エクスタシィの復讐

Last-modified: 2015-06-26 (金) 02:32:58
618 名前:RYOr 投稿日:2006/04/19(水) 16:48:14 [ gQSbjt12 ]
『エクスタシィの復讐』

「オカアサン」
目の前の母親と三人の姉達はそれぞれ小腸や、
私の妹になるはずだった胎児を口に押し込められたりしながら
住処のダンボールを真っ赤に染めながら静かに濁りきった目で
私を見つめていた。
お母さんの白いきれいなフサフサとした毛は
血でしっとりと、濡れていた。
抱きついたお母さんは冷たくてもう固かった。
「オネエチャン」
三人の姉達はどれこれも腹に穴が開き
グチャグチャに掻き回されていた。
私はひとしきり泣いた後にダンボールごと家族を焼いて
前にお母さんと遊びに行った丘に埋めた。

お母さんと姉の墓標を見つめて考えたことは一つだけ、
『復讐』だった。

殺した相手はよくわかっている。
金物屋の息子のモラ男だ。
あいつの店では傷んでいる包丁等を息子に虐殺用の玩具として
渡しているのだ。それがお母さんの耳に刺さっていた。
しかし、アフォしぃにとって凶悪と名高いモララーに、
私の非力な腕では到底敵うはずがない。
だが、私には一つだけ勝算があった。
しぃ族にのみ作用し痛みと苦しみを快楽に換える薬物がある。
それは昔、と言っても十年程前だが、アフォしぃに対する
モララーなどのあまりに酷い対応に一度だけ、普通のしぃたちが
反乱を起こしたことがある。
その時に開発されたのが反乱兵の怪我等の痛みを和らげるための
薬剤だったがこれを使うと現れる快楽を求め乱用し、
あろう事か自らモララーに突っ込んでいく反乱兵までが現れ
それが結局反乱の発覚につながり反乱は失敗に終わった。
実はその反乱軍の残党はここに逃げのびて、余った薬物を
お母さんを埋めたこの丘にひそかに隠してあるのだ。
―これを使えばモラ男に多少の怪我を受けても復讐を遂行
できるはずだ。
そして私はお母さんがその反乱軍の最後の生き残りという事も
知っていた。

私は作戦を一通りまとめるとお母さんの墓標に背を付けて
眠りについた。
お母さんの墓標はゴツゴツしていて冷たかった。
…できれば私もこの墓に入りたかった。
でも、それはおそらく無理だろう。
復讐に成功したにしろ失敗したにしろ多分無事では済まない。
それでも、私はもう他の事は考えていない。
私は 明日 モラ男を 道連れにして 死ぬ。 ―それだけだ。

瞳をとじると一粒、涙が流れた。

619 名前:RYOr 投稿日:2006/04/19(水) 16:48:56 [ gQSbjt12 ]
夜があけると私は早速よくお母さんが掘り返していた丘の
一番大きな木の下を手で掘る。

ザッ  ザッザザッ

掘り返すとそれは小さな腐りかけている木の戸だった。
鉄の金具があって私は取っ手を掴むと引き上げた。

ギギィと音を立てると戸は苦しそうに開いた。



『エクスタシィ』、痛みを快楽に苦しみを喜びに換える薬物の名だ。
この名を始めて聞いたのは本当に小さい頃だった。
それは、町でも評判の変わり者のしぃの老婆が話してくれた。
今思えば彼女も反乱軍の残党の一人だったのだろう。
今でもお婆さんの言っていた事はよく覚えている。
それから、何気なく『エクスタシィ』と呟いた時の母の顔も。

…感傷に浸る暇はなかった。
早くにでもモラ男の苦しむ顔の見たかった私は、
黴臭い地下室の湿ったダンボール箱のガムテープを剥ぐと、
私は箱の中身を見る。
箱には大量の針にゴムでできた簡素なカバーで保護された注射器で
敷き詰められていた。
その一本を指で丁寧に持ち上げると私は地下室を飛び出しモラ男の
よくいる路地裏に向かった。



