黄色い私とピンク ナ ボクチャン 第二話

Last-modified: 2015-06-24 (水) 01:58:49
140 名前:逝犬 (sM/gOdog) 投稿日:2004/10/05(火) 12:58 [ 2nPH/zDE ]
黄色い私とピンク ナ ボクチャン 第二話
ttp://jbbs.livedoor.com/bbs/read.cgi/computer/5580/1067790306/585-590の続編


黄色い姉は焚き火を熾し、そこにもいだ腕や足を放り込んで体毛を焼いていた。

「長毛種は調理が大変よね…」

焚き火の中でみるみるうちに長いフサフサとした毛は縮み
辺りに独特のタンパク質の燃える匂いがこもる。
しぃと同じような細身であるにも関わらず、怪力を持つ姉は水を汲んだ大鍋を
軽々と用意すると、火にくべていたフサギコと思われる肉をその中に放りこんだ。

「ハァハァハァハァハァハァハァハァ……」

調理をしている姉の横で、モララーの姿をしているにも関わらずピンクの体色の弟が
息も荒々しく懸命に腰を使っている。

「ボクチャン…交尾もイイ加減にしなさいよ?
ったく、始めるとサルのごとく止まらないんだから」

姉は文句を口にしたが、その程度の注意で止まる訳が無いと分かっているのか
焦げ付いて所々凹んだ鍋の中身の骨付き肉をかき回しながら溜息をついた。
弟は姉の言葉を欠片も聞き入れず、白い体色が薄汚れ灰色や茶色になってきている
手足の無いモナーを抱えて揺さぶりながら、全く離そうとしないでいる。

「……ウッ……。…ネーチャン オナカスイタ…」

独特の揺れを短いうめき声と共に終了させた弟は、まるで玩具に飽きた子供のように
モナーを放ると、隣に立つ姉の足に絡みつき、食事をねだった。

「性欲が満たされたら今度は食欲ですか…ボクチャンって本当にイイご身分よねぇ」

言葉は刺々しいが、その表情は半ば呆れ
残りの半分は本当に馬鹿で仕方なくて可愛いわ…という、親馬鹿にも似たものである。

「コレ タベテモ イイ??」

姉がかき混ぜている鍋の中を覗き込み、弟は早くも待ちきれないという状態だった。

「これは、まだもう少し煮込んだ方がイイから、あっちの干し肉食べなさい。
それから、そのモナー、ちゃんと洗って片付けないと
後で交尾出来なくなっちゃうんじゃない?次のダッチワイフが、いつ捕まえられるかなんて
分からないんだから大事にしないと困るのはボクチャンだよ」
「ハーイ ボクチャン カタヅケ シテカラ ゴハン タベル」

姉がまるで母親のように弟に指示を与えると、その指示を聞いた弟は元気よく返事をして
モナーを連れて川へと下りていく。

「この間の大雨で、水かさ増えてるから気をつけなさいよー!」
「ウン キヲ ツケル~ デモ ナンカ ダレカ キテルカラ ネーチャンモ キヲ ツケテネー!!!!」
「そういう事は、早く言いなさ~い!ボクチャンのヴァカ~!!!」

小さくなっていく弟の後姿に罵声を浴びせながら、すでに自分の耳にも足音の聞こえ出した
町からの訪問者の到着を腕の動きを止めずに冷静を装って、姉はじっと待っていた。

141 名前:逝犬 (sM/gOdog) 投稿日:2004/10/05(火) 12:59 [ 2nPH/zDE ]
「料理中に悪いが、お嬢ちゃん、私達の相談に乗って欲しいノーネ」

