BAD DAY

Last-modified: 2015-06-23 (火) 00:38:04
256 名前: BAD DAY 投稿日: 2004/01/10(土) 13:00 [ 9oKcKJlo ]
BAD DAY

ついてない日ってあるよね?
朝から目覚ましが壊れて鳴らなくて、あせって着替えてもネクタイが見つからず、
10分くらい探して、そういえば昨日洗濯してそのままだったのを思い出して、
なんとか用意済まして走って駅に行くけど、間に合ったと思ったら電車が行った後・・・なんて。
ここまで行かなくても、誰しも大小ツキが無い日ってのは経験あると思うんだ。
そんな日はホント落ち込むよね。
けれど、人生不思議なもんで、かならず帳尻がつくようになってるんだよ。
結局は、+-0の状態に必ず戻る。
これは、ボクが体験した、そんな奇妙な話・・・。

その日、ぼくは依頼があった農園へ、しぃの駆除をしにいったんだ。
あ、いい忘れてけど、ぼくは「しぃ駆除総合センター」のエージェントをやってる。
エージェントなんて聞こえはいいけど、ホントはただの駆除係さ。
けど、人数のわりに駆除対象が多すぎるから、まだまだ人手は足りてないんだ。
だから結構給料はいいんだよ。
話を戻すと、その農園ではかなりの数がいるから、ボクのような経験豊富な人、
と言う依頼だったらしい。

「どうもー、しぃ駆除総合センターの者ですけどー」

ぼくは農園の東にある家に声をかけたんだけど、途中見かけただけでしぃはかなりの多さだった。

「ああ、よくいらっしゃいました。もう、困り果ててまして・・・」

出て来たのはおじいさんだった。けど、随分疲れた様子で、なんだか気の毒だったな。

「ご安心ください、私が来たからには、あのような輩どもに好き勝手はさせません。」

まずはおじいさんを安心させて、詳しい話を聞いてみた。
どうやら被害は、作物を荒らし、勝手に家を設け、フンを撒き散らし、さらには
家にまで侵入を試みると言う話だから相当のものだ。

「なるほど・・・これはかなりの大仕事になりそうですな」

「お金はいくら掛かってもかまいません。あいつらのおかげで収入は激減し、
 夜は満足に眠れず、挙句には罵声を浴びせてきて私が怒るのを見て楽しむ始末。
 こんなじじぃの体なので自ら制裁を加える事もかないません。
 私が後10年若ければあんな真似させないのですが、それを思うと、もう悔しくて・・・」

悔し涙を流すおじいさんを見て、僕の胸には義憤がわいて来た。
外からは、なるほどおじいさんをなじる声が聞こえてくる。
ぼくは、一刻も早く仕事に取り掛かりたくなった。

「おまかせください。あなたの農園は、必ず私が守って差し上げます」

「おねがいします。どうか、どうか・・・」

そして、ボクは腰の刀を抜いた。
みたところ、この農園はそれほど広くは無い。まぁ、おじいさんが一人でやってるから無理ないけど。
おそらくしぃたちは30匹前後だろうと当たりをつけた。
しぃ達は独占欲が非常に強い。自分だけよければそれでいいという考えだからだ。
なので、この広さでそれ以上仲間が増えれば、しぃたちはきっと追い出すなり殺すなりするだろう。
それは無論、自分の餌が減るかもしれないからだ。
はやければ、二時間程で終わるだろう。
まずは、窓の外でまだ喚いていやがるあの二匹からだ。
ぼくは素早く窓から躍り出た。

「ヤーイヤーイ、ノロマノジジィー」
「クヤシカッタラ、オイツイテ・・・ハニャ?」
スタッと奴等の前に着地する。素早く周りを見渡すが、他の仲間は見当たらない。
(好都合だ。)
「ナニヨアンタ、イキナリデテキテ」
「ソンナモンモッテ、ナニスルツモリヨ!マサカ、シィタチヲ」
ヒュン、と刀を一閃させた。
片方のしぃの喉を真一文字に切り開く。
切られたしぃは、何か言おうとしたが、ごぼごぼと喉から血が出ているため、ろくに喋れずに倒れた。
「エ?ナ、ナニガ・・・」
すかさず刀をひるがえし、もう一匹の首を切りつけた。
スパン、と子気味よい音がしてしぃの首は宙に舞う。
「ふー・・・」
ぼくはあっけにとられているおじいさんに一礼してから、素早く農園へ足を踏み入れた。
けど、その時はまだ、その先にある不幸に気づいてなかったんだ。