路地裏に着くとモラ男はまだ未成年だと言うのにタバコをくわえている。
使う武器は母の命を奪ったであろうナイフが一本、エクスタシィも一本。

充分だ。

私は注射器を腕に刺しエクスタシィを注入する。
徐々に針の痛みに気持ちよさを感じ始めた。
だが、効果を楽しんでいる時間はない。
私はナイフを構えるとモラ男に向かって奇襲を開始した。

ゴミ箱の陰に隠れていた私はモラ男の腹目掛けて
ナイフを突き出す。

620 名前:RYOr 投稿日:2006/04/19(水) 16:50:56 [ gQSbjt12 ]
だが、モラ男は既に私に気付いていた。
突き出されたナイフは手刀で弾かれナイフは空を舞い、
そもそもの持ち主のモラ男の手に戻った。
モラ男は武器を奪われ今や抵抗のすべのない私に
ナイフの持ち手を力いっぱい私の頭に振り下ろした。

私の体はバランスを崩し地面に崩れ落ちた。
当然ながら立ち上がろうと頭をあげる。
しかし立ち上がろうとあげた私の頭をモラ男の足が踏みつけた。
湿ったアスファルトと切れた唇から流れ出た血の味がした。
だがしかし、私は苦しみを感じていなかった。
あぁ、全く凄まじいな。これがエクスタシィか。
そんなことを実感している間にもモラ男は激しく足に力を
入れる。
でも、じきにそれも飽きたようでモラ男は私の頭から
足を離した。
左手で私の耳を掴むとモラ男は右手のナイフに力をいれ
私の腹に目一杯突き刺した。

「ガホッ…」
モラ男の顔に私の血やよだれの混ざった液体がかかる。
腹から熱いものがこみあげ喜びに変わっていく。
だんだん、息が荒くなっていくのにもかかわらず全く苦しくはない。
モラ男は私の耳を離すと胸に足を置き屈みこむと私の右目に
ナイフを入れ、ゆっくりナイフを動かして行き目玉を抉りだす。
モラ男は私の目玉をなにか、私に話しかけながら口に押し込む。
最後にモラ男は私の腹にもう一度、今回は何回も何回も
ナイフを突き刺す。
飛び出たり引き千切れた小腸の破片が空を跳ね回る。
目の前にはもうどこの内臓とも区別の付かない破片が見える。
モラ男は去り際に一瞬だけ私を見ると、去っていこうとした。
仰向けに倒れている私は横にどうやら捨てて行ったらしい
お母さんを殺したナイフが落ちていた。

もうあまり力が入らないが体はまだ動いた。
私はナイフを握ると立ち上がった。

621 名前:RYOr 投稿日:2006/04/19(水) 16:54:32 [ gQSbjt12 ]
「アァァァァァァァァ!」
今まで出した事もないような叫び声をあげるとモラ男に
渾身の突進を行った。

モラ男は信じられないような目つきで振り向いた。

ドッ

驚いていたモラ男に避ける暇がなかった。
倒れたモラ男の胸にナイフが突き立っていた。
その後モラ男はぴくりとも動かなかった。

なんだ、あっけない。
これがお母さんと姉、はたまたもっと沢山の
しぃを殺した男の最後か。
私は満足感を味わいながら近くのビルの壁に寄りかかり
座りこんだ。

座り込む壁は想像以上に冷たい。
腹に触れるともう私はすっかり冷え切っていた。
しばらくボーっとモラ男を眺めていると私はブワッと
痛みがゆっくりと戻ってくるのに気付いた。

どうやらエクスタシィは何年も立つ間に劣化して効力が
よわまってしまったらしい。

しかし、その痛みは激痛というには程遠く
たまに思い出したかのようにピクリと痛むだけだった。
ふと、歯に何かがぶつかる。
ああ、そうだ抉り取られた目玉だ。
ペッと吐き出した目玉は静かにこちらを見ていた。

片目しかないのに視界は驚くほど鮮明で憎いモラ男ですら今までに
みたことないほど光り輝いて見えた。

けれどもそれは私にはあまりに眩しすぎた。
最後に好きだった青い空を見上げるとそこには鮮やかな空は見えず、
灰色にどす黒くよごれた雨雲が見えた。

私は最後にたっぷりの血を口から吐くと目を瞑った。
                        

 -終-