隻腕に隻眼のノーネが、荷台を押している二人の連れと共に姉の背後に距離をおいて立つ。

「相談?相談に乗ると何かイイ事はあるのかしら?」

姉は鍋の中のスープを一口啜った後、後ろを振り返り、彼らを見上げた。

「相談に乗ってくれるなら、勿論、礼はするノーネ」

ノーネは姉の視線に一瞬、怯みかけたが、それを否定するように頭を振って言葉を発する。

「アナタからの礼??普通は一番美味しいはずの目玉すら美味しくなかったAAなんて
興味ないわよ?」

姉は口の端を少しだけ歪ませて笑うと、ノーネの今は亡き右腕と右目を舐めるように
持っていたオタマで指し示した。

「お礼は別に私じゃないノーネ…」

オタマをつきつけられたノーネが一歩、後ずさる。

「じゃ、アナタの後の美味しそうな…そっちのAAをくれるとか??」

姉はオタマを左にずらし、布の掛かった箱を支える一人であるショボーンを指名した。

「しょ、ショボッ!?」
「モナもショボーンも町長も、お礼なんかじゃないモナ!」

指名されたショボーンがショックで顔を青褪めると
箱のもう一人の支持者であるモナーが姉を睨む。

「言っておくけど、私が欲しいのは美味しい食事になるAAであって
お金とか宝石とか全然興味ないわよ…」

姉はノーネ達に背を向けると再び鍋の中身をかき混ぜ始めた。

「コイツで手を打って欲しいノーネ」

ノーネの声に荷台に乗っていた箱から布が取り払われる。
箱は鉄格子の入った簡易な牢で、一人のしぃが囚われていた。

「しぃ??私達に食べられる事を了承してるの?」

姉が檻の中に手を伸ばすと、しぃがその腕をグッと掴む。

「アゥ… ダッコ??」
「え?見た目、しぃだけど、コイツ、でぃなの?」

綺麗なしぃの毛並みでありながら、その言葉と動きはでぃ以外の何者でもなかった。
その不自然さに姉は驚きながらも興味津々っといった感じである。

「ああ、そうなノーネ…。話を聞く気があるのなら、コイツはお嬢ちゃん達にやるし
何でしぃの見た目なのにでぃなのかも教えるノーネ」

ノーネが輝きだした姉の瞳に気付き、左目を嬉しそうに細めた。

142 名前:逝犬 (sM/gOdog) 投稿日:2004/10/05(火) 13:00 [ 2nPH/zDE ]
「お茶も出せなくて悪いわね…川の水でよければボクチャンに持ってこさせるけど…」

ダンボールハウスに入る事を拒んで外で話を進めたがった3人を切り株に座らせ
姉は一人スープを啜っている。

「結構なノーネ…」

血の色をした液体を美味しそうに飲み下す姉から顔を背けながら
うめくようにノーネは断った。

「で、話を確認するけど私に町にやってきた虐殺者を殺して欲しいって事で
間違いないのかしら?」

姉は、面倒な話だと言った感じの迷惑そうな顔を隠そうともせずに訪問者に尋ねる。

「そうモナ。モナ達みたいな一般人には無理でも、お嬢ちゃんなら出来るはずモナ…
その報酬に、あのしぃをあげるから頑張って欲しいモナ」

鍋の中身を覗いて、すっかりのびてしまったショボーンを支えていたモナーが口を開いた。

「つまり、虐殺者が死ぬか、厄介な橋の怪物が死ぬか…どっちにせよ、悩みが一つ消えるし
あわよくば弱った所を狙って生き残った方も退治出来るかも…とか考えてる訳ね」

姉はノーネとモナーに向かって酷く優しい笑みを向ける。

「それは違うノー…」
「そうモナ」

否定しようとしたノーネを遮り、モナーがきっぱりと言い切った。

「了解。町長、私、嘘は嫌いなの…無事帰りたかったから正直でいて頂戴?
だけど、でぃ一匹で命を賭けるなんてチョット、悪条件過ぎるわ」

ノーネの声に表情を一瞬強張らせた姉が、モナーの言葉に再び笑顔になる。

「今までも沢山の町や街のAAを食べてるんだから、これ以上なんて冗談じゃないモナ」

モナーの方も負けじと姉に笑顔を向けた。

「…最近、町からのAAなんて食べた覚えが無いんだけど…何だか町の方たちが徹底して
橋への道を封鎖しているとか…」

姉は冷たい声で責めるように言葉を発する。
モナーと姉の雰囲気が険悪な睨みあいに突入し始めた時
その緊張を裏切るドタドタとした足音が響いてきた。

「ネーチャン! ボクチャン チャント アラエタヨー!! ゴハン チョウダーイ!!!」

水のしたたるモナーを抱えた弟は、姉に向かってまっすぐに走ってくる。

「ボクチャン、ご飯は家の中に吊るしてあるから好きに食べてイイわよ…。
姉ちゃんは、今、お話中だから…ってチョット??」
「ママ! ママダ! ダッコ! ダッコ シテヨー!」