                               続く

288 名前: 木人 (enck4cmw) 投稿日: 2004/01/18(日) 03:13 [ mJYHTk8w ]
BAD DAY

農園の中に入ってみると、もはや見るも無残な景色が広がっていたんだ。
果物の腐ったものや、しぃ達のフン、挙句にはベビの死体まで見られた。
(これは酷い・・・)
一刻も早く奴らをここから一掃しなければ。
僕は、刀をさらに強く握り締めて駆けて行った。
少し奥に入ると、少しだけ開けた場所に出て来んだ。
ちょっと不恰好だけど、なんだか愛着の持てる手作りのベンチと、
丸いテーブルが一つ、そこにはおいてあった。
おそらく、荒らされる前はおじいさんの休憩所だったんだろうけど、
その時はしぃどもの集会所みたいになってたな。
そこにいたのは5匹前後。ぼくは、とりあえず様子を見ることにした。

「ココモダンダン、ショクリョウガ ナクナッテキタワネ」
「シンイリガ フエテキタカラヨ」
「ソウソウ、スコシオオスギルワ!」
「デモ、ダレヲオイダセバ イイノカナ?」
「ウーン・・・」
「ネェ、チョウロウニキイテミヨウヨ」
「ア、ソレイイカモ!サンセーイ!」
「チョウロウノ ケッテイナラ、ダレモサカラエナイネ!」」
「ジャア、イッテミヨウヨ!」

図々しい。出て行く気は無いらしい。
ぼくは茂みから飛び出した。
全員ぼくに背を向けて歩いている。
「ハニャ?」
まず切ったのは、一番後ろにいて、一番早くぼくに気付いたしぃから。
右肩から腰にかけて、袈裟切りにしてやった。
ズパン!!
「シィィィィ──!」
ひときわ甲高い声を出して、血飛沫をあげながらそのしぃは後ろに吹っ飛んでいった。
いつも思うけど、こいつらってもろすぎ。
そこでやっと他のしぃも気付いたらしく、こっちを一瞥してから
四散して行ったよ。一匹も逃がさなかったけどねw
次々切り殺していったけど、一匹だけロープで縛って捕まえておいたんだ。
何故って?長老とやらの居場所を聞くためさ。
「ハニャー!ハナシテヨー!」だの、
「シィハ2chノアイドルナンダヨー!」とかほざいてたけど、シカトして拷問を始めたよ。
「さっき話してたけど、君達の言ってた長老ってどこにいるの?」
質問したとたん、さっきまでべらべら喋ってた口がピタリと閉じちゃったんだ。
顔も青ざめてたよ。ふん、いくら黙ってたって無駄だね。
目が言ってたから。『聞かれてたんだ』って。
「おい、質問に答えろよ。ちゃんと教えてくれたら、縄を解いてあげるから」
ぼくが言ったとたん、
「ハニャ、ホント!? オシエルオシエル!」
としぃは答えた。
これだから、ミニマム脳味噌なんて言われちまうんだ。
駆け引きもへったくれも無いし、仲間の事も考えてちゃいない。
でもまぁ、簡単だったからよかったけどさ。
「よーし、いい子だ。さぁ喋ってもらおうか。ただし、嘘をつけば死ぬと思えよ」
「ハニャ、ワ、ワカッテルワヨ・・・」
そのしぃからは随分有意義な情報が引き出せたんだ。
具体的なしぃの人数、長老と名乗るしぃの居場所、最もしぃの密集している場所。
どうやら、思っていたより数はいないらしい。
そして、どうやら怠惰な生活に浸りきっているため、反撃も少ないように思えた。
それはさっきのしぃたちの逃げっぷりを見ても明らかだったよ。
「コレデゼンブダヨ。サァ、ナワヲホドイテヨ!」
「ん?ああ、そういう約束だったね。オッケーオッケー。そんじゃいっきまーす」
ぼくは言いながら、刀を両手で持って垂直に持ち上げた。
「チョ、チョット、マサカ・・・」
「当たりー♪」
そしてそのまま一直線に振り下ろした。
後は簡単だと思ったさ。残りのしぃたちを皆殺しにするだけなんだから。
数も居場所も知れてるし、何の問題も無い様に思えた。
けど、ぼくは失敗してた。
一部始終を見てた、目撃者がいたんだ。
それに気づけなかったのは、ホントに痛手だった。
ぼくは、何にも気付かずにノコノコ行ってしまった。

