日本は京都議定書のCO2削減目標:-6%を即刻破棄せよ

Last-modified: 2011-04-06 (水) 23:33:17
2011-4-4
日本は元々原発による発電コスト削減効果に恵まれておらず、CO2削減の国際約束(6%の方と25%の方の両方)さえ反故にしてもらえば、発電コスト的には原発をフェードアウトさせても全く問題はない。
 

排出権取引を多用してまで無理に達成してしまうとその後が余計に苦しくなってしまいます。

 

3月12日にそれ(転換)は決まった
3月12日に福島第一原発1号機の水素爆発が起きた瞬間、私は日本の原発推進政策は終わったと思いました。この瞬間にこれまでの日本の原発史上、ズバ抜けて大量の放射性物質が大気中に放出されてしまったからです。結果的にはこの後にもっとケタ違いに大量の放射性物質が放出されてしまったわけですが、この時点までに放出された量だけで日本国民に過去になかったレベルの強烈な原発アレルギーを生じさせることは確実でした(国民の原発アレルギーが原発推進政策の転換に繋がる理由説明は、今はもうどこにでも転がっているでしょう)。そして同時に私は、今後日本は原発を一気にやめるようなことはせず、新規建設をやめることによるゆっくりとしたフェードアウトの形を取ることも確信しました。今後の国民が考えるであろう「原発は嫌」と「急な経済的ショックは嫌」を両立するにはこれしかないからです。
(2011-4-5追記)このページによると実際の放射性物質の放出のピークは3月15日から16日にかけてであり、それと比べると12日の放出量はごく少ないようです。私はチェルノブイリの数千分の一の放出量で充分強烈な原発アレルギーにつながる放射能汚染パニックが起きると考えていましたが、現実にはチェルノブイリとそう桁数の違わない量が放出されてしまったのかもしれません。

 

原発をやめると日本は不利なのか?
その直後からずっと、特に私が気になっていることは「他国も一緒に原発推進政策をやめてくれないと、日本が不利になってしまいかねないぞ」ということです。福島第一原発の事故発生後、各国から原発政策の見直しをおこなうとのニュースが流れてきましたが、しかし最終的にはそれは一部の国を除けばあくまでも「見直す」だけのレベルに留まり、日本のように「店じまい」方向に転換することはないと私は確信しています。それは冷静になって福島第一原発の事故を見てみると、原因は地震・津波国の日本で十分な地震・津波対策が取られていなかったという「特殊事情」にあることは明らかで、「当事国」の日本ではあまりに事故のショックが大きすぎてフェードアウトの方向にならざるをえませんが、他国では今後も十分に原発に関する国民の理解を得られる公算が高いと予想できるからです。

 

しかし日本より先に脱原発の道を選んだ先進国があります。それを考えると少なくとも著しく不利ということでもない可能性が高いと思われます。でも著しい損ではないにしても原発をやめる(徐々にフェードアウトさせる)ことによる経済的な損得は実際にどれほどなのでしょうか。

 

ここで断っておきますが、私にこのあたりの専門知識はありませんし本とかブログも殆ど読んでいません。ただ私の特徴としては子供の頃から新聞を熱心に読んできたということと、(少なくともITの分野に関しては)日頃から見えない中身を外形を頼りに推測する※のが非常に好きで得意ということがあります。当サイトのPC系の様々な記事の多くもその特技を活かしたものです。ここでも報道や事象の外形から考えてみることにします。
※ 見えるものをパズルの断片だと見做し、辻褄の合うように見えないパズルの形を推測するような考え方です。

 

日本国内では原発のコストは隠されている
ここでは短く書きたいのでばっさり省略しますが、どうもこのようです。現在まで電力会社、電気事業連合会(推進側)は、外部の者が本当に知りたい「実績原価」を公表していないようです。そして公表している資料には常識から判断して明らかに信用できないとわかる数字が並んでいます。この“ほぼ露骨に隠しているも同然の姿勢”から原発の実際のコストが推進側が公表している数字よりはるかに高いのは間違いないと言えます。

 