弟は檻の中のでぃに気付くなり、抱えていたモナーを放り出し鉄格子にしがみついた。

「…フトマ…シィ…チャン?? ダッコ… スルノ??」

鉄格子が邪魔で抱く事の出来ない弟に向かって、でぃが必死に鉄格子の隙間から腕を差し出す。

「…コイツもボクチャンの事をふとましぃだと思うのね……あら、どうしたの??」

でぃと弟のやりとりから目を背けた姉は、ショボーンを支えていたはずのモナーが
だるまと成り果てた女モナーへ真っ青な顔で駆け寄ったのに気付いて尋ねた。

「モナの…モナの娘が…どうしてこんな事に…そうだ、ギコは…娘が彼氏のギコを
紹介すると言っていたはずなんだ…モナーと一緒にギコがいなかったモナか?」

涙も隠さずモナーが姉を睨みつける。

「娘だったの?お気の毒様。この人は死にたくないって言ったから手足を貰ったんだけど
一向に何処へも行こうとしないからボクチャンのダッチワイフとして飼ってるの。
ギコは…私の事、傷つけようとしたから食べちゃったわ。骨なら川にまだ落ちてるかもね」

姉の言葉にモナーは立ち上がり、彼女に向かって拳を振り上げようとした。

143 名前:逝犬 (sM/gOdog) 投稿日:2004/10/05(火) 13:00 [ 2nPH/zDE ]
「やめるノーネ!」

ノーネが振り上げた拳を左手で掴み捻りあげる。

「だけど、町長!モナはもう、我慢できないモナ!やっぱりコイツらに頼むなんて無理モナ!
こんなAAをAAとも思わない化け物なんか……」

モナーが頭を抱え、薄く笑う娘の上に崩れ落ちた。

「部下がすまなかったノーネ。坊ちゃんの方は、あのしぃを気に入ったみたいだけど
やはり私達の依頼は受け入れられないノーネ?」

ノーネはモナーの前に立ち、姉を見下ろす。

「しぃじゃなくてでぃでしょ??ったく、痛い所つくわね…
ボクチャンがあんなに気にっているんじゃ依頼受ける以外の選択肢が無いじゃない…。
で、あのでぃは何でしぃの見た目なの?」

姉は依頼を断れなくなった事に苛立ちながら、それを紛らわせるためなのか
荒々しい言葉で尋ねた。

「虐殺者に目の前で子供を殺されたノーネ…それで心だけでぃになったという訳なノーネ…」

ノーネがでぃの入った檻を振り返って呟く。

「そういう事…。だから、私とかボクチャンをダッコしたがるのね…」

必死にダッコを繰り返すでぃを複雑な表情で姉が見つめた。

「それで、いつ、決行してくれるノーネ?」

姉の方に視線を戻したノーネが静かに尋ねる。

「準備が整い次第、すぐに行くわ」

ノーネの言葉に、落ち着いた声を発しながら姉も視線を戻した。

「そうそう、このモナーは連れ返させて貰うノーネ」

ノーネは姉を刺激したくないのか、その言葉の響きはついでのように軽い。

「ボクチャンのイイ玩具だったんだけど仕方ないわね…ドウゾ持ち帰ってくれて構わないわ」

姉の玩具という言葉に、だるまを必死に抱えいているモナーがビクリと体を震わせた。

「ほら、帰るから起きるノーネ!」

ノーネは未だに気絶していたショボーンを叩き起こし、モナーを無理矢理立たせると
姉に深々と頭を下げる。
彼らは重く引き摺るような足取りで、台車にだるまモナーを載せて来た道を戻っていった。


「さぁ…約束を違えるのはイヤだし、このでぃを外に出すための鍵は
依頼をこなしてからじゃないとくれないって言うし、いっちょ出掛けてきますか…」

姉は煮込んでいたスープの鍋の火を消すと、腕を一杯にひろげて伸びをする。

「ネーチャン オデカケ イッテラッサイ ボクチャン ママ ト オルスバン ナンダカラナ!」

檻に張り付くように、随分と不自然な姿勢ででぃに甘える弟を姉は苦笑しながら見つめていた。

「はいはい、出掛けるのは面倒なのね…今日はご飯に虐殺厨でも捕まえてくるから
おとなしくしてて頂戴ね」

姉は特に道具も持たず、身一つで町外れの橋から町へと歩み始める。

144 名前:逝犬 (sM/gOdog) 投稿日:2004/10/05(火) 13:01 [ 2nPH/zDE ]
「虐殺厨を隔離してる区画ってのは、この辺でイイのかしら?」