289 名前: 木人 (enck4cmw) 投稿日: 2004/01/18(日) 03:14 [ mJYHTk8w ]
結論から言おうか。
ぼくは、はめられた。
その目撃者が先に仲間の元へ行って、ぼくの事を全員に教えたからだ。
当然、向こうは武装して、こっちを待っている。
ぼくが罠にはまりに来るのをね。
(ここか・・・)
目的地に着いたぼくは、しぃがどこにいるのか探した。
けど、一匹も見当たらなかったんだ。
[いた]という痕跡は確認できた。けど、その姿は見当たらない。
今思えば、その時の違和感を頼りに逃げておけばよかったな。
グズグズしてる間に、ぼくは背中に矢を受けた。
痛いと感じる間もなかったよ。
なにせ、即効性の毒矢だったからね。

気づいた時は後ろ手に縄で木に縛られてた。
なんてドジを踏んだんだと、心底後悔したね。
見張りのしぃがぼくが気がづいたのを察知すると、仲間を呼んで詰問した。
「アンタヒトリデキタノ? ナカマハ?」
「俺一人だ。仲間はいない」
「ナゼココヲ オソッタノ?」
「特に理由は無い。ハンティングのつもりで来た」
「マダイキテイタイ?」
「無論だ。」
「ジャア、[オモチャ]トシテ イカシトイテ アゲル」
そういって、そいつはクスクス笑いながら虐殺棍棒を振り上げた。

それからの一週間は拷問の連続だった。
入れ替わり立ち代り、しぃ達はぼくを痛めつけた。
幸い、それは打撃だけですんだけどね。
けれど、詰めが甘いのと、思慮が足りないのがしぃの欠点。
一週間の激しい拷問で、縄は切れる寸前になっていた。
ぼくも、このままであいつらを済ませるつもりはさらさら無かったからね。
このチャンスを逃がすわけには行かなかった。
奴等の失敗は、きっちり縛り付けておかなかった事と、ぼくを生かしていたこと。

刀は、すぐに見つかった。
長老の住んでた洞穴に置いてあったよ。
(これがあれば、もっと早く片付いたのにな)
そう思いながら、ぼくはおじいさんの家に行った。

「何があったんです!?ボロボロじゃないですか!おまけに、凄い血だ!」
出迎えてくれたおじいさんは、さぞびっくりした様子でぼくを見た。
「ご心配なく。この血は全て返り血です。ボロボロなのは確かですが。」
「そうですか。それにしても、ヒドイ格好だ。とにかく風呂でもお入りなさい」
「すいません。お借りします」

ひとっぷろ浴びて、おじいさんの出してくれた料理を食べ終わった後、やっと人心地がつけた。
「一体、どうなさったんです?一週間も出てこないから、大変に心配していたとこです」
「すいません。実は奴らに捕まってしまい、身動きが取れなかったんです。
 まったく、お恥ずかしい限りです。」
「それはそれは・・・さぞ大変な思いをなさったでしょう?辛かったでしょうなー・・・」
おじいさんは大いに同情してくれた。ぼくは、それだけでもとても嬉しかった。
「しかし、こうして帰って来れて良かったです。安心すると何か眠くなってきたな・・・」
「かまいませんよ。一晩くらい泊まっていかれたら如何です?」
「すいません。じゃあ、ご好意に甘えさせてもらいます」
「どうぞどうぞ。こちらとしては、これぐらいじゃとても足りないくらいお世話になりましたから」
けど、おじいさんの言葉を最後まで聞く前に、ぼくは眠りに落ちてしまった。
猛烈に眠気が襲ってきたのだ。
「お世話に、ね・・・・・・」
まどろみの中で、おじいさんの声が聞こえた。

290 名前: 木人 (enck4cmw) 投稿日: 2004/01/18(日) 03:15 [ mJYHTk8w ]
そして、今に至るというわけさ。
またか。また縛られてやがる。
それが気がついた時の印象だったな。
どうやらぼくは、あっさり睡眠薬の効果にはまったらしい。
おそらくさっき出された料理の中に、それが入っていたのだろう。
犯人はやはりあのおじいさんだろうな。
自分がこれほど間抜けとは思わなかった。同じ手に二回もはまるなんて。
しかし、意図がわからない。何故こんな事をするのか。
「やあ。気がついたかい?」
後ろからあのジジィの声がした。

「何故こんな事をするのか、聞いておきたいな」

「聞いてどうする?」

「あの世の土産にするさ。」

じじぃはしばらく沈黙した後、小さな声で笑った。

「いいだろう、答えてやる。理由はいたってシンプルだ。そう、金だよ。
 私はな、かつては大会社の社長だったんだ。それが今じゃ、
 よわっちいただの非力な老いぼれジジィ。
 どこで間違えたかは判らない。しかし、私は前進する事に決めたんだ。過去の事は忘れてな」

