AA失格

Last-modified: 2015-06-01 (月) 00:18:23
995 名前: AA失格(1) 投稿日: 2003/10/30(木) 16:05 [ iHohIcs6 ]
とある街にある総合病院に一匹のお腹を大きくしたしぃが姿を現した。
待合室の一角にある受付へとやってくると、担当の事務員に話し始めた。
「シィ、コドモソダテルノメンドクサイカラ、チューゼツシジツ、ッテノヲオナガイシタイノ。」
それを聞いた事務員は目を白黒させ、説得を始めた。
しかし、当の本人は全くそれを聞き入れようとしない。
そればかりか、大声を張り上げて騒ぎ出した。
周囲にいる他の患者達の視線はその場へと集中する。
「ナニヨ!! オナカガオオキイト ゴハンヲタベルノニ、モノスゴクジャマナノヨ!! カワイイシィチャンガウエジニシテモ、イイッテイウノ!?」
事務員は諦めるとしぃに番号札を渡すと、席に座って待つように告げた。
10分もしないうちにまたしぃが騒ぎ始めた。
「カワイイシィチャンヲイツマデマタセルツモリナノ!? ココノビョウインハギャクサツチュウノテサキナノ!?」
それを見かねてか、他の患者が静かにするようにと注意すると急に泣き始めたのだ。
泣き叫ぶ甲高い声が響き渡り、警備員がしぃに歩み寄る。
「いいかげんにしてくださいよ。これ以上騒ぐならここからでていってもらいますよ!?」
「ナニヨ!コノカワイイシィチャンガ ワザワザココノビョウインニキテアゲタッテイウノニ!! シィチャンノオナカニイルコドモヲ ハヤクナントカシナサイヨ!!」
「診療してもらいたいなら、番号札に書かれている番号が呼ばれるまで待ってくださいよ。」
「カワイイシィチャンハイチバンナノ。シィチャンガイチバンジャナイトマターリデキナイデショ!!」
「・・・・・。」
話しをしても無駄と判断した警備員が詰めより、表へと連れ出そうとする。
そこに一部始終を見ていた一人の青年が近寄った。
青年はしぃを一瞥すると口を開いた。
「治療を受けたいんですか?妊娠されていますね・・・。産婦人科はこちらですよ。どうぞ。」
親切な青年の案内にしぃはパッと笑顔になり、彼の後をついていった。
「それじゃあ、その椅子にかけてください。」
「ハニャ?オニイサンガ、シィノオナカヲミテクレルノ?」
青年は白衣についている名札をしぃに見せた。そこには産婦人科、モララーと記載されている。
「ヨクワカンナイケド、シィチャンヲシンサツシテクレルナラダレデモイイヨ!」
「・・・それでは今日はどのような・・・?」
しぃは事務員に話した事をまた彼に話した。モララーは驚きの色を隠せなかった。
「それでいいんですか?あなたはこれから産まれてくる命を死なせてしまうんですよ?」
「コドモナンカヨリ、シィチャンガシヌコトノホウガタイヘンナンダヨ!! シジツニカカルオカネグライモッテルカラ、ハヤクチューゼツシジツシナサイ!!」
「・・・わかりました。いろいろと手続きをとらなければなりなせんので、3日程したらまたおいでください。」
「エー!ソンナニマツノ!?マタココニクルノメンドクサイヨ。イマスグチャッチャットヤッチャッテヨ!!」
「規則ですから・・・。」
モララーの説得に応じたしぃはしぶしぶと席を立ち、病院を後にした。

996 名前: AA失格(2) 投稿日: 2003/10/30(木) 16:08 [ iHohIcs6 ]

