりしないわ…あら…アナタ、
メスだったの?ゴメンなさい、見た目で判断してたわ…
ボクチャン、コレはご馳走だわ…食べて御覧なさい」

慌てるモナーを冷ややかな目で見下ろしていた姉は、
引きちぎった腕の付け根を口に含んだ後、驚いたように彼女だったモナーを見つめる。
そして、腕を弟に投げると、表情を輝かせて、モナーの腹に足をかけ、
その右腕を思い切り引いた。

「ヒィァ…モナァァァァ!ァァァアアアアア!」

姉の足の力と腕の力によって、残りの腕ももがれたモナーが更に大きく叫ぶ。

「こっちもちゃんと焼くから、心配しなくてイイわよ?」

幸せそうに腕肉を齧りながら、モナーの右肩にも姉は火をともした。

「アヒャヒャヒャヒャヒャ……」

両腕をもがれたモナーは遂に正気を失い、笑い声を上げ始める。
そんな彼女を姉弟は愉しそうに見つめていた。

590 名前: 逝犬 投稿日: 2004/03/27(土) 20:59 [ FMjURXHE ]
「ネーチャン ポンポン イッパイニ ナッタシ ボクチャン コウビシタイ!」
「え?全く、アンタは本当に母さんと一緒で食う寝る犯るしか頭に無いのね…
まぁ、イイわ…それで良けりゃ好きにしなさい。もう、逃げる気もないみたいだしね…」

ひとしきり肉を味わい食欲を満たした弟の血まみれの顔を拭うと、
姉はダルマと成り果てケタケタと笑いつづけるモナーを指差す。

「ワーイ コウビ コウビ!……ア ネーチャン マタ ダレカ クルヨ……」

弟がニヤニヤと笑いながらモナーの腰を抱えた時だった。
橋の向こうを見つめて弟の動きが止まる。

「あら、今日は豊作ね…。お腹すいてて、考え無しに生で貪り食べちゃったし、
次のは保存食として調理とかしましょうか…。じゃ、ボクチャン。
悪いけど交尾はお家でして頂戴ね…」

まだ可食部分の残っている骨をダンボールに押し込み、
モナーもハウスの中に放りこんだ姉は、いらない骨を川へ捨てると、
橋の前に再び1人で立ちはだかった。

「ねぇ、オジサン達…私にゴハンを置いていって頂戴…。
もし、置いていってくれるなら、命だけは助けてあげてもイイわ!」

街から繋がる橋の前に立てられた『殺人鬼注意』の看板が乾いた風に揺さぶられ
AAの愚かさをたしなめるようにガタガタと鳴る。

「お嬢ちゃん、オジサン達はこれから町へ用事あるんだ…
イタズラしないで道を譲りなさい!」

黄色いしぃの笑顔を誰もがみくびる瞬間だった。


第一話 終