「答えになってないな。何故俺を捕まえるのか、そう聞いたんだが」

刹那、後頭部に衝撃が走る。それも、しぃの拷問とは比べ物にならないとびきりの物だった。

「君は体ばかりで頭は使わんらしいな。少し頭をひねれば判るだろう?
 君が仕事に失敗したせいで、損害を被ったと言えば金になる。
 しかし、その[君]が役立たずでは話にならん。
 それはそいつが仕事が下手だから、当然ですよと言われればおしまいだからな。
 端金しか出ないだろう。
 そこでベテランを派遣するよう頼んだのさ。
 私は君達を信用したのに、この様か!これでベテランだなんて笑わせるな!」

本番の為に用意していたのだろう、激昂したような感情でジジイはその台詞を大声で言った。
その様子は、狂気すら感じさせた。

「上手いもんだろう?何度も練習したんだ。
 全て順調だ。後は君が死んでくれたらそれでいい。
 さて、まだ聞きたい事はあるかな?」

まずい。このままでは殺されてしまう。
なんとか、なんとかしなければ。脂汗が額ににじむ。

「俺を殺したって、必ずばれちまうぞ」

こんな程度の文句しか思い浮かばない、自分の脳みそを恨んだ。
案の定、ジジィは鼻で笑いやがった。畜生め。

「だから殺さないでという事か?笑わせてくれる。だが、ああ、それは心配無用だ。
 君がしぃに捕まっていたのは事実なんだろう?なら、それを利用するまでさ。
 そうだな、しぃに拷問されてそのまま死亡と言うのはどうかな?」

ぼくは精一杯頭を働かせる。少しでも時間稼ぎをしなければ・・・。

「そのシナリオじゃ、おかしいな。しぃは全員死んでるんだぜ?
 仮に脱走したあと、俺は相打ちで死んだ事にしても、爺さん、あんたに損害は無い。
 何の儲けにもならないってことだ」

「それならしぃの死体を全て片付ければいいだけの話じゃないか。
 大金のためさ、それぐらいはしよう。
 そして新たにしぃを連れて来れば、さっきの私の言い分も成り立つ」

ダメだ。もう論破のしようが無い。これ以上は引き伸ばせそうに無い。
今度はどんどん冷や汗が出る。

「もう話しつかれたな。さて、そろそろ殺すとするか。
 この後も予定が一杯なのでね。すまんが、私の未来の為にさっさと死んでくれ」

そして、首にロープがかけられた。万事休すか。ああ、なんてついてないんだぼくは。
くそ、来世で必ずこのジジィ殺してやる。
ぼくは硬く目を瞑った。

291 名前: 木人 (enck4cmw) 投稿日: 2004/01/18(日) 03:16 [ mJYHTk8w ]

「悪い爺さんもいたもんだな・・・」

後ろで声がしたかと思うと、バキッ!打撃音がした。
バタンバタンともみ合う音がする。
最後に、「おとなしくしやがれ、このボケ!」とあいつの声がして、またバキッと音がした。
ジジィの声がしない。どうやら気を失ったようだ。

「よう、災難だったな。」

アイツの声がする。やれやれ、どうやら危機は脱したようだ。

「まったくだ。この仕事してて命の危険にあうとは思わなかったよ」

アイツはぼくの手に結ばれた縄を解きながら、笑っていた。

「まぁ、そりゃ言えてるな。ほい、解けたぜ」

「ああ、ありがとう。助かった」

「しっかし、このジジィなに考えてんだかなー。
一週間も連絡ない奴を、ほっといたままにしとくわけ無いのに」

「このジジィがおきたら、教えてやるか。
 うちの会社のエージェントはペアを組んでて、定期連絡のない場合は
 相方が捜索に来るってな。」

「そりゃいい。そうしてやれ。そのときのジジィの顔が見たい」

それから、ぼくらはジジィを担いで本社に戻った。
社長に事情を説明した後、警察に連絡してもらい、ジジィはめでたく逮捕。
ぼくは特別に手当てを貰えた。ちょっとしたボーナスだ。
(けど、その金は相方が無理やり半分とっていった。)
まさか、自分があんな目にあうなんて、正直予想もしていなかった。
もしも自分があの爺さんの立場だったら、同じような事を企んだだろうか。
そんな事を考えていたら、相方が肩をたたいた。

「考え事してるとこ悪いけどよ、依頼が入ったぜ」

「どこから?」

「農園だ。しぃが住み着いたから、駆除して欲しいんだと」

野郎。どうりでニヤついてると思った。そういうことか。

「冗談じゃない、そんなとこはもうこりごりだ」

ぼくは両手を振って笑った。
                             終