今のところ日本で原発の実際の発電コストが高い理由は容易に挙げることができます。主なものだけ挙げます。

 
  1. 古くてて小容量でメンテナンスコストの高い原発が多い。
  2. 量産効果が働いていない。
 

実際には1.と2.は綺麗に分けることができないのですが、要はコスト削減の王道が殆ど働いていないということに尽きます。あまりに技術革新・改善、設備更新についての敷居が高く、展開の規模も中途半端だということです。

 

日本で原発が推進されてきた理由
さて、(日本で)原発のコストが安くならないのにずっと推進されてきた理由は、これも簡単に書きますが、

 
  1. 化石燃料以外の安定的エネルギー供給源として価値が高い。
  2. 多分、長年、民主的な“独裁”政権を担ってきた自民党としては)“一人前の国”として核兵器をすぐに作れるオプションを確保しておきたい。
  3. 一旦原発を推進する強固な枠組みが出来上がった後は、(抽象的な表現ですが)惰性だけでも推進に邁進する強い力が発揮され続ける構造になっている。
  4. 将来、ぐっとコストが安くなる可能性がある。
  5. CO2排出量削減に役立つ(重要視されているのはここ20年くらいかもしれませんが)。
 

このあたりだと思われます。1., 2., 3. に関しては今は「まあ、どうでもいい」と言えると思いますが、4.は看過できません。原発を推進する他国とのエネルギーコストの格差が今後開くことは避けたいところです。5.については日本は元々GDPあたりのCO2排出量が非常に少なかったのですから、他国に排出量削減の達成条件の変更を願い出るべきです。今回の特別な事情を他国に理解してもらうべきです。震災に対する同情の念(?)が醒めやらぬ今のうちに、出来るだけ早くそうそるべきです。

 

原発は本来うまくやればコストをすごく低下させられる“可能性”がある
原子力発電では使用済み燃料や廃棄物を永久に保存する為の施設が必要だったり、建設・メンテナンス・廃炉等に特別に高い費用が必要だったりします。しかし建設・メンテナンス・廃炉費用に関しては、原発実用化後に何世代もモデルチェンジして設計が洗練されていくと確実に減少していきます。量産効果も一般的に大きい筈です。燃料費の占める割合の低い原発は大量導入した場合のコスト削減効果が本来大きい筈です。日本の推進派もこの効果に大きな期待を寄せていたのではないでしょうか。それがコスト高でも長年原発推進の方針が揺らがなかった大きな要因ではなかったでしょうか。

 

原発は“うまく”積極推進すれば発電コストがぐんぐん下がっていくと思われます。フランス※はこれが軌道に乗ったのだと思われます。年を経て設計が洗練されていっているかどうかは定かではありませんが、あれだけ大量導入すると事故を起こさない限り、コストはかなり低くなる筈です。ますます原発に肩入れできることになります。また、今から原発を導入し始める新興国は、何世代もモデルチェンジをおこなった後の原発ばかり導入することになるので、フランスほどではないにしても、少なくとも日本より原発の発電コストに関して有利な条件を持っています。実はチェルノブイリ事故が起きなければ日本ももっと積極的に原発を導入でき、発電コストはずっと下がっていたのかもしれません。そうすれば原発推進側も今のようにコストを隠さずに堂々と正直な実績原価をひけらかすことができていたのかもしれません。
※ 原子力発電の割合が約80%

 

しかしチェルノブイリ後は推進派もコスト削減の見通しを立てられないまま、あるいは当初のコスト削減は内心諦めた上で、ある意味原発推進の“ポーズ”だけを見せていたのではないでしょうか。ちょうどそこにCO2削減の外圧がかかり、息を吹き替えしていたところだったのではないでしょうか。今回の事故がなくても既に日本で原発を推進することによる経済的なメリットは、CO2削減効果を除けばあまりなかったのではないでしょうか。

 