廃墟と成り果て物音一つ立たない民家の群れの中に立った姉は、周囲を見回し耳をそばだてた。

「ボクチャンがいれば何処に虐殺厨が隠れてるかなんて
あの超人的な聴力で簡単に分かるのに…やっぱり平凡な五感じゃキツイわねぇ……」

姉はキョロキョロと辺りを見回していたが、不穏な気配を察したのか、急に動きを止め
自分の五感の鈍さを溜息と共に嘆く。

「ま、代わりに私には運動能力と第六感が冴えてるって利点もあるのよ!」

背後に迫った虐殺厨の気配を敏感に感じ取り、姉は虐殺厨が手に握っていたナイフを蹴り落すと
その首をめがけて手を伸ばした。

「好奇心旺盛でアフォな子供が、度胸試しでもしにきたと思ったんだけど…
これだけ厳重に封鎖されてるんだもの…警官達殺した後にやってくるのが
ただの子供な訳無いってことなのね」

頚動脈を的確に狙った姉の爪を紙一重で避けた虐殺厨がニンマリと笑う。

「今ので死んでれば苦しまずに済んだかもしれないのに、貴女ついてないわね…」

姉は足元に落ちたナイフを虐殺厨に拾わせない為に後へ蹴った。

「お嬢ちゃんこそ、お家でママにダッコでもねだってるべきだったんじゃない?
こんな所に来なければ、短い一生を終えなくて済んだんだから」

虐殺厨が懐に隠し持っていた別のナイフを取り出し、姉に向かって突き立てる。

「ママもパパも私の家にはいないの三振王の虐殺厨さん…
残念だけど、私はヒットを取ったわよ?」

背の低さを活かして、姉は虐殺厨の懐に潜りこみ、足の肉を抉った。

「あら?この程度じゃファールでしょ?致命傷には程遠いんだから」

虐殺厨は足を取られて動きを止められる事を避けたかったのか
懐に潜り込んだ姉を深追いせずに後へと飛びのく。

「致命傷には少し遠いけど、思ってるより、ずっと傷は深いかもよ?」

姉は虐殺厨から抉り取った血の滴る生肉を口に含んだ。

「え?そんなに肉があるわけ…痛みは薄かったはずなんだから…キャ…バランスが…」

虐殺厨がバランスを崩し倒れこむ。
その左足の腿肉は姉の手の大きさの分だけ、骨が見えるほどの穴があいていた。

「鋭い刃物で上手いこと切り取られると、痛みをすぐに知覚できないんですって…」

虐殺厨を見下ろし、姉が微笑む。

「子供の癖に虐殺の名人気取り?」

虐殺厨の額に脂汗が浮かんだ。

「貴女と一緒にしないで頂戴…父さんが言ってたわ…
食べもしない命を殺めるのは愚か者の証だって…」

苦し紛れに虐殺厨が繰り出したナイフを腕ごと足でねじ伏せ、姉は再び頚動脈に爪を向ける。

「じゃぁ、私を殺そうとしているお前だって愚か者な訳ね…
パパやママがいないなんて言ったけど、どうせ親に捨てられた孤児なんでしょ?
食べもしない命を殺めて捨てられたんだから…」

虐殺厨は少しでも姉に不快感を与えたいのか、余裕な素振りで言葉を続けた。

「あら、私は、貴女を食べるもの…何の問題もないでしょ?」

しかし、姉は怯む事など何も無く、そのまま虐殺厨の首をはねる。

「それに、私は捨てられたんじゃないの……。私達が…捨てたのよ」

物言わぬ肉塊なった虐殺厨に言い聞かせるように、姉は呟いた。

145 名前:逝犬 (sM/gOdog) 投稿日:2004/10/05(火) 13:02 [ 2nPH/zDE ]
「コレ、始末したけど、鍵は何処で貰えるのかしら?」