3日後。青年モララー医師の手によってしぃの手術は無事完了した。
鼻歌交じりに彼女は病院から去っていった。
それからさらに数ヶ月がたったある日の事。彼がいる医務室へと彼女が姿を現したのだ。
腹部は以前と同じように膨らんでいる。
「ハニャ!オニイサン、シィ、 マタコドモデキチャッタノ。 マタ シジツシテ。」
「な、何を言ってるんだ?君は?子供の命をなんだと思っているんだ!?」
「シィハ、ナニモワルイコトシテナイヨ。2カイグライコウビシタテイドデ、ウマレテクルコドモガ、イケナインダヨ!」
飄々とした態度で中絶手術をしてくれと話すしぃ。
しぃを目の前にしてモララーの心にどす黒い憎悪のようなものが渦巻き始めていた。
「わかりました。では手術を行いますので、そちらの搬送用ベットへと横になってください。」
「ワカレバイイノヨ。」
モララーは搬送用ベットへとしぃを乗せるとエレベータに乗り込み、手術室へと向かった。
エレベータが到着すると、搬送用ベットを押してある一室へと入る。
そこは引き取り手のない遺体を一時的に保管する場所だった。
部屋の中は薄暗く、冷たい異質な雰囲気で満たされていた。
「コンナトコロデシジツヲスルノ?」
モララーはしぃの問いには答えず、部屋の壁に設置されている取っ手を引く。
そこから出てきた鉄製の板へとしぃを叩き落した。
「ナニスルノヨ!!ツメタクテ キモチワルイバショニツレテキテ、ドウシヨウッテイウノ!!」
「うるさい!お前は命をなんだと思ってるんだ!まるでゴミを捨てるような感覚で病院にやってくるなんて間違ってる!!」
モララーは怒りに満ちた形相でしぃの顔を殴りつけた。
「シィィィィィッ!!シィノカワイイオカオニ、ナンテコトスルノヨ!!コノギャクサツチュウ!!」
「命を粗末に扱うお前がいう事かッ!いう事かッ!いう事かッ!いう事かッ!!」
彼は叫びながら何度も何度も殴りつづけた。
自分の拳の皮膚が裂け、肉が露出し血が流れてもその動きは止まる事はなかった。
「ウブ…シ…シィハ…ナニモワルイコトナンカ…シテナイノニ…」
顔面は醜く膨れ上がり、痣だらけになりながらもしぃの口はまだ動いていた。
小1時間ほど経過した頃。
モララーは緑の手術服に着替えを済まし、メスなどをのせた台車と共にしぃのいる部屋へと姿を現した。
しぃは仰向けのまま眠りについているようだった。
モララーはしぃの顔を平手で叩き起こすと、しぃは震える体で彼を見つめた。
「オナガイ…ダッコサセテアゲルカラ、ユルシテ…。」
「それじゃあこの子をだっこしてあげるんだ。」
そう言ってモララーはしぃの隣にある取っ手を引き、そこに横たわるモノをしぃに差し出した。
それはぬめぬめとピンク色の光沢を放つ肉の塊だった。

997 名前: AA失格(3) 投稿日: 2003/10/30(木) 16:09 [ iHohIcs6 ]
AAでいう所の頭部にはかろうじて眼窩とおぼしきものが確認できる。
「ナニヨ!コノキモチワルイノ!ソンナノダッコサセヨウダナンテ、ヤッパリアンタハシンセイノギャクサツチュウヨ!!」
「これは君の子供だよ。前の手術で死んだけどね・・・。」
「ソンナモノ、シラナイヨ!!チカヅケナイデチョウダイ!!」
しぃは差し出された子供の亡骸を突き飛ばした。
グチャリ。柔らかい肉の潰れる音が響く。
その態度に今まで抑えていた憎悪の塊は弾け飛び、それは奔流となって彼の全身を怒りで爆発させた。
モララーは一本のメスを手に取ってしぃの腹部へと突き刺した。
それと同時に叫び声が部屋中に響き渡り、しぃは四肢をばたつかせる。
「痛いだろうっ!苦しいだろうっ!お前の子供もそれだけ苦しんだんだ!!それを理解するんだよ!!」
「シィィィィィィィィィッ!!オナガイ!!ヤメテェェェェェェ!!!」
痛みを訴え、暴れ回るしぃの手足を縫合手術に用いる糸で縛り上げ、突き刺したメスを握り締めると
傷口を掻き回すしていく。
たちまち鮮血がほとばしり、モララーの手や胸を赤く染め上げる。
傷口が握り拳大に広がると今度はメスを置き、そこに両手を入れて、左右に傷口を広げていく。
皮が裂け、しぃの体からは血が大量に流れ出る。
「シィノオナカ!オナカガァァァァァ!!!」
悲痛な叫び声にも構わずモララーは腹部を素手で引き裂くと、生々しい輝きを放つ内蔵が露出する。
息も絶え絶えになりながらも助けを乞う姿を横目で見ながら、モララーはしぃが突き飛ばした子供を優しく抱きかかえた。
「この子を見てみろ。お前に抱きかかえられる事もなく、優しさもなにも与えられずに死を遂げたこの子をッ!!」
「ハニャ…ダゴ……サセテアゲ……オナガ……タスケ…。」
しぃは口を金魚のようにパクパクとさせ、視点は宙を泳いでいる。
死ぬ直前になってもなお、自分の保身の事しか考えないその姿にモララーは無言でしぃの心臓へとメスを突き立てた。
「フギャ…。」
か細い悲鳴を上げ、しぃは絶命した。
モララーはしぃと胎児を繋げているへその尾を切断し、胎児をそっと取り上げて優しく抱き寄せる。
母親の愛情を受ける事無く、命すら与えてもらえなかった子供達。
モララーはその二人を抱き締めた。
大粒の涙が頬を伝い、二人に流れ落ちる。
自分でも気付かないうちに彼は泣いていた。
「失格だ・・・。医師としてだけではなく・・・僕は・・・。」
「AAとしても・・・・・・。」
すすり泣く彼の声だけが安置室に虚しく響いていた・・・。

                    糸冬