「八神さん、行きますよ~」
酔ってフラ着いている八神コウの手を青葉が必死に掴み引っ張っていく。
「酔ってないよ!それに青葉も帰っていいよ!一人で帰れる。」
そんな青葉に顔を真っ赤にしてコウが反論する。
青葉はじっと立ち止まり考えていたが、やがて
「分かりました。八神さんだって子供じゃないですもんね」
と、笑顔でそう言うと手を振って自分の帰路に向かって歩いて行った。
青葉にはああ言ったが、コウは自分で自分が酔っていることが分かっていた。
あはごんに煽られて聞いたことも無い酒を飲んだこともあっていつも以上に酔っていたのである。
フラつく足をなんとかしながら自宅へと一歩一歩進んでいく。
ようやくいつも10分で帰れる道を30分かかって玄関までたどり着いた。
「あぁ・・・我が家だ」
誰にも言うことなく一人そう呟くと疲労と酔いのせいで履いていたズボンを脱ぎつつベッドに前のめりに倒れる。
そして数分もかかることなく八神コウは夢の中へ落ちていった。
夢の中で八神コウはまたしても飲み会に参加していた。
たださっきのような大人数ではなく横にりんがいて対面にひふみと阿波根がいるいわゆる大人チームだけだった。
夢の中でも楽しく会話しながら飲み会が進んでいた。
そして八神コウの前に大好きな、そして美味しそうな2枚貝が出て来た。
しかし届く距離にあるはずのその貝に中々近づけない。手を伸ばしても貝が乗っている皿には触れるのに肝心の貝に触ることは出来なかった。
「しょうがないなぁ」
少し下品と思いつつも貝に顔を近づけて食べようとする。
夢の中なので感触なんてあるはずがないのに柔らかい感触が伝わる。
そして自分の唇にも痛みを感じる。
その痛みで夢から覚醒した八神コウが目を覚ますとすぐ目の前に誰かがいてその誰かに唇を噛まれ、自分の目の前の相手の唇を噛んでいた。
『んんっえっ!?』
思わずびっくりして後ずさりすると目の前にいたのはどういうわけか自分そっくりな女性だった。
そしてあろうことか自分そっくりな女性とキスしていたのである。
「あなた・・・誰?」
指を指しつつ聞いて見ると
[私は八神コウ。あなたこそ誰?]
「八神コウは私だって!冗談はやめてよ」
[そっちこそ!]
言い合っているうちに意識がはっきりしてくる。
自分はシャツにパンツといういつもの格好だし相手も自分と全く同じ格好をしている。
『あり得ない・・・』
思わずハモってしまう。
あろうことか飲み会の帰りに寝ぼけて自分そっくりな女性とキスしてしまったことに二人のコウはショックを受けていた。
それからはやや冷静になって自分しか知らない情報を言い合うもぴったり一致してしまう。
[じゃあ本当にあんたも八神コウなんだ・・・]
「そうみたい。そっちこそ私なんだ・・・」
思わず独り言のように言ってしまう。
しばらくお互いの顔を見つめ合ったまま照れなのかはにかんだまま何も話せなくなる2人の八神コウ
「私ってこんな顔してるんだな・・・」
と、コウが無意識に言うと
[え!?]
ともう1人のコウはその発言に驚く。
「いや、りんとかゆんとかはじめとか青葉とかみんな私のこと可愛いって言うけどさ、自分の顔って見れないじゃん?今はあんたがこうしているわけだし」
と、弁明すると自分に褒められたことにもう一人のコウは顔を赤らめて
[そっ、そんな風に言われると照れんじゃん!なら、あんただって可愛いよ!私と同じ顔してることになるわけだし]
と言ってそっぽを向いてしまう。
そんな自分が可愛いと思ったのかコウはもう一人のコウをやんわりと抱きしめつつ頭を撫でてしまう。
[なっ、何すんだよ!私はナルシストじゃないだろ!?]
ともう一人のコウは抗議の声を上げる。
「ちょっとくらいいいじゃんか。さっきキスした仲なんだし」
[それはそうかもしれないけど、これは見られたらやばいだろ!]
もう一人のコウはコウの手首を掴んで振りほどこうとする。
しかしコウはもう一人のコウの両手首を逆に掴んで壁に押しつけて抵抗出来ないようにする。もう一人のコウは抑え付けられた恐怖で涙目になりコウが上から抑え付けてる関係上上目使いになってコウに見えてしまう。
(これはやばいなぁ)
とコウは感じた。
数時間後
二人のコウはベッドに寝転びながら
「せっかくの休日に何やってんだろ・・・」
[本当だよ・・・自分とキスばっかりしてた なんてみんなに笑われる]
「そっちからやってきたんでしょ?」
[そっちからだよ]
『じゃあどっちが強いかもっかいやる?』
どちらからともなくそう言うと二人は再びキスするのであった