姉は怖がる町役場のAA達をしり目に、虐殺厨の首をカウンターに置いて尋ねる。

「…コッチに来て欲しいノーネ」

職員のざわつきに気付いた町長が、姉を見つけ声をかけた。

「重いから、コレ、置かせてね。あ、片付けないでよ。大事な食糧なんだから!」

死体の処理をどうしようと話す職員の言葉を聞いた姉は、そう釘を刺すと
町長の部屋へと移動する。
職員達は死体からなるべく遠い場所で、姉の言葉に頷いた。

「まず、怪我の手当てをさせて欲しいノーネ…」

人払いをした町長室で、ノーネは机から救急箱を取り出す。

「怪我?何処も怪我なんかしてないわよ。コレは全部返り血だし…」

姉はノーネの行き過ぎた心配だと笑ったが、それを気にもとめずに
ノーネは姉の手や顔をハンカチでぬぐった。

「ここも、ここも、自分の血が出てるのに気付いてないノーネ…」

拭った先に小さな切り傷やかすり傷が現れ、ノーネはそこに消毒液をひたした綿を
丁寧にあてがっていく。

「あ、ありがと…でも、この位、平気よ」

姉はノーネの気遣いに困惑して、そっぽを向いた。

「そういう訳にもいかないノーネ…私は君の父さんから面倒を見る様に頼まれてるノーネ…」

消毒を終えたノーネが応接用のソファーへ腰をかける。

「町長も大変よね…私達に町に来ないように、でも父さんの顔も立てなきゃいけなくて…
橋に留まらせるためとはいえ、自分から眼を抉ったりしてさ…」

姉はノーネの対面に座ると、自分が抉ったことになっている右目の痕を指でなぞった。

「…えーと、そうだ…あの、しぃのことで話があるノーネ…」

自分の事に話が及ぶとノーネは苦笑いを浮かべて、話題をかえ始める。

「まさか、鍵が渡せないなんて言うんじゃ……」

ノーネの口調に姉が顔をしかめた。

146 名前:逝犬 (sM/gOdog) 投稿日:2004/10/05(火) 13:03 [ 2nPH/zDE ]
「それは無いノーネ…約束の鍵はここにある…けど、彼女を食べるなら
出来るだけ一思いにやって欲しいノーネ…」

ノーネは鍵を差し出しながら、懇願するように姉の顔を見つめる。

「私は別に食べ物で遊ぶほど、行儀悪くないから大丈夫よ。
その辺は父さんに躾られてるもの…」

姉は、何だそんな事…とでも言うように頷くと、鍵を受け取った。

「アイツの仕込なら安心なノーネ。あのしぃは…あの子は…目の前でジワジワと子供を
嬲り殺しにされてね。発見された時は電柱にくくりつけられて
3つの惨殺死体の前で、すでに発狂していたノーネ」

惨状を思い出しているのか、ノーネの表情は酷く重い。

「あの虐殺厨…食べもしないのにどうして殺すのかしら?
父さんの家系の中にも快楽殺しぃをする人がいたけど、理解出来ないのよね」

食事の為以外のAAの殺害を理解できない姉は、ノーネなら答えを知っていないだろうかと
疑問を口に出した。

「さぁ…私には虐殺厨の気持ちなど分からないノーネ…。でも、あの子の事情なら
少しは分かる。あのしぃは、すっかりこの世に意識が無いノーネ。
病院に入れて回復させようともしたんだが、誰彼かまわず我が子と見なして抱きしめて
職員達がいたたまれないと心を病む始末でね…
だから、せめて、出来るだけ安らかにさせてあげたいノーネ…」

ノーネは左拳を握り締めながら、しぃ一人救えないふがいない自分を嘲笑う。

「つまり、安楽死がわりに、私の所に寄越したって訳ね。
しばらくはボクチャンがダッコをねだって、あのまま一緒に暮らすと思うけど
もし、食べる事になった時は、必ず、楽に終わるように屠殺するから安心してイイよ」

ノーネに約束をすると、姉はソファーから立ち上がった。

「あ、お茶も出さずに済まなかったノーネ」

立ち上がった姉に、ノーネは非礼を詫びる。

「そんな気遣い御無用よ。そんな事してたら、私達が馴れ合ってるのがバレて困るわよ?
町長を辞めたくないんでしょ?」

ノーネの言葉に姉が苦笑いを浮かべた。

「町長を辞めたくないんじゃない…この町の平和を願ってるノーネ…。
私が町長でなくなって、君達を隔離する政策でなく討伐に向かう事になったりしたら
この町は、あっという間に食料庫にされるに決まってるノーネ…」

ノーネは思わず、そんな未来を脳内に描いてしまったのか、顔が青くなっている。

「そんなに大食いじゃないわよ…でも、討伐に来た人達で保存食が増えるのは確かね。
じゃ、ノーネさんバイバイ…」

姉は一呼吸置いて、表情を険しいものにかえてから町長室の扉を開けた。

「じゃ、皆さん、お騒がせしました。いつでも橋に遊びに来てくださいね」

姉は部屋の隅で震えている職員達に微笑みかけると
虐殺厨の首を小脇に抱え身体を担ぎあげる。
そして、職員達の畏怖と軽蔑の視線を浴びながら
持ち込んだ死体のせいで生ぬるい酸化鉄の匂いが充満した町役場を後にした。