原発自身の技術的な短所によって原発だけにすることはできない
加えて忘れてはならないのは、原発はその仕組み上、こまめに出力を調整しにくい※ので(臨界状態を急に変化させることは、一応かなり安全率に余裕があるとは言え、危険度が増加します)、全ての発電量を原子力で占めることはできません。他国に売電できないならベース電力(早い話、夜間の使用量)分としてしか使えません。フランスが原子力発電の比率が高いといっても余剰電力を他国に売電できるから成立するのであって、EC全体でみるとやはり原発の割合は一定の範囲に留まります。これを打破するには超大容量蓄電技術が飛躍的に発達するか揚水発電所を建設しまくるか各家庭や個別の事業所毎が蓄電能力を持つ必要があります。
※ 将来この常識が変わる可能性はあります。

 

ということで、フランスのように周りに買電してくれる国を抱えるような好条件に恵まれない限り※、仮に日本以外の他国が原発を日本よりずっと積極推進することでコストダウンを図ったとしても得られる恩恵には限度があります。たとえ原発の発電コストが半分になったとしても全体の発電コストはそんなには下がるわけではありません。なので日本としては「他国とエネルギーコストで差をつけられる」などとそれほど気にする必要はありません。
※ 日本はこの条件には絶対にあてはまりません。

 

また原発を新規に導入する国などと違って日本は既に相対的に非効率な原発を多数抱えてしまっており、そのリプレースも容易ではなく、条件に恵まれた立地にも乏しく、たとえ従来方針どおりに原発を推進したとしても、その方針自体が中国やインドのものと比べて非常にショボいものであり、どうせ今後長期に渡って“大して原発発電コストの安くない国”のままであり続けたと思われます。

 

私なりの簡単なまとめと結論を書いておくことにします。

 
  • 今までのところ日本では原発にコスト的なメリットはなかった。
  • これから建設する原発によってある程度のコスト的なメリットとCO2削減効果を享受するつもりだった。
  • フランスのように周辺国に売電可能な国が超積極推進した場合に発電コスト削減効果を最大限得られる。
  • 新興国が最新の原発を一括大量導入した場合も一定程度発電コスト削減効果を得られる。
  • 日本は震災前の従来方針で新規原発建設を推進しても全体としてそれほど劇的な発電コスト削減効果が得られるわけではなかった。ただしCO2削減効果はそれ以上に見込めた。
  • 日本は元々原発による発電コスト削減効果に恵まれておらず、CO2削減の国際約束さえ反故にしてもらえば、発電コスト的には原発をフェードアウトさせても全く問題はない。
 

CO2削減さえ気にしなくていいなら、日本が原発をやめる(フェードアウトさせる)ことによる経済的な損失は心配する必要がないと予想できます。なぜなら「元々CO2削減効果を除けば経済的メリットは大してなかったのではないか」と思われるからです。

 

どうでしょうか。非学問的な予想ですが、少しは心強くなったでしょうか?
正確なデータが開示されていない現時点ではこの程度の粗い考えをしておけばいいと思います。ドイツ・スウェーデン・イタリアなんかが一旦か永久かははっきりしませんが脱原発の道を選んだくらいですから「脱原発は経済的発展の放棄と同義」みたいな極端なことではない筈です。幸いなことに今回のことが起きたお陰で今後は今まで企業秘密として隠されていた既存原発の真のコストが開示される筈です。それを早くきちんと出させた上で詳細な再検討をおこなうべきです。


余談ですが、櫻井よしこ氏がメドベージェフ大統領の「強い地震や津波が発生しうる地域での原発建設を国際的に規制するべきだ」との発言を日本の国力減退を狙った発言だと受け取って批判していました。でもこれまで書いてきたことからわかるように、気にする必要はないんじゃないでしょうか。

 

メドベージェフの発言自体は至極真っ当な発言です。3月12日の時点で「こりゃ間違いなく外国から『日本は原発なんか作るな』って批判されるだろう」と思った日本人は私を含めて間違いなく大勢います。日本人としてはどうせ国際的な規制が作られるなら、地震や津波がない国で原発を建設する場合でも現在と比べてコストが大幅増とならざるをえない規制となって欲しいです。そうならない場合は将来日本でも揺り戻しが起きかねません。

 

ご要望、ご意見、質問を下のフォームにどうぞ
(でもここより、掲示板書き込みフォームのページに書いて頂いた方が気づき易いと思います。)