hunt

Last-modified: 2015-06-23 (火) 00:04:22
15 名前: hunt(1/4) 投稿日: 2003/11/06(木) 19:42 [ 8toOKb6c ]
 片耳こそなかったが、そのしぃは綺麗な毛並みをしていた。

 走り出した後ろ姿を、モララーは反射的に追いかけた。
 ここしばらくで一番大きな獲物に、彼の心拍数が跳ね上がる。

16 名前: hunt(2/4) 投稿日: 2003/11/06(木) 19:42 [ 8toOKb6c ]
 この見捨てられた町には、被虐AA達が住み着いている。
 最初にモナーに連れてきてもらった時は、アヒャるかと思うほど
狩り放題だった。
 モナーが何度も「狩りすぎはいけないモナ」と言っていたが、
目の前に被虐AAがいる状況でモララーとギコが加虐を押さえ
られるはずもなく、瞬く間に獲物の数は激減した。
(お耳はモナーの分なんだな)
 モララーは寛大にも、ひとつしか残っていない耳朶を友人に
譲ることに決めた。
 獲物の乱獲について悪いと思っているし、先週の狩りの時、彼の
銃を一つ壊してしまったお詫びでもあった。

 廃ビルがホコリっぽく建ち並ぶ大通りを抜けて、しぃは路地裏に
走っていった。土地勘で逃げ切るつもりらしい。
 しかしモララーは少しも慌てなかった。
 確かに、彼はあたりの地形は良く分からない。だが、身体能力に
おける種族の壁は厚く、彼は余裕を持ってしぃを追いかけた。

 久しぶりの鬼ごっこはすぐに終了し、モララーは内心物足りなく
思った。
 混乱に道を間違えたのか、しぃは路地の行き止まりに立っている。
 高い建物の影になって、路地は随分暗かった。
 被虐者に薄暗い場所はよく似合う。モララーはそう思った。
「そんなに逃げなくてもいいんだな」
 彼が笑うと、しぃは後ずさりして壁に背中をぶつけた。
 距離と光量不足で、表情はよく見えない。

17 名前: hunt(3/4) 投稿日: 2003/11/06(木) 19:43 [ 8toOKb6c ]
 傾きかけた太陽が金に染める世界から、彼は一歩路地に踏み込んだ。
 ただでさえ細い路地は、色あせたビールケースや室外機で一層狭く
なっている。
 路地を三分の一ほど行ったところで、モララーは一つ疑問に思った。
(最近、雨なんて降ったかな?)
 しぃと自分との、ちょうど中間位置に水たまりがある。
 水道は止まっているはずだから、水漏れということも無いはずだ。
 モララーは注意深く水たまりを観察した。
(……自動車のバッテリー?)
 それは室外機の影に隠すように置かれ、赤と黒のコードが延びている。
 モララーは薄く笑った。
 追いつめたのではなく、誘い込まれたというわけか。
「罠?」
 しぃがびくりと震えた。
 暗さに慣れた目が、そこに浮かぶ恐怖を捕らえる。
 モララーは軽く助走をつけて、水たまりを飛び越えた。
「こんな事して……。楽に逝けるとは、思わないんだな?」
 最初から、久しぶりの獲物はじっくりなぶる予定だったのだが、
彼は嗜虐心からそう言った。
 このしぃは後悔しなくてはならない。
 被虐AAの分際で、加虐AAのモララーを出し抜こうとしたのだから。
「友達が君を待ってるから、とりあえず移動するんだな」
 モララーが腰のホルダーに手をやると、しぃは息をのんだ。
「大丈夫、撃つのは足だよ。……口径は小さいし、ショックで逝けると
期待しないんだな?」

 路地に銃声が響いた。

18 名前: hunt(4/4) 投稿日: 2003/11/06(木) 19:44 [ 8toOKb6c ]
 全身をまさぐって武器の類を取り上げた後、建物の屋上に向かって
大きく手を振った。
 逆光になった彼が頷き、顔を引っ込める。やがて足音が、無人の
建物内を下り始めた。
 苦痛のこもったうめき声に、しぃは視線を下ろした。
「ゴメンネ アレニ ヒッカカレバ ラクニ イケタノニ」
 心から同情した声音で、バッテリーのトラップを示す。
 左肩から右の腰にかけて撃ち抜かれたモララーは、それでも、種族
の頑健さにより命を保っていた。
 浅い呼吸の合間に何か言おうとしているが、良く分からない。
「ナニ? ジュウ ノコト?」
 前回モララー達が帰った後、壊れて捨ててあった物を見つけ、
仲間が修理したのだ。
 そう教えてみたが、どうも違うらしい反応が返ってくる。
 注意して口の動きを追って見ると、彼は別のことをきいていた。
「チガウヨ。 フクシュウ ナンカ ジャナイ。 コレハ タダノ・・・」
 しぃはモララーの荷物の中から、小型のサバイバルナイフを選んだ。

 非力なしぃには、大きすぎては使いにくい。

 ライフルを背負ったレコが、一階の窓から出てきた。
「イソグゾ コゾウ」
 作業を続ける彼女の隣で、彼はマンホールのフタを開けた。
「リョウカイ」

 非力なレコには、大きすぎては運びにくい。

 必要な物は全て下水道に運び込んで、二人はマンホールのフタを閉めた。
 残ったのは血の跡だけだった。