147 名前:逝犬 (sM/gOdog) 投稿日:2004/10/05(火) 13:04 [ 2nPH/zDE ]
「ただいま、ボクチャン…新しいご飯が手に入ったわよ~?ほら、鍵も…って、何で、檻が壊れてるの??」

足音を聞きつけて駆け寄ってくるはずの弟の姿が無いのを不審に思った姉が声をあげたが
ダンボールで作られた家の前においた、しぃの入った檻が壊れてるのに気付き
虐殺厨をその場に落として駆け出す。

「ネェチャン… ギャクサツチュウ ガ キタヨー タスケテー!!」

弟の叫び声を聞いて、姉は家の中へと駆け込んだ。

「ボクチャン!どうしたの!?」

弟は歯形のつけられた耳から軽く血を流すしぃと抱き合い、部屋の隅で震えている。

「…よっ!久しぶりなんだからな!何処行ってたんだ?
揃ってないと黄桃姉弟って呼べないんだからな」

玄関に座り込んでいたモララーが姉に親しげに声をかけた。

「黄桃って呼び方はやめてって言ってるでしょ…父さん…」

緊張していた面持ちを一気に緩ませて、姉はげんなりとした顔で吐き出す。

「お前がオウでコイツがトウ…纏めてるだけなのに何が嫌なんだよ?」

姉と弟と交互に指差し、モララーが笑った。

「何か適当にあしらわれてる気分になるんだもん…所で、父さん。
どうして、しぃの檻を壊しちゃったの?」

弟と抱き合うしぃを見つめて、自分の手に握っていた鍵が無駄になったことを
姉は少し嘆いている。

「ん?美味そうなしぃだと思って調理前に味見したんだが…でぃだったんで諦めたんだ」

モララーは悪びれもせずに姉に笑いかける。

「父さんは、私達と違って、肉はしぃしか食べないもんね。…ボクチャン…何回も言うけど
この人は虐殺厨じゃなくて、父さんなんだからね…」

怯え続ける弟に姉が言って聞かせるが、それでも弟はしぃと抱き合い震え続けていた。

「ギャクサツチュウ ダヨー ママヲ タベチャッタ ギャクサツチュウ ダモン!! コワイヨ ママ…
ボクチャンヲ タスケテ ホシインダカラナ」

弟はしぃの腕の中から少しだけ頭を出し、父であるモララーの様子を恐る恐る伺っている。

「アゥ… フトマシィチャン ダイジョブ… ダッコ スル コワク… ナイ」

しぃは弟をしっかりと抱きしめ、その背中をあやすように撫でた。

「…母さんが食べられたって言いながら、そのしぃにママって抱きつくのは…
まぁ、イチイチ矛盾に突っ込んでたら切りが無いわね。お久しぶりです。お父様。
本日はどのような御用向きでしょうか?」

その様子を冷ややかに見つめていた姉だったが、無駄を悟ったのか
モララーに対して改まった態度で挨拶をする。

「今更、堅苦しい挨拶なんてやめて欲しいんだからな。僕が今日ここに来たのは
お前らの様子見……ってんじゃ納得しねぇか…」

姉の様子を笑い飛ばした後、モララーはふざけたままの様子で彼女を見つめたが
非難の視線に言葉を止めた。

「当たり前です。わざわざ来るからには何か本家であったんでしょう?」

姉は、硬い表情のまま、モララーを見つめ続ける。

「まぁな…オウ、良かったら俺と一緒にしぃセンターに行かないか?
本家の話は、これを受けるならしてやるんだからな…」

娘の名を呼び、モララーが提案をした。

「しぃセンターへ…父さんと行くんだから保護施設の視察…なんて
生やさしい事情じゃないわよね」

姉は考えるために目を閉じ、緊張で乾く口腔を唾液で潤そうとゴクリ喉を鳴らす。

「ネェチャン…」

ピリピリと周りが痛みを感じる程の緊張に耐えかねて、不安げに弟が姉を呼んだ。

「イイわ。本家の話をして頂戴」

姉は覚悟を決め、目を見開く。
橋が風にゆられギシギシと鳴り、紙で作られた家がミシミシと不安な音を立てた。

「オウの度胸の良さが僕は好きだよ。例え、それが蛮勇でも…だからな」

姉の鋭い視線を受けて、モララーが嬉しそうに笑う。
背中を伝う冷たい汗の感触の知覚を拒むように、黄色いしぃは不敵に笑う目前の男を見つめ続けた。


